もっとも実際の事の経緯は、よくわからない。記者会見では「J1昇格を逸したから」と語っているようだが、クラブは留任を依頼し、さらにはサポータの多くも留任を期待していたのは自明であり、いささか疑問のある応答だ(大体、その論理だとJ1昇格に失敗する度にベガルタは監督を代えなければならなくなるではないか)。一部に噂されている単身赴任の問題が大きかったのかもしれない。あるいは、自らのキャリアメークを考慮し、次のステップを考慮したのかもしれない。
しかし、済んだ事だ。望月氏は我々のクラブを去り、次のステップに向かおうとしている。幾度か述べた事があるが、望月氏は五輪代表監督の反町氏と、清水東高の同級生。高校時代はむしろ、望月達也の方が評価が高く、高校卒業後オランダでプロに挑戦したほどのタレントだ。今シーズン、ベガルタで相応の実績を残しただけに、今後も様々なオファーもある事だろう。クラブと監督の出会いには、別れも必ずついてくるものなのだし。
ベガルタサポータとしては、氏の辞任は大変残念な事だ。
けれども、優秀な監督が退いてしまって、クラブの根底が揺るぐのだとしたら、また清水秀彦氏時代に逆戻りと言う事ではないか。「清水時代より後」の3期の監督人事の迷走は残念な事があった。実績ある欧州人の監督を1億円の違約金を支払って解雇した上で、経験の浅い日本人の監督を招聘した事があったくらいなのだから。とは言え、迷走を経て、ようやく今期は妥当な指導陣の確保、優秀な選手達の育成で、結果以外は満足いけるシーズンを送る事ができたのだ。この時点での監督の辞任は大変残念だが、もしこれでガタガタになってしまうならば、清水氏解任以降の4年半の月日を経ても、クラブは何も成長していない事になってしまう。そして、この4期の間、迷走の後に「正しい方法論」にたどり着いたのは、それなりのクラブの失敗経験を経てのものだったのだ。
もっとも、ベガルタの場合、「清水時代以前」の混乱があまりに酷かったので、「清水より後、望月より前」時代の迷走など大した事がないと思ったりもする。ユアテックで大声を張り上げている最中、今でも時々「このクラブが存続できている事」が不思議に思う事もあるのだし。
今期の望月氏の手腕は確かに見事だった。できれば留任して欲しかった。来期も望月体制で臨めていれば、J1昇格の可能性もより高かったかもしれない。
しかし、望月氏がベガルタで行なった仕事は一過性のものではなかった。
望月監督のチーム作りの方針は、見る者にとっても明確なものだった。各選手の運動量と球離れの速さで数的優位を作り、分厚い攻撃を狙う。そのようなサッカーに対する認識が全てのメンバに浸透していた。このようなチームは、同じ方針の指導を行なう監督がチームを引き継ぐならば、そうサッカーの質は下がらないものだ。
また、望月監督は若年層チームにも同様の方針を求めたと言う。その方針は若年層の指導陣やスカウト陣にも浸透しているはずだ。とすれば、その方針を引き継ぐスタッフならば、将来的にも同様のサッカーを期待することができる。
望月氏が作ろうとしたのは、単に1年でJ1に上がろうとするチームではなく、中長期的にJ1に定着できるチームだったのを忘れてはいけない。繰り返すが、望月氏を失うのは痛手だが、方針が継続されればチームの向上は継続可能なはずだ。
確かに(ここ数日述べ続けているが)、望月氏のみならず、複数の中心選手がクラブを去ると言う情報もある。
ロペスとジョニウソンがクラブを去る事が既報され、一部報道によると来期は外国人を雇用しないと言う話もあるようだ。大黒柱の梁、菅井、萬代にJ1クラブからのオファーがありと言う噂も飛び交っている。
しかし考えてみれば、過去我々が上位クラブに提供した選手は寿人とシルビーニョくらいのもの(しかも、2人共ベガルタが育成した選手ではない)。村上、森、中島など、移籍後上位クラブで充実したプレイを見せている選手もいるが、彼らは我々が自ら手放した選手なのだ。今期J1に昇格したコンサドーレが、過去エメルソン、播戸のみならず自前(新卒で獲得し成長させた)山瀬、今野と言った選手を他クラブに放出した実績があるのと比較すると、クラブの歴史の厚みを感じずにはいられない。言い換えれば、今期萬代らに他クラブから声がかかる事は、ベガルタが過去と比較してクラブとして成長した事の証左に過ぎないのだ。
無論、短期的な好成績のためには彼らが残留した方がよいし、私自身来期も彼らを応援し一緒にJ1に上がりたい。ベガルタとしては、彼らにできるだけよい契約条件を提示し、慰留に努めるべきなのは当然だろう。しかし、彼らが、新たなキャリアメークを目指すならば、それはそれで仕方がない事だ。それでも、彼らは移籍金と言う貴重な資源を我々に残してくれるのだから。
こう考えてくれば、望月氏の辞任は非常に残念だが、来期のベガルタがそう暗い状況にあるとは思わない。いたずらに悲観も楽観もせず、シーズンオフのチーム作りを見守っていきたい。そして来期は来期で、改善されたチームをじっくりと愉しみたい。
いずれの日にかJ1の舞台で望月監督率いるチームと対戦する日が来る事を望む。試合前は最大級のブーイングで敬意を表し、勝利後はこの2007年シーズンの謝意を込めて「望月コール」をしようではないか。








