2016年06月30日

五輪代表順調な強化

 五輪代表は、国内最後の強化試合、南アフリカ戦に4対1と快勝。
 このチームは、直近3階の五輪代表(アテネ、北京、ロンドン)と異なり、予選段階でしっかりとチーム作りが行われたと言う意味では、シドニー以来。したがって、いわゆるキリンチャレンジで、遠征で体調がよくないチームと戦えば、よい成績を収められるのは自明な事、快勝そのものは驚きではなかった。
 それにしても、1点目、2点目の得点はきれいだった。このチームのよさは、後方の選手が常に敵DFの裏を狙う姿勢を保ち、敵DFラインが揃わなくなったときに、この1、2点目のように、両翼をうまく使った崩しができることにある。
 守備については、植田を軸にした中央の強さは間違いないが、時に中盤守備で几帳面さが失われることが課題か。まあ、このあたりは、若さもあるし、しかたがないところもあるのだが。

 ともあれ、室屋、中島と言った、予選後に負傷した選手がよいプレイを見せたのは嬉しかった。もちろん、たった1試合よいプレイを見せたからと言って、短期決戦を戦い抜ける体調まで戻っているかは別問題だが、2人ともメンバ入りする可能性は高いのではないか。それにしても、今回のチームは負傷者の多さが、大きな悩みとなっている。1月に予選が行われたため、各選手がオフをしっかりとれなかったためだろうか。
 余談ながら、中島と言う選手は、どうしてFC東京で出場機会をほとんど得られないのだろうか。この選手は、いわゆる華があるタイプ。守備をサボるわけでもないし(もちろん、課題はあるが)、よくわからない。確かにFC東京の攻撃ラインは、優秀な選手が多数いるのは確かなのだが。

 予選で中核として機能していた植田、矢島が、この数ヶ月で一回り成長していたのも、頼もしかった。そして、この2人と、この日負傷で欠場した遠藤の3人が安定していること、CBの岩波、奈良の負傷が長引いていること、この2点を考えると、オーバエージで選考したのが、塩谷、藤春、興梠と言うのも、よく理解できる。そして、上記した室屋と中島の復活により、かなりバランスがよいチームとなりそうだ。
 あとは、いかに各選手の体調を揃えられるかだろう。特に、負傷上がりの選手や、欧州でプレイする久保と南野の状態が気になるところだ。


 一昨年のワールドカップ、昨年のアジアカップと、代表チームの苦杯が続いたこともあり、日本サッカー界全体が、「異様な自信喪失」となっている。40年以上、日本サッカーに浸り切って今なお不思議なのだが、ちょっと勝つと「ワールドカップ優勝も夢ではない」となり、ちょっと負けると「この世の終わり」となるのが、この国のサッカーマスコミの特徴なのだ。
 だからこそ、このチームには、自信回復のきっかけとなる、リオでの鮮やかな戦いを期待したいのだ。まあ、手倉森のオッサンの手腕は確かなのはわかっている。わかってはいるが、(過去から再三語っているように)凝り過ぎて失敗するのではないかとの不安が、また愉しい。
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2016年02月02日

ドーハの歓喜を振り返って

 堂々と五輪出場を決めてくれた本大会。その最後が韓国に対する勝利なのだから、こたえられない。そして、韓国への勝利が大きな快感なのは言うまでもないのだが、それも2点差をひっくり返しての逆転劇なのだから、格段の快感だった。そもそも、A代表を含めた日韓戦で、2点差の逆転劇そのものが、勝ちでも負けでも記憶にないのだし。
 誠にめでたい大会だった。

 ただ、決勝戦の試合展開はとても奇妙なものだった。
 手倉森氏は、「試合後後半開始早々に2点差とされたのは、自らの采配ミス」と語ったが、私が見るところ、その後に、それ以上の危険な采配を行い、完全に命運を絶たれるところだった。一方、申台龍氏の2点差までとするまでの采配は水際立っていたが、同点となってからの采配は愚かを通り越し、あり得ない稚拙さだった。
 いずれも最高級の歓喜を味わった今となっては、愉しい思い出ではあるのだが。

 開始早々、強烈なミドルシュートを打たれ櫛引がかろうじてはね返したこぼれ球を決められるがオフサイドに救われる。前後半問わず、序盤の守備がまずいのはこのチームの悪癖だ。ただ、この場面を典型に、この試合では、韓国FWに4-3-3の特長を活かされ、日本DFとMFの中間でボールを受けられてしまい、好機を再三作られることとなる。
 その後は日本のパスが回るようになる。しかし、久保、中島、両サイドバックの山中、室屋が、中盤を抜け出したところで、強引にラストパスを狙ってしまい、韓国の最終ラインも人数が揃っていることもあり、崩せない。久保と中島は、そう言った強引さに魅力があるのは確か。そして、山中、室屋まで同調したのは、決勝進出の「勢い」だろうか。ただ、韓国守備陣があれだけ揃っているのだから、もう少しゆっくり攻めたいところだった。実際、久々に起用された大島が、丁寧にさばいていたので、もう少しボールを集めたいところだったのだが、「大島抜き」に各選手が慣れていたせいか、やや「勢い」に乗り過ぎ、攻撃が単調になってしまった。
 そして、日本は敢え無く先制されてしまう。左サイド(以降の左右はすべて日本から見て)で、中島がやや甘い守備からサイドチェンジを許す。右サイドではよりボールに近かった室屋がマーカに気をとられ、矢島に対応を任せたことで、比較的簡単にクロスを上げられてしまう。その折り返しに、中央に残っていた岩波も植田も完全なボールウォッチャになってしまった。確かに両翼守備には問題があったが、屈強を誇る日本の2CBは欠点を露わにしてしまった。
 その後も、冒頭に述べた4-3-3対応がうまくいかず、頻度は少ないが幾度か好機を許しながら、何とかしのいで前半を終えた。遠藤も大島もしっかりと上下動して中盤守備を機能させていただけに、室屋と山中が勇気を持って敵FWへ応対していればよかったと思うのだが。

 後半開始より、手倉森氏はオナイウに替え、原川を起用、こちらも4-3-3に切り替える。敵FWを押さえると共に、攻撃の急ぎ過ぎを改善しようとしたのだろう。ところが、あろうことか遠藤が完全に敵FWに出し抜かれ、その対応に岩波が出遅れたところから、2点目を失ってしまう。
 けれども、苦しい状況になっても、気持ちが萎えないのは、このチームの良さだ。失点直後から、原川を入れた効果が次第に発揮される。大島と原川が、丁寧にさばき、日本がいやらしくボールを回せるようになったのだ。そして矢島と室屋、中島と山中が、それぞれ両翼で起点を作れるようにもなり、日本がペースをつかんだ。2点差は苦しいが、このペースでヒタヒタと攻めれば、前半ハイペースで飛ばしていた韓国は疲弊するのではないかと期待は高まった。
 ところが、その好ペースを手倉森氏は自ら崩してしまう。大島に替えて、攻撃の切り札浅野を投入したのだ。確かに、2点差である以上、早い段階で手を打つ必要があり、ズルズルと時間が過ぎてしまう状況を打破しようとするのは一案で、久保と浅野を並べる策は理解できる。では誰と替えるかだが、イラン戦でその驚異的なスタミナと終盤での能力を見せつけた中島と、ボールを引き出す能力が高い矢島を残すとずれば、消去法から大島が選択されるのはわからなくはない。ただ、全軍で一番視野が広い大島を外してよいものなのか。ともあれ、日本は大島に替えて浅野を投入、4-4-2に戻した。
 この交代劇は、大島不在以上のマイナスを日本に与えることとなった。浅野投入後の約5分間、また韓国FWを捕まえられなくなり、幾度も決定機を許すことなったのだ。櫛引の好守もあり、何とかしのいでいたが、ここで3点差にされたら、いくら何でも勝負は決まっていただろう。
 ところが、何が幸いするかわからない。日本が自らペースを崩したこともあってか、韓国の守備陣がズルズルとラインを上げ、しかも中盤のプレスが甘くなってきたのだ。それを逃さなかった矢島と浅野の狡猾な動きで、日本は1点差に追い上げる。矢島のスルーパスは、タイミングも強さも絶妙だったが、浅野の抜け出しの速さとシュートの巧みさも完璧だった。ここで韓国のDF陣は、浅野の「縦の速さ」に驚いたようで、明らかにパニックに陥る。そして、左サイドの崩しから、完全に矢島を見失う。あっと言う間の同点劇。
 まあ、典型的な「肉を切らせて、骨を断つ」作戦がうまくいった状況となった。試合終了後、手倉森氏が嬉しそうに、この場面を自慢しながら振り返るのかと思ったが、氏の発言は「もう一度相手の攻撃をしのいでから、押し出ていこうかと思っていたら、タイミングが悪くて2点目を取られた。そこから2トップに戻すまでは、ちょっとこてんぱんにやられたなと。」と言うものだった(出展はこちら)。手倉森氏は、興奮のあまり記憶が違っているのだ。「こてんぱん」状態になったのは、氏が2トップに戻してからだったのだが。
 手倉森氏がすばらしい監督であることは、ベガルタサポータの私たちは、誰よりわかっている。けれども、彼が万能の神ではないことも、私たちはわかっている。
 それでも選手達は、我慢を重ね、巧みに敵の隙を突いて追いついたのだ。この監督の采配ミスの苦しい時間帯、選手達が粘りで追いついた場面は感動的だった。

 ここで、日本に不運が襲う。テレビ朝日のピッチアナウンサ情報によると、矢島が何がしかコンディションを崩したと言うのだ。手倉森氏は2対2の状況で、韓国が1人も交替していないにもかかわらず、3枚目のカードを切ることを余儀なくされた。これは最悪の事態だ。韓国は、当方の選手の疲労を見ながら、自在に交替策を駆使して、仕掛けることができる。
 ところで。現役時代の申台龍は、技巧も判断力も優れ、とてもよい選手だった。ただ、どうにも代表運がなかった。日本で言うと、藤田俊哉的な位置づけだろうか。2-0となるまでは、申台龍氏の采配は冴え渡った。1点目は大きなサイドチェンジに対する日本CBの対応の拙さを突かれ、2点目は立ち上がりの悪さを狙われた。現役時代の忌々しさを思い起こす、最悪の快感。
 ところが。日本が3枚目の交代を切った後の、申台龍氏の采配は、正にお笑いものだった。大柄な選手を前線に起用し、パワープレイに転じてきたのだ。確かに前半からのハイペースで、韓国各選手に疲労の色は濃かった。けれども、今回の日本のCBが敵のパワープレイには滅法強いのだ。申氏の采配で、一気に日本は楽になる。
 そして、浅野。中島のパスも見事だったが、その鮮やかなターン。そして、冷静な左足シュート。

 堂々たるアジア王者に輝いた若者たちと、鮮やかな采配を見せてくれた手倉森氏に感謝したい。
 一発勝負の予選ゆえ、出会いがしらの事故による失敗が一番恐ろしかったが、手倉森氏は見事なマネージメントで、堅実に戦い切ってくれた。選手達も、その格段の高い戦術能力を見せ、手倉森氏の要求にこたえきった。
 イラン戦も、イラク戦も、確かに苦しかった。イラン戦はバーに救われた場面もあった、イラク戦も技巧あふれる攻撃に苦しむ場面は少なくなかった。けれども、選手達は粘り強く戦い、格段のコンディショニングの成果もあり、試合終盤は完全に相手を追い込み、完璧に勝ち切った。この準々決勝、準決勝、この2試合に同じ準備状況で再度試合に臨むとしても、相当な確率で日本は勝つことができるのではないか。
 そして、韓国戦。選手達に甘さも確かにあった。しかし、彼らは監督の采配ミスなどを飲み込み、堂々と勝ち切ってくれた。
 過去20年来、A代表も五輪代表も、日本はアジアで格段の成績を収めてきた。しかし、それらの歓喜は、必ずしも圧倒的な攻撃的サッカーで得たものではない。中盤を圧倒して快勝の連続で得たものでもない。苦しい試合を、各選手の秀でた判断力と精神力で粘り、敵の僅かな隙を突いて攻撃のスタアの能力で得点し、拾った歓喜は数知れない。今回のチームの歓喜もそれと同じだった。もちろん、局面局面で久保や浅野や遠藤や室屋が見せてくれた、「格段の個人能力」はすばらしかったが。
 手倉森采配の輝きも格段だったが、各選手の能力が存分に高かったことを改めて強調したい。ただし、すべての勝負がこれからなのも言うまでもない。
 このすばらしい23人は、まず本大会に向けてのサバイバルが待っている。リオ本大会出場枠は、わずか18。そこにオーバエージが加わる。さらに、今大会負傷で登録されなかった中村、喜田、野津田、金森ら、Jで実績を誇る関根、川辺、小屋松、鎌田、前田らが、その競争に加わる。
 厳しい競争を勝ち抜いた若者が、リオで美しい色のメダルを獲得し、さらにロシアでの歓喜に貢献してくれることを期待したい。
posted by 武藤文雄 at 00:18| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月22日

ベガルタサポータのみが味わえる快感

 結果も内容も上々に1次ラウンドを突破した五輪代表。勝負はこれからだが、手倉森のオッサンのドヤ顔を見るだけで、嬉しくなってくるのは、ベガルタサポータ特権だな。

 もちろん、贅沢を言えばキリがない。例えば、手倉森のオッサンが自慢する守備だが、結構、粗も多い。
 まず、つまらない反則や、軽率なミスパスなど、各選手が唐突にビックリするようなミスをすること。たとえば、サウジ戦後半、植田が敵FWと競ってヘッドしようとした際に手が前に出てファウルをとられた。同じく、山中がペナルティエリア内でミスパスでボールを奪われた。この他にも、この3試合、多くの選手が、自陣ゴール近くで「おいおい」と言うミスをしている。各選手が、まだまだ若いと言うことだろうか(「若さ」が故のミスについては、講釈を垂れ始めるとキリがないので、別な機会に)。
 また初戦北朝鮮戦で幾度も危ない場面を作られた。バックラインが下がってしまったのがまずかったのは確かだ。しかし、岩波と植田は、北朝鮮のロングボールはしっかりとはね返していた。問題は、引き過ぎたこともあり、両翼に数的優位を作られ、ダイレクトパスやサイドチェンジを許し、精度の高いボールを入れられたことだ。
 このオッサンがベガルタを率いていた際にも、しばしばこのような場面が見られたな。うん、懐かしい。ところが、状況が悪くなりバックラインが下がったときはサイドMFが献身的に上下動をして、対処していたのだ。まあ、梁勇基と比較すれば、南野はまだまだ未熟と言うことか。
 ともあれ。上記のような失態があっても、失点はあの愉しいPKからの1点のみ。これは、各選手の切り替えの早さが格段な事による。チームメートがミスしたら、すぐに切り替えが利くのは大したものだ。国内の各若年層育成組織が育て上げたエリート達に、この意識をたたき込んだは、このオッサンの功績だな。
 緊張感あふれる1次ラウンドの3試合の経験で、各選手は成長し「おいおい」ミスは減っていくことだろう。南野はサウジ戦の終盤は的確な守備も見せ、北朝鮮戦のダメダメから脱却した。そうこう考えると、あの切り替えの早さがあれば、守備は相当計算できそうだ。

 では攻撃。
 このチームの前線の個人能力は相当高い。久保は常に敵ゴールを狙い、狡猾な位置取りと、ふてぶてしいシュートが格段。浅野の加速からのシュートの鋭さは、毎週Jリーグで感心させられている。南野のペナルティエリア内の技巧とシュートへの持ち込みは言うまでもない。気がついてみると、攻撃は相当強力ではないか。かつての五輪のFWを思い起こす。アトランタは小倉と城、シドニーは柳沢と高原、アテネは達也と大久保、北京は豊田と岡崎、ロンドンは大津と永井。そうこう考えると、久保、浅野、南野の組み合わせは、従来と何ら遜色ない、いやこの時点での迫力は優れているように思えてくる。
 問題は彼らに前を向かせ、己のイニシアチブでプレイさせるスペースを作れるか。
 そして、これが作れるのだ。大島の視野の広さ。遠藤の責任感あふれるボール奪取とパス出し。原川の丁寧な展開と持ち出し。矢島の引き出しと狙い済ましたラストパス。井手口の格段のボール奪取と正確なつなぎ。三竿の強さと高さ。そう、当たり前に当たり前の選手選考を行えば、何も問題ないのだ。

 大会前に様々な不安が語られた。けれども、結局のところ、よいチーム、よい選手を所有できている。イランも、イラク(UAEかもしれない)も、厄介だろう。しかし、これらの難敵とに対し、従来以上に戦えるチームができあがってきた。よい素材を育成する、日本中のサッカーおじさん、おばさんの貢献も何よりだ。そして、手倉森のオッサンもさすがなのだろう。
 丹念に、丁寧に、執拗に戦えば、リオ出場権獲得の確率は相当高いはずだ。

 ただし、不安もある。手倉森のオッサンが「凝り過ぎて、策に溺れるのではないか」との不安だ。
 ベガルタ時代、おのオッサンは、少ない戦闘資源を丹念に鍛え、格段の成績を挙げてくれた。この俺たちがACLまで行けたのだよ。このオッサンには感謝の言葉もない。そして、少ない戦闘能力を存分に発揮するためには、様々な駆け引きが必要だった。
 この五輪代表チーム、このオッサンは、ベガルタ時代には夢にも思えなかった、豊富な資源からの選択の自由を堪能している。そして、この3試合、その成果を存分に見せてくれた。期待通りの手腕である。3試合で、ほとんど全選手を起用し、極端に消耗した選手もいないはずだ。よい体調で、2次ラウンドを迎える。よほどの不運がなければ、イランとイラク(UAE)を破ってくれることことだろう。
 けれども、思い起こせば、このオッサンの駆け引き倒れを、幾度経験したことだろう。スタメンで使うべき選手を控えに置き、負傷者などの思わぬ展開で、よい選手を使い切れなかったこと。「展開は悪くない」などと語りながら、豊富な交代選手を起用せぬまま、消耗した選手のミスで失点すること。
 そう、不安なのだよ。このオッサンの「すべて計算通り」と語るドヤ顔が。例えば、ローテーション起用に拘泥するあまり、今大会、浅野も南野も、まだ得点がないと言う事実。この2人が、今後つまならいプレッシャにつぶれなければよいのだが。ついつい、このような余計なお世話を語りたくなることこそ、このオッサンの愉しさなのだが。

 うん。この不安感。ベガルタサポータのみが味わえる異様な感情。どうだ、うらやましいだろう。
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2014年10月09日

手倉森ジャパン、アジア大会敗退

 ちょっと遅くなったがアジア大会について。手倉森監督率いる五輪代表候補チームは、地元韓国に苦杯、ベスト8に終わってしまった。

 考えてみれば。今大会、イラクと韓国に敗れた訳だが、両国とも日本とは異なるレギュレーションで選手を集めていた。
 イラクは、2007年アジアカップのスーパースタアのマフムードをオーバエージで起用。2007年大会で、最盛期の高原と大会トップストライカの座を争い、決勝で(日本が苦杯した)サウジを叩き潰したマフムード。このような要がいるとチームは強い。実際今回のイラクは、チーム全体が、まずマフムードにボールを集め、あるいは集める振りをして意表を突く、と言う攻撃の道筋が完全に整理されていた。例えば、今回の五輪代表候補チームに、寿人なり豊田を加えていれば、全軍の攻撃の道筋が明確になり、格段に強力なチームを作る事ができていた事だろう(そして、実績面でマフムードは寿人や豊田の上を行く)。この差は、どうしようもなかった。
 韓国は、大会規定に則り、U23+オーバエージでチームを構成。U23とU21の違いは大きい。例えば、日本が今回U23でチームを作ろうとしていれば、柴崎、宇佐美、武藤嘉紀、昌子と言った面々が選考範囲内となる。もうこれだけで、今回の日韓の戦闘能力差が「仕方がないもの」と認識される事だろう。しかも、韓国はここまでの試合で日本をよく分析。特に常時CBをしっかりと2人残し、鈴木武蔵を厳しくマーク。武蔵も無理な前進を繰り返してボールを失い続け、苦境を継続させてしまった。もう少し、判断力を磨いて下さい。
 実際、イラクも韓国も、戦闘能力では明らかに当方より、一枚上だった。そして、素直にその両国に2敗してしまった。残念と言えば残念。たとえ、いかに敵が格上だとしても、創意工夫で勝ち切るからこそ歓喜がある。いや、実際選手達はその格上相手に、相応には抵抗してくれた。イラク戦は守備の甘さはあったが、勇気あふれるパスワークで終盤、イラクを追い込んだ。韓国戦は、イラク戦の反省が活きたのだろう、最終ラインが整然と韓国の単調な無理攻めをはね返し続けた。よくはやってくれたとは思う。

 もちろん、細かい文句を言い始めればキリがない。イラク戦の終盤猛攻時に、中島や野津田のシュートの雑さは残念だった。中島の精力的なフリーランはこのチームのストロングポイントだったが、この逸材は小柄なだけに得点力を磨く事はとても重要なはずだ。野津田には「左利きの天才肌選手は過去無数にいたよ、俊輔と本田以外にも」とだけ、言っておこう。
 韓国戦の大島のPKは、笑い話と言えなくもない。しかし、少なくともこの主審は、再三同様なファウルを取っていたのも確か。大島には、もう少し冷静にプレイして欲しかった。一方で、大島にこれだけの失敗経験を積んでもらう事ができたのだから、このアジア大会は大成功と言えるかもしれない。陳腐な言い方になるが、大島には自覚して欲しい。彼からすれば「神」としか言いようがない中村憲剛が、とうとう代表の定位置を確保し切れなかった事(もちろん、憲剛の物語は終わっていないのだが)、そして2歳年上の柴崎よりも高いレベルのプレイができなければ日本代表での定着もないと言う事を。

 などと、前途有望な選手に、思いをはせるのもまた愉しい。北京五輪時に、誰が「岡崎がブンデスリーガの得点王を争う」と予想できただろうか。
 
 負けたのは悔しいが、安堵感も感じている。イラクや韓国が、我々よりも有利なレギュレーションで選手を集めておきながら、我々が簡単に勝てるとしたら、それこそ大問題ではないか。
 考えてみれば、五輪アジア予選のレギュレーションも不思議と言えば不思議。本大会に合わせ、オーバエージを加える事を許可しても矛盾はないはず。もっとも、そんなレギュレーションになれば、日程破綻している日本はオーバエージを選考できず、予選敗退のリスクが格段に高まろうが。まあ、そうなったら仕方がない。たかが五輪なのだから。

 そして何より。このチームを率いているのが、「俺たちのテグ」なのだ。テグの稠密さ、自己本位の墓穴、得点時の歓喜、苦境時の強がり。俺たちは皆、よくよくよく知っている。そして、「俺たち」の時とは、全く異なる素材の質の格段の高さ。単純な嫉妬だな。
 うん、何と、俺たちは幸せなのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月10日

韓国との3位決定戦を前に

 本来ならば、負ければ終わりの勝ち抜き戦、3位決定戦とは非常に微妙な存在である。ワールドカップでも、毎回何とも言えない試合が繰り返されている。ところが、五輪と言う大会は「銅メダル」と言う付加価値があり、結構な真剣勝負感が漂う。言うまでもなく、44年前には、かのクラマー氏が「銅の色もよい色だ」との名言を述べられ、釜本大御大が2連発とあいなった訳だし。

 そこに韓国である。
 この厄介な隣国の宿敵と、世界大会で戦うのは、2回目。2003年のワールドユースの1/16ファイナル以来となる。今野や川島の世代である。あ、そうそう徳永も!あの気持ちのよい勝利の後、「今後、世界で幾度もこの対戦を見ることになるのだろうな」と、感慨にふけったのが、何とも懐かしい。
 ここは素直に喜ぼうと想う。この愉しかった大会の最後に、最高の娯楽が訪れてくれたと。だって最高ではないか、勝利した時の歓喜 、敗北した時の絶望。
 いや、当面の目標である2014年を考えても、この試合は、この若いチームにとって最高の経験となる。見事なエジプト戦までの成功体験、悔しいメキシコ戦の失敗体験、それぞれの後で、究極の成功体験を積む事ができるのか。それとも…

 敵には多くのJリーガがいるし、何より監督は、洪明甫氏。さらには、ベンチには、洪氏に請われてフィジカルコーチに就任した池田誠剛氏が。確かに先方は兵役免除と言う重要な要素はあろうが、巷騒がれるような殺伐とした戦いにはならないだろう。
 余談ながら、関塚氏と池田氏は早稲田大学時のチームメート、同じ学齢だが関塚氏が浪人したので後輩となる。
 激しく、厳しく、愉しく、そしてすばらしい試合を期待したい。そして、我々の若者の歓喜の銅メダルを。
posted by 武藤文雄 at 23:28| Comment(8) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月06日

2つの準決勝を前に

 男女とも堂々とベスト4進出。まことにめだたい。
 毎試合毎試合、しっかりと講釈を垂れたいのは山々なのだが、どうにも難しい状況だ。3日に2試合のペースで試合が行われ、しかも試合が深夜に及ぶ。特に午前1時キックオフの試合で、翌日が平日の場合は、試合前の仮眠が必須となる。さらに、ついつい他の競技にも気をとられてしまって、作文の時間が失われて行く。

 
 女子。準々決勝、ブラジルに終始攻め込まれたが、落ち着いて守り切った。
 序盤に攻勢をとられ、危ない場面も多かったが、そこをしのいだ前半20分過ぎから幾度も攻め込み、連続して好機を作る事に成功。その流れから得たFKを、澤が素早く蹴り、抜け出した大儀見が、しっかりと決めて、先制に成功。
 以降は、ブラジルの攻撃を冷静にいなす。岩清水、熊谷のセンタバック、阪口、澤のドイスボランチの読みはすばらしく、押されてはいたが、ほとんど危ない場面はなかった。
 そして、後半半ばには逆襲速攻から大儀見の好クロス、大野が冷静に決めて突き放し、そのまま逃げ切った。ブラジルの攻撃精度は、日本と並んで世界屈指だろうが、その攻撃を狙い通りに押さえ切ったのだから大したものだ。また、体調もここに合わせていたのだろう、終盤にはブラジル選手の多くは疲労から一杯の状態になっていたのに対し、日本の選手はしっかり走り切った。たとえば、1次ラウンドのスウェーデン戦と比較すると、選手達の体調がよいのは明らかだ。
 気になったのは、守備ブロックがしっかりしているが、サイドバックが絞り過ぎの場面が見受けられた事。特に鮫島は(日本の右から左、つまり逆サイドから同サイドに)サイドチェンジされた際に、反応が遅れる事が再三あった。あそこの切り替え(内から外へ)が遅れると、川澄がカバーに下がる必要が出てきて、どうしてもボールを奪ってからの攻めが遅くなる。そこを修正するだけで、もっと楽に戦えると思うのだが。

 南アフリカ戦の駆け引きに関する騒動。当たり前の事を当たり前にやっただけで、騒ぎになるのだから、注目されると言う事は大変だ。しかし、かつてウェンブレイで柱谷哲二がハンドをしたり、アジアカップの1次リーグ3試合目で思いっ切り手抜きをしても、特別国民的議論?は起こらなかった。それが、今回相応の騒動になったのは、我々が着実にサッカー強国への道を歩む重要な一里塚だったと考えればよいだろう。佐々木氏の日本サッカーへの貢献に改めて感謝するものである。
 それにしても、スウェーデン対カナダが同点になった瞬間に、見事にスイッチがはいって、後方でボールを回し始めたのは、おもしろかった。あれを「おもしろい」と感じない人がいるのも、1つの発見だが。

 フランス戦は、コンディショニングと試合経験を考えれば、常識的には勝てると思う。
 ブラジル戦で見せてくれた守備の堅牢さを考えると、そうは失点しないだろう。またブラジル戦の前半20分過ぎの連続攻撃では、「攻める気になった時の凄さ」を見せてくれた。
 一部に宮間不振を心配する向きがあるようだが、私はそれも前向きに捉えている。宮間が今一歩でも、ここまで堅実に勝てると言う事だからだ。そして、宮間のように精神的にも技術的にも充実した選手が、大会最後まで不振を引きずる訳がない。
 おごる事なく、冷静に戦えば、決勝進出は相当確率で訪れるはずだ。


 さて男子。気持ち良い進撃が続いている。

 モロッコ戦。私はあのような緊迫した試合が大好きだ。
 両軍が稠密にプレスをかけ合い、僅かな隙から攻め込もうとする。序盤こそ、敵トップに裏をとられ危ない場面を作られたが、山口の忠実さと、扇原の丁寧な展開で、次第に互角の展開に。中々攻め込めない難しい時間帯でも、大津の巧妙な動きから、そこそこ攻める時間を作り、前半終了。麻也のヘディングが決まってリードできていれば最高だったが、それは贅沢と言うものだろう。
 そして後半、我慢を継続し、次第に当方の好機が増えて来て、最後にエース永井の一撃で仕留める事に成功。戦闘能力がほんの少し上回っていた差を、しっかりと出せた。同格の敵に、このような勝ち方ができるチームが本当に強いのだ。モロッコは、あの厄介だったトップを下げてくれて楽になった。おそらくスタミナに課題がある選手なのだろう。そして、先方はその後のカードがなかった。当方は向こうが2枚交代して様子をみてから、齋藤を起用できた。資源力の差が出た。サッカー力で上回っていたとも考えられる。
 ある意味では、後半10人となったスペインに勝つより、ずっと11人だったモロッコに勝つ方が難しかったはず。実に見事な戦いだった。

 ホンジュラス戦。前半は、宇佐美、山村が全くフィットしておらず、また杉本もトップで持ちこたえられず、苦しい展開となったが、麻也を軸に丁寧に守る。
 そして後半、ホンジュラスのプレスが弱まると、この3人もそこそこ順調に機能し始める。すばらしかったのは、山口と大津。この2人は出足もよいが、次の展開を考えてプレイをしているので、ファーストタッチと身体の向きが絶品で、次の展開が実にスムーズ。この大会で、完全に大化けしてくれた。また、宇佐美がレギュラクラスが周囲を固めれば、まあまあのプレイを見せてくれたのは好材料。金メダル獲得のためには、この天才肌の選手の活躍は必須なのだから。また、序盤は落ち着かなかったが、村松が自エリアをしっかり押さえる守備を見せたのも大きい。
 鈴木も褒めたかったのだが、あのアディショナルタイムのボール回し時に、最後ロングボールを蹴ってしまったので減点。

 そしてエジプト戦。序盤に一気に攻勢に立ち、清武のボール刈りから、そのまま永井が先制。守備の組織化の確立が、ボールを奪ってからの意思統一につながり、さらに永井と言う異彩を得て、このチームの長駆型速攻パタンは完成したようだ。日本のトップレベルが国際試合で、このような「長駆型速攻」を「型」として身につけたのは史上初めてではなかろうか。好事魔多し、永井の負傷が心配。メキシコ戦は難しそうだが、決勝に何間に合ってほしい。また、リードして敵が出てくれば、永井不在でも速攻が機能する事を示した斎藤はあっぱれだった。もし、永井不在でもメキシコはそう簡単には、前に出てこられないはずだから。
 後半エジプトが交代カードを切り終わった後で負傷者が出て、11対9になったのは幸運だったが、そうならなくても押し切っていた事だろう。そのくらい、攻守のバランスがとれていた。
 
 扇原の展開、清武の最終精度は、ほぼ確立した。残るは東と宇佐美だ。敵が速攻に対応してきた時に、得点を奪うために、最前線で必要な緩急を作り出せるのはこの2人なのだから。
 東はすばらしい運動量で献身的に戦っているのは間違いない。しかし、そこに加えて、ちょっとした溜めとか、ほんの少しスピードを落とすなどの工夫を発揮して欲しい。そして宇佐美には、勝負どころであの変幻自在なドリブル突破を。

 メキシコは難しい相手だ。しかし、発展途上のこのチームが大会前に互角に近い戦いを演じ、最終的に勝てたと言う実績は非常に大きい。あのメキシコ戦当時と比較し、当方の戦闘能力は格段に向上している。私は楽観的だ。
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2012年07月29日

スペイン戦勝利を喜ぶ

 女子は、キッチリと1勝1分けのスタート。2試合とも、90分間のスタミナが続かなかったのは、準々決勝以降に合わせているからの好材料と見る。ただ、スウェーデン戦の終盤、全体がエネルギ切れになっていたにもかかわらず、前線の選手が無理に「前に前に」行ってしまった事は不安材料。結果が欲しい大儀見と岩渕が、よい意味での欲を出したと前向きに捉えておこうか。
 いずれにしても、カナダ戦の前半にしっかりと2点奪ったところで、1次リーグは完了し、準々決勝以降の調整を始める事ができたようなもの。
 1次ラウンドは1位でも2位でも、対戦相手的にはあまり影響はない。ほぼ間違いなく合衆国が1抜けするので、決勝までの同ブロックになるのは、英国、ブラジルのいずれかと、フランス、スウェーデンとなる。
 この中で戦闘能力が落ちそうなのは英国だが、地元と言う利点があるので、厄介な事は変わりない。ただ、歴史的な経緯からチームとしてのまとまりは疑問なところ。
 フランスは直前の準備試合でやられたが、あの試合のあたりが、先方のピークだったのではないか。北朝鮮への大差の勝利も、フランスが早いところにピークを合わせている証左となる。こちらは準々決勝に合わせているし、タイトルマッチの経験を含め、常識的には日本有利。
 もちろん、この中ではブラジルが一番難しい敵となろう。澤がFIFA最優秀選手に選ばれた時の、マルタの悔しそうな顔は忘れ難いし。当方として一番ありがたいのは、ブラジルが1抜けであちら側のブロックに行き、準決勝で合衆国と死闘を演じてくれる事ではあるが(そして、ブラジルが来る事か)。
 ただし、もしブラジルが2抜けで、こちら側のブロックに来たとしても、上記の4国中3国と日本の勝ち抜き戦を考えれば、最終的に勝ち残る確率は日本が一番高いだろう(もちろん、だからと言って、決定的な差はないのも確かで、苦しい試合が続くのも間違いないが)。
 つい1年前、我々は難しい本番で、ドイツも合衆国も振り切った経験を持つのだ。何ら、楽観的な事を言うつもりはないが、コンディショニングと言う視点からは。昨日のスタミナ切れはよい兆候と見る。期待しよう。

 と言う事で、スペイン戦。いや、気持のよい勝利でした。
 ピークとすべきこの試合にしっかり合わせ込んで来た関塚氏はさすがだ。このように、「大事な試合に合わせる」のは、監督としての能力の重要な1つ。ここまで氏には、かなり厳しい事を書いてきたが、さすがJ屈指の実績の持ち主。以前も語ったが、我々は関塚氏を超えるカードはそう多くは持っていない。そう考えても、ここに関塚氏が合わせてくれて来た事は、嬉しかったし、やや安堵の気持がある事も否定しない。

 オーバエージの2人が、戦略的にチームの中軸となり精神的支柱となるのみならず、予選段階の弱点に対する人材的な補強となっているのも、結構な事だ。これは、関塚監督と原技術委員長の適切な連携を、大いに讃えるべきだろう。
 徳永の堅実な守備と、効果的な押し上げは、ブラジルを目指す伊野波や今野や駒野にとって、大いなる脅威と言える。しかも、本業とは言い難い左サイドを如才なくこなしたのだから。
 そして麻也の堂々たる君臨振りはもう最高。終盤、スペインの攻撃が、ことごとく麻也の守備範囲に収まる場面は、かつての井原や中澤を彷彿させる感もあった。大会初戦にして、ザッケローニ氏の高笑いが聞こえてくるかのように感じたのは私だけだろうか。

 そして、全選手が、敵の喉元に食い付きながら、丁寧にボールを大事にして、几帳面に修正を繰り返してくれた。正に「日本のサッカー」だった。
 ただ、このスペイン戦で重要だったのは、やはり永井の存在だろう。従来日本が世界大会で戦う時の1つの課題は、ある程度後方を固めた際に、長駆型の速攻を仕掛けるための最前線で少人数突破が可能なタレントに乏しい事だった。そのため、ある程度攻めの形を作るためには、相当数の人数が前線に入る必要があり、そこがリードした時の試合運びの難しさだった。唯一の例外は、2003年後半から2004年半ばまでの、久保竜彦が君臨したほんの短い期間だったのだが。しかし、この日は永井の長駆俊足が、スペインの守備ラインを悩まし続けた。
 終盤、永井が幾度も長駆し好機を演出し、スペインに攻め返されて、トコトコとオフサイドを警戒しながら疲労をこらえながら戻る場面は、美しかった。このやり方は、一昨年のアジア大会を制した際のものだったが、永井は1年グランパスで経験を積み、ボールの受け方が格段にうまくなった点が大きな進歩。これまた、ザッケローニ氏のニヤケ顔が目に浮かぶな。さらに、後方のチームメートも、予選の悪い時期に見せた無計画な縦パスではなく、東を軸に丁寧につないで、フリーになった選手が高精度のロングボールを通したのがよかった。
 関塚氏も、さすがにこの難敵はリスペクトしたと言う事だろう。つまり、安易な縦パスではダメで、後方から組み立てなければならないと理解していたのだろう。予選から、このような組み立てをしていれば、シリアにあそこまで苦しむ事はなかったのだが。

 もちろん、前半終盤の退場劇が、事実上勝負を決めたのは間違いない。前半半ばから、日本の組織守備がほぼ完璧に機能していたが、前半立ち上がりに(日本から見て)左から右に短いパスを回され崩されかけた場面があった。マタを軸にしたあの高精度パスの連続を考えると、やはり11人揃っていたら、相当苦しい試合になっていたと思う。ただし、あの退場は、永井の突破力が生んだものなので、スペインが10人になってしまったのは、幸運と言うよりは必然と言うべきものだろうが。
 そして、スペインは人数が減ったにもかかわらず、11人いる時と同じサッカーを狙って来た。このスペインの柔軟性のなさには驚いた。前半から、日本がブロックを固めた際に、思うようにラストパスを通せなかった。したがって、人数が減って同じ事をしていたら、苦しむのは自明。せめて、サイドチェンジを増やすとか、片方のサイドに偏在するとか、何か工夫をしてくるかと思ったのだが。かくして、1人少ないスペインの攻撃は、ことごとく麻也の餌食となった。危なそうな場面は、アルバに裏を突かれたくらいだったが、権田が冷静にさばいた。

 ただし、今後の試合が余談を許さないのは間違いない。最大の課題は、敵が守りを固めて来た時に、崩せるかどうか。初戦がスペインだった幸運を活かし、守備組織はある程度完成した。ここから、どう攻撃を積み上げるか。モロッコもホンジュラスも、そして準々決勝以降の相手も、永井の脅威は理解しているだけに、後方を分厚くしてくる事だろう。そうなった場合に、どうするか。遺憾ながら、スペイン戦後半で、どうにもシュート力に課題がある事を露呈してしまった。また、予選段階で、このチームの攻撃連係が拙い事も示されている。だからこそ、戦いながら、連係をを築き上げて行く必要がある。
 カギになるのは、ずばり、扇原、東、そして宇佐美だと思う。
 扇原の重要性は言うまでもない。つなぐ場面、ためる場面、縦を急ぐ場面、それぞれをいかに使い分けるか。予選段階で相当苦しく追い込まれたこのチームを救ったのは、敵地マレーシア戦で冷静にボールを回した扇原だった。今度は格段にレベルの高い相手に、同じ事ができるか。期待されるのはこのチームの遠藤的存在である事を自覚して、頭を働かせて欲しいのだが。
 スペイン戦の東はもちろんよかった。すばらしいファイトで戦い続け、よく攻撃を展開した。しかし、今後東はもっと難しい責務を果たしてもらう必要がある。スペイン戦では、多くは速攻の担い手だったが、今後の試合では、遅攻の軸となってもらわなければならないのだ。永井はもちろん、大津も清武も齋藤も、前線で技巧と工夫の粋を尽くして、敵を崩そうと努力する。彼らを組織化して、攻撃を操るのは東の役目なのだ。急の中にいかに緩を加えて、攻撃を組み立ててくれるか。
 そして宇佐美。最後の最後、敵を崩すためには、切れ味鋭い個人技が必要。そして、その可能性を一番持っているのはやはりこの男だろう。宇佐美の「素材」を疑うものではないが、ガンバでそこそこの活躍をした後に、よりによってバイエルンと言う超トップレベルのクラブに加入した事もあり、試合での実績をほとんど積む事ができていない(まあ、それを言うと大津も、ボルシアMGで出場機会を、あまり得られていないようだが)。そのためもあるのか、とにかく「タフではない」と言う印象が強い。しかし、五輪で上位進出するために、彼の力が必要な事を否定する人も少ないだろう。
 
 初戦に難敵に勝利した事ものの、アトランタのようにその後の失速を心配する向きも多いようだ。しかし、当時のチームのこのチームは、選手のプロフェッショナリズムは全く違う。自ペナルティエリア内で敵の反則と勘違いしボールを手で扱ったり、もっと点差を広げなければならないのに自らの得点を喜ぶパフォーマンスを重視するような選手はいないはずだ。油断してはいけないが、常識的には上記の攻撃連係を積み上げる事で、準々決勝進出は十分可能なはず。スペインに勝利した事で、ブラジルと準々決勝で戦う事も回避できる可能性も高い。各選手には、誇りをもって、より高みを目指す努力を積み重ねてくれる事だろう。
posted by 武藤文雄 at 19:02| Comment(11) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月26日

ロンドン五輪を前に

2週間ほどブラジルを含めた異国に滞在していたため、男女とも五輪代表の準備試合の映像を見ることはできていない。と言う事で、過去の経験からの、大会展望と言うか願望を述べて行きたい。

 まず女子。言うまでもなく目標は金メダル。ただし、勝負は水ものだし、サッカーと言う理不尽な競技には常に運不運がつきまとう。「金」に至れるか否かは「神」の領域だろう。私は今回の宮間たちの冒険の成功の正否は(ドイツ不在と言う幸運を含めて)「決勝進出できるか否か」にあると見ている。けれども、今の宮間たちに対して、そのような常識的なものの見方そのものが、失礼と言うものだ。宮間たちは「金」しか考えていないだろう。そうである以上は、我々サポータも「金」のみを考えて応援するのが、ロンドンの正しい愉しみ方と言うものだろう。そして、「金」を狙うと言う視点で考えると、私はポイントが2つあると思っている。

 今回のメンバ編成を見ると、全員が、昨年のワールドカップ経験者。佐々木氏は「新しい武器」よりも「安定と成熟」を選択したようだ。
 一般的に、この手の短期集中型の大会は、前の大会にはいなかったタレントの登場が勝負を分ける事が多い。前回のワールドカップで、鮫島と熊谷は純然たる新戦力だったし、川澄と(このチームからは、長期離脱していた)丸山が、準々決勝以降に機能したのは記憶に新しい。
 ただし、今回の五輪は、昨年のワールドカップから僅か1年後の大会だし、新戦力開拓に十分な時間がなかった。いわゆる「なでしこフィーバー」が、その貴重な時間を奪ったと言う見方もあろうが、あれは「勝利が故についてくる事態」、世界一がゆえのの一種のハンディキャップと考えるのが健全だろう。
 ただし、化けた感のある大儀見、負傷癒えた岩渕(が、この1年の様々な経験を活かし、大幅に成長してくれていれば)の2人は、間違いなく「新しい武器」となるだろう。特に大儀見の成長は、結果的に色々な難しい仕事を的確にこなせる安藤をベンチにおけると言うメリットもあるし。
 一方、後方のタレントは完全に現状維持。ただ、近賀、熊谷、岩清水、鮫島、阪口、澤に割り込む選手が、そうは出てこないのも理解できる。このベストの6人が万全の体調で大会を終えられればよいのだが。個人的には田中あたりが、ここいらに割って入って欲しかった思いはあるのだが。
 佐々木氏の「安定と成熟」の選択が吉とでる事を祈りたい。

 2つ目のカギは、やはり澤穂希だろう。
 一時期体調を崩していたが、やはり疲労が要因だったのだと思う。そして問題は、33歳と言う年齢だ。疲労で体調を崩したのも、年齢とは無関係とは言えないだろう。彼女の武器は、最高レベルの知性であり、格段の技巧であり、研ぎ澄まされた得点力であり、抜群の精神力である。そして、それらはいずれも年齢的に極端に衰えてくるものではない。また、積み重ねてきた鍛練によるフィジカルは、日々の努力により相変わらず強靭なものだろう。しかし、33歳と言う年齢も、また確かなのだ。
 昨年、名実ともに世界一になる以前から、スタアがゆえのオーラが全身から発せられている彼女。ワールドカップの準々決勝以降を思い起こしても、ドイツ戦の絶妙なラストパス、スウェーデン戦の敵先制点となるミスパス、そしてあの決勝延長の舞い。たまに見せる極端なマイナスを含め、いずれもスタアならではのプレイ。そして我々が再び世界一を獲得しようとするならば、澤の昨年同様の活躍は必須なのだ。

 直前の準備試合での敗戦を気にする必要は一切ない。過去、このチームは、あのようなフィジカルやスピードをかいくぐって、勝利した実績をいくらでも持っている。しっかりと体調を整えてくれば、彼女達のパスワークを防げる敵はいない。
 願わくば、サッカーの女神がほんのちょっと、ほんのちょっとでよい、我々に味方してくれれば。後は彼女達は自らの戦闘能力で、最高の色のメダルを獲得してくれるだろう。

 さて男子。ここにきてオーバエージの麻也と徳永が加入。メキシコに競り勝つなど、何とか間に合いそうな雰囲気が出てきたようだ。

 過去を振り返ってみよう。まず、気をつけなければならない事だが、シドニーのトルシェ氏、アテネの山本氏は、北京の反町氏、今回の関塚氏と比較すると、「無限の差」と言いたくなるくらいに、提供された準備期間が多かった(アトランタの西野氏は、日本サッカー界そのものが「世界で戦う経験に乏しかった事」、選手を増長させるバカマスコミを防ぐノウハウをがなかったなど、今日と比較してあまりに「時代」が異なるので比較以前と考えた方がよいやに思う)。
 確かにトルシェ氏はすばらしいチームを作り、ほんの僅かな不運とミス(主審のミスジャッジによるPK、守備の控えにユーティリティ性がない宮本を選考していた事など)がなければ、メダルを獲得していた可能性も高かった。しかし、もしトルシェ氏に、関塚氏に提供した準備期間と拘束条件で、その仕事を依頼していたら、どんな事態になっていたかは容易に想像できる(笑)訳で、これはやはり比較障害と言うものだろう。
 ただし、潤沢な準備期間を与えられながら、そのほとんどを「テストごっこ」に浪費し、大会に入ってからも、ベストメンバさえ決められなかった山本氏のアテネのチームよりは、現状のチームは格段にまともと言う事には言えるだろう。

 そう考えると、やはり適切な比較は反町氏率いた北京大会と言うになる。正直言って、いずれのチームも予選段階はひどかった。いずれも選手間の適切な連携は少なく、選手の個人能力の高さでアジアを勝ち抜いたもの。ただし、敵へのリスペクト欠如、常識的修正のなさ、と言う視点からは、関塚氏は、よりダメだったのは間違いないけれど。
 しかし、今回のチームは、北京と比較して格段のストロングポイントを持つ。そうオーバエージだ。Jリーグを代表する仕事師の徳永、腕章を巻きこの大会以降世界を席巻する吉田麻也。この2人の存在は、間違いなく、このチームを支える存在だ。
 そもそも、北京大会、色々問題は合ったが反町氏は最後の最後で帳尻を合わせつつあった。準備試合のアルゼンチン戦で、そこそこのレベルまでチームを引き上げていたのだし。しかし、初戦の同格の合衆国戦、森重や長友が信じ難い経験不足を露呈し敗戦。戦闘能力的に劣勢のナイジェリアに対し、前掛りで戦う必要が生まれ、最終的にチームは崩壊した。大事なところで、チームに柱となるオーバエージ選手がいてくれれば、十分に上位進出の可能性もあったのだ。つまり、北京での敗因は、誰一人オーバエージを連れて行かなかった事、つまり日本協会が真剣に北京で勝とうとしなかった事にあった。けれども、今大会は違う。日本協会は苦労に苦労を重ね、上々のオーバエージ選手2枚の補強に成功したのだ。そして、この2人は過去積み上げて来た存分な経験で、チームを支えてくれるに違いない。

 もちろん、不安も大きい。特に心配なのは、Jリーグで格段の実績を持ち戦える精神力を持った選手の多くを外している事。その分、外見的な潜在力は高いが、Jでの(あるいは所属クラブでの大人になってからの)実績は少なく、過去の準備試合でもほとんど戦い切る事のできなかった選手が、結構選ばれている。もちろん、そう言う事を今さら語っても詮無き事。一人一人がこのロンドンで大化けしてくれる事を期待するのが、今となっては健全だろう。
 4年前の北京のチームは、試合内容も結果も残念だった。しかし、言い古された事だが、当時のメンバの多くは、完全に大化けして、4年経った今では世界のトップレベルに飛び出す選手に成長してくれた。そして、今回のチームは、北京と比べて、オーバエージのプラス部分があるのだ。選手全員が誇りを持ち、タフに粘り強く敵の喉元に食らいつき、戦い切ってくれる事を期待したい。そして、メンバの多くが、2年後のブラジルで主力として戦ってくれる事を。
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2012年06月19日

五輪代表オーバエージ問題

わかるけど せつめいしてよ ひろみさん
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2012年05月04日

五輪代表男子展望2012

 五輪本大会の組み合わせが発表された。女子の組み合わせが、男子以上にマスコミに騒がれるのだから、結構な時代になったものだ。
 たしかに、女子は現在世界一だし、今年に入ってからの強化試合は、結果も内容も順調。金メダルの可能性も十分ある状況ゆえ、一般マスコミの注目も高いのは当然だろう。それはそれで、近々講釈を垂れたいとは思っている。
 ともあれ、今日は男子の展望と言うか、愚痴と言うか、期待と言うかについて、講釈を垂れたいと思う。

1.五輪への考え方

 そもそも日本は五輪にどう臨むべきなのか。2つの考え方がある。

 1つは「しょせん若年層の大会、ワールドカップ(予選)、アジアカップ(予選)と、それらの準備で日程は手いっぱい、予選だけは確実に勝ち、本大会は成り行きで戦えばよいだろう。」と言う考えだ。少なくとも、4年前の北京、日本協会は(さすがに、そうは明言しなかったが)そのような選択をした。そして、多くの国がオーバエージを使う中、日本はアンダー23だけで戦い、相応に健闘したが全敗した。反町監督は遠藤、大久保をオーバエージとして選考しようとしたが、遠藤は病気、大久保は所属クラブが派遣拒否。日本協会はそれ以上のアクションはしなかった(ようにしか、我々には見えなかった)。大変、腹が立ち、不愉快ではあった。
 それでも、選手達には貴重な経験になった。長友、内田、本田、香川、岡崎、さらに細貝、李、今日のA代表の中核がズラリと並ぶ当時の五輪メンバを見ると、北京五輪はいちがいに失敗とは言えないようにも、思えてきたりもするのだが。

 もう1つは、4年前惨敗直後に、エルゴラッソ川端編集長が述べた考え方だ。再度引用しよう。
僕たちはサッカーが好きで好きでどうしようもないがゆえに忘れてしまいがちだが、多くの日本人にとってサッカーはそこまで重要ではないし、スポーツの中に限っても一番の存在ではない。そんな日本にとって、五輪は勝負すべき大会ではなかったか。ここでの勝利は決して刹那の栄光でなく、「日本サッカーの未来」にも確実に寄与するものではなかっただろうか。
 言い換えれば、全てを尽くし、最高の成績を目指そうと言う考え方だ。日程の破綻や選手の疲弊を避けられると言う条件が成立すれば、、こちらが正論なのは言うまでもないだろう。あくまでも当該条件が成立すれば、の話だが。
 もっとも、南アフリカでの好成績により、日本国内におけるサッカーの存在感は格段に高まった。したがって、「当時の川端氏ほど悲観的に考える必要はない」と言う考え方もあるかもしれないが。

 いったい日本協会は五輪にどのように臨もうとしているのだろうか。 関塚氏が「メダルを狙う」と宣言したとか、協会首脳が「オーバエージを使う」と語ったとか、各種報道が渦巻いているのだが。
 私の意見は後で述べる。

2.現状の五輪代表

 今回の五輪代表の情けなさについては、過去幾度も述べて来た。
 特に残念だったのは、国立シリア戦で、縦に急ぎ過ぎる知性に欠ける試合で苦戦をしたにもかかわらず、修正を何もせずに敵地(厳密には中立地だったが)シリア戦に臨んだ事。再び縦ばかり狙い、知性のかけらも感じさせず、シリアに対するリスペクトを欠いた無様な試合で、終盤突き放されて苦杯を喫した。このシリアとの2試合より前の試合の内容も、確かによくなかった。しかし、しつこく繰り返すが、この2試合は、チーム全軍が知性に欠けたやり方で敵のよさを引き出したと言う、日本サッカー史でも「黒歴史」とも言いたくなる、ひどいものだった。
 さすがに、続く敵地マレーシア戦、国立バーレーン戦では、修正がされ、中盤で落ち着いてボールを回すようになった。残念ながら、それまでの連携積み上げが事実上なかったため、この2試合はゆっくりとボールを回し、後は各選手の個人能力頼り、と言う試合となった。いざ、攻撃に入っても、誰がどこに飛び出すとか、スペースを空けて後方の選手が長駆走り込むとか言った連動的な約束事が全くないのだ。それでも、大迫、扇原、酒井宏樹、原口、齋藤、大津、清武と言った各選手が、圧倒的な個人能力を見せてくれて、無事予選突破できた。
 つまり、現状では、この五輪代表は、まだ全く形にすらなっていない。そして言うまでもなく、アジア予選は「個人能力」で勝ち切れようが、本大会はそう簡単ではなく、「組織力」が必要になるだろう。そう、今後の積み上げが重要なのだ。関塚氏にその積み上げが可能かどうかは別にして。

 また、関塚氏はJで安定して活躍しているタレントの一部を選考せずに、かなり大胆な選手選考を行って来た。しかも、負傷や海外流出がない限り、新たなメンバはあまり選考しないと言う方針を継続しながら。ある程度メンバを固定する考えは、それはそれで妥当と言うものだろう(後から後から新しい選手を呼び続け、結局まとめ切れず情けないサッカーを見せた、8年前のアテネのチームを反面教師にしている可能性もあろう)。
 もっとも、関塚氏が期待した中核メンバが、順調に成長してくれればよかったのだが、残念ながら一部の選手はそうならなかった。五輪代表では常時使われながら、今なおJでも定位置獲得どころか、ベンチ入りさえままならない選手すらいるのだ。一方で、関塚氏が重要視して来なかったが、ここに来て欧州のクラブで定位置を確保したり、Jの上位チームで中心選手として機能している選手も出てきている。
 ただし、このように選手の成長の見極めが難しいのが、若年層代表強化の厄介なところ。私は上記した縦急ぎ過ぎや、反省欠如や、シリアへのリスペクト不足については、関塚氏を厳しく糾弾したい。けれども、選手の成長見誤りについては、責めるのは気の毒だと思っている。若年層とは言え、代表チームなのだ。選手個々の能力を伸ばすのは、あくまでも単独チームであるべき。代表チームは、個別の連携を磨いたり、タフな国際試合での経験を積ませる事しかできないものだ。まして、若いタレントの将来性を判断するのは、とても難しい事だ。繰り返すが、見誤りについては、仕方がないと思う。ただし、明らかに成長していない選手に拘泥してきたのはいかがかとは思うが。

 したがって、確実にメンバ入りしそうな選手を予想するのが、非常に難しくなっている。現実的に、権田、酒井宏樹、鈴木大輔、扇原、清武、大迫あたりまでは、確実に選ばれるような気がするが、他の選手は皆微妙な気がしてくるのだ。
 さらに、オーバエージ選考を考えると、ますます選考メンバが予想できなくなってくる。オーバエージ起用そのものは、冒頭に述べたように「五輪にどう臨むのか」で判断される事だろう。けれども、ロンドンで相応の好成績を残そうと言うならば、しかるべきオーバエージ選手を使う方が、勝つ確率が高まるのは自明の事だ。例えば、今回のチームはセンタバックに人材を欠く感があるので、まずはそこにオーバエージタレントを起用するのは、現実的な判断と言うものだろう。ついでに言えば、この世代は、センタバックを除く他のポジションは(関塚氏が不選考の選手を含め)、いずこにも相当なタレントがいる。したがって、どこをオーバエージで補強するかも、かなり議論が分かれよう。
 しかも、香川がいる。言うまでもなく、香川はロンドン五輪世代。この世界屈指の攻撃創造主は、オーバエージではなく選考可能となる(ワールドカップ予選との二股が現実的かどうかはさておき)。そして、香川が選考対象になった瞬間、このチームの攻撃的MFは超激戦区となる。私が上記の「確実なメンバ予想」に、原口、齋藤、東、大津と言った、予選終盤関塚氏が重宝した選手を入れてないのも、このためだ。香川が加われば、清武以外の選手の地位は安泰ではなくなる。もちろん、ここには、大前、水沼、高木俊のようなJで堂々と活躍しているタレントも豊富だし、宇佐美、宮市、高木善ら海外で活躍する選手も多い。
 いや、他のポジションも結構ややこしい。ボランチに関して言えば、関塚氏は扇原、山口、山村、山本康裕らを固定して使ってきたが、ここにはJで最も実績があると言っても過言ではない青木、負傷から復調しつつある米本、さらには今期好調のエスパルスを支える村松などのタレントが百花繚乱。ここも、確実に選ばれそうなのは扇原くらいに思える。
 まあ、人材豊富なのだから、文句を言ってはいけない。結構な事だと前向きに捉えよう。

3.五輪代表指揮は、どのような人が適切なのか

 関塚氏に散々文句を言い続けている訳だが、では五輪代表の監督は、どのような人材が適切なのだろうか。

 シドニーではフィリップが見事なサッカーを見せてくれた。そして、あの成功の幻影を追う人が多いのは理解できる。しかし、あれは12年前の事。J1のチーム数は少なかったし、地元ワールドカップを控え代表強化最優先で、フィリップに必要な強化時間を潤沢に提供できた時代の事なのだ。あれだけ、たっぷりと強化期間を提供しながらも、フィリップは「時間がない、日本協会は俺のために最善の努力を尽くしてない」と散々文句を語っていたが、あれはあれで愉しかったな。もちろん、本大会ベスト8を合格点とすべきかと言う意見もあるだろうが、アトランタ以降で2次トーナメントまで勝ち残ったのはシドニーだけなのだし、私はあの成績を評価している。また、メンバ選考の疑問(控えとして、宮本、西と多様性の低い選手を選考した事、オーバエージの服部が負傷離脱した代わりにポジションは近いがタイプが全く異なる三浦淳を起用した事など)もあったけれど、このあたりのヘマもいかにもフィリップらしかった。
 アテネでは山本氏の自滅が懐かしい。フィリップに対して提供した時間よりは短かっただろうが、日本協会は山本氏に、多くの強化合宿と、有料国際試合を提供した。しかし、山本氏は、それらのことごとくを「テストごっこ」と「勝負への未執着」で浪費した。「代表チームと言うものが、強化期間を提供されればされるほど、弱くなる」ケースがある事を、日本サッカー界が学ぶよい機会ともなった。このフィリップの成功と、山本氏の失敗は、「監督の手腕の差」をわかりやすく説明する格好の教材とも言えたな。
 北京。監督を務めた反町氏は、山本氏のような協会御用達コーチとは異なり、プロフェッショナルとして経歴を積み上げ来た指導者だった。地方の小クラブアルビレックスをJ1に昇格、定着させた実績はすばらしい。そのため、就任時の期待は大きかった。ところが、選手個々の特長を活かす事より、強引に自分好みの配置に選手を並べる事を重視。貴重な強化試合である敵地韓国戦を2軍相当のメンバで戦ったり、Jで相当実績のある選手を控えとして大学生の起用に拘泥するなど、不適切な強化が目立った。結果、たったの1試合も「お見事!」と言う試合を見せずに、北京でも全敗してしまった(オーバエージ不選考については上記参照)。ただし、これも上記したように(結果論ににも思えるが)最終的に北京で戦った選手の多くが大化けしているのだけは間違いないので、五輪代表としての反町氏の評価は難しいのだが。
 そして、今回のロンドン。関塚氏は実績は反町氏をさらに上回る。フロンターレでACLベスト8に残ったのを筆頭に、幾度もJでも上位に食い込んだ名将だ。しかし、その期待に反して、上記のように、およそ知性に欠けた、情けない試合を継続している。過去の鮮やかな実績と、シリアとの2試合で見せられた間抜けな采配振りの落差は、あまりにも大きい。もっとも、関塚氏自身の出身がJSLの本田技研で、学生時代から関塚氏が師事していたのが、故宮本征勝氏だった事は、あの縦に急ぐサッカーと、とても関連あるようにも思えてくるが。憲剛との邂逅がただの幸運、と言う説を述べる方も案外と多い事と合わせ、まあ、戯れ言として。

 重要な事は、我々は反町氏、関塚氏を超えるカードは、ほとんど持っていないと言う事だ。小林伸二氏の輝かしい実績は、「予算の少ないチームを光らせ続けて来た事」にあり、五輪代表のように「豊富なタレントの取捨選択」とは異なる(でも、私自身は小林氏が率いる、日の丸のチームを1度観てみたいとは思うけれど)。もちろん、アトランタで久々に五輪出場を成し遂げ、本大会でブラジルを破った西野氏ならば、と言う声はあるだろう、「五輪で今度こそ」と言う復讐戦的な意味を含めても、興味深い。もちろん、中国で奮戦中の岡田武史に任せれば、帳尻を合わせてくれる事は間違いないだろう。
 外国人監督の招聘も一手段だが、強化時間がほとんど取れない中で、果たして成果が挙げられるものなのか。と言って、A代表と五輪代表の日程が錯綜する現状では、ザッケローニ氏に(かつてのフィリップのように)両方を見てもらう事も現実的ではない。また、外国人監督が皆優秀とは限らない事は、ジーコが体現してくれたではないか。
 けれども、「岡田氏、西野氏、小林氏でなければ」と語る時点で、日本サッカー界は優秀な監督をほとんど輩出できていない事になってしまう。たとえば、隣国の韓国は各種の代表チームで自国の監督で日本よりましな成績を挙げる事もある。また尹晶煥と言う気鋭の若手監督も出てきている。韓国と比べて、我が国はよい監督が育ちづらい土壌でもあると言うのだろうか。悩ましい問題だ。え?!、てぐ(以下、自粛)。

 そうこう考えると、私はあのシリア戦を見て「関塚氏更迭」を唱えたものだし、不安は無数にあるけれど、もう任せるしかないと思う。予選を突破した以上、今さら西野氏でもあるまい(西野氏自身が、こんなリスクの高いシゴトを引き受けてトクかどうかと言う問題もある)。そして、関塚氏がシリア戦的なやり方を繰り返したら、それまでの事だ。(たとえ中村憲剛と関塚氏の邂逅がまったくの偶然だとしても)、複数年Jで相当な実績を残した関塚氏なのだ。もし、シリアとの2試合のような明らかな失敗があったとしたら、我々のサッカー力がまだまだ低いと言う事なのだろう。

4.では、どうしたらよいのか

 ところが、困った事に、準備の時間はほとんどない。
 貴重な強化の機会と見られているトゥーロン国際大会は、Jリーグとバッティングしており、直後にワールドカップ予選も始まる。トゥーロンにオーバエージの選手、A代表選手を連れて行くのは、相当難しそうだ。だいたい、既に五輪代表の中核選手は、当然ながらJ各クラブでも中核に近い選手達。五輪世代選手の召集でさえ、一悶着ありそうだ。もちろん、五輪本大会もJとバッティングしている。もし、国内でプレイしているオーバエージ選手を連れて行くとなると、当該クラブには相当な迷惑をかける事になる。
 言うまでもなく、海外クラブ所属選手の召集も、ややこしい事になるだろう。一部報道で、FIFAが五輪出場にも、アジアカップなどの大陸大会と同様の強制権を提供するとの話もあるが、実際の運用はどうなる事か。
 そうこう考えると、唯一まともな強化期間は、ワールドカップ予選でJが休みとなる5月末から6月上旬までの期間となるが、A代表選手が参加できないのは言うまでもない。困ったものだ。

 では、どうしたらよいのか。以下、私案である。

 私はリアリズムを徹底して「できる範囲で最善を尽くす」が正解だと思っている。ここで「できる範囲」と書いたのは、ワールドカップ予選への影響と、Jリーグの被害を最小限に止める事を優先せざるを得ないからだ。具体的には、上記述べた五輪本大会、従来の慣例で1クラブからの選抜は3名との不文律があるが、オーバエージ選手を供出したクラブは最大2名とするのが適切ではないか。
 そして、日本協会(具体的には原博実強化担当技術委員長)が、五輪に向けた方針とその背景を、丁寧に外部に対し説明するのが重要である。「我々にとって五輪はとても大事な大会だが、一方でワールドカップはそれ以上に重要、そしてJの安定的開催も五輪と同等に重要である。そして、ブラジルでの上位進出のためにも、ロンドン五輪は『できる範囲で最善を尽くし』メダルを狙いに行く」と。とにかく、こう言う時は、もっともらしい正式声明を出すのが肝要なのだから。

 そして、オーバエージには精神的な大黒柱1人、A代表の準レギュラクラス2人を選ぶ。
 精神的な大黒柱とは、過去圧倒的な実績を挙げている選手、具体的には楢崎、闘莉王、長友、明神、遠藤、憲剛、岡崎、本田と言ったあたりだ。当然、この大黒柱が腕章を巻き、チームの全権も把握する。長友、岡崎、本田を選ぶ場合は、将来のA代表での幹部候補と言う意味もある。そして、ザッケローニ氏がやせ我慢を継続し、闘莉王をA代表に選ばないならば、闘莉王が五輪に回るのが一番現実的だろう。それならば闘莉王を、ワールドカップ予選中に行われるであろう強化合宿に参加させる事も可能になる。闘莉王ならば、名誉(と莫大な成功報酬)のために、きっと積極的に戦ってくれるだろう。
 一方準レギュラクラスは、今期のJで好調な選手、森重、高橋秀人、伊野波、豊田、柏木、山田大記あたり、角田、関口、赤嶺も、検討されていいよね。現実的に、今回のアンダー23はセンタバックに人材を欠く感があるので、闘莉王、伊野波、高橋(あるいは森重、角田)と、後方の選手を3人揃えるのがよいようにも思える。
 また上記私が提示した方針とは矛盾するが、闘莉王と吉田麻也をセンタバックに並べる手段もあるかもしれない。これはこれで、強力な布陣となるし、ブラジルへの強化布石にもつながる。

 上記したように、FIFAが五輪出場の優先権を提供するとすれば、海外クラブ在籍選手の召集は随分と現実的になる。その場合の問題は、オフをどう取らせるかと言う事になる。原氏を中心に日本協会は、各選手の所属クラブと細かく連絡を取り合っていると言うが、どうなるだろうか。
 香川は別格の存在であり、何としてでも召集したい。香川をメンバに加えられれば、日本協会の本気度も明確になる。次に、ドイツで完全に定位置を確保している酒井高徳(こちらもA代表から声かかる可能性があろうが)も左サイドバックとして、是非メンバに加えたい。その他の、指宿、宮市、高木善、大津、そして宇佐美は、国内の他のタレントとの競争と言う事になろう。このあたりは、同世代にライバルも多いのだ。

5.全てはこれから

 過去と比較しても、今の日本のアンダー23世代の選手の個人能力は(ややセンタバックに人材を欠く感があるものの)かなり高い。そして、何より香川がいるのだ。さらに、弱点のセンタバックはオーバエージでカバー可能だ。
 私は、工夫次第では十二分にメダル以上を狙えるとは思っている。金メダルとなると、相当難しかろうが、これも幾多の幸運があれば不可能ではないかもしれない。戦闘能力で日本を明らかに上回りそうなのは、ブラジルとスペインくらいだろう。全英代表がどういう精神状態で臨んでくるかが、大会の趨勢を左右しそうだが、多くのケースでこのような政治問題を抱えたチームはうまく行かないものだ(もちろん、全英代表がよいチームであれば、これはサッカーの将来を変え得る新しい息吹となろうが)。そして、ウルグアイ、メキシコ、スイスあたりは相当強いだろうが、過去の世界大会を思い起こせば、十分に抵抗できる程度の差しかないはずだ。北京大会でも、オランダは大して強くはなかったではないか。そして、スペインと同グループと言う事は、決勝までスペインとは戦わなくてよいと言う事だ。
 もちろん、少なくとも現状のチームのままでは、最終ラインは弱々しいし、攻撃の共通理解も、まだまだの状態だ。相応の積み上げがなければ、1次リーグ敗退の可能性も多いだろう。そして、残念な事に、準備期間は限られている。これらもまた事実だ。

 全てはこれからなのだ。そして、メンバ編成はさておき、「できる範囲で最善を尽くす」事と、「方針と背景の説明」が、何よりも肝要だ。少なくとも、北京ではその説明が曖昧で、何かフワフワした雰囲気で大会に臨んでしまったのだから。
 限られた時間でも、やれる事はたくさんあり、それらをやれば、十分によい結果も可能だろう。
 改めて、原博実氏に期待するものである。
posted by 武藤文雄 at 23:21| Comment(8) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする