2008年07月28日

アルゼンチン五輪代表戦前夜

 昨日の日程破綻に関するエントリに、早くも多数の反応をいただき多謝。中でも、秋春制の具体的日程案を提示いただいたNOさんには、改めて事実上秋春制が実施不可能である事を示していただき、感謝の言葉もない。ウィンタブレークの代わりにオフを短くして、かつ代表の活動期間とウィンタブレークを一致させなければ、日程消化すら困難な事をわかりやすく説明いただいた。提示いただいた案のように、新チームの選手契約の時間がほとんど取れないくらいのトリッキーな日程を作っても、ワールドカップ予選がある年への対応は困難な事、ACLに出場するクラブが地獄の日程をこなさなければならないのも、よく理解いただけるだろう。

 さて、明日は五輪代表のアルゼンチン戦。
 2年の月日をかけてじっくりと選手選考し、最後の2週間だけで連携を強化する独特の...(おっと、これは禁止したのだった)馬鹿を言っている場合ではないな。豪州戦では特に攻撃面で顕著な進歩が見られたが、今度は世界最強国にどこまで通用するか。今まで個の能力に頼ってきた(しかしアジアでは圧倒的な強さを見せていた)守備力が、いかに組織化されリケルメやアグエロに対抗できるのか。大変愉しみな試合だ。

 いくつか思い出話。

 まずは監督のセルヒオ・バチスタ氏。おお、あの史上最高のトヨタカップのアルヘンチノス・ジュニアーズの、あのバチスタではないか。
 あのアルヘンチノスの鋭い攻撃は、今なお、目を閉じれば思い出す事ができる。最前線の高速ギアチェンジが冴え渡る若きエース、クラウディオ・ボルギを軸に、次々と後方から選手が湧き出してくるアルゼンチン独特の攻撃の美しさ。そして、中盤後方でその攻撃を組織していたのが、バチスタだった。当時若手の有力代表候補だったバチスタは、その後もどんどんと昇進し、翌年のメキシコワールドカップでは、ディエゴの後方を支え世界チャンピオンに。90年イタリア大会でも、負傷者、出場停止者山積のチームで冷静な球さばきを見せ、決勝進出に貢献した。
 その後、バチスタはPJMフューチャーズで来日するなど、日本にも縁が深い。当時の自分くらいの年齢の若者達を率いて、ミシェル・プラティニ、故ガエタノ・シレア、アントニオ・カブリニらと、美しい攻め合いを演じた国立競技場に23年振りに立つ時、セルヒオ・バチスタは何を思うのだろうか。

 アルゼンチン五輪代表との手合わせは4回目。
 最初は東京五輪。私はまだ幼く全く記憶がない頃の話。川淵の決勝点で日本が逆転勝ち(日本はA代表、先方はユース代表クラスだったのだろうが、強い相手に勝ったのだから素晴らしい実績だ)。ちなみに引退後も川淵氏は外国人代表監督の招聘など、日本サッカー界に多くの貢献を行ったが、晩節を汚し、心あるサッカー人達から軽蔑されているのは皆さんご存知の通り。しかし、どんなに馬鹿にされても、このようなプレイでの記録だけは色褪せない。
 一方、一番最近は98年トルシェ氏就任直後の練習試合。A代表のエジプト戦に続いて、トルシェ氏は独特のフラット3を披露。稲本のクサビを福田が落とし、俊輔がこれ以上ないと言う芸術的なループで決勝点を決めた。ループの軌跡の美しさ、このような強豪を技巧で崩すことができる時代が到来した事、いずれも忘れ難い思い出だ。
 88年ソウル五輪。異様な守備戦術で出場権を逃した日本のA代表は、ソウル入りする前の強豪国の調整相手として格好で、アルゼンチンとソ連の五輪代表と国立で手合わせを行った。当時のA代表は、不可解な3−3−2と言うフォーメーションを操る監督が率いる暗黒時代。しかし、選手の能力はそれなりに高く、若き井原正巳を軸によく守り、A代表のレギュラを多数抱えるアルゼンチン五輪代表とよく戦い、終盤まで0−0で試合は進む。そして終了間際にGK松永のいかにも彼らしいファンブルで失点し敗北。強いチームにはどうにも勝ち切れない頃だった。

 ともあれ、過去も様々な因縁があるアルゼンチン五輪代表。好試合を期待したい。
 もっとも、私の願いは明日ではなく5回目の対決となる北京本大会。「44年目の返り討ち」に乗じて、大嫌いな川淵氏が偉そうに現役時代を振り返る映像を、待ち望むものである。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月24日

上々の豪州戦

(失点場面のテレビ解説を揶揄しているのですが、どうやらその発言は小倉氏ではなくて、相馬氏だったようです。小倉さん、失礼な事言ってごめんなさい)

 よい試合だったと思う。
 このチームはこれまでも攻撃力、それも連携面が課題だったので、見事な2得点を含め攻撃は及第点だろう。香川が完全にチームを仕切り、本田圭が助演を務めるMF。さすがにA代表のレギュラは違うと思わせた内田と長友。そして、最後に得点を決めて突き放す事にも成功。一方で、これまでこのチームの長所だった守備には問題点が散見された。

 同点弾は美しかった。
 左サイド奥深くにオーバラップした長友が獲得したスローインからスタート。長友が顔を出した細貝(前半終了間際に負傷し、後半早々に退いたが、やはりこの選手が中盤に入ると守備が安定する)が一拍はさみ香川へ。香川は本田圭にはたきリターンをもらうと、視野の広さを活かして逆サイドの内田へ。その横パスを敵DFが引っ掛けるも内田が巧く拾い、内田は中央にグラウンダの斜めパス。飛び出してきた忠成がスルー、森本が(上から見て)時計回りに反転し、左足シュートを狙うかと思わせて、ボールを流すと、後方から長躯してきた香川が巧く抜け出してGKと1対1になり冷静に流し込んだ。
 これは実に重要な得点だ。このチームでは過去ほとんど見る事ができなかった遅攻からの相互連携を活かした美しい得点だったと言う意味でも、(このチームでほとんどプレイしていないにもかかわらず、このチームの攻撃の中核となる事を要求されている)香川が展開の起点となり最後も締めたと言う意味でも。
 約2年の月日の準備を重ねた上で、連携トレーニングが今回の合宿から始まったのではないかとの突っ込みは禁止します。

 決勝点は、香川が左タッチ際で敵に絡まれボールを奪われそうになった所に、岡崎、安田の2人が巧くプレスをかけてボールを奪取したところから始まった。ボールを受けた梶山が岡崎に当て、岡崎が谷口に落とし、谷口が左オープンに開いた安田を走らせ、安田がゴールライン近傍でDF2人を引き付けて、谷口に下げる。全くフリーの谷口がアーリークロスを上げ、岡崎がダイビングヘッド。豪州GKがボールを見送る仕草をしたため、テレビ桟敷からは「外れたのか」と瞬間残念に思ったが、何の事はない、敵GKの判断ミスで、歓喜の決勝点と相成った。もっとも、あのコースなので、GKが正しく反応しても取れなかっただろうが。
 高さのある豪州に対して、よい位置でボールを奪い、巧く外をえぐった上での後方からの速いクロスに「闘う」FWがアタマでねじ込むと言う理想的な決勝点だった。

 攻撃面で、速いパスと鋭い走りで豪州守備陣を切り裂いた事は高く評価されるだろう。ここまでやれるならば、オランダや合衆国の守備網をそれなりに悩ませる事ができるはずだ。
 何より一番驚いたのは、香川と本田圭の間によい意味での主従関係が出来上がっていた事。本田圭という選手はボールをさばく能力は疑いないが、自分の間合いでボールを持たないと仕掛けが始まらない。そして、その自分間合いに持ち込もうとしないあたりが不満だった。ところが、この日は香川に主役を譲り、使われる中で再三持ち味も出していた。同点劇の仕込みでの香川へのリターンや、後半香川の長いスルーパスから抜け出した場面などは秀逸だった(もっとも、左アウトのシュートを当て損ねて大減点だったが)。香川にマークが集中したら、この2人ならば役割を切り替える事も可能だろう。この2人にとって幸いなのは、北京に向けての一連の準備や本大会での厳しい試合は、お互い同士のみならず、気鋭のA代表サイドバック達と連携を高める絶好機である事。A代表のポジション争いのライバルである先輩達には、このような機会は南アフリカ本大会直前の集中合宿までは訪れない。北京で光り輝いて、山瀬と松井を追い抜く気概で努力して欲しい。
 先般酷評した岡崎と豊田の充実も嬉しかった。岡崎は得点場面の他でも期待通りタフなプレイを連続、守備であれだけ貢献して、なお見事な得点を決めた。豊田も後方からの長いボールをしっかりと保持し、後半の攻勢の起点となった。この調子で精進し、本大会での謝罪機会の提供を期待したい。

 一方で守備面は気になった。
 失点場面は、完全に吉田個人の問題。最初のボール提供も酷かったが、水本がうまくウェイティングしたにもかかわらず、そのカバーにのみ専心し後方の選手の進出を見損ねたのは論外。アタマのよさそうな選手なので、ミスが重なり失敗も具体化したこのような場面は、よい意味での「反省体験」としてくれると、前向きに捉えよう。余談ながら、この失点場面のTV解説の小倉氏(だよね、まさか相馬氏ではないよね)の発言は大問題。何と、「ウェイティングした水本が当たりに行かず、余裕でラストパスを出されのがいけない」と語っていた。昔から「TV解説者で生き残るためには、アナウンサが間が持てるように、とにかく喋る事」と言われているが、ここまで極端に間違った事を喋るとやばいんじゃないの。それとも、松本育夫氏の道を狙っているのか。
 失点場面より気になったのが、中盤の守備。もっと、敵の攻撃を中盤で止めたいところだ。特に後半の半ば以降、せっかく豪州の足が止まった時間帯に、こちらも中盤がスカスカ気味になってしまった。結果的に、試合終盤やや殴り合いに近い状況に陥った。それでも先方の疲弊度がより高く、かつ疲弊後の戦闘能力差が歴然としていたために、トドメを挿す事ができたに過ぎないのだ。
 同様に、敵が長いボールを入れてきてセンタバックがはね返したのを拾いそびれるのが目に付いた。終盤に、吉田が1度はね返したボールを拾われ、サイド左サイドからアーリークロスを上げられてクロスプレイになり、今度は吉田がかろうじてCKに逃げた場面はその典型。特に合衆国やナイジェリア戦の終盤は、このような交通事故の機会を最小にする工夫が必要だろう。
 中盤守備の甘さは、アジア予選でも再三問題になったが、最後のところで水本と青山直がハンマーのように敵の攻撃を止めていたので問題は顕在化しなかった。しかし、これからは相手の質が違う。しかも、両サイドバックの攻め上がりが攻撃の軸となるチームだけに、中盤の守備の一層の充実が必要だ。おそらく中盤後方は細貝が軸になるのだろうが、森重、本田拓、谷口とどのような併用を行い、消耗を防ぎつつ守備を固めるのだろうか。

 豪州、アルゼンチンを準備試合に招聘したのは大ヒットだろう。同等レベルの豪州戦(しかも初戦で闘う合衆国に比較的近いスタイル、もちろん合衆国のパス回しはより速く、一方で単純な強さは豪州の方が上だろうが)で見えた良さ、悪さが、最強国相手に再検定できる。
 アルゼンチン戦では、中盤で劣勢になるだろうが、どの程度の頻度でしっかりとした攻め込みができるか。その数少ない攻め込みから、攻め切る事ができるか。高速パスワークをどのくらい中盤で止める事ができるか。こぼれ球をどの程度拾う事ができるか。最前線勝負となった時に、当方のセンタバックは強力FWにどこまで抵抗できるか。

 少なくとも、五輪本大会前にベストメンバも固まりそうだし、4年前のアテネよりは状態よく大会を迎えられそうな気運になってきた。残り時間は短いが、反町監督得意の逆算に期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(8) | TrackBack(1) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月17日

続反町康治に改めて期待する

 私は、五輪代表監督に就任してからの反町氏のチーム作りには多々疑問を抱き、散々悪態をついてきたが、一方で相応に五輪本大会に期待していた。今回の五輪代表は最前線こそ人材に欠けるきらいはあるが、中盤より後ろの人材は強力な事。東アジア独特の多湿な気候でしかも比較的短期な大会なので、気候に慣れていて体調を整えやすい日本に有利な事(2002年大会でも列強の早期敗退の要因の1つに気候があった、もちろん独特の審判判定もあったけれど)。そして、アルビレックス時代の実績から考えても、反町氏は短期決戦に逆算的にチームを作るのは巧いのではないかとの期待もあった。
 実際、アンゴラ戦、トゥーロン大会、カメルーン戦と、日本の試合振りは悪くなかった。特にただでさえ強かった最終ラインに新たに吉田、森重が加わり、サイドバックの面々は次々にA代表で実績を挙げるなど、後方の選手の充実は中々だった。反町氏も以前のように、2軍3軍を構成して悦にいったり、強力なサイドプレイヤがいるのにその前にFWを3人並べたりする無意味な策を繰り返したり、攻撃が得意な選手を並べて守備的に戦い自ら事態を悪化させるような策を弄する事もなくなってきた。あれほど嫌っていた谷口(この年代の中盤選手では最高の実績を持つ選手と呼んでも過言ではなかろう)を起用するようになったのも納得できる采配だった。もっとも、森本のワントップには感心しなかったが。

 そう思っていた矢先の過日のオーバエージ選考の顛末には大いに失望させられた。オーバエージを使わないのが日本だけとの報道を耳にすると、いよいよ日本協会の不首尾にも、反町氏の無策にもいらだちを感じずにはいられない。繰り返すが、サッカーは経験豊富な選手がいた方がずっと強いチームを作れる競技なのだ。そして、そのような強いチームで上を目指すからこそ、若者達は一層成長する事ができる。そのための準備の拙さにも失望してきたが、諦めの良さには驚きを禁じ得ない。A代表選手を除いても、いくらでもこのチームを強くできそうな選手は多数いるのは再三繰り返した事。例えば、以前も少し触れたが、中田浩二をこのチームに加えると言う手段もあったと思う。
 そして、今回の最終メンバ選考。さらに考え込んでしまった。明らかに攻撃面では華やかさに欠けるメンバ編成。ではリアリズムに徹してとにかく全試合無失点を目指すのかと言うと、そうとも言えない。何とも中途半端なメンバ構成だと感じずにはいられないのだ。

 さすがに青山直晃の不選考には驚いた。このチームの予選突破時点での最大の武器は、西川(負傷離脱の際は山本がよく頑張った)、青山直、水本の強力な守備と、青山直の得点力だったのだが。
 最大6試合戦うレギュレーションの戦いにも関わらず僅か18人登録と言うのがそもそも非常識なのは確か。そして、不思議な事に世代別代表チームというのは、特定のポジションに人材が偏る事がある。今回はそれが最終ラインだった訳だ。枠の少なさから、スペシャリストよりもジェネラリストが優先され、細貝と森重が選ばれ、純粋なセンタバック3人を2人に減らすと言う事になったのだろう。「だったら、今期のJでの実績から、水本を落した方が妥当なのではないか」などの茶々を入れたくはなるけれど。
 もっとも、よい守備者がたくさんいるならば、そのようなタレントを生かし守備を固めるチームを作ると言う方策もありだと思う。たとえば、水本や森重をサイドに回し、A代表サイドバックトリオのいずれかをサイドMFに起用したり、吉田や細貝を中盤の底に並べ徹底して守る策だ。これは奇策と言ってもいいだろう。しかし、アジア予選と違い相当な強い相手に複数回勝とうと言うのだから、それなりの奇策も必要なはずだ。
 けれども、反町氏はそれを好まなかったと言う事だろう。攻守両面の潜在能力は非常に高いが、しばしば消えたり気を抜いたりする悪癖が抜け切れない梶山を選考したのも、「単純に守る気はない」と言う気持ちの現れだろう。

 一方で最前線のメンバを見ると、別な意味でわからなくなる。
 今回のチームは明らかにFWは人材不足気味だ。もっともこの世代がユース時代には、「平山と前田俊介がいたので、日本にはまれなストライカ(FWではなく、ストライカである事に注意)が揃った」とぬか喜びしていたのだが。現状でJでレギュラを獲得していて、このチームで実績があるのは、李忠成くらい。反町氏もここの選考に相当悩んだのだろう。そして、決定的なタレントが少ないためか、逆にFWに4枠使うと言う選択を行ったようだ。
 李忠成は当然の選考、森本は一皮さえむけてくれればボカスカ点を取る雰囲気を持っているのでこれまた当然か。しかし、豊田も岡崎もよい選手だとは思うがこの2人を揃えてメンバに残して、攻撃力が豊かな強力MFを落すとなると、どうにも納得できない。具体的に言えば、梅崎や柏木、あるいは思い切って金崎と言った、実績のある面々の方がよかったのではないかと思うのだ(試合勘の欠如からか切れ味を失った水野は仕方がないだろうが)。もちろん、本田圭と香川は悪くない。しかし、この2人だけで列強の守備ラインを幾試合も続けて破ることができるだろうか。
 もちろん、豊田も岡崎も敢闘精神あふれる戦えるFWだ。技巧派の起用を最小限にして、敢闘型の選手を多数選考するのも一手段だろう。けれども、そうするならば、青山直を残し、梶山を外すなど、「守る」と言う事に徹底したチームを作るべきだったのではないか。

 と、考えれば考えるほど、今回の選考は、どこかで中途半端なものを感じてしまうのだ。オーバエージの混乱と合わせ、反町氏は監督としての自分が最も輝いていたアルビレックス時代の再来を狙い、わざと中途半端で窮屈な選手選考を行ったのではないかとすら思ってしまう。
 しかし、決まった事だ。こうやって講釈を垂れるのはそれはそれで愉しいが、とにかく応援に専念しよう。

 ちょっと話題を変える。
 ここ最近のワールドカップや五輪を思い出してみよう。日本は世界中のいずれの国に対しても、それなりには戦えるのだ。ドイツでは、あれだけチーム全体のコンディションが悪く、監督の交代策が異様だったにも関わらず、豪州を終盤までリードし、クロアチアとは引き分けた。アテネでは、大会に入っても監督がテストを繰り返す信じ難い状況下で、(敗れはしたが)イタリア、パラグアイからたくさん点を取り、敗退決定後にも頑張ってガーナを倒したのだ。ただし、「それなりに戦う」と、「勝ち切る」一歩譲って「守り切る」との差は確かに大きいのだが。
 「マカイのいるオランダに勝てる訳がない」と言うのは、サッカーをしっかりと見ていない人のたわ言に過ぎない(もちろん私だって、簡単に勝てるとは全く思っていないし、負ける確率もそれなりのものだとは思っているよ)。先日、オランダ監督が「よいグループに入れた」と語ったインタビューが話題になったが、よく読むと彼が最も警戒しているのは「会場国に距離が近く気候が似ている」日本だった。
 さすがに、リケルメとメッシがいるアルゼンチン、カカーと(たぶん)ロナウジーニョがいるブラジルに勝つのは相当難しいだろう。けれども、今からコンディショニングを含めたよい準備をして、スカウティングを充実させ、敵の嫌がる事を徹底し、ほんのちょっとの幸運に恵まれれば、ほとんどの国とは相応に戦えるはずだ。安田の意気やよしである。

 五輪予選での主軸選手で、本大会メンバからギリギリで落ちたと言えば、遠藤と啓太が思い起こされる。ここは青山直には、この2人の先輩の後を継ぐ捲土重来を期待したい。いや、選考外になった全ての選手も。勝負はまだまだ先なのだ。
 また、梶山、岡崎、豊田らには大変失礼な表現をさせていただいた。今回の五輪最中に彼らに(そして彼らを選考した反町氏にも)謝罪する機会が来るのを、切に望んでいる。そして、全選手には誇りを持って準備に取り組み、戦い抜いて欲しい。4年前とは違い、活躍さえすればA代表はすぐそこだ。

 上記したが反町氏は、ここから先は、正にアルビレックス時代に得意とした世界に突入する。相対的には決して恵まれない戦闘能力のチームを率い、審判の癖や敵将の性癖を分析し、壁の順番や想定される敵の交代それぞれにまで事細かに指示を行い、自分のインタビューを選手が聞く事まで織り込んだ発言をして、多くのサポータに歓喜を提供し続けた(「した」ではない「し続けた」のだ)あのアルビレックス時代だ。
 よい成績を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(13) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月04日

五輪代表オーバエージ招集不発問題

 「だから言ったではないか」
と言うのが、今回の五輪代表オーバエージ騒動、特にヴィッセルの大久保派遣拒絶に関する私の意見である。
 以前より幾度も述べているが、日本のトップレベルのサッカー界は破綻する日程問題の最中にあり、五輪開催中もJリーグは開催される。また、ワールドカップ予選で代表選手は過酷な試合数をこなさなければならない。このような状況下で、いかに五輪代表がオーバエージを使うか。過日述べたが周到な計画性が不可避であり、具体的には早い段階でA代表選考からもれている優秀なオーバエージ選手の指名を行うべきだったのだ。
 いや、それでもA代表選手を使いたいと反町氏が考えるならば、もっと早い段階にどの選手を選考するか決定し、早い段階からクラブと折衝すべきだった。クラブ側も準備期間が長ければ対処のしようもあるし、交渉が決裂したら他の選手(クラブ)に打診する時間的余裕があったはず。
 それでも、通常のリーグ開催時の中心選手の長期離脱は、相当クラブからの反発を招いたはずだ。その反発を予想していない反町氏と協会首脳の能天気さは何なのだろうか。いや、アルビレックス時代の反町氏の(よく言えば)用意周到(悪く言えば)細か過ぎる準備を考えると、もっとうがった見方(もちろん邪推です)をする事も可能だな。反町氏に対して、協会首脳が「大丈夫、いざとなったらJチームに拒絶権はないから」と語っていたにも関わらず、直前で反町氏はハシゴを外されたのではないかと。

 遠藤の離脱については非常に不運としか言いようがないが、五輪云々以前に遠藤の体調が心配だ。一昨年も遠藤は病気で長期離脱を余儀なくされたが、ワールドカップ予選、アジアチャンピオンズリーグと重要な試合が控える状況を考えれば、そもそもオーバエージとして五輪に連れて行くことそのものに無理があったような気がする。まずは体調の回復を祈りたい。

 また、逆説的な言い方になるが、元々オーバエージを2人しか起用しないと言う判断も気になった(「西川離脱に備えて楢崎に期待した」と言う報道があったが、どうも論理的な整合がよくわからない、「もし西川が負傷した際はGKにオーバエージを起用し、別なオーバエージのフィールドプレイヤを外す」と言う理屈ならば理解できるのだが)。さらには、反町氏に問いたいのだが、大久保、遠藤が招集できなくなったのは仕方がないが、もうオーバエージの招集は諦めてしまっていいのだろうか。上記で述べたように、小笠原、明神、寿人あるいは中村直志あたりを呼ぶ手はあると思う。また、A代表のトライアルと言う視点から、最近好調の我那覇、飛び出せるMF小川あたりなど面白いのではないか。
 言うまでもなく、オーバエージを加えた方が格段に強いチームが作れるはずだ。サッカーと言う競技において経験が非常に重要。もちろん、23歳以下でもトップレベルの能力を持った選手は世界中に多数いる。北京大会に出場しそうな選手でもメッシなどはその代表格だ。日本においても、釜本邦茂、井原正巳、中田英寿らは、その年齢で既に日本代表において中心選手と言うよりは、傑出した存在になっていた。
 けれども、多くの選手は23歳以下では完成せず、そのあたりの年齢層のみのチームでは、駆け引きや安定度や精神的な粘りに課題が残る。そこに経験豊富な選手を3枚入れる事ができれば、チームのバランスは格段に向上し、戦闘能力は高まる。まともな監督が、まともなオーバエージ選手を3名選考すれば、格段にチームは強くなるのだ。この場合選考される選手は、必ずしも「スーパー」な選手である必要はなく(もちろん「スーパー」な選手ならば、なおさら有効だろうが)、若い選手にない精神的な落ち着き、老獪な読み、、チームのための献身性などの特長があれば、それだけで非常に有効な「補強」になるはずだ。そのような意味で「オーバエージ枠を五輪に設けた事」で、五輪サッカーの質は格段に上がった。
 よく「若い選手にベテランを急に入れるとチームのバランスが崩れる」などと言う向きがあるが、もしそうならばそれは監督が無能なだけである。しばしばアテネ五輪でオーバエージの加入がチームのバランスを崩したとの論評があるが、それは問題をすり変えている。4年前の山本氏は3月に予選に勝利した後も、時間が限られていると言う事を考えずに「競争」と言う名の下に多数の選手を選び続け、オーバエージ選考の選手を含めベストメンバを判断し切れなかっただけである。
 そのような観点から、私は反町氏が妙にオーバエージ選考に拘泥しない事が気になってしかたがないのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(22) | TrackBack(2) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月21日

北京五輪組み合わせ発表

 北京五輪のグループリーグの組み合わせが決定した。
A組:アルゼンチン、象牙海岸、豪州、セルビア
B組:オランダ、ナイジェリア、日本、合衆国
C組:中国、ニュージーランド、ブラジル、ベルギー
D組:カメルーン、韓国、ホンジュラス、イタリア
 悪くない組み合わせではないか。と言うのは、組み合わせ決定のやり方は、
(A)シードは中国、オランダ、カメルーン、アルゼンチン
(B)地域ポッドは
    アジア:中国、豪州、韓国、日本
    欧州:オランダ、セルビア、ベルギー、イタリア
    アフリカ、オセアニア:カメルーン、象牙海岸、ナイジェリア、NZ
    アメリカ:アルゼンチン、ブラジル、ホンジュラス、合衆国
だった事を考えると、
1)アメリカポッドからアルゼンチン、ブラジルは回避できた
2)中国とは同じアジアなので同グループにはなれない。五輪への「本気度」を考慮すれば、残りのシード国のうち、カメルーン、アルゼンチンよりはオランダが低い事が期待できる。
3)アフリカ、オセアニアポッドのNZは中国と同じグループになる事は決まっていた(はずだ)。残りのアフリカ3国はどこが来ても同じくらいの強さだと推定される。
 豪州よりは楽な組だし、韓国とはどっこいと言うところではないか。贅沢を言えば、カメルーンのグループに入り、ベルギーと、ホンジュラス、合衆国のいずれかと、同じグループになれば、よりよかったように見えるが、ベルギーとオランダとどちらが強いかなど、想像もできない(ただし、今回のオランダは4年前のワールドユースで痛い目に会った世代同士の戦いではあるな)のだから、これ以上の組み合わせは期待できなかったと考える方が健全だろう(ベルギーが中国のグループに入る事も決まっていたと言う見方もあるが、そう考えると中国のグループにホンジュラスでなくブラジルが来たのは不思議だ)。

 五輪と言えば、4年前山本氏が、大会に入った以降もベストメンバを固められず惨敗した記憶が新しい。しかし、今回の五輪代表のチーム完成度は明らかに4年前以下だろう。少なくとも、山本氏は02年末のアジア大会時点で、チームの基盤を作るのに成功していた。そして、1年間「テストごっこ」を継続する事でチームをガタガタになってしまったが、04年早々に帰化した闘莉王、ユースから今野が加わりチームに軸線ができて、一気にチーム力が向上、苦戦もあったが実力を発揮し、最終予選を突破した。その後、またも「テストごっこ」が五輪本大会まで継続するのだが。とは言え、最終予選終了時点で、闘莉王、那須、今野、阿部、大久保、達也と言ったあたりはチームの中軸となる事が判明しており、そこに小野や曽ヶ端などのオーバエージを巧く組み合わせれば、それなりにチームをまとめる事は可能だったと思われるだけに残念だった。

 ところが、今回のチームは中軸そのものが揺らいでいる。西川、水本、青山直、本田圭、水野、それに柏木あたりが中軸として実績を上げている。ところが、彼らの多くに大きな変化が生じている。中でも、予選を通じて抜群の能力を見せ続けた水本の大不振と、抜群の突破力を誇った水野(守備面で大ポカもあったが)が強豪クラブに移籍した関係で試合出場機会が全くない事の2点は極めて深刻な事態と言えよう。もちろん、今のJリーグからは水本、水野の代わりが務まりそうな吉田、森重、河本(あれ、吉田の他は今回の合宿に呼ばれてないのか)、梅崎、香川、大竹のような好素材が次々に登場しているが、Jリーグが中断するまでは集めての強化の機会は、ほとんどないのがつらい。
 結局、勝負はJの中断期間でのチーム作りにかかるのだろう。考えてみれば、今回のチームは、必ずしも組織的とは言えないが、アジアの中での圧倒的な「個」の力で予選を勝ち抜いた。つまり、元々の基盤がないのだから、A代表の構想外になった優秀な選手をオーバエージとして選び、6月までのJで調子のよかった選手を並べ、集中的なトレーニングと強化試合でチームを作るやり方はそう無理ではないと思う。
 予選を通じて、反町氏は豊富な選手層から良好な選手を並べて連携を作る能力を示す事ができなかった。しかし、アルビレックス時代には、恵まれない戦力を最大限に引き出し、プロジェクト的に戦う能力は高かった。これって、現状の五輪代表にピッタリした能力なのではないか。それでいいのかと言う事はさておき。
posted by 武藤文雄 at 23:51| Comment(5) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月23日

反町康治に改めて期待する

 サウジ戦の開始早々のピンチ。軽率なファウルで与えてしまった(このファウルそのものも残念だったが)ゴール正面やや遠方でのFKが起点だった。敵のシュートが壁に当たり、そのまま日本がよい体勢で逆襲速攻できそうな状態になった。ところが、右サイドハーフウェイライン直前で、水野が強引に敵DFに1対1を仕掛けて完敗、ボールを奪取される。そして、そこから右サイドを完全に崩され、強シュートを西川が止めきれず、「ありがとう青山敏弘」に至った次第。
 水野と言う選手は、このチームの切り札的存在。攻撃においては圧倒的存在感でこのチームを引っ張ってきた。これは前身のユース代表時代からなのだが。一方で過去の試合も幾度となく低い位置で軽率なプレイを見せてチームの危機を誘引した。そして、この場面、またも同じミスをしてしまったと言う事だ。

 そもそも、反町氏はベトナム戦でよく機能していた4DFを、この試合で3DFに変えたのは
サウジの2トップは強烈です。予選の試合は全部見ましたが、ほとんどこの2トップが得点をとっていました。つまり、それプラス7番と20番の選手をどう押さえるかが、このゲームの命題でした。この2トップに仕事をさせないことを考えないと厳しいと考えていました。手ごたえとしては、ダンマンでの試合でも同じことをやっていい対応ができていたので、それを続けることで、選手の不安を一蹴するということでした。
と試合終了直後のインタビューで語っている
 しかし(試合終了直後で混乱していたのかもしれないが)、この発言には相当な矛盾がある。両翼に張り出してきた7番のアルゴワイニムと20番のアルダウサリに対し、水野と本田圭が適切に対応できなかったのが、前半の最悪の展開の要因だった。さらに言えば、敵地(ダンマン)での試合は右アウトサイドMFは内田が起用され、水野はもう1枚前でプレイしていた。そもそも、このチームの課題は国立ベトナム戦まで3DFで戦い、右アウトサイドMFの水野が守備に引っ張られる事だった。それが、敵地サウジ戦で内田を右アウトサイドに起用した事で解決され(この試合に関しては水野の使い道が決まらなかったのは新たな課題だったのだが)、さらに4DFで縦に内田、水野を並べる事でより状態がよくなって、ここに至っていた。それなのに、この日のフォーメーションは何だったのだろうか。せっかく解決していた課題を、再度噴出させてしまい、あの悪夢のような前半を招いただけに思うのだが。
 もっとも、ハーフタイムを境にチームは劇的に改善された。好意的に見れば、反町氏の修正能力と言うのかしれない。しかし、現実的な評価は「不適切なスタメンと試合前の指示」と言うべきだろう。

 私は過去も五輪代表反町監督を再三再四批判してきた(リンクも貼るのも疲れるから、興味のある方は、左側の検索窓に「反町 五輪」とでも入力して過去のエントリをお読み下さい)。そして、歓喜を呼んだ予選最終戦における反町采配も、上記の理由で全く評価しない。

 けれども、私は北京五輪における反町監督に大きな期待をかけたいと思っている。
 何のかの言って、アルビレックスをJ1に昇格させた反町康治の手腕は絶品だと思っているのだ。日本人の指導者で反町康治に勝る実績を持つのは、岡田武史氏と小林伸二氏くらいだ。そして、反町康治はまだ若い。

 何ら評価に値しない反町康治の五輪代表経験。
 しかし、彼は「最低限」の結果を残した。考えて見れば、経験と言う観点から言えば最も貴重なのは「失敗経験」なのだ。そして、反町氏はこの五輪代表予選とその準備試合で、再三再四「失敗経験」を繰り返した。しかし、あれだけ「失敗経験」を重ねながら、とうとう反町康治は北京にたどり着いた。本当に本当に「最低限」の結果は残したのだ。
 もう1つ。これまでの反町康治にとっての、ほんの僅かな不運は、GK、DF、MFにはあふれ出る人材を抱えながら(もっとも、そのあふれ出る人材を有効に活用したとは言えなかったが)、FWだけはこの世代は(現状では)タレントに欠いていた事。平山はアレだし、カレン・ロバートはここのところ不振だったし、李忠成が今期安定したプレイを見せていたくらいだった。しかし、北京ではそのような世代的な凹みを気にする必要はない。高原でも前田遼一でも大久保でも達也でも、好きな選手を補強できる。
 加えて、中盤後方で拾いまくる選手が欲しいならば、啓太はもちろん明神でも今野でも補強できる(試合終了後の祝賀会で、だいぶ酔っ払って「オーバエージは明神、啓太、今野の3人で行こう!」と叫んで、皆にたしなめられました)。しかも、このチームは最終ラインに西川、水本、青山直が揃っているから、通常補強メンバとなるGKとCBの補強が不要なのだ。いや、中澤か闘莉王を補強して(2人共でもいいけど(笑))、超強力な3DFを組んでもいいし、南アフリカを見込んで水本を左DFにしてもよい。いや、中村だって、遠藤だって、憲剛だって、松井だって、駒野だって、加地だって。
 そう、反町康治はオールマイティのカードを握っているのだ。我々は史上最強の布陣で北京に臨めるのだ。

 だから、改めて俺は反町康治に期待したい。金色だよ、金色。
 金色のメダルを取ってくれ。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(27) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月22日

五輪代表北京出場決定

 このような試合については、「出場決定」直後にまずは興奮して歓喜を文章にしておかないと、どうにも書きづらい。書くタイミングを逸してしまったため、結果的にひたすら辛口の評論のみになってしまう。

 正直言って、私は前半途中半ばで予選敗退を覚悟した。
 このような思いを抱いたのは、93年のドーハイラク戦1−1に追いつかれた以降もイラクの猛攻にさらされ続けた時以来だった。
 97年のジョホールバル、岡野の決勝点直前の、アリ・ダエイの一撃がバーを掠めた際は、まだ豪州戦が残っていた。ジーコ時代にもっと苦しい試合はいくらでもあったが、ワールドカップ予選が煮詰まった試合では、非常質が高い試合を見せてくれた。シャーラムでサウジの猛攻を川口田中誠が凌いでいた時は、リードはしていたし、負けてももう1試合残っていた。国立アテネ予選でレバノンに追いつかれた時は、大久保がすぐに問題を解決してくれた。
 青山敏のクリアで事なきを得た大ピンチ(詳細は別途)があった事が問題ではなく、後方の選手が全く押し上げないプレイ振りにあきれたのだ。
 押され気味だった日本、散発的ながら逆襲を行なう。ところが、その逆襲時に攻め上がるのは、2トップの李、岡崎、トップ下の柏木、そしてサイドMFの本田圭と水野のどちらか1人だけ。サウジの攻撃選手が3人程度しか残っていないのに、どうして日本は6人が後方に待機しなければならないのか。イタリア風の少人数速攻と言えば聞こえがよいが、残念ながら日本の若者達はイタリア代表選手と異なり、素早く戻るサウジ守備ラインを4人だけで破るほどの技巧と判断の冴えは持っていない。
 押上げが薄いと、攻め切れないのみならず、こぼれ球を簡単に拾われ、また押し込まれる事になる。さすがに後方に6人残っているから、逆襲速攻はされる危険はないかもしれない。しかし、簡単に中盤でボールを拾われ、完全に中盤を制されてしまう。そしてボランチ、サイドバック、サイドMFで3対2(2のうち1は本田圭と水野と守備力に課題のある選手)を作られ、攻撃を継続される。試合直前にも予想したが、サウジは前半から仕掛けてきただけに、非常によくない試合展開となった。
 もちろん、水本、青山直の後方に伊野波を配し、さらに最後尾に西川がいるのだから、そうは危ない場面を作られる事はないのだが、あのような試合を続ければ、90分のうちいつかは崩される場面を作られてもおかしくない。
 無失点で終わってよい試合であり、しかも戦闘能力ではこちらが優位にあり、さらに先方は移動と慣れない寒い気候なのだから、思い切り引いて守備的な試合をするのは1つの作戦だろう。それを否定するつもりはない。しかし、そうだとしたら本田圭と水野を両翼に配するのは何故なのだ。それならば内田をなり上田だろう。いや、このような試合をするならば、谷口や小椋や河本をメンバに入れておけば、水本や細貝をサイドに回す事も可能になるのだが。そのような選手選考を拒絶しながら、どうしてこのような試合展開を行なうのか。そして、あそこまで引かずとも守備的な試合をする事は十分に可能なはずではないか。
 繰り返すが、これほど暗澹たる気持になる代表戦は、本当に久しぶりだった。もう負けると思った。

 後半になり試合展開は一変した。
 後方の選手が押し上げるようになり、「しっかりとボールを保持する守備的な試合」となった。これなら大丈夫だ。
 本田圭と水野の運動量の少なさは気に入らなかったが、青山敏が前方に出て、細貝との上下関係が明確になり(青山敏は敵地ベトナム戦で守備的ボランチとしても機能したな、大変器用なよい選手だな)、展開も速くなる。さらに3DFとFWの距離も短くなったので、こぼれ球の支配率も高まる。後半半ば以降はさすがにサウジに疲労が顕著になり、危ない場面を作られる可能性もどんどんと減っていった。サウジは交代選手を使い、次第に攻撃的に切り替えるが、しっかりと押し上げ適切にボールを回すサッカーをする日本は、ほとんど危なげなかった。唯一、後半半ば伊野波がボール処理を誤り敵FWに裏を取られ掛けた場面が危なくなりそうだったが、水本が完璧に読み切った。
 複数回の決定機を掴みながら決めきれず、敵はノーチャンス。0−0のまま引き分けでよい、と言う状況で75分まで経過。どのように試合を締めるか、非常に難しい展開になったが、日本の選手達は冷静だった。80分過ぎまではしっかりとボールをキープ、以降は敵コーナフラッグ近辺でのボールキープを交え、完全なクローズ体制となった。細かな贅沢を言えば、コーナフラッグのキープは柏木、水野のテクニシャンだけではなく、李のような肉体派も参加すべきだとか、89分、90分には水野→内田、本田圭→上田または小林と言う交代で時間をつぶすべき(ロスタイムに内田?がスタンバイしたようだったが、あれでは遅過ぎる、反町がテンぱってしまうのは仕方がないので、ここは井原がしっかりしなければいけない)とか、小さな不満はあったけれど、
 終盤、サウジはパワープレイに持ち込もうとしたが、適切なラインが作られ、西川と青山直がいる状況では、好機すら掴めずに試合終了。

 前半の恐怖感との落差があっただけに、またかつての予選突破とは異なる歓喜を味わう事ができた。
 前半ほど激怒した試合は珍しいし、後半ほど選手と一体になれた試合もまた珍しい。最悪の前半、完璧な後半、この落差は一体何だったのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 23:45| Comment(3) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月20日

2ヶ月前の既視感

 引き分ければよい日本、勝たなければならないサウジ。考えてみれば、この条件は敵地で行なわれたサウジ戦と非常に近い。あの試合も、初戦で敵地とは言えカタールに敗れたサウジはホーム日本戦は必勝体制だったし、日本は大量点を取りたかった国立ベトナム戦で1点差の勝利に終わり後の事を考えると引き分けはどうしても確保したかった。もちろん、あの試合とは異なり、お互い後がないところが違うのだが。
 あの試合は灼熱の敵地と言う難しい条件ながら日本は冷静にボールをキープ、サウジに決定機を作らせずに試合を進め、敵に退場者が出ると言う幸運にも慌てず、冷静に試合をクローズした。もっとも、サウジも退場者が出た以上はリスクを犯せなくなり、ホームの直接対決を終えたにも関わらず日本と勝ち点6差と言う最悪の事態を回避した形となった。結果的に、日本がドーハでカタールに信じ難い敗戦を喫した事で、とうとう最終戦で日本に追いつく可能性があるところまでこぎつけたのだから、あの日のサウジの我慢もまた正解だった訳だ。
 で、あの日の試合を考えると、明日日本が負けると言うのはちょっと考えられないような気がする。と、楽観的に考えて、再三痛い目に会ってはいるのだが。
 
 サウジはおそらく前半は引いてくる。日本の攻めをスローダウンさせ、柏木や青山敏の横パスをかっさらっての速攻を狙ってくるだろう。あるいは、センタリングを凝りすぎる本田圭や水野がニアを狙ってきたのを跳ね返したところからの速攻も狙い目か。それでも0−0で試合が進んできたら、後半半ばから無理攻めをしてくるのではないか。
 もう1つの選択肢は奇策だろう。戦闘能力差がある敵地の試合。リードさえすれば、最終ラインの強さと日本の連動の少ない攻撃ならば守り切れる可能性がある。とすれば、最初の20分間、思い切り押し上げて猛攻を狙う。

 そう考えた時に、日本は明日の試合どう戦うべきか。
 結局、五輪代表の1人1人が本当のトッププレイヤであるかどうかを証明すると言う事ではないかと思えてきた。彼らが今後、Jリーグで、アジアで、そして世界で戦えるタレントであるかどうか、それを自己実現してくれる試合なのではないか。
 勝った方が景気がいいから攻撃的に行くのも1つの選択肢、引き分けでも五輪には出場できるのだから守備的に行くのも1つの選択肢。敵の出方を見ながら、五輪出場の確率が少しでも高くなるように、戦う事になるのだろう。だからこそ、私は選手達に期待したい。
 アジアのトップチームとしての格を見せて欲しいのだ。ここまでの迷走で、何か五輪本大会への出場権獲得が全てとなっている現状が嘆かわしいのだ。あくまでも五輪ではベスト4以上、いや最もよい色のメダルを目指し、さらには南アフリカでの好成績までが、彼らの目標である事を思い起こしてほしいのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月17日

五輪代表敵地で快勝

 ここまでホームで2引き分けのベトナム、大差で勝ちたい日本としては、難しい試合になる事が予想された。

 なるほどベトナムはよいチームだった。各選手が身体を張る事をいとわない。また、前を向いた時のアイデアが素晴らしい。高さではどうしようもない事がわかっていたのだろう。低く速いボールを入れてみたり、DFラインとMFラインの中間を狙ってみたり。ただ、ベトナムにとって不運だったのは、日本の中央ラインは水本、青山直に加え、西川が復帰していた事だった。幾度となく好機を作ったベトナムだが、これだけ中央のラインが強いチームから点を取るのは難しい。

 一方、反対側のゴールでは日本の努力が奏効し続けた。
 柏木(前に出て行く)と青山敏(後方で待機)をボランチに起用した事で、中盤後方に明確な前後関係が生まれた。同じチームでプレイする選手をセットで使うのは、代表チーム作りの1つのやり方である(もっとも、J1残留争い佳境のサンフレッチェが、この時期にこの2人を「たかが五輪代表」に供出しなければならないのは相当に疑問ではあるが)。もっとも、柏木は軽率なミスから横パスをかっさらわれた事が幾度かあったし、青山敏は逆サイドをに振るべき面で同サイドにこだわったり、不満なプレイも多かった。しかし、ボランチの1人が強引に前に出て行って攻めに厚みを作る事で(当然柏木はその後戻らなければならないからキツイ仕事になるが、無理をしなければ試合には勝てない)、これまでのこの五輪代表に感じていたフラストレーションが随分小さなものになったのも確かなのだ。
 さらに李忠成と岡崎とつぶれる事のできる2トップがよく機能、よい持ちこたえから2列目の水野、本田圭、柏木にいいボールを落としていた。加えて、この2トップはサイドからクロスが上がりそうな場面になると、受ける位置取りにも工夫が見られた。左サイドをえぐった本田圭のクロスに李が飛び込んだ2点目が典型例だった。
 両翼攻撃が機能すると、中央突破が有効になる。3点目岡崎が倒されてPKになった場面はとてもよい攻撃だった。この場面以外でも、水野が中に絞って幾度か好機を演出していたが、

 後半に入り、ベトナムが無理攻めに来た事と、柏木の運動量が落ちてしまった事(青山敏との前後関係と言うより左右関係になっていた)により、幾度か好機を許す事になった。しかし、西川、水本、青山直が個人能力で押さえ込んでしまう。あまり褒められた出来とは言えない後半だったが、3点差でリードしていて、日本に帰国して中3日でサウジ戦を控える事を考えると、選手達がやや省エネモードに入っても仕方がない事か。
 それでも、終盤に起用された梅崎が攻撃を活性化させ、セットプレイから1点を加えたのだから、上々と言えるだろう。最後の本田圭のPK失敗は感心しなかったが、遠藤への道はまだ遠いと言う事か。

 もちろん課題はまだ山積している。
 青山敏と柏木については上記した。内田と水野は共にプレイをするようになってもう4試合目だ(4DFで縦に並ぶようになったのは3試合目)。そろそろ双方で工夫をして縦の連携による突破を見せて欲しいところだ。本田圭も後方で伊野波が守備を固めてくれているのだから、左サイドに張り付く必要はないはず。五輪代表時代、左サイドに固定された中村俊輔は随分不満そうだったが、今の本田圭よりは格段に創造的なプレイを見せていた。自覚を待ちたい。大体、同じポジションに梅崎がいるのだから、もっと危機感を持ってもらわなければ困るのだが。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月15日

五輪予選敵地ベトナム戦近づく

 約1ヶ月前に信じ難い逆転負けを喫した五輪代表。敵地ベトナム戦が近づいてきた。
 これまでの試合内容を思い起こせば、ベトナムはもちろん、サウジだろうがカタールだろうが、戦闘能力では格段に日本が高いのは間違いない。それなのに、どうしてここまで勝ち点が伸びないのか。いや、得点が入らないのか。
 これまで散々と、反町氏のチーム作りへの疑問を論じてきた。就任時に、過去の実績によりこれだけ期待されながら、悪い方に期待を裏切ってきた監督は珍しい。不可解なメンバ半固定、Jで実績のある選手を重要視しない選手選考、唐突に2軍のみ、あるいは3軍のみで戦う、これらの愚策を続け、貴重な準備期間を浪費し、ついにここまで来てしまった感がある。
 さらにここに来てFWの大量召集。これもイヤな雰囲気を感じる。先日の国立カタール戦をちょっと思い出したのだ。あの試合、梶山のヘディングで先制後もボールをしっかりキープしていた日本。負傷した梶山に代えて青山敏を起用後、本田拓が警告2枚で退場処分を食らう。その時点でベンチに残っていたのは、GKの林、CBの小林、サイドバックの安田、その他はFWの平山、岡崎、李だった。サイドバックとは言え、安田は攻撃要員だから、実質的な守備要員は小林1人しかいなかった。水野に代えて中盤もできる小林をボランチに起用し穴を埋め、何とか逃げ切った訳だが、この控えメンバ構成は不思議だった。
 ドイスボランチの負傷とレッドカードは予想外の事態だから、守備的な選手がベンチに足りないのは仕方が無かったかもしれない。あの試合も勝たなければならなかったのは確かだから、攻撃的なリザーブ選手を大目に入れておくのも当然の事だ。けれども、何故FWを3枚入れておく必要があったのだろうか。水野や柏木や家長に代えて次々にFWを起用した方が点が入るとでも言うのだろうか。
 で、今回のFW大量召集も釈然としない。言うまでもないが、この五輪代表が得点力不足に悩んでいるのはFWの人数が足りないためではない。攻撃ラインの選手に明確な連動が少ないのが問題なのだ。例えば、右サイドを水野が切り裂いた時に中央の若森島なり平山がどうボールを受けるか、逆サイドの本田圭や後方から上がってくる柏木や梶山がどこに入るか。そのような共通理解が足りないため、敵陣近くでの攻撃が単調になってしまうのだ。そのような共通理解を作り上げるための時間がたっぷりあったに、浪費してしまったのが問題なのだ。

 と言って、過ぎた時は還ってこない。また乗っていた安田の離脱も残念だ。
 幸い、戦闘能力は圧倒的に優れている。当たり前に前線からプレスをかけ、早い展開で両翼にボールをつなぎ、クロスが上がる場面には必ず3人が敵陣に進出するように共通理解を持って戦うだけで、状況は改善されるはず。その上で、水野なり柏木なり本田圭が状況を見て中央突破を交える。そのように攻めれば、いくら敵地でも相当数の決定機を作れるだろう。このチームの最大の特長である水本、青山直の2枚看板はベトナムの逆襲をハンマーでつぶすように防いでくれるだろう。そうすれば敵地とは言え、3点差以上で勝てるのではないか。最終戦は、サウジ−カタールの結果を見てから考えてもよいのだし。

 非常に緊迫感のある愉しい状況にはなったが、戦闘能力を考えれば、やはり楽観的にならざるを得ないのだ。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(1) | TrackBack(2) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする