2009年06月26日

も1つACLを愉しむ

 ACL1/16ファイナルのガンバ−フロンターレ戦は、西野朗氏と関塚隆氏(2人とも南アフリカ後の日本代表監督の有力候補だ)が、お互いに「虚々実々の駆け引きを行い損ねた事」が、勝敗を決めた試合だった。
 西野氏は戦闘能力でフロンターレを押しつぶすと言う、確率的には最も妥当な策を採った。そして、ほとんど勝利をつかみながら、いくつかの不運で詰め損ねた。
 関塚氏は、戦闘能力でガンバと真っ向勝負を挑むと言う、アジアのほとんどのチームが「採るべきではない」策を採った。そして、ほとんど徳俵まで追い詰められたが、いくつかの幸運と、中村憲剛の能力で勝利した。

 フロンターレに同点に追いつかれるまで、ガンバは完璧に近かった。結果が出た今となっては、3点目を強引に取りに行くべきだったとか、前半の憲剛の得点はあそこに至る前に止めなければとか、色々な事が言える。けれども、戦闘能力を前面に押し出して押し切る策は、ほとんど成功しかけていたのだ。2−1とリードした後半は、前半ほど無理をせずに、しっかりとボールを保持、フロンターレは打つ手がないまま時計は進んでいた。
 一方のフロンターレは関塚氏の採る策は完全に裏目に出ていた。スタメンの3トップは、万博のガンバに対しての策としては無謀と言うもの。憲剛の個人能力によるあの同点弾がなければ、前半で勝負はついていた。さらに後半から鄭大世に代えて養父を起用し中盤を厚くした修正にしても、リードされる前ならいざ知らず、リード後のものだっただけに、通常ならば「遅過ぎる修正」としか言いようがないものだった。実際、ガンバが遠藤を軸にしっかりボールをキープするだけに、得意の速攻は仕掛けられず、むしろボールを持たされて奪われる最悪の展開となっていた。

 ところが「格段の個人能力」による同点弾が全てを変えてしまった。鄭とジュニーニョ抜きでも「格段の個人能力」が残っているところはフロンターレの最大の強みか。そして、逆転弾の憲剛のラストパスに至っては、采配や運不運をどうこう語っても仕方がないだろう。。
 この日、西野氏に唯一ミスがあったとすれば控え選手の選択。寺田も倉田もベンチに入れていなかったのには、ちょっと驚いた。この日のスタメンのMF4人は皆すばらしい選手で、すばらしいプレイを見せていた。しかし、それぞれ皆相応なお年だし、体調的にも十分ではないのは自明だった。リードしている後半半ば、あるいは同点とされた直後に、寺田か倉田のいずれか(もちろん両方でもよい)を投入すれば、ガンバの中盤は再度活性化され、そのまま押し切る確率は高まったのではないか。寺田も倉田もそんなに体調が悪かったのだろうか?
 一方の関塚氏。氏はどんな劣勢でもあきらめず「鄭とジュニーニョを外す」勇気があった。そう言う事である。

 いま思えば、西野氏と山口の仲間達には3つの不運が襲いかかっていたのだ。
 ACLは非常に珍しいレギュレーションを採用している。1/16ファイナルが一発勝負な事だ。これは、セントラル方式でない国際試合では非常に珍しいやり方だ。1次リーグの興味をつなぎ(従来は1位のみがトーナメントに進出できた)、日程問題も解決する(1/16ファイナルと決勝を一発勝負にしたから、昨年までと1チームの総試合数は変わらない)一挙両得の方策だった。そして、この珍しいレギュレーションは、「番狂わせ」を生みやすくした。ガンバにとっては、これが1つ目の不運だった。もしこれがH&Aだったならば、西野氏としても前半からあそこまで飛ばさずに、丁寧に戦う選択肢もあっただろう。ところが、この試合はACL独特のレギュレーション「一発勝負」。無理をせずに90分間で確実に1、2点を取って勝つ事を狙う策が、圧倒的に攻勢を取り殲滅戦を狙う策より、果たして有効だっただろうか。私は西野氏の策は正しかったと思う。
 こう書くと、フロンターレ関係者の方は、「ガンバにフロンターレが(敵地とは言え)勝つ事は番狂わせではない」とおっしゃるだろう。そうだ、ガンバにとっては、いきなり1/16ファイナルでフロンターレで戦う事自体が、2番目の不運だったのだ。思い起こせば、1次リーグの第4節まで、この2クラブは圧倒的な強さでグループの首位を走っていた。ガンバはそのまましっかりと首位を確保したが、フロンターレは最後の詰めを誤った。例の天津とのラフファイト。その天津戦の影響もあり浦項戦には注文相撲負け(森勇介の出場停止は痛かった)。この2連敗によって、フロンターレは2位となり、この対戦がこの早期に実現してしまったのだから、ガンバも「天を恨む」しかあるまい。
 さらに3つ目の不運は、代表チームでの遠藤と憲剛。遠藤は負傷したため早々に離脱、憲剛はそのため(遠藤不在)もあって、疲労困憊でフロンターレに復帰した。前節のJは2人とも休養。これで疲労が抜けた憲剛はフル回転、一方の遠藤はやや試合勘に欠けた感があった。試合前は、むしろ憲剛の疲労が心配されていたのだが。

 昨期のアジアチャンピオンガンバは、このオフに大幅な補強を敢行し、シーズンのここまでも連覇を最優先した戦い方をしてきた。そして、上記した通り、多くの不運とほんの僅かなミスから敗退した。これも歴史なのだろう。
 関塚氏と中村憲剛の仲間達は、アジア制覇に向けて、とてつもなく大きな壁を破る事に成功した。しかし、彼らはまだ一昨年涙を飲んだ地点まで到達したに過ぎない。アジアチャンピオンへの道は、まだまだ遠い。
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2009年06月20日

欧州に行けばうまくなれるのか

 先日発売のNUMBER6月18日号(6月上旬、つまりキリンカップ直後、ウズベク戦前に発売)に掲載されたフィリップ・トルシェ氏(文章化はおなじみ田村修一氏)の日本代表論(題目は「岡田監督よ、解任報道には耳を貸すな」)が、中々おもしろかった。
 氏はそこで、「予選突破は問題ないだろう、しかし多くの選手は国際経験が不足しており、岡田氏の手腕は悪くはないが、このままでは本大会での好成績は難しいのではないか」と言う論を展開している(もちろん、この要約は武藤の読解です)。中でも、いかにもフィリップらしい、欧州至上主義の主張がおもしろい。以下抜粋する(あくまでも、そう言った部分を恣意的に武藤が抜粋しているだけで、氏の全論を抜いているのではない点は注意ください)。
 近年の日本は、アジアにしか目を向けておらず、世界に向かって眼を見開いているとは言い難い。世界に伍していこうとする意志も感じられなければ、具体的な政策もない。選手たちも国内に留まり、海外移籍もあまり進んでいない。国際化の意志がなく、その方法論も持たなければ進歩は難しい。

 また来シーズンの開幕とともに、十数人の日本人選手がヨーロッパのクラブに移籍すれば、それだけでかなり効果的な補強になる。日本の現状を考慮すれば、難しいかもしれないが...

 今の日本代表は、世界レベルでいえばごく平凡なチームである、ということだ。ヨーロッパでプレーする選手も少なければ、ヨーロッパのチームとの対戦もほとんどない。国際経験の乏しい凡庸なチームにすぎないことを、メディアもサポーターも認めるべきだ。
 外交官といえる選手は今や中村だけで、その彼も来季は日本に戻ると言われている。日本はこの10年間、新しい選手を生み出さなかったし進歩もしなかった。それが世界から見た今日の現実だ。
 この論の成否はさておき、いかにもフィリップらしいではないか。

 閑話休題。
 ヴォルフスブルグで中々試合に出られずにいた大久保嘉人が、僅か半年でヴィッセルに復活すると言う。一方で、稲本潤一が、フランスリーグのレンヌへの移籍が決まったとの事だ。この2人の移籍報道を読み、冒頭のフィリップの意見を思い出した。
 この2人の欧州経歴は対照的だ。2度の挑戦帰国を繰り返した大久保と、8シーズンに渡り粘り強く欧州でのプレイを継続する稲本と。しかし、この2人の欧州挑戦には共通点もある。少々失礼ではあるが「欧州に行く事が成功だったのだろうか」と感想を述べたくなるようなところだ。

 大久保は小柄ながら体幹と心臓が強く、海外でも十分に通用するのではないかと期待された。日本人選手が海外に出た時に最大の問題となる言葉の問題にしても影響ないと思われた。なぜなら、「日本国内でプレイする時だって『言葉でのコミュニケーション』は関係ないだろう」と言うプレイ振りだから。
 しかし、2度目の欧州挑戦からは早々の退散と相成った。ヴォルフスブルグの2トップが充実し過ぎていたのは不運だったが、2人とも移籍する来期は欧州チャンピオンズリーグを含め出場機会も増えそうだったのだが。まあ、ワールドカップに向けて「継続的試合出場」を重視する気持ちもわからなくもない。要は結果である。今期の残り試合でヴィッセルでボカスカ点を取り、来年南アフリカで大活躍すれば、現状を揶揄する評価など、皆忘れてしまう。めでたしめでたしとなるよう、大いに期待したい。
 実際、欧州で思うように出場機会を得られずに帰国し、しかし欧州での経験を活かして一層プレイの幅を広げて成長した選手は多いのだ。名波浩しかり、小笠原満男しかり。もっとも、複数回の短期出戻りと言う事例は、あまりないのだけれどもね。いや、1人もんのすごく偉大な選手の実例があるか。う〜ん。まあ、大久保もがんばれ。

 稲本の旅もとても興味深い。イングランド、トルコ、ドイツと、欧州のトップレベルのリーグ戦で戦い続けた男が、欧州滞在9年目でフランスリーグへの挑戦。この選手が、常に欧州各クラブからのオファーを獲得できるのは、それなりに各クラブで活躍してきたからだ。技巧に加え、日本人としては格段の強さを持つ事が大きいのだろう。
 ただ、どうしても私からすると、「あの2002年のベルギー戦のような『個の冴え、具体的には強烈な前進』を頻繁に見せるもっとすごい選手になってくれたなかったのか」との思いがある。この選手は、この10年間をリセットし経歴を積み直して欲しいと思う典型なのだ(期待のし過ぎだったのだろうか)。昨年の埼玉ウズベク戦では、終盤「1点を取りたい」大事な所で起用されたが、中盤の底でバランスを取る事に終始し有効な攻撃に寄与せずに失望させられたのも(かつての「強烈な前進」が印象的だっただけに)記憶に新しい。
 こう書くと「WBAやガラタサライでのプレイは見事だったではないか」と反論される方も多いかもしれない。繰り返すが、それに対しては「いや、もっともっとすごい選手になって欲しかったのだ」としか言いようがない。欧州に行った以降、あのベルギー戦を除きガンバ時代の輝きを稲本は見せてくれただろうか?
 いずれにしても、レンヌの監督はかつてガンバを率いたアントネッティ氏との事。監督が望んでの移籍ならば、従来以上に活躍が期待できるかもしれない。随分と失礼な事を語ったが、8年に渡る欧州での生活が無駄だった訳はないだろう。若かりし頃の稲本を評価した監督の下、欧州9度目のシーズンで完全な中心選手としての活躍を期待したい。考えてみれば、06年ドイツでのクロアチア戦の後半、組織崩壊気味の日本の中盤を1人で支えたプレイは見事だった。若い頃期待した「強烈な前進」を望むから、ついつい厳しい言い方になってしまうが、中盤で攻守両面に強さを発揮し、的確な展開ができる稲本が、フランスリーグでフル出場できれば、代表にとっても大きな戦力となるはずだ。

 冒頭に戻る。
 中村俊輔(この人の去就も注目される)を筆頭に、欧州移籍をする事で大きく成長した選手は枚挙に暇ない。最近でも、長谷部誠の成長はドイツ行きを抜きにしては語れないだろう。
 一方で、大久保や稲本のように(長い眼で見ないと、成功、失敗とは断定できないが)ここまでの経歴を見ると残念な事に、欧州行きが成長にプラスになったとは言い難い選手もいる。そして、中澤佑二や遠藤保仁のように、国内でプレイを継続し「世界に通用する」に至った選手もいる。
 「欧州に行けばうまくなれるのか」と言う命題は、単純に真とも偽とも言い難い。ただ「いつかワールドカップで優勝する」ためには、常に考え続けなければならない命題の1つである事は間違いない。
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2009年06月08日

他人の不幸は蜜の味

 さてアジアの残り1.5+0.5枠争いでも、のんびりと眺める事にするか。

 まずA組の3位争い。これはバーレーンが圧倒的に優位になった。バーレーンは勝ち点7で残り2試合、カタールは5、ウズベクは4でそれぞれ残り1試合。カタールよりも得失点差で圧倒的に優位なバーレーンは、あと勝ち点1で3位獲得である。残り2チームは、まず豪州がバーレーンを下してくれなければチャンスはない訳だ(以降はそれを前提とする)。
 カタールは日本に横浜で勝てば勝ち点8となり、バーレーンがウズベクに負けると3位になれる。しかし、そうなるとウズベクは最終戦のバーレーンとの直接対決で勝ってもカタールには届かない。現実的に可能性がなくなったウズベクがマナマでバーレーン相手に意地を見せてくれるかは、かなり微妙。したがいカタールは事実上終戦だろう。まあ、豪州戦終盤の覇気のなさから言って、横浜で当方に勝てるとはとても思えないが。豪州戦の前にもうあきらめていたのかもしれないな。
 その点ウズベクは、最終戦のバーレーンとの直接対決を残しており勝てば自力で追い抜ける可能性がある。ここで面白いのが、バーレーンが豪州、ウズベクに共に1点差で負けた場合、どちらが3位になれるかが非常に微妙な事だ。
(1)バーレーンが豪州に0−1で負け → 総得点数でウズベク3位
(2)バーレーンが豪州に1−2で負け → 得失点差、総得点数、当該成績含め並んでしまう
(3)バーレーン−豪州が2−3で負け → 総得点数でバーレーン3位
特に(2)の状況になったらどうするのだろうか。この両国でA組3位決定プレイオフやってから、B組3位とプレイオフするのかな。誰か詳しい人いたら教えてください。4年前もこの両国はもつれにもつれた訳だが、今回はどうなるのか。まずは豪州が2−1で勝つとおもしろいのだが。

 しかし、何がおもしろいかと言えばB組の2〜4位争いだろう。B組の残り2節は
6月10日 韓国−サウジ、イラン−UAE
6月17日 サウジ−北朝鮮、韓国−イラン
(いずれも左がホームチーム)

数 勝 分 敗 得 失 差 点
北朝鮮 7 3 2 2 7 5 2 11
サウジ 6 3 1 2 8 8 0 10
イラン 6 1 4 1 6 6 0 7
 これはおもしろい。3チームどこにも2位から4位になる可能性がある。唯一、イランはUAEに勝つ確率はかなり高いだろう。しかし、残り3試合は何がどうなるか予想がつかない。いくら韓国が出場権を獲得済みだからと言って、サウジにせよイランにせよ、ソウルで韓国に勝つのはかなり難しいだろうし。
 各国が2位になる条件だが、北朝鮮は敵地サウジ戦に勝てば決定、サウジは残り2試合を1勝1分けで乗り切れば決定、イランは自力2位はないが残り2連勝すれば可能性はある。
 ただしいずれの国も4位落ちの可能性もある。北朝鮮はサウジと引き分けても、サウジもイランも韓国に勝つような状況になれば4位に留まる可能性もあるのだ。
 現実的には、現状でイランは勝ち点が低く2連勝しなけらば2位の可能性はない。さらにイランは最終戦は時差の関係で試合を早く終えてしまうのも不利なのところだ。けれども、そのイランがUAEに大差で勝ち、韓国から勝ち点を奪うと3位以上が確定するパタンもある。その場合、北朝鮮とサウジは、勝てば2位抜けだが、負ければ4位脱落となる可能性もある。
 まあ他人事と思えば、これほどお気楽に愉しめる七転八倒はないな(もちろん、当事者ならば「たまらなく最高」の実感が味わえるのだろうが)。

 余談ながら日本がB組に入ったら大苦戦だったのではないかと語る人が多いが、私はそうは思わない。北朝鮮がウズベクやバーレーンより格段に強いかとなると、そうでもないだろう。その北朝鮮が上位に粘ったのは、北朝鮮自体の勝負強さも確かだが、サウジとイランのできが悪かったからも重要な原因だろう。まだ本調子でない韓国は結果的には、スンナリと予選を勝ち抜いた。そうこう考えると、日本なり豪州がB組に回っても、多少の紆余曲折はあろうが、韓国と同じような印象でスンナリ抜けたように思うのだが。
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2009年05月28日

バルセロナの質的向上

 ワクワクする芸術を愉しめたので、早起きした甲斐があったのは間違いない。だから、文句を言うのは筋違いだとは思うが、あそこまで一方的な試合になりユナイテッドが無抵抗で終わった事、2得点とも「もう少し巧く守っていれば防げたのではないか」と思える事は、ちょっと意外と言うか不満も感じた。終盤ユナイテッドの名手達が精神的にも切れたような状態になり、攻撃が淡白になるのみならず、足の裏を見せるようなタックルを連発するのには驚いた。もっとも、あまりに一方的な流れなので、主審も退場処分を下さず、試合は無難にまとめたようだった。
 まあ1つの仮説だが、ユナイテッドくらい世界選抜的な強いチームを作ってしまうと、常に自分たちが最強と言う戦い方になってしまい、より強いチームに当たった際の抵抗手段が中々思いつかないのかもしれないな。

 考えてみれば(と語るほど「考える」必要のない常識かもしれないが)シャビもイニエスタもメッシも、皆バルセロナの若年層チームの出身。これはこの日の最大の貢献者は、グアルディオーラ氏よりも若年層チームのスカウトではなかろうか。と、間抜けた事を考えたくなるくらい、この3人はすごかった。今さら感動する事でもないのだが、巧い事ももちろん巧いのだが、パスの方向の選択がもう完璧。ユナイテッドの選手達が取れそうで取れない状況を継続されて、どんどんと疲弊していった。

 この3人を見ていると、やはりサッカーは技術と判断力に尽きるのだと、改めて当たり前の事を認識させられるではないか。
 特にシャビは99年ワールドユース決勝での完敗時にその力を見せ付けられた。当時の小野(決勝は出場停止でいなかったが)、本山、小笠原、遠藤らとの差を思い起こし、さらに10年が経過し先方が世界最高の名手(と言っても過言ではないでしょう)に成長した現在の差を考える事で、何がしかの「世界トップとの距離」の指標になるのではないか。
 この試合の約8時間前の森島スタジアムでの我らが代表選手たちのパスワークも見事だったが、(当たり前だが)上には上がいる。いつか、我々がこのようなパスワークを見せられるようになるには、このクラスのタレントの育成に成功しなければならない。まだまだ差は大きく果てしない努力が必要なのだろうが、アフリカ系の大柄で瞬発力に秀でたタレントの育成よりは、現実的で我々にも検討可能なはずだ。

 しかし、私が若い頃、少なくとも80年代前半あたりまでのバルセロナと言えば、スペイン中の名手を(レアル・マドリードと競争しながら)かき集め、さらに要所に世界屈指の外国人(典型例がクライフでありマラドーナだった)を置いた、正に現金札束と言う印象のクラブだった。監督にしても、バイスバイラー氏、ミヘルス氏、ラテック氏、メノッティ氏など、他クラブで大成功した監督の招聘が再三。そして、その割にフロントにこらえ性がないので、すぐにフロント、監督、中心選手で揉め事が始まり、毎期のようにレアル・マドリードの後塵を拝す事が多く、何かしらカネの無駄ばかりしている印象が強かった。
 しかし、選手としての大英雄クライフが監督になったあたりから、グアルディオラを筆頭に自前の若年層チーム出身選手が次々と登場し、しかもチームもスキルフルで攻撃的なスタイルが定着してきた。
そして、紆余曲折を経ながらも、ライカールト氏、グアルディオラ氏と言った、クライフの弟子筋の優秀な監督に率いられて、いよいよ「芸術的でしかも強い」チームを作る事に成功してきている訳だ。
 単独のクラブと国のサッカー界は少々異なるが、このような向上は格好の学習材料だとも思う。

 このような金満クラブの質的向上を実感する、実に見事な中盤のパスワークだったな。いや、堪能しました。
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2009年05月23日

池田誠剛氏、韓国ユース代表のコーチ就任

 今日は諸事多忙で、思うようにJをフォローできなかった。結果だけを見ると、前節無様な敗北を喫したベガルタが「福島」で行われたホームゲームで無事勝利したようでやれやれ。まだ断定は禁物だが、1/3を終えたと言う序盤にもかかわらず、上位4クラブだけが抜け出すと言う前代未聞の事態になっているようにも思える。まあ、これはこれで別途講釈したい。
 唯一映像を愉しんだが、ジェフ−マリノス戦。この試合のマリノスのドイスボランチが、松田直樹、小椋祥平と言う、私にとってはこたえられない組み合わせだったので、この事を書こうと思っていた。が、それ以上に語りたい知らせを受け取ったもので、今日はそちらを。
 それが、池田誠剛氏の韓国ユース代表のコーチ就任である。

 選手池田誠剛は、早稲田大で活躍後、古河に加入。80年代半ば、古河がJSLを制覇し、アジアチャンピオンズカップを獲得した頃のチームで、大永井、大前田、菅野将晃、越後和男と言ったあたりの選手のバックアップを務める役どころを巧みにこなした選手だった。
 フィジカルコーチとしては、マリノス連覇時代にその手腕を高く評価された。最近はレッズの若年層の指導を行い、ここ最近順調に機能しているレッズの若年層指導に多いに貢献していると言う。

 だいたい、日本人の指導者が、韓国チームの指導を依頼されると言う事態が大事件だ。
 元々この国は、一見外国人に指導をゆだねる事すら大騒ぎになる土壌があるようにも見える。しかし、70年代前半に(日本の大成功を見習おうとしたのかもしれないが)一時クラマー氏に指導を委託したり、90年代半ばには五輪代表をロシア人のブイショベツ氏に任せるなど(これも日本がオフト氏でうまく強化が進んだのを真似たと言う説もあるが)、それなりに外国人指導者を呼んだ実績はあった。そしてあの2002年である(いやこの時もトルシェ氏の水際立った手腕が羨ましくて...)
 しかし、そうは言っても、日本人指導者が雇われると言うのは、すごい事だと思う。日本が韓国と対等の勝負を挑めるようになったのは、ここ最近ほんの15年程度。韓国サッカー界からすれば「日本を認めつつも...」と言う思いは強いはずだ。
 それが、「若年層代表チームのコンディショニングを日本人に任せる」と言うのだから、本件は、韓国ユース代表監督の洪明甫氏の依頼によるものらしいが、「さすが洪明甫」としか言いようがないか。洪明甫氏あたりの世代となれば、柔軟な発想で「よいものはよい」と動けるのだろう。
 今回の契約は専属契約ではなく、レッズに所属しながら、韓国ユース代表の活動期にのみの対応らしい。池田氏が彼我の強化の考え方の相違を実感するだけでも、両国にとってメリットは大きいはずだ。
 現実的に、日韓両国のサッカー界では、その貨幣価値の相違から選手については当方の輸入超過になりがちだ。しかし、強化の考え方については、輸出入双方に利点があるはず。そして、今回のような経験で両国のノウハウが共有される事は、両国が(偽りではなく真実の)世界上位を目指す上で非常に有効なはずだ

 池田氏の奮闘を期待したい。

(余談)
 私個人にとって、池田氏はとても気になる存在なのです。実は私は高校時代、埼玉に遠征した折に、選手池田誠剛を直接マークをした事もあるもので。
 先方は左ウィング。私は右サイドバック。当たり前と言えば当たり前なのだが、私は池田誠剛のボールにほとんど触る事ができなかった。だって、速いし、巧いんだもの。
 いや、それだけ。
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2009年05月22日

まだまだACLを愉しむ

 少々旧聞となるが、ACL。
 ガンバとグランパスは、最終戦を消化試合にする事に成功、無事若手の経験に使う事ができた。
 アントラーズは、例によって中国クラブのラフファイトに苦しんだが、落ち着いて引き分けて無事トップ通過。ただし、勝ち点勘定的には、「水原三星が大量点なし」と言う情報を踏まえて戦えたので、だいぶ楽だったはず。とは言え、この嘆きがオリヴェイラ氏から出るのだから困ったものだ。
途中からラフプレーが多くなってしまって、一刻でも早く終わってほしかった。怪我人なしで帰国するがひとつの目的でした。残念ながらうちの選手が負傷退場したことが一番残念に思っているところです。
前節に続いてあの異様なラフファイトを見せられると、我が日本協会は本当に無能なのだなと、つくづく思う。

 で、フロンターレ。

 浦項製鉄に引き分ければトップ通過と言う試合に苦杯。Jクラブで唯一2位通過に留まり、1/16ファイナルをホームで戦う権利を失ってしまった。第4節終了時点では、フロンターレは勝ち点10、2位の浦項は勝ち点6、トップ通過は決定的と思われた。ところが、前節天津泰達戦はいわゆる中国特有のラフファイトに巻き込まれ自滅。そしてこの最終節では完全に浦項の注文相撲にはまり、思わぬ2連敗で掌中の1位通過を逃してしまった。
 結果論だが、中国の敵地戦に森勇介を起用した事が、関塚氏の失敗だったのではないか。天津選手の挑発に乗せられた森は、中国選手同様のラフファイトを展開し、あげく浦項戦は出場停止になるは、森自身の反則を主審が勘違いして大黒柱の憲剛に警告するは、さすがの怪活躍だった。(これはフロンターレの責任でも何でもないが)中国クラブとの敵地戦は、あのような悲しい試合になる事は十分に予測できるのだから、森起用はやはりまずかったろう。もっとも(憲剛の代替警告受領と言う、森個人にとっての信じ難い幸運はあったものの)、あの天津戦で退場にならなかった事を森の成長と評価すべきかもしれないが。ただ、浦項戦に森がいれば、事態は随分改善されたと思う。このような難しい試合になればなるほど、森の強力な右からのえぐりは効果を発揮したはずだ。
、まあ、このあたりが、ACLという大会の難しさなのかもしれない。

 もう1つ。浦項は明らかにフロンターレの弱点を把握し、その弱点を突く試合をしてきた。ロングボールをトップにぶつけ、前線からフォアチェック。寺田が不在のフロンターレ守備陣はその対応に苦慮していた。以前寺田、伊藤、箕輪、佐原が揃ってた頃のフロンターレは、このようなロングボール策にはめっぽう強かった。ところが、フロントが適切な世代交代と多様な守備者の獲得に成功したところ、不運にも寺田が負傷離脱する事で、ロングボールへの対応が後手に回ったのだから皮肉なものだ。
 ただし、既に2位を確定し「負けても失うものが少ない」浦項が、1/16ファイナルでのガンバと万博で戦うリスクを減らすために1位通過を狙い仕掛けてくるのは常識的に予想できた事。守備ラインがベストでなかった事も含め、もう少し慎重に序盤を戦うべきだったと思うのだが。
 ACLの序盤戦は敵の戦力が手探り状態(中々戦う機会のない敵との戦いと言う意味でも、シーズン初めで各クラブが編成を代えてきていると言う意味でも)だが、グループリーグ終盤には相互のやり方や戦闘能力がかなりわかってくる。フロンターレはそのような駆け引きにやられた訳だが、これもまたACLの難しさと言えるのだろう。
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2009年05月07日

まだACLを愉しむ

 ともあれ、いやなチームが絡まなければACLは本当に愉しい大会だ。
 グランパスは蔚山現代に4−1で勝利し、1試合を残して1位抜けを決めてしまった。スコアだけを見ると、あるいはスポーツニュースの得点シーンのみを抽出した映像を見ると、いかにも楽勝に思えるかもしれない。しかし、90分間リアルタイムの映像を堪能したのだが、戦闘能力がほぼ互角の非常に難しい試合だった。それだからこそ、いずれも美しかった4得点によるこの勝利は非常に貴重で価値のあるものだった。

 序盤、分厚く守備を固める蔚山に対し、グランパスは丁寧にボールを回す。韓国のチームが守りに入ってしまうと、そう簡単には崩せない。3ラインがよい距離を保ち、相互の連携も中々だ。
 「後半勝負になるのかな」と思い始めた矢先に、グランパスが遅攻後の連続攻撃から先制した。すごい攻撃だった。左サイドで小川(吉村?)が敵MFを引き付けて杉本に好パス。杉本は得意の強引なドリブルでペナルティエリアに切れ込むが、蔚山DFがかろうじて止め、クリア。そのクリアをフリーで拾った阿部が逆サイドに正確なクロス。一度外に開いていた巻弟が落ち着いて折り返し、後方からトップスピードで走りこんだ小川が見事なダイビングヘッドで決めた。蔚山の守備はかなり分厚かったが、杉本のドリブルを跳ね返す事でバランスが崩れ、直後の連続攻撃への対応が遅れた。それにしても、こぼれ球を阿部が拾った直後の巻弟と小川の動きはすばらしく、完全に蔚山DF陣は2人を見失っていた。その巻弟に正確に合わせた阿部もお見事でした。
 先制された蔚山がやや前に出てくるが、これで逆にDFの裏にスペースができた。左への展開を受けたダヴィが落ち着いてキープした瞬間、小川が長躯蔚山守備陣の後方を狙う。ダヴィからのパスを受けた小川はそのまま左サイドを切り裂き、速い球足のクロスを二アサイドに。そこには逆サイドからニアに長躯していた巻弟が飛び込んできて2−0。小川の判断力と献身性、巻の球際の強さと得点への意欲が光る、見事な逆襲速攻だった。この時間帯、蔚山が中途半端に前に出てきてくれたのがグランパスに幸いした。もし、ここで(後述する)2点目以降のように、前掛りに来られたらかなり苦しかったように思う。

 追い込まれた蔚山は、呉章銀を投入し攻撃重視に切り替えてきた。そして主将の玄泳敏のFKから196cmの長身金シンオク(漢字不明)が見事なヘディングシュート。グランパスDFの増川は191cmと言うが、自分より長身の選手への対応に苦しんでいた。この金シンオクはここまで大きいのでさすがに動きはゆっくりだが、この手の長身選手には珍しくしっかりと飛んでヘディングができる。将来いやらしい選手になるかもしれない。
 1点差で迎えた後半序盤、蔚山は幾度となく両翼で2対2を作り、ゴールライン近くまで進出し、スペースを確保した選手が不正確ではあるがクロスを入れる。そこに金シンオクと趙珍洙が飛び込んで来て再三危ない場面を作られた。これだけの長身FWがいるチームに対しては、とにかくゴールライン近くにポイントを作らせないのが大事なのだが、連戦で疲労の色が濃いグランパスは、どうしても押し込まれてしまう。この後半立ち上がりの約10分を我慢し切ったのが大きかった。
 そして、右サイドの同じような場所のFKからの2得点で突き放すのに成功。3点目は阿部がゴールに巻くボールを蹴りダヴィが決めた。このFK直前にダヴィ→玉田の交代準備が済んでいたが、交代を遅らせたら、ダヴィが決めてしまった(キッカーとしての玉田に期待する選択肢もあったはずだから、交代を待つ判断がズバリ当たった)。4点目はトリックプレイ、小川が蹴る振りをして走りぬけ、玉田強いグラウンダパス、巻が見事な動きで落とし、全くフリーで走りこんだ小川が(利き足でない)左足で狙い済ました強シュートを決めたもの。

 チーム全体の疲労が濃く、思うようにプレスがかからないグランパスだったが、さすがに3点差は大きい。蔚山も後半序盤のように精力的な攻撃がなくなり、そのままタイムアップ。
 マギヌンが壊され、玉田も回復途上、中村直もベンチ外、と言う苦しい台所事情下で、小川、阿部、ダヴィ、巻弟らが、持てる個性を発揮して美しい得点を連発しての勝利。これをピクシーマジックと言うのだろうか。
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2009年05月06日

ACLを愉しめない

 昨日の天津泰達−フロンターレ、今日の山東魯能−ガンバ。
 それにしても、中国で中国チーム試合をする度にどうしてこんな事になるのだろうか。もう猶予はならない。日本協会は、映像を証拠に、はっきりと正式な抗議をして、AFCと中国協会に明確な回答を求める段階だろう。

 観客がバカなのは仕方がない。腹立たしい事この上ないが、ある意味では自分のクラブを勝たせたいと熱狂しているだけなのだから「敵ながら天晴れ」と言えるのかしれない。
 まともに芝生を養生できないのも仕方がない。理想的な美しいサッカーを見せようとする文化がないだけなのだから。

 ちなみに、山東−ガンバの方が天津−フロンターレよりは随分まともだった。これは主審の差と日本サイドの選手の冷静さの差だろうか。
 ガンバの試合の主審は、山東のラフファイトにはそれなりに毅然と笛を吹いていた(もちろん警告にとどめず退場にして欲しい場面も多かったし、もっとカードを切るべきだったとは思うが)。明らかな反則はそれなりに笛を吹いてくれるから、山東もそう極端なラフファイトには持ち込めなかったようだ。また遠藤の退場も、2枚目の警告はダイビングっぽかったが、仕方がないように思えた。そしてガンバの選手達は、とにかく冷静に戦い抜いた。
 一方のフロンターレ。主審が酷すぎた。現実的にバングラデシュで日々笛を吹いている主審が、Jリーグのトッププロのスピードについていけると考える方が無謀に思う。毅然とした姿勢を貫く事で必死にゲームコントロールをしようとしていたが、はっきり言って滅茶苦茶な笛となってしまった。ただし、フロンターレも天津のラフファイトに巻き込まれ、冷静さを欠いた事は否めない。あれだけ支離滅裂な状況の追い込まれたフロンターレの選手に苦言を呈するのは、大変遺憾ではあるが、やはりもう少し我慢して戦って欲しかった。まあ、森勇介にそこまで期待するのは酷かもしれないが。
 そして色々あったが、両チームの選手が大怪我しなかったはやれやれである。とは言え、この状況を放置すべきではない事は間違いないのだ。

 まず、中村憲剛を蹴った天津のスタッフに対して。これは絶対にあってはならない事で、退席処分になった事で済ませてはいけない。興奮した選手同士でのトラブルとは、事は本質的に異なる。日本協会はこのスタッフに天津なり中国協会が具体的にどのような罰を与えるのかまで、執拗にフォローし続けるべきだろう。
 こちらの抗議先は中国協会である。このようなあってはいけないトラブルは正論でひたすら押すべきなのだ。そしてもし、天津泰達なり中国協会の処置が甘ければ、AFCに抗議する。繰り返すが、このような狼藉はひたすら正論で抗議し、絶対に再発を許さない対応をすべきである。日本のサッカーチームに対してこのような狼藉をした人間は絶対に許さないと言う姿勢を毅然としてすればよいのだ。

 そして、どいつもこいつも相手選手の選手生命を削るようなプレイを平気でしてくる事そのものについては、明確に是正していかなければならない。激しいプレイと、相手を傷つけるプレイは全く異なる。
 たしかに20年くらい前までは、世界中で足の裏を見せながらスライディングするプレイや、片足でボールにタックルしながらもう片足で敵の足を払うプレイも許容されていた(しかし、それでも結果的に相手を激しく傷つけた場合は厳しく退場処分になっていた)。
 ところが、今なお中国の選手はそのような危険極まりないタックルを日常茶飯で行ってくる。中国の国内リーグがどのような反則基準で行われているかは不明だが、中国選手が国際試合で見せるラフファイトは、国際基準とは全く異なるものだ。そして、このようなラフプレイにより、もし選手が大怪我をしたらもう取り返しがつかない。
 残念ながら試合が始まってしまうと、審判団は「その試合をまともに終わらせる事」が主眼となる。興奮した中国選手が危険なプレイを連発しても、そのような選手を次々に退場にしていくと、下手をすれば試合そのものがガタガタになってしまう。したがって、どうしても中国選手のラフプレイへの判定が甘いものに流れがちになる。
 そう考えると、本件はAFCに持ち込むべき問題だ。日本協会は映像を証拠に「このようなプレイは退場なり警告すべきだ」とAFCに強く主張するべきなのだ。ワールドカップなどの全世界規模の大会での退場基準の映像と、中国選手の狼藉の映像を同時に見せれば、問題は明確になる。そして、「中国のラフプレイは排斥されるべし」と騒げば、次の国際試合での審判団の基準は厳しくなるし、中国選手のはラフプレイも少しづつ減ってくるはずだ。
 まずはしっかりと映像を用いたキャンペーンを行う事で、AFCにも中国協会にもプレッシャをかける事。そして、次節の上海申花−アントラーズ、北京国安−グランパスで、Jの選手達が怪我をしないようにする事が重要なのだ。
 とにかく選手が壊れてからでは遅すぎるのだ。

 以前日本協会の要職にいた人が、自分の本の宣伝のためにスポーツ新聞の取材に答えている。まあ、この人はこの人で食わなければならないのだろうし、スポーツ新聞の記事だから、どこまで正確かどうかはわからない。
 ただし、この人の偉そうな発言
 外交下手と言われる日本。スポーツも例外ではない。スキーのジャンプや水泳など世界の舞台で日本選手やチームが勝つたびに、ルール改正がなされてきた。「日本人みたいにお人よしの人は、世界にはいない。みな自分の国が勝てるようルール改正しますよ。それは悪いことじゃないから。合意するやつがバカなんでしょう。僕だったら合意しない。もっと日本に有利な提案をしていかないと」
には脱力させられた。
 そんな偉そうな事を言うならば、どうして協会在勤時代に中国選手の狼藉を是正しなかったのかと。もっとも、それはこの人にではなく、(以前この人を抜擢して)今は偉そうに「ACLを改善した」とのたまわっている人に言うべきか。
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2009年05月05日

又々ACLを愉しむ

 アントラーズは地元で水原三星に3−0で快勝。第1節で1−4で完敗した難敵に3点差の熨斗をつけてお返ししたのだから大したものだ。
 序盤からアントラーズは攻めこみ、水原は5DF気味に分厚く守る。後述するが、アントラーズは「勝たなければならない」で、水原は「引き分けで十二分」なのだから当然の展開。ただ、水原の守備が厚いのはわかるが、「守りを固める」にしては中途半端な印象を感じる場面が2回もあった。1つ目はラインの上げ下げが巧くいかないようで、序盤に本山が巧く裏を付く好機が獲得できた事。人数が揃っている状態で、あそこまで簡単に裏を取らせてしまう守備組織の甘さは、このレベルとしては信じられないものだった。2つ目は、中盤で水原が巧くボールを奪い3対3となる絶好機(最後GK曽ケ端が1対1を見事にファインセーブ)の直後、逆にこぼれたボールからアントラーズが速攻を仕掛け4対3になる絶好機に仕返せた事(これはこれで、逆サイドへのボールが短く逸機)。アントラーズの速攻の速さは当然偵察でわかっているだろうに、攻撃から守備の切り替えの遅さが不思議だった。

 小笠原も「水原の守備の甘さ」を感じていたのではないか、自身はあまり無理をせずに後方で冷静にボールを回して試合を作っていた。
 そして、ショートコーナから見事に先制。野沢がマルキーニョスとの連携から速いボールを上げ、敵DFのマークを逃れた大岩が二アサイドで見事に合わせた。大ベテランが欠場した守備の中核岩政の穴を埋める以上の大仕事をやってのけた(直前の接触プレイで上半身を痛めていたようにも見え、心配させられたのだが)。
 2点目は完全に崩した見事な攻撃。左からのサイドチェンジで小笠原と内田で数的優位を作ったところで勝負あり。内田の追い越しから完全にフリーになった小笠原が狙い済ましたグラウンダの速いボールを入れ、敵DFが処理しきれず最後はマルキーニョスが体勢を崩しながら押し込んだ。余談ながら、この日も内田は低調。よほど疲労がたまっているのか、有効な攻撃も少なく、守備も不安定で危ない場面を作られていた。あれだけ調子を落としているのだから、最初から新井場を使えばよいと思うのだが。
 2点差になって、水原は同点にしようとして前掛りになり、アントラーズの思う壺となった。3点目は、水原の分厚い攻めにかなり危ない状態に押し込まれたところから、新井場?がクリア。興梠の突破とマルキーニョスの落ち着いた得点と、絵に描いたような逆襲速攻を成功させた。
 ここ数試合、アントラーズは厳しい日程下のため、後半は極端にできが悪くなる。それを理解して多くの試合では前半に勝負を決めてしまうのだが、この試合もその得意パタンにはめ込んだのだから大したものだ。

 で、このグループの順位について。以下わかりづらければこちらを参照ください。
 今大会のレギュレーションは、1位抜けだと1/16ファイナルでホームで戦えるため、1,2位の差もそれなりに大きい。もちろん、2位と3位の差(勝ち抜きと敗退)の差の方が大きいけれども。
 また同勝ち点時のレギュレーションはこちら(英語はAFC規定からのコピー、日本語は武藤の意訳)。
If two or more Teams are equal on the basis of the above criterion, their place shall be determined as follows(2つ以上のチームが同勝点で並んだ場合の順位は下記で決める):
A) Greater number of points obtained in the group matches between the Teams concerned(相互の試合の勝ち点)
B) Goal difference resulting from the group matches between the Teams concerned; (Away goals do not apply)(相互の試合の得失点差、アウェイゴールは考慮しない)
C) Greater number of goals scored in the group matches between the Teams concerned; (Away goals do not apply)(相互の試合の総得点数、アウェイゴールは考慮しない)
D) Goal difference in all the group matches(グループリーグ全体の得失点差)
E) Greater number of goals scored in all the group matches(グループリーグ全体の総得点数)
F) Kicks from the penalty mark if only two Teams are involved and they are both on the field of play(当該チームが最終戦を試合をしていたならばPK戦)
G) Fewer score calculated according to the number of yellow and red cards received in the group matches. (Appendix 2)(グループリーグで食らった警告、退場)
H) Drawing of lots(抽選)
 そして、この試合前の時点でアントラーズと水原は勝ち点9、3位の上海申花は勝ち点6、4位のシンガポール国防軍は全敗で勝ち点ゼロ。
 以下、このアントラーズ戦に臨んだ水原三星の勝ち点勘定を考える。現実的に考えて、水原三星は次節はホームでのシンガポール国防軍戦で勝ち点+3は確実だろう。そうすると、水原三星からずれば、この試合は「負けなければよい」ものとなる。もし、アントラーズに勝てれば事実上1位決定は言うまでもない。引き分けでも、勝ち点で追いつかれる可能性があるのはアントラーズが次節に上海申花に勝った場合だけ、しかしその場合でも対アントラーズは1勝1分けだから上記規定A)で水原がトップ。さらにもしこの試合で負けたとしても(1位抜けは難しくなるが)最終節でアントラーズが上海に負けない限りは、上海よりは勝ち点で上回り2位には入れる。もし、アントラーズが上海に負けても3チームが同勝ち点で並ぶ(上海がシンガポール国防軍に勝てば)。もしそうなった場合、ここまでの3チームの対戦成績は
水原4−1鹿島
鹿島2−0上海
上海2−1水原
水原2−1上海
このアントラーズ戦前の時点で、水原の相互得失点差はプラス3(アントラーズはマイナス1、上海はマイナス2)。もし3すくみになったとしても、この相互得失点差がプラスならば悪くても2位にはなれる。
 そう考えるとこの日の水原は、引き分け以上で1位、2点差以内の負けならば2位以上が、それぞれ確定する状況だった。それが3点差の負けなのだから、ゲームプランがまずいと言うか、アントラーズがさすがと言うか。

 でアントラーズ。完璧な勝利で一気に有利になった。残る上海戦でアントラーズは1点差の負けよりもよければ1位抜けだが、2点差で負けると3すくみ、3点差以上で負けると脱落となる。圧倒的に有利だが、最終戦が上海とのアウェイゲームなので、少々厄介かなと思われた。別に述べようと思うが、フロンターレが天津泰達にやられたような語るに落ちる試合を余儀なくされるのが中国と言う国だからだ。

 ところが...

 上海申花が敵地でシンガポール国防軍と引き分けちゃった。
 と言う事で上海がアントラーズに追いつく事はなくなった。こうなると、アントラーズは2位以上は既に確定。1位抜けのためには、引き分け以上ならOK。負けたとしたら、水原との一騎打ちとなり、全グループでの得失点差、総得点での争いとなる。それも並ぶとカードをどのくらい食らったかになるが(もしアントラーズが4点差で水原に勝っていれば、相互成績差で水原を上回るから既に1位確定だった)。現在の得失点差はアントラーズはプラス10(総得点は15)、水原はプラス2(総得点は9)。もしアントラーズが上海に負けるとすると、得失点差はプラス9以下になるから、水原はシンガポール国防軍戦はまずは8点差以上を目指すことになる。
 ここで問題になるのは、この2試合のキックオフ時間。水原対シンガポール国防軍は韓国時間の19時半、上海対アントラーズは中国時間の20時。時差が1時間あるから、アントラーズは水原のキックオフ後1時間半後に試合開始となる。つまり、アントラーズは水原の結果を見ながら試合ができるので、圧倒的に有利なのだ。文句を言う筋合いではないかもしれないが、やはりAFCはここはキックオフ時間をそろえるべきなのではなかろうか(現実的に平日のナイトゲームだから動員面を考えると難しいのだが)。
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2009年04月23日

又ACLを愉しむ

 今節の日本勢は何と4戦4勝。考えてみれば、第1節が3勝1敗、第2節が2勝2分け、前節も3勝1分けと過去毎節とも結構景気はよかったが、全勝と言う響きはいっそうの趣があるな。

 アントラーズは、シンガポール国防軍にホームで快勝。敵地で苦戦しながらも1度手あわせてしている相手とのホームでの再戦、さすがにヘマはなかった。
 やはりこのクラブで気になるのは選手の体調。そして疑問なのは内田の酷使、途中交代したがあまり調子がいいように見えなかった。この日の相手に内田をスタメン起用する必要があったのだろうか。勝負は今週末以降のJリーグであり、5月5日の水原三星戦のはずなのだが。いずれにしても、水原戦は何とも面白いタイトルマッチになりそう、ACL1次ラウンド屈指の大勝負になる(祝日だし現地に行こうかな、いいドライブだし)。

 ガンバは高温多湿の敵地で堅実に勝利し、早くも2次ラウンド出場を確定した。
 スリウィジャヤの中途半端な対応は疑問。守るならば、万博の試合のようにしっかりと引く時は引くべきし、ホームの利点を活かし攻めるならば、もっと前に人をかけるべきだった。レアンドロの先制弾も、スリウィジャヤが中途半端に出てきたところを、山口が見事に裏を突いたのが奏功したもの。
 一方、西野氏の(遠藤の)バイタルエリアのスペースを空ける算段が見事だった。ハーフウェイラインを越えたあたりで遠藤自らはウロウロと動き敵を引き出しておいて、バイタルエリア手前の橋本、佐々木、寺田の3人に1度ボールを預け、リターンを受けるや外に走り出させる。そこで外へ開く選手に敵が付いて行くところで、第3、第4の選手がバイタルエリアを狙う。そこに遠藤が絶妙なパス。そのため、前半早々から佐々木なり寺田なりが再三フリーで前を向いた状態で(この2人の成長はまことにめでたい)仕掛けを狙う事ができていた。。そうこうしているうちに、前半終了間際の分厚い攻めから佐々木が2点目を上げ、勝負を決めた。
 アナウンサと解説者が「スリウィジャヤは諦めていない」、「この高温下では早く3点差にしないと危ない」など、ありもしない危険を一生懸命煽っていたが、ガンバの選手はあわてずに試合をクローズした。万博で大差が付いてもスリウィジャヤは諦めずに丁寧な守備を継続したではないか。ホームで2点差になろうとも、彼らがホームで諦めないのは当然だろう。それをわかっているガンバが冷静にボールを回して時計を進めているのだ。アナウンサはさておき、解説者があそこまで不的確な認識を語るのはいかがなものか。
 それにしても、守備固めの時間に遠藤に代えて休養十分の明神が出てくるのだから豪華なものだ。この選手層下で、西野氏にユナイテッドに臨んで欲しかったな。って、今年も拡大トヨタカップに出ればいいのか。

 一方で豪州勢と戦ったフロンターレとグランパスは似た印象の試合を戦った。攻勢を取り、頑健で結構ラフな敵守備に苦労しながら先制し、終盤にやや不運に危ない場面をつかまれ、結局振り切り堂々の勝ち点3。

 敵地であれ以上考えられない勝利を飾ったフロンターレは、豪雨の等々力にマリナーズを迎えた。名誉挽回の気持ちもあったのだろう、マリナーズはオーストラリアンフットボールを思わせる激しい当たりをしてきた。中国のように日本選手の身体を狙ってくるのとは異なり、マリナーズの選手は何も考えずに当たってくる。毎回傷つくわけではないから、接触直後もフロンターレ選手は持ちこたえる事もあり、主審は笛を吹かない。この、いいかげんな主審判断に、フロンターレは結構悩まされた。
 それでも憲剛とジュニーニョを軸に攻勢を取り、後半立ち上がりに先制。オフサイドトラップのかけ損ねから交通事故のような同点弾を許したが、交代出場のレナチーニョの決勝点で突き放した。ここ最近あまり機能していなかったレナチーニョの得点で、難しい試合に勝利したのは大きいのではないか。
 2年前同様、比較的楽に2次トーナメント進出を決めたフロンターレ。まずは残り2試合を大事に戦い、1位抜けを狙いたいところだ。

 ホームでは非常に内容の悪い試合でかろうじて引き分けたグランパス。敵地での再戦に、ピクシーも3DF採用、隼磨の代わりに竹内を起用するなど動いてきた。選手達も「勝負どころ」と認識していたのだろう、
 開始早々に複数回危ない場面があったが、以降は前節とは見違えるほどよい出足を見せ攻勢に立つ。しかし、前半はマギヌンがラフプレイで壊されるなどもあり無得点(マギヌンを壊したベンジャミンは極めて悪質なタックル、退場が妥当だと思った、ベンジャミンはその後も中村直志を蹴っ飛ばすなど複数回退場になってもおかしくない大暴れ)。
 しかし、マギヌンと交代で出た杉本が、右サイドから再三強引に縦に切り裂くプレイを見せ少しずつ好機が増える。決勝点は敵のミスパスを巧く拾った竹内が杉本につなぎ、杉本の縦突破からのクロスを、ファーから入り込んだ小川が決めたもの。竹内の抜擢に加え、不運な負傷交代の杉本がキーになるあたりは、運を含めピクシーの采配がズバリ。
 その後のPK。試合後に楢崎も語ったと言うが、キッカーのペトロフスキは疲れ切った表情で覇気も感じられなかった。あれでは、楢崎は破れる訳がない、蹴る前から勝負がついていたようなもの。この楢崎のPKストップのような好プレイ1つ1つが、日本サッカーのアジアでの存在感を高めていく。

 フロンターレもグランパスも、攻勢を取りながらも敵守備陣の激しい当たりに悩んでいた。豪州の選手は頑健だから、どうしてもゴール前の競り合いで破り切れない事が多い。このような「単純な強さ」に対し、判断力や技巧でどう打ち破るか。
 終盤迎えた苦境、フロンターレの交通事故失点、グランパスのPK提供。先制し、丁寧にボールをキープしながらも、Jのトップチームが一瞬の隙で決定機を許してしまう現状。これはこれで結構な反省材料だと思う。
 このあたりの日本サッカーの課題が顕在化するのも、タフなアジアのタイトルマッチがゆえなのか。もっとも、その課題を抱えつつも勝ち切ったあたりに、今の日本サッカー、Jの充実を見た。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする