2024年01月16日

フィリップ、やはり22年前あなたは間違えた

 私たちが、W杯ベスト4に最も近づいた瞬間はいつか。
 2022年カタールでのクロアチア戦?、2018年ロシアでのベルギー戦?、でも準々決勝ではセレソンが待ち構えていた。2010年南アフリカでのパラグアイ戦?、でも準々決勝ではスペインが待ち構えていた。そう、一番ベスト4に近づいたのは2002年我が故郷宮城県でトルコに敗れた時だった。もし、トルコに勝っていれば、準々決勝はセネガル。当時私たちが、トルコ、セネガルに連勝するのは、簡単ではないが相応の確率で実現可能だったのではないか。フィリップが妙な策に走り、アレックスや西澤を起用しなければ。と、22年間に渡り思い続けてきた。このような、実現不可能な「if」に愚痴を語るのは、サッカーの至高の楽しみの一つであるのは、言うまでもない。
 そして、昨日のベトナム戦、22年ぶりの再会を果たしたフィリップが作り上げたベトナムの鮮やかな抵抗を、圧倒的戦闘力で粉砕した喜びとともに、22年前に思いを馳せることができた。そう、「フィリップ、やはり、あなたは間違えていた」と。

 開始早々、ベトナムが難しい相手であることはすぐに理解できた。
 日本陣にボールが入ると、5DFが整然とラインを上げる。いわゆる5-4-1の陣形だが、5DFの押上げがすばやいので、4人のMFは左右のバランスをとりながら、全線までプレスをかけることができる。そのため、谷口彰悟と板倉滉の両CBは自由に縦パスができない。ベトナムDFを押し下げるべく、前線の選手が裏をとりスペースを空けようとすると、こまめにラインを修正するので容易ではない。
 それでも、谷口が敵プレスが甘くなったところで前進してベトナムの陣形を崩し、フィードを受けた中村敬斗が中央に引きつけたところで、左オープンに上がった伊藤洋輝がフリーとなり、CKを獲得。ベトナムGKがそのCK処理を誤り、こぼれを菅原由勢が強シュート、こぼれを南野拓実が冷静に詰めて先制に成功。
 これで楽になると思ったが、そこからセットプレイで2失点してしまった。
 同点弾を生んだCKの提供経緯、谷口がウェイティングしたところを後方から菅原がはさんだが、ちょっとした連係不備から許したもの。そのCKから、ニアで方向を変えた一撃が、かなり偶然にネットを揺らした。もっとも、ニアサイドの日本の守備を空けるベトナムの工夫は鮮やかなものであり、正に「やられた」と言う一撃だった。
 逆転されたFKを奪われた場面、日本の浅いラインをベトナムが突こうとしたところで、やや偶然にこぼれ球が裏に流れ、慌てた菅原のスライディングがファウルになったもの(私はこの場面、赤がでなくて安堵した、見方によってはDOGSOと言われてもしかたがなかったから)。そのFKをゾーンDFの外側から入り込むファーサイドの長身DFにピタリ合わせれ折り返され、GK鈴木彩艶のファンブルを詰められた。ゾーン守備の大外から折り返されたところで勝負アリだった。
 2失点とも、ゾーンで守る日本のセットプレイの弱点を鮮やかに突かれたもの。最初のキックに対する彩艶の判断の拙さや、各選手の瞬間的な判断の緩慢さには不満はあるが、いずれも先方のキック精度と、全軍の意思統一は見事だった。
 いや、セットプレイだけではない。元々、ベトナムやタイやマレーシア、東南アジア諸国の選手のボール扱いはすばらしい。ところが、往々にして各選手のその精妙なボール扱いは、局地戦でのボール扱いの優位にしか使われないことが多かった。しかし、今回のベトナム選手たちはいずれも、日本の厳しいプレスに対し、第1波を技巧で外した後、しっかりとスクリーンして身体を入れ、日本の第2波を許さない。さらに、同サイドでのボール保持ではなく、常に反対サイドへの展開を意識するから、局地戦ではなく、チーム全体での前進なりボール保持につなげることができる。フィリップは、伝統的なベトナム各選手のボール保持能力を、局地戦ではなくチーム全体での前進につなげるところまで指導の落とし込みに成功したのだ。

 ものの見事に逆転されてしまったわけで「これは困った」と思ったのだが、それは杞憂だった。
 日本は慌てずボールを回し、まずはペースを取り戻す。そして前半40分以降、ベトナムのコンパクトなDFとMFの間に、狡猾に伊東純也と南野が入り込み、後方からの正確なフィードを格段のボール扱いで受け、猛攻をしかける。ベトナムDF陣は、ゾーンをよく絞り中央圧縮でしのぐが、そのクリアを情け容赦なく遠藤航と守田英正が拾い連続攻撃。
 加えて日本のシュートがものすごかった。
 南野の同点弾は、再三揺さぶった後、遠藤航のパスを受け完璧なボールコントロールから、狙い澄ましたインサイドキック。トップスピードで走り込んでの実に美しいトラップ、香川真司の全盛期、いやちょっとベベットを思い出したりして。
 中村敬斗の逆転弾。日本が同点に追いついたのが、45分だったのが、アディショナルタイムは6分。これはベトナムにとっては厳しい。日本が勢いに乗り猛攻を継続できたからだ。そして、南野の展開を受けて敵DFを外した超弩級弾。サイドを崩して自分のシュート力が一番発揮される場所に持ち出す感覚は、リバウドかデルピエロか。
 加えて重要なことは、南野にしても、中村敬斗にしても、このチームではレギュラ、第1選択肢ではないと言うことだ。三笘や久保建英や堂安律の方が、このチームでは、南野と中村敬斗よりも格段の実績を誇っている。もちろん、私たちの最大のエース伊東純也は圧倒的に輝いているのだし。
 後半、落ち着いた日本は丁寧にボールをつなぎ、前半のような危ない場面を作らせない。後半から起用された上田綺世、終盤から登場した堂安、久保が少しずつ機能し、堂安→久保→上田綺世でとどめの一撃。堂安と久保の個人技の精度はもちろんだが、上田綺世の右インステップの低く鋭い弾道は、釜本邦茂御大を思い出しますね。

 でね。
 フィリップ。あなたが、今回作ってきたチームはすばらしいものがあった。組織守備、セットプレイ、中盤からの前進。22年前、約四半世紀前、あなたが私たちに教授してくれて歓喜を味合わせてくれたチーム戦術の妙。
 でもね。
 私たちは、その見事なチーム戦術を粉々に打ち砕くことができた。全選手の戦術眼、精度の高い技術。あなたが築いた組織力を完全に凌駕する戦闘能力。
 で22年前ね。
 あなたは、なぜトルコ戦で、あんな妙な作戦を行ったのか。22年前の私たちにとってのトルコは、昨日のあなたにとっての私たちほど、どうしようもない差はなかった。昨日の前半40分以降の猛攻と、後半のボールキープを見て、私は改めて22年前のトルコと私たちの差を確信できた。22年前、あなたは間違ったのだ。策を弄さずに、普段のメンバでトルコと戦うべきだったのだ。繰り返します。22年前のトルコは、今の私たちのように強くなかったじゃないですか。

 と、言いながらも、あなたとの4年間は本当に楽しかった。
 そして、あなたのおかげもあり、私たちはたったの22年間でここまで到達することができた。世界中、どんな相手が出てきても怖くはない。繰り返すが、たったの22年間で
 フィリップ。改めて、四半世紀前の楽しかった日々に感謝したい。そして、あなたとの楽しかった日々が、私たちにとって進歩の礎となったのは間違いない。あなたのおかげもあり、私たちはここまで来ることができた。
 本当にありがとうございました。

 次はW杯本大会で戦いましょう。
 米加墨大会。2次ラウンド、また戦えることを楽しみにしています。今回以上にボコボコに粉砕してやるけれども。
posted by 武藤文雄 at 00:29| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月12日

冨安健洋でドイツに完勝

 冨安健洋と言う最高級選手の存在が勝負を分けた。
 もちろん、大迫敬介は少々高いボールへの安定感に欠けたが落ち着いた処理を見せた。事実上2アシストの菅原由勢は守備の安定感も申し分なく、酒井宏樹不在の不安を払拭してくれた。板倉滉は失点時に前進対応に課題はあったが、1対1の強さを存分に見せた上、フィードの鋭さも相変わらずだった。伊藤洋輝は、さすがにレロイ・サネと正体すると苦戦していたが、総合能力の高さを見せてくれた。遠藤航は相変わらず圧巻の存在で、当たり前のように中盤を封鎖してくれた(一瞬PKを取られるかと心配させられたが)。守田英正も的確に中盤で奪い、落ち着いて持ち出し、隙を見て敵陣への進出を果たしてくれた。鎌田大地は前半の2得点で伊東との絶妙なポジションチェンジと菅原との連係が見事だったが、それ以外の場面でも気の利いた展開を見せてくれた。伊東純也は特別の存在、26年W杯で33歳になる伊東が、この俊足、献身、そして格段の得点力をあと3年間維持してくれるのかは心配だけれども。上田綺世については、とりあえず代表でのPK以外の初得点を祝福しようか。三笘薫は、長駆後の美しいうなぎドリブルは相変わらずだし、短い時間帯最終ラインに入った時を含め守備も安定していた(もうこの選手は直接得点にからまないと、不満に思ってしまう)。谷口彰悟はカタール移籍後も一切衰えていないことを再証明、後半序盤からのDFライン加入と言う難しいタスクをこなしたくれた。浅野拓磨は70分の決定機を外したのはご愛嬌だったが、相変わらず精力的に最前線の数的不利状態での守備をこなし、得点も決めた。田中碧は、得点そのもののヘディングは鮮やかだったが、クローズに起用されたと考えると不満が多いが、別途語りたい。久保建英も2アシストは見事だし、明らかな成長を感じさせてくれたが、クローズと言う視点での不満は同じ、これも別途語りたい。

 お互いがコンパクトなサッカーで中盤を抜け出すのに苦労していた序盤。日本はドイツの前線プレスを巧みに外し、遠藤(だと思った)が左サイド三笘に通す(以下左右はすべて日本から見て)。三笘はうなぎドリブルから、ペナルティエリアに進出した守田を使おうとするも、かろうじてドイツDFがつかまえクリア。そのクリアを、冨安が身体を開き、無理な体勢をとりながら、右サイドの鎌田にダイレクトパス(最初、私は冨安のミスキックかと思った)。鎌田は絶妙な溜めの後菅原へ、菅原は見事なスピードで縦抜けして好クロス、ニアで(鎌田とポジションチェンジしていた)伊東がアントニオ・リュディガーの鼻先で見事に合わせ先制。
 同点に追いつかれた直後、ドイツの前線プレスが少し緩んだところで、冨安が左足で右サイドの伊東に40m級のフィードをピタリと合わせる。伊東は中央の鎌田につなぎ中央へ、鎌田は再度絶妙な溜めの後右外を疾走する菅原へ、菅原は中央に進出した伊東に、伊東はジャストミートできなかったが、上田が素早い反応からサイドキックでキッチリと合わせネットを揺らした。
 2得点とも、冨安の視野の広さと技術の高さが起点となり、鎌田や伊東が受けたところで勝負あり。その時点で右サイドに数的優位確立。菅原はトップスピードで切り込むスペースを獲得できた。さらにドイツCBの視点が左右に大きく移らざるを得ない状況で、上田と三笘のみならず、守田も伊東も敵視野から外れた状態でペナルティエリアに進出する時間を獲得できた。このようなロングパスを通すことができれば、世界中のどんなチームからも得点できる。

 複数回、サネを止めたプレイについては、再三VTRがテレビニュースでも流れたが、冨安の守備貢献はもちろんそれにとどまらない。反転の速さ、単純な足の速さ、上半身を当てる強さ、タックルの鋭さに加え、味方DFと敵FWの相対位置をよく考慮した適切な読みが再三冴え渡った。
 森保氏は、サネが右側で遊弋し、再三好機を許したのを嫌い、後半から5DFに切り替えた。必然的に、後半は日本が引く展開となった。しかし、危ない場面は皆無、と言っても過言ではないほど守備は安定。これは、冨安の圧倒的な存在感があってのことだった。

 この日の冨安を見ていると、なぜアーセナルでフル出場していないのかまったく理解ができない。言葉のコミュニケーションの問題、負傷が多いこと、今シーズンはアジアカップで長期離脱が確定していることなどが、要因なのだろうか。もっと格上のクラブ(そんなクラブは世界にほんの少ししかないのだがw)でも中心選手として君臨するのが当たり前にも思うのだが。
 もちろん、過去も冨安は代表では圧倒的存在感だった。しかし、昨年のカタールW杯、一昨年の東京五輪、いずれも負傷がちでフル出場は叶わず。1人の優秀なDF程度の活躍しかできなかった。冨安も11月には25歳となる、もう決して若手DFではなく、全軍指揮官になってもらわなければならない年齢だ。このドイツ戦は、W杯4回優勝国に完勝したと言う意味でも、日本サッカー史に記憶される試合となるだろう。しかし、後年この試合は以下のように記憶されるのではないか。
 冨安が日本代表で遅まきながらも圧倒的個人能力を発揮し強国を叩きのめした試合、と。
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2023年09月09日

ドイツとの再戦

 早いもので、カタールの興奮から1年近く10ヶ月が経った。
 一方でW杯予選やアジアカップも近づいてきている。48国出場と言うおよそ緊張感のないW杯予選、優勝以外考えられないアジアカップと、何とも味わい深い相違はあるが、代表の試合が楽しいことだけは変わりない。
 そして、今回の欧州の強豪ドイツ、トルコとの2連戦。欧州各国がクローズな地域対抗戦を重視するようになり、なかなか有効な親善試合が組めなくなっている中で、良好なマッチメークを行った日本協会にも敬意を表したい。そして、11月には早くもW杯予選が2試合。その後、アジア制覇奪回をねらい選手達は1年ちょっと振りにドーハに降り立つ計画。落ち着かない楽しい日々が続くが、ありがたいことだ。
 まずはドイツ戦。親善試合とは言え、先方からすればカタールの復讐戦。さらに言えば、最近の試合でドイツはすっかり不調(W杯終了後、1勝1分3敗)とのこと。この手の親善試合では珍しく、先方がどうしても勝利を挙げたい事情が強い。これは、難しいが楽しいタフな試合が期待できそうだ。もちろん、ドイツは強いのは間違いない。特にここ10年くらいのドイツサッカーは、昔の無骨さがなくなり、柔軟で洗練されたパス回しを見せてくる。ドーハでも前半、当方が相当引いていたこともあったが、パスの強弱を巧みに使い分け、押し込まれたことが記憶に新しい。
 加えて、続いてトルコ戦。「トルコ」と聞くとついつい「21年前故郷宮城の復讐戦だ!」と言いたくなりますね。しかし、あのドーハの歓喜からもう10ヶ月経ったのも驚きだが、あの雨の利府の絶望からも既に21年が経ったのか。時の経つのは、本当に速いものですね。

 アジアカップに向けて、森保氏は様々なトライアルを行いたいことだろう。
 負傷がちだった冨安健洋が復活したところで、どのような守備網を構築するのか。ここまでの森保氏の起用のやり方を見ていると、右から菅原由勢-冨安-板倉滉-伊藤洋輝をベストと考えているように思うが、ドイツ戦の先発はどうなるのか。また、少々手薄完がのある左DFをどう考えているのか。ただ、ここは中山雄太が負傷から回復すれば問題なくなるのかもしれないが。DFラインでちょっと不思議なのは、瀬古歩夢の不選考。ここまでの起用方法を見ている限り、CBは冨安は別格として、板倉、谷口に続く序列は瀬古なのかと思っていたのだが。まあ。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹と言った大ベテランは事実上代表を去ってもなお、幾多の人材がいるのだから、文句を言ったらバチが当たりますね。
 中盤後方の選手選考が少ないのは、以前も講釈を垂れたが、森保氏の方針か(笑)。今回も川辺駿は呼ばれていない。合わせて気になるのは田中碧、東京五輪時点では日本代表全軍の指揮官獲得の時は近いと期待していたのだが、ドイツの2部リーグのチームから中々転身できないのはどうしたことか。結局リバプール入りした主将の遠藤航と守田英正を軸とすることになるだろう。しかし、このポジションはそれなりにタレントは多数いると思うのだが、森保氏は断固として多数を呼ばない。このポジションだけは妥協を一切許さず、自分の水準を超える選手しか選ばない方針なのだろうか(笑)。
 前線のタレントは本当に潤沢。現状では、両翼に伊東純也と三笘薫を並べるのが最強布陣かと思うが、その場合真ん中の2枚を8人が争うことになる(笑)。さらに今回は、ドラミ相馬勇紀と最近好調が伝えられる南野拓実が不選考なのだから贅沢なものだ。

 私がサッカーをはじめた半世紀前。
 ドイツ(当時は西ドイツでしたが)と戦うことはもちろん、勝つなどと言う概念は存在しなかった。いや、W杯に常時出場することや、アジアカップで常に優勝をねらうなども、およそ想像すらできなかった。
 アジアカップを初制覇したのが31年前か。以降90年代、日本は驚異的な右肩上がりでサッカー界の地位を上げていった。その右肩上がりは、いつか止まるだろうと思っていた。しかし、もちろん上がり下がりはあったし、微分値こそ小さくなったが、今なお右肩上がりは継続している。気がついてみたら、W杯本大会でドイツやスペインに勝ってもおよその驚きはなくなり、欧州のトップクラブで当たり前のように日本人選手が活躍している。多くの有為なタレントが欧州に流出しても、Jリーグは常にスキルフルな選手を多数抱え熱狂的な試合が、日本中のどこでも見ることができる。
 などと半世紀の思いを抱えながら、ドイツを返り討ちにするのを、じっくり楽しみたい。
posted by 武藤文雄 at 01:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月05日

2次ラウンドを前に

1. 最高の上下動
 ちょっと考えられない上下動を堪能している。
 ドイツ戦とスペイン戦は、先制を許し、しかも前半は思うようなキープもできない苦しい展開。それを凌いだところで、攻撃の切り札の伊東純也と三笘薫を起点にした少ない好機を、浅野拓磨や堂安律がゴラッソを決め逆転。その後はいかにも森保氏のチームらしい粘り強い守備で守り切る。コスタリカ戦は、最悪でも引き分けを狙った丁寧な展開で、ピンチらしいピンチもまったくない見事な試合を演じながら、ほんのちょっとのミスの連鎖で敗れる。
 戦ってみての、講釈師独自戦闘能力評価によると、ドイツとは10回戦えば、2回勝ち、2回引き分け、6回負けるくらいの戦闘能力差があったように思う。スペインとは2回勝ち、4回引き分け、4回負ける。コスタリカとは20回戦い、1回負ける、9回引き分ける、10回勝つくらいか。コスタリカに負けたのはそのくらい不運だったと思っている、おそらくコスタリカは大会直前の準備に何か障害があり、戦闘能力は決定的に弱かったのだろう。ドイツ対コスタリカについても、ドイツに最前線にもう少し落ち着いたタレントがいれば、スペイン戦的な大差がついてもおかしくなかった。ドイツの中盤は、(日本戦の前半を見た限りでは)ブラジルと並んで大会最強だったと思うが、最終ラインと最前線が今一歩だった。スペインは、中盤の組み立てから前線への崩しが十分に整理されていない印象があるが、彼らの本領発揮はこれからだろう、決勝での再戦も十分あり得るな、うん。
 サッカーに浸り切って半世紀。この3試合を振り返るだけで、友人からの「あなたは何のためにサッカーを見ているのか」との質問の答が容易に出てくる現況が幸せでならない。何としてもこの幸福の堪能を継続したい。あと4連勝で。

2. 不運な日本、それでも
 大会前から再三述べてきたように、今回の日本代表チームが史上最強の戦闘能力を持つことは間違いなかった。一方で、史上最悪の1次ラウンドの組み合わせだったのも間違いなかった。
 加えて、予期されたことではあるが、負傷者続出。これも大会前から予想されたことだが、欧州のシーズン真っ盛りで休養期間ほとんどない開催、中3日の試合でのリカバリの難しさが影響してのこと。もちろん、大会に入ってのタフな死闘による負傷発生は毎回のことだが、リカバリ期間の短さの影響は避け難い。
 こう言った負傷者について、運不運と言う視点では、出場32国で日本は最も不運な部類に入るはずだ。何故ならば、冨安健洋と言う我が国史上最高の選手を、今までスタメンに使えなかったのだから。
 このような難しい環境下、4年計画で作られたきたこのチームは、未だベストの姿を見せる機会なく、1次ラウンドを突破した。次は前回準優勝国、伝説的名手モドリッチを誇るクロアチアである。本大会のクロアチアとの戦いは3回目で最多国となる(今まで複数回戦ったのは、このクロアチアの他はベルギー、コロンビア)。今回は勝たせていただこうではないか。

3. ドイツ戦
 前半、ドイツのハイプレスが見事で、日本は後方からつなぐことがまったくできない。さらにドイツのMF達の技巧と位置取りが予想以上にすばらしかった。日本の選手が中盤でボールが取れそうな間合いで、身体の向きとは異なる方向の角度あるパスのタイミングと精度と速さがすばらしかった。押し込まれること事態は想定内だったが、日本がまったくキープできなかったのは大誤算だった。自陣のゴールキックからの展開は、ドイツのハイプレスでロングキックを余儀なくされる。ボールを奪っても押し込まれているためもあり、板倉滉も遠藤航も田中碧もよい体制でパスできないこともあり、鎌田大地も久保建英もキープが叶わない。
 それでも日本は吉田麻也を軸に粘り強く守り、PKの1失点に止めることができた。全員の献身の賜物と言えるだろう。ただ、アディショナルタイムに入り、オフサイドに救われた失点もどきは、残念だった。ドイツの後方でのボール回しと言う撒き餌に引き付けれられて裏を取られた訳で、大きな反省点だった。結果的に、この痛恨のミスがオフサイドで救われたことが、チームに反省材料を提供したと言うことを含め、今大会の一つ目の大きな分岐点になった。
 さすがに、森保氏は「この状況を放置できない」と考えたのだろう、久保に代えて冨安を起用し、後方での組み立ての人数を増やす改善を行う。結果ボールは回るようになり、前田大然に代えた浅野の強引な前進と合わせて好機を掴むことができるようにはなった。
 しかし、一方でこの3DFは練度が足りない。前線でつなぎ損なうと、主に右サイドから再三崩されかけた。一方で板倉が対人の強さを発揮、権田修一の再三のファインプレイなどで、何とかしのぐ。「後半立て直した」との評価が多いようだが、この後半の日本の守備はとてもではないが褒められたものではなかったことは明記しておきたい。
 さて逆転劇。三笘のドリブルはドイツは相当警戒していたようで、ドイツDFが2人がかりで守りに来る。そこで後方から長駆した南野が追い越し好クロス、そしてノイアー、堂安!この三笘を追い越すやり方は、森保氏が隠していた策だった訳だ。お見事でした。
 決勝点、浅野が抜け出し、私のいたゴール裏に向かって爆進してくる。「いいから、打て!」と絶叫したら、浅野は指示に従ってくれた。日本代表もベガルタ仙台も、いつもこうあって欲しいものだ。後から映像を見たら、ドイツの右DFがラインメークを完全ミスしたのね、一部報道では南野の空走りが奏功したとの由、これも森保氏の準備の賜物なのか。
 その後のドイツの攻撃は、やや上滑り気味。おそらく前半のハイペースがたたったのだろう。少々不思議なのだが、なぜドイツは前半あんなハイペースの猛攻を繰り出して来たのだろうか。そもそも日本の最終ラインはかなり強い(しかも本来ならば、他の誰より読みと1対1に優れた冨安が起用されていれば、前半で得点するのは一層容易ではなかったはず)。勝点勘定を考えても、90分丁寧に戦い、より確実に勝点3を取りにくるべきだったように思うのだが。いや、文句を言う筋合いではありません。
 私の世代にとっては、ドイツのサッカーとはあまりに特別な存在。故クラマー氏の薫陶、ベッケンバウア・Gミュラー・フォクツらの名手たち、そして奥寺康彦の奮闘。そのドイツにワールドカップで勝てたのだ。さらに1次ラウンドで蹴落とすことに成功したのだ。ドイツ戦直後の歓喜たるや人生第2位でしたな(1位はもちろんジョホールバル)。

4. コスタリカ戦
 勝点勘定からすれば、勝てれば御の字だが、負けないことが何より重要。日本はそのような試合を狙った。一方コスタリカは当然勝ちを狙って来る…と思ったら、完全に引いて来た。前半は互いに様子を見合い45分が経過した。
 後半、浅野を投入し、さらに両翼に伊東と三笘を並べて攻勢をとる。ただ、失点を防ぐために遠藤も守田英正を自重して押し上げないこともあり崩し切れない。そこで事故が起こった。その後も三笘が複数回突破を成功しかけるなど攻勢をとったが決めきれず。上記したが、20回戦って1回起こるかどうかと言う、受け入れ難い結果となってしまった。
 結論から言えば、コスタリカを過剰にリスペクトし過ぎた試合と言うことだろう。安全第一に引き分けでよい戦いをほぼ達成しながら、終盤敵が何も凄いことをしていないのに自滅。あの時間帯まで徹底したセーフティファーストでプレイしていた麻也に何が起こったのか。10分以上の残り時間があり、勝ちを急ぐ時間帯でもなかったのに。大会後、いずれかのメディアがあのプレイ選択を丁寧に麻也に取材することを期待したい。
 点がとれなかったのは残念だが、そもそも森保氏は点を取らせない狙いで戦ったのだからしかたがないところもある。ただ、ボール保持が圧倒的優位の相手に対してなので、三笘と伊東の両翼攻撃を行う際に、上田綺世を残す時間帯はあってよかったと思う。あるいは町野修斗を中央に入れるとか。あるいは、疲労気味の鎌田に代えて田中碧を入れるのも一手段に思えた。ただし、エースの風格が漂いつつある鎌田やドイツ戦大爆発した浅野に賭ける采配ももっともではある。ついていない試合とはそう言うものなのだろう。いかにもサッカーらしい切歯扼腕する試合となってしまった。正にサポータ冥利に尽きるではないか。
 年寄りの愚痴。私は失点の反対側のゴール裏にいたのだが、失点後多くの人が黙り込んでしまった。失点まではよく声が出ていたのに。ウルトラズの必死のリードは続いていたし、私含めた何人かはチャントを必死にコールしたのだが。苦境で応援止まるなんて、Jリーグでは考えられないことだ。もっとも、劣勢で黙ってしまうのは他の国のサポータも同じようなものなのだし、代表のサポータと言うものはクラブのサポータとは性格が異なるのかもしれない。あの「盛り上がった」と歴史的に語られる97年フランス予選でも、国立で韓国に逆転された以降の「シーン」とした雰囲気もそうだったしな。でも、結構な金額を支払ってここに来ているのだから、最後までもがくのは悪くないと思うのですけれど。とにかくクロアチア戦はがんばりましょう。

5. スペイン戦
 立ち上がり早々に失点。日本の左側から上がってくるガビの捕まえ方が決まる前に、モラタに板倉が出し抜かれてしまった。試合後に友人が映像見ていて発見したのだが、麻也が必死に板倉に「下がれ!」と指示していたのだが。板倉は出足の鋭さ、1対1の強さ、前線へのフィード、いずれも世界最高レベルまで来ていると思うが、まだ細かなポジション修正には課題があると言うことか。
 この左サイドの守備の修正は、私の眼前で行われた。外に引き出された長友佑都を軸に、後方の谷口彰悟、右斜め前の守田、前方の鎌田それぞれが、必死に会話を行いお互いの距離感を修正し合う。そうこうしているうちに、当方の守備は安定。スペインがボールを圧倒的に支配するが、崩される感じはあまりなくなってきた。ただし、ドイツ戦の前半同様ボールキープができず、ほとんど逆襲の機会もなく前半終了。ドイツ戦同様「1-0で終えられてよかった」と言う試合内容、さらに最後の数分で板倉、谷口、麻也が連続警告、暗雲漂うハーフタイムとなった。
 ところが後半、三笘と堂安の同時起用で状況は一変する。堂安の一撃を何と言ったらよいだろうか。眼前で、堂安独特のドリブル後シュート体制に入った瞬間に「決めてしまえ!」と絶叫したら、堂安も指示にしたがってくれた。コスタリカ戦先発起用され、思うようなボール保持ができず後半早々に交代になったのと同じ選手とはとても思えなかった。堂安よ、このようなプレイをもっともっと見せてくれ。
 そして2点目、同点とされたスペインの動揺もあったのか、右サイド伊東と碧がつなぎ堂安が左を警戒するDFの逆をとり右足で低いクロス、わずかに前田大然が合わせられず、と思ったら何かがその後方から進出し完璧な折り返し。眼前で碧が押し込んでくれた。何かようわからんかったが、三笘だったのね。それにしてもあの三笘の折り返しをどう理解したらよいのだろうか。トップスピードでゴールラインを割りそうなボールに飛び込み、GKがまったく取れない場所に浮き玉で折り返したのだ。グッと右足を踏み込み、左足インサイドで面を作りボールを捉える、その後少しだけ伸び切った足首を捻り浮き球にしたと推定するが、正に魔術のようなプレイではないか。あれがゴールラインを割ったかどうか、画像処理技術による判定に救われた訳だが、そのような高度な技術を擁した判定とはまったく関係なく、超人的な技術による折り返しとして、世界中の皆が記憶すべきプレイだった。
 以降、日本は前半同様引きこもる。ジョルディ•アルバの起用に合わせて冨安をサイドに起用すると言う驚きの采配で右を封鎖(「だったらスタメンで使えよ」と言いたくもなるが時間制限があったのかな)。もう少し、うまい速攻を仕掛けられればよかったが贅沢は言うまい。とは言え、三笘が脚力で左サイドを破り、浅野に合わせた場面は慌てず丁寧なサイドキックで合わせて欲しかったところ。終盤、中央を割られかけたが権田がよく防ぎ、日本の快勝とあいなった。試合終盤、ドイツが2点差とした情報が入り、ここで点をとられて29年前の再来にならないだろうか心配しながら、絶叫していたのはひみつだ。

6. クロアチア戦展望
 さて2次ラウンド、ノックアウトステージが始まる。
 まず前回準優勝国、巨人モドリッチが率いるクロアチア。難しい試合になるだろう。
 守備の最大のポイントは、ドイツ戦でもスペイン戦でも前半うまくできなかったボールキープ。いくら組織守備網を完璧に近く構成しても、あれだけ長時間継続キープを許せば、いつか崩れる恐れがでてくる。ポイントになるのは、鎌田、堂安、南野拓実と言った技巧に長けた攻撃的MFたちの持ち堪えとなるはず(久保は負傷で不在の模様)。また、冨安スタメン復帰の噂があるが、これにより先方のロングボールやクロスのはね返し、前線へのフィードは大幅に改善されるはず。まずはそこが最大のポイントとなる。
 そして攻撃だが、伊東と三笘の両翼をどの位置にいつ置くか。そして、そこに堂安をどう絡めるか。もちろん、守備面を考えたら大然のスタメンが有力だろうが、勝負所でトップに誰を起用するか。上田なり町野の使い所が重要になるかもしれない。

7. どんな難敵でも
 まだ3試合を戦っただけなのだ。改めて2次ラウンドの組み合わせ表を見て思う。ワールドカップの真髄はこれからなのだ。
 ただ、少しでも真髄を味わうためには、1試合ずつとてもつない壁を破らなければならない。
 29年前のこの街ドーハ。最初の壁を破り損ねた時、改めて「生涯で1度でよいから、本大会で日本を応援したい」と思ったものだった。しかし、日本サッカー界は年々充実するJリーグと共に想像以上のスピードで進歩してくれた。98年の初出場、02年の地元での2次ラウンド進出、06年で一度停滞するかと不安になったが、さらに新しい選手が継続して次々と出てきた。10年パラグアイにPK負けした時は、人材輩出はそろそろ頭打ちになるのではないか、こんなよい選手が次いつ揃うのかと心配になった。しかし代表はアジアを制するなど安定して機能、14年は大会前に敵地でベルギーを撃破するなど期待値は大きかったが惨敗、18年は監督人事の混乱はあったが、また新しい選手が登場しベスト8まで後一歩まで迫った。毎年毎年、よい選手が潤沢に出てくる土壌は完全に整っているのだ。
 そして今大会。冨安を筆頭に、かつてないほど欧州で成果を上げている選手が登場。選手層も格段に厚くなり、攻守共に切れるカードは無数にある。今、我々より豊富な選手を誇り、色々なタイプの選手を保有できる国が他にいくつあるだろうか。おそらく、ブラジル、アルゼンチン、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、イングランドくらいではないか。ただし、我々にはまだ「勝利する」と言う経験が不足していた。
 でももう違う。我々はドイツとスペインを真剣勝負で打ち破ったのだ。どんな高い壁も打ち破る準備は整った。
 我慢する時は隙を見せず奪える時に敵に喰いつく、点が取れそうな時に全員が呼応して敵を喰い破る。簡単にクロアチアに勝てるとは思っていない。ここから4連勝するのは、どんなによい選手がいても、どんなによい経験を積んでも、決して簡単な道のりではない。でも、我々はドイツやスペインに勝ったのだ。どんな難敵でも打ち破る潜在力は持っているのだ。
 決勝までのコンディショナルチケットを片手に、愛する代表チームと共に戦う準備は整ったのだ。我ながら、めでたい人生である。
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2022年11月23日

ドイツ戦を控えて

 さてドイツ戦。
 アジアカップで苦杯を喫したカタールがエクアドルに完敗。好敵手イランがイングランドにボコボコにされた。豪州もフランスに粉砕されている。一方で埼玉で軽くひねってやったサウジのアルゼンチンへの鮮やかな逆転勝利を機上で楽しむ空の旅の最中、この雑文を書いている。

 これまでになかったワールドカップだ。
 まず、大幅なルール変更。COVID-19対応として導入された5人交代制が完全に定着、各監督は従来とはまったく異なる采配を余儀なくされる。トラブルがなければ終盤相当数のフレッシュな選手を投入可能となるだけに、必ずしもスタメンがベストメンバではなくなりつつある。相手の分析、交代選手の予測など、いよいよ監督個人というよりは、監督が率いるマネージメントチームとしての総合力が問われることになる。また、画像処理によるオフサイド判定も勝負を左右しそう。特に後方にすり抜けるタイプのストライカは、自分の腕がDFより前方に出ているか否かなど、過去は意識していなかったはず。いきなりこのような新技術をワールドカップ本大会から導入するのはいかがかとは思うけれども。この僅かに腕や脚が出ているか否かの微妙な判定は、重要なところで勝負を左右しそうだ(実際、サウジに苦杯したアルゼンチンは、このルールがなければ前半で大差でリードし楽勝した可能性もあった)。
 次に、今大会独特のレギュレーション。まず、11月欧州シーズン真っ盛り、それもオフがほとんどない状態での大会。日本も多くの選手が負傷で体調が整わない状態での直前準備が進められた。負傷離脱はもちろんだが、各クラブから集まった選手の体調をそれぞれ揃えるだけでも大変なはずだ。加えて、中3日の試合間隔。いずれの国もターンオーバを採用するのだろうが、選手層の厚さが勝負を左右する。言い換えると相手のやり方や起用選手が読みづらく、分析も相当厄介となる。

 そのような条件で迎える初戦のドイツ戦。両国に上記の課題がのしかかる。
 こちらからすると、最強国への挑戦とわかりやすい構図なのだが。「守田の調整が遅れている」など報道が錯綜するが、森保氏が狙っていたベストメンバが組めるのかどうか。悪く考えればキリがなく、冨安、遠藤航、守田と言った換えの効かない選手の体調が揃うのかどうか。5人交代制や試合間隔が短い事については「ドイツ戦については行けるところまで行く」しかないので、森保氏も分析チームも仕事はそう難しくない。
 一方、先方は相当厄介だ。次戦にスペイン戦を控え、まずは初戦確実に勝点3を確保し、2次ラウンド進出に一歩踏み出したいところ。しかし、選手の体調問題、日本のメンバ予測が難しいなど、準備は容易ではない。イングランドがイランを屠ったように、攻撃連係がうまくはまり当方守備を圧倒できれば理想的だろうが、我々には冨安と遠藤航がいる(大丈夫だよね、ちゃんとスタメンで出てくれるよね)。一番理想は、日本に強引なプレスをさせ、うまく外して日本の守備が少人数のうちに攻め切る攻撃をねらう事だろう。ただ、ベストの前田大然と鎌田を外すのは容易ではないはず。などと、考えると、慎重にボールを回し個人能力差で1、2点確実に取る勝利を目指してくるのではないか。

 ワーストケース。前線守備が決まらず再三速攻を許し、セットプレイを含め早々に失点しまうこと。そうなると、落ち着いてボールを回され、速攻から複数失点で大敗のリスクが出てくる。この場合重要なことは2点目をやらないこと。サウジがアルゼンチンに逆転勝ちできたのは、前半の猛攻をとにかく1点にしのいだからだ(VARや画像処理判定に救われた感もあったけど)。
 ベストケース。組織守備を機能させ、好機を作らせない時間帯を継続する。そして、前田やドラミのような小柄で俊敏なFWがドイツDFを悩ませる。そうなれば、ドイツに分厚い速攻を許す頻度も少なくなるはず。そうこうしているうちに先制し、ドイツの無理攻めを待って追加点。
 たぶん、展開はその中間になるだろう。冨安を軸に丁寧に守っても、個人能力で崩されかける時もあるが、シュミット(いや権田でもよいですが)のファインセーブで防ぐ。一方当方も幾度か好機を掴むが、ノイアーを破り切るシュートを打てるまでの決定機は作れない。もしかして先制を許すかもしれないが、慌てず1点差で時計を進める。あるいは先制できても先方は慌てずヒタヒタと攻め込んでくる。おそらく、このような展開で先方が好機が多い試合になるのではないか。

 などと妄想を抱きながら、トランジットのアブダビで書き終えました。
 ドイツ人を黙らせる歓喜を期待しつつ。
 さあ、29年振りのドーハだ。
posted by 武藤文雄 at 06:18| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月10日

原口元気不選考を疑問視する

 カタールワールドカップメンバ発表。原口元気が外れた。
 過去7回のメンバ発表で、これほど驚いたことはない。まったくの想定外。本稿では、その驚きの背景、過去のメンバ発表との比較、そして原口不選考を選択した森保氏への前向きな期待を語ろうと思う。
 余談ながら。メンバ発表が、7回との歴史を数えたことは素直に嬉しい。若い頃、たったの1度でよいから、ワールドカップ本大会に出場したいと思っていた時のことを思えば…

 原口の不選考は、いくら考えてもまったく理解できない。
 日本の目標は、とりあえずはベスト8進出。そして、26人登録、5人交代制で行われるこの大会。我々のベスト8進出のために、原口はクローザとして不可欠の存在と思っていたからだ。
 ベスト8進出のために、日本が戦うのは、ドイツ、コスタリカ、スペイン、おそらくベルギーかクロアチア(カナダかモロッコの可能性もあるが)。この4つの難敵に対して、リードしているか同点で80分過ぎを迎えたとしよう。このままのスコアで試合を終わらせたいとした場合、前方で最も疲弊した選手に代えて起用する選手に、原口以上の選択肢は思いつかない。原口ならば、前方のいずれのポジションに起用されても、格段の集中力と判断力、持ち前の技巧、絶対に負けないと言う精神力、これらを発揮して日本の勝点獲得に献身してくれたはずだ。
 しかも、これまでの予選や強化試合の多くで、森保氏は原口を上記したクローザとして重要視してきた。そして、迎えるカタールでの戦いこそ、これまで全幅の信頼を置いてきた原口が活躍すべき舞台ではないか。そして予選以上に守備強度や経験が必要な本大会だ。実際、先日快勝したUSA戦で1-0で迎えた終盤、森保氏は鎌田大地に代えて原口を起用、原口は5DFの右サイドバックでクローザとして機能した。森保氏が原口に対して「予選では貴重なプレイだったが、本線では不要」と考えるとは、とてもではないが思えない。
 本件について「26人枠となったので、特定のポジションで機能を発揮するタレントが選考され、多くのポジションをこなせる原口は逆に割りを食ったのではないか」との意見があった。しかし、私はまったく逆に思う。原口の特長にユーティリティ性があるのは確かだが、このチームにおいて原口が重要なのはクローザとしての機能であり、ユーティリティ性は副次的な特長に過ぎない。23人枠の場合は、それぞれのポジションのレギュラとバックアップを選考するのが基本。だから、スタメン起用が考えづらい原口の選考はメンバ選びを窮屈にする恐れがあった(それでも私は原口を選ぶべきだとは思うが)。しかし、26人枠ならば、クローザ専業だとしても原口のような選手を選ぶのに躊躇ないはずだ。
 同様に従来の3人交代制だとしたら、原口のようなクローザは起用機会が訪れない可能性も高い。それまでの戦術的交代で、カードを切り終えてしまうかもしれないからだ。そうなるとクローザを期待される選手を最終選考するのには抵抗があるかもしれない(それでも私は原口を選ぶべきだとは思うが)。しかし5人交代制とすれば、最後の10分間まで交代カードを切り終えないケースが多い。「このまま試合を終わらせたい」と言う状況は相当な確率で訪れるはずだ。
 加えて、選考された前線のタレントで、原口の代わりができそうな選手は思い当たらない。例えば、水沼宏太ならば己の自己顕示欲をすべて捨てて、最前線で技巧を発揮しつつ、チーム全体の組織守備のために己を捨てて貢献してくれるだろう。例えば、武藤嘉紀ならば高度な戦術的要求を伝えれば、それをこなしくてくれる戦術的柔軟性と肉体的強さを持つ。例えば、菅原由勢ならば本来はDFの選手だが、オランダでFWでも使われてと言うから、若いが難しい戦術的要求をしっかりこなしてくれるかもしれない。しかし、森保氏が選んだ前線のタレントで、こう言った己の特長を殺してもチームのために貢献できる選手は見当たらない。強いて言えば、飽くなき運動量で奮闘する前田大然だが、前田はUSA戦を見た限りでは有力なスタメン候補、クローザとしてベンチに残っているかどうか疑問だ。
 なお、これまで予選突破に貢献してきた原口なのに、本大会に選考しなかった森保氏を非難する意見を目にした。私はこの意見には与しない。本大会のメンバは過去の貢献で選考されるべきではなく、本大会で最もよい成績を残す確率、つまり近未来の期待から決定されるべき。私がここまで原口不選考を疑問視するのは、日本がカタールで好成績を残すために、原口が26人のメンバに入っていた方が適切だと考えるからだ。何より「過去の貢献から原口を選ぶべき」との意見ほど、本大会でも十二分に活躍できる能力を持つ原口に対し失礼と言うものだ。
 以上、原口の不選考が大変な驚きで、合理的な理由が思い当たらない理由を述べてきた。

 もちろん、7回の歴史だ。過去にも選考、不選考のドラマは多かった。
 言うまでもなく、初出場98年、岡田氏の「外れるのはカズ、三浦カズ」は、永遠に日本サッカー史に残る大事件だった。ただし、フランス大会最終予選の最中、これまで絶対的な大エースだったカズが思うように活躍できなかったこと、直前の準備試合での出場頻度が少なかったことなどから、まったくの予想外ではなかった。個人的には、呂比須や岡野よりはカズだろうと言う思いはあったが、岡田氏が異なる判断をしたことを理解できなくはなかった。
 02年には中村俊輔が外れたのが話題になった。しかし、当時のトルシェ監督は、(よせばよいのに)再三俊輔批判を公言していたし、アレックスや小笠原など俊輔と異なる魅力あるタレントを選考するのは予想の範囲内だった(もっともメンバ選考後に、俊輔とポジションや機能がかぶる小野伸二が盲腸炎にかかるなどで、体調を崩したのは大誤算だっただろうが)。
 これらの事例は、ジャーナリスティック的には大きなニュースだったろうが、今回の原口ほどの驚きではなかった。
 以降も、メンバ発表時に悲喜こもごもの事態があった。06年の久保竜也、10年の田中達也、石川直宏、14年の中村憲剛、細川萌、18年の久保裕也など。ただ、これらのスター達が選考外になったのも、それぞれの監督が考えた理由は推察可能だった。
 強いて類似例を探せば、2004年アテネ五輪での鈴木啓太、2015年アジアカップの細貝の不選考だろうか。おっと、2012年ロンドン五輪でもサプライズ…いや、やめておこう、これらの例はそれぞれの不選考が、大会に入って痛手となったのだ。今回はそのような事態にはならないことを、サッカーの神様に祈るべき、縁起もないことを思い出すのはよくないな、うん。

 ただしだ。
 森保氏率いる日本代表チームが、過去栄華を極めたブラジル代表のように、すべてのタレントがチームのために献身する集団となれば、原口不在に対する私の不安は雲散霧消する。
 例えば、伝説の史上最強の1970年。神様ペレを輝かせるために、それぞれのチームで王様だった選手達は、本来と異なるポジションを担当した。トスタンは9番を付けCFとして敵CBを引き付けペレの前進のためのスペースを作る。リベリーノは11番を付けて左ウィングとしてサイドからの突破に専念。ゲルソンは8番を付けてボランチに下がり、クロドアウドのサポートを受け展開に専念。
 神話化している大昔はさておき。以降もセレソンは、多くの天才肌の選手に労働者としての責務を担当させて、歓喜を得てきた。例えば94年。ジーニョはサイドMFとして、正確なつなぎとサイド守備に自らのプレイを制限。ロマーリオとべベートに点を取らせ、自国の失点リスクを最小限にするタスクのみを淡々と行った。大会後、フリューゲルスの10番として来日したジーニョは、再三魔術師のような技巧を見せ、攻撃創造主としての能力を我々に披露してくれたが、94年はそれらを封印してセレソンに尽くし、世界王者の栄冠を得たのだ。
 例えば02年、エジウソンは起用されるや、右サイドのMFとして献身的な守備とボールキープで、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョの3人を輝かせることに専念した。これは、レイソル時代のエジウソンの天上天下唯我独尊的なプレイからは信じ難いものだった。しかし、エジウソンにとって世界王者の一員となるためには、この検診は当然のことだったのだろう。同様に18年ブラジル大会、かつてJリーグであれだけ独善的なプレイしか見せなかったフッキが、ネイマールやオスカールのために献身的なプレイを継続したのも記憶に新しい。

 世界王者を目指すと言うのは、そう言うことなのだ。
 要は、たとえ原口がいないにしても、森保氏が選考した攻撃タレントのいずれかが、上記セレソンのスター達が過去見せてくれた献身性を持ってもらえば問題はなくなるはずだ。例えば南野拓実や浅野拓磨、20代後半となり相当な経験を詰んだこの2人が、独善的なプレイを打ち捨て、他の若い攻撃創造主たちのサポートに献身してくれれば。いや、彼ら2人とは限らない。森保氏が、選択した選手のいずれかに、信念を持って、そのような目的意識と指示を徹底してくれれば、歓喜は近づいてくる。
 それでも、私は大会終了後思うことだろう。「もし原口がいれば、もっとよい成績を収められたのではないか」と。森保氏には、私にそのような思いを一切抱かせない「もっとよい」などない成績を収めてもらうことを期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月06日

ブラジル戦前夜2022

 紆余曲折あったが、終わってみれば無事予選突破を決めた森保氏率いる日本代表。
 6月の準備試合シーズンが始まった。ただ、過去と比較して非常に窮屈な強化計画となっている。特に出場決定後、欧州遠征しての親善試合がかなり組みづらいのが苦しい。欧州ネーションズリーグが設立されてしまったためなのだが、何とか工夫して強化を進めたいところだ。日本で行う強化試合は、相手国がどの程度充実した選手を集め、どのくらい体調を整えてくるのか、まったく読めないのがつらいところだが。

 今回のパラグアイについては、選手のレベルはかなりのものだったが、体調は微妙なところ、連係はまったく整っていなかった。あれだけ守備ラインが揃っておらず、プレスの連係もなければ、堂安と鎌田と田中碧らの個人能力で簡単に崩せる。ただ、森保氏のチームの常として、最終ラインをいかに崩すかの連係は選手任せになっている。そのため、ペナルティエリアに入ったところですぐに崩し切れないと、敵の守備も戻ってくるから、ゴール前がゴチャゴチャになり、シュートに行き切れないことになる。久保のプレイがその典型。それでも、各選手の個人能力で4点取ったのだから結構な時代になったものだ。
 一方で守備面では「おいおい」という場面が多かった。失点場面もそうだが、マイボールで丁寧に回すべき場面でボールを奪われるケースが多かった。予選終盤はそのようなミスはほとんど見受けられなかった。そう考えると、この不首尾は、大差がついて若干弛緩があったこと、吉田麻也、遠藤航と言ったチームリーダが不在だったことなどが要因だろう。もっとも、本大会であんなミスをしたら、とんでもないことになる。大丈夫だよね、代表チームのみなさん。
 現実的に、今回の残り3試合で、日本にとって本当に負荷となる試合がいくつあるのかはわからない。ガーナとチュニジアはカタール本大会出場を決めているから、相当厳しい試合を経験できることを期待しているのだが。とは言え、明日のブラジルは世界最強国。日本代表にとって、格段の強化機会になることは間違いないだろう。
 そして、できる範囲でベストを尽くすのは当然のこと。パラグアイの連係不足による手応えのなさは残念だった。しかし、手薄だった中盤で鎌田大地と板倉が相応のプレイを見せた事、堂安が輝いた事、(堂安や鎌田らによる引き付けがあれば)三笘が相手に対して相当脅威になること、原口が気の利いたラストパスを連発したこと、売り出し中の伊藤洋輝が一番手薄な左DFで機能したことなど、明るい材料も多かった。一方で、もう本大会まではそう時間もないし、強化合宿も限られている。新しい選手を多数試す段階ではなく、有力な選手同士の連係練度をいかに高めるのが課題なのだが。

 さてブラジル戦。おそらく、森保氏は予選のベストメンバに近いメンバで、ブラジルを迎えるのだろう。GKは権田、右DFは山根、CBは吉田麻也と冨安、冨安の体調が悪ければ板倉、左DFは中山で来ると思うが、伊藤を抜擢するか。中盤は遠藤航、田中碧、守田、両翼は伊東純也と南野。CFはたぶん上田綺世(これはパラグアイ戦で起用されなかったことからの推測に過ぎませんが)。そして、ロースコアの勝負に持ち込み、終盤に堂安、鎌田、三笘らを起用し勝負に出たい。もしリードしたり同点で終盤を迎えられれば、原口や谷口を起用してのクローズのテストとなるが、そんな展開に持ち込めれば嬉しいな。
 実際、今回の予選のホーム中国戦、サウジ戦での守備組織、特に攻撃から守備への切り替えはすばらしいものがあった。本大会でドイツとスペインから勝ち点2以上を奪おうと言うのだ、まず堅牢な守備を磨くのが重要なことは言うまでもないだろう。そう言う意味では、韓国から5点を奪ったブラジルに対し、今の日本がどこまで粘れるかを見極めると言う意味で、とても大切な試合となる。
 ブラジルにボールを奪われた直後に、どれだけ早く切り替えられるのか。一方でボールを奪取した後に、どのくらい有効な攻撃がしかけられるのか。先方の世界最高峰の遅攻にどのくらい我慢できるのか。マイボールで守備を固められた時、どのくらい落ち着いてリズムを作れるのか。これらすべてが、我々がカタールでどこまで戦えるかの試金石となる試合となる。
 2017年11月、日本はアジア予選を勝ち抜いた直後、明日と類似の状況でブラジルと対戦した。当時のハリルホジッチ監督は、予選の埼玉豪州戦、長谷部、山口蛍、井手口と3人の守備の強い選手を組み合わせた4-3-3で完勝した。その試合とほぼ同じメンバで、このブラジル戦を行ったが、前半に3点とられる完敗。ミスが連発し、無理なパス回しからボールを奪われ、再三速攻に脅かされる。粘ることも何もできない完敗だった。以降、ハリルホジッチ氏はチームを立て直すことができず、数ヶ月後解任された。
 果たして、明日はどこまで戦えるか。

 今の日本のレベルは相当なところまで来ている。過去の代表チームにはない分厚い選手層も確保できている。我々は、過去にないほどの成績を収められる潜在力を持った代表チームを確保しつつあるのだ。我々の代表チームがどこまで戦い得るのか。明日のブラジル戦、その戦いを(声が出せないけれど)新国立で応援できる。本当に楽しみだ。
posted by 武藤文雄 at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月03日

完璧な180分間

 中国戦に続き、サウジ戦も2-0で完勝。
 この2試合180分間のの日本の組織守備のすばらしさを、どう表現したらよいのか。特にボールを奪われた直後の切り替えの早さと位置取りの修正は格段だった。出場全選手の献身に最大限の敬意と感謝を捧げたい。100年の歴史が育んだ知性と技巧とフィジカルに優れた我らのサッカーエリート達が、ここまで戦ってくれるとは。カタールでのベスト8はもちろん、生きているうちにベスト4も体験できるかもとすら思えてきた。
 過去日本代表が組織守備を十分に機能させた試合と言えば、やはり南アフリカワールドカップと言うことになるだろう。あれは見事な4試合だった。ただ、本大会は事前にフィジカルコンディションを整える合宿を行える。それに対し予選では欧州から帰国した選手と国内の選手を直前に集めて試合に臨むのだから、2試合続く予選で質の高い試合を見せるのは難しい。実際、ブラジル予選ではCBの弱さがチーム全体の課題となっていたし、ロシア予選では連戦2試合続けてよい試合を見せてくれることは少なかった。もちろん、この2試合はホーム連戦で調整がしやすかったのは確かなのだが。
 しかも、この中国戦とサウジ戦は、国内はオフでレギュラーのCB2人が不在。これだけ難しい状況だったのに180分間に渡り、組織守備を機能させたのだからすばらしい。ホーム豪州戦以降採用した遠藤航、守田、田中碧のトレスボランチがよく機能。谷口と板倉のCBの充実と合わせ、難敵サウジにも好機を与えなかった。しかも、速攻を許すようなリスク高いパスをほとんど使わず、田中碧の制度の高いパスと伊東格段の突破力を軸に、複数回崩し切り得点を重ねた。

 サウジは中国とは異なり、前線から厳しいプレスをかけてきた。しかし、日本も落ち着いてボールを回し不用意な取られ方はしない。ただ、田中碧が自由にボールを持たせてもらえないこともあり、どうしても前線へのフィードは甘くなり攻め切れない時間が続く。それでも25分過ぎあたり、伊東が敵DFを打ち破り低いクロスをGKが好セーブの好機をつかんだあたりから連続攻撃。そしてサウジが一度それをしのいだところで、ボールを奪った酒井が伊東に絶妙な縦パス。伊東が長駆で再度振り切り上げたボールを大迫がスルーし、南野が切り返しから左足で決めてくれた。
 日本の攻勢が続いたところで、サウジDFが深めに位置取りしているところで、前線の選手が中途半端に前に出てきたので、酒井が精度の高いボールを入れることができた。サウジは引き分け狙いだったのだろうが、あの場面はコンパクトで無くなっていた。この予選好調に首位を走るサウジが、精神的なスタミナが残っている前半からそのような不十分な意思統一を見せるとは少々驚きだった。サウジのホームでの勝利は、日本のミスからの自滅だったのだが、選手たちは「日本より強い」とでも錯覚したのだろうか。
 その後、やや日本のプレスが消極的になったこともあり、日本陣まで攻め込まれることもあり複数回CKを許す。ただ、そうなればサウジ後方のスペースを狙えるから、伊東のシュートをGKがブロック、田中碧がペナルティエリア内で倒された疑惑、遠藤航のフリーのミドルシュートが宇宙開発など、日本も好機を複数回つかむが決め切れず前半終了。
 後半立ち上がりから日本が積極的なプレスをかけ、サウジ陣でボールを狩れるようになる。そして50分、遠藤航のボール奪取から南野(だと思った)がつなぎ、左の長友に。長友が敵タックルをかわすように上げた逆サイドへのクロス(どの程度ねらったのかは少々微妙だったが)が伊東へ。球足の速いボールだったが、伊東は正確に右斜め前にボールを置き、超弩級の一撃を叩き込んでくれた。それにしても、伊東は正に大エースとしか言いようがない存在になってくれた。ボールの置き所の見事さ、突破をする時の精妙なボールタッチ、正確な技術とその使い所の的確な判断。大学までそれほど著名ではなかったこのタレントの格段の成長振りは本当にすばらしい。
 サウジとしては前半戦って「リードを許した以上は勝つのは相当難しい」と覚悟を決めていたはず。なので、1点差の時間を延ばし、僅かな交通事故に期待したいところだったろう。それを打ち砕く一撃を喰らい、オーロラビジョンに大映しになる各選手の絶望的な表情がうれしい。
 以降は、完全に日本ペース。交代出場した前田大然と浅野と伊東の3超高速トリオが、サウジDFの後方を再三付き複数回決定機をつかむが決め切れず、2-0で試合終了。点差以上の完勝だった。

 まあ、フィジカルコンディションのよい選手がそろい、選手選考を誤ったり、疲弊した選手の交代をしっかりしてくれれば、森保氏はすばらしい試合ができるのはわかっていたことだ。また、集まっては解散を繰り返す代表チームで、序盤自らの采配不備による勝ち点喪失という失態を行いながら、各選手たちを精神的にまとめ上げた手腕も恐れ入るものがある。しかも、今回の招集は精神的支柱の吉田麻也と、(おそらく)日本人選手で歴代市場価格ナンバーワンとなっている冨安が不在だったにもかかわらず。
 ただ相変わらずディテールについて、ネチネチ文句を言えるツッコミどころには事欠かないのは楽しい娯楽だ。勝った試合の後ならばだが。
 何回でも繰り返すが、トレスボランチ採用するのに、どうして守備の強い中盤のバックアップ呼んでないのだろうか。川辺や稲垣や橋本や松岡など有効な選手は多数いるはず。もし序盤に3人のうち誰かが負傷離脱したり、いやそれ以前にこの3人のうち誰かが自クラブで負傷し招集できないとしたら、森保氏はどうするつもりなのだろうか。もちろん、柴崎がロシアの輝きを取り戻すことを期待し、招集を継続するのを否定はしない。しかし、柴崎が現状のレギュラー3人組のように戦うことが難しいのは、先日の敵地オマーン戦でも示されたではないか(もちろん終盤何がしかの理由で試合がばたついた時などに柴崎を起用し、落ち着けることは今でも十分期待できるだろうが)。
 このMFのポジション以外は、このチームには多士済々のタレントが揃っている。今回の板倉、谷口がまったく不安ないプレイを披露してくれたのがその典型だ。左DFは少々手薄だが、長友と中山と2人は常時招集され、2人とも存分に機能することはわかっている。なのに、なぜここだけは手薄なままを放置するのだろうか。
 もう1つ。終盤遠藤航→原口の交代ちょっと前に、酒井宏樹が足をつり気味だったが、森保氏は交代しなかった。まだ交代枠が残っていたのだから、山根を投入するべきだろう。こう言う甘い采配するから、メモするのに忙しくて試合見ていないのではないか、と言いたくなるのだw。このような細部をおろそかにする采配で、本大会の2次ラウンドで本当に厳しい相手と戦えるだろうか。

 ともあれ、すばらしい180分間をたっぷり堪能することができた。
 敵地豪州戦を引き分ければ出場権が確定する。中盤の3人が負傷なく上々の体調で招集できれば、よほどのことがない限り、敵地とは言え勝ち点獲得は難しくないだろう(3人が揃わなければ、それはそれで心配だが上記の通り人材はいる、ベテランの山口蛍あたりに頼る手段もあるし)。3月24日の豪州か、よい季節だし行って歓喜を堪能したいなあ、疫病が忌々しい。
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2022年01月31日

サウジは無理をして来ない

 2022年1月27日 日本2-0中国 於埼玉スタジアム。
 個人的には、日本代表史に残る完璧な試合だったとは思う。「だったと思う」ではなくて「だったとは思う」だが。

 元々、戦闘能力で中国を圧していることは事前にわかっていた。ただ、戦闘能力が劣るチームに対し確実に勝ち点3を確保するのが、必ずしも容易ではないことは、サッカー狂ならば誰もが理解している。そして、本大会出場のために、この試合で勝ち点3をしっかり獲得すること、その確率を極力高めることが重要なこと、それぞれもサッカー狂ならば誰もが理解していたことだ。
 そして、この日、遠藤航とその仲間たちは、そのミッションをほぼ完璧に演じてくれた。この「ほぼ」の徹底ぶりは実に見事。
 開始早々から、ボールを奪われた直後の切り替えが格段(最近の流行り言葉では「ネガティブトランジション」)。そのため、中国はまともにつないでハーフウェイラインを越えられない。それならばとロングボールで前線をねらってくると、板倉と谷口がそれを冷静にはね返すので、中国はまったく前線で起点を作れない。そしてこの急造CBコンビは、後方に引いてくる田中碧と連携し、前線に次々と好パスを送り出す。
 それにしても、板倉の出足(その前提となる読みを含めて)はすばらしかった。ベガルタが天皇杯決勝で浦和に苦杯を喫したのは、この日と同じ競技場での3年前のことだった。あの試合、ベガルタの左CBとして起用された板倉、マークする相手に詰め切れない弱点を突かれ、幾度も裏への突破を許してしまった。欧州での3年の経験は、この若者をまったく質の異なる戦士に変えてくれた。板倉は、この中国戦でのプレイ振りで、完全に吉田麻也との定位置争いに名乗りを上げたことになるだろう。少しずつ、最高レベルのCBになりつつあるこの逸材と、1年間ともに戦えた幸せ、ベガルタサポータとして本当に嬉しい。
 攻撃には色々不満もあるが、このレベルの相手に、これだけ素早いネガティブトランジションを継続すれば、試合は一方的なものとなる。遠藤航と守田の切り替えは当然かもしれないが、3トップの切り替えの早さも格段。そして序盤に見事なパス回しで伊東純也の突破場面を作りPKで先制に成功。以降は、攻撃面で無理をするリスクを負わず、執拗に切り替え早さで守備を固める試合となった。この切り替え早さを90分間継続するのだから、「日本代表史に残る完璧な試合」と表現した次第。加えて、中国が田中碧をまったく押さえにこないので、一度日本がボールを奪うと、上記の通り2CBと田中碧を起点におもしろいようにボールを回すことができた。結果、90分間に渡り試合をコントロール。僅かなズレから許した数少ないCKや自陣のFKからシュートを許したものの、交通事故のリスクも最小限。まったくおもしろさはないかもしれないが、リアリズムと言う視点からは「完璧な試合」と言うしかないではないか。少なくとも、戦闘能力が明らかに落ちる中国に対し、勝ち点3を間違いなく獲得するという視点では、この試合はすばらしかった。
 もちろん不満もある。上記の通りボールをしっかり回すことはできたが、なかなか追加点を奪えなかったこと。これは開始早々に先制したこともあろうが、各選手が「悪い取られ方をしないこと」を徹底し、無理をしなかったためだった。正直言って勝ち点3を確保するのが最重要な試合だから、各選手の思いはわからないでもない。しかし、あれだけボールを奪われた直後の守備が機能していたのだ。最前線の選手は、もう少し無理をしてよかったはずだ。特に南野には不満がある。長友との連係を工夫したり、もう少し無理をしてもよかったのではないか。だから、冒頭で「だったとは思う」と微妙な表現をとった次第。贅沢なのかもしれないけれど。

 さてサウジ戦。
 中国と比較すれば、戦闘能力が格段に高いことは間違いない。しかし、落ち着いて考えてみよう。先般の敵地戦の苦杯だが、序盤のセットプレイから許したピンチ(権田が好フィスティングでしのいだ)を除くと、危ない場面は皆柴崎のミスによるものだった(それにしても、あの柴崎の完璧な敵へスルーパスには驚いたが)。どんな選手にも不調の時はある。にもかかわらず、柴崎を交代させなかった森保氏の問題なのだ。加えて、サウジは日本時間28日の未明にホームでオマーンと戦った後の来日となっている。それも極寒の日本に。コンディションがよいとはとても思えない。さらにサウジとの試合、日本はホームで過去勝ち点を失ったことはないはず、引き分けもなく常に勝っているはずだ(記憶違いだったらごめんなさい)。中国戦の守備強度を含め、常識的に考えれば、日本が圧倒的に優位なのだ。
 さらに各国の勝ち点勘定を考えると、サウジは出場権獲得をほぼ決めており、一方で豪州は相当追い込まれているのだ。
 1位 サウジ 勝ち点19 得失点差+7 残試合 A日本 A中国 H豪州
 2位 日本 勝ち点15 得失点差+4 残試合 Hサウジ A豪州 Hベトナム
 3位 豪州 勝ち点14 得失点差+9 残試合 Aオマーン H日本 Aサウジ
 4位 オマーン 勝ち点7 得失点差-2 H豪州 残試合 Aベトナム H中国
ベトナムと中国が圏外と考えると(いや、ベトナムは本大会出場可能性なくなっても最後まで相当な抵抗はしてくるだろうが)、サウジは次節の敵地中国戦に勝てば勝ち点は22確保できる。そうなると、日本と豪州は直接対決が残っているので、サウジは残る豪州と日本の直接対決に敗れたとしても、2位には入れるのだ。サウジにとっての唯一の悪夢は日本に2点差で敗れ、(可能性は低いが)中国に引き分け以下で終わり、日本が豪州に1点差で負けたケース。その場合以下となる。もし、火曜日に日本に負けたとしても0-1ならば、サウジが悪夢にはまっても得失点差で日本を2上回ることができる。そうなると日本はベトナムに大量点が必要になる。
 サウジ勝ち点20、得失点差+5 ホームとは言え豪州と直接対決
 豪州 勝ち点20、得失点差+10以上 敵地とは言えサウジと直接対決
 日本勝ち点18、得失点差+5 ベトナムに勝てば2位には入れる
 そうこう考えると、サウジにとって火曜日の日本戦は引き分けで十分、負けても1点差ならば問題ない試合なのだ。
 余談ながら、オマーンのホームゲーム豪州戦はすごい試合になるだろう。オマーンはこの豪州戦を勝てば、勝ち点16まで行ける可能性が出てくる。豪州が日本にもサウジにも勝てなければ、オマーンが3位になれる。

 以上考えると、サウジは絶対無理をして来ない。日本がリードしても、強引に同点をねらわず最小得点差を維持することを考えるはずだ。
 とすれば、日本は中国戦の守備強度を確保しながら、左右両翼から攻勢をかけるべきだろう。南野が強引に無理をしに行くのか、久保を左サイドに使い強引に行くのか、中山を起用し左オープンに開かせるのか、森保氏はいずれを選択するのか。冷静な采配で2点差以上の勝利を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 00:31| Comment(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月27日

CB2人不在だけれども

 Jリーグオフという厄介なタイミングで迎えるホームの中国戦、サウジ戦。この季節以外では、欧州でプレイする選手の体調は呼んでみなければわからず、国内の選手の体調は計算できるのが常。しかし、今回については国内の選手はみな体調があまりよくないことは自明(長いシーズンに向けたフィジカルトレーニングの最中だから)。で、さらにCOVID-19でのバブル対応がコンディショニングを難しくする。
 まあ、ずっと日本国内に滞在し移動がない有利さは格段だ。同じバブルでも、異国と母国ではまったく精神的負担は異なるはず。加えて、敵軍の戦闘能力との相対比較という意味では、両試合ともかなり有利なことは間違いない。
 中国の弱さは初戦で明らかになった。元々あまり機能していなかった帰化選手たちの去就も曖昧だ。中途半端に帰化選手に頼らず、真面目に強化を積んだらよかったのではないかとの上から目線も楽しい。それにしても、この国のサッカーはどうしてダメなのだろうか。合衆国が地味ながらワールドカップで好成績を収めているから、超大国がサッカーがダメという理屈はないはず。テレビで習近平氏(大変なサッカー好きとのことだが)のふんぞり返った態度を見る度に「いいから、サッカーが強くなってから偉そうにしてください」と、つぶやくのも楽しい。
 サウジは難敵で先日も苦杯を喫している(詳細は後述する)。しかし、2月の日本のナイトゲームの寒さは彼らには相当厳しいハンディキャップとなるだろう。いや、アラビア半島の湿度と高さと気温の高さのしんどさと言ったら形容し難いものがある。そのような地域で生まれ育った選手たちに、2月の日本の寒さは厳しい試練になることだろう。歴史的にもこのアジアの強国は日本で勝ち点を獲得したことはないと記憶している(間違っていたらごめんなさい)。そう考えると、日本との勝ち点差4を考えれば無理をしないはず、引き分ければ大成功と思っているはずだ。
 したがって、両軍とも完全な引き分け狙いで来る。落ち着いて90分で複数回崩し切る工夫をし、当方の豪華絢爛な我々のスター選手の誰かがゴールネットを揺らしてくれるはずだ。よほど妙なことが起こらない限り勝ち点6を確保の可能性は高い。

 と書いたわけだが、その「よほど妙なこと」を起こすのが、我らが森保監督。これまでの予選の2敗を振り返ってみよう。
 ホームオマーン戦では、CBと守備的MFの控えがいない異常事態にもかかわらず新しい選手を呼ばない謎対応。さらに疲弊したサイドバックを交代させず状況を放置。その結果、終了間際に遭えなく失点した。
 敵地サウジ戦では、再三ミスパスやボールロストを繰り返す柴崎を交代させず、そうこうしていたら柴崎の誰も予測できないようなミスパスから失点した。さらに、1点を取りに行く必要が出てきたので柴崎→田中碧の交代が妥当だったのだが、失点前に準備していた柴崎→守田の交代を変更せず、終盤の攻めあぐみを招いた。
 以前から幾度も書いてきたが、森保氏は決して悪い監督ではない。中心選手を固め、彼らに試合を委ねる。全員にハードワークを期待し、まず試合を無失点で終えることを目指す。そうこうしているうちに、かなりの確率で勝利を収めることができる。サンフレッチェでJを制覇した際も、佐藤寿人を軸にしたチームで丁寧に勝ち点を積み上げていった。アジアカップの準優勝や、先日の東京五輪での準決勝進出も、これらのチーム作りの成果と言えよう。
 しかし、これまた幾度もイヤミを語ってきたが、
選手の体調を見極められないこと、選手交代について計画性がないこと、勝っている試合のクローズが稚拙なこと。そして、五輪での最大の失敗である選手の消耗対応を反省していないこと。要は森保氏は、1試合ずつ丁寧に勝ち切る用兵が決定的にお粗末なのだ。
 その結果上記のホームオマーン戦や敵地サウジ戦で、非常識な采配を行い、後半煮詰まった時間帯にありえないような失点をしてしまい、そのまま敗北を喫してしまった。東京五輪でもチームの要である遠藤航と田中碧を酷使し消耗させ、結果メダルを逃したは記憶に新しい。

 そうこう考えていたら、なんとこの2試合、吉田麻也と冨安が欠場すると言う。さらに古橋亨と三笘薫まで。でもあまり不安はないのですがねw。
 散々イヤミを語っている敵地サウジ戦だが、柴崎がからんだ場面以外に敵に許した好機は序盤のFKからのみ。後はサウジの個人技による攻撃を、ことごとく冨安の1対1の強さと、麻也の老獪なカバーで防いでいた。前線からの組織守備と、遠藤航の協力な中盤デュエルにより、敵FWが加速して攻めてくる場面は非常に少なかったので危ない場面はほとんど作らせなかった。しつこいのは承知で繰り返すが、森保氏が適切な采配を振るっていれば、間違いなく勝ち点1を確保できていたことだろう。
 そう考えると、麻也と冨安の不在に不安感は高まる。おそらく、谷口と板倉が中央を固めることになるのだろうが、この2人にとっては代表定着の絶好機ということになる。フロンターレでの谷口の最終ラインでの安定感は相当なものだし、板倉の東京五輪での守備ぶりは中々で欧州での評価もかなり高い。そう考えると、この2人については、それほど心配する必要はないだろう。
 むしろ不安は守備的MFの控えの薄さではないか。おそらく、4-3-3のスタメンで、遠藤航、田中碧、守田が先発となるのだろうが、中盤後方のタレントの控えは柴崎しかいない。そうこう考えると、(森保氏が以前選考したことのある)稲垣祥や川辺駿あたりを呼べばよかったにと思うのは私だけだろうか。随分チーム運営が楽になると思うのだが。
 以前から何度か書いているが、30年前の森保一のような選手を、もっと呼べばよいと思うのだが。

 不安や不満を語り始めればキリがない。心配していない。中国とサウジを、圧倒的な戦闘能力で完全に殲滅すればよいのだ。
posted by 武藤文雄 at 00:40| Comment(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする