2007年01月30日

15番の思い出

 森本がセリエAで初得点を決めた。

 カターニャと言うあまりなじみのないクラブに加入し、まだユースでプレイしているのかと思っていたのだが、トップにデビューしいきなり初得点を決めたようだ。さっそく各種情報が要領よくまとめられたこちらは便利だな。この選手はJリーグでのデビューでいきなりジュビロの山西をまたぐフェイントで悩ませ、初得点を決めた時は位置取りの駆け引きで(当時)ジェフの茶野を出し抜いた。僅か15歳でJにデビューした事そのものも凄かったが、もっと感心させられたのは、そのあくなき前進意欲。常に前に行こうとする意欲、それも単にゴリ押しではなく、技巧を活かしながら強引に前に行こうとする意欲が素晴らしかった。さらに、敵陣に入るあたりで、しっかりと駆け引きできる冷静さにも感心させられた。

 その若者が早々にイタリアに飛んだ。その判断、意思決定が妥当かどうかは結果が決める事。ただし、10代半ばで「本場」に飛び、ワールドカップ出場を除く全ての栄光を掴み尊敬を集める男が日本にはいるのだよね。そう考えると、「その意気やよし」なのかなとは思っていた。

 で、その初得点。映像を見るやに興奮した。これはストライカだ。あの右サイドからクロスを上げた選手がどこまでの意図を持っていたのかはよくわからない。とにかく、あのクロスが上がったスペースに、少しタメを作っておいてトップスピードで入ってきてDFを振り切ったところからスタート。斜め後方からの浮き球と言う難しいボールを、とにもかくにもしっかりとコントロールしたのがまず素晴らしい。次にシュートを阻止しようと身体を寄せてくるDFを、腰までしっかり入れて肩でブロックして吹き飛ばしたのには感慨。その上でそのような外乱を防いだ後、利き足の右で強いボールを蹴る事ができる場所にボールを置き直す(この「置き直し」が、この見事な得点でもっとも重要にも思える)。そして、その2つ前のプレイで着実にトラップしたボールを、悠然とインステップキックで強烈に蹴り込んだ。

 何とまあ、あざやかな得点である事か。この森本と言う若者が、並々ならぬストライカの素質を持っている事は間違いない。まだ「素質」と言うしかないのだけれども。



 そして、何より嬉しかった事は、この若者の背番号が「15番」だった事。今を去る事、30数年前だろうか。とにかく得点を取る事のみを考えていたあの偉大なストライカは、日本代表に入ると、いつも「15番」を付けていたなと。
posted by 武藤文雄 at 23:04| Comment(2) | TrackBack(1) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月10日

高校選手権の将来

 高円宮杯が非常に充実した大会になり、各地域でユース年代のサッカーでリーグ戦が定着している現状で、正月の風物詩でもある高校サッカー選手権はどうあるべきか。もちろんサッカー界の都合だけで事は運ばず、日本テレビや高体連の思惑もあるのだが、いくつか考えてみた。



 まず誰でも考える事は、連戦を無くし、45分ハーフ、延長戦ありに変更する事だろう。

 連戦を無くすのは、各高校が冬休みに入った26日あたりから大会を始めれば何とかなるし、TV局が毎日試合が無いと困るならば、1日ずらしで大会を進行させる手もある。数年前にやったように決勝戦を1週ずらした1月中旬にする手段もとれる。

 45分ハーフにするのは、放映枠との絡みが出てくるが、延長戦よりは導入しやすいので、サッカー協会は早々にでも主張をすべきだろう。

 問題は延長戦だ。日本テレビに納得させるよい知恵が浮かばない。録画による時差中継にしても、延長に入る試合だけ後半から放送が始めるようなバレーボールみたいな見え見えの放送をする訳にもいかないし難しいところ。毎日の試合後に、高校サッカーダイジェストみたいな枠を準備してもらえればよいのだが、そう考えると新たなスポンサ開拓が必要になるような大騒動になりかねない。このような問題にこそ、日本協会会長に頑張って欲しいのだが(以下略)。



 次にトーナメントでよいのかと言う話。各県1校が本大会に登場する事は必須なのだから、長期に渡るリーグ戦にするのは難しい。この件については、友人がユニークな4チームのグループリーグ案を提示しているので紹介しておく。確かに大会期間は伸びるが、各チームが3試合できるのは、各地方局にとっても悪くないので、TV局の賛同も得やすいのではないか。大会日程の長期化対応は、上記の連戦を無くす方案で解消可能と考える。真剣に検討するに値する方案だと思う。



 さらにはクラブチームを参加させられないかと言う件。

 一方で「高校生活最後の1月のこの時期に高円宮杯を持ってこられないか」と言う正論が多い。しかし、私はそうは思わない。高円宮杯はエリート選手達が覇を競う、言わばユース世代のJリーグ。一方、高校選手権は多くの選手、チームが決勝大会にまで進出可能な、言わばユース世代の天皇杯だ。ユース世代は高校だろうがクラブだろうが、日本の学校制度の関係で3月で1つの切れ目を迎える。その切れ目にできるだけ近い正月に、多くのユース世代選手の夢がつながる大会を置いておきたい。これは約30年前に、その夢(正確には錯覚と言うべきかもしれないが)目指して、毎日グラウンドで走り回り削り合っていた元サッカー少年のノスタルジーかもしれないけれど。

 したがって、むしろ私はこの高校選手権を本当の意味でも「天皇杯」化するために、クラブチーム(ちなみにクラブチームと言うのはJのユースクラブだけではない)にも参加の道を開いて欲しい。

 TV局からすれば「朝練のために早朝起きて弁当を作るお母さん」がいればよいし(これは高校の部活だろうが、クラブユースだろうが同じ)、「苦節何十年の高校の先生」の代わりは「負傷に悩まされたかつての名選手だったユース監督」が使えるので、クラブユースを参加させる事にそれほど文句は言わないだろう。むしろ、「ユース代表だ」、「来期からはJ入りだ」とアナウンサが絶叫しやすくなるし、同じ高校に所属する選手が高校チームとクラブに分かれて戦うなどは格好のネタになるから、賛同は得られやすいのではないか。唯一問題は「負けている試合終盤に涙を流す美少女」の確保だが、Jクラブのユースならば、サポータが大挙して応援に来るだろうからそこから探していただこう。ただし「美少女」ではなく「美女」になるかもしれないが。

 もっとも、真面目な話、クラブチームの高校選手権出場実現は大変障害のある構想なのだ。高校サイドからはクラブユースとの選手勧誘合戦に「高校選手権の存在」が貴重な要素になっている部分もあるので強烈な反論が相当出てくるだろう。また、予選にしても、クラブチームを地域予選から加えるとなると、Jクラブがいる県の高校からは相当の反論が渦巻くのは間違いない。一方で、クラブチームを別枠で高校選手権本大会に出場させるとなると、「別な意味での不公平感」も高まり、これはこれで反論を生むだろう。しかし、サッカー界は常にこの事を考え、ユースサッカー界の発展を考えて行く必要があると思う。



 最後に全く視点を変えた話。これだけ多くのチームに優秀な選手が多数いるのだから凄い。そして、ここまで日本全体の選手層が厚くなった以上は、この裾野の広さをもっと有効に活かしたい。Jリーグのスカウトのお眼鏡に叶わずとも、優秀な素材は多数いるはずだ。さらに言えば選手権に出場できたタレントすら、氷山の一角と言ってもよいだろう。意欲ある優秀な選手がユース世代以降も(高校卒業後も)真剣にサッカーを続け、潜在力を磨ける環境を作っていきたいところだ。今年高校を卒業する無名選手の中に、かつての中澤や中村憲剛と同等の素質を持った若者が多数いるかもしれないではないか。

 この時点でJクラブから声がかからなかった若者の多くは大学で自らの限界に挑戦していくのだろう。これも有力なキャリアパスである事は間違いない。しかし、それ以外にもJFLや地域リーグの強チームで、有為な若者が力を蓄えられる機会が増えるのならばそれに越した事もない。重要な事は、トップへの夢をあきらめない若者が生計を立てながら球を蹴る事のできる環境が多様にある事なのだ。このような多様な環境を準備するための制度設計こそ、日本協会が真剣に考えるべきことのはずだ。以前にもも述べた事があるが、今の日本協会の財力があれば、そのような制度設計を検討する人材を雇用する事は可能なはず。その構想を、各地域協会やJクラブを通じて実現するだけの社会的なパワーも、今のサッカー界にはあるあはずだ。

 毎回毎回陳腐な事を述べていると言われようが、福島に中学生を集めるよりも、もっと重要で高邁な事を今の日本協会ならばやれると思うのだが。
posted by 武藤文雄 at 23:59| Comment(5) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月08日

盛岡商業全国制覇

 私は東北人だ。素直に嬉しい。私が物心ついた以降、東北地方のチームがこのような全国規模のタイトルを獲得した事はなかった。学生時代に幾度と無く岩手県のチームと戦った事もある。また、齋藤先生についてもよく存じ上げている(もちろん、先方は私の事など覚えていないだろうが)。現場近くにいた当時(20年ほど前の事だが)、関東や静岡の高校がやっているサッカーと、我が地域のサッカーとには、歴然とした質の差があった。それでも、齋藤先生を含めた多くの現場の指導者が、地道に努力を重ねていた。

 東北のサッカー界は、藤島信雄や加藤久のような紛れも無い日本サッカー史に残るトッププレイヤを登場させているし、最近でも小笠原満男や今野泰幸など優秀な選手を輩出している。しかし、チームとして全国を席巻する東北チームは中々登場しなかった。一昨年の青森山田のインタハイ制覇にも感嘆したが、やはり正月の高校選手権制覇となると一層感慨深い。



 のんびりと正月を仙台で過ごしていたのだが、利府高校が初戦敗退してしまったため、宮城テレビは高校サッカーを中継してくれない。このあたりは、ベガルタが仙台に定着した今日でも私の学生時代と変わらぬ悲しい状況だ。そのため、生観戦はもちろん映像でも、この大会をほとんど見る事はできなかった。じっくりと映像を見る事ができたのは、準決勝と決勝のみだから情けない。

 大会序盤にPK戦が多く、3試合を無得点で勝ち抜くチームが丸岡、広島皆実と2チーム出たのが話題になったが、まあ乱暴な一般論からすれば、組織的な守備をしっかりするチームが多かったのだろう。その中で攻撃にも一工夫あり、かつ運に恵まれたチームが上位に進んだと言う事か。決勝に残った2チームにしても、組織的な巧みな守備もさすがだったが、前線によいタレントを抱えていた。

 特に個人的に気に入ったのは作陽の村井。トップでボールを受けながら、テクニックによる突破もノールックのラストパスも選択でき、しかも長身。決勝戦でも、後半起用された早々に自分をハードマークしてくる盛岡主将の藤村にラフファイトを演じる駆け引きもなかなか。敗戦後の悔しさを噛み殺す表情もよかった。膝の負傷が慢性で無い事を祈るのみだが、大変な素材だと思ったのけれどあまり騒がれていませんね。

 Jユースに選手が取られ「レベルが下がった」と評する向きがあるようだが、準決勝以降の3試合を見た限りでは、特にそうは思わなかった。一時の帝京とか清水勢とか国見とか市立船橋とか東福岡などのように、ユース代表クラスが複数名登場するチームがなかったと言う事ではないか。ちなみに友人のユースウォッチャの高円宮杯と仙台カップが東北勢の強化に貢献していると言うには納得(仙台カップは、日本ユース代表が国内でアウェイ体験できると言う意味でも貴重な大会らしいけれど)。

 もっとも、昨年アジアユースで準優勝したユース代表を構成した選手のほとんどが、Jユースクラブ出身だった。あれほど、高校チーム出身者が少なかったユース代表は初めてだったのは確かだが、選手の評価はこれからなのだから、むしろ北京五輪に向けてどの選手が伸びてくるかに注目したい。
posted by 武藤文雄 at 23:12| Comment(1) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月28日

ファンタジスタを生み出す国

 ダラダラとサボっているうちに、すっかり年の瀬になってしまった。色々あった1年だったが、全体を振り返るのは毎年のように30日、31日に行いたいと思う。

 今日講釈を垂れたいのは、今年日本サッカー界に若きファンタジスタ(いや呼び方はエキストラキッカでも何でもよいです、要は技巧的で創造的な攻撃の名手の事)が次々に登場した(しつつある)と言う事。



 散々反町氏に毒を吐いたアジア大会。反町監督の手腕に多々疑問は残ったが、本田圭佑が凄かった事だけは間違いない。パキスタン戦のいきなりの先制FKで度肝を抜き、シリア戦では平山に完璧なクロスを合わせ、北朝鮮戦は先制された直後に増田に完璧なスルーパスを通し一柳へのアシストを演出。北朝鮮戦はその後も、苦しい状況で幾度と無く好機を演出した。

 一方、日本協会の不可思議な選考基準からアジア大会のメンバ外になった水野晃樹。水野不在でアジア大会に臨む事そのものがスキャンダルと言ってもよい程シーズン終盤は充実していた。あのナビスコの「水野晃樹の決勝戦」、そしてあの国立の韓国戦、幾度と無く右サイドをえぐり続けた水野。

 決勝がちょっと悔しかったアジアユース。大会前からJで猛威を振るっていた梅崎には相当な期待がかかっていた。技巧で屈強な守備者を抜き去るタイミングを完全にものしたこのこの若者は、そのドリブルへの自信(と言うか確信と言うか)から、次々に変化ある攻撃をJで見せてくれていたからだ。そして迎えたアジアユース、梅崎の出来はそう悪くは無かったのが、やや印象が薄くなってしまった。

 それは、この大会ではあまりに柏木が充実していたからだ。独特のテンポのドリブルから落ち着いたパス、正確なヒールキックで見事にゲームを作った。あげく、決勝では強引なドリブルから強烈な得点も決めた。この2人が来年のワールドユースで世界相手に、どのような技巧と発想を見せてくれるか。

 そして、柿谷。あのアジアジュニアユース決勝戦でのプレイ。何かこう、論評すら無意味な印象を持たせてくれたプレイの数々。組織がどうだ、駆け引きがどうだ、と言う事以前に圧倒的な個人能力で北朝鮮を叩きのめしてくれた。この若者も来年は世界が待っている。



 よく、小野たちの世代は「黄金世代」と呼ばれていた。この「黄金世代」と言う表現にはには2つの意味があったように思う。1つはワールドユースで準優勝した世代の事を示す意味。つまり、この年代の選手達には、小野を筆頭に高原、稲本らワールドユース直後に一気にA代表まで昇格した選手が多く、他の世代よりも質量とも優れた選手が多いと言う見方だ。

 もう1つは、少し世代の幅を広げていわゆるシドニー五輪世代には、中田、中村、小野、小笠原と言った所謂ファンタジスタ系の選手が多かったと言う見方もあったように思う。以降の世代に決定的なその手の選手がなかなか出てこなかった事もあり(唯一の例外は松井だろうか)、結果的に現在20代後半の世代が、日本サッカー界の1つのピークと言う雰囲気があった。そしてその貴重な世代のワールドカップを川淵とジーコによって台無しにされた悔しさが、今年の日本サッカー界には漂っていた。



 しかし、日本のサッカーは短期的に代表監督の選考を誤ったり、協会会長が訳の分からない理屈をこね回して居座っても、ビクともしない堅牢な若手育成システムが確立しているようだ。本田、水野、梅崎、柏木、柿谷と言った前途有為なタレントが次々に登場するのだから。彼らがこれから順調に成長できるかどうかはわからない。また、オシム氏が常日頃語るように、彼らだけでは強いチームは作れず、彼らに献身する優秀な人材の育成も不可欠だ。さらには彼らが作った好機を敵陣に叩き込むストライカの育成(いやストライカと言うポジションは、他のポジション以上に育成するものではなく登場するものかもしれないが)も必須だろう。

 とは言え、これだけの逸材が次々に登場した2006年は、それはそれで悪くなかった年だったと振り返ってもバチは当たるまい。
posted by 武藤文雄 at 23:34| Comment(11) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月13日

これで優勝までしてしまっては贅沢か

 悔しいけれど、まあ仕方がないのだろうな。準々決勝では後半終了間際に美しい得点で突き放して、ワールドユース出場権獲得。準決勝では、幾多の戦術ミスはさておき、人数が1人少ない中で、ほとんどサンドバック状態になりながら守り抜き、宿敵とのPK戦を勝ち抜き。と、ここまで美しいドラマを描いてきて、これでアジアチャンピオンになっては、何か申し訳ない。と言うより、勝とうが負けようが、これだけ厳しい試合を経験できたのだし、「復讐心」と言う得難い経験を積む事ができたのだから、よいアジアユースだったのではないか。繰り返すが、ワールドユース出場権と、ライバル韓国への勝利を刻む事ができたのだから。

 さらに言えば、このチームは北朝鮮とやるのは3回目。選手達は3回目で負けた事をよほど悔しがっているようだが(とてもよい事だ)、醒めた視点から言えば、このチームの第一目標「ワールドユース出場」のためには、この決勝戦よりも、熊本の1次予選、先日の1次リーグ初戦の方が、よほど重要だった。重要だった試合は、キッチリと勝ったのだから、何ら問題はなかったのだ。



 でも悔しいね。



 一方で、北朝鮮のガンバリにもビックリ。考えてみれば、上記のように要となる試合でことごとく日本に負けながら、よくもまあゾンビのように生き返ってきたものだ。前半、ガツガツ来て日本が苦しむのはある程度予測していたが、120分間ガンバリきったのには驚いた。後半、ようやく日本が落ち着いてボールをキープできるようになり、柏木と梅崎を軸に幾度となく好機を掴むが、守り切られてしまった。さらに前線の選手の脚力が落ちず120分間走り切り、幾度となくカウンタから好機を掴んのだから恐れ入る。40年前ミドルスプラでアズーリがやられた時も、このような脚力にやられたのだろうか。

 以前より語ってきたが、東アジアで日本と韓国が突出している事は、日本にとっては決して望ましい事ではない。したがって、北朝鮮が強いチームを作ってきた事は歓迎すべき事態であろう。少なくとも、優秀な選手を並べながらも志の低いサッカーしかできないサウジアラビアや、敵の足を蹴ってはいけないと言うルールが定着していない中国よりは、格段に魅力的なサッカーだった。もちろん、脚力に頼るサッカーには限界もあろうが、1人1人の選手の技術もそれなりに高いものがあったので、将来テンポを落とせる選手が登場する可能性もあるだろう。また、安英学、李漢宰、梁勇基(あるいは彼らに続くタレント)と言った日本育ちの選手が、有効なアクセントになるかもしれない。



 監督の吉田氏だが、中々の現実主義者のようだ。「大人の」采配で、「選手に経験を積ませ」ながら「負けない事を狙った」ように思えた。

 ハーフナーと伊藤と言う今大会出場機会は少なかったが「素質」に期待できそうな選手を起用した事だ。考えてみれば、今大会の6試合中、初戦北朝鮮、タジキスタン、サウジアラビア、韓国の4試合は「必勝」体制で臨み、イラン戦と決勝は「経験」も考えたように思えた。もちろん、フレッシュな選手を起用したと考える事もできるが、森島がそれほど消耗していたようには見えなかったし、青木は過去2試合フル出場していた訳でもない。むしろ、定石としては、アトム、森重に代えて香川や柳沢を入れて、柏木の守備負担を減らすべきだったのではないか。

 また3人目の交代を我慢したのは、「勝つ事」よりも「負けない事」を狙い、終盤の負傷に備えたのだろう。GK林に対する信頼感から、PK戦に持ち込まれても勝つ可能性が高いと考えたのかもしれない。ある意味でこの策は的中し、終盤も終盤で森重の足がつった時に、柳沢を投入する事で、守備のやらずもがなの崩壊を防ぐ事ができた。けれども、戦闘能力の優位さを考えたら、3枚目を積極的に使い「勝ち」を狙って欲しかったのだが。

 しかし、吉田氏は現実的な選択肢を選んだと言う事だろう。誰よりも吉田氏も決勝で勝てなかった悔しさを感じているだろうが、彼のより本質的な仕事は、優秀な素材を成長させる事とワールドユースでの好成績なのだから、そのような選択も正しい。是非、吉田氏には、小野の時よりもよい成績を収めてもらいたい。



 それにしても柏木の成長には恐れ入った。あの同点弾の場面、柏木が加速して敵DFに向かっていった瞬間に、思わずTV桟敷で「勝負しろ、お前なら2人くらい抜けるだろう!」と叫んだら、その通りになり、坊主の尊敬を獲得する事ができた(笑)。独特のリズムのドリブル、振りの速いスルーパス、精度のあるヒールパス。今大会梅崎も決して悪くなかったのだが、少なくとも今大会は柏木の大会だったな。すっかり風格がついた柏木が、サンフレッチェに帰り、寿人にビシビシとラストパスを通すのを愉しみにしよう。おー、そうだ、反町さん。来週の国立には、柏木を呼びましょうよ。



 ここまで、複数回に渡りアジアユースについて講釈を垂れてきた。しかし、ある意味で最も重要な話題2点に、にまだ到達できていない。7回連続出場そのものが大変な偉業である点、そして内田の召集問題(柳川の帰国問題を含む)である。この2点については、相互の関連を含め、後日述べたいと思う。
posted by 武藤文雄 at 23:42| Comment(8) | TrackBack(1) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月09日

これで2勝2敗

 アジアユースで韓国とPK戦をするのは4回目のはず。

 1回目は71年東京大会。永井、奥寺、碓井らの時代で準決勝だった。私はまだ小学生でTVのスポーツニュースで「日本が負けた」と言う事実しか認識できなかった。そもそも、「PK戦」と言うものを、あれで初めて見たような気がする。後日、記録を読むと「金鎭国が蹴る振りをして蹴らないと言う悪辣なフェイントをして、GK瀬田が興奮してしまった」との事。これはこれで歴史的な名場面なのだ。

 2回目は77年大会準々決勝。金田、木村和司、山本昌邦らがいた時。この時はPK戦で韓国を振り切っている。もし、次の準決勝で地元イランに勝っていれば(後半終了間際に決勝点を入れられて1−2で負けたはず)、日本は第1回ワールドユースに出場できていたのだが、おそらく当時の松本育夫監督を含めて、日本協会の関係者は誰もそんな事に気がついていなかったのかもしれない。

 そして3回目は前々回の大熊氏が平山にロングボールを合わせた大会だ。

 これで2勝2敗。林も福元も梅崎も青木も柏木も、そんな事は知った事じゃないだろう。しかし、歴史は継続する。林は瀬田の無念を晴らしてくれた。どうでもよいが、青木の技巧、切れ味、得点力は永井にちょっと似ている。おー、古河じゃなかったジェフの選手ではないか。



 とは言え、戦い方は褒められたものではなかった。

 開始早々に失点したため、前半からややハイペースで飛ばし過ぎたのは仕方がない。堤が負傷だったのかどうかは知らないが、後半早々に後方の選手を代えた事で、後の交代が苦しくなったのも不運だった(もっとも交代した香川を基点に同点弾が決まったのだから、この交代そのものは成功だったと言えるか)。

 しかし、後半半ばからあそこまでベタ引きは拙いだろう。案の定、完全に押し込まれてしまった。通常であれば、中盤の選手を代えてペースを取り戻すべきだが、吉田氏は延長まで考えたのか動かない。だったら、梅崎や青木がもう少し運動量を増やして敵DFを下げなければならないのに、完全に引いてしまいさらに押し込まれる。槙野が退場になったのは妥当な判定だったが、あのような状況を作られてしまったのも、チーム全体の戦い方が稚拙だったからだ。

 さらに10人になってから、完全に引きこもるのはいかがなものか。せめて、若森島と青木は距離を近くにおいて、絶えずウラを狙えば、あそこまで押し込まれる事はなかったはずだ。



 まあ、そんな事はどうでもいいのだな。



 韓国の心理を考えてみよう。開始早々にウマウマと先制しシメシメ。さらに前半幾度となく訪れた決定的ピンチをとにかくしのぎ、精神的に優位な状況で後半を迎える。と、思ったら完全に崩されて同点に追いつかれる。しかし、前半のオーバペースがたたって日本が動けなくなり、押し込んでおいて退場者が出て相手は10人に。延長戦徹底的に押しまくる。ところが、数少ない逆襲速攻から決定機を作られ1度しのいだと思ったら、さらに詰められ信じ難い状況でリードを許す。それでも、幸運なゴール前のFKから同点に追いつき、圧倒的に押しながらもう1点が取れず、とうとうPK戦に持ち込まれる。PK戦でも「もうダメだ」と思わせておいて、日本のミスもあり、追いつきようやく優位に立ったと思ったら、最後の失敗で万事休す。

 ここまで「ヤッタ!」と思ったにも関わらず、「ズド〜〜〜ン」と突き落とされる事を繰り返し、最後奈落の底に落ち込んだのだから、もう救いようがないはず。

 しかも、しかもですよ。傷心の彼らは帰国すら許されない。3位決定戦に出なくてはいけないのだ。さらに、さらにですよ、決勝戦の組み合わせはあろう事か、日本対北朝鮮。彼らは、その試合の前座を務めなければならないのだ。へ!へ!へ!



 まあ、そんな事はどうでもいいのだな。



 今回のユースは欠点もあるが、それを補って余りある魅力のあるチームだ。ここまで来たのだ。あと1つ、あと1つ、とにかく北朝鮮を三たび打ち破り、念願のアジアユース制覇と行こうではないか。ワールドユースで、小野たちよりよい成績を収めるのは、その後の事だ。



 技術面で1つだけ。

 若森島の同点弾は本当に嬉しかった。前半、若森島は足でシュートする絶好機を2回逃してしまった。いずれの場面も、左方向に斜行しながら、利き足の右で打とうとして、よいシュートが蹴り切れなかった。ところが、この同点弾は右でのキックフェイントで抜け出し、左足で決めた。素晴らしい。前半の失敗を、見事に修正したとしか思えないではないか。この男はアタマがいいよ。

 いいかい、若森島君。君が所属するチームには、3,40年前に、右足で物凄いシュートをいつも打てて、敵が右を抑えにくると逆をついて左でしっかりと決めて、もちろん空中戦も完璧だった、凄いオッサンがいたのだよ。君が目指すのはそのレベルなのだよ。
posted by 武藤文雄 at 23:51| Comment(13) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月08日

祝、ワールドユース出場

 諸事多忙で、少々遅くなったが、ワールドユース出場を決めたサウジ戦について。ちょっとないほど、劇的な勝利だった。よかった、よかった。



 醒めた態度で言えば、サウジが素晴らしい健闘を見せてくれたおかげで、我らが若者たちが素晴らしい経験を積めたと言う事かもしれない。

 サウジとして重要だったのは、梅崎、柏木、さらに後方から進出する内田の3人を中盤で厳しくマークし、フリーにしない事。若森島がヘッドで落とすところをよくカバーする事。さらにできれば、前線からプレスを厳しくかけて、日本に中盤を省略させてロングボールを蹴らせる事。これによって、日本の攻撃力を落とし、少ない点数差の勝負に持ち込めば勝負になる、と言うのがゲームプランだったと思う。

 ところが、内田を止め損ねたセットプレイから、開始早々に失点してしまう。長身選手に気を取られ、ニアに入り込む河原を止め切れなかった。この痛い失点により、勢いに乗った日本の猛攻に、サウジはひたすら耐える。素晴らしかったのは守備の集中、再三内田に左サイドを破られながらも、中央で我慢を重ね、身体を投げ出す事で、とにかく点差を広げない事に成功。積極的に押し込んでくる柏木の裏を突き、日本のCBがアプローチする直前に高精度のミドルシュートで、たびたび日本GK林を脅かすなど、速攻も奏効。早々の失点は痛かったが、順調な前半と言えた。

 そして後半。日本の強力CBコンビと、ボランチの中間の間隙を突き、幾度か好機を掴む。2本バーに当たるシュートのいずれかは決めておきたいところだった。案の定、日本がFWに青木を投入し、再度活性化し再び押し込まれる。追加点は時間の問題と言う雰囲気になるも、粘りに粘る。幾度となく両翼で内田なり梅崎がフリーになっても、中央で諦めずに競りかけて日本にシュートの隙を与えない。こぼれ球を拾われ、連続攻撃をかけられても、あきらめずに身体を張り、とにかくフリーでのシュートを許さない。

 もっとも、GKがペナルティエリア外で青木を倒した場面は感心しないが。あれは退場にされても文句を言えないプレイ。あそこで抜かれても失点するとは限らないのに、あれだけ見え見えの反則をしてはいけない。

 そうこうしているうちに、FKからやや幸運なPKを得て同点に追いついた。ここから押し切りたいところだったが、日本が非常に冷静だったため、逆に押し込まれる。終了間際の失点は、あれだけ拾われれば、いつかは崩れると言う典型的な失点。押し込まれ続けたために、守備ライン全員が完全にゴールに引き付けられてしまった。あれだけよく守ってきたのだ、あの失点は攻められない。

 日本と比べて試合感覚が短いと言うハンディキャップを抱えていた事を含め、サウジの健闘は実に見事なものと評価されてよいだろう。

 ただし、サウジのやり方に疑問も多い。この日の試合内容は、そのまま両国のA代表同士がやっても似た展開になるような試合だった。そして、サウジはこのような受動的な試合ばかり狙っていると、日本が本当に能動的な攻撃ラインを完成させた時(たとえば00年のアジアカップの1次リーグのように)、勝つのは非常に難しくなってくると思う。もっとも、日本の運動量が落ちると00年のアジアカップ決勝のように、それなりに好機も掴めるのだから、このサッカーがやめられないのだろう。だが、もう少し志を高く持ち、能動的なサッカーに取り組むべきだと思うのだが。頑健な選手、好技の選手、高速な選手、多士済々いるのだし。

 逆にどうしても受動的なサッカーに専念したいのならば、パラグアイやエールのように、開き直った守備固めと言う手もあるのだろうが、そのためには今よりも2,3段は、フィジカルを鍛え抜く必要がある。そうしないと、1つ間違うと、02年のワールドカップのようにドイツに粉々に粉砕される事になる。



 まあ、いいか、他人事だ。

 日本は本当によくやった。難しい試合に適宜リスクを負いながら、丁寧に戦い抜いた。失点そのものはやや不運なPK。公平な笛を吹いていたこの日の主審があの煮詰まった場面で迷わず笛を吹いた事、敵が倒れた時に若森島が不自然に両手を広げた事などから推定するに、やはりPKの判定は正しかったように思えるのだが。若森島には格好の経験となった事だろう。あと、問題にするとしたら、時々(特に後半の序盤に顕著だった)4DFとボランチの距離が空いてしまい、複数回決定機を許した事。一方で、そのような戦術ミスが散見されながら、個人能力で何とか止めてしまうのがこのチームの魅力。経験を積めばその手のミスは減ってくるだろうから、頭を抱えるほどではないかもしれない。

 そして、90分間、重いグラウンドを考慮しながら、常に変化を意識した攻撃をやり抜いた。決勝点にしても、完全にボールを回して押し込んだ上で、山本のシュート、柏木のラストパス、いずれもジャストミートはしなかった感があるが、能動的にボールを扱ったところで、青木が余裕を持って振りぬくスペースができた。あれだけ押し込めば、いつか崩れる。

 贅沢を言えば、若森島が空中戦を制せるものだから、つい高いボールが多くなってしまった事と、両翼を崩した後のクロスへの飛び込み(逆に言えば合わせ)に工夫が足りなかった事が、不満なくらいか。しかし、こう言った愚痴は、経験を積めば改善されるはずなのだ。

 まあ、あのまま逃げ切るよりは、格段によい経験ができたと考え、サウジに感謝するのが前向きな考えと言うものかもしれないしな。



 このチームは、各選手がのびのびと現状の個人能力を押し出しているのがいい。時折見せてしまうミスは、若さ、経験不足からくるもので、近い将来なくなって行く事だろう。ワールドユース行きを決めた今としては、準決勝への集中は決して簡単ではないだろうが、次は何せ韓国なのだ。ここにだけは、負けてはいけない。頑張って欲しい。
posted by 武藤文雄 at 23:03| Comment(3) | TrackBack(1) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月02日

ユース代表、まずは順調

 どうやら日本のグループは「死のグループ」と言われていたらしいが、さっさと2連勝し事実上の勝ち抜きを決め、3戦目のイラン戦はメンバを落として敗れたものの1位抜け、上々の滑り出しと言えよう。



 現実的に、今回のチームは過去のユース代表と比較しても、バランスが取れており相当強いと思う。

 まず守備ラインが強い。GK林はカタール国際あたりで格段に自信をつけたのだろうか、大柄で安定感がある。

 福元、槙野のCBコンビは過去の日本ユース代表では最強と言ってもよいのではないか。強さ、高さ、カバーリングがここまでのレベルで揃ったコンビが同年代で登場した事を素直に喜びたい(肝心なのは、この2人が順調に成長してくれるかなのだが、これは今後の課題として)。もっとも、バックアップの柳川のイラン戦のできは大変残念、あそこまで1対1でやられてはいけない。序盤の敵スローインからの攻撃で対応を誤ったショックを1試合引きずってしまったのだろうか。捲土重来を期待したい。

 堤は本来は左バックではないようが、堅実な守備振りはアタマのよさを感じさせる。起用な守備者として将来面白い存在になるのではないか。柳澤はイラン戦今一歩だったが、こちらも本来のポジションではない事が響いたのだろうか。内田は実績からすれば、もっとやってくれると思っていたのだが、これはサウジ戦以降の大爆発を期待しようか。

 青山隼も森重も合格点、落ち着いてよくボールを刈り取っている。チーム全体のバランサとしては、青山隼に一日の長があるだろうか。とは言え、森重のシュートは凄かったね、一方、青山はイラン戦前半フリーのヘディングは決めなくては。

 柏木と梅崎は完全に格の違いを感じる。まあ、毎週Jの手練手管あふれる守備者と丁々発止を演じているのだから、アジアの同年代相手では物足りないのかもしれない。田中アトムと山本の個人能力も全く問題ない。バランスを考えると、柏木、梅崎のドリブルを活かせるアトムをスタメンで使い、終盤どうしても点を取りたいときに梅崎を前に上げて山本を入れるのも手もあるか。

 FWは1次リーグでベストメンバを決め切れなかったきらいがある。若森島は敵DFにとって相当な外乱になっている。この男のよさは、後方からのフィードに対して、ガツッと敵DFに身体を当てられる事。ちょっと往時の高木を思い出す。ライバルのマイクだが、この選手はヘディングは強いが、敵DFに身体を当てに行くのではなく走りこんで驚異的な高さを活かすタイプ。また足の長さを活かした独特のドリブルにも味がある。だから、マイクには縦にボールを入れるのを受けるのではなくて、斜めのボールを入れる方が有効。したがって、予選を確実に勝ち抜くと言う見地からは、いざと言う時に最終ラインが縦に逃げる事がしやすい若森島の方が有用か。

 もう1枚のFWをどうするか。河原と青木、いずれもよい選手だ。河原はあの北朝鮮戦の強シュートと最後のアシストは見事の一言。一方、青木は逆襲速攻から持ち出した時の判断が素晴らしい。いざとなったら、敵DFに正対して抜き去る事ができる技巧を持ちながら、その技巧を周囲との連携に使うところが絶品だ。したがって、守備を固めたい時にも使い勝手がよいし、無理攻めの時にも使えそう。また期待された伊藤は、タジク戦を見る限り今一歩の出来だったが、ベンゲル氏が惚れ込んだと言う一発があるとすれば、終盤要員が適切か。そうこう考えると、森島と河原の先発で行くのが妥当だろうか。



 こう考えてくると、センタバックと攻撃的MFと言う、ある意味で一番派手なポジションに質の高い選手がいるところが、このチームの強みなのではないか。最初の2試合を見た時は、あまりに整然と強過ぎるので、(本来ユースレベルで重視されるべき)個人能力よりも、コンビネーションを重視し過ぎた強化に傾いていないだろうかと少し心配した。しかし、イラン戦でメンバを落としたら、思うようにチームが機能しなくなったのには、逆の意味で安心した。あの強さは日本選手の「個の強さ」によるものだったとわかったからだ。そして、北朝鮮に不覚を取ったとは言えイランである。福元に加え、柏木、梅崎と大駒を外してしまっては、負けもやむなしか。



 ワールドユースの出場権4カ国を16チームで争うレギュレーションでは、次の準々決勝の重要性が他の試合よりも格段に高い。全ては次の試合で決まる。対戦相手が、伝統的に日本同様にしっかりとしたビルドアップするイラクではなく、日本を相手にすると個人能力のよさが消えてしまうサウジになったのは幸いな事に思える。全力を尽くしサウジを殲滅する事を。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月26日

19年の月日  五輪代表中国戦(下)

 今日は10月26日。我々にとっては特別な日だ。あまりに「メキシコの青い空」「ボールが曲がる、ボールが落ちる」が印象的過ぎるが、その2年後の「アイヤ〜〜〜」も忘れ難い屈辱的なものだった。昨日はあれから18年と364日が経った日だった。この19年間で、日中の関係がここまで変わるとは。この日ベンチに座っていた、19年前の主将の賈秀全氏はどのような思いで、自国の若者のプレイを見ていたのだろうか。



 昨日本田を絶賛したが、他の選手も2トップを除いては皆よかった(2トップについては後で述べる)。

 中でも青山直。中国のFWを終始子ども扱い。前も後ろも強い。フィードも常識的だが上々。再三ラフプレイを仕掛けてきた中国の9番に対し、終始冷静に対応したのもよかった(あの9番は退場になってもおかしくない)。同世代のライバル水本にA代表での出場は先を越されたが、そろそろこの男にも機会を与えて欲しい。。

 そして西川の安定度。劣勢の中国としては、たとえ可能性が少なくても、無理な攻撃をしかけて偶然や幸運を期待したいところ。けれども、西川の存在は、その手の偶然や幸運を断ち切ってしまった。伊野波の頑張り、成長を否定するものではないが、このチームの主将は西川が一番ふさわしいと思うのだが。

 少し気になったのは、梶山。あのタイミングでゴール前に入ってヘディングを決めた事は高く評価できるし、攻守に渡りよくボールを触っていた。しかし肝心要のパスの精度の面で大きな不満が残る。微妙なところでミスパスが多いのだ。梶山の本質は正確なパスワークのはず。後述するが、この五輪代表のMFのポジション争いは極めて過酷だ。その中で台頭するには、まずは得意技を光らせる事ではないか。



 チーム全体に最大の不満は、敵が弱かった事で終盤明らかに力を抜いていた事。特に3DFが中国の2トップをほぼ完璧に止められるため、「この程度のチェックで大丈夫だろう」と言う意識が見え見え。確かにそれでも、止まってしまったのだが。やはりしっかりとボールキープして、交通事故のリスクを僅少にする努力を怠らないで欲しかった。でも、「西川がいるのだから事故もないでしょう」と言い返されそうな気もするが。



 それにしても、今回の五輪代表の質は高い。中盤を例にとってみれば、この日ベンチに座っていたのは、谷口、枝村、水野、上田。いっそ、中盤を総とっかえした方が強いかもしれないとまで思わせる選手層の厚さ。おっと、家長もいたな。さらには梅崎も控えている。反町氏は、これらの豪華メンバを、どのように選抜していくのか。少なくとも、この日については、メンバを固定して終盤まで引っ張りすぎた感があったが、おそらく試合前からそのつもりだったのだろう。ただし、五輪に向けての準備は、時間があるように見えてあまり時間はない。Jリーグの日程次第では、思うような集中強化する事は難しいはずだ。そのような状況で、いかにチームをまとめていくのか。昨日も少々触れたが、これだけ豊富なおもちゃ箱を持つ事は、反町氏にとっては全く初めての経験のはず。氏がいかにチームをまとめようとするのか、愉しみながら見守りたい。

 余談ながら、反町氏は試合後の記者会見で交代が遅かった理由を延々と述べている。残念ながら理屈になっていない。嘘をつくならつくで、もう少しもっともらしい嘘をついて欲しい気もするが、まだ爺さんの域にはほど遠いという事で。(笑)。



 興味深かったのが、2トップ。

 守備ラインと中盤は、Jでの実績がある選手がズラリと並んでいるが、現時点では前線はやや層が薄い。明確な実績を残しているのはカレンくらいか。そのためだろうか、反町氏は「素材型」の選手を試してきた。

 苔口の潜在能力が高い事は誰しもが認めるだろうが、この選手はセレッソでも以前のユース代表でも中々機能せずにきた。どうも、俊足を活かそうとして、サイドMFに起用で使われる事が多かったが、このポジションには、ゲームの組み立てや、周囲と連携しての守備など、難しい仕事も多い。むしろ、爆発的な脚力を活かすためには、最前線に使う方が向いていそうだ。ただし、この場合問題になるのは、ボールを受ける工夫。反町氏もかなり細かな指示をしていたようだが、残念ながらまだ機能しているとはいい難い。やはり、単独チームで機能していない好素材を、代表チームで化けさせようとするのは無理があるのだろうか。

 という事で平山。以前より述べているように、私は平山には大変な期待をしている。この日もストライカとしての片鱗を見せてくれた、あくまでも片鱗に過ぎなかったが。とにかくこの男は体調を整える事につきる(小嶺先生のところで鍛え直せば問題は一気に解決するように思えるが、今はシーズン中だしな)。その上で、とにかく往時のシュート力を取り戻し、一層磨きをかけて欲しい。この日のスタンドは、平山がボールに触ろうとしてもたつく度に、失笑、野次が錯綜し何とも微妙な雰囲気になっていた。その方向性はさておき、皆が平山の事を愛しているのだろう。本人もそれがわかっているから、ディエゴばりの珍得点を決めた後、サポータに投げキスで返礼をしたのだろう。このオーロラビジョンに大写しになった投げキスを見て、技術面のみならず性格面も、この男がストライカの素質にあふれている事がよくわかった。よけた手に当たった得点直後に、あそこまで切り替えられるのだから。
posted by 武藤文雄 at 23:20| Comment(10) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月25日

冴え渡る本田圭佑 五輪代表中国戦(上)

 結果的に2万人を越えた観衆が入ったのだから、「昨日の講釈は何だったのか」と言う気にもなるが、(まあ相当量のタダ券が出回ったとの噂もあるが)文句を言う筋合いではあるまい。まあ、あのくらいの入りの国立だと、殺伐とした野次も結構通り、なかなかよい雰囲気での試合となった。



 それにしても中国は弱い。

 とにかくあのラフプレイを何とかしなければ。日本が速攻を仕掛けてタッチライン沿いに展開して、受け手が抜け出そうとすると、何も考えずに後ろから足をなぎ払う。日本が遅攻から精緻なパスで抜け出そうとするとラフタックルで止めてくる。複数の選手が退場になってもおかしくない酷いタックルだった。また今の日本は、連携もこれからだし、セットプレイの仕掛けもないから、被害が広がらないが、この段階の日本に対してあのような守備しかできないようではお先真っ暗ではないか。大体、後半平山がシミュレーションを取られた場面にせよ、青山敏が倒された場面にせよ、PKを取られてもおかしくなかった。とにかく我慢して守ると言う当たり前の習慣をつけなければ。

 攻撃にしても、課題は山積。変化をつけるパスワークができる選手もいないのは仕方がないが、速攻時に後方から追い越してくる選手もいないので、攻めに変化をつける事ができない。結果的に速攻は、トップにぶつけてくる戦法しかなくなるが、青山直晃が待ち構えている状況では、突破できる可能性はほとんどなかった。遅攻の時は、技巧を発揮できる選手もいるし、追い越しを仕掛ける事ができるのだから、素早い判断が利かないと言う問題だろう。速攻が決まらないならセットプレイと言う事になるのだが、ほとんどのCK、FKが、二アサイドに引いてきた平山にカットされていた。このような工夫の不足が痛い。

 すぐにラフプレイに頼る事、とっさの判断が利かない事、工夫した攻撃ができない事、いずれにしても、サッカーにおける最も重要な要素である知性に欠けるとしか言いようがない。不思議なのは、毎回毎回日本に完敗し続けているにもかかわらず、次回も同じように、でかくてアタマの悪い選手を並べてきて完敗し続ける事。少しは悔しいと思わないのだろうか。中国サッカー界全体がそうなのか、代表選考方法が悪いのかは定かではないが。このままでは永久に日韓の壁は破れないだろう



 さて日本。

 まずは本田につきるであろう。フリーでボールを受けたときの、射程の広さと長いボールの精度。敵のプレッシャ下でも、距離が近い味方に強いパスを出す事を起点にした軽妙な崩し。オープンスペースに出た時に悠然と繰り出されるカーブのかかったクロス。ループありヘッドあり強いのありのシュート力。ルーズボールの競り合いもほとんど勝つ身体の利きのよさ。労をいとわない上下動。

 この日のベストプレイヤである事はもちろん、事実上A代表入り、札幌サウジ戦の左サイドはもう決定と言ってよいのではないかと思える出来だった。

 ただ、それはそれとして、あれだけ攻撃力のある選手だ。もう少し前とか真ん中で使ってみたい気もする。また、五輪代表と言う見地では、近いポジションに家長がいる(シーズン後半に入り序盤の勢いがなくなってきた感があり、ガンバでも出場時間が減ってきており、この日もベンチから外れていたのだが)。どのように使い分けるかは、反町氏の手腕だな。



 昨日、この五輪代表チームのはじめての国内有料試合と言う観点で、8年前のアルゼンチン戦を回顧した。8年前は中村のループが長く記憶に残る試合となったが、昨日は本田の圧倒的な存在感が長く記憶に残る試合となる事だろう。
posted by 武藤文雄 at 23:52| Comment(6) | TrackBack(0) | 若年層 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする