2009年11月07日

浦項のアジア制覇

 ACL決勝。浦項2ー1アル・イテハド。
 世界で最も嫌いなサッカーの代表チームはどこかと問われると「韓国とサウジ」と答える自分がいる(もちろん中国は論外)。しかし、このアジアのライバルと言える2国だが、「嫌い」の次元が正反対に異なる。
 韓国は02年の狼藉に目をつむれば、それ以外の「嫌い」には尊敬が入っている。実際この隣国の過去の名手達は、皆忌々しい連中だったが、後年管理職になって再会すると何かしらのうれしさを感じるし(だからこそ、02年の狼藉はこの国のサッカー界にとっては、大暗黒と語るべき汚点であろう)。でも嫌いだ。
 一方でサウジに常に感じるのは志の低さ。技術的にも肉体能力的にも優れたタレントを揃えながら、駆け引きばかり考えるスタイル。戦闘能力的に明らかに劣る他国に対しても、守備的に戦うのはイタリアだってウルグアイだって変わりない。けれども、彼らは能動的に敵を引き寄せて逆襲を狙う。その鮮やかさは実に愉しい。対してサウジの逆襲は常に受動的で、爽快感を感じない。アジアのタイトルマッチでも、常にそのような戦い振りで勝ち上がってくる。だから世界大会に進んでもインパクトある戦いができない。

 で、両国トップクラブがよりによって国立で決勝を戦うのだから不愉快な決勝戦だった。そして、上記の偏見通りの試合を味わう事となった。悔しいがおもしろい試合だったしな。

 戦闘能力では明らかにアル・イテハドが優位だった。しかし、先制点を取り切れずにいるうちに、交通事故のようなセットプレイから先に2失点。そのままズルズルと時間を費やし、アブシェルアヌやムールの煌めくような個人技をほとんど見せる事なく、一敗地に伏す事となった。
 1点差とする得点など実に見事だったではないか。短いパスの連続で、アブシェルアヌを左サイドでフリーにする。アブシェルアヌは、逆サイド一番遠いところにいるチェルミティに正にピタリと合わせるピンポイントのクロス。チェルミティのヘディングはGK申和容に見事に防がれたが、こぼれたところをムールが鮮やかに決める。あのような攻撃の頻度を増やす努力をすればよかったのだが。
 しかし、1点差として残り15分以上あるにもかかわらず、またも浦項に合わせてしまったかのようなプレイを継続してしまった。ロスタイムに入っての攻め込みにしても、我々野次馬に訴えてくる必死さが感じられなかった。

 一方で浦項は、序盤無謀とも思える攻撃的姿勢で攻勢を取る。4ー1ー2ー3的なフォーメーションで、ワンボランチの辛炯[王民]が引き気味のトップに位置するムールに着くので、5ー2ー3的な形になり、いわゆるバイタルエリアを空けてしまい再三カウンタから危ない場面を作られる。
 しかし、最終ラインの奮闘でしのいでいるうちに(退場になってもおかしくないプロフェショナルファウルや、PKではないかと言う微妙な交錯を交えながら)、2点を奪ってしまった。その2得点にしても、1点目の盧炳俊の直接FKは壁がよけたかのような間隙を通ったもの、2点目のヘディングはCB金亨鎰が競り勝ったのは確かだが側頭部に当たったボールがGKのタイミングを全く外してネットを揺らしたものだった。
 そして、リードした以降もアラブのトップスター達の個人能力にひるむ事なく戦い続け、とうとう押し切ってしまった。特にすばらしかったのは、右サイドバックの崔孝鎭。アル・イテハド選手に近いところにこぼればルーズボールも、動き出しの早さと判断のよさで再三再四確保に成功。さらにボール獲得後も、時に突破し、時に好クロスを入れ、時にキープし、時に好展開。正にこの日のMVPと言う活躍振りだった。
 「勝つ」と言う目的のために、リスクも冒し、ぎりぎりの反則も見せ、最終ラインで粘り、幸運も引き寄せ、粘り強く勝ってしまう。何とも腹の立つ勝ち方を眼前で見せられたものだ。

 現時的には、増川がインフルエンザで倒れた時に、アル・イテハドはUAE行きのチケットを確保したも同然だったのだ。しかし、この試合は「アル・イテハドがこの国の欠点をさらけ出し、入手同然だったチケットをみすみす失った試合」と言えるのではないか。
 浦項は1次ラウンドでフロンターレが苦戦した相手、今期の韓国のクラブでは最強と言える戦闘能力は持っていたかもしれない。しかし、この決勝戦の試合内容にしても、個々の選手の個人能力にしても、Jのトップレベルのチームなら互角以上に戦える戦闘能力のチームだ。その浦項が、我々の眼前でアジア王者となった事を存分に悔しがるとしようか。

 ともあれ。
 岡山、おめでとう。
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2009年10月30日

グランパス敗退に思う

 グランパスがホームでもアル・イテハドに完敗し、日本勢は今期のACLから皆敗退してしまった。大変残念だが、アジア王者を毎年獲得しようと言うのも、随分贅沢な話であり、仕方がないと考えるべきだろう。

 もちろん、本質的な勝負は敵地でのロスタイムでついていた訳だが、このホームゲームの戦い振りも疑問が多いものではあった。
 まずスタメン。アレックス、ブルザノビッチをボランチに並べ(と言ってもブルザノビッチは前に前に行くから、アレックスの1人ボランチと言うべきか)、両翼に玉田とマギヌン、2トップにケネディと巻弟。小川はサイドバックに位置取り。「攻撃的なタレントを揃えて大量点を狙う」と言うと聞こえがよいが、明らかにバランスを欠いた布陣だった。
 案の定、分厚く守るアル・イテハドに対し、完全に攻めあぐむ。玉田とブルザノビッチは行き場がなく、中途半端な位置取りで、攻撃のテンポを遅らせてしまう。致命傷となる最初の失点は、ブルザノビッチのコントロールミスが拠点になったものだったし、玉田も再三軽率な(いかにも彼らしいと言えばそれまでだが)ミスパスで敵のカウンタを呼び込んでしまった。トップから引いてきて(そこに小川や杉本が走り込み)さばく玉田は有効だが、2列目で行き場のない玉田がウロウロするとロクな事はない。またアレックスにしても、敵の意表を突くような判断は得手ではない。また質のよい走りの受け手も少なく、思ったような展開はできない。
 これならば、オーソドックスに右サイドに隼磨と小川を縦に並べ、ボランチに吉村とアレックスを置いた布陣の方が格段に得点の香りがしたと思うのだが。そのような布陣で活動量を上げて攻撃的に戦い、後半2〜30分までに何とか2点差を狙い、終盤の奇跡を待つ、と言った戦い方の方が、まだ(もちろん極めて薄いものだが)可能性はあったと思うのだが。
 まあピクシーとしては、「あれだけ戦闘能力の高い敵相手に4点差」と言う時点で、「頭から奇跡狙い」を採るしかないと判断したのだろう。う〜ん。

 今期のACLの特徴として、トーナメントの序盤から、日本勢同士の戦いが複数回行われた事が挙げられよう。そしてこの準決勝は、その日本勢同士の戦いを勝ち抜いたグランパスが準決勝で力尽きたとも見る事ができる。ただ、Jのクラブがお互いの戦いによって早く消えてしまったのは残念だが、それはそれで仕方がないと思っている。確かに、それがなければ、上位に複数の日本クラブが進出した可能性はあったかもしれない。また、異国のスタイルが異なるクラブとの試合をあまり見られなかったのも残念だった。
 けれども、おかげで、遠藤との丁々発止の末に憲剛が鮮やかな逆転劇を演出する試合を見る事ができたのだし、ピクシーと関塚氏の駆け引きの下での憲剛の涙に感動する事もできたのだ。それらはそれらで、実に見事な試合だったのだし、存分に愉しい試合だった。組み合わせ抽選に文句を言う事そのものも愉しい事ではあるが、文句を言い過ぎるのは、これらの見事な戦いを否定する事になってしまうような気がする。
 今期の日本勢にとってのACLは、Jとの二兔を追った3クラブと、ACLに焦点を合わせたグランパスが参戦し、後者の道を選択したグランパスがピクシーの見事な采配でベスト4に進出した大会だったと言えるのではないか。そして、準決勝で負傷とインフルエンザで2人のセンタバックを欠いたピクシーはそれをカバーできずに、サウジの強豪に屈した。実際アル・イテハドは確かに強かった。アジアを制するのは、それだけ難しい事なのだ。だからこそ、一昨年のレッズ、昨年のガンバ、それぞれの成果は非常に高く評価される。
 また、進行中のワールドカップ予選だが、既に出場権を獲得したのは豪州を含み東アジアの4カ国。もしバーレーンがニュージーランドとのプレイオフに敗れると、なんと36年振りに西アジアからの出場国がいないワールドカップとなる。あくまでも短期的な視野だが東高西低となっているアジアサッカー界で、ワールドカップの出場権を久々に失ったサウジのトップクラブが、我々の前に立ち塞がったのも、ある種の必然を感じたりもする。

 決勝をホーム&アウェイではなく、一発勝負で行うのは賛否両論があるだろう。私は反対である。しかし、結果的にグランパスが敗れた事で、中立地での一発勝負となった。これだけのビッグゲームを生観戦できる機会を得た事に文句を言うのも大人げないような気もするな。あの岡山が登場するとの噂もあるが、どうなるのか。期待して決勝を待つものである。
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2009年10月23日

ジェッダの惨劇をどう見るか

 グランパスが敵地でアル・イテハドに2−6の惨敗を喫した。灼熱の敵地と言う環境、負傷者が続出したメンバ構成、開始早々の退場劇、相手が強力だった事、ピクシーの采配ミスなどが錯綜した結果だった。

 開始早々の竹内の退場は妥当な判定。完全に裏を突かれた場面で、明らかなファウルを犯してしまった。抜け出されたところで「勝負あり」だった訳だが、敵地のあの時間帯なのだから自重して欲しかった。元々グランパスは、増川、バヤリッツァの離脱で、ただでさえ苦しい布陣だったが、この退場でいよいよセンタバックが枯渇してしまった。ピクシーはセンタバック経験のある阿部を中央に回し、小川をサイドバックに下げる苦しい布陣。
 直後、隼磨の巧みな前進のクロスからケネディが先制点を決める。退場の混乱劇でアル・イテハドも落ち着かぬ間の隙を突いた見事な攻撃。1人少なくとも、守ると決めれば試合はやりやすくなる、と思ったがそうは問屋がおろさなかった。グランパスは4−4−1で守備ブロックを作り、守りを固めようとするのだが、問題が多過ぎた。まず、ワントップのケネディのチェイシングがあまりに淡白。さらに両サイドの守備の約束が曖昧で、マギヌンとブルザノビッチの中途半端な位置取り。ために、敵の4DFが自在にボールを回し、サイドに容易に拠点を作られる。結果的に、DFラインが引っ張られ、正確なグラウンダのボールがトップに入る。その状態で、チュニジアやサウジ代表の中心選手が突破を図ってくるのはを、急造のCB阿部につぶせと言うのは酷な話。しかも、サウジのチームとは思えない程、攻撃に変化がある。このあたりは、カルデロン氏の指導の賜物か。再三裏を取られ決定機を許してしまった。同点に追いつかれた後に、ケネディがさすがのヘディングの強さで作ったワンチャンスを、中村が鮮やかな反転から決めて2ー1にして前半を終えたが、守備のてこ入れは必須と言う印象だった。

 後半、ピクシーは控えで唯一のDF佐藤将をブルザノビッチに代えて起用。佐藤を左サイドに起用し小川を上げるのかと思ったが、佐藤は吉田と阿部の中央?に位置取りし、5−3−1として、ケネディの孤立に対しては、中村が長駆する事でフォローする形となった。けれども、中村の献身で逆襲時にある程度攻め込む事はできるようにはなったが、サイドの人数が減り、さらに中央で最も頼りになる吉田が右サイドに引っ張られるために、一層守備の傷口は広がった。そして、相当な高温多湿、過酷な長距離遠征、中3日の日程、選手達の疲労も顕著になっていく。
 それでも、選手達は粘り強く戦い、シュートミスと広野の再三のファインプレイでリードを守っていたグランパスだが、後半20分に右、左、中央と大きく揺さぶられ同点。このあたりで左サイドを1人で守っていた小川が完全に疲労しているのは明らかだった。ピクシーがアレックスを呼んだので、小川と交代と思ったが、中村との交代。確かに中盤でキープできる選手の起用はわからなくもないが、中村の消耗は小川に比べれば小さいように見えたのが。
 後半30分、疲労困憊の小川から崩されるも、広野がまたも超ファインセーブ。ところが、そのこぼれ球を小川がクリアし切れず拾われ、ついに逆転弾を浴びる。あの状況の小川を攻めるのは気の毒と言う印象が強く、このあたり、いつ失点してもおかしくない状態だった。
 ここでピクシーは、ケネディに代えて玉田を投入。玉田が元気よくピッチに飛び出したのを見て悪い予感がした。玉田は案の定、「同点を狙って」精力的にボールを引き出そうとする。それに合わせ、アレックスやマギヌンが押し上げる。これがアル・イテハドが「逆転狙いで前掛り」のタイミングならば有効だったろうが、「逆転して落ち着いた」状態だったから、火に油を注ぐ形となった。仕掛けるならば遅過ぎたのだ。そして、微妙な判定ながらPKを取られ4−2となる。 
 もうグランパスの守備ラインはヘロヘロだったが、2点差となりアル・イテハドの攻撃も落ち着いていたらから無理をしなければあれ以上の破綻はなかっただろう。けれども、攻撃ラインの選手は無理な前進を繰り返し、逆襲の好餌となってしまった。敵地で開始早々に退場者を出したのだから、2点とっての2点差負けで十分とは考えなかったのだろうか。ロスタイムの2点はあまりに痛い。この試合はリーグ戦でも一発勝負でもなく、ホーム&アウェイだったと言うのに。消耗した選手達は攻められないが、無理を仕掛けたのが交代出場してまだ身体はもちろんだが十分アタマも働くはずのアレックスと玉田だっただけに何とも微妙な印象を持った。戦う以上は勝ちたいと言う気持ちはわからずでもないが...

 センタバックが枯渇し、破綻する日程下での厳しい遠征、厳しい気候条件、早々の退場劇、そして何より強力な敵。さしものピクシーも、ここまでの過酷な環境は読み切れなかったのか。
 瑞穂でこの難敵に4点差で勝つ事は極めて難しい事は間違いない。それでもピクシーは諦めないだろう。往々にして「大差ノルマ」の試合は無理にバランスを崩した攻撃的布陣を組み過ぎバランスを崩して破綻する事が多い。アラブのチームは駆け引きを好むから、無理をしない試合を狙ってくるだろう。むしろ、ある程度バランスに配慮した布陣で、後半30分までに2点差に持ち込む事ができれば、あるいは。
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2009年10月21日

ピクシーとカルデロン氏の再会

 明日未明、ACL準決勝のアル・イテハドーグランパス戦が行われる。
 アル・イテハドは、拡大トヨタカップにも登場した事のある名門だが、今回のチームもサウジ代表を軸に、アラブ各国の代表選手を揃え、相当な強豪の模様だ。
 中東地域と言っても気候は千差万別だが、サウジアラビアについては灼熱の一言のはず(同じ中東でも地中海よりや、イラン、イラクの気候は随分と過ごしやすいはず)。さらに、酒が飲めないの(イスラム国でも「酒」に対する厳しさは千差万別)、女性との交流が限られるの(髪の毛や身体を隠さなければならない国は多いが、サウジの厳しさは格段だと言う)、文化的にも全く異なる厳しい環境。難しい試合になるだろうが、グランパスの奮戦とよい結果を期待したい。

 で、一連の報道を読んで驚いたのは、先方の監督が、かつてのアルゼンチン代表選手、ガブリエル・カルデロン氏だと言う事。選手カルデロンは、ディエゴと同世代、あの79年ワールドユースでも来日し、ディエゴが攻撃的MFで、3トップのセンタがかのラモン・ディアス、左がレッズのエスクデロのおじさんにあたるオスバルド・エスクデロ。そして右ウィングがカルデロンだった。
 カルデロンは順調に成長し、82年スペインワールドカップでも準レギュラで活躍。86年メキシコ大会には代表入りできず世界チャンピオンになり損ねたが、90年イタリア大会では、堅実なFWとして体調不良に苦しむディエゴを支え決勝進出に貢献した。

 で、イタリア大会準々決勝、アルゼンチンーユーゴスラビア戦。今なお伝説的に語られる事の多いあの試合である。オシム爺さんが率い、ベテランのスシッチ、ハジベギッチらを軸に、若きピクシー、サビチェビッチ、プロシネツキが活躍した、真性のバルカン選抜。そのユーゴスラビア代表が、暑いフィレンツェで、ディエゴ率いるアルゼンチン(監督は現アルゼンチン総監督のビラルド氏)と対戦。ユーゴは前半に退場者を出しながらも、ピクシーの精妙なパスや、サビチェビッチの技巧的な長いドリブルで攻め込み、アルゼンチンを後一歩まで追いつめながら、0−0からのPK戦で敗れた。

 つまり、ピクシーとカルデロン氏にとっては、この準決勝は再戦となる。カルデロン自身、欧州で長くプレイしていたと記憶しているので、あのフィレンツェのPK戦の他にも、この2人は戦っているかもしれなけれどね。
 しかし、あの歴史的名勝負で相見えた2人のスター選手が、約20年の歳月の後に、それぞれ異国のトップクラブを率いて、このようなビッグゲームで再戦するとは。何か、サッカーの偉大さを感じずにはいられないな。うん。
 来週の第2戦、グランパスの親会社でも、アル・イテハドのオーナの王族の金持ちでも、AFCでもいいから、オシム爺さんと、先日ディエゴと泣きながら抱き合っていたビラルド氏を来賓として招待してくれたりしたら、もんのすごく美しいと思うのだが。
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2009年10月02日

長谷部誠のアシスト

 欧州チャンピオンズリーグ、オールドトラフォードのユナイテッド戦で、ヴォルフスブルグの長谷部誠が見事なアシストを決めた。人数をかけた左サイドからの崩し。少々反則っぽい守備で止められた間隙から、落ち着いたドリブルで切れ込み、ふくらんだ動きを含めた巧いかわしから、左足でノールックで逆サイドにセンタリング。敵DFの頭を越えたボールを、ストライカのジェコが決めたもの。長谷部自身、試合後のインタビューでも、結果的に逆転負けを悔しがりつつも、アシストそのものについては自信に満ちた発言をしていた。
 いくらブンデスリーガチャンピオンとは言っても、ユナイテッドとの実力差は明確。しかも、敵地での試合ゆえ、そう頻繁には好機はつかめない。そのような観点から、この得点を奪う経緯は非常に理にかなったものだった。
 サイドからのクロスは、得点を奪う定石だが、ユナイテッドの守備網を崩すのは容易ではない。しかし、どんな強力な守備者でも、自分の頭越えのボールを守るのは難しい。だからこそ、長谷部がノールックでクロスをファーサイドの一番遠い所に上げて、受け手のジェコが敵DFの後方に入った事が重要なのだ。

 長谷部とジェコには約束があったはずだ。

 現実的に長谷部はこぼれ球を拾い前進を開始する直前にジェコの位置を把握はしていただろう。しかし、以降はノールック。これには、敵に意図を掴まれないと言う能動的な狙いと、敵をかわすのが精一杯と言う受動的な事情があったと思う。ただし、長谷部は明確な意図を持ち、ファーサイドの「ジェコがいるはずの場所」にクロスを上げた(しかも利き足でない左足で)。挙動開始時に把握していたジェコが飛び込むのを「期待」して。そして、その「期待」には明確な約束があったはずだ。
 一方のジェコ。長谷部がふくらんだあたりで、僅かずつ外に開いて敵DFの後方に位置取りを映し「消える」動き。一方で、ジェコを視野に入れていた守備者2人は、長谷部のふくらみと技巧に視野をひきつけられていた。ジェコのこの動きは、たとえ難しい体勢で利き足でなかろうが、長谷部が一番遠いところに位置取りした自分に合わせてくれる「期待」があったはずだ。そして、その「期待」には明確な約束があったはずだ。そして「期待」通りのボール、高いジャンプからよく身体をひねっての完璧なヘディングシュート。

 正に相互の信頼関係あっての、約束どおりの得点。相互にアイコンタクトができなくとも、約束ごとが明確になれば、ここまでの連携が成立するのだ。長谷部誠は世界選抜相手に、世界最高レベルの連携から、世界最高レベルの守備陣を崩し切って、鮮やかな得点を奪ったのだ。

 今後、我々が進むべき道筋を示す得点だっと言ってよいのではないか。この得点は、日本サッカー史において、特筆すべきものだったと言っても過言ではない。
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2009年10月01日

中村憲剛の涙

(コメント欄での指摘を受け、延長戦のレギュレーションに関して追記と修正を行いました、(09年10月4日))

 試合終了直後。両手を高々と上げ歓喜するピクシー。そして呆然と顔を覆う憲剛。絵に描いたような勝者と敗者の対比。
 おそらくピクシーは、この3ヶ月間、この2試合を勝ち抜く事のみを考えてきたに違いない。そして、直前のJのアントラーズ戦を(ターンオーバで「捨てる」のみならず)「最終調整」に使い(しかも完勝すると言う「おまけ」まで獲得して)、満を持してこの第2戦に臨んだ。そして、実質同点状態の終盤に、ボランチ2枚を同時交代する博打を行い、見事に勝ち切った。
 おそらく中村憲剛は、この2年間、あの自らは蹴る事ができなったPK戦を忘れる事はなかったに違いない。そして、苦労に苦労を重ねて、遠藤率いるガンバを倒し、先週は自ら直接FKを決めるなどして、後一歩で「前回越え」まで近付いていた。決してこの第2戦を楽観視はしていなかっただろうが、あくまでも視線は11月7日の国立競技場で自らが戴冠する事に向いていた事だろう。しかし、この日四兎(天皇杯はこれからだから、現状は三兎かまだ)を追おうとするチームメートの疲弊は激しく、思いは叶わなかった。憲剛自身のプレイはすばらしかったのだが。

 前半の点の取り合いと、後半の緊迫感。終盤の決勝点、ロスタイムの攻防。正にタイトルマッチ。おもしろい試合だった。
 そして勝負を分けたのは、両軍の指揮官の勝負度胸の差だったと見た。

 立ち上がり早々は、フロンターレが攻勢に立つ。憲剛を攻撃的MFに起用、ボランチの谷口と横山が中盤でよくボールを拾う事で、中盤でグランパスを圧倒した。
 ところが、15分を過ぎたあたりだったか、マギヌンが鮮やかな技巧で中盤を抜け出して好機を演出したあたりからグランパスペースに。ボランチに起用されたアレックスと、中村直の献身により、小川、隼磨の右サイドから次々に好機をつかむ(村上、レナチーニョのフロンターレ左サイドは少々守備が甘かった)。そして、小川の一撃で先制。さらにいかにもアレックスらしいカーブのかかったいやらしいFKから吉田が決めて2点差に。ケネディをおとりにした見事な攻撃だった。
 直後、レナチーニョのうまい持ち込みからの好パスを受けた、鄭大世が見事なトラップからの得点を決め、2−1に。これで2試合合計が完全に同点となった。ここまでよく守っていたグランパスだが、2点差にした事で、ちょっと緊張が緩んだ感もあった。

 後半は双方が激しく集中した守備を見せて、しばらく試合は動かなくなった。少々意外だったのは、第1戦のようにフロンターレが攻勢に立たなかった、いや立てなかった事。土曜日のガンバ戦でほぼベストで戦ったフロンターレと、同じくアントラーズ戦でターンオーバ起用をした(一部先取は完全休養、遠征にも帯同せず)グランパス。疲労度の差があったのだろう。
 ピクシーが動く。ボランチを2人まとめて交代、吉村とブルザノビッチを起用したのだ。これは後知恵だが、「中村直(飛び出す、献身)&アレックス(パス精度高い)」のセットも「吉村(展開、献身)&ブルザノビッチ(独特のドリブルで前に出る)」のセットも、それぞれバランスが取れている。まとめて交代する事で、元気な先取が入るだけでなく、リズムも完全に変えられる。これでグランパスが攻勢に立つ。
 ここで関塚氏が動かなかったのは疑問。あれだけ、チーム全体に疲労が見えて、攻め切れず、むしろ中盤が空いて崩され始めていた。あのグランパスのボランチ交代が70分過ぎ。それ以降の終盤に点を取られると、取り返す時間がなくなる。現実的に中盤で劣勢で、攻め切れない時間帯が続いていた。とすれば、まずは守備を固めなければならないはずなのに。関塚氏が切ったカードは、レナチーニョに代えて黒津。黒津はボールがくれば力を発揮するタイプで、中盤で劣勢な状況をはね返すタイプではない。たとえば、両サイドMFに田坂と山岸を起用し、憲剛をボランチに下げて試合を落ち着ける手など有効だったと思うのだが。グランパスは仕掛けてきている(ピクシーはホームとは言えアウェイゴールを考えて延長30分戦うのは避けたかったのではないか)状態なので、サイドMFで運動量を確保すれば、後方の憲剛を起点したカウンタもより有効だったと思うのだが。
 決勝点。隼磨の動き出しに誰もついていけないフロンターレの左サイド。さらに衝撃だったのは、森勇介が逆サイドからのセンタリングに対し全く反応できず、後方から走り込んだマギヌンに置き去りにされた事。あの戦う男が、この終盤に易々とマーク相手に振り切られるとは。
 
 中村憲剛の涙。
 2年前は延長戦で足をつった事で交代させられ、ベンチでなすすべなく敗退を見守った。そして、今日は明らかに周囲が疲れてしまって孤立無援状態。それでも憲剛のプレイはすばらしかった。1−3になってからの憲剛の奮闘はすさまじく、自陣前でボールをダッシュするや展開、さらに最前線まで長駆して敵陣を襲うようなプレイを再三見せてくれたのだが。続きを読む
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2009年09月29日

エスパニョールを愉しむ

 エスパニョールーヘレス戦。
 今期エスパニョールの試合の映像観戦は、開幕のビルバオ戦、2戦目のレアル・マドリード戦に続き3試合目。過去2試合の内容はひどいものだった。しかし考えてみれば、シーズン開始直前にに主将だったハルケの急死と言う、最悪としか言いようのない事態に襲われていたのだから、序盤戦のチーム作りが遅れるのは仕方がないこと。さらに第2戦のレアル戦では、中村俊輔が、日本代表戦の負傷と疲労で明らかに本調子ではなかった。
 しかし、ここ2試合は反転に成功し見事に連勝との事。ようやう負傷癒えた俊輔も復帰するだけに、かなりの質の試合を見せてくれるのではないかと期待しての観戦となった。

 考えてみると、スペインリーグの映像を愉しむ機会は少なくないが、たいがいはバルセロナやレアルがらみの派手極まりない試合ばかり。このような中下位のチーム同士の試合を見るなど、ほとんどなかった事だ。毎週のように同じチームの試合を観戦する事など、城彰二がバリャドリードにいた頃以来かもしれない。
 で、実際この試合に関しては、予想以上の質の低さに驚いた。ヘレスは守備を固めて、縦に蹴るだけ。一方のエスパニョールも前に前に出ようとするだけ。とにかく両軍がせわしなく蹴り合いを続けるのだ。
 欧州のサッカー記者や指導者がJリーグを見て、「急ぎすぎ」ではないかと指摘する事が多いが、少なくともJリーグで、あそこまで単調なサッカーをするチームは見た事はない(日本選手があそこまで肉体的強さを前面に出すサッカーを行うのは非常に難しいと言う理由もある)。繰り返すがせわしない。
 確かにセルティック時代の俊輔の試合で、相手チームがこのような「蹴って走るだけ」の抵抗をしてきた試合をいくつか見た事がある。しかし、少なくともセルティックは、技巧や判断力に優れた選手が多かったので、ここまで単調な試合とはならなかった。それに比べて、エスパニョールは強引に襲いかかるだけなのだから。
 そうこう考えると、この試合は久しぶりに見る、欧州トップリーグの中下位同士の「素の戦い」と言えるのかもしれない。

 ついでに余談ながら、主審がホームチームにやたら厳しい笛を吹く。Jリーグみたいだ(笑)。

 では、その試合の中で俊輔はなにをやっていたのか。

 俊輔がボールを持つと、俄然流れがよくなった。ボール扱いはぶれないし、視野は広いし。その瞬間だけチーム全体からギクシャク感が抜ける感じがするのだ。
 が、俊輔にボールが集まらない。
 中でもコロと言う選手は、全く回りが見えておらず、外側に俊輔が全くのフリーでいるのに、強引に中に突っかけては敵にボールを供給する。コロのプレイ振りを見ていると、俊輔を信頼してないと言うよりは、全く周りを見ようとしない事がわかる。
 ボランチのベルドゥは運動量豊富なよい選手だが、ボールを奪った後のプレイが左サイドに斜行する事が多く、フリーの俊輔を見つけて逆に展開するほど周りが見えない。
 ただし、イヴァン・アロンソだけは、先日の決勝点の時の俊輔の鮮やかな落としに感謝しているのか、俊輔を探そうとする。
 俊輔が受けようとする時の位置取りも、その時の身体の向きも全く問題ない。少々守備に入るのが遅いのが気になったが、攻めに入った時にサイドでフリーになるための運動量も中々。負傷療養のための休養がよかったのかもしれない。位置取りがよいから、結果的に敵のサイドバックかボランチを引き出す事にも成功しているので、一層ゴール前の混雑が減る事で、コロあたりの強引が増えた感じがしたが。と言って、受けの回数を増やすために強引に中で受けようとすると、一層ゴチャゴチャするだけなので、そう言う訳にもいかない。前半の俊輔のフラストレーションは相当高かっただろう。

 さすがにハーフタイムで、ポチェッティーノ監督が修正の指示を出したのだろう。俊輔の触る頻度も増え、それに伴い好機も増えて来た。ところが、アロンソの代わりにルイス・ガルシアが出てくると、またうまく行かなくなる。特にあきれたのは、ガルシアが右サイドのCKを自分で蹴ってしまう事。それまでは俊輔のGKに向かうCKはかなり有効で、あと一歩の場面が多かったのだが。
 0−0の引き分けは、エスパニョールが「強引に押し込むだけ」だったので仕方がなかっただろう。それでも俊輔は、強烈なミドルシュートを放ったり、アロンソに好パスを送るなど、それなりの好プレイ。チームメートが冷静にこの日の映像を再確認すれば、状況は、どんどん改善されていくのではないか。

 なるほどチーム首脳が俊輔の獲得を狙ったかがよくわかった。離脱中のデラペニャがどう機能するのかはよくわからないが、この日のメンバを見る限り俊輔がいなければ、「崩し」は難しいだろう。あと1、2試合で周囲との連携もでき上がるだろうし、セルティック時代同様の相当な活躍は期待できるだろう。
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2009年09月24日

アウェイゴールルールの難しさ、おもしろさ

 ACL準々決勝、第1戦、フロンターレ2ー1グランパス。
 23日に行われたACL準々決勝第1戦は、とてもおもしろい試合だった。特に2ー1となってから、両軍の指揮官が第2戦を気にしながら戦うさまが、いかにもアウェイゴールルール下でのトーナメントのカップ戦らしく愉しめた。特に終盤ぎりぎりまで我慢してパワープレイに持ち込んだピクシー采配には感心させられた。

 前半グランパスが先制。右サイドから後方に落としたボールを、中村がファーサイドのケネディめがけてクロス。鋭くカーブがかかった訳でもなく、球足が速かった訳でもなく、守りづらい角度だった訳でもなく、絶妙なコースに飛んだ訳でもなく、タイミングがよかった訳でもないごく普通のクロス。けれども、それをケネディは井川のマークをものともせず、GK川島の手の届かないコースに見事なヘディングでねじ込んでしまった。
 ケネディのヘディングの強さそのものは「お見事!」としか言いようのないものだったが、やはりあれはマーカの井川の不甲斐なさが問題だろう。どう考えても守備者優位の位置とタイミングで、「落とされた」ならさておき、「たたき込まれた」のだから。ただ不思議なのは、この時点で井川は右サイドでプレイしており、ケネディに競りかけるべきは伊藤、菊池、谷口あたりのはずだったのだが、どうして井川が付く形になっていたのか。直前にグランパスに激しく揺さぶられた訳でもなかったのだが。

 リードを許したフロンターレは猛攻をしかける。しかし、グランパスGK広野が再三の好セーブでチームを救う。楢崎の陰に隠れていた選手だが、敵シュートの最後のぎりぎりまで身体がぶれない、とてもよいGKだ。
 後半に入り、フロンターレはさらに攻める。憲剛の信じ難い視野の広さによるラストパスから井川が抜け出した場面は、慎重になり過ぎた井川がシュートをためらい逸機となったが、憲剛とジュニーニョの攻撃意欲はいよいよ衰えない。そしてついには、憲剛が、角度のないところからのFKを壁(小川?)が飛ぶのを読み切ってグラウンダのシュートをねじ込み同点に。試合後ピクシーは「飛んだ」壁の選手を避難したようだが、それは酷と言うものだろう。むしろ攻めるとしたら、低いシュートまで想定に入れていなかったGK広野だろうが、これまた若いGKには酷と言うものだろう。やはり憲剛を誉めるしかないのだ。
 さらに圧力を高めるフロンターレ、直後には複数回の揺さぶりから、右オープンで全くフリーになった森(直前のポジションチェンジで右サイドに移っていた)の精度の高いクロスを谷口が強烈にヘッド、GK広野は見事な反応を見せるが、さすがにキャッチできず、こぼれ球をジュニーニョに蹴り込まれた。

 「この勢いでフロンターレが攻撃を継続したら、いったい何点入るのだろう」と言った猛攻だったが、逆転したところで、微妙に勢いが止まる。
 アウェイゴール方式でのホームゲームでの2ー1と言うのは非常に微妙な得点差、3ー1にできればすごく嬉しいが、2ー2にされると相当きつい。逆転するまでの「ホームゆえ、とにかく勝利を、得点を」と言う姿勢から変わるのは致し方あるまい。実際、グランパスも、押し込まれならもマギヌンなり小川なりを起点としたケネディを活かす鋭い逆襲を幾度か見せていたのだし。
 一方のグランパス、ピクシーはまずブルザノビッチを吉村に代えて起用、全体を少しだけ前掛かりにしてみる。しかし、これは失敗、ブルザノビッチは相変わらず機能せず、吉村がいなくなった分、展開が単調になり、かえってフロンターレを楽にした。しかし、突き放されそうな場面を再三広野が救ってくれる。
 関塚氏も、レナチーニョに変えて山岸を投入し、やや守備固め。ただ、こういう忠実型のバックアッパが起用されると言う事は、逆に憲剛が比較的自由に前進できる状態になる事につながるので、グランパスもそう前には出られない。このあたりの関塚氏は、やはりうまい。
 ためにピクシーは我慢に我慢を重ね、85分を過ぎたところで、アレックスと巻弟を起用、パワープレイに出る。これが当たった。フロンターレに修正の間を与えず、決定機を複数回つかむ事に成功した。結果的に追いつく事はできなかったが、それは結果論。あれより早く、無理攻めに出れば、逆に失点のリスクもあっただろうから、90分ハーフの前半終了間際としては正しい選択だっただろう。

 このような両軍の監督のアウェイゴールを気にしながらの虚々実々の駆け引きを愉しめるのは、H&Aのトーナメント戦の醍醐味。そして、第2戦もアウェイゴールルールが勝負の綾となりそうに思う。
 終盤の見事な采配で、ピクシーは、関塚氏に「何となくイヤな雰囲気」を印象づけて試合を閉じる事ができた。もし、第2戦で0−0のまま試合が推移した場合、グランパスには最後に飛び道具が残っている事を示せたからだ。これで第2戦、関塚氏は0−0で試合をクローズさせる選択肢が取りづらくなったはずだ。それを嫌ってフロンターレが前に出てくれば、ケネディを軸にグランパスは細工をしやすくなる。そうすれば、グランパスは第1戦の前半ほど、ハイペースで無理をする必要もなくなるかもしれず、そこに活路を見いだせる可能性がある。
 またこの週末、両チームはガンバ(フロンターレ)、アントラーズ(グランパス)と、強豪と敵地で試合を行う。J制覇も視野に入っているフロンターレは必勝体制で臨まざる得ないだろうが、ピクシーはこの試合を「捨てる」可能性もあると思う(あるいは、ブルザノビッチやアレックスを4−4−2に当てはめるテストに使う手段もある)。この対比はグランパスに有利にはたらくだろう。
 もちろんフロンターレは強い。この日の憲剛を軸にした後半立ち上がりの猛攻を見ると、第2戦グランパスが無失点で試合を終えるのは相当難しそうだ。先日のレッズ戦でフロンターレは零封されてしまったが、あの試合のレッズは闘莉王、坪井、阿部と並んだ「個」の守備能力がすばらしかった。大変失礼な言い方になるが、グランパスにはそこまで守備の「個」を持った選手はいない。関塚氏は「1点くらいの失点を恐れずに90分間で1、2点を取る」と言う強者にのみ許される策を選択するかもしれない。
 
 憲剛の3年越しのアジア制覇の夢の前に、「プロフェッショナル中のプロフェッショナル」であるピクシーが立ちはだかろうとしている。好勝負を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(2) | TrackBack(2) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月10日

がんばれ、ミラン・マチャラ

昨日のエントリに「リヤドの92、3分」とコメントを寄せて下さった方、ありがとうございます。いやあ、正直言って完全にノーマークでした。そのような試合をリアルタイムで見られなかったのが、あまりに残念。考えてみれば、ライバル同士の死闘を高みの見物できる最高の愉しさなのだから、ちゃんとフォローすべきでした。とは言っても、こんな劇的な試合ってどんな雰囲気なのだろう。公式記録によると観衆は5万人(案外少ないな、リヤドの競技場の収容人数はもっと多いと、どこかで読んだ記憶はあるのだが、調べられなかった)。「その瞬間」の5万人の落胆、ってどんな感じだったのだろうか。
 生中継映像はどこかの放送局でやってくれていたのだろうか。今からYouTubeか何かで、せめてそのロスタイムだけでも堪能できないかしら。
 あのドーハの悲劇の日に同時進行の試合でサウジはイランを4−2で下し、ワールドカップ初出場を決めた。以降、当方が予選免除だった02年大会を含め4大会連続出場、それが途切れた訳だ。全く望んではいないが、我々にもいつかそのような日が訪れるのだろうか。

 いや、それにしても、ミラン・マチャラさん、おめでとうございます。
 このオッサンとの付き合いも実に長い。最初の出会いは96年アジアカップUAE大会。井原、名波、カズと縦の軸が充実し1次リーグ3連勝で堂々と勝ち進んだ準々決勝クウェート戦。日本の守備の弱点を巧みに突く攻撃と、リアリスティックな守備的サッカーに見事にやられた。一方で、当方の加茂監督が「高木や、高木!」と超ロビングモードになってしまったのも痛かったが。試合終了と同時に、マチャラ氏が心底嬉しそうなガッツポーズを見せた。逆に私は悔しさに激怒しながらも「クウェートに雇われているチェコスロバキア代表を務めたほどの監督が、日本に勝ってこんな嬉しそうな表情をするのか、我々も出世したものだ」と妙な感慨を抱いたのを覚えている。
 続いて98年のアジア大会、先方のクウェートは同氏率いるフル代表に、当方の五輪を目指すB代表(トルシェ氏が率いたあのシドニー五輪代表のスタート期だ)が完勝。その後当方は、韓国の1.5軍、UAEのフル代表に苦杯を喫したが、「マチャラ氏のクウェートに我らの若者達が勝った」のには多いに喜ばせていただいた。
 00年のアジアカップでは、サウジを率いて我々の眼前に再登場。1次リーグ初戦で激突「いきなり優勝候補同士の対決」と盛り上がったが、名波と森島を軸にチンチンにしてやったのはよい思い出だ。いやあれは気持ちよかった。ちなみにサウジは残り試合を粘り強く勝ち抜き、決勝で当方に返り討ちにされるが、最初の日本戦の惨敗でマチャラ氏はクビ。氏との再戦は叶わなかった。
 そして、04年はオマーンを率いてジーコとの3連戦。埼玉での予選初戦では見事な守備戦術を見せながらロスタイムの久保に、重慶でのアジアカップ初戦では見事なプレスサッカーで追い込みながら俊輔の超芸術弾に、そして最後マスカットでの予選の勝負所では残っているカードが全くなく小野と俊輔の中盤に何の抵抗も見せられず、それぞれ敗北した。マスカットの敗戦後「私には小野も俊輔もいない」と嘆きつつ胸を張ったのは名言だった。
 そして08年から今年にかけて再三行われた(まだアジアカップ予選が残っているな)対バーレーン定期戦。現在まで当方の3勝2敗と大健闘している。もうやらなくていいと思っていたのだが、アジアカップ予選のホームゲームが残っているではないか。何ともうっとうしいが、またあのオッサンのインタビューにバカなマスコミ関係者がだまされるのかと思うと、それはそれで愉しい。

 以上振り返って来たように、マチャラ氏が中々の名将である事は間違いない。強化の難しいいずれの国でも、若い選手をよく鍛え、相応の成果を上げて来ている。ただし、肝心の勝負どころでは何かしらの勝負弱さも感じる人でもある。当方も痛い目にも会ってるが、結構やっつけている事例も多い。ただ、上記したが、よく歴史を勉強していない日本のマスコミ関係者が持ち上げすぎている感もあるのだ。
 そのマチャラ氏がとうとうワールドカップまで、あと一歩に近付いた。最後のプレイオフの相手は、ニュージーランド。戦闘能力的にはバーレーンが上回りそうな相手だ。だからこそ難しい試合になりそう。
 改めて、「親友」とでも呼びたくなるくらい、我々と縁の深いマチャラ氏の健闘と、氏にほんの少しの幸運が降り立つ事を祈るとでもするか(やや棒読み)。

posted by 武藤文雄 at 23:55| Comment(10) | TrackBack(1) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月30日

東アジア選手権予選について

 ベガルタは、岐阜相手にロスタイムの中原の空中戦で突き放し勝ち点3を獲得。映像を見損ねたので何とも言えないが、どうも内容はよくなかった模様。ともあれ、中2日でヴェルディ戦を控える日程を考えると、まずは結果を出した事を評価すべきだろう。

 で、今日はベガルタサポータの私達にも気になる話題を。
いささか旧聞だが、東アジア選手権の予選が行われ、大方の予想をくつがえし香港が北朝鮮を下し、来春2月に日本で行われる本大会出場権を獲得した。ワールドカップ出場を決めている北朝鮮が、ここ最近国際試合で好成績を収める事ができていなかった香港に屈したと言うのは、大ニュースと言えるだろう。
 
 この大会そのものの存在意義が微妙な事は、昨年の同大会開催時にも講釈を垂れた。大変残念ながら、少なくとも日本のサッカー界にとって、この大会は必要悪、あるいはありがた迷惑なものになっている(と言いつつ、このような結果の時は単純に大喜びするのだから、我ながら現金なものだと思うが)。
 そして、来年2月の開催。ワールドカップ本大会への準備を考えると、何とも微妙な大会となる。
 プラスに考えると、オフ明けに格下2チーム、同格1チームと真剣勝負をしてチームの立ち上げを再開するのは悪くはない。これが親善試合だと、相手方の真剣度がどうかが読めない。オフ直後にあまり強い相手からスタートすると、別な意味でとんでもない事にもなるリスクもあるし。もちろん、外国クラブ籍の選手の招集は難しいかもしれないと言う問題はあるが、現状の日本はレギュラの半分以上がJの選手ゆえ、この大会をうまく使えれば貴重な強化の機会とできる可能性はある。全く同格の韓国との試合も、チームの仕上がり、課題を抽出するよいバロメータにする事ができる事は言うまでもない。
 しかし、大きなマイナスもある。それはボールよりも敵選手を蹴る事をいとわない中国の存在。厳しい国際試合は、強化、娯楽の両面で非常に有効だが、中国との試合だけは例外。もちろん、日本での開催ゆえ、あのようなラフファイトは見られないかもしれないが、そうなるとこの国は弱いんだよね。それにしても、なぜ北朝鮮は予選から出なければならなくて、中国は無条件で本大会から出られるのだろうか。前回のワールドカップだって、中国は最終予選に残れなかったのに対し、北朝鮮は残っていた。南アフリカの件を除いても、ここ最近の国際試合の成績を見る限り、中国が無条件で北朝鮮より上とはとても思えないのだが。

 香港の復活も興味深い。サウスチャイナをそのまま代表に仕立てたとの事だが、香港代表の久々の充実はアジアサッカー界をより富ませるものだ。それも久々のワールドカップ出場を決めて「乗っている」北朝鮮を破ったのだから重要だ。面積的には小さなこの国(国と言うには少々微妙なところはあるのだが)は、アジアサッカー界の大変な名門。南アフリカ出場権を獲得したのが「東」アジアの国ばかりと言う現状下で、香港が北朝鮮を破った意味は大きい。ここはこの名門が堂々とアジアサッカーシーンに復活してきた事を喜びたいと思う。
 余談だが、「北朝鮮」、「香港」と連続されると、私の世代のサッカー狂には何とも甘酸っぱいノスタルジーにも浸れるな。

 北朝鮮の不振の要因はよくわからないが、「ワールドカップ出場を決めて気が抜けた」と言うあたりが要因ではないか。80年代、いわゆる東欧社会主義国の代表チームの好調は中々続かなかったのを思い出した。よい意味でプロフェッショナリズムで鍛えられた選手達でないと、集中は続かないと言う事ではないか。今後、北朝鮮がどのような強化体制を組んでくるのか(組む事ができるのか)はわからないが、「1度抜けた気持ち」をどのように取り戻すのか。80年代の東欧選手達以上に、極めて特殊な環境下にある選手達だけに非常に興味深い。
 そして、この北朝鮮の不振は。「私達」にとってもとても気になる事態なのだ。梁勇基の再召集はあるのだろうか。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(1) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする