2021年08月17日

東京五輪メダル獲得失敗

 準決勝敗戦。この試合後の喪失感は、中々経験したことのないものだった。115分アセンシオに決められ、その後の攻撃をスペインにいなされ敗退が決まった瞬間。「また勝てなかったか、今回こそはと思ったのに」と言う強烈な悔しさ。加えて、吉田麻也と仲間たちには「本当によく戦ってくれた」との感謝の念も大きかった。
 ただし、その悔しさは、2010年南アフリカでのパラグアイ戦、2018年ロシアでのベルギー戦直後と比較すると、何か決定的に違った。この2つのワールドカップでは、その時の日本の戦闘能力手一杯まで戦い、刀折れ矢尽きた感があった。しかし、今回は采配を工夫すれば、もっとよい試合ができたのではないか、よい結果が望めたのではないかと思えたのだ。
 強いて言えば、一番近い感覚は93年ドーハかもしれない。もちろんあの時失ったあの時失ったものをもっと大きかったけれども。一方であれからたった28年でここまで来られたってのは大したことのようにも思えてくる。
 そう言ったことが頭の中をグルグル回り、何とも言えない失望、落胆を抱えながら2日を過ごし、メキシコとの3位決定戦。結果も内容も寂しい試合だったが、改めて選手達の凄まじいほどの疲労蓄積を実感し、感謝の思いを強くした。
 今回のチームが上々の成績を収めることができた要因、一方でメダルをとれなかった要因それぞれは、以下のようにかなり単純に整理することができると思う。本稿では、それらを整理しながら、東京五輪を振り返ることとする。
1. うまくいったこと
(1) オーバエージの選手選考が適切だった。
(2) U24によい選手がたくさんいた(1年の延期が日本に幸いした)。
(3) フィジカルで負けることがほとんどなかった。
2. うまくいかなかったこと
(1) スペインと比較して選手の個人能力差があった。
(2) 中盤後方の遠藤航と田中碧の控えを選んでいなかった。
(3) 攻撃が堂安と久保の個人技頼りであまりに強引だった。


1. うまくいったこと
(1) オーバエージ選考が適切だった
 オーバエージ選考の成功は、今さら言うまでもないだろう。吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航、3人の経験豊富な選手達のリーダシップと経験は見事なものだった。まず、この適切な選考については、森保氏を高く評価するものである。またこの3人を軸に堅牢な粘り強い守備網を築いたことも、森保氏の成果なのは言うまでもない。
 今回は地元開催と言うことで、厳選されたA代表の中核で経験豊富な3人を選考した。今後もこの考え方を継続すべきではないか。アジアのサッカー界は、アジアカップがワールドカップ直後に行われると言う不可解なレギュレーションが続いている。これが是正されない限り、ワールドカップの隔年に行われる五輪は、ワールドカップの準備と言う意味で日本にとって貴重なタイトルマッチだ。特殊な若年層大会であるがため、若手が経験を積むと言う意味でも。
 ただ、頭が痛いのは、そのようなA代表の中心選手は欧州でプレイしているから、シーズンオフの休養時間を奪ってしまうこと。今回の3人にしても、今後日本でプレイする酒井宏樹はさておき、吉田麻也と遠藤航が年間を通して適切な休養をとることができるだろうか。そして事態は楽観できない。欧州のシーズンは始まろうとしているし、9月上旬からはワールドカップ予選が始まり、2人は欧州とアジアを往復する過酷なシーズンを迎えようとしている。
 今回の成功を再現できるかどうか、日本協会強化部門の手腕が問われるところだが。
 
(2) U24によい選手がたくさんいた(1年の延期が日本に幸いした)
 冨安や堂安を筆頭に、今回のU24に人材が揃っていたのは間違いない。ただし、COVID-19による1年の延期が、日本にとって不幸中の幸いとなったのは、大会前に講釈を垂れた通り。この1年で、五輪世代の多くの選手がJでも欧州でも活躍した。フロンターレの田中碧、三笘薫、旗手怜央の3人は、高い技巧で自クラブのJ制覇に貢献、また上田綺世、瀬古歩夢、林大地、前田大然、橋岡大輝らの成長も耳目を集めた。同様に欧州でも板倉滉、中山雄太が活躍し経験を積んでいる。
 ちなみに「1年の延期は他国にとっても同じ条件ではないか」と考える向きもあるかもしれない。しかし、私が見るところ日本のサッカー界は10代半ばから20歳前後の選手の成長に、構造的な課題がある。ユースレベルのチーム(Jユースでも強豪高校でも)、J1のトップレベルと実力差が相当ある。そのため、ユース代表クラスのタレントが、J1のトップクラブに加入しても、思うような試合経験を積むことができず、すぐに大人の選手として伸びてこないケースが多いのだ。
 これは、Jユースの他に本格強化を行っている高校が多く選手が分散すること、ユースレベルチーム間での移籍が難しいことがなど錯綜する要因がある。せめて、優秀な素材はユース段階(高校時代)から、J2なりJ3で経験を積むことができれば事態は改善すると思うのだが、ユース世代の移籍、プロ契約、高校通学、栄養確保した生活など、多くの微妙な問題があり、実現は非常に厄介なのだ。
 また、三笘、旗手、上田は大学経由。大学がユース段階で伸び切れなかった選手や晩熟系の素材の多くを成長させているのは間違いない。しかし、大学サッカーの致命的欠点は高校を卒業してない選手を受け入れてくれないことだw。Jユースでも静岡学園でも青森山田でも中心選手をまだ高校生のうちに大学サッカー部が受け入れてくれれば、事態は随分改善するのだが。
 日本協会が、今回の1年延期による各選手の成長を振り返り、10代半ばから20歳前後の選手の契約制度、強化体制の改善検討を継続することを期待したい。

(3) フィジカルで負けることがほとんどなかった
 過去世界大会に置いて過去日本代表はどうしても、体格と言うかフィジカル面で劣勢になるケースが多かった。そのため、身体の当て合いを避けて素早いボール回しを狙うことも多かった。ところが、今大会はそのようなリスクはまったく感じられなかった。強さを具備していることから選考されたオーバエージの3人、元々強さも期待されて選考された板倉、冨安、中山らが、フィジカル面でなんら遜色ないどころか局面によってスペインやメキシコのタレント達を圧倒した。加えて、技巧を武器とする田中碧、比較的小柄な堂安、久保、相馬にせよ、攻守に渡り身体の当て合いでは負けていなかった。
 国際試合でフィジカルやデュエルが弱点となる時代は終わりつつあるのかもしれない。これは一重に、ユースのトップレベルの指導者たちが、科学的トレーニングを導入し教え子たちを適切に指導してくれている賜物に違いない。

 ちなみに、日本のトップレベル選手の個々のフィジカルと言うと、ハリルホジッチ氏が「デュエル、デュエル」と念仏のように唱えていたのが懐かしい。以前講釈を垂れたように、デュエルとは必ずしもフィジカルだけの話ではない。「相手に負けない」と言う執着心を含めた1対1における創意工夫、とでも言い換えればよいか。もちろん、精神力やフィジカルにとどまらず、判断力と技巧も必須となるのだが。
 なお、過去のワールドカップを振り返る限り、日本がいわゆるフィジカルの弱さでやられた場面が案外少なかったことも強調しておきたい。2006年の豪州戦や2014年のコートジボワール戦、ギリシャ戦のように明らかにコンディショニングに失敗した時は別として。2002年にしても2010年にしても、強さにやられた場面はほとんどなく、勝てなかった要因は、先方の組織的守備を当方の選手が判断力や技術で上回れず、点をとれなかったことにある。
 そんな中で、2018年のロシア大会は過去のワールドカップと比べると異色の大会となった。いわゆるフィジカル差による失点が目立ったのだ。特にセネガル戦の2失点目は、柴崎と乾が軽量を突かれ敵にデュエル負けをしたことによる。またベルギー戦では単純なロビング攻撃をはね返し切れなかった。ただし、柴崎の精度とタイミングが完璧な射程の長いロングパスや、切れ味鋭い乾のドリブルとシュートは格段で、敵ゴールネットを再三揺らしてくれた。大会直前に急遽起用された西野氏は、時間がまったくない中で、少々守備は怪しいがベルギーからも複数得点奪える攻撃的なチームを披露してくれたわけだ。
 そう考えると、あれからたったの3年で、フィジカルも遜色なく攻撃力も相応のチームを作れるようになったのだから大変嬉しいことだ(もちろん特殊な若年層大会だったことは割り引かなければならないだろうが)。だからこそ、メダル取得にすら至らなかったことが悔しくてしかたがないのですけれども。
 余談ながら、フットボールの兄弟分と言ってもよいラグビーは、2015年、2019年と少数の代表選手のフィジカルを集中強化で鍛え抜くやり方で好成績を収めている。集中強化が難しい我々とは状況が異なるが、フットボールは肉体接触が必須なのだから、フィジカルも重要なことは間違いない(もちろん、それ以上に判断力や技巧でいかに他国を上回るかが重要なのは言うまでもないが)。
 いずれにしても、今大会は我々にとってよい意味での分岐点になると期待したい。日本代表の監督が金輪際「フィジカルで負けました」的な情けない言い訳をしなくなる分岐点として。

2. うまくいかなかったこと
(1) スペインと比較して選手の個人能力差があった
 スペイン戦、ここまで均衡した試合を経験すれば、その差は過去になく具体化できる。2010年にオランダのスナイデルに、2018年にベルギーのデ・ブライネにやられた時は、あのようなスーパースターをいかに準備するかで悩むことになった。しかし、今大会は違う。先方の名手が格段だったことは確かだが、当方も少なくとも比較するタレントは確保していた。そして、悔しいかな先方の個人能力が当方のそれを上回っていたのだが。

 パウ・トーレスと冨安。冨安が、トーレスのように常にボールを持つや前線への高速高精度の展開をもっとねらってくれれば随分異なる展開になったはず。ニュージーランド戦の終盤も同様。冨安がそのような意識でプレイしてくれれば、もっと堂安や久保は効果的に働けたのではないか。また、ニュージーランド戦の軽率な反則でスペイン戦を出場停止になったのは論外。「自分がこの国で一番優秀な選手で、攻守ともに勝利への要となるのだ」と言う意識をもっと持ってもらえないものか。この大会で、最も残念だったのは冨安健洋だったことは強調しておきたい。

 ペドリと田中碧。もっとペドリのように中盤から前線に鋭いパスを繰り出せなかったものか。この2人では市場価格が違い過ぎるかもしれないがw、私はとても気になった、
 今回の五輪代表は、守備をかなり重視したやり方だったことで田中碧は相当後方からの挙動開始を余儀なくされた。それでも、田中碧は相手のプレスを回避できれば、クサビや敵のプレスを飛ばすパスを繰り出し攻撃の起点となった。さらには、堂安と久保に田中碧がもっとからみ、ゆっくりとした攻撃ができれば、好機はずっと増えたはずだ。
 準備試合の段階で、田中碧は己が全軍指揮官を務めなければならないことは自覚していはず。たとえ、森保氏の指示が守備重視でも、オーバエージの選手達が精神的にチームをリードしてくれたとしても、堂安や久保がイケイケ過ぎたとしても、もうひと踏ん張りしてほしかったのだが。

 そしてアセンシオと久保。これは言うまでもないだろう。あの思い出すも忌々しい115分、オヤルサバルの好パスを受けたアセンシオは落ち着いてターン、板倉と遠藤航のアプローチにも慌てず、インフロントキックで丁寧なシュートを打ち込んできた。今さら書くのも陳腐だが、ゴールは強引さからだけでは生まれない。
 もっとも、これは大会前からわかっていたこと。スペインリーグでも、五輪代表の準備試合でも、久保はボールをもらうや強引なドリブル突破から自ら得点することばかり狙っている。自分が詰まると、格段の個人技を活かし味方へパスするが、追い込まれた後なので精度やタイミングを欠く。セットプレイでは高精度のキックができるのだから、もう少しゆっくりプレイすれば事態は随分改善するはずだが。
 バルセロナの若年層チーム出身と言う経歴、技術の冴えから来る飛び級選抜、冷静な周囲観察から来る堂々とした発言。得点への意欲とよい意味での自己顕示欲。マスコミ的には格好の存在なのだろう。しかし、久保はまだ若い、このチームでも最年少だった。経験を積み適切な判断力が具備された時、我々は天下無敵のストライカを入手することになるのだろう。アセンシオをはるかに超えたストライカを。

(2) 中盤後方の遠藤航と田中碧の控えを選んでいなかった
 これまた、大会前に講釈を垂れた通り、中盤後方の控えの選手層の薄さが、遠藤航と田中碧の酷使につながり致命傷となってしまった。

 3位決定戦の遠藤航のパフォーマンスは忘れ難い。立ち上がりに与えたPK、FKからの2失点目、後半のCKからの3失点目、いずれも遠藤が出足で負けてしまったことによるもの。これをはっきり指摘しないのは、プロフェッショナルに対し失礼と言うものだろう。
 しかし、それでもこの試合、攻撃面では遠藤は利いていた。開始早々のミドルシュート、前半林のヒールキックを受けて抜け出しフリーになりかけた逸機。後半序盤にはこぼれ球を拾って左足でまったくフリーの堂安にピタリと合わせるクロスを上げた。
 失点場面を考えると、相手の動きへの対応にことごとく後手を踏んでいるわけで肉体的に疲労困憊だったことがわかる。一方で自分のペースで能動的に動ける時は、高い質のプレイを見せている。つまり、肉体的には相当厳しい状況にあったが、知性と技術は冴えており、そこでは見事なプレイを見せてくれたわけだ。それを支えた精神力には感服するしかない。けれども、そこまで中心選手を疲弊させてしまったことは、森保氏の責任が問われるべきだろう。

 一方で田中碧。ニュージーランド戦の後半消耗は明らかで、延長戦に入るところで板倉と交代しベンチに下がった。その後、日本は攻めあぐんでしまった。三笘と三好が両翼に開き待機するが、そこに精度あるパスが入らない。
 森保氏も反省したのだろう、スペイン戦は延長まで田中碧を引っ張った。さすがにスペインの中盤プレスの厳しさもなくなり、ようやく田中碧が前進しトップ下の三好にクサビを入れるなどパスを繰り出せる状況になり、日本が猛攻をしかける時間帯もあった。しかし、遠藤が疲れ切っており、碧のサポートをするまでエネルギーが残っていなかった。田中碧も疲労は顕著で、特に守備に回った際の対応は後手を踏んでいた。あの痛恨の失点時、オヤルサバルへの対応が僅かに遅れ、アセンシオにラストパスを通されてしまった。
 このチームの編成では、クサビや敵のプレスを飛ばすパスなど、決定機を作る一つ前の仕事の多くは田中碧の担当。したがって、田中碧の消耗をいかに防ぎ、ギリギリまで活躍してもらうのが重要だと誰もが考えていたと思う。森保氏を除いて。

 改めて今大会の22人のメンバ選考をおさらいしておく。比較的消耗の少ないセンタバックは2人の定位置枠に対し麻也、冨安、町田、瀬古の4人(加えて板倉)。対して運動量を要求され消耗の激しい守備的MFが2人枠に対し遠藤碧に加え板倉の僅か3人。状況によっては中山と旗手は中盤後方でも使えるが、この2人で左サイドバック要員。以上考えると、守備的MFの選手層が極端に薄く不安材料なのは上記講釈で文句を言った通りだ。
 そもそも6月の強化試合で最終選考メンバに残っていた中盤後方の選手は皆最終メンバ入りしている。つまり、このポジションの他の選手はこの時点で、森保氏の選考外になっていたことになる。言い換えると、(最終メンバ18人と言う前提では)森保氏は、6月の時点で中盤後方は今回の選手達で回すと既に決断していたのだ。
 18人決定と同時に発表されたバックアップの後方のフィールドプレイヤはCBの瀬古と町田、ポジションが重なる2人だった。大会直前にレギュレーションが変更となり、選手数が18人から22人に増えたところで、森保氏はバックアップのCB2人をそのままメンバ入りさせた。しかし、この時点でメンバ編成を再考し、中盤後方を厚くする手段はとれたはず。例えば、3月のアルゼンチン戦には、渡辺皓太と田中駿汰が選ばれていた。上記レギュレーション変更時に、町田か瀬古のいずれかの代わりに、渡辺か田中を選んでいれば、随分やりくりは楽になっていたと思う。
 邪推にすぎないが、冨安に契約上の何か縛りがあるなりして、出場試合数が限定されていたのかもしれない。あるいは冨安の負傷がそれなりに重かったとか(6月の準備試合でも欠場が目立っていた)。それらを含め、森保氏はCBを厚めに選考した可能性はある。
 さらに状況を難しくしたのは、冨安不在時のCBとして板倉を起用したこと。板倉はCBとして、すばらしいプレイを見せてくれたが、いよいよ結果的に中盤後方のバックアップが手薄となり、遠藤航と田中碧はフル稼働を余儀なくされた。22人へのレギュレーション変更時に、既に森保氏が、CBとして板倉の能力が瀬古と町田のそれを凌駕すると判断していたのだとしたら、なおさら代わりの中盤後方のタレントを選考しておくべきだったろう。加えて、スペイン戦では中山も旗手もスタメン。森保氏は、中盤後方の交代要員ゼロで最大の難敵と戦うイバラの道を自ら選択したのだ。
 また既に講釈を垂れたが、1次ラウンドのリードした南アフリカ戦やメキシコ戦での、森保氏のクローズのまずさも忘れ難い。結果的にほとんどの選手が休めず90分フル稼働を強いられた。またメキシコ戦の稚拙な失点によりフランス戦ターンオーバを行えなかったのも痛かった(しかし、序盤で2-0でリードした時点で、遠藤航や田中碧を休ませる選択肢はあったと思うのだが)。

 もっとも、今大会で我々は板倉という強力なCBを入手した。カタールに向けて、それで十分なのかもしれない。東京五輪の金メダルより、カタールのベスト8以上の方がずっとずっと嬉しいのだし。
 もう1つ、森保氏が町田、瀬古の2人の将来性に多大な期待を寄せており、どうしてもこの麻也たちとの冒険に同行させたかった可能性もある。森保氏にとってその方が金メダルより重要だったのかもしれない。

(3) 攻撃が堂安と久保の個人技頼りであまりに強引だった
 ニュージーランド戦やスペイン戦、私は妙な感動を覚えていた。堂安と久保の単身突破に興奮していたのだ。「日本人選手が個人能力で30m近く単身で前進しシュートまで持ち込んでいる」と。
 過去、国際試合でこのようなドリブル突破からシュートまで持ち込める日本人選手がいただろうか。強いて言えば、若い頃の釜本邦茂と福田正博くらいだろうか。後はおよそ長駆はしなかったが、シュートレンジが人間離れしていた全盛期の久保竜彦くらいか。そう言えば、ブラジルワールドカップで、本田圭佑がそうやって強引な突破をねらっては幾度も相手にボールを渡していたことを思い出したりもした。ただ、堂安と久保建英の突破は、これら日本人としては格段にフィジカル的素質に恵まれていた諸先輩とは、本質的に異なる。2人とも肉体は鍛えぬいているが、技巧とタイミングの冴えで相手DFを置き去りにした上でスクリーンしてトップスピードで前進していくのだ。足の速さではなく技巧を前面に出した前進。
 しかしね。上記したようにあまりに強引過ぎた。たまに強引な突破はいいですよ。例えば、スペイン戦の後半アディショナルタイム、堂安が強引なドリブルで突破直後な突破直後、久保がそのボールを拾いさらに抜け出しかけた瞬間、主審がファウルをとってしまい延長突入した場面。時間もなかったし、あの強引な突破の選択はありだったと思う。しかし、毎回毎回強引な突破をねらったのはいかがだったか。どうして、1次ラウンドの時のように、田中碧のクサビや飛ばすパス、あるいは遠藤航や酒井の押し上げを受けて、最後の20mのところで最大のエネルギーを発揮することを考えなかったのだろうか。
 いつもいつも前に行くよりは、落ち着いてボールキープすることで全軍が休むこともできたはずだ。またちょっと溜めることで、ずっと変化を生むこともできたはずだ。
 まあ、上記したように久保はしかたがないと思う。しかし、どうして堂安まで久保と一緒になって、強引に「前へ、前へ」と行ってしまったのだろうか。堂安はもう23歳、20歳になったばかりの久保より3歳年上、多くの経験も積んでいる。大会前の親善試合では、ずっと落ち着いたプレイを見せてくれていたのに。

 気になるのは、これらの堂安と久保の「前へ前へ」を、森保氏が放置したことだ。サポータの私は確かに興奮したけど、監督はそれを喜んでいてはいけないでしょう。しかし、森保氏がこの2人の個人技による攻撃以上のものをねらっていたようには見えなかったのだ。
 バックアップメンバから抜擢され、最前線で動き回った林。あの前線でのがんばりは岡崎慎司を思い出した。そして、技術的には岡崎より上かもしれない、もっとも岡崎ほど点が取れるようになるかはこれから、実際シュートをねらう際に肩に力が入り過ぎ、どうしても枠に飛ばなかった。長駆した後、さらに加速することができる相馬は、幾度も左サイドをえぐり好機を演出した。1次ラウンドメキシコ戦でのPK奪取は見事だった。この2人は現時点での個人能力を存分に発揮した感がある。この2人の使い方には、森保氏の意図は感じた。
 しかし、他の前線のタレントたちはいかがだったか。三好も前田も上田も三笘も、ほとんど有効に機能しなかった。前田は2列目のバックアップに使われ、あの傍若無人なスプリントを活かす場面はほとんどなかった。ニュージーランド戦延長後半、三笘と三好が両翼に立ったが2人が機能する有効なパスはほとんど来なかった。2次ラウンドに入り、上田はほとんどの時間前線で孤立していた。上田が幾度か機能しかけたのが3位決定戦、ようやく自分の間合いでボールを持つことができた三笘が機能した時間帯、しかしその連係が生まれた時既にスコアは0対3となっていた。Jであれだけ猛威を奮っている三笘も上田も、森保氏は機能させることができなかった。
 いや前線のタレントの活用だけではない。両翼でボールを受けた後、複数の選手の連係での崩しもあまり見受けられなかった。酒井と相馬の縦、堂安と久保の横、いずれも個人能力頼りの突破ねらい。組織的なオーバラップもインナーラップも見受けられなかった。 
 森保氏は攻撃については、堂安と久保の格段の個人技で何とかすると言うところまでしか、やろうとしなかった。「やれなかった」ならばしかたがないが、そうではない。「やろうとしなかった」のだ。

3. まとめに代えて
 楽しかった東京五輪が終わり、Jが再開した(もっとも、ACL出場チームの試合は五輪中にも行われていたが)。欧州でも新しいシーズンが始まろうとしてる。さらには来月からワールドカップ最終予選も始まる。

 本稿では、散々森保氏への嫌味を述べてきた。
 ただ、最終予選を前に、改めて今のA代表を見直してみると、陳腐な言い方になるが、最終予選前のチームは史上最強感が濃厚に漂っている。南アフリカ大会のチームは前線のタレントが薄かった。ブラジル大会のチームは後方の人材が不足していた。そしてロシア大会のチームは若返りが遅れていた。今回のチームは、ややGKと左DFに手薄感があるものの、いずれのポジションにも人材が揃っている。欧州で実績を上げている選手が過去になく多いのは言うまでもない。
 そして、このA代表の充実振りに、東京五輪代表が大きく寄与したのは言うまでもない。そう、そうやって整理すると、森保氏の成果を認めないわけにもいかないのだ。
 と言うことで、予選展望と森保氏への評価、意見は別に述べる。

 落ち着いて振り返ってみると、この世代の2巨頭の堂安と冨安が能力通りに機能してくれなかった大会とも言えるのかもしれない。ただ、しつこいが繰り返したい。采配を工夫すれば、もっとよい試合ができたのではないか。何とも悔しいのだ。
posted by 武藤文雄 at 00:26| Comment(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月31日

いかに2次ラウンド3連勝を目指すか

 戦闘能力を順調に発揮し、3連勝で1次ラウンドを終えた日本。準々決勝はニュージーランドと戦う事になった。ベスト8はアジアから2か国(日本、韓国)、オセアニア1か国(ニュージーランド)、欧州1か国(スペイン)、アフリカ2か国(エジプト、コートジボワール)、北中米1か国(メキシコ)、南米1か国(ブラジル)と、全大陸の国が残ることとなった。
 各大陸の強国がまんべんなく残ったのは、五輪が若年層大会であること、欧州南米の2強が地域選手権の直後でそちらが本命だったこと、東アジア独特の高温多湿の気候に一部強国がやられたことなど、様々な要因があろうが、グローバルなタイトルマッチ感たっぷり。何とも楽しいではないか。
 そして、ここまでアフリカ(南ア)、北中米(メキシコ)、欧州(フランス)はやっつけた。あとはニュージーランド(オセアニア)とブラジル(南米)をやっつけて全地域を制するのみ。

 ニュージーランドは開幕戦となる韓国戦に1-0で勝利(番狂わせ的な印象が強い勝利だった)。その後ホンジュラスには2-3で競り負けたが、最終戦のルーマニアには0-0で引き分け、しぶとく2次ラウンド進出を決めてきた。
 もちろん、油断は禁物だ。ニュージーランドと言えば、2010年南アフリカワールドカップが記憶に新しい。プレイオフでバーレーン(ミラン・マチャラ氏が率いており日本も結構苦戦した)に競り勝ち本大会へ。そしてスロバキア、パラグアイ、イタリアと3引き分けで1次ラウンド敗退するも、唯一の無敗国と話題になった(パラグアイはその後1/16ファイナルで我々の前に立ち塞がった。)
 常識的には戦闘能力的には当方が格段に上だろう。とは言え、初戦の韓国戦で守備を固めてワンチャンスをものにして韓国を破ったと言う。フランスのように中途半端に前に出てきてくれれば、田中碧の展開で崩せるだろうが、南アフリカのように引かれると厄介な展開になる。ただ日本は、上田の調子が上がってきており、久保は相変わらずよく点をとる。南ア戦のように敵速攻をケアした戦いをすれば、どこかで仕留めることはできるだろう。油断することなく、しっかりと勝ってほしい。

  ではニュージーランド戦、そしてそれ以降、日本はどのようなメンバで戦うのだろうか。 
 ニュージーランド戦では、酒井が出場停止。ただ、ここに入る橋岡は運動能力が高く、上下動を苦にしないタレント。酒井と比較されると、自陣での粘り強い守備や攻撃参加時の変化では劣るかもしれないが、この比較は相手が悪いと言うこと。この世代ではトップレベルの能力を誇り、レッズ時代もチーム状態が悪い時でも安定したプレイを見せていた。ほとんど心配はないだろうし、酒井を休ませられると前向きに考えるべきだろう。
 冨安が復帰し、麻也との2CBはさらに安定した。ニュージーランドのトップは、プレミアで活躍するクリス・ウッドだが、この2人ならば心配ないだろう。また冨安離脱中に、2試合起用された板倉がCBとして安定したプレイを見せてくれたのは、カタールワールドカップに向けて嬉しいことだ。
 最終ラインで一番不安だった左DFだが、中山がメキシコ戦で落ち着いたプレイで敵エースのライネスを止め、評価を上げた。このポジションは、A代表でも長友のバックアップがはっきりしていない。守備力が計算できる180cmある選手の確立は、カタールに向けて非常に重要。攻撃参加時も、左利きのメリットを活かし中盤のパス回しの逃げ所としてよく機能している。自クラブでも常時左DFで使われ、クロスの精度など経験を積んでくれるとよいのだが。
 ゴールキーパの谷はメキシコ戦で残念なミスがあったが、それ以外は安定している。特にクロスへの対応がよい。この手の大会、最後はキーパの超ファインプレイが勝負を左右する。伸び盛りの谷に期待しよう。
 中盤後方の遠藤航と田中碧は大会前の期待通り圧巻の存在感。ただ、問題が2つある。1つ目は、2人とも1枚警告を食らっていること。航の南ア戦の警告は主審のミスだった。そもそもあの場面は相手の競りかけの体制が悪く、航のファウルでもないように見えた。しかし能力が低い主審と当たるのは若年層世界大会では仕方がないこと。通り魔に会ったようなものだ。碧のメキシコ戦の警告は、いわゆるデュエルの結果で仕方がないか。準決勝をこの2人不在で戦う事はあまり想像したくないのだが、それを確実に避けるためにはニュージーランド戦を休ませるしかない。さらに厄介なことは2人とも警告をもらっているから、両方とも休ませる選択が難しい。油断をすると言う意味ではなく、戦闘能力で当方が優位と思われるニュージーランド戦、スタメンを航ではなく板倉で行く選択肢はあると思うが、それはやり過ぎだろうか。
 2つ目の問題は、田中碧不在時(出場停止と言う望ましくないケースと、休ませると言う積極的なケースがある)のバックアップの目鼻が立っていないこと。遠藤航不在時は、板倉を同じポジションに起用すれば、中盤で激しいボール奪取としっかりした持ち上がりを見せてくれるだろう(もちろん遠藤航ほど効果的でないかもしれないが)。いや、麻也、冨安、酒井、堂安、久保と言ったタレントにも、交代する選手は揃っている。こう言った中心選手が不在となれば戦闘能力が落ちる(先ほど遠藤航と板倉を比較したように)が、やり方は変える必要がない。しかし、碧がいなくなれば前線の堂安や久保に精度の高いボールを通す選手はいないから、異なるやり方を考えなければならない。常識的には、碧の代わりに板倉を入れて堂安や旗手の位置を少し後方に下げるなどが考えられる。その場合、上田と林の2トップにしたり、久保と三笘を両翼にする3トップなども考えられるかもしれない。ただ、問題はそのような試行を準備試合ではほとんど行っていないことだ。スペイン戦で、碧を外し板倉と航を並べたが、強豪相手の最終テスト的な試合となり、やり方のトライアルとはとても言えなかった。6月の強化試合を選手選考に使ってしまい、やり方を増やすことを怠ったツケが出なければよいが。
 興味深いのは攻撃ラインをどう編成するのか。日本の攻撃陣は皆好調。攻撃的MF陣は堂安、久保は言うまでもないが、相馬は縦抜けを再三見せてPKを奪うし、三好も知性と技巧を感じさせる得点を決めた。そして旗手は独特のキープから攻撃のアクセントとして面目躍如。FW陣も、林の岡崎風がんばり、前田は俊足を活かしとうとう点をとり、上田は枠に2発飛ばした。そして、Jリーグを席巻しているドリブラの三笘はまだ本調子ではないが、何かこう秘密兵器感が漂うよね。オプションはたっぷりある。日本のこの手の代表チームで、ここまで誰を出してよいかわからない的な、潤沢なタレントを豊富に持てた時があっただろうか。
 しかしここは議席は4つ。もちろん、フランス戦のように勝っていれば、久保や堂安を休ませる選択肢は取りやすい。しかし、もしどうしても点をとりたいときに、森保氏は久保や堂安を外して、他のバラエティあふれるタレントを使う決断ができるだろうか。

 誠にめでたいことに、森保氏への嫌味も迫力が減ってきたようだ。よいサッカーを見せ、堂々の3連勝を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 17:01| Comment(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月28日

東京五輪2連勝の愚痴

 日本は1次ラウンドで2連勝。戦闘能力を相応に発揮し、上々のスタートを切ることができた。しかし、2試合とも試合のクローズが稚拙そのもの。特にメキシコ戦は、10人の相手に2-0から2-1に追いつかれると言う失態。これがなければ、3試合目のフランスに2点差で負けても、2次ラウンド進出が可能だったわけで、せっかくの2連勝を素直に喜ぶことができないことになった。
 本稿は、五輪開幕2連勝を当然と捉え、それでも細かな点で監督批判をネチネチ言える時代が到来したことを喜ぶ、老サッカー狂の屈折した感情発露である。

 初戦の南アフリカ。一部の選手がCOVID-19陽性判定となり、試合そのものの成立すら心配された。それもあったのだろう、5-4-1とガッチリ守備を固めてきた。日本はまずい奪われた方をして失点しないよう慎重に試合を進める。準備試合のスペイン戦で、再三強引な持ち出しに失敗して、敵の速攻を許した久保も無理をしない。それでも、田中碧が僅かな隙間を見つけて縦に通すパスと、堂安と酒井宏樹の連係で右に拠点を作って、左に展開する攻撃は効果的。幾度も三好が左でフリーになる。しかし崩し切れずに0-0で前半終了。
 後半に入り、日本はさらに圧力を高めるが、GKウィリアムズが大当たりでどうしてもゴールネットを破れない。それでも55分を過ぎたあたりから、日本の左右の揺さぶりに、南ア守備陣がついていけなくなってくる。そして、72分ついに日本は先制に成功。左サイドから田中碧が正確なサイドチェンジ、右サイドでフリーの久保が、見事なトラップから鋭く中に切り込み、左足でファーサイドに強烈に決めた。再三の攻撃で、敵DFを中央に寄せておいて、パス能力に優れた碧、技巧と強引な得点意欲の久保、2人の個人能力で崩すことができた。
 ここまでは完璧だったが、終盤南アの無理攻めに冷や汗をかくことになる。久保が先制する直前、日本は攻撃強化のために、林→上田、中山→旗手の交替を準備していた。ところが、待機中に先制に成功。当然作戦変更すべきだが、森保氏はそのまま交替を実施。そして、南アが無理攻めに来ているにもかかわらず、旗手と上田は漫然ともう1点をとりに行く。ここは、落ち着いてボールを回し敵を焦らすなり、敵を引き出して裏をとるなりしたいところだったのだが。事態改善のためか、森保氏は、堂安に代えて町田を左DFに起用、旗手を中盤に上げる。しかし、相変わらず上田も旗手も、さらにその前に交代起用されていた相馬も前に行きたがり、日本は前と後ろが分断された形になり、終了間際には危ないシュートを打たれる局面もあった。一体、森保氏は交代選手にどのような指示をしていたのだろうか。

 続くメキシコ戦。日本は最高の前半。立ち上がりに酒井→堂安→久保と個人能力の高い選手の技巧がつながり先制。世界中のどんな守備陣でも崩せそうな攻撃ではないか。動揺したメキシコ守備陣に対し、林の巧みなポストプレイから、相馬が独特の長駆後の加速で切り裂きPK、堂安が冷静に中央に決めて突き放す。そして、前半半ばから落ち着いて引いて守り、危ない場面を作らせず、時に速攻を繰り出す。
 そして後半、中山と酒井に完全に止められていたライネスとベガの両ウィングをメキシコが諦めた直後、日本の速攻が炸裂、フリーで抜け出しかけた堂安を倒され、バスケスは退場となる。この時点で事実上勝負は決したのだが、森保氏が稚拙な采配で事態を悪化させた。
 局面を打開したいメキシコFWは日本に時間稼ぎをさせぬためにフォアチェックを継続、当然ながら人数の少ないメキシコの中盤には隙ができるから、航と碧は余裕をもってボールをつなげる。ところが、79分に投入された上田と三笘は何を考えているのか、そこから強引に攻めかける。この2人は2-0のまま試合を終わらせることではなく、明らかに自分で得点を奪う事しか考えていなかった。その後は、前線が急いではボールを奪われ、メキシコにファウルをとられ、セットプレイで危ない場面を作られる、と言う残念な展開の連続。さらに疲労が目立つ久保を交代させないのも不思議だった(旗手や橋岡に代えれば守備強化になったはずだ、それとも森保氏はどうしても3点差にしたかったとでもいうのか)。FKから失点し1点差とされたのは結果論。過程が悲しかった。そもそも、この試合のフィールドプレイヤの控えは、橋岡、旗手、三好、三笘、上田、前田。守備要員は橋岡だけと言う体制。そもそも、スコアが劣勢でどうしても点をとりたいときに、堂安や久保は代えづらい事を考えると、これだけ攻撃ラインの控え選手を並べたのはどう言うことなのか。
 短い期間で6試合を戦い抜かなければならない大会。少しでも消耗を避けながら、試合をクローズすべきなのに、2試合続けて交替選手が点をとりに行ったのには呆れてしまう。準備試合ならば、選手のアピールも理解できなくはない。また、褒められたことではないが、開幕戦は選手も少し舞い上がったこともあったかもしれない。しかし、前の試合の反省がまったくなく、2試合続けて終盤バタバタしたのは何なのか。森保氏は何を考えているのか。

 2連勝はやれやれだが、金メダルを目指すためには芳しい状態ではない。2次ラウンド進出はかなり優位だが、フランスはに2点差で負ける訳にはいかず、ターンオーバは取りづらい。(これまでのフランスの戦い振りを見る限り、戦闘能力で日本が上なのは明らかだが)。航、碧、酒井、堂安、中山と5人も警告を食らっている。さらに冨安負傷のために、板倉をCBに起用していることもあり、チームの強さの源泉とも言える航と碧の控えは全く不明瞭。消耗が多いこのポジションの2人を一切休ませず金メダルまでたどりつくつもりなのだろうか。
 まあ、五輪の1次ラウンドで2連勝しながら、監督の采配詳細に文句を言えるのだから、幸せな時代になったものだ。そして、そのような詳細手違いがあっても、麻也とその仲間たちは粛々と勝ち進み、最高の色のメダルを獲得してくれるに違いない。
 一方で、このような七転八倒を皆で経験していく事が、将来のW杯制覇につながるのは間違いない。ただし、その道のりは決して直線にはならない。紆余曲折を繰り返しながら、少しずつ前進するしかないのだ。フランスはワールドカップ創設を主導したジュールリメ氏の下、第1回大会から出場したが世界制覇に68年かかった。スペインは第2回が初出場なので76年かかっている。我々は初出場から、まだ23年、悠々と悩み続ければよいと思う。齢60歳の私は究極の果実を食べられないだろうが、それもよし。
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2021年07月20日

五輪代表は金メダルをとれるか

 五輪代表の強化試合が完了。スペイン相手に上々の試合ができた。ボール保有は劣勢だったが、質の高い速攻を幾度も見せることができた。先方が来日直後、チーム作りぶっつけ本番と言う点は割り引いて考える必要はあるが、当方も大会直前調整真っ盛りなのだし。
 先日のアルゼンチン戦もそうだったが、判断力、技巧、フィジカル、我らがタレント達は世界のトップ国と遜色ない個人能力を持つ。加えて、冨安健洋、田中碧、堂安律と言った傑出した個人能力を発揮できる若者達が多数。誠に結構な時代になったものだ。
 これだけタレントが揃えば、当然ながらメダル、それも最もよいい色のメダルを期待したくなる。

1.ここまでの準備
 今回の五輪代表の準備はうまく行っていなかった。19年11月に実施したコロンビアとの強化試合は、(冨安こそ不在だったが)堂安や久保建英を呼び、チーム強化の集大成的な姿勢で臨んだが、中盤後方の弱さを徹底して突かれ惨敗。さらにその後の20年1月のU23アジア選手権では、守備ラインの信じられないミスなど残念な試合振りで、散々な結果。
 この時点で、数か月後の五輪に向け、冨安以外定位置確保感のある選手がおらず、地元五輪を前に怪しげな雰囲気か漂った。予選なしでのチーム作りの難しさと言おうか。
 ところが、COVID-19により五輪は延期。この疫病禍での1年延期が、不謹慎ながら不幸中の幸いとなる。五輪世代の多くの選手がJで大活躍したのだ。特にフロンターレの田中碧、三笘薫、旗手怜央の3人は、高い技巧で自クラブのJ制覇に貢献、また上田綺世、瀬古歩夢、林大地、前田大然、橋岡大輝らの成長も耳目を集めた。同様に欧州でも菅原由勢、板倉滉が活躍。そして何より堂安律がブンデスリーガで中堅チームの完全な攻撃の中心としてフルシーズン活躍、すっかり逞しい攻撃創造主に成長してくれた。
 そして、迎えた3月のアルゼンチンとの準備試合。初戦こそ完敗だったが、出場停止だった田中碧が、第2戦起用されるや全軍指揮官として圧倒的存在感を発揮し、日本を完勝に導いた。冨安も堂安もオーバエージも抜きで、世界最強国に完勝したのだ。
 その上で、オーバエージに、吉田麻也、遠藤航、酒井宏樹を選考。麻也、冨安、航、碧で構成される中央の守備ブロックの堅牢さと前線への球出しの質は、A代表を含めても日本サッカー史上最強かもしれない。期待は大いに高まってきた。

2. オーバエージ
 上記した麻也、遠藤、酒井の3人はいずれも経験豊富な強者で、この3人を軸にした堅牢な守備は大いに楽しみ。ただ、ちょっと気になっているのはゴールキーパにオーバエージを起用しなかったこと。谷晃生も大迫敬介もよいキーパだし、鈴木彩艶の素質も疑いない。しかし、このポジションは特に経験が必要なポジション。
 加えて、麻也とかぶるCBは、冨安と言う格段のタレントがいて、板倉、町田浩樹、瀬古とよい選手が多い。同様に酒井の右DFも、橋岡、菅原、岩田智輝、原輝綺など人材が揃っている。そのような視点から、麻也や酒井ではなく、川島永嗣なり権田修一をオーバエージとして選ぶ選択肢もあったかもしれないと考えたりする。
 もっとも、準備試合での麻也の圧倒的なリーダシップや、スペイン戦で右サイドで1対2を作られくずされかけた場面での酒井の鮮やかな守備を見せられると、このメンバ選考でよかったのだとも思うのですけれどw。谷、大迫の奮戦に期待しよう。
 
3. 左サイドバック
 A代表でも、選手層が最も薄いポジションは左DF。長友佑都は相変わらず元気でカタールまで活躍してくれそうだが、バックアップに決定的なタレントはいない。この五輪代表でも定位置確保感のある選手はとうとう登場せず、この世代のユース代表時代から主将を務める中山雄太(元々はCBが本職だがこの五輪代表では守備的MFでの起用が多かった)、川崎で左サイドバックに起用され無難にこなしている旗手怜央のいずれかが起用される。中山は、昨年のA代表コートジボワール戦で左DFに抜擢され、そこそこのプレイを見せた。中盤に起用されると、キープ力に自信がないためかせわしなく左右に展開を急ぎ状況を苦しくすることが多い。一方CBでは1対1が今一歩。そう考えると、脚力はあるから、左利きを活かせる左DFは向いているのかもしれない。先日のホンジュラス戦でも無難なプレイを見せていた。一方の旗手は、いかにも静岡学園出身らしい技巧が魅力。オーバラップよりも、しっかりしたキープ力から動き出しのよい中盤や前線の選手に正確なグラウンダのパスをピタリ通せるのが魅力だ。
 ユース時代から高い評価を受けていたこの2人が、それぞれ本来とは異なるポジションで五輪代表にたどり着いたのはおもしろい。ここがピタリとハマってくれるかどうかが、どの色のメダルまで到達できるかを左右するように思える。うまくいけば、カタールW杯に向けてこれほど明るい話題もないわけで。

4. 中盤後方の輝きと層の薄さ
 今回の五輪代表の最大の魅力は強力なドイスボランチにある。往時の遠藤保仁を彷彿させファルカンやピルロの域に近づいてくれないかと思わせる若き将軍田中碧。日本にもマテウスやドゥンガのようなプレイを見せる選手が登場したかと思わせてくれる遠藤航。この2人の輝きを他国に見せびらかすだけでも、今回の五輪は楽しみ。
 決勝戦の勝利まで、いかにこの2人を消耗させずに戦い抜けるか。ただでさえ消耗の激しいポジションなのだし。ところが、この2人の控えには板倉しか準備されていない。中山や旗手がいるが、どちらかは左DF。また、中山はこのチームで中盤で起用されても、あまりよいプレイを見せたことはない。もちろん、板倉はとてもよい選手で、球際の強さと常識的だが正確なパスと空中戦の強さは格段、頼りになる選手だ。昨シーズン、オランダリーグ中堅どころのフローニンゲンでフル出場した実績もすばらしい。
 森保氏としては、板倉、中山、旗手で、ここを回せると考えているのだろう。ただ疑問はどうしても残る。4-2-3-1の布陣で戦うとすると比較的消耗の少ないCBは2人枠に対し4人(加えて板倉)、対して運動量を要求される守備的MFが2人枠に対し3人と言うのは心配になってしまう。当初の18人登録時ならばさておき、たとえば、渡辺皓太、松岡大起、高宇洋あたりをメンバに入れておけば田中碧を休ませたり、敵の布陣や状況により攻撃的MFを1枚削り4-3-3に切り替えるやり方もとりやすかったと思うのだが。今更言ってもしかたがないが、アルゼンチン戦での渡辺を除き、この手のつなぎや拾うのがうまい中盤タレントがほとんど選考されず、板倉や中山のようなユーティリティ系の選手を優先して試していたのが仇とならなければよいが。まあ、この手の大会は、このように監督の選手選考に文句を言うのが楽しいのですが。
 もっとも、大会の勝負どころで、冨安を航と碧で中盤を組んで来たりしてねw。

5. 最前線
 冒頭で、不謹慎ながら1年延期が日本に幸いしたと語ったが、その最大の恩恵はFW陣だろう。
 上田綺世も前田大然も林大地も、既にJを代表するストライカだが、五輪が1年前だったら、3人ともまだまだの存在だった。それぞれ紆余曲折があったが、昨シーズンを通した活躍があって、ここまでの評価を得たのだ。
 林はホンジュラス戦もスペイン戦でも、強引にシュートに持ちだす場面と、味方を使う選択がよかった。あれだけ精力的に守備を行いながら時にシュートまで持ち込める。北京五輪後に一気に成長した岡崎慎司を思わせる活躍だ(そして技術は岡崎より上に思える、だからと言って岡崎より点をとれるかどうかはまったく別な話だが)。
 前田は、その格段のスプリントをリードした試合で前線で役立てる役割となりそうで、ホンジュラス戦の3点目のような活躍が期待できる。スペイン戦ではサイドMFに起用され、よく機能していた。
 そして、上田の低く沈む強いシュートが格段なのは言うまでもない。しかも、このストライカの魅力はそれだけではなく、位置取りの巧妙さや、ラストパスに合わせる加速のタイミングなど多岐に渡る。
 この3人は協力して金メダルを目指し、大会終了後A代表の数少ないFW枠を大迫勇也らと争うことになる。

6. 堂安律と久保建英と三笘薫
 落ち着いたキープから、読みづらいパスとシュートを操る堂安律。素早く正確なボールタッチで敵DFを抜き去り、強烈なシュートが打てる久保建英。魔術師のような緩急で敵DFを抜き去り、落ち着いたシュートを決める三笘薫。攻撃的MFには、このきらめく3人に加え、日本人には珍しく長駆した後さらに加速が利いて縦にえぐる突破が格段の相馬勇紀、鋭いドリブルを仕掛けながら正確なラストパスを繰り出せる三好康児もいる。

 一方で、堂安、久保、三苫と並べると次々と相手を崩せそうな気がしてくるが、この3人を並べたジャマイカ戦では連係の妙は見られなかった。これは、久保と三笘がまだ十分成熟していないためだ。
 三笘はフロンターレでプレイするように自分得意の間合いに入りたい選手。ところが真ん中の前田や久保がどんどん左に流れてくると得意のドリブルができない。結果前線でキープしてもはたくばかりで、あの魔術師ドリブルが発揮できない。三笘の選択肢は2つある。久保に「流れてくるな」と言うか、久保が流れたら中央に位置取りする(ジャマイカ戦で上田にスルーパスを通したように)、それを主張しなければ本当の超一流選手には届かないのではないか。
 一方の久保は、誰に何を言われても気にせず、当面は天井天下唯我独尊を貫くのだろう。久保はフィジカルも強いし守備もさぼらない。けれども、一度ボールを持つと(いや正確に言うとボールをもらう動きをする時から)、自分本位のプレイを選択する。でも、それがよい。強引に自分のリズムでドリブルし、シュートまで持ち込み、それなりの確度で決め切るのだから。最近の久保のプレイを見ていると、本田圭佑的な雰囲気を感じるw。まだ20歳、繰り返すがそれでよいのだ。もちろん、強引に行き過ぎてボールを奪われ、敵の速攻を許すリスクもあるのだが、それも経験と割り切るべきか。
 もちろん、森保氏が選手配置に工夫するやり方もあるはず。例えば、3トップにして左ウィングに三笘を起用する。板倉か旗手か冨安を中盤に起用し、右ウィングに堂安。あるいは堂安を中盤に下げ、右は相馬、前田、橋岡など。つまり、久保をベンチにおいて、勝負どころで起用するとか。

7. 結びに代えて
ホンジュラス戦後半の攻めあぐみは貴重な失敗経験となった。2-0で勝っているのだし、ゆっくりボールを回したいところだった。ところが中盤や最終ラインから中央に拘泥した縦パスが通るのだが、後方からのサポートが遅れているにもかかわらず。久保を中心に前に前に急ぎ過ぎ簡単にボールを奪われ続けた。
 高温多湿、中2日の価格な6連戦を勝ち抜くためには、押し上げが利かなくなったり、リードして無理する必要がなくなった時間帯、逆にリードを許し敵が多人数で最終ラインを固めてきた折は、ゆっくり落ち着くのが肝要。そしてこのチームには20代前半で、そのような攻守のリズムを中盤で、適正に操れそうな田中碧と堂安律がいる。2人が、あのホンジュラス戦後半の失敗経験を活かすことができるかどうか、それが金メダルに到達できるかどうかを左右する。
 厳しい環境下での大会、地元日本に圧倒的有利にはたらくはず。各選手が大会を通じ着実に成長し、最高の成績を収め、カタールワールドカップの礎を築いてくれることを期待してやまない。
posted by 武藤文雄 at 23:59| Comment(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月25日

酒井宏樹のJリーグ復活と五輪代表

 酒井宏樹が浦和レッズに移籍するとの報道が、もっぱらだ。さらに五輪代表オーバエージとして、酒井の他に、吉田麻也と遠藤航が確定とのこと。この移籍と五輪代表確定、野次馬としては、大いに楽しみでもり、突っ込みどころも感じる。
 まず、浦和の右サイドバックには、圧倒的な存在感を放っている西大悟がいる。西は鹿島で長年活躍し今シーズン浦和に移籍、酒井よりも年長の名手だ。もちろん、酒井も西も経験豊富なタレントで、他のポジションもこなせるから併用も可能だろうが贅沢な話ではある(そして、この2人が併用され、売り出し中の小泉佳穂に使われ、キャスパー・ユンカーにラストパスを通す場面など、想像するに楽しくなってくる、もちろん我がベガルタ戦以外でだが)。
 一方五輪代表も、このポジションはよい人材が多い、オランダで活躍する菅原由勢、昨シーズンまで浦和の右サイドで活躍していた橋岡大樹(橋岡がこのオフに欧州を志向せず浦和での活躍を選んでいたら、西や酒井がどのような選択をしていたのかは、楽しい思考実験だが)、大分から横浜Mに移籍し中盤起用などで幅を広げている岩田智輝、最近負傷離脱しているようだが新潟、鳥栖で順調に経歴を積み今期清水に移籍した原輝綺。敢えて、オーバエージをこのポジションで起用するのが、適切な策なのかどうか。
 もっとも、東京五輪のCOVID-19影響による1年延期により、五輪代表の強化は様変わりしている。この1年で、いわゆる五輪世代の選手が、次々に大化けしているからだ。冨安健洋と堂安律を別格としても、J屈指の名手に成長した川崎の田中碧と三笘薫、Jでボコボコ点をとっている前田大然や上田綺世、格段の守備を見せている瀬古歩夢、オランダで相当な活躍をしていると言う板倉滉など。そうこう考えると、いずれのポジションにも良好なタレントがいるから、ポジション的に薄いところを強化する必要はないのかもしれない。
 疫病禍となる前の五輪代表を考えると、強化の不手際でまったくチーム作りができていなかった。19年11月に実施したコロンビアとの強化試合は、堂安や久保建英を呼び戻しベストメンバ風で戦ったが、中盤後方の弱さを徹底して突かれ惨敗。その後、20年1月のU23アジア選手権は、各選手の覇気のないプレイ振りと、首脳陣の工夫のない采配で惨敗。誰が定位置をつかんでいるかもわからないほどの窮状だった。
 ところが、疫病禍による五輪の1年延期で流れが変わった。どうしても日本のサッカー界は、ユース世代(Jユースだろうが高校だろうが)と大人世代の断絶が大きい。しかも、好素材であればあるほど、J1の強豪に加入するケースが多いが、そうなると試合出場の機会が減ってしまい、伸び悩むタレントが多いのだ。本来であれば、本当の好素材は、Jのクラブユース所属時から、J2やJ3の大人のチームにレンタルされ、厳しい環境での経験を積むことが望ましいのだが。しかし、疫病禍により、皮肉なことに高卒5年目の選手の多くがJで大活躍。大学を迂回していた三笘や上田に代表されるように、多くの選手がしっかりとした大人の選手に成長した。おそらく、疫病禍がなく、2020年に五輪が行われていれば、非常に厳しいチーム作りを余儀なくされていたことだろう。しかし、森保氏と横内氏は、良好なタレントを自在に使うことが許されている。事実上、ぶっつけ本番ではあるけれど。
 そう考えると、地元五輪では、純粋に最強チームとなるべく最高のオーバエージタレントを選考するのが適切に思えてくる。なるほど、吉田、遠藤、酒井は欧州での経験も格段、精神的にも頼りになる格段なタレントだ。彼らに匹敵する好調のタレントとしては大迫勇也、南野拓実、伊東純也あたりが考えられようが、短期決戦の大会、守備の安定を考え後方のタレントを揃えるのは理解できる施策だ(ゴールキーパに経験豊富なタレントを選考すべき、と言う議論はあるかもしれないが)。中でも酒井は、歴代の日本代表選手で、中村俊輔と長谷部誠と並び欧州で最も実績を残した日本人選手だと思っている。ネイマールさえ封じた粘り強く激しい守備、柏時代から定評あった前進のタイミングと好クロス、ロシアでも記憶に新しい大柄な体躯を活かしたスペースカバー。もちろん百戦錬磨の吉田も、ブンデスリーガ屈指のMFと言われる遠藤も格段なプレイを見せてくれるだろう。
 事実上ぶっつけ本番の五輪代表は、来月ガーナとジャマイカと戦い、さらに大会直前に2試合(うち1試合はスペインとのこと)。まずはガーナもジャマイカもよい状態で来日し、よい強化試合となることを祈るとするか。まあ、ロシアワールドカップが典型だが、急ごしらえのチームがうまく行くこともある。五輪が本当に開催されるのだったら、酒井を含むこの豪華なメンバで黄金のメダルを獲得することを期待したい。先日、アルゼンチンに快勝したように、選手の能力には疑いがないのだから。それにしても、よい時代になったものだ。
posted by 武藤文雄 at 23:44| Comment(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月30日

東京五輪代表チーム、めでたくアルゼンチンに快勝

 アルゼンチンを迎えての東京五輪強化試合。味の素での初戦の0-1の敗戦後、今日は3-0での快勝。
 何より、この難しい疫病禍下に、よい準備試合を企画した関係者に敬意を表したい。いわゆるインタナショナルマッチデイをうまく使って、本腰で金メダルをねらっている世界最強国を招聘。双方とも強化が難しい中、欧州と自国の選手を集め、2試合180分間強化試合を行えた。そして、我々サポータも、Jやアルゼンチンや欧州で世界最高峰をめざす野心的な若者たちの奮闘を楽しめた。
 初戦はアルゼンチン各選手は長旅の影響をあまり感じさせず、球際の強さを発揮。日本はアルゼンチンにかまえられると、単調なロングパスや強引なドリブルを目指すことが多く、攻めあぐんだ。加えて、アルゼンチンの4DFの粘り強さは相当なもの、スコアこそ0-1だったが完敗だった。

 ところが今日の第2戦は状況が一変。立ち上がりから、日本はハイプレスでアルゼンチンに自由を与えない。アルゼンチンもさすがで、激しいチェックを受けて立ち、球際の強さと各自の前進力で対応、見応えのある試合が展開される。
 そう言ったせわしないくらいの試合で、圧巻だったのは田中碧。22人の若者の中で、ただ一人圧倒的な存在感を見せた。アルゼンチンの寄せが厳しいと、ペアを組んだ板倉なり、両サイドDFの古賀、原に早々にはたき、巧みにリターンを受ける。フリーで前にスペースがあればスッとドリブルで前進し、追いすがるアルゼンチン選手を押さえるコースを取り、ファウルを誘う。林や久保や相馬がよい位置取りに立つと素早く正確なパスを通す。
 前半終盤の先制点。CBの瀬古がまったくのフリーで狙いすましたロングフィードから、売り出し中の林が見事な動き出しで抜け出しGKと1対1、ワンフェイントいれて見事なグラウンダの一撃。アルゼンチンは瀬古にプレッシャをかけられないだけでなく、最終ラインも中途半端に上げるでもなく、2CBのカバーリングもおかしかった。これは、その直前の田中碧がしかけた崩しがポイントだった。冴えわたる碧は、中盤で4人に囲まれながら、巧みな抜け出しから、バイタルの食野(だと思った)にいやらしい縦パスを通した。アルゼンチンDFは、この日本の攻撃をかろうじてかき出したが、それを2CBの町田と瀬古が拾ったわけだ。これだけ、中盤でバランスが崩れれば、前線のプレスも、最終ラインのラインも、そりゃうまくいかんわな。
 今日の碧のプレイで唯一不満を感じたのは、後半アルゼンチンのストライカのガイチにミドルシュートを許した場面。自陣バイタル近くで、バルガスとガイチとのからみを止め切れなかった。あそこはキッチリと守って欲しかった。かつて、ベッケンバウアーやファルカンやレドンドやピルロは、あのような局面で、絶対にやられなかったよ。
 来年のワールドカップ本大会、遠藤航、守田、田中碧のトレスボランチは確定なのではないかと思わせるプレイ振りだった。遠藤爺の再来と言うのは簡単だが、遠藤爺が日本の中盤に君臨したのは20代後半だった。碧はまだ22歳。まこと、めでたいことである。
 まあ、Jリーグでの活躍を思い起こせば、この程度のプレイは当然なのかもしれないけれど。

 碧の存在だけで、初戦とはまったく異なる展開となった。そのため、五輪に向けてのメンバ選定と言う視点では、この2試合目に起用された選手が、圧倒的に有利なことになってしまった。先制点を決めた林、原、瀬古、町田、古賀の4DFのタフな戦い、食野と相馬の献身。

 ここで注目すべきは、2試合連続スタメン起用された久保と板倉である。
 久保はプレイが雑なことが気になった。試合が終始日本ペースで進んだこともあり、アルゼンチンの守備がかなりラフ。さらにこの日お主審が手を使うプレイに甘いことはあって難しい状況だったことは理解できる。しかし、プレイを常にトップスピードで行おうとし過ぎるのだ。例えば、前線に残っていて後方からフィードを受ける場面で、敵DFのプレッシャからのがれようとして斜め後方に急いでダッシュし過ぎて、結果ボールがうまく収まらない。持ち前の変化あふれるドリブルやフェイント直後に、急ぎ過ぎるのか、パスが非常に雑になる。後半序盤、久保が見事に右サイドを崩し、相馬に出したラストパスの場面(直後相馬がシュートをポストに当てた)。ラストパスのボールは、相馬がトラップしやすいやや前方ではなく、僅かに後方に流れ、相馬は加速をシュートに乗せられなかった。とにかく、もっと丁寧にプレイしてほしいのだが。
 考えてみれば、スペインリーグでも同様な印象がある。右サイドで相手を見事に出し抜いた直後に、味方へのパスが決まらない場面が多い。まあ、スピードと丁寧さのバランスは、どのような選手でも永遠の課題。まして、久保はまだ19歳で、このチームの中でも若いのだからしかたないのかもしれない。
 ただし、この五輪代表でFWと攻撃的MFの議席は6枚程度だろう。そのうち1枚はオーバエージに使われる可能性がある。そして、FWは先制点を決めた林、今回もハードワークでがんばった田川。そして、負傷で選考外になったがJで実績を残している上田と前田がいる。さらに攻撃的MFは、(このチームは田中碧のチームなので、同じクラブの)三笘の選考は有力。そうなると、久保は堂安、食野、三好、相馬らと僅かな残り議席を争うことになる。
 などと文句を言っていたら、CKから板倉に見事な2アシスト。マスコミがキャーキャー騒ぐのはさておき、やはりこの男は何か持っているのだろうな。
 一方今日腕章を巻いた板倉。オランダでかなりの実績を残したとのことで相当期待していた。しかし…
 初戦は失点時に、バルガスに簡単に抜かれた淡泊な対応に失望した。さらに、時折やらかすミスパスも相変わらず。これでは、ベガルタ時代に再三見せてくれた「俺たちの板倉」と変わりないではないかと、何とも嬉しいような悲しいような何とも微妙な気持ちを抱いたものだった。
 2戦目は、すべてがうまく行った。田中碧と組んだボランチでは、碧に自由にプレイさせるように、位置取りを修正しながら、目の前の敵を刈り取ればよい。板倉はその献身を90分継続し、東京五輪本大会で田中碧と中盤を組む第一候補になってしまった。しかも、CKから2得点。セットプレイからよく点をとるのはベガルタ時代もそうだったから、やはり「俺たちの板倉」には変わりないのですけれど。

 と、まことめでたくアルゼンチンとの協会試合を終えたわけだが。では東京五輪(開催されるとしたらですが)への準備は順調と言えるかと言うと結構微妙に思う。
 元々、今回の五輪代表チームは予選がなく、さらにA代表との中途半端な混合強化を行なった事もあり、ベストメンバすら曖昧だった。そして、せっかく今回アルゼンチンを呼んだ強化試合を組んだが冨安、堂安、前田、上田らが不在。田中碧も1試合しかプレイできず、さらに今回選考外にもJで相当の活躍をしている選手がいる。このように厚過ぎる選手層から、どのように選手を取捨選択するのか。
 贅沢な愉しみだと、ここは素直に喜んでおくか。
posted by 武藤文雄 at 01:11| Comment(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月30日

五輪代表順調な強化

 五輪代表は、国内最後の強化試合、南アフリカ戦に4対1と快勝。
 このチームは、直近3階の五輪代表(アテネ、北京、ロンドン)と異なり、予選段階でしっかりとチーム作りが行われたと言う意味では、シドニー以来。したがって、いわゆるキリンチャレンジで、遠征で体調がよくないチームと戦えば、よい成績を収められるのは自明な事、快勝そのものは驚きではなかった。
 それにしても、1点目、2点目の得点はきれいだった。このチームのよさは、後方の選手が常に敵DFの裏を狙う姿勢を保ち、敵DFラインが揃わなくなったときに、この1、2点目のように、両翼をうまく使った崩しができることにある。
 守備については、植田を軸にした中央の強さは間違いないが、時に中盤守備で几帳面さが失われることが課題か。まあ、このあたりは、若さもあるし、しかたがないところもあるのだが。

 ともあれ、室屋、中島と言った、予選後に負傷した選手がよいプレイを見せたのは嬉しかった。もちろん、たった1試合よいプレイを見せたからと言って、短期決戦を戦い抜ける体調まで戻っているかは別問題だが、2人ともメンバ入りする可能性は高いのではないか。それにしても、今回のチームは負傷者の多さが、大きな悩みとなっている。1月に予選が行われたため、各選手がオフをしっかりとれなかったためだろうか。
 余談ながら、中島と言う選手は、どうしてFC東京で出場機会をほとんど得られないのだろうか。この選手は、いわゆる華があるタイプ。守備をサボるわけでもないし(もちろん、課題はあるが)、よくわからない。確かにFC東京の攻撃ラインは、優秀な選手が多数いるのは確かなのだが。

 予選で中核として機能していた植田、矢島が、この数ヶ月で一回り成長していたのも、頼もしかった。そして、この2人と、この日負傷で欠場した遠藤の3人が安定していること、CBの岩波、奈良の負傷が長引いていること、この2点を考えると、オーバエージで選考したのが、塩谷、藤春、興梠と言うのも、よく理解できる。そして、上記した室屋と中島の復活により、かなりバランスがよいチームとなりそうだ。
 あとは、いかに各選手の体調を揃えられるかだろう。特に、負傷上がりの選手や、欧州でプレイする久保と南野の状態が気になるところだ。


 一昨年のワールドカップ、昨年のアジアカップと、代表チームの苦杯が続いたこともあり、日本サッカー界全体が、「異様な自信喪失」となっている。40年以上、日本サッカーに浸り切って今なお不思議なのだが、ちょっと勝つと「ワールドカップ優勝も夢ではない」となり、ちょっと負けると「この世の終わり」となるのが、この国のサッカーマスコミの特徴なのだ。
 だからこそ、このチームには、自信回復のきっかけとなる、リオでの鮮やかな戦いを期待したいのだ。まあ、手倉森のオッサンの手腕は確かなのはわかっている。わかってはいるが、(過去から再三語っているように)凝り過ぎて失敗するのではないかとの不安が、また愉しい。
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2016年02月02日

ドーハの歓喜を振り返って

 堂々と五輪出場を決めてくれた本大会。その最後が韓国に対する勝利なのだから、こたえられない。そして、韓国への勝利が大きな快感なのは言うまでもないのだが、それも2点差をひっくり返しての逆転劇なのだから、格段の快感だった。そもそも、A代表を含めた日韓戦で、2点差の逆転劇そのものが、勝ちでも負けでも記憶にないのだし。
 誠にめでたい大会だった。

 ただ、決勝戦の試合展開はとても奇妙なものだった。
 手倉森氏は、「試合後後半開始早々に2点差とされたのは、自らの采配ミス」と語ったが、私が見るところ、その後に、それ以上の危険な采配を行い、完全に命運を絶たれるところだった。一方、申台龍氏の2点差までとするまでの采配は水際立っていたが、同点となってからの采配は愚かを通り越し、あり得ない稚拙さだった。
 いずれも最高級の歓喜を味わった今となっては、愉しい思い出ではあるのだが。

 開始早々、強烈なミドルシュートを打たれ櫛引がかろうじてはね返したこぼれ球を決められるがオフサイドに救われる。前後半問わず、序盤の守備がまずいのはこのチームの悪癖だ。ただ、この場面を典型に、この試合では、韓国FWに4-3-3の特長を活かされ、日本DFとMFの中間でボールを受けられてしまい、好機を再三作られることとなる。
 その後は日本のパスが回るようになる。しかし、久保、中島、両サイドバックの山中、室屋が、中盤を抜け出したところで、強引にラストパスを狙ってしまい、韓国の最終ラインも人数が揃っていることもあり、崩せない。久保と中島は、そう言った強引さに魅力があるのは確か。そして、山中、室屋まで同調したのは、決勝進出の「勢い」だろうか。ただ、韓国守備陣があれだけ揃っているのだから、もう少しゆっくり攻めたいところだった。実際、久々に起用された大島が、丁寧にさばいていたので、もう少しボールを集めたいところだったのだが、「大島抜き」に各選手が慣れていたせいか、やや「勢い」に乗り過ぎ、攻撃が単調になってしまった。
 そして、日本は敢え無く先制されてしまう。左サイド(以降の左右はすべて日本から見て)で、中島がやや甘い守備からサイドチェンジを許す。右サイドではよりボールに近かった室屋がマーカに気をとられ、矢島に対応を任せたことで、比較的簡単にクロスを上げられてしまう。その折り返しに、中央に残っていた岩波も植田も完全なボールウォッチャになってしまった。確かに両翼守備には問題があったが、屈強を誇る日本の2CBは欠点を露わにしてしまった。
 その後も、冒頭に述べた4-3-3対応がうまくいかず、頻度は少ないが幾度か好機を許しながら、何とかしのいで前半を終えた。遠藤も大島もしっかりと上下動して中盤守備を機能させていただけに、室屋と山中が勇気を持って敵FWへ応対していればよかったと思うのだが。

 後半開始より、手倉森氏はオナイウに替え、原川を起用、こちらも4-3-3に切り替える。敵FWを押さえると共に、攻撃の急ぎ過ぎを改善しようとしたのだろう。ところが、あろうことか遠藤が完全に敵FWに出し抜かれ、その対応に岩波が出遅れたところから、2点目を失ってしまう。
 けれども、苦しい状況になっても、気持ちが萎えないのは、このチームの良さだ。失点直後から、原川を入れた効果が次第に発揮される。大島と原川が、丁寧にさばき、日本がいやらしくボールを回せるようになったのだ。そして矢島と室屋、中島と山中が、それぞれ両翼で起点を作れるようにもなり、日本がペースをつかんだ。2点差は苦しいが、このペースでヒタヒタと攻めれば、前半ハイペースで飛ばしていた韓国は疲弊するのではないかと期待は高まった。
 ところが、その好ペースを手倉森氏は自ら崩してしまう。大島に替えて、攻撃の切り札浅野を投入したのだ。確かに、2点差である以上、早い段階で手を打つ必要があり、ズルズルと時間が過ぎてしまう状況を打破しようとするのは一案で、久保と浅野を並べる策は理解できる。では誰と替えるかだが、イラン戦でその驚異的なスタミナと終盤での能力を見せつけた中島と、ボールを引き出す能力が高い矢島を残すとずれば、消去法から大島が選択されるのはわからなくはない。ただ、全軍で一番視野が広い大島を外してよいものなのか。ともあれ、日本は大島に替えて浅野を投入、4-4-2に戻した。
 この交代劇は、大島不在以上のマイナスを日本に与えることとなった。浅野投入後の約5分間、また韓国FWを捕まえられなくなり、幾度も決定機を許すことなったのだ。櫛引の好守もあり、何とかしのいでいたが、ここで3点差にされたら、いくら何でも勝負は決まっていただろう。
 ところが、何が幸いするかわからない。日本が自らペースを崩したこともあってか、韓国の守備陣がズルズルとラインを上げ、しかも中盤のプレスが甘くなってきたのだ。それを逃さなかった矢島と浅野の狡猾な動きで、日本は1点差に追い上げる。矢島のスルーパスは、タイミングも強さも絶妙だったが、浅野の抜け出しの速さとシュートの巧みさも完璧だった。ここで韓国のDF陣は、浅野の「縦の速さ」に驚いたようで、明らかにパニックに陥る。そして、左サイドの崩しから、完全に矢島を見失う。あっと言う間の同点劇。
 まあ、典型的な「肉を切らせて、骨を断つ」作戦がうまくいった状況となった。試合終了後、手倉森氏が嬉しそうに、この場面を自慢しながら振り返るのかと思ったが、氏の発言は「もう一度相手の攻撃をしのいでから、押し出ていこうかと思っていたら、タイミングが悪くて2点目を取られた。そこから2トップに戻すまでは、ちょっとこてんぱんにやられたなと。」と言うものだった(出展はこちら)。手倉森氏は、興奮のあまり記憶が違っているのだ。「こてんぱん」状態になったのは、氏が2トップに戻してからだったのだが。
 手倉森氏がすばらしい監督であることは、ベガルタサポータの私たちは、誰よりわかっている。けれども、彼が万能の神ではないことも、私たちはわかっている。
 それでも選手達は、我慢を重ね、巧みに敵の隙を突いて追いついたのだ。この監督の采配ミスの苦しい時間帯、選手達が粘りで追いついた場面は感動的だった。

 ここで、日本に不運が襲う。テレビ朝日のピッチアナウンサ情報によると、矢島が何がしかコンディションを崩したと言うのだ。手倉森氏は2対2の状況で、韓国が1人も交替していないにもかかわらず、3枚目のカードを切ることを余儀なくされた。これは最悪の事態だ。韓国は、当方の選手の疲労を見ながら、自在に交替策を駆使して、仕掛けることができる。
 ところで。現役時代の申台龍は、技巧も判断力も優れ、とてもよい選手だった。ただ、どうにも代表運がなかった。日本で言うと、藤田俊哉的な位置づけだろうか。2-0となるまでは、申台龍氏の采配は冴え渡った。1点目は大きなサイドチェンジに対する日本CBの対応の拙さを突かれ、2点目は立ち上がりの悪さを狙われた。現役時代の忌々しさを思い起こす、最悪の快感。
 ところが。日本が3枚目の交代を切った後の、申台龍氏の采配は、正にお笑いものだった。大柄な選手を前線に起用し、パワープレイに転じてきたのだ。確かに前半からのハイペースで、韓国各選手に疲労の色は濃かった。けれども、今回の日本のCBが敵のパワープレイには滅法強いのだ。申氏の采配で、一気に日本は楽になる。
 そして、浅野。中島のパスも見事だったが、その鮮やかなターン。そして、冷静な左足シュート。

 堂々たるアジア王者に輝いた若者たちと、鮮やかな采配を見せてくれた手倉森氏に感謝したい。
 一発勝負の予選ゆえ、出会いがしらの事故による失敗が一番恐ろしかったが、手倉森氏は見事なマネージメントで、堅実に戦い切ってくれた。選手達も、その格段の高い戦術能力を見せ、手倉森氏の要求にこたえきった。
 イラン戦も、イラク戦も、確かに苦しかった。イラン戦はバーに救われた場面もあった、イラク戦も技巧あふれる攻撃に苦しむ場面は少なくなかった。けれども、選手達は粘り強く戦い、格段のコンディショニングの成果もあり、試合終盤は完全に相手を追い込み、完璧に勝ち切った。この準々決勝、準決勝、この2試合に同じ準備状況で再度試合に臨むとしても、相当な確率で日本は勝つことができるのではないか。
 そして、韓国戦。選手達に甘さも確かにあった。しかし、彼らは監督の采配ミスなどを飲み込み、堂々と勝ち切ってくれた。
 過去20年来、A代表も五輪代表も、日本はアジアで格段の成績を収めてきた。しかし、それらの歓喜は、必ずしも圧倒的な攻撃的サッカーで得たものではない。中盤を圧倒して快勝の連続で得たものでもない。苦しい試合を、各選手の秀でた判断力と精神力で粘り、敵の僅かな隙を突いて攻撃のスタアの能力で得点し、拾った歓喜は数知れない。今回のチームの歓喜もそれと同じだった。もちろん、局面局面で久保や浅野や遠藤や室屋が見せてくれた、「格段の個人能力」はすばらしかったが。
 手倉森采配の輝きも格段だったが、各選手の能力が存分に高かったことを改めて強調したい。ただし、すべての勝負がこれからなのも言うまでもない。
 このすばらしい23人は、まず本大会に向けてのサバイバルが待っている。リオ本大会出場枠は、わずか18。そこにオーバエージが加わる。さらに、今大会負傷で登録されなかった中村、喜田、野津田、金森ら、Jで実績を誇る関根、川辺、小屋松、鎌田、前田らが、その競争に加わる。
 厳しい競争を勝ち抜いた若者が、リオで美しい色のメダルを獲得し、さらにロシアでの歓喜に貢献してくれることを期待したい。
posted by 武藤文雄 at 00:18| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月22日

ベガルタサポータのみが味わえる快感

 結果も内容も上々に1次ラウンドを突破した五輪代表。勝負はこれからだが、手倉森のオッサンのドヤ顔を見るだけで、嬉しくなってくるのは、ベガルタサポータ特権だな。

 もちろん、贅沢を言えばキリがない。例えば、手倉森のオッサンが自慢する守備だが、結構、粗も多い。
 まず、つまらない反則や、軽率なミスパスなど、各選手が唐突にビックリするようなミスをすること。たとえば、サウジ戦後半、植田が敵FWと競ってヘッドしようとした際に手が前に出てファウルをとられた。同じく、山中がペナルティエリア内でミスパスでボールを奪われた。この他にも、この3試合、多くの選手が、自陣ゴール近くで「おいおい」と言うミスをしている。各選手が、まだまだ若いと言うことだろうか(「若さ」が故のミスについては、講釈を垂れ始めるとキリがないので、別な機会に)。
 また初戦北朝鮮戦で幾度も危ない場面を作られた。バックラインが下がってしまったのがまずかったのは確かだ。しかし、岩波と植田は、北朝鮮のロングボールはしっかりとはね返していた。問題は、引き過ぎたこともあり、両翼に数的優位を作られ、ダイレクトパスやサイドチェンジを許し、精度の高いボールを入れられたことだ。
 このオッサンがベガルタを率いていた際にも、しばしばこのような場面が見られたな。うん、懐かしい。ところが、状況が悪くなりバックラインが下がったときはサイドMFが献身的に上下動をして、対処していたのだ。まあ、梁勇基と比較すれば、南野はまだまだ未熟と言うことか。
 ともあれ。上記のような失態があっても、失点はあの愉しいPKからの1点のみ。これは、各選手の切り替えの早さが格段な事による。チームメートがミスしたら、すぐに切り替えが利くのは大したものだ。国内の各若年層育成組織が育て上げたエリート達に、この意識をたたき込んだは、このオッサンの功績だな。
 緊張感あふれる1次ラウンドの3試合の経験で、各選手は成長し「おいおい」ミスは減っていくことだろう。南野はサウジ戦の終盤は的確な守備も見せ、北朝鮮戦のダメダメから脱却した。そうこう考えると、あの切り替えの早さがあれば、守備は相当計算できそうだ。

 では攻撃。
 このチームの前線の個人能力は相当高い。久保は常に敵ゴールを狙い、狡猾な位置取りと、ふてぶてしいシュートが格段。浅野の加速からのシュートの鋭さは、毎週Jリーグで感心させられている。南野のペナルティエリア内の技巧とシュートへの持ち込みは言うまでもない。気がついてみると、攻撃は相当強力ではないか。かつての五輪のFWを思い起こす。アトランタは小倉と城、シドニーは柳沢と高原、アテネは達也と大久保、北京は豊田と岡崎、ロンドンは大津と永井。そうこう考えると、久保、浅野、南野の組み合わせは、従来と何ら遜色ない、いやこの時点での迫力は優れているように思えてくる。
 問題は彼らに前を向かせ、己のイニシアチブでプレイさせるスペースを作れるか。
 そして、これが作れるのだ。大島の視野の広さ。遠藤の責任感あふれるボール奪取とパス出し。原川の丁寧な展開と持ち出し。矢島の引き出しと狙い済ましたラストパス。井手口の格段のボール奪取と正確なつなぎ。三竿の強さと高さ。そう、当たり前に当たり前の選手選考を行えば、何も問題ないのだ。

 大会前に様々な不安が語られた。けれども、結局のところ、よいチーム、よい選手を所有できている。イランも、イラク(UAEかもしれない)も、厄介だろう。しかし、これらの難敵とに対し、従来以上に戦えるチームができあがってきた。よい素材を育成する、日本中のサッカーおじさん、おばさんの貢献も何よりだ。そして、手倉森のオッサンもさすがなのだろう。
 丹念に、丁寧に、執拗に戦えば、リオ出場権獲得の確率は相当高いはずだ。

 ただし、不安もある。手倉森のオッサンが「凝り過ぎて、策に溺れるのではないか」との不安だ。
 ベガルタ時代、おのオッサンは、少ない戦闘資源を丹念に鍛え、格段の成績を挙げてくれた。この俺たちがACLまで行けたのだよ。このオッサンには感謝の言葉もない。そして、少ない戦闘能力を存分に発揮するためには、様々な駆け引きが必要だった。
 この五輪代表チーム、このオッサンは、ベガルタ時代には夢にも思えなかった、豊富な資源からの選択の自由を堪能している。そして、この3試合、その成果を存分に見せてくれた。期待通りの手腕である。3試合で、ほとんど全選手を起用し、極端に消耗した選手もいないはずだ。よい体調で、2次ラウンドを迎える。よほどの不運がなければ、イランとイラク(UAE)を破ってくれることことだろう。
 けれども、思い起こせば、このオッサンの駆け引き倒れを、幾度経験したことだろう。スタメンで使うべき選手を控えに置き、負傷者などの思わぬ展開で、よい選手を使い切れなかったこと。「展開は悪くない」などと語りながら、豊富な交代選手を起用せぬまま、消耗した選手のミスで失点すること。
 そう、不安なのだよ。このオッサンの「すべて計算通り」と語るドヤ顔が。例えば、ローテーション起用に拘泥するあまり、今大会、浅野も南野も、まだ得点がないと言う事実。この2人が、今後つまならいプレッシャにつぶれなければよいのだが。ついつい、このような余計なお世話を語りたくなることこそ、このオッサンの愉しさなのだが。

 うん。この不安感。ベガルタサポータのみが味わえる異様な感情。どうだ、うらやましいだろう。
posted by 武藤文雄 at 01:14| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月09日

手倉森ジャパン、アジア大会敗退

 ちょっと遅くなったがアジア大会について。手倉森監督率いる五輪代表候補チームは、地元韓国に苦杯、ベスト8に終わってしまった。

 考えてみれば。今大会、イラクと韓国に敗れた訳だが、両国とも日本とは異なるレギュレーションで選手を集めていた。
 イラクは、2007年アジアカップのスーパースタアのマフムードをオーバエージで起用。2007年大会で、最盛期の高原と大会トップストライカの座を争い、決勝で(日本が苦杯した)サウジを叩き潰したマフムード。このような要がいるとチームは強い。実際今回のイラクは、チーム全体が、まずマフムードにボールを集め、あるいは集める振りをして意表を突く、と言う攻撃の道筋が完全に整理されていた。例えば、今回の五輪代表候補チームに、寿人なり豊田を加えていれば、全軍の攻撃の道筋が明確になり、格段に強力なチームを作る事ができていた事だろう(そして、実績面でマフムードは寿人や豊田の上を行く)。この差は、どうしようもなかった。
 韓国は、大会規定に則り、U23+オーバエージでチームを構成。U23とU21の違いは大きい。例えば、日本が今回U23でチームを作ろうとしていれば、柴崎、宇佐美、武藤嘉紀、昌子と言った面々が選考範囲内となる。もうこれだけで、今回の日韓の戦闘能力差が「仕方がないもの」と認識される事だろう。しかも、韓国はここまでの試合で日本をよく分析。特に常時CBをしっかりと2人残し、鈴木武蔵を厳しくマーク。武蔵も無理な前進を繰り返してボールを失い続け、苦境を継続させてしまった。もう少し、判断力を磨いて下さい。
 実際、イラクも韓国も、戦闘能力では明らかに当方より、一枚上だった。そして、素直にその両国に2敗してしまった。残念と言えば残念。たとえ、いかに敵が格上だとしても、創意工夫で勝ち切るからこそ歓喜がある。いや、実際選手達はその格上相手に、相応には抵抗してくれた。イラク戦は守備の甘さはあったが、勇気あふれるパスワークで終盤、イラクを追い込んだ。韓国戦は、イラク戦の反省が活きたのだろう、最終ラインが整然と韓国の単調な無理攻めをはね返し続けた。よくはやってくれたとは思う。

 もちろん、細かい文句を言い始めればキリがない。イラク戦の終盤猛攻時に、中島や野津田のシュートの雑さは残念だった。中島の精力的なフリーランはこのチームのストロングポイントだったが、この逸材は小柄なだけに得点力を磨く事はとても重要なはずだ。野津田には「左利きの天才肌選手は過去無数にいたよ、俊輔と本田以外にも」とだけ、言っておこう。
 韓国戦の大島のPKは、笑い話と言えなくもない。しかし、少なくともこの主審は、再三同様なファウルを取っていたのも確か。大島には、もう少し冷静にプレイして欲しかった。一方で、大島にこれだけの失敗経験を積んでもらう事ができたのだから、このアジア大会は大成功と言えるかもしれない。陳腐な言い方になるが、大島には自覚して欲しい。彼からすれば「神」としか言いようがない中村憲剛が、とうとう代表の定位置を確保し切れなかった事(もちろん、憲剛の物語は終わっていないのだが)、そして2歳年上の柴崎よりも高いレベルのプレイができなければ日本代表での定着もないと言う事を。

 などと、前途有望な選手に、思いをはせるのもまた愉しい。北京五輪時に、誰が「岡崎がブンデスリーガの得点王を争う」と予想できただろうか。
 
 負けたのは悔しいが、安堵感も感じている。イラクや韓国が、我々よりも有利なレギュレーションで選手を集めておきながら、我々が簡単に勝てるとしたら、それこそ大問題ではないか。
 考えてみれば、五輪アジア予選のレギュレーションも不思議と言えば不思議。本大会に合わせ、オーバエージを加える事を許可しても矛盾はないはず。もっとも、そんなレギュレーションになれば、日程破綻している日本はオーバエージを選考できず、予選敗退のリスクが格段に高まろうが。まあ、そうなったら仕方がない。たかが五輪なのだから。

 そして何より。このチームを率いているのが、「俺たちのテグ」なのだ。テグの稠密さ、自己本位の墓穴、得点時の歓喜、苦境時の強がり。俺たちは皆、よくよくよく知っている。そして、「俺たち」の時とは、全く異なる素材の質の格段の高さ。単純な嫉妬だな。
 うん、何と、俺たちは幸せなのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする