先日の日曜日、坊主が町民駅伝大会に出場、ジャンケンで負けた坊主は箱根駅伝5区を髣髴させる山間コースを担当すると言う(他の子は比較的平坦なコース、中学校のサッカー部で駅伝に出るから、駅伝のチームメートは皆かつての私の教え子ね)。距離は箱根駅伝の1/6程度ではあるが。しかし、坊主の苦闘を眺めるよりも格段に重要なイベントがあったため、坊主の応援はパスする事にした。我が少年団の高学年チーム(6年生、5年生で構成)の神奈川選手権のブロック大会の準決勝、決勝があったのだ。
1月になり年度末が近づいてきた。サッカー少年団においては、我々コーチ陣と毎週末遊んでくれた少年達との別れの日が近づいてきたと言う事になる。そして、1月には最後を飾るように毎年神奈川選手権が行われる。全県から442チームが参加、10チームちょっとずつ32ブロックに分割し、それぞれでトーナメント戦を実施。ブロックで優勝すれば中央大会に出場できるスキームだ。
中央大会までは4連勝しなければならない。我が少年団はブロック大会で1回戦を勝った事すらほとんどなかった。元々、対して強いチームではないから当然なのだが、それ以外にも原因はあった。通常は近隣にしか遠征しない子ども達だが、県大会は広範な地域で行われるため、長距離の遠征となり、それだけで舞い上がってしまう。また、強豪にもまれている?他地域のチームとやると、「試合慣れ」と言うのだろうか立ち上がりのまずさやセットプレイでやられる事が多かった。
とは言え、今年の6年生は、まとまりがあり最後のこの時期まで途中でやめた子が非常に少なく、運動能力の高い子が揃っているだけに、「幸運に恵まれれば」との思いもあって大会に臨んだ。
私は今年は低学年を担当しているのだが、残念ながら異国に出張しているうちに早期敗退。この準決勝、決勝は帯同審判が不足している事と、生来の出しゃばり精神で、同行する事にした。高学年の監督は、サッカー指導歴は10年を越え、私とも長い付き合いの男、本業はIT会社の社長のただの酔っ払いだ。もう1人のコーチは、学生時代はラグビーをやっていた。彼のご子息が1年生で入団直後に練習を見学している様子を見て「この男は
飲めるやれる」と判断して、少年団のコーチ陣に誘い込んだゼネコン社員。これまたただの酔っ払いだ(どうでもいいが、この2人は時々拙ブログのコメント欄にも登場してくれる、あ、当時1年生だった元ラガーのご子息は5年生になり、後から登場します)。今年の高学年チームは、この2人が4年間かけてじっくり育ててきたチームなのだ。
もう1週前には1回戦と2回戦が行われた。この日私は、出張からの帰国直後と言う事もあり、審判もせずベンチにも入らず、サポータとして参戦。
初戦。チーム全体のボール扱いでは当方がやや上回るものの、攻守の切り替えなど試合運びは先方が上。やや押し気味ながら攻め切れず苦しい試合となった。ともあれ、後半にトップの大柄な主将(170cmあり非常にふところが深い、大柄な身体をもてあまし気味で伸び悩んでいたが、ここに来てトラップが正確になり能力が開花)が決勝点を決め辛勝。
続く2回戦の相手は、技術的には非常にレベルが高く苦戦が予想された。開始早々、複数回の決定機を許すが、幸運にも恵まれて失点を免れる。前半半ばから、当方もよくパスが回るようになる。そしてトレセン選手でもある中盤の将軍が落ち着いたキープから、浮かした高精度のボールを左オープンに展開、左MFの細身で小柄で無口だがチームで一番気の強いレフティがワントラップから、強烈な左足シュートを決め先制。見事な揺さぶりからの崩しによる得点だった。これにより、それまで出足のよかった相手守備陣が引き気味になり、押し込む事に成功。その後、大柄主将の連続得点、さらにもう1人のトップのドリブルが巧く前進意欲抜群小僧が4点目を決めて快勝した。
上出来の2回戦突破に、いよいよ「幸運に恵まれれば」の意が強くなり、準決勝を迎えたと言う事。
さて準決勝。
元ラガーの偵察によると、大柄で前に出てくるスピードが抜群に速い子と、主将で技術レベルの高い2トップが強力なチーム。守備も読みのよいスイーパとボランチが利いていると言う。この2トップを、当方のCBコンビ(頑健で俊足で元気のよい小僧と、小柄だが瞬発力抜群で沈着冷静な小僧)がどこまで押えられるかが鍵と思われた。
ところが開始早々、動きがにぶいうちに、この2トップに破られ失点。これで、舞い上がってしまった当方の守備陣、ボールを奪った後の上がりも遅いし、つながず単調な攻めになるため、次々にボールを拾われ猛攻を許す。そして、3分には2失点目。その後も、いつ3点目を奪われてもおかしくないピンチの連続、GK(2人の兄も我々の教え子で、兄達同様運動神経がよいのだが、判断力がもう1つでポジションが決まっていなかったがGKをさせたらうまくはまってくれた)のファインプレイや幸運にも恵まれ、かろうじて守る。結果的には、この悪い時間帯に3点差とされなかったのは、1つの分岐点だった。
10分過ぎから、ようやくボールがつながるようになり、相手陣近くまで持ち込むが、焦りからラストパスやシュートが雑で、とても点が入る雰囲気はない。しかし、15分頃(試合は全て20分ハーフです)、逆襲から2トップが相手DFの裏を取る。しかし、守備範囲の広い相手GKの飛び出しに防がれてしまう。ところが、このこぼれ球が、右MFの5年生の元ラガーのご子息の前にこぼれる。ラガー坊主は、必ずしもよい体勢ではなかったが、約35m先の無人のゴールに冷静にサイドキックでボールを流し込んだ。このラガー坊主の冷静さにより、前半のうちに1点差にできた事は大きかった。
このあたりから当方守備陣も、2トップの裏を突く攻めへの対応が落ち着いてくる。上記のCBコンビに加え、右バックの猪突猛進型ドリブラ(これも三男坊)と左バックの度胸抜群のレフティ5年生(この日帯同していなかったが酔っ払いコーチ仲間のご子息、全然関係ない話だが、この父親が過日一緒に仕事したコンパニオンが、某有力若手Jリーガの彼女だったんだそうだ)と4人のゾーンディフェンスが決まり始める。サイドバックの片方が攻め上がっても、残り3人でバランスを取りながら強力2トップを見張り巧く押えられるようになってきた。僅か10数分間、相手の猛攻を受けて必死に防いでいるうちに、この4人は自らの「サッカー能力」を向上させてくれたのだ。
ハーフタイム。IT社長が檄を飛ばす。「技術的には負けていない。今までやってきた事を信じて戦えば、必ず勝てる。」追いついて勢いに乗っている子ども達は元気にフィールドに飛び出した。
そして後半開始早々、きれいな組立から2トップが攻め込み、最後は前進意欲が決めて同点に追いつく。
「よし、このままの勢いで行けば勝てる」と思ったが、そうは問屋がおろさなかった。相手が攻め方を変えてきたのだ。これまでは、2トップが裏を突く攻めに終始していたのだが、大柄な方の子が中盤に引いてよくボールを回し両翼から攻め込んできた。単純に裏を狙ってくる攻撃ならば、しっかりとゾーンの網を張れば何とかなるが、この攻撃は厳しい。それでも当方守備陣は全員が抑えるべき相手とボールをよく視野に入れ、粘り強く守る。
一方で当方攻撃陣も黙ってはいない。小柄ながらサッカーセンス抜群でボールを散らすのが巧い小僧と中盤将軍がよくボールをさばき両翼から攻め込む。ラガー坊主と猪突猛進、無口強気と度胸坊主がそれぞれ連動的な動きで仕掛けるが、相手の守備陣がまたギリギリで2トップへのボールを押える。またGKが非常に落ち着いていて崩せない。両軍の子ども達の「何としてでも勝ちたい」と言う正に手に汗握る熱戦が継続した。
元ラガーがPK戦を意識して準備を始めた後半16分、逆襲を仕掛けた前進意欲がハーフウェイラインを少し越えたところで相手DFと交錯、やや幸運なFKを得る。ヘディングが得意な子達が相手ペナルティエリアに走る。ところが中盤将軍が長めの助走、IT社長が「あいつ、狙っていやがる、おい、やめろ、無理するな」とつぶやいたが、将軍は右足を一閃、グラウンダのボールは両軍の密集を抜け出し、そのままゴールネットを揺らした。一番大声を出して歓喜したのがIT社長であるのは言うまでもない。
しかし、ロスタイム含めて残り5分。相手は萎えていなかった。執拗に両翼から幾度と無く攻め込む。「絶対勝とう」と言う執念が伝わってくる猛攻、2列目、3列目の子のシュートが我が陣を再三襲う。ここで、ゆっくりボールをキープしたり時間稼ぎする知恵も経験もない我が子ども達は、必死に正面きって守る。そして、三男坊GKが再三の好セーブでチームを救ってくれた。
タイムアップ。全力疾走で歓喜する子ども達。絶叫するサポータ席の親御さん達。いや、一番見苦しかったのは、ベンチで抱き合いながら喜ぶ3人の酔っ払いだったように思うが。
1試合おいての決勝戦。相手が勝ち抜いた準決勝の副審を元ラガーと私が務めたので、特徴はよくわかっていた。全員の技巧がしっかりしている。3FWと2人の攻撃的MFは皆フェイントが巧く個人突破ができるドリブラ、しかも2列目の押し上げも早く攻めが厚い。攻撃的MFはスルーパスが、トップの子はそれに呼応して裏を突くのが、それぞれ巧い。CBは大柄頑健でガッツもあり、守備も相当堅い。セットプレイも早く行うなど、試合経験も中々。相手の特徴はよくわかっていたのだが、そんな細かい事を指示しても、試合前に消化する事はできない。IT社長は、セットプレイへの対応だけ注意。後は一般論として、裏を狙ってくる敵FWへの対応を丁寧に指示した。
さらに頑健俊足が試合前に「頭痛がする」と言い出す。どうも風邪気味だったようだ。本人が「どうしても出る、やれる。」と言うから、とりあえずスタメンで行かせる事にした。IT社長は、周囲にショックを与えないため、沈着冷静と猪突猛進に「状況によっては、頑健俊足を代えて、お前らのCBコンビに切り替えるかもしれない」とだけ伝えた。
立ち上がり、見事に裏を突く攻撃をされてしまい、完全に崩され、いきなりゴールネットを揺らされてしまった。ところが、これがオフサイド。非常に微妙な判定で、当方としては「ラッキー」としか言いようがなかった。さらに「ラッキー」だったのは、ここで崩された事で4DFそれぞれが前の試合で学習した「裏を突く攻め」への対応を完全に思い出してくれた事。ある程度身についた身体の動きが、この失敗経験と言う反省で、完全に身についた感があった。以降は見事な対処を見せてくれた。
けれども敵の攻撃は鋭い。裏を突けないと見るや、トップの子がよくクサビを受けてMFに落とし、丁寧に攻め込んでくる。しかし、当方の守備網もすっかりたくましくなっており、落ち着いて対応する。特に猪突猛進は敵の隙を見るや迷わず大胆に攻め上がり敵を押し下げる。一方逆サイドの度胸坊主は見事な位置取りで敵の強力ウィングを押える。この両翼の攻防は試合の大きな分岐点となる。
当方も攻め返す。相手が前掛りと言う事は、当方も攻め返せると言う事だ。中盤将軍とセンス抜群の2人を軸に、丁寧にボールをつないでヒタヒタと攻め込む。「こいつらここまでできたんだ」と思わせてくれる程、意図のある攻撃で敵陣を襲う。
相手の守備陣をさすがだ。大柄主将をマークするCBは必死の形相で食い下がり、全員が忠実な位置取りで隙を見せない。幾度も揺さぶるが崩せない。
そうこうして迎えた前半15分。CKを中盤将軍が蹴り、大柄主将が見事な打点の高さで折り返す。攻撃参加していた沈着冷静が全くのフリー、冷静に狙い済ましたサイドキックで決めてくれた。見事な先制。
前半の残りが苦しかった。敵の攻撃的MFが2枚、マイボールになるや素早い動き出しで前進、自陣前で再三数的優位を作られ危ない場面が連続した。しかし、体調が心配された頑健俊足が見事な守備を披露。さらにパートナの体調不良で自覚を持ったのか、沈着冷静が堂々たるプレイで相手の仕掛けを読み切る。沈着冷静は得点も決めてくれたが、本業の守備が完璧だった。
ハーフタイム。IT社長が今度は落ち着いて「いい試合だ。落ち着いてつなぐ事、出足を負けずに絶対に待たない事、この2つを守れば勝てる」と指示。その後、私に何かないかと振ってきた。難しい戦術指示は小学生にはご法度だが、彼らならばわかってくれるだろうと思って、センス抜群と中盤将軍に指示をした。「ボールを奪われたら、すぐ切り替えて守備を考えろ。そこで最初の攻撃をはね返せば、逆にお前らが攻める事ができる。」それを受けてIT社長が「上下動は、体力的にとてもつらいけれど、強い相手にはそのくらい頑張らなければ勝てないぞ」と檄を飛ばし、子ども達は目を輝かせてフィールドに戻った。
子ども達はまた格段と成長した。攻守の切り替えが一段と早くなったのだ。強い相手と戦う事で、能力がまた向上したと言う事だろう。センス抜群と中盤将軍が、素早い下がりからボールを奪うと、落ち着いたドリブルで前進後丁寧に展開する。ラガー坊主と無口強気が技巧を活かして両翼を破り、大柄主将と前進意欲にラストパスを出す。時に猪突猛進が右サイドを強引にえぐる。そうして迎えた12分、前進意欲の突破から、大柄主将が敵の執拗なマークを破り、見事なシュートを突き刺し、とうとう2点差にした。
そして、そのまま押し気味に試合を進める。相手も必死に攻め込もうとするが、焦りから前に出る事を急ぎ過ぎ、有効な攻め込みは少ない。さすがにあの状況でテンポを落として冷静に攻め込むのは、小学生には難しかったのだろう。
そして時計は回り、遂に歓喜の中央大会出場と相成った。結果もすばらしかったが、内容もまたすばらしかった。
いくつも幸運があった。
準決勝で守備がガタガタしていた時に3点目を決められていたら、とてもではないが反発は難しかっただろう。開始早々に連続失点した事で、相手が裏を狙う攻撃ばかり狙ってきたのも、逆に幸いしたかもしれない。序盤から両翼を使った攻撃を仕掛けられたら、こちらも思うように攻められなかったかもしれない。準決勝で裏を突く攻めを経験したからこそ、決勝でも巧く守れたのも確かだ。決勝は大柄なタレントを持つ有利さで、セットプレイから先制できたが、それがなければ相手もそうは前掛りに来なかっただろうから、これまたどう展開したかはわからない。もちろん、決勝立ち上がりの得点がオフサイドでなければ、展開は全く異なったものになっていた事だろう。
ただし1つだけ言えるのは、当方の子ども達も、勝ち抜くだけの能力、可能性は十分持っていたと言う事だ。そして、彼らの努力が、ほんのちょっとの幸運を呼び出し、歓喜とあいなったと言う事だ。
準決勝も決勝も試合終了後、相手チームの子ども達は皆ボロボロと大泣きしていた。
準決勝の相手。2−0でリードした時は、まさかこんな展開になるとは思わなかっただろう。いや終盤猛攻を仕掛けている時も、「必ず逆転できる」と思い戦っていたに違いない。すばらしい敢闘精神だった。
決勝の相手。試合終了後、我々ベンチに挨拶に来た彼らは、涙を流しながら、我々3人に「中央大会がんばって下さい」と言ってくれた。
相手の子ども達もすばらしかったが、指導陣の見事さにも感心させられた。
このような尊敬すべき人々と戦えた事を誇りに思う。そして、勝った後では不遜に聞こえるかもしれないが、勝った子ども達も負けた子ども達も、この死闘を通して着実に成長したはずだ。彼らのサッカー人としての生活は、これからなのだから。
決勝戦に戻る。後半15分過ぎ、2−0でリードし、よいペースでの試合が継続。優勝が少しずつ見えてきた。先ほどまで隣で指示を飛ばしていた元ラガーが何かしら静かだ。「おかしいな」と思って隣を見ると、目を真っ赤にして、まぶたを押えている。お前なあ、大人が試合中に泣いてどうするんだ。
試合終了後、親御さん達が待つ控えスペースに戻る。「歓喜のまとめ」をするはずの2人の酔っ払いがいない。「あれっ」と思って探すと、隅っこで下を向いている。呼びに行くと、元ラガーはもちろん、IT社長まで目を真っ赤にして、私の方に×サイン。
「そうか、そうか。『歓喜のまとめ』は私の担当か」...って言う訳にはいかないので、子ども達に「着替えろ。寒いんだから、すぐに暖かい服装しろ」と場をつないだ。2人が戻ってくるまでの、ほんの数分間の幸せな事。
その晩の酒は、本当に美味かった。あれだけおいしい酒は、2002年6月14日、森島スタジアムでの森島の一撃を反芻しながら、ミナミで歓喜した以来ではなかったか。
みんな、本当にありがとう。酔っ払いたちは「君たち」と言う最高の酒の肴を堪能させてもらったよ。中央大会、これまで以上に厳しい難敵相手だけど、がんばろうな。