2010年06月17日

全チーム1試合終了を俯瞰して

 昨日で全チームが登場した。もう連日映像を追うだけで疲労気味だが、簡単にここまでを俯瞰しておこう。

 意外な結果だったのは、ドイツ4−0豪州、スロバキア1−1ニュージーランド、そしてやはりスイス1−0スペイン。これらに比べれば、日本がカメルーンを仕留めたのは、まあ予想の範囲内だと思うのだが、外電諸兄は随分ビックリしていたみたいだな。
 豪州が、いくらドイツとは言え4点取られてやられたのは、さすがに驚いた(74年は0−3だから、悪くなっているではないか)。この試合は映像見てないのだけれども、比較的似たタイプのチームが手合わせすると、戦闘力差が如実に出ると言うパタンだったのだろうか。しかし、豪州はガーナとセルビアに2連勝必要と言うのは、キツいな。もちろん、ドイツの出来の良さにはビックリしたのだが、こんなに早くから調子を上げてよいのかとも思う。
 スロバキアはいわゆるドジ。スロバキアとしては初勝利を逃すは、最悪でもイタリアとパラグアイのどちらかに勝たなければならないは、散々の結果となった。一方、ニュージーランドは記念すべき勝ち点獲得。本大会出場そのものも見事だったが、大したものだ。
 スペインは、まあよくあるパタンにはまってしまった。スイスの守備組織と粘り強さは見事だったが、「いつでも崩せる」の自信が仇になったように思えた。スペインは、あの速攻が早くて速いチリを残しているのが結構きつそう。

 1巡目終了時点での地域ごとの成績を整理してみると、欧州が4勝5分け4敗(うち2試合が直接対決)、アフリカが1勝2分け3敗、中南米が2分け1敗、南米が3勝2分け、アジアオセアニアが2勝1分け2敗。
 南米勢の強さが際立つ(この統計には、2巡目でウルグアイが、地元南アフリカに勝ったのは含まれていない)のに対し、欧州勢が今一歩なのは、欧州外の大会だからだろうか。特に欧州では2番手国と言われるあたりの国々が冴えない。この調子で「デンマークも冴えないといいな」と思ったりするのだが。南米勢はこのまま行くと、全5国の2次トーナメント進出もありそうだが、果たしてどうなるか。
 以外なのは地元アフリカ勢が今一歩な事。ガーナが鮮やかにセルビアを倒し、開幕でも南アフリカも颯爽と戦ったので、「アフリカの大会」と言う印象が強かったのだが、案外パッとしない。特に南アフリカはウルグアイにチンチンにされて、地元ながら1次リーグ敗退の危機に陥っている(元々、抽選時点で「地元国優遇」が、なされなかったのには驚かされたのだが)。
 まだ1巡目の成績でどうこう言うのも時期尚早なのは重々承知しているが、興味深く見ていきたいものだ。

 色々と試合を見ていて、改めて感じるのは、陳腐な感想かもしれないが、サッカースタイルの違いのぶつかり合いのおもしろさ。いずこの国も、相応に組織的な守備を標榜し、中盤でプレスをかけるなど、作戦面ではどうしても似て来ている部分はある。けれども、それぞれの国の選手のボールの持ち方や、ボールを回す時の相互の距離などは、やはり地域性がまちまち。それらの、まちまちなサッカーがぶつかり合うおもしろさは、やはりワールドカップならではだと思う。
 開幕の南アフリカーメキシコとか、セルビアーガーナとか、アルゼンチンーナイジェリアとか、チリーホンジュラスとか、おもしろかったな。

 今日、韓国はアルゼンチンに完敗。セットプレイから序盤に2失点してしまっては苦しい。序盤の不運を取り返す幸運が舞い降りて、1−2にして後半に臨んだのだが、後半やや前掛り過ぎたのではないか。24年前に許丁茂を含んだメンバでディエゴに1−3で完敗したが、許丁茂氏は今回はメッシ(あ、ディエゴもいたのか)に1−4で完敗した事になる(一方で、その歴史に羨望を感じるが)。

 明後日はオランダ戦。どのように守備を固め、どのように仕掛けるか。それについては、明日講釈したいと思います(って、試合ばかり見ていて、別に講釈を垂れられるのか、心底心配)。
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2010年06月04日

悪夢の大会直前負傷

 コートジボワール戦。結果、内容云々よりも、ドログバと今野の負傷がショック。どちらの場面もそれぞれ、かなり荒っぽく激しい当たりではあったが、何とも不運な事になってしまった。

 ドログバが中澤を外した瞬間に闘莉王が激しくアプローチするのは当然だが、あのように飛んで当たるのは極めて危険。結果的に先方を傷付けてしまったが、自分も負傷するリスクがあるかなり問題あるアプローチだった。この試合で、あの位置で、あのような当たりをする必要があっただろうか。言い方は悪いが、直前の自殺点のショックもあったのかもしれない。
 こちらの報道を読んだ限りでは相当深刻な状況。負傷退場時の映像でも、右腕に力が入らない模様だったが、本当に「肘の骨折」だとすると、確かに大会には間に合わないかもしれない。何とも申し訳ない気持ちもするし、本当にワールドカップでドログバが見られないとしたら、とても寂しい。
 序盤戦は無理でも、何とか中盤戦以降に間に合わないものだろうか。94年大会で序盤で負傷し手術まで受けながら、決勝戦で鮮やかに復活したフランコ・バレーシの例もあるのだし。

 今野も心配だ。ちょうど敵のスライディングタックルの両足に膝が挟まれた形で転倒してしまった。明らかなアフタタックル。後半半ば過ぎ、おそらくタックラも疲労から対応が遅れてしまったのだろうが、これまたあのような当たり方をする必要のない時間帯と位置。何とも不運な事だった。今野が、全く立ち上がれずに即負傷退場すると言う事は、痛みが相当激しかったのだろう。こちらによると、膝副靭帯損傷ながら病院に行かず経過を見るとの事、とにかく軽微な事を祈りたい。
 4年前のドイツ戦で、加地がシュバインシュタイガーに削られた場面があった。これは、チームの不振にいらだち、明らかに削りに来た極めて悪質なラフタックルだった。そして4年前同様、不運な負傷欠場により起用されたは駒野だった。再びこの小柄でタフなサイドバックが日本の鍵を握る事になるのだろうか。

 ドログバの負傷状態を調べていたら、別なショッキングな報道も発見。どうやらこちらは練習中の膝の負傷との事だが、マイケル・ドーソンが代わりに呼ばれ、代わりにジェラードが主将を務めるところまで報道されているので、絶望なのだろう。これはこれで、あまりに残念。
 4年前に田中誠が離脱した時にも、色々な事を考えた。そして、今回のファーディナンドの離脱は「格段の大物」ゆえ、また様々な事を考えてしまう。こう言うものなのだろうか。

 ワールドカップは祭りである。
 その祭りに登場すべき神々が、このような形態で祭りから去るのを見るのは、何とも言い難い思いがする。
 たとえば、サネッティやカンビアッソやロナウジーニョや石川直宏や田中達也が大会に出場できないのは、それはそれで残念な事だ。しかし、それはそれで「仕方のない事」と割り切りようもある。割り切れないにしても、そう言うものなのだ。
 けれども、この時期の「負傷」を、どう割り切るべきなのか。ドロクバと今野の無事を祈る。
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2010年05月12日

アントラーズも敗退

 昨日のガンバに続き、アントラーズも1/16ファイナルで敗退。まあ、先方は前年チャンピオンな訳で、ホームゲームとは言え苦戦する事は、当然予想されたものだったのだが。
 開始早々から、中盤戦が継続する。予想通り、非常に重苦しい試合となった。両軍とも、中盤でのチェックが厳しく、そこを抜け出してもCBが強く、容易に点は入りそうにもない。それでも前半半ば過ぎあたりから、アントラーズはもっともフリーになりやすい内田と新井場の両サイドが前進して、好機の起点となる。
 ところが、アントラーズは30分、信じがたい失点を喫する。敵の左サイドのスローインからの攻め込み、前に出ていた李正秀が戻っておらず、ボランチの両ベテラン中田浩二も小笠原も最終ラインにカバーに入っていない。そして、残る岩政がつり出され、最終ラインに斜めに進出して来たモッタにフリーで決められた。新井場と内田がよく絞って詰めたが間に合わず。センタバックが2人いなくなっては、失点もやむなし。それにしてもモッタと言う選手は忌々しいな。韓国におけるマルキーニョス的選手なのだろうか。
 以降の60分間、アントラーズは苦労に苦労を重ね、強靭な浦項守備網をこじ開けるべく、努力を重ねる事となった。しかし、浦項の守備は固い。幾度か有効な攻め込みを見せ、好機をつかみかけるが崩し切れない。
 疑問だったのは、攻撃が左にばかり寄っていた事。内田の前進が遅い事もあるのだが(体調が、まだ悪いのだろうか)、もっと内田を使う発想があってよかったとも思うのだが。さらにオリヴェイラ氏の采配も消極的だった。明らかにフェリペ・ガブリエル、野沢の疲労の色が濃いのに、交代が遅い。フェリペに代って入った遠藤は(ミスもあったが)いやらしいドリブルを幾度か見せていたが、野沢に代った大迫はなじむ事なく試合を終えてしまった。終盤、李正秀と岩政を前線に上げパワープレイを見せるが、浦項の高さも格段、空中戦がとれない。この時間帯は、双方とも疲労の極みと言う感じで、お互い行きも絶え絶え身体をぶつけあっていたが、アントラーズは3人目の交代を使い、元気な選手を入れるべきだったのではないか。
 かくしてタイムアップ。またもアントラーズのアジア制覇の夢は消えた。

 この試合そのものは、前半の失点に尽きる。守備に自信を持つ同格同士のシビアなタイトルマッチ。ミスで先制点を許してしまっては苦しい。また、一部の選手は相当タフな動きをしていて疲労していただけに、オリヴェイラ氏の交代の遅さも気になった。上記したが、終盤双方が疲労困憊していのだから、1人動き回れる選手を起用するだけで随分楽になったと思うのだが。
 そう言う試合だったのだ。

 ただし、この敗退は2つ重い命題を我々に突き付ける。
 1つ目は「どうしてアントラーズはアジアで勝てないのか」と言う事。昨年敗退時にも講釈を垂れたが、運不運の要素が強いとは思う。ただし、今日の負け方を見ていると「今まで勝ててないが故」に「この試合に思い詰め過ぎたのではないか」とも感じた。特に、テレビのアナウンサも語っていたし、エルゴラッソにも掲載されていたのだが、オリヴェイラ氏はこの試合のために、相当量のミーティングを行ったと言う。何か、選手の疲れ方や終盤のギクシャクを見ると、「気負い過ぎ」も感じた。国内の試合であれだけ勝負強いアントラーズだけに、「未だ勝ち得ていないタイトル」と言う思いがマイナスに作用するのだろうか。
 2つ目は「1/16ファイナルで日本勢全滅」と言う大事だ。これは結構ショックだよね。少なくとも我々は常に「アジア最強のサッカー国」と言う自惚れを持っている(もっとも、韓国、豪州、サウジ、イラン、そしてたぶんイラクのサッカー狂の方々も、同じ自惚れを持っているだろうけれど)。その我々からすれば、「ACLベスト8進出クラブなし」と言うこの事態は、全く受け入れ難い。受け入れ難いが、事実は事実として捉えなければなるまい。日本サッカー界全体を考慮しながら反省すべき点は何なのかと模索しなければなるまい。ただし、それと今までの蓄積を全否定するのも、これまたおかしな話。こう言う時こそ、「現状の日本サッカーの課題は何か」と言う、少々陳腐ながら悩ましい本質問題について、しっかりとした思索を行うべきだろう。

 結果は不愉快だし、内容も守り合いで大変重苦しい試合だった。しかし、娯楽と言う見地からは、いかにも緊迫したタイトルマッチ、とても愉しめる試合でもあった。悔しさを噛み締めながら、重苦しくも愉しい娯楽を提供してくれた両軍関係者に多謝。
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2010年05月11日

これは終わりの始まりなのか

 ガンバが、ACL1/16ファイナルで敗退した。
 前半序盤こそ好機を掴んだが、半ばから城南の激しいプレスを中々抜け出せなかったガンバ。後半立ち上がりから負傷癒えた平井を高木に代えて投入。3−5−2から、本来の4−4−2に切り替え攻勢をかけた。映像で見る限り、必ずしも足下がよくないようだったが、改めてストロングポイントを強調して仕掛ける西野氏に敬服した。遠藤が緩やかに配球し、ルーカスと二川が縦にテンポを上げ、宇佐美がもう1つ変化をつけ、平井が抜け出そうとする。かろうじて城南がボールをクリアすると、明神が鮮やかな読みと出足でボールを奪取。それが繰り返され、城南の守備陣が青息吐息ではね返す時間が約20分間継続した。正に、ガンバサッカーが出た猛攻。
 ただし、この日は両サイドバックが不発。加地は1人明らかに不調でミスパスを連発。自分でも、それがわかっているのか、いつになく消極的で前に強引に出て行かない。一方安田が、上がろうとすると宇佐美がマークを引き連れて前方に入って来るため、これまた中々上がれない。結果的に中央突破への拘泥が目立ってくる。しかも、加地も安田も上がれないならば、せめてサイドチェンジを意識すればよいのだが、そのような発想が出てこない。さらに、橋本がいないために遠藤が上下動するスペースはないため、遠藤が敵陣近くで変化を付けられない。そのため、押し込んでいるのだが、分厚く守る城南を崩すに至らない。
 そうこうしているうちに、ガンバが受け入れがたい失点を喫する。やや、攻め疲れた感がでてきた後半30分。幾度か城南に攻勢を許した後の場面、自陣で加地が何とも淡白な守備でサイドチェンジを許し、右サイドフリーの敵FWが好センタリング。逆サイドに抜けたボール、「やられた!」と言う場面で、明神がすばらしいスライディングで防いだ。と、思ったのだが、主審はPKを宣告した。抜け出したボールに敵も明神も足を出し、それぞれがボールに触って転倒して、ファウルだとさ。
 西野氏は佐々木を投入し、局面打開を図る。しかし、二川もルーカスも疲労が目立ち遠藤もパスの出しどころがなくなり、攻めあぐむ。そうこうしているうちに、佐々木がラドンチッチと交錯して倒れるも主審がファウルを取らず、そこからペナルティエリアあたりでスイッチバックした敵の攻撃に、山口と加地が対処できず決定的な2点目を奪われた。さらに見事な直接FKを決められ0−3の敗戦。
 結果だけを見ると、完敗に見えるが、典型的に「押し込みながら、決め切れず、逆襲でやられた試合」だった。ただし、中盤でのパス回しは美しかったが、決定機は少なかった。元々、ガンバの遅攻のすごみは、敵ががっちり守っていても穴を開けてしまうところにあったのだが。今日は上記した諸事情で、穴が開いてしまったのは自軍の守備網だった。

 この早期敗退をどう捉えるか。
 無数に購入した外国人FWが機能しなかった補強のミスか?確かに、バレーやレアンドロのように、遠藤たちが作った好機をハンマのように叩き込むストライカは欲しかっただろう。けれども、平井も復帰し、宇佐美もいたのだ。これ以上望むのは贅沢と言うものだろう。
 橋本の負傷離脱か?確かに、橋本のしたたかな位置取りがあれば、局面は打開できたかもしれない。けれども、佐々木を含めたこの日のメンバが、橋本不在で決定的に劣るようには見えなかった。

 身も蓋もないが、問題は老齢化にあるのではないか。遠藤、明神、ルーカス、二川、橋本、加地、そして山口。それぞれ異なる個性、豊富な経験、長年の連携。けれども、皆29歳から32歳、1人1人は実績を積み、毎年毎年個人的な戦闘能力は成長させるに成功しているかもしれない。しかし、脚力は着実に落ちて行く。
 先制された直後に、佐々木投入。交代したのは宇佐美。あの苦しい場面で、経験豊富なルーカスなり二川を代えるのは確かにリスキー、妥当な交代策だとは思った。けれども、まだ十分走れるはずの宇佐美を外し、息が上がりかけたルーカスと二川を残す事になったのも確かなのだ。
 このように攻めながら、崩し切れない試合では、中盤に活動量が豊富で飛び出せる選手を起用したいところ。しかし、中軸の中盤戦士たちが、あまりに経験豊富なので、代えづらい。さらに言うと、ここでベテラン達に代って起用されるべき家長昭博はセレッソ大阪に、寺田紳一は横浜FC、倉田秋はジェフの中軸をになっている。遠藤らのベテランの分厚い選手層をどうしても破れないできた、この3人の有為なMFは、それぞれ上記のクラブにレンタルされているのだ(家長の経歴は微妙に異なるが)。かくして、適切なバックアッパーを欠く上記のトップスター達は、疲労が前面に出ながらも、ギリギリまで戦うしかない。結果的に、運動量や身体の利きに問題があっても、最後の最後までご奉公が必要になる。
 私は(西野氏は嫌いだけれども)、西野氏が作り上げたスキルフルなガンバのサッカーは大好きだった。この日の敗戦要因が、単純に「年齢」から来るものではない事を切に願っているのだが。
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2010年04月15日

すばらしいACL

 この日直接FKを決め、鋭いサイドチェンジを通し、サイドを見事に突破するなど、八面六臂の活躍をしていた田坂祐介が交代と聞いて、私は失望した。せっかく若い(と言っても24歳だが)MFが、韓国のトップチームとの難しい国際試合でよいプレイを見せていたのだから、90分使い切って自信をつけさせればよいのにと。
 けれども、(いつもの通り?)私は間違えていた。田坂に代って入ったのは、中村憲剛と言う選手だったのだ。冗談抜きに、その瞬間「競技場の空気が変わった」のだ。フロンターレの選手達の連動も、サポータの声援も、いや城南の選手達のプレイすらも、憲剛の一挙手一投足に制御され、眼前でプレイされるサッカーが一層色鮮やかなものに。我々のみならず、ゴール裏で(少々単調なきらいはあるが)必死に応援していた城南サポータにも、憲剛の登場は歓喜を提供したのではないだろうか。
 等々力の王様の帰還を、目の当たりにする事ができたのは幸せだった。もはや、完全に王様となったこの選手を初めて見たのは、6年前のこの競技場だった。6年前に期待を抱いた事は間違いないが、ここまでの存在になるとは思ってもいなかった。その王様が、屈強の敵に対して、磨きに磨いた能力を全てぶつける機会が、2ヶ月後に訪れる。

今まで左サイドに貼り付いていた佐々木勇人が右に流れる。この日、遠藤保仁が不在のため中盤で全権を振るっていた二川孝広が、柔らかいパスを佐々木に通す。佐々木は落ち着いて守備ラインとGK李雲在の間にアーリークロス。宇佐美貴史は、ちょっと引いて敵DFの間に入り込み、それぞれの視野から完全に消えた上で、抜群の奪取力でDFを置き去りにして抜け出し、やさしく左足でボールを突いた。李雲在は何もできず!ロスタイムの信じ難い決勝点だった。
 開始早々、二川のパスから宇佐美が抜け出す決定機から始まったこの試合。遠藤と共にプレイする際の二川は、遠藤の動きに合わせて多くの好機を演出する。けれども、遠藤不在のこの日は、二川が全軍を指揮。そして、その補助役を演じたのが、二川と同じ干支、12歳若い宇佐美だったのだ。
 二川の同点弾、宇佐美が左サイドから切れ込み、敵DFを中央に寄せたところで受けた二川の見事な切り返しと正確なミドルシュート。「部下」が工夫して作ったスペースを活かした完璧な得点だった。
 勝ちたい西野氏は、終盤やり方を変えて、宇佐美を最前線に貼付けた。宇佐美は我慢を重ね、最前線で味方からのボールを待つ。二川は再三工夫したボールをこの若き部下に提供しようとするが、水原の守備陣も厳しく守り、突破を許さない。そうこうしているうちに、上記のロスタイムを迎えた訳だ。西野氏と二川と宇佐美の勝利。

 前半終了間際、ペナルティエリアにしっかりと人数を揃えながら、軽卒なミスから失点。苦労して苦労してようやく同点に追いつきながら、FKを守備陣とGK西川の中間に蹴り込まれ、マークに突き切れずに失点。このような、つまらない失点を重ね、サンフレッチェはACLで勝ち点を失ってきた。ここまで修正できないと言うのは、ある意味感心させられる。
 けれども、この日のサンフレッチェの3得点はいずれも本当に美しいものだった。分厚く守る敵守備陣に対し、丁寧にボールを回し、ほんの僅かな隙を見つけて裏を突きスペースを作り、シュートを狙う。後方に引いた寿人の完璧なスルーパスを受けた森崎浩が冷静に決めた1点目。左サイドに拠点を作り、山崎が作った溜めから、渾身で李忠成が決めた2点目。ようやく逆転したものの、再び追いつかれ、精神的に苦しい状況になった終盤、新たに起用された石川大徳と大崎淳矢が精力的に引き出し、再度ペースをつかみ直す。(私にとって)全く初めての若い攻撃タレントが、山岸智、山崎雅人と言う実績ある選手に代って起用され、再びチームを活性化させるのはすごい。そして、森崎浩(だと思った)のスルーパスを受けた石川(受けの飛び出しもラストパスも完璧だった)の落としを、再び李が強烈に決めた決勝点。
 サンフレッチェはアジアを去る事となった。けれども、この勝利は大きい。柏木を失い、青山を使えないと言う、極めて厳しい状況下、欠点を是正できずに、長所だけを伸ばし、見事なサッカーを演じたのだから。
 
 タフな国際試合。見ているだけでも本当におもしろい。けれども、我々の眼前で行われる七転八倒そのものが、日本サッカーを着実に発展させている。
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2010年03月25日

サンフレッチェ、アジアで苦闘

 アジアチャンピオンズリーグ。昨シーズンは1次ラウンドで圧倒的な強さを発揮していた日本の各クラブだが、今期は苦戦中。ワールドカップの年のために、開幕が早かったのが状況を悪くしている事もあるだろうけれど。アントラーズこそ全勝街道を走っているが、他3クラブのもたつきが目立つ。それでもガンバはそれなりに勝ち点を積んでいるし、フロンターレの苦杯は「雪」のせいだったりするが、サンフレッチェはいけない。とうとう3連敗、早くも現実的に2次ラウンド進出はほぼ絶望となってしまった。

 しかも、負け方がよくない。
 初戦はホームで山東に押し気味に進めながら、セットプレイで失点し、どうしても追いつけず。まあ、この試合はホームチームが得点をどうしても取れない際に落ち込みそうなパタンで、そう悲惨な印象はなかった。
 2戦目は、敵地浦項戦。先制を許しながら、終盤無理攻めからPKを奪取し追いつくが、ロスタイムにセットプレイからGK西川の信じ難いミスから突き放される。戦闘能力的にも1枚上の相手との敵地戦ゆえ、先制を許し全体的に劣勢だったのも仕方がないが、せっかく追いつきながら、超弩級のミスが出てしまったのだから、もうどうしようもなかった。
 そして、昨日の敵地アデレード戦、集中が欠けた試合で前半リードを許し、さらに(明らかに集中を欠いたチームメートのカバーで)ストヤノフが退場。それでも、セットプレイから2発決めて逆転するも、逆にセットプレイから連続弾を許し再逆転されてしまった。サンフレッチェが追いついた2つのセットプレイは、丁寧な逆襲が奏功し俊敏な選手への対応が苦手な先方が遅れ気味のファウルをして奪取したもの。それに対して、再逆転を許したセットプレイは、いずれもミスがらみでボールを奪われて許したもの。せっかく敵地で逆転しながら、「守り」を固める事ができなかったのだから、これまたどうしようもなかった。3点目などはジャンプした壁の選手、それも頭に当たったボールが、西川の逆を突いて枠に飛んで行くのだから、運すらない。
 重要な場面でセットプレイから次々と失点、しかもその失点に、高額で補強した代表GKが絡んでいる。総じて言えば、「勝てる訳がない」状態と言えるだろう。

 浦項はディフェンディングチャンピオン、アデレードは一昨年のファイナリスト。実績面を含めても、サンフレッチェはこのグループの3番手(あるいは4番手)で、その強豪両チームに敵地で連敗した事そのものは、仕方がなかったかもしれない。そう言う視点からは、サンフレッチェの大チョンボは、初戦の苦杯のみ。さらに言えば、その初戦の大失敗があったために、いずれの敵地戦でも「引き分けでよい」と言う姿勢で臨みづらくなり、悪循環に陥ったとも言えるかもしれない。
 ただし、戦闘能力的な課題もやはり大きい。最大の問題は、今シーズン前から懸念されていた柏木の離脱だろう。個人能力で崩しを仕掛ける事のできる若者の穴は(山崎、山岸ら相応の補強はあったものの)そう容易には埋まるものではない。また青山の負傷欠場が、サンフレッチェの攻撃から「展開」のみならず「変化」まで奪ってしまっている。加えて、ミキッチも負傷で離脱中なので、一層攻撃の間口は狭くなっている。さらに言えば、アデレード戦でよりによって槙野が使えなかったのは、痛いを通り越していただろう。
 元々ペトロビッチ氏のチーム作りは時間がかかるものだ。昨期堂々とJリーグ4位に輝いたチームは、一昨年の入替戦で苦杯を喫したあたりから丸2年以上をかけて作り上げたもの。それが、攻撃の中核だった柏木が去った事で、大幅に組み直しを必要としている状況なのだろう。
 そのあたりの穴をうまくごまかして、勝ち点をそこそこ積んでいれば、2次ラウンド進出の可能性は存分にあった。そうすれば、負傷者も戻り、新規加入選手もなじみ(特に西川と守備陣の連携)、上位に進出する可能性も低くなかったはず。そう言う意味での、チームの小修正、負傷者対応ができないと、アジアで勝つのは難しいと言う事だろう。やはり、何とも難しいタイトルなのだ。
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2010年03月16日

本田圭佑の「成長」

 本田圭佑が好調のようだ。
 移籍したCSKAモスクワの開幕戦に、ロスタイムに決勝点を決めたとの事。モスクワに移籍した後の、先日の欧州チャンピオンズリーグのセビージャ戦の活躍も記憶に新しく、いよいよ今日は敵地戦を向かえる。着実なステップアップ振りに、南アフリカに向けての期待も高まろうと言うもの。
 従来の日本代表の試合では、敵がシビアに守備を固めてくると中々思うようにボールを受けられないと言う課題があった。けれども、先日のバーレーン戦ではいわゆるトップ下(あるいは引き気味のトップと言うべきか)でよくボールを引き出し、好機に再三絡んでいたし、終了間際には見事なダイビングヘッドを決めた。半年程前に課題だったボールの受け方、身体の向きも着実に向上していると言う事だろう。

 ちょっと話題を変える。
 3月10日発売のエルゴラッソに、Kリーグでプレイし、今期ホーリーホックに復帰した大橋正博のインタビューが載っていた。大橋と言う選手は、角度のある高精度なパスを操る事のできる技巧的な選手。マリノスやフロンターレでも一時期、定位置を確保する感すらあったのだが、定着し切れず昨期Kリーグの江原でプレイしていたもの。このインタビューは、大橋がKリーグでの経験や、古巣のホーリーホック(若い頃、中々芽が出なかった大橋が、事実上プロフェッショナルとして試合経験を積み経歴をスタートさせたのが、マリノスからレンタルされたホーリーホックだった)への思いを語ったもの。
 その中で、日本と韓国のサッカーを比較したくだりがおもしろかった。
ーサッカーにおいての違いは感じましたか?
「球際というか、ボディーコンタクトに関しては日本よりはあります。ゲームの展開が速くないので、つぶされる部分が多くなってくるんですよ。日本の当たりが弱いとは思いませんが、そういう部分での強さは韓国のほうがあると思います。でも、それはゲームの流れが遅いからなんだと思います。よく韓国の選手は『日本はプレッシャーがないだろう』と言うんですけど、日本はプレッシャーにいけないサッカーをしていると思うんですよ。だから、僕もつぶされる前にプレーしますし、日本にも体の強い選手がいるわけですから。」
ーフィジカルの違いはそんなに感じなかった?
「日本はフィジカルが弱いと言われましたけれど、それは球回しが速いからなんだと思う。プレッシャーにいけないくらいのサッカーを日本はしようとしていますから。川崎Fでそれはすごく感じました。韓国はつなぐというより、蹴ってこぼれ球を拾うサッカーで、ボディーコンタクトの時間が多い、ただ、その差だけなんですよ。でも、そうなったときの強さは韓国にはあります」

 要は、日韓のサッカースタイルの相違を「フィジカルコンタクトせぬように速い展開を試みる日本と、そこまで展開は速くなくフィジカルコンタクトをいとわない韓国」と整理している訳だ。
 もっとも、これはかなり古い議論で、韓国との比較論ではないが、98年ワールドカップ後の改善点として、「フィジカルコンタクトを避けるように戦うのが日本の行き方だと考えていたが、避けてばかりいては本当に列強とは互角に戦えないのでは」的な分析が述べられていたのは、記憶に新しい。

 そこで本田圭祐だ。
 上記した通り、この若者は日本のトップ選手には珍しく、ボールを受けるときの身体の向きに課題があった。過去、サイドバックを含み比較的後方に使われる事が多かったのも、ここに課題があったためかもしれない。ただし、本田は少々体勢が悪くとも、上半身の強さで強引にボールを持ち出して、帳尻を合わせる事ができていた。たとえば、本田があまり機能したとは言い難かった昨秋の南アフリカ戦だが、そうやってチャンスを作りかけた事も結構あったのだ。
 しかし、先日のバーレーン戦にしても、セビージャ戦にしても、身体の向きそのものにも改善が見られたように思う。欧州での厳しい試合の経験により、質の高いプレイを目指すうちに次第に欠点を克服しつつあるのではないか。元々、受け方がうまいとは言えなかったが、強さでカバーしていた選手が、受け方がうまくなったとしたら。これはすばらしい事ではないか。
 そして、上記の大橋のインタビューで語られているように、本田は従来の日本選手とは全く異なる道筋で自らを磨いてきたと言える。そう、もし本田がその問題を解決したとすれば(実際に、ほぼ解決しかけているのだが)、日本の若手選手の育成の方向性に、新たな一石を投じる事にもなるのではないか。
 まずは敵地セビージャ戦での活躍を期待して待とう。
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2010年02月22日

ACLを愉しむ2010

(サンフレッチェの想定2トップ、寿人、山崎とするところを、寿人、山岸とミスタイプしていのたの修正しました。ご指摘ありがとうございました。 2010/2/24 武藤)

 早いもので、明日からACLが開幕する。今年はワールドカップがあるため、すさまじい日程となっている。J開幕から先んじる事約10日、昨期からも2週間繰り上がりで、この過酷なタイトルマッチが始まる。しかも、今期は4月までにホーム&アウェイで6試合を行い、さらに5月上旬に1/16ファイナルまで終える日程。短期決戦でベスト8までが決まってしまう日程だけに、序盤戦でつまづくと立て直す時間があまりない。と言って、明日、明後日の第1節からフル回転で大会に入るのは、コンディショニング的には相当難しかろう。今期は、ワールドカップがあるのみならず、通常のシーズン終了後、アジアカップまで戦わなければならない非常に特殊なシーズンなのだ。
 とは言え、現場はたとえどのように狂的な日程でも、それを受け入れざるを得ない。つらいところだ。

 今期ACL出場クラブは、アントラーズ、フロンターレ、ガンバにサンフレッチェ。サンフレッチェがグランパスに代わった以外は、あまり変わりばえしない顔ぶれとなった。元々ACL出場クラブは、厳しい日程に悩まされJリーグでは苦しい戦いを余儀なくされるのだが、連続出場の3クラブはそれを乗り切っただから大したものだ(3クラブとも予想外にACLで早期敗退を余儀なくされたと言う事もあったのだが)。今期はワールドカップ中断までは、一層過酷な日程での戦いとなるがどうなるだろうか。

 ざっと4クラブの補強状態を概観してみる。

 アントラーズとガンバは、比較的似ている形態の補強策をとってきたように見える。もちろん、相当強かろうが、いささか中核の方々が、お年を召して来たのが気になるとは言えば気になる。
 アントラーズは、外国人枠を4枚すべて使ってきた。しかも、李正秀とジウトンはJでの実績がある選手(ジウトンの実績は少々微妙だが、オリヴェイラ氏はジウトンをオールスターで選考するなど高く評価しているのだろう)。Jを3連覇した勝負強いチームに外国人選手の上乗せで、悲願のアジアタイトルを狙おうという事だろう。ただし、このクラブは主軸の小笠原らが皆30歳を越えてきているのが不安材料。まあ皆さん、お元気なのですがね。バックアップに大迫を筆頭に優秀な若手を抱えるが、働き盛りの田代と増田をレンタルに出す(これはこれで先を見ての発想だろうが)英断がどう出るか。
 ガンバは、毎期恒例の前線ブラジル人の海外流出に備えたか、最前線に外国籍選手を並べた。遠藤、明神、ルーカス、二川、橋本らで作る好機を敵陣に叩き込む選手が1人いれば、自動的に勝ち点が積み上がっていくと言うねらいだろうか。ただ、ここも主軸の老齢化が気がかり。こちらも皆さんお元気なのですが。そして、中堅を大量にレンタルに出したところまで、アントラーズと似ている。山崎(この人の移籍だけは誤算だったと言う報道を見たが)、寺田、倉田、そして復帰すると思われた家長(これまた来期以降を見据えているのだろうが)。こちらも宇佐見ら強力な若手を抱えているし、選手層は大変分厚いのだが。
 フロンターレは、明らかに「今年」を狙った補強。弱点だった左サイドバックに小宮山を獲得したのが何より大ヒット。そして、経験豊富な稲本の獲得。憲剛、谷口を色々な意味で補完する役割を期待してだろうが、先日の東アジア選手権でも、予想以上(と言ってはこの選手に失礼か)の活躍を見せていただけに期待は高まる。このクラブの不安点は、ジュニーニョの衰えがいつ来るかと言う事(ただし最前線の層は厚いし、ジュニーニョ自身も年々老獪さを加えたプレイに「進歩」しているが)と、新監督高畠氏の手腕か(と言っても、08年シーズンに代行監督時代に的確な采配を振るった実績があるから大丈夫そうに思えるが)。
 これらの3クラブは、ACLもJリーグも優勝候補であるのは言うまでもない。この難しいシーズンに向けて、どのようにギアを上げて行くかを見るのも大変面白い。

 上記3クラブと比較すると、サンフレッチェの戦闘能力は少々苦しいか。中でも最大の問題は柏木の穴をどう埋めるかだろう。補強としては、西川、山崎、山岸ら実効的な選手を多数獲得。寿人と山崎の2トップはとても魅力的だし、西川の加入はシーズンを通し失点を減らす事だろう。しかし、攻撃の変化を担っていた柏木の穴は相当大きいと思う。サンフレッチェは、ACL上位進出のためには、序盤からフルスロットルで大会に臨むのも1つの手段ではないか。代表選手はワールドカップ準備で、そうでない選手はワールドカップ中断期間で、それぞれフィジカルの再整備ができると言う発想で、行けるところまで走ろうと言う考え方だ。比較的若い選手が多いだけに、1つの手段だと思うのだが。
 サンフレッチェがこの大会に出場するのは、前身のそのまた前身のアジアチャンピオンクラブトーナメントに69年に出場して以来だから、実に41年振り。松本育夫氏が現役で活躍していた頃にさかのぼる事になる。当時のJSL連覇時代を含めて伝統と実績あふれるこのクラブだが、決して経済的に恵まれているとは言えない中でのこの大会進出は、それだけでも極めて高く評価されるものだ。

 例年にも増して過酷な日程ではあるが、やはりACLは愉しい大会だ。昨期は日本チームは比較的早期の直接対決が多かった事もあり、決勝進出はならず、国立で悔しい思いで決勝を見せられたものだ。今期も決勝は国立で行われると言う。日本勢同士の決勝など見られれば最高なのだが。
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2010年02月09日

4年に1回に合わせる

 ワールドカップが近付いてくると、色々とどうでもよい事を考えるようになる。今日講釈を垂れるのは、ワールドカップにしっかりとピークを合わせるのは難しいと言う事。

 ワールドカップは4年に1回。1人の選手がそのキャリアの中で、よい状態でワールドカップを迎え、その人なりに納得できる活躍ができるかどうかは、結構難しい。

 成功例。
 たとえば最高の成功例ではないかと思われるのが、ベッケンバウア。66年若き貴公子としてデビューし準優勝。70年はイングランド、イタリアと歴史的名勝負を演じ、最後は肩を脱臼しての3位。そして74年、地元大会で腕章を巻いての優勝。74年に大歓喜をつかんだ事で、おそらく過去2度の痛恨もよき想い出となっているだろうし(もっとも自伝で70年イタリア戦の日系ペルー人主審を心底罵っていたが)、70年のように負傷しながらも(負傷が準決勝試合中だった事もあり)ほぼフル出場している。これほどワールドカップにうまくなじめた選手は珍しいと思う。
 たとえばペレ。58年に17歳で世界制覇。21歳と25歳では蹴り出され本領を発揮できず(もっとも、21歳時は優勝しているけれど)、そして29歳で迎えたメキシコ大会。58年のチームメートだったザガロ氏に率いられ、すばらしいチームメートにも恵まれて史上最高の優勝。4回出場し、3回優勝すると言う信じ難い実績。ただし、4回中半分は十分に活躍できなかった。
 たとえばマラドーナ。78年地元大会は17歳で、最後の22人に入れず、しかし母国は初優勝(あの時メノッティ氏がディエゴをメンバに入れていたらどうなっていたのだろう、アルディレスが負傷した終盤彗星のように...)。82年はジェンチーレに蹴り出され、自らもバチスタを蹴り出し失敗。そして、あの86年は現人神に。90年は満身創痍で決勝までたどり着く。そして94年の...
 たとえばロナウド。94年はブラジル独特の若手経験積み要員(チームは優勝したが、36年前のような出場機会には恵まれず)、98年は大黒柱として母国を決勝に導くが、謎の病気?で決勝はガタガタ。02年は今度こそフル回転で完全優勝に貢献し、得点王獲得。06年は、大会前は「太ってダメ」と噂されていたが、大会始まると好調。日本はチンチンにされるわ、累積最多得点記録を取るわ、これは連覇かと思われたが、準々決勝でジダンの前に沈没。
 
 と、まずは、華々しい活躍をした人達を振り返ってみた。これら毎回毎回活躍したスーパースターならずとも、クライフのようにたった1回の大会で、しかも優勝できなかったのに、その神業だけで数十年間伝説として語られる人もいるし(本人はその結果に全然納得していないだろうが)、ケンペスやロッシのようにワールドカップその時だけに超新星爆発のような活躍をする人もいる。

 一方、少々不遇だった方々。
 たとえばプラティニ。この人を不遇と言ったら叱られるかもしれないが、78年は地元アルゼンチン、イタリアと同じグループで沈没。82年、86年は(ブラジルがいなくなった事もあり)優勝の雰囲気がありながら、いずれもゲルマン魂に屈する。84年の欧州選手権制覇から85年のあのトヨタカップにかけては正に世界最高の名手と言われていたのだが、86年の大会中に現人神の座をディエゴに譲る事となった(ただし、準々決勝のブラジル戦は史上最高の試合だったが)。86年の準決勝敗退後、青いユニフォームをスタンドに投げ捨てる(投げ上げる)のは、ワールドカップ史上に残る名場面だった。
 たとえばジダン。この人を不遇と取るかは議論が分かれるか。98年地元大会は序盤で退場するも、決勝で2得点で初優勝に貢献。02年は直前の負傷でチームも完敗。06年は上記したブラジル戦で完璧なプレイを見せ、決勝まで行きながら...98年を含め、結局ワールドカップですばらしいプレイを見せたのは、06年の準々決勝と準決勝くらいだったように思う(それで十分だろうが)。
 たとえばジーコ。78年は期待されていたが、若さを暴露して機能せず。82年は黄金の4人と優勝確実と言われて、イタリアに歴史的敗戦。そして86年は負傷に悩みながらも、上記した史上最高のフランス戦で交代直後に完璧なスルーパスを通しPKを取りながら、自ら外す。そして運命のPK戦へと。
 たとえばピクシー。90年はオシム爺さん率いるチームで準々決勝でディエゴを後一歩に追いつめながらPK戦で苦杯。94年は出場機会すら与えられず。98年は主将で臨むも、やや不完全燃焼で終えてしまった。
 たとえばファン・バステン。86年はプレイオフでライバルの隣国ベルギーに苦杯。88年の欧州選手権大爆発後の90年は負傷で不調。その後も負傷が相次ぎ、94年は登場できず、そのまま引退。

 さて今大会、カカは、メッシは、シャビは、C・ロナウドは、ルーニーは、それぞれ大会に合わせてこれるのだろうか。そして、本人なりに納得できる結果を残せるだろうか。

 これは日本人選手だって同じ事だ。日本サッカー界の今日の繁栄に最も寄与した言っても過言ではない井原とカズ。この同世代の巨人2人は、ことワールドカップについては明暗を分けた。井原はたった1回のワールドカップで自らの経験の能力をほぼ全て発揮する試合を複数回行う事ができた。しかし、カズは...
 中村俊輔の1日でも早い復調を願うものである。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(12) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月14日

ああミラン・マチャラ

 ワールドカップ予選プレイオフ、アジアオセアニアブロック、第2戦、ニュージーランド1−0バーレーン。第1戦の0−0の引き分けと合わせ、ニュージーランドが本大会出場権獲得。

 戦闘能力比較をすれば、バーレーンが明らかに優勢。第1戦でも幾度も決定機を作りながら決め切れず。この日も前半慎重に戦い過ぎているうちに、終了間際にCKから失点。後半立ち上がりから仕掛けてPKを獲得するも失敗、以降は自信を失ってしまったのか、無謀な縦攻撃に執着し、そのまま押し切られてしまった。バーレーン国民とミラン・マチャラの野望は水泡に帰したのだ。
 それにしても詰めの甘いオッサンだ。日本戦でバーレーンは常に集中した守備を見せ、俊輔や遠藤の悪魔のようなCKに中澤や闘莉王が飛び込んでも、我慢に我慢を重ねて来たではないか。それなのに、どうして前半終了間際の大事なCKでああも簡単に敵をフリーにしてしまったのか。豪州戦でバーレーンは再三見事な技巧と連携で、中盤の厳しいプレスを抜け出し好機を作って来たではないか。それなのに、どうしてああも単調な攻撃に終始したのか。サウジ戦でバーレーンは敵得意のカウンタを許さない丁寧なビルドアップを見せていたのではないか。それなのに、どうして縦ばかり急いでしまったのか。この一番肝心な試合で、今日の敵よりも格段に戦闘能力の高い相手に今まで存分に対抗してきた能力をほとんど発揮せずに敗れてしまった訳だ。まあ、このオッサンらしいと言えばらしいのだが。

 ニュージーランドは82年以来28年振りの出場となる。28年前は、最終予選はクウェート、中国、サウジの4国でのH&A総当たり(1次ラウンドで韓国はクウェートに、日本は中国に、豪州はニュージーランドに、それぞれ敗れた。また、イランはイランイラク戦争で辞退、イラクは戦争しながらも出場しサウジに敗れていた)。クウェートが早々に抜け出し、中国が2位に滑り込むと思われたが、ニュージーランドが最終戦敵地サウジ戦を5−0で完勝し、同勝ち点、同得失点差に追いつき、プレイオフに。プレイオフで中国を振り切り、初出場を決めたもの。後年、スイス、ドイツ、そして来日しジェフでも活躍した当時まだ10代だったストライカのウィントン・ルーファーの活躍が目立った。
 本大会では、ブラジル、ソ連、スコットランドに3連敗。けれども、あの黄金の4人のブラジルに「4点しか取られなかった」(0−4の敗戦)、スーネス、ダルグリッシュなどのイングランドのトップ選手が並ぶスコットランドから「2点取った」(2−5の敗戦)などは、健闘ではないかとの評価もあった。
 しかし、この大会以降はほとんどの大会で豪州の壁を破れず、目立った活躍はできなかった。前回のドイツ大会予選に至っては、ソロモン諸島の後塵を拝し、豪州とのオセアニア最終予選にすら進めなかった。
 久々の出場に祝意と敬意を表するものだが、果たして本大会でどこまでできるか。地元南アフリカと同グループに配されるのは確実だろうが、前回同様の存在と予想されたトリニダードトバゴ(こちらもプレイオフでバーレーンを下して出場だったのだが)は、大ベテランのヨークを軸に鮮やかなサッカーで大健闘を見せたが、ニュージーランドはどうなるだろうか。

 78年大会にイランが出場して以降のワールドカップに、いわゆる西アジアの国は最低1国は必ず出場していた。今回のバーレーンの敗退で、実に36年振りの西アジア国不出場のワールドカップとなる。これはこれでちょっと感慨深い。
 80年代半ば、アジアにおける戦闘能力バランスは西アジアが圧倒的で、東アジア側は唯一韓国が対抗できていたくらいだった。90年代前半、日本がアジアのトップに登場し、ここ約15年間は「西アジア(主にサウジ、イラン、イラク)対日本、韓国」が、アジアサッカーの基本構図だった。豪州のアジア参画でそのバランスが微妙に崩れて来た訳だが、北朝鮮の大健闘、サウジ、イランの失態、ミラン・マチャラ氏の詰めの甘さなどが錯綜し、とうとう西アジア国不在のワールドカップとなった訳だ。
 この結果がアジアサッカー界の潮流だとは言う気はない。この手の結果は運不運が左右するものだからだ。現に2年前のアジアカップでは、言わば中立地と言える東南アジアの大会で、イラクとサウジが準決勝で、それぞれ韓国、日本を下して決勝で覇を競っている。ただ、そうは言っても、オセアニアと合わせ合計5カ国の出場権があるワールドカップに、西アジア国が不在になる事態は、ほんの数年前、いや本予選さなかですら、ほとんど予想できなかった。やはり1つの事件と言えるだろう。
 確かにアジアの予選は、他地域と比較したゆるいとは思う。今日の試合を見ても、この2国いずれかが本大会でどこまでやれるのかは、かなり疑問に思った。けれども、そのゆるい予選を、サウジもイランもイラクも、そしてバーレーンも突破できなかったのだ。予選とはそういうものだ。そのような予選をしっかりと勝ち抜いた事そのものは、やはり素晴らしい事だと改めて思った次第。
posted by 武藤文雄 at 22:38| Comment(5) | TrackBack(1) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする