2011年02月11日

槙野智章が1FCケルンに移籍したと言う意味

 1FCケルンと言うクラブは、私達の世代には他の欧州のクラブとは全く異なる意味を持つ重要なクラブである。言うまでもなく、奥寺康彦が最初に活躍し、欧州チャンピオンズカップで準決勝まで進むなど大活躍したクラブだったから。

 70年代の1FCケルンは、西ドイツ代表で66年からベッケンバウアーのチームメートだったウォルフガング・オヴェラートと言う左利きの中盤の将軍タイプの選手がいて、常に上位を伺うチームだった(全くの余談、西ドイツは70年代まで、ベッケンバウアー、オヴェラート、後述するネッツアなど、創造的な中盤選手を次々に生み出したが、80年代以降そのような名手は一切登場しなかった。メスト・エジルは、正に40年振りにドイツが生んだ真の中盤創造主たるタレントである)。そこに、ボルシアMGで幾度も栄光を掴んだ名将へネス・バイスバイラー氏が76年に監督に就任、奥寺も定位置を確保して活躍した77−78年シーズンにブンデスリーガを制覇。翌78−79年シーズンには、チャンピオンズカップで準決勝に進出し、ノッティンガム・フォレストに敗れ欧州制覇を逸する。
 バイスバイラー氏は、地方の小クラブだったボルシアMGでギュンタ・ネッツア(オヴェラートが頻繁にボールに触り短いパスで組み立てるのに対し、高精度でカーブがかかったロングパスをFWの足下に通す名手だった)、ベルティ・フォクツ、ユップ・ハインケス、アラン・シモンセン、ライナー・ボンホフらを育て、ベッケンバウアーやゲルト・ミュラーがいたバイエルンを幾度か押さえて複数回ブンデスリーガを制覇した名将中の名将だった。75−76年シーズン、クライフを擁するバルセロナが高額で氏を招聘したが、バルセロナフロントを除く世界中の人々の予想通り、選手クライフとバイスバイラー氏は大ゲンカ。わずか1シーズンでバイスバイラー氏はカタルーニャを去り、ケルンに登場した次第だった。
 76年から77年にかけて日本代表監督を務めた二宮寛氏(出身は三菱)は、当時の三菱重工の西ドイツ事務所ルートから、バイスバイラー氏と親密になり、三菱の選手を再三ボルシアMGやケルンに留学させるなど交流を深めていた。たとえば後にレッズ社長も務める藤口光紀は、ケルンに短期留学し大きく成長した。
 そして、77年夏に日本代表は、ケルン、ボルシアMGに選手を分散して強化すると言うユニークな欧州遠征を実施した。二宮氏とバイスバイラー氏の関係により実現した試みだった。そこでバイスバイラー氏は当時、日本代表のエースストライカになりかけていた奥寺を発見、ケルンに引っ張った。当時古河電工の一介のサラリーマンだった奥寺は、1度はこの勧誘を断ったと言うが、バイスバイラー氏は諦めず複数回声をかけ、ついに奥寺もケルン入りを決断する。
 そして、上記した通り奥寺はブンデスリーガ制覇、チャンピオンズカップの準決勝進出に直接貢献、再三重要な場面で得点を決めた極東の無名国の選手は高く評価された。当時の西ドイツ選手(たとえばカールハインツ・ルンメニゲ)は、サッカーマガジンやイレブンの取材に対し、「これは外交辞令ではないよ」と語った後、奥寺を絶賛したものだった。バイスバイラー氏が去った後、奥寺はヘルタ・ベルリン、ブレーメンでプレイ。当時のブレーメンの監督がオットー・レーハーゲル氏だったのは、皆さんご存知の通り。

 1FCケルンと言うのは、そう言うクラブなのだ。
 今では1部と2部を行ったり来たりするクラブとなってしまっている。若い方々にとっては、「槙野はそのようなエレベータクラブに加入し、以降のステップアップを狙っている」くらいにしか思わないだろう。また、現状のケルンを考えれば、それは正しいと思う。槙野がケルンでよいプレイを見せ、さらにステップアップを期待したいのは、私も同じだ。
 しかし、やはり1FCケルンと言うクラブは、日本サッカー界にとって特別なクラブである事には変わりないのだ。

 槙野は日本の次代を担うセンタバックになり得る人材である。プレイから伝わってくる向上心、プロフェッショナルとしてのよい意味でのプライド。
 ただ、例のど、長所がやや空回りしている感も無くはない。昨年のナビスコ決勝での大活躍時にも、ちょっと苦言を呈したが、あれこれ愉しい余技を考えるのもよいが、まずは「守備の確立」に専心して欲しい。そして、その「守備の確立」が、この日本サッカー界にとって特別なクラブで実現するとしたら、2014年のブラジルに向けて、これほど嬉しい事はない。
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2011年01月23日

高みの見物

 豪州ーイラク。イランー韓国。彼らのもがくような死闘を、完全に上から目線でたっぷりと堪能する事ができた。しかし、いずれも延長の大死闘になり、ボロボロに消耗する事になるのだから、堪えられない娯楽だった。

 豪州ーイラク。
 前半は緊張感あふれるつなぎ合い。序盤こそ豪州が押し込むものの、試合が進むに連れてイラクも押し返し互角の攻防。後半半ばあたりまでは、この展開が続いた。
 いつもの事であるが、豪州は全員の技術が揃っているものの、緩急の変化をつける選手が少ないので、時間が経つにつれてどうしても攻撃が単調になっていく。ただし、全員の勤勉さはしっかりしており、よい形でボールを奪えれば攻撃の形はできるのだが、最前線のキューエルとケーヒルの動き出しが遅いので、崩せる形にならない。
 一方のイラクは、アクラムとムニールのドイスボランチの能力が高い。この2人が緩急をつける事で、両翼のいずれかがフリーになり、再三嫌らしいボールが豪州ゴールを襲う。それをニール、オグネフノスキがギリギリで押さえる攻防が続いた。
 しかし、後半半ば過ぎから様相が変ってくる。両軍のスタミナが目に見えて落ち始めたのだ。豪州は30代の選手が多い事からわからなくもないが、イラクは20代半ばの選手が多いのだが。イラクの選手のほとんどはカタールのクラブでプレイしているが、そのカタールのクラブの鍛練のレベルが低いのではないかと邪推したくなるくらいだ。
 こうなると、双方の攻めは単発になる。豪州はロングボール戦法。ただし逆にケーヒルの抜群の空中戦の強さが奏功し、好機を掴むからサッカーはおもしろい。ただし、後半終了間際負傷上がりのケーヒルは交代、以降は豪州も攻めあぐむ事となる。一方のイラクはボール回しはきれいだが運動量が落ちて人数がかけずらくなる。そこで両翼のいずれかに拠点を作り、低いクロスを入れてエースの主将マフムードの個人技での得点を狙う。しかし、この日は典型的な「not his day」、巧みな位置取りから再三好機を掴んだマフムードだが、なぜかシュートがうまくミートせず決め切れなかった。前大会は勝負どころで見事に得点を決めていたのだが。まあ今大会はマフムードの大会ではなく、岡崎の大会だったと記憶される事になると考える事にするか。
 PK戦かと思われたところで、マッカイの好クロスをキューエルが見事に決めた。ここまで思うような仕事ができなかったものの、あそこで決めるとはさすがキューエル。まだまだ元気なところを見せてくれた。この試合に関してはキューエルがマハムードに勝ったと言うところか。

 豪州は、他人事ながら「ここまでベテランに頼ってよいのか」との印象。知らない選手が、マッカイだけでビックリした(笑)。豪州は北京五輪にも出場できている訳で、若手中堅にタレントがいないとは思えない。そう考えると、「監督選考がまずかったのではないですかあ?」とイヤミを言いたくなるけれどね。
 イラクはスタミナ不足が残念。また監督のシドカ氏が、延長濃厚にもかかわらず早々に交代カードを切ったのも疑問だった。ただ、アクラムとムニールのボランチコンビは、遠藤、長谷部と比較すると気の毒だが、他国よりは明らかに一段上。全員がしっかりとプロフェッショナルなトレーニングを積んでくれば(全員が90分走れるようになれば、と言う事です)、間違いなくアジアのトップに定着するだろう。アジアのレベル向上のためにも、それを期待したいのだが。

 イランー韓国。
 立ち上がりから、落ち着かない試合となった。イランが中盤で相当激しいチェックを見せると、韓国はそれを真っ向に受けて立った。皮肉では全くなく、このあたり「受けて立つ」韓国はすごいと思う。これが我々だったら、「いかにかわすか」が主題となる。どちらが正しいかわからない。ただ、体格的にも近いこの隣国が、我々とは全く異なるアプローチで世界のトップを目指しているのは、とてもおもしろい。
 とは言え、この肉弾戦への対抗。韓国にとってよかった事なのか?前半こそ、李榮杓と車ドゥリが押し上げて、そこにボランチの李ヨンレ(漢字不明、李庸来かなあ?)がからんで、サイドに人数をかけた攻撃でいくつか好機をつかんだ。しかし、前半の終わりあたりから肉弾戦に忙しい奇誠庸は展開できなくなり、両翼の朴智星と李青龍が単独突破する以外攻撃の手だてがなくなってしまった。しかし、ボランチの大黒柱ネクナムを加えた守備陣の分厚さは、そう簡単に敗れない。こうなると韓国の若手選手達は悪い意味での「若さ」を露呈する。皆技術は高いし、フィジカルも強そうなのだが、イランの激しい守りと戦ううちにその良さを出す余裕がなくなっていったのだ。まあ、20歳前後の選手達だし、これは仕方がない事だろう。しかし、試合がこうなってくると、今回の韓国代表の編成はよくわからない。最終ラインは33歳の李榮杓を含め、皆30代。ところが前線は、朴智星を除くとほとんどが20代そこそこの選手達(10代もいる)。確かに韓国自慢の20代前半の各員は、なるほど皆巧いしフィジカルにも恵まれている。しかし、他にタレントはいないのかと不思議になる。
 そうこうしているうちにイランペースとなっていく。次期エスパルス監督のゴトビ氏は前線に小柄だが俊敏な選手を3人並べ、高さにはめっぽう強いが足下はやや怪しい韓国守備陣を悩ませる。あの小柄なカラトバリ(169cmとメンバ表に書いてあるが、159cmじゃないのかと言う小ささだったな)のドリブルを、李正秀が全く止められないのがおもしろかった。ただ、両翼のレザネイとジョジャエイはドリブルはうまいのだが、あまり回りが見えるタイプではないので、プレイが局地戦にとどまってしまう。イランは昔から、前線に「抜群にうまいが、あまり効果的でない」タレントが出てくる。97年予選の死闘時もエスティリと言う攻撃的MFがいたが、技巧は抜群だが回りが見えず随分助かった事を思い出した。
 したがい、イランも決定機を作れず、こちらも延長に。準決勝、当方は中3日。一方どちらが来るにせよ、敵は中2日。ただでさえ、当方が有利なのに先方は延長戦に入ってしまった。それも明らかな消耗戦。このような幸運は素直に喜ぶ事にすべきだろう。
 こちらはこちらで、PK戦かと思われた前半終盤。不思議な時間帯が訪れる。イランのFWのジョジャエイが交錯プレイで痛み動けなくなる。ところが、主審がジョジャエイを警告。ジョジャエイは苦笑い。おそらく主審は「痛い振りで時間稼ぎ」と判断したのだろうが、だったらジョジャエイは1度フィールドを出なければならない(好機はイランの方に多かった時間帯、イランが時間稼ぎする意味があったかどうかも疑問だが)。しかし、そのような指示はなく再開。何か、この主審の判定で、全体の空気が緩んだ。そして、表示されたアディショナルタイムは1分。時計が16分過ぎを示した時に韓国が右サイドから攻撃。「笛が鳴るのかな」と思ってみていたが、主審は試合継続。そこから、ユンビッカラム(いよいよ漢字不明、名前3音節は韓国人の名前としては珍しいな)の強烈な得点が決まった。交代出場したこの選手も20歳か。確かに韓国の若手恐るべしではあるな。イランはその後人数をかけて猛攻をかけるが、ネクナムを除いて視野の狭い選手が多い事もあり、攻め切れず試合終了。

 イランだが、伝統的なフィジカルの強さと各選手の技巧の高さは大したものだ。しかし、前線で各選手に視野が狭く、崩し切れなかった。ネクナムはよい選手だが、他に展開するなり、さばくなりのタレントが欲しい。古いが93年のドーハにいたデラクシャン、あるいは97年ジョホールバルで我々を悩ませたマンスリアンのような選手がいれば、事態は随分変ったと思うのだが。
 韓国。確かに強いし、よい選手も多い。でも勝てるな、これならば。それについては別途述べる事にしよう。

 この試合1つ大きな不満がある。それは主審のラヴシャン氏が見事な笛で退場者を1人も出さずに、この難しい試合を終えた事だ。川島や吉田が退場を食らう基準で笛を吹いてくれれば、李榮杓とレザネイは前半にセットで退場。その他の選手にも黄色が乱れ飛び、延長終了時には8対8くらいになっていた事だろう。どうせ、韓国イレブンは皆ヘトヘトに疲弊したのだ。準決勝、相当数の選手を出場停止にして休ませてあげたかったではないか。
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2010年11月30日

バルセロナに呆れる

 どうこう講釈を垂れる事に無力感を感じるような試合だったな。4点目を決められた直後のカシージャスの表情が何とも言えなかった。

 まあ、理屈はいくらでも付けられるだろう。
 ワールドカップ制覇で少々お疲れだった皆様が、精神的にも肉体的にもようやく調子が戻って来たとか。裏を突くのが巧いビジャが入って、メッシばかりに気を取られる訳にいかなくなったとか。数年かけて連携を築いたバルセロナはやはり違うとか。カンビアッソとサネッティがいないとメッシは止まらないとか。ブスケツがすっかりワールドカップで自信をつけて、シャビの負担が減ったとか。モウリーニョ氏はチャンピオンズリーグの直接対決まで「ケタグリ」を封印しているのではないかとか。

 呆れ果てたのは4−0になってからの中盤左サイドでのボール回し。とにかくレアル・マドリードが全く中盤でボールを奪えないのだから。これだけのトップレベル同士の試合で、勝っているチームのボール保持時間がここまで長いケースは稀なのではないか(得点差が開いてない時間帯で片方のチームが攻勢を取りボール保持時間が長いとか、勝っているチームが守備を固め負けているチームが「持たされて」ボール保持時間が長いとか,、ではなかったのだから)。
 シャビとイニエスタからボールを奪えないのは、標準仕様かもしれないが、この2人の後方にかならずブスケツとアビダルがフォローし、右前方からビジャなりペドロが遊弋してくる。彼らの距離感が絶妙。節目節目でゾーンの網の真ん中にシャビかイニエスタが登場し、ボールを散らし、おもしろいようにボールが回る。いや「おもしろいように」ではないな、実際見ていて「おもしろかった」な。
 レアル・マドリードの守備ブロックの位置取りは適切なのだが、どうにもボールを奪えない。最初のうちは、レアルももう少し(自軍から見て)右側に選手を集中して、取りに行く場所を固めたらよいのではないかと思ったのだが、考えてみると反対サイドでメッシがウロウロしているから、絞りようがなかったみたいだ。
 かくして、レアル・マドリードには地獄の時間が継続した。0−4で負けている状況下で、追撃の得点を決める事ができないどころではなく、思うように好機を掴めないどころではなく、攻めあぐねる事ができないどころではなく、ボールを奪う事すらできないのだから。
 トップレベル同士ではなく、リーグのトップクラブと下位クラブの対戦としか見えないような内容だったと思いませんか。よく高校選手権の予選で見るようなレベルの差が大きな試合みたいな。

 レアル・マドリード関係者のサポータの怒りは相当だろうな。でも、これは辛いよ。こう言う時は「あんな監督代えてしまえ!」とクダを巻くのが精神的に一番よいのだが、既に「世界一」の監督を獲得しているのだから。飛び切りの監督を所有しているのも辛い事があるのだな。
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2010年08月05日

FC東京の「世界一」

 ちばぎんカップや仙台カップと並び、全世界注目のカップ戦と言われるに至ったスルガ銀行カップ(嘘付け)。2年前に拡大トヨタカップ決勝で、ユナイテッドをあと一歩まで追い込んだリガ・デ・キトが再来日、昨秋ナビスコカップを制したFC東京と対戦した。
 恥ずかしながら、私がこの試合の存在を知ったのは、日本協会からのメール。何とこの試合は「JFA登録審判員対象・国際試合観戦研修」にあたっているとの事で、公式審判員は(同行者1名を含め)無料観戦可能との事。南米とJのトップクラブの準公式タイトルマッチを、タダで観戦できるとあらば、行かずばなるまいと日程調整をした次第。そして、南米の強豪とJのトップクラブの対決を、それぞれの国のサッカースタイルの相違を愉しみながら、東京サポータの美女達と堪能させていただいた。東京サポータが「ギンギラギンにさりなげなく」の節で「スルガをとって世界一」と言う、いかにも植田朝日が考えそうな歌を熱唱。おおそうか、これは「世界一」を争う戦いなのだと。

 東京にとっては厳しい日程。記録的猛暑の今年、ワールドカップ中断からの再開後3週間で4試合を戦う日程を終えての、中3日で迎える水曜日の公式戦。先週末、城福監督が、アルビレックスに敗れた試合後に「当方は中2日なのに、先方は中3日は不公平だ」と文句を言った事が話題となった(もっとも、「直前の試合からの移動を考えると、必ずしも東京が不利とは言い切れないのではないか」と、揶揄する向きも多かったようだが)。そして、この試合後にはまた中3日で、Jの次節でグランパスと戦わなければならない。ホンネでは回避したいくらいの試合だろうが、優勝賞金3000万円と言う賞金を考えると、そうも言っていられない(あ、いや準公式国際試合のタイトルと言う名誉も重要です)。さらに先方は地球の裏から来日し、おそらくほとんどの選手がこの異様な多湿高温には不慣れだと思われる。これで「当方が不利だ」と主張するのも勇気が必要だろう。交代が6名まで可能と言う少々不可解な規定を活かしつつ、いかにタイトルを獲得するか、城福氏の手腕が問われる試合とも言えた。

 スタメンで東京は選手層の厚さを見せつける、梶山、羽生、大黒などの中心選手をベンチに残してスタート。それでも、最近のJにあまり出場していない平山や石川直宏が先発なのだから、豪華なものだ。
 序盤から東京ペース。リカルジーニョの持ち出しを平山がうまく受け左サイド(以降、左右は全て東京から見て)に展開、中村北斗の突破からのセンタリングに森重が飛び込む。逆襲から平山が絶妙な持ち出し、右に展開し石川直宏が中に切れ込んで強シュートを放つもGKがファインプレイで防ぐ。シュートまで持ち込まない点に不満は残るが抜群の受けのうまさを見せる平山と、昨年の超絶好調時にはまだ戻っていないが瞬間的なスピードで突破を見せる石川が、キトの守備陣を悩ませる。そして、すっかり中盤の将軍となった森重が全軍を指揮する(ボランチ森重を見るのは、先日のベルマーレ戦に続いて2度目だが、正確な球出しとCB出身とは思えない上下動がすばらしい、米本が復帰すれば過去の日本のチームには見られなかった大きな動きをする中盤が実現するのではないだろうか、いや今野を前に戻してのトレスはどうだろう、いずれにせよ若き逸材の早期の復活を切に祈るものである)。
 ところが30分過ぎ、初めてのキトの有効な攻撃、ボランチのデラクルスの鋭いクサビを受けた右FWのボラーニョスが巧く受けてつなぎ、最後はCFのバルコスが完全に前を向いてボールを受けるのに成功。一気に加速したバルコスは金英權を簡単に置いてきぼりにして、さらに今野も見事に抜き去り、ペナルティエリア外側からの強く低いシュートで権田を破った。キトからすれば、初シュート。有効な攻め込みとしても初めてだったのではないか。
 キトのやり方は3−4−3、4人のMFは2ボランチと2サイドMF。トップはエースのバルコスを真ん中にしてかなり中央に絞っている。この失点場面は、中央に絞ってくる右FWのボラーニョスを、うまく椋原が捕まえられなかったところから始まった(前半、北斗と椋原は再三左右を変えていたが、攻撃を考えての策だったんかもしれないが、この失点場面を含め守備を考えると疑問が残るやり方だった)。この失点直後、再びバルコスがフリーでボールを受け、今度は右に展開されザルゲイロに強シュートを打たれるも権田が好補でやれやれ。
 しかし東京も負けてはいない。左サイドのショートコーナ崩れから、田辺がペナルティエリアやや外から鋭いドライブのかかったシュート、GKがこぼすところを平山が冷静に詰めて押し込んだ。この場面、平山がクロスを要求する動きだったのだが、田辺はシュートを選択、しかし平山はその動きの流れから、よく切り替えてそのままGKに向かったのもの。課題は無数に残っているが、このような平山の「ストライカ的挙動」を見るのは、得点を決めてくれた事と合わせて、嬉しい事だ。
 生田辺は初見。ボール扱いもよく落ち着いてさばけるよい選手だ。ただ、2度ほど自陣で完全なミスパスをするなど、課題も多い。そんな中でこのタイトルマッチで得点に絡むなど結果を出すのだから、評価の難しい選手だ。う〜ん、そこまで先輩梶山に似る必要はないと思うのだが...
 余談。田辺の名前は「そうたん」と言うとの事。つまりこの同点弾は「そうたんそうた」によるものだった訳だ。東京の川向こうのライバルチームだったら、絶対このネタで何かをするだろうな。いや、それだけ。

 後半、東京は森重と大竹に代えて、梶山、羽生を投入。以降も早め早めに交代を仕掛けたのは、疲労を避けるローテーション起用を意識したからだろう。
 相互の守備陣が相手の特長をよく押さえた事で試合は膠着状態に入る。両軍とも、前線から質のよいプレスをかけ組織守備を狙い、隙を見て速攻をしかけると言う意味では共通なのだが、明らかに違いがあった。
 キトはプレスをかけ中盤で東京の選手の動きを限定し、最終ライン近くで圧倒的な数的優位でボールを奪取するのを狙う。状態が悪い時は回して様子を見るが、東京の守備の隙があると見るや、ボランチのデラクルスが低くて強いボールを前線に当てる事で、バルコスを軸にした少人数の速攻を狙う。
 一方東京はプレスをかけて中盤でのボール奪取を目指す。そして、ボールを奪うや、いずれの選手も、すばやく平山にボールを預けるなり、サイドに展開するなりして、攻撃をスタート。ラインを素早く上げて、前線に人数が揃えて崩すことを狙う。
 このあたりの相違が、国際試合の愉しみと言えよう。

 ところが東京は大変残念な勝ち越し点を許してしまう。キトの左サイドからのFK、ゴール前にクロスが上がりキトFW陣が飛び込んで来た時に、椋原?が敵を押してしまいPKを提供してしまった。バックスタンドの私の位置からも、東京の選手が手を伸ばしキトの選手が転倒したように見えたので、PK判定はやむ無しだったと思う。若さが出たと言う事だろうか。
 以降、東京は攻めあぐむ。キトのCBグアグアの読みが抜群だった事、森重、石川のように長駆する選手がいなくなった事、交代で起用された若いサイドMFの徐庸徳、重松が、分厚く守るキトの守備にやや単調に仕掛けてしまった事などが要因だった。そして時計は着々と進み、ロスタイムに。直前から割り切ってパワープレイに転じていた東京、後方からのロングボールを平山が見事な位置取りでヘッドを取り後方に流すと、見事な走り出しで抜け出した大黒が右外に開きながら、左足アウトサイドで鮮やかに流し込み同点弾を決めた。理論的には日本最高級の実力を持つのではないかと思わせるこの2トップで、この難しい時間帯に同点に追いついたのは、今後の東京にとって非常に大きい事になるのではないか。
 そしてPK戦では権田が1本目を好セーブ、助走を取り過ぎた重松の失敗はあったものの、敵4人目が失敗。東京が苦しい試合を制し、「世界一」を獲得する事に成功した。
 
 期待通り、キトはとてもよいチームだった。グアグア、デラクルス、バルコスらは非常に能力の高い選手だったし、上記した分厚い守備、少人数で仕掛ける速攻は見事。国際試合のおもしろさを、たっぷりと愉しむ事ができた。それにしても、この多湿高温は、相当厳しい環境だったに違いない。これで敵地戦も実現できれば、今度は高地戦となり、見せ物としては最高なのだが、日程を考えれば、そりゃ無理な注文と言うものだな。
 かくして東京は賞金3000万円を獲得。これで、良いかんと(以下自粛)。冗談はさておき、改めて東京が質量共に格段にすぐれた選手を保有する事を再確認できた。最近、平山と石川が先発はおろか交代出場の機会も少ない事そのものが驚きだが、大竹、田辺、椋原など前途有為な若手も豊富。これで、長友移籍直後、米本が負傷離脱中と言うのだから恐れ入る。昨期のナビスコ戴冠も見事だったが、リーグでも相当な成績を収める事が期待できる陣容と言っても過言ではないだろう。この「世界一」が、そのきっかけとなるとおもしろいのだが。
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2010年07月19日

スアレスのハンドについて

 日本代表の事も振り返りたいが、断片的にワールドカップについていくつか書いて行きたいとも思っている。で、まず第一弾として、例のスアレスのハンドについて。 
 今大会審判の判定が色々取沙汰されたが、不思議な事にこのスアレスのハンド問題を同列に扱う方がいるようだ。しかし、ランパードのノーゴール問題や、テベスのメキシコ戦先制点のオフサイド疑惑と異なり、このスアレスのハンドは審判判定上は何も問題がない。ゴールライン上でハンドした選手は退場となり、相手にPKが与えられた。それだけの事だ(スアレスはPK覚悟と言うよりは、審判の見落としを期待したかのような態度だったが、まあいいでしょう、それは)。
 あのような場面はラグビーのように「認定得点とすべし」と言う意見もあるかもしれないが、それはサッカー的ではない。あれはハンドと判定しPKを提供するしかない。
 言うまでもなく、そのPK以降にすごいドラマがあったので、再三採り上げられる事になったと言う事なのだが。
 私は以前も書いたが、あの鮮やかな判断を讃えて、2試合出場停止処分を提供するのがよいと思っていた。もちろん、公平さなどは無視しておもしろがっていただけが理由だったが。賢明なFIFAは、おもしろがる事なく、1試合の出場停止を課したが、まあ妥当な裁定だろう。

 ただし、不思議にあまり議論されていない事がある。「あの場面、スアレスはハンドすべきだったのだろうか。何とかヘディングではね返す工夫をすべきだったのではないか」と言う事だ。あの場面、スアレスは、伸びきりのセービングをした訳ではなかった。
 大昔81−82年シーズンの天皇杯決勝NKKー読売戦で、NKKのシュートを読売のサイドバック都並敏史が後方に下がりながら、見事なフィスティングではじき出しPKを与えた場面があった。この場面は、なるほど手を使わなければ防げないもので、都並の判断とするどい反応は高く評価された(当時のルールでは警告止まりだったのだから、受ける罪も随分少なかった...だから、ルールが改訂されあのような意図的に敵の得点を防ぐプレイは一発退場で罰されるようになってきたのだ)。また、多くの方がご記憶だろうが、95年のウェンブレイでのイングランド戦の柱谷哲二のハンド。なるほどあれも手でなければ止められなかったボールだった(もっとも、あれはあれで、直前に柱谷がGK前川と交錯してしまったプレイが問題だったのだが)。
 けれども、あの場面のスアレスは、頭上ほんの少し上のボールをかき出したもの。的確に反応すれば、ヘディングで防げたのではないかと思ったのだが。
 もう時間がないロスタイムだったから、退場そのものの選択は問題とはならない。けれども、PKを提供するのと、届かないかもしれないが何とかヘディングでボールに触ろうとするのと、どちらがウルグアイの準決勝進出の確率を高めたかが重要ではないかと思うのだ。上記したが、スアレスはその選択肢に、審判の見落としへの期待と言う係数をかけ合わせ、ハンドを選択したのかもしれないけれど。
 サッカーは確率の選択を要求される競技なのだ。議論されるべきはそこである。
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2010年07月07日

ドイツ−スペイン戦を前に

 この両国の過去の因縁となると、先般の欧州選手権決勝を除くとあまり思いつかなかった。おそらく、スペイン代表チームの大きな大会では決定的な活躍が、案外と少ないからだろう。スペインは、ワールドカップのベスト4は60年ぶり、欧州選手権にしても2年前の優勝より前の上位進出は、64年の優勝、84年の準優勝くらいなのだ。
 と、書いていて思い出した試合がある。その84年大会(大会レギュレーションは8チームを2グループに分けて総当たり戦、上位2チームがたすきがけの準決勝)の1次リーグの試合だ。最終節で両国は対戦。その時点で、西ドイツ(ルムメニゲとかシュマッヒャーが中軸で、マテウス、ブレーメが若手)が1勝1分けに対し、アルコナーダ、カマーチョ、サンティリャーナなどがいたスペインが2分け。「まあ、また西ドイツが上がるのだろうな」と皆が思っていた。しかし、スペインが1−0で勝利。西ドイツは欧州のベスト4に入れなかったと言う事で、大騒ぎになり、ドアバル監督(80年欧州選手権優勝、82年ワールドカップ準優勝の実績があったのだが)は解任。「故国の危機」救済のために、あのベッケンバウアが監督に就任する事となる。まあ当時の西ドイツにとって、欧州のベスト4に入れないなんて、驚天動地の大惨事だったと言うことですね。
 スペインは、準決勝で、モアテン・オルセン主将が率い、若きミカエル・ラウドルップらがいるデンマークを死闘の末、PK戦で振り切る。しかし、決勝は全盛期のプラティニ率いるフランスに完敗した。この準優勝は、2年前の地元ワールドカップでの失態(ベスト4にも入れず、そう言えば2次リーグでスペインは西ドイツにやられて脱落したんだった)を取り戻す成果と言われた。そして、2年後のワールドカップも期待されたが、準々決勝でベルギーにPK負けに終わっている。

 などと昔をノンビリ振り返ったが、2年前の欧州選手権決勝のスペインは衝撃的だった。序盤戦は「うまいし、強いし、よいチームだよね」などと友人たちと感心していたが、一方で「どうせ、どこかで負けるだろう」とも言っていた。ところが、イタリアをPK戦で振り切ったあたりから、ガッと勢いがついて、とうとう決勝でドイツに完勝してしまったのは、記憶に新しい。スコアこそ1−0ながら、その内容差が驚異的だった。
 スペインのすごさは言うまでもなく、正確で速くて、さらに複雑なパス回し。既に言い古された話だが、通常あれだけ凝ったパスを回すと(いくら個々のパススピードが速くても)、手数がかかり敵は守備を固めてしまう。さらに凝り過ぎると、当然逆襲速攻の餌食にもまる。したがって、サッカーのセオリー的に、スペインのやり方は(見て愉しいと言う事は抜きにして)あまり奨励されるものではないのだ。しかし、スペインは、そのセオリーの上を行く各選手の技巧と判断力で、他を圧倒してきた。
 ただし、私は大会前、スペインの優勝は難しいのではないかと予想した。他国からのマークがあまりにきつい事、過去のワールドカップでの実績の少なさ、上記したスペインの強さそのものが危険と隣り合わせの事などがその理由だった。
 そしてスペインはいきなりスイスに足をすくわれる。スイスは、組織的な守備を武器にするチームだが、粘り強くスペインのパス回しに対抗。一発逆襲を活かして先制した以降は、スペインの焦りを誘い、見事に打ち破った。ところが、スペインのその後の立ち直りが見事。ホンジュラス、チリを丹念に破って1次リーグを突破。同タイプの隣国ポルトガルを終盤完全に技術で制圧して振り切る。そして、あの厄介なパラグアイに対しても、終了間際「正にスペイン!」と言うビューティフルゴールで下して、とうとう60年ぶりのベスト4を確保した。1点差の難しい試合で連勝を重ねると言うのは、美しいパスワークと同居する、丁寧でしっかりした組織守備が充実しているため。今のスペインは非常に充実したチームとなっている。フェルナンド・トーレスが不振、また2年前八面六臂の活躍を見せたマルコス・セナが不在と、戦力的にはやや落ちた感もあるが、それをカバーするだけ連携が成熟した感もある。そして、粘り強くここまで勝ち抜いて来た精神的成熟には、恐れ入りました、と言う思いも強い。
 これだけ美しいパスワークで敵を崩し切る攻撃と言うと、あのプラティニ時代のフランスを思い出す。そして、今のスペインは、あの時のフランスよりは、やや単調かもしれないが、フィールドを広く使う事のが実にうまく、あまりリズムがおかしくなる事がないのがよい。対して、プラティニ達のそれは、テンポの変化は見事だったが、時にパス回しが目的化する事があり、しばしばリズムがおかしくなる事があった。あのプラティニ軍団が、どうしてもワールドカップを取れなかったのも、そのあたりに要因があった。そして、ワールドカップの準決勝のたびにプラティニ達に立ち塞がったのが...

