諸事多忙で、少々遅くなったが、ワールドユース出場を決めたサウジ戦について。ちょっとないほど、劇的な勝利だった。よかった、よかった。
醒めた態度で言えば、サウジが素晴らしい健闘を見せてくれたおかげで、我らが若者たちが素晴らしい経験を積めたと言う事かもしれない。
サウジとして重要だったのは、梅崎、柏木、さらに後方から進出する内田の3人を中盤で厳しくマークし、フリーにしない事。若森島がヘッドで落とすところをよくカバーする事。さらにできれば、前線からプレスを厳しくかけて、日本に中盤を省略させてロングボールを蹴らせる事。これによって、日本の攻撃力を落とし、少ない点数差の勝負に持ち込めば勝負になる、と言うのがゲームプランだったと思う。
ところが、内田を止め損ねたセットプレイから、開始早々に失点してしまう。長身選手に気を取られ、ニアに入り込む河原を止め切れなかった。この痛い失点により、勢いに乗った日本の猛攻に、サウジはひたすら耐える。素晴らしかったのは守備の集中、再三内田に左サイドを破られながらも、中央で我慢を重ね、身体を投げ出す事で、とにかく点差を広げない事に成功。積極的に押し込んでくる柏木の裏を突き、日本のCBがアプローチする直前に高精度のミドルシュートで、たびたび日本GK林を脅かすなど、速攻も奏効。早々の失点は痛かったが、順調な前半と言えた。
そして後半。日本の強力CBコンビと、ボランチの中間の間隙を突き、幾度か好機を掴む。2本バーに当たるシュートのいずれかは決めておきたいところだった。案の定、日本がFWに青木を投入し、再度活性化し再び押し込まれる。追加点は時間の問題と言う雰囲気になるも、粘りに粘る。幾度となく両翼で内田なり梅崎がフリーになっても、中央で諦めずに競りかけて日本にシュートの隙を与えない。こぼれ球を拾われ、連続攻撃をかけられても、あきらめずに身体を張り、とにかくフリーでのシュートを許さない。
もっとも、GKがペナルティエリア外で青木を倒した場面は感心しないが。あれは退場にされても文句を言えないプレイ。あそこで抜かれても失点するとは限らないのに、あれだけ見え見えの反則をしてはいけない。
そうこうしているうちに、FKからやや幸運なPKを得て同点に追いついた。ここから押し切りたいところだったが、日本が非常に冷静だったため、逆に押し込まれる。終了間際の失点は、あれだけ拾われれば、いつかは崩れると言う典型的な失点。押し込まれ続けたために、守備ライン全員が完全にゴールに引き付けられてしまった。あれだけよく守ってきたのだ、あの失点は攻められない。
日本と比べて試合感覚が短いと言うハンディキャップを抱えていた事を含め、サウジの健闘は実に見事なものと評価されてよいだろう。
ただし、サウジのやり方に疑問も多い。この日の試合内容は、そのまま両国のA代表同士がやっても似た展開になるような試合だった。そして、サウジはこのような受動的な試合ばかり狙っていると、日本が本当に能動的な攻撃ラインを完成させた時(たとえば00年のアジアカップの1次リーグのように)、勝つのは非常に難しくなってくると思う。もっとも、日本の運動量が落ちると00年のアジアカップ決勝のように、それなりに好機も掴めるのだから、このサッカーがやめられないのだろう。だが、もう少し志を高く持ち、能動的なサッカーに取り組むべきだと思うのだが。頑健な選手、好技の選手、高速な選手、多士済々いるのだし。
逆にどうしても受動的なサッカーに専念したいのならば、パラグアイやエールのように、開き直った守備固めと言う手もあるのだろうが、そのためには今よりも2,3段は、フィジカルを鍛え抜く必要がある。そうしないと、1つ間違うと、02年のワールドカップのようにドイツに粉々に粉砕される事になる。
まあ、いいか、他人事だ。
日本は本当によくやった。難しい試合に適宜リスクを負いながら、丁寧に戦い抜いた。失点そのものはやや不運なPK。公平な笛を吹いていたこの日の主審があの煮詰まった場面で迷わず笛を吹いた事、敵が倒れた時に若森島が不自然に両手を広げた事などから推定するに、やはりPKの判定は正しかったように思えるのだが。若森島には格好の経験となった事だろう。あと、問題にするとしたら、時々(特に後半の序盤に顕著だった)4DFとボランチの距離が空いてしまい、複数回決定機を許した事。一方で、そのような戦術ミスが散見されながら、個人能力で何とか止めてしまうのがこのチームの魅力。経験を積めばその手のミスは減ってくるだろうから、頭を抱えるほどではないかもしれない。
そして、90分間、重いグラウンドを考慮しながら、常に変化を意識した攻撃をやり抜いた。決勝点にしても、完全にボールを回して押し込んだ上で、山本のシュート、柏木のラストパス、いずれもジャストミートはしなかった感があるが、能動的にボールを扱ったところで、青木が余裕を持って振りぬくスペースができた。あれだけ押し込めば、いつか崩れる。
贅沢を言えば、若森島が空中戦を制せるものだから、つい高いボールが多くなってしまった事と、両翼を崩した後のクロスへの飛び込み(逆に言えば合わせ)に工夫が足りなかった事が、不満なくらいか。しかし、こう言った愚痴は、経験を積めば改善されるはずなのだ。
まあ、あのまま逃げ切るよりは、格段によい経験ができたと考え、サウジに感謝するのが前向きな考えと言うものかもしれないしな。
このチームは、各選手がのびのびと現状の個人能力を押し出しているのがいい。時折見せてしまうミスは、若さ、経験不足からくるもので、近い将来なくなって行く事だろう。ワールドユース行きを決めた今としては、準決勝への集中は決して簡単ではないだろうが、次は何せ韓国なのだ。ここにだけは、負けてはいけない。頑張って欲しい。