 しかし、今回のドイツは従来のドイツと全く趣を異にしたチームだ。中でも驚きはエジルの存在。
 80年代以降のドイツの中盤は、マテウス、バラックに代表される「強くて展開できる」MFが後方に控え、リトバルスキ、へスラー、トーンに代表される「ラストパスを出せる」MFが中盤後方に控える。そして、先日も述べたがフィッシャー、クリンスマン、フェラー、そしてクローゼに代表される「確実に点を取れる」ストライカが複数いる。彼らの前後左右を動き回る知的労働者が多数いるのは言うまでもない。
 ところが、今回のエジルは「ラストパス」も出せるが、「突破」も「展開」もこなせる万能型の攻撃創造主。もちろん、若いドイツ選手らしく走力も十分。この国としては、70年代のネッツァー、オベラートを思い起こさせる久々のタレントではなかろうか。
 そして、ラームを軸にしたチーム全体の組織化された守備、エジルを軸にした技巧に満ちた見事な長駆型速攻、クローゼ、ポドルスキー、トーマス・ミュラーの得点力。このドイツはこの国史上最強と伝説化された72年の代表チーム(ベッケンバウア、フォクツ、ネッツァー、ゲルト・ミュラー)に匹敵する可能性すら感じさせてくれる。ただ、後方から正確にフィードできるタレントがいないくらいか。
 1/16ファイナルでは、チームとしてまとまりを欠いたイングランドを粉砕。準々決勝では、「作戦はメッシ」であるが故に作戦に無理が出てくるアルゼンチンの奔放な攻撃を集中守備で何とか耐え、鮮やかな速攻で殲滅(ともあれ、ドイツが2点目を取るまでのこの試合は「歴史的名勝負」だった)。強豪への完勝ぶりは印象深い。

 この「久々の」すごいドイツの前に次に立ち塞がるのがスペイン。スペインはイングランドのように軽卒な組み立てからドイツの逆襲を許すような事はないだろう。またスペインはアルゼンチンのように、1人の選手を押さえれば攻撃が機能低下する訳でもない。トーマス・ミュラーの出場停止もあり、ドイツにとっては難しい試合になるはずだ。
 双方が互いの持ち味を出し合う試合を期待したい。
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2010年07月06日

ウルグアイ−オランダを前に

 ウルグアイ−オランダと言うと、74年クライフ大会以来か。考えてみれば当時この対決は古豪対新興国と言われていたが、両国の立ち位置が36年経過した今日でもそう変わっていないのがおもしろい。以降36年間、ウルグアイがベスト4に入れないとか、オランダが1度も優勝できないとか、思いもしなかったな。
 1次リーグの初戦で、戦った両国、いきなり開始早々のオランダの先制点がすごかった。CFのクライフが後方に引いたスペースに、右ウィングのレップが移動、さらにそのスペースに右バックのシュルビアが前進。クライフが走りこむシュルビアにピタリとロングパス、シュルビアのセンタリングを、レップがヘッドで叩き込んだ。正に「渦巻き」を絵に描いたような攻撃。以降この大会で次々とオランダは、美しい得点を決めてくれた。
 って言っても、数ヶ月遅れで東京で放送されるダイヤモンドサッカーの、それまた数ヶ月遅れで仙台で放送された奴で「次々と」見たと言う事なのですが。

 もう1つこの両国の対戦と言う意味で忘れ難いのは、代表チームではないが、88年のトヨタカップ、ナショナル・モンテビデオ対PSVアイントフォーヘン。PSVには、その年初めて欧州選手権を制した代表の中心選手、ロナルド・クーマン。その他にもファンネンブルグ(後にジュビロで活躍)、ファンブロイケレンらの代表選手がいた。外国籍選手としては、デンマークの中盤の将軍セーレン・レアビー(つまり主将でリベロのモアテン・オルセンの前方で中盤を仕切っていた選手)、その年のソウル五輪で大活躍しセレソンに定着しつつあるロマーリオと言う若いストライカがいた。一方のナショナルは、ウルグアイ代表の主将ウーゴ・デレオンをはじめとしてウルグアイ代表選手がずらり。
 そして、試合はナショナルが徹底したフォアチェックでクーマンを襲う。元々、クーマンが後方から組み立てる事で攻撃を構成していたPSVは、思うように展開できず苦しむ。そして延長まで入る2−2の点の取り合いから、PK戦でナショナルがPSVを振り切る試合となった。このナショナルのクーマン対策の成功は、90年ワールドカップでのオランダ対策につながるものとなった。
 余談ながら、この翌年は、トヨタカップに、ファン・バステン、フランコ・バレーシのACミランが登場。以降はトヨタカップは欧州の金満クラブが主役となる。そう言う見地からは、この88年のナショナルは、戦闘能力で南米クラブが欧州クラブに対等に戦う事ができたトヨタカップの本当に愉しかった時代がそろそろ終わりを遂げる端境期の試合だったとも言える。

 ウルグアイは1930年、50年に優勝。70年4位。そして、今大会40年ぶりのベスト4で話題になっている。ただし、実はウルグアイは90年大会も上位に来るのではないかと言われていた。
 上記のデレオン、欧州でも名CBと言われていたグチェレスらが後方を固め、欧州でも名高いエンソ・フランセスコリ、ルーベン・ソサ、ルーベン・パスらが攻める。「これは強い!」と言うイメージがあったのだ。
 しかし、大会に入ってからはベルギー(プロドーム、シーフォ、クーレマンス)に完敗するなど、パッとせず。2次トーナメントに進出したものの、地元イタリアに完敗(スキラッチの強烈なドライブシュートなどあり)し、大きな印象を残さず大会を去った。以降の本大会出場は02年のみ、この大会では1次リーグで敗退。
 そうこう考えると、今大会は本当に久しぶりの「強いウルグアイ」を愉しめる大会なのだなと。ルガノ(負傷で準決勝の出場が叶わないという噂があるが)を軸とした強い守備、フォルランの心憎いばかりのプレイ選択の的確さ。周辺を固める仕事師たちの献身ぶり。
 彼らは赤子の頃から、60年前の英雄たちの話を聞かされて育ってきているはずだ。当然ながら、40年ぶりでは全く満足はなく、60年ぶりを狙っているのだろう。

 ちなみに上記した90年大会。2年前に欧州を制覇したオランダ(ファン・バステン、ライカールト、グーリット、ヴァウターズに、上記のPSV選手らが中心だった)は、準優勝した78年以来12年ぶりの出場ながら、優勝候補の一角と言われていた。しかし、大会に入ってからも調子は上がらない(上記の対策でクーマンの展開が止められたのも大きかった)。そして、こちらも1/16ファイナルの西ドイツ戦(ブレーメ、マテウス、ブッフバルド、クリンスマンら)に完敗、イタリアを去った。
 しかし、以降オランダは次々と世界屈指の名手を輩出、毎大会のように優勝候補と言われる強力なチームでワールドカップに臨み、その実力を発揮しつつもどうしても勝ち切れず、優勝の夢は叶わないできた。
 以前から幾度も書いているが、今大会のオランダは「絶対に優勝しようと言う」決心が感じられるチームだ。スナイデルとロッベンを軸とする攻撃も確かにすごい。しかし、とにかく1点差でもリードしたら、極端にリスクを減らし、確実に守備を固める。その守備の稠密さがすばらしい。特にデ・ヨングとファン・ボメルの知的な位置取りと言ったら。日本相手に先制して、あそこまでしっかりと守る姿勢には、忌々しさを通り越して呆れたものだった(ちょっとした誇らしさもあったが、いや正確にはあの試合中はそれどころではなく、「俊輔、サボるな!岡崎!決めんかい!」と絶叫し続けたのだが)。

 双方とも出場停止なり負傷で出られない選手をどうカバーするかが、勝負のアヤとなりそう。オランダは、デ・ヨングとファン・デル・ウィールが出場停止。ブラジル戦同様、マタイセンも負傷で代わりのオーイヤが出場しそうなので、あの精緻な守備の中核を担っていた選手が3人出る事ができないのは、相当厳しいと思う。
 一方ウルグアイは、かのスアレス先生が不在(私は彼のあのファウルを称え、ワールドカップ史に残すためにも、彼には2試合出場停止と言う名誉を捧げるべきだと思っていたのだが)。ただし、何よりフォルランがいるから、攻撃は何とかなると思う(初戦におバカをしたロデイロも負傷と言う情報があるがどうなのか)。問題はルガノの負傷からの回復だろう。もし、ルガノが出られればウルグアイが、出られなければオランダが、それぞれやや有利か。
 「60年ぶりの執念対36年間の怨念」を、じっくりと愉しみたい。
posted by 武藤文雄 at 22:23| Comment(4) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月22日

2巡目を終えて

 始まると時間はアッと言う間に過ぎるもので、早くも1次リーグは2巡目を終了した。
 2巡目の大陸ごとの成績。欧州は6勝3分4敗(うち1試合が直接対決、1巡目は4勝5分け4敗、以下カッコ内は1巡目結果)で、南米は何と5戦5勝!(3勝2分け)アフリカは2分4敗(1勝2分け3敗)と相変わらず苦しい。日本と韓国が優勝候補にやられたアジアはアジア2分3敗(2勝1分け2敗)。北中米は1勝1分1敗(2分け1敗)。とにかく、南米勢の強さが際立つ。ブラジル、アルゼンチンの他の南米国がここまで充実している大会は記憶にない。ここ最近の欧州勢優位の傾向に一石を投じるのか、トーナメントに入った以降も注目していきたい。
 また改めて日本のグループは難しすぎず、簡単すぎない、いかにも普通のレベルだったのだなと思う。日本(アジア国)は、シード国、欧州2番手国、南米アフリカ国と同じグループになる抽選だった。オランダとデンマークは、それぞれシード国、欧州2番手国としては真ん中ちょっと上くらい、カメルーンは南米アフリカ国としては下の方くらいだろう。そう考えると、このグループは、難しさもちょうど真ん中、普通レベルだったなと。
 
 2巡目の試合で、何と言っても驚きはイタリア1ー1ニュージーランド。これは歴史的なビックリ。ニュージーランドには少々失礼だが、彼らの久々の本大会出場は、かなりの幸運の賜物。豪州が抜けたオセアニアはほぼ無風地帯(と言っても、前大会予選でニュージーランドはソロモン諸島に屈すると言う前代未聞の珍事を起こしているのだが)。そして、プレイオフで、ミラン・マチャラ氏の手腕でアジア5位にすべり込んだバーレーンに圧倒されながら、マチャラ氏独特の勝負弱さを突いて勝ち取ったものだった。したがって、戦闘能力面では、圧倒的に再弱を予想されていたのだが、どうして、どうして。あのイタリアから、勝ち点奪取ですよ。我々よりすごいではないか。老カンナバーロのヨレヨレの腰をどう見るかで評価が分かれようが、このスロースタートのイタリアは、いきなり1/16ファイナルでオランダとぶつかるのが濃厚。ここで、突然生まれ変わって82年の再来となるか、86年のようにただ消え去るのか。もっとも、66年や74年のように、「その前に」消え去ったりして。もっとも、このF組は、スロバキアがニュージーランドに対してドジを踏んだので、パラグアイとイタリアだろうが。
 その他には、イングランド0ー0アルジェリア、ウルグアイ3ー0南アフリカ、ギリシャ2ー1ナイジェリアあたりがサプライズか。
 イングランドは、やはり私が優勝候補と唱えたのがいけなかったのだろうか(笑)。まあ、このくらいのスタートの方がよいのかもしれないけれど。このC組はいずこの国にもチャンスがあるが、引き分けでは相当苦しくなるイングランドが、どうスロベニアをこじ開けようとするのか。戦闘能力ならばイングランドと合衆国なのだろうが。
 南アフリカは、あのPKにはビックリ。2002年の相方のナニは特別とは言え、開催国特権はいずれの大会でも見受けられるものだった。ところが、今大会は、グループリーグの組み合わせから恩恵がなく、判定でもここまで気の毒な一撃を食らうとは。FIFAは南アフリカでの開催は強行したが、南アフリカの人々の歓喜には興味がないと言う事だろうか。このA組はウルグアイとメキシコで決定だろう。
 ギリシャは初戦の韓国戦があまりにダメだったので、94年のダメダメギリシャの再来かと思われた。しかし、さすがはレーハーゲル爺さん、ナイジェリアが退場でガタガタになるや、見事に逆転してしまった。このB組の2位争いは、誰もが韓国ーナイジェリアで決まると見ているが、いかにも手を抜きそうなFCディエゴに、レーハーゲル爺さんが巧い事して漁夫の利を得る予感がしてならないのだが。
 
 ついでに、その他の組の予想。
 北朝鮮がポルトガルの前に無謀な体力勝負を仕掛けバラバラにされてしまった。いくらなんでもコートジボワールはあそこまでの大差で北朝鮮に勝つのは無理だろう。
 クローゼの退場でセルビアにドイツが敗れたため混戦となったD組。この2試合はそれぞれすごい試合になるだろう。ここまでアフリカの意地をもっとも見せているガーナと、10人でもセルビアを圧倒したドイツの死闘。引き分けではダメな可能性があるセルビアと後がない豪州。当初から「死の組」と期待された組だが、正に読めない最終節だ。2試合とも引き分けでガーナとドイツかなあ。
 そして、チリ、スペイン、スイスの3すくみ。見せ物としてのチリースペインはすごい試合になるだろうな。ただし、今の勢いのチリである、スペインは勝ち切れないのではないか。

 そうすると、1/16ファイナルは、準々決勝は、と想いは飛んでいくが、それはデンマークに勝ってから語る事にしようか。
posted by 武藤文雄 at 23:08| Comment(6) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月17日

全チーム1試合終了を俯瞰して

 昨日で全チームが登場した。もう連日映像を追うだけで疲労気味だが、簡単にここまでを俯瞰しておこう。

 意外な結果だったのは、ドイツ4−0豪州、スロバキア1−1ニュージーランド、そしてやはりスイス1−0スペイン。これらに比べれば、日本がカメルーンを仕留めたのは、まあ予想の範囲内だと思うのだが、外電諸兄は随分ビックリしていたみたいだな。
 豪州が、いくらドイツとは言え4点取られてやられたのは、さすがに驚いた(74年は0−3だから、悪くなっているではないか)。この試合は映像見てないのだけれども、比較的似たタイプのチームが手合わせすると、戦闘力差が如実に出ると言うパタンだったのだろうか。しかし、豪州はガーナとセルビアに2連勝必要と言うのは、キツいな。もちろん、ドイツの出来の良さにはビックリしたのだが、こんなに早くから調子を上げてよいのかとも思う。
 スロバキアはいわゆるドジ。スロバキアとしては初勝利を逃すは、最悪でもイタリアとパラグアイのどちらかに勝たなければならないは、散々の結果となった。一方、ニュージーランドは記念すべき勝ち点獲得。本大会出場そのものも見事だったが、大したものだ。
 スペインは、まあよくあるパタンにはまってしまった。スイスの守備組織と粘り強さは見事だったが、「いつでも崩せる」の自信が仇になったように思えた。スペインは、あの速攻が早くて速いチリを残しているのが結構きつそう。

 1巡目終了時点での地域ごとの成績を整理してみると、欧州が4勝5分け4敗(うち2試合が直接対決)、アフリカが1勝2分け3敗、中南米が2分け1敗、南米が3勝2分け、アジアオセアニアが2勝1分け2敗。
 南米勢の強さが際立つ(この統計には、2巡目でウルグアイが、地元南アフリカに勝ったのは含まれていない)のに対し、欧州勢が今一歩なのは、欧州外の大会だからだろうか。特に欧州では2番手国と言われるあたりの国々が冴えない。この調子で「デンマークも冴えないといいな」と思ったりするのだが。南米勢はこのまま行くと、全5国の2次トーナメント進出もありそうだが、果たしてどうなるか。
 以外なのは地元アフリカ勢が今一歩な事。ガーナが鮮やかにセルビアを倒し、開幕でも南アフリカも颯爽と戦ったので、「アフリカの大会」と言う印象が強かったのだが、案外パッとしない。特に南アフリカはウルグアイにチンチンにされて、地元ながら1次リーグ敗退の危機に陥っている(元々、抽選時点で「地元国優遇」が、なされなかったのには驚かされたのだが)。
 まだ1巡目の成績でどうこう言うのも時期尚早なのは重々承知しているが、興味深く見ていきたいものだ。

 色々と試合を見ていて、改めて感じるのは、陳腐な感想かもしれないが、サッカースタイルの違いのぶつかり合いのおもしろさ。いずこの国も、相応に組織的な守備を標榜し、中盤でプレスをかけるなど、作戦面ではどうしても似て来ている部分はある。けれども、それぞれの国の選手のボールの持ち方や、ボールを回す時の相互の距離などは、やはり地域性がまちまち。それらの、まちまちなサッカーがぶつかり合うおもしろさは、やはりワールドカップならではだと思う。
 開幕の南アフリカーメキシコとか、セルビアーガーナとか、アルゼンチンーナイジェリアとか、チリーホンジュラスとか、おもしろかったな。

 今日、韓国はアルゼンチンに完敗。セットプレイから序盤に2失点してしまっては苦しい。序盤の不運を取り返す幸運が舞い降りて、1−2にして後半に臨んだのだが、後半やや前掛り過ぎたのではないか。24年前に許丁茂を含んだメンバでディエゴに1−3で完敗したが、許丁茂氏は今回はメッシ(あ、ディエゴもいたのか)に1−4で完敗した事になる(一方で、その歴史に羨望を感じるが)。

 明後日はオランダ戦。どのように守備を固め、どのように仕掛けるか。それについては、明日講釈したいと思います(って、試合ばかり見ていて、別に講釈を垂れられるのか、心底心配)。
posted by 武藤文雄 at 23:30| Comment(7) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月04日

悪夢の大会直前負傷

 コートジボワール戦。結果、内容云々よりも、ドログバと今野の負傷がショック。どちらの場面もそれぞれ、かなり荒っぽく激しい当たりではあったが、何とも不運な事になってしまった。

 ドログバが中澤を外した瞬間に闘莉王が激しくアプローチするのは当然だが、あのように飛んで当たるのは極めて危険。結果的に先方を傷付けてしまったが、自分も負傷するリスクがあるかなり問題あるアプローチだった。この試合で、あの位置で、あのような当たりをする必要があっただろうか。言い方は悪いが、直前の自殺点のショックもあったのかもしれない。
 こちらの報道を読んだ限りでは相当深刻な状況。負傷退場時の映像でも、右腕に力が入らない模様だったが、本当に「肘の骨折」だとすると、確かに大会には間に合わないかもしれない。何とも申し訳ない気持ちもするし、本当にワールドカップでドログバが見られないとしたら、とても寂しい。
 序盤戦は無理でも、何とか中盤戦以降に間に合わないものだろうか。94年大会で序盤で負傷し手術まで受けながら、決勝戦で鮮やかに復活したフランコ・バレーシの例もあるのだし。

 今野も心配だ。ちょうど敵のスライディングタックルの両足に膝が挟まれた形で転倒してしまった。明らかなアフタタックル。後半半ば過ぎ、おそらくタックラも疲労から対応が遅れてしまったのだろうが、これまたあのような当たり方をする必要のない時間帯と位置。何とも不運な事だった。今野が、全く立ち上がれずに即負傷退場すると言う事は、痛みが相当激しかったのだろう。こちらによると、膝副靭帯損傷ながら病院に行かず経過を見るとの事、とにかく軽微な事を祈りたい。
 4年前のドイツ戦で、加地がシュバインシュタイガーに削られた場面があった。これは、チームの不振にいらだち、明らかに削りに来た極めて悪質なラフタックルだった。そして4年前同様、不運な負傷欠場により起用されたは駒野だった。再びこの小柄でタフなサイドバックが日本の鍵を握る事になるのだろうか。

 ドログバの負傷状態を調べていたら、別なショッキングな報道も発見。どうやらこちらは練習中の膝の負傷との事だが、マイケル・ドーソンが代わりに呼ばれ、代わりにジェラードが主将を務めるところまで報道されているので、絶望なのだろう。これはこれで、あまりに残念。
 4年前に田中誠が離脱した時にも、色々な事を考えた。そして、今回のファーディナンドの離脱は「格段の大物」ゆえ、また様々な事を考えてしまう。こう言うものなのだろうか。

 ワールドカップは祭りである。
 その祭りに登場すべき神々が、このような形態で祭りから去るのを見るのは、何とも言い難い思いがする。
 たとえば、サネッティやカンビアッソやロナウジーニョや石川直宏や田中達也が大会に出場できないのは、それはそれで残念な事だ。しかし、それはそれで「仕方のない事」と割り切りようもある。割り切れないにしても、そう言うものなのだ。
 けれども、この時期の「負傷」を、どう割り切るべきなのか。ドロクバと今野の無事を祈る。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(16) | TrackBack(2) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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