日本サッカー100年の歴史でも愚かな意思決定。詳細はこちらを。
浦和レッズが、自クラブの指定公式検査を受けていないU24代表帰りの選手(代表で必要な検査実施済みでCOVID-19リスクは指定公式検査で陰性だった選手と同じ)を湘南ベルマーレ戦に出場させてしまった。ルール上は、同等の検査を受診している申請をする必要があったがそれを怠ったとのこと。本質的な要因は日本協会と浦和の間で情報の連係がうまくとられていなかったためらしい。後日その件に気がついた浦和がJリーグ当局にその件を自己申告。そのため規律委員会が3-2での湘南の勝利に終わった試合結果をくつがえし、湘南の3-0の勝利と裁定した。
試合結果をくつがえす以上は、その試合が完全に不公平な状況で行われ「なかったもの」と扱うしかない状況しか考えられない。例えば、登録不備や警告累積などで出場資格がない選手を使ったケースが考えられよう。けれども、このケースでは当該選手は適切な検査は受診済みでCOVID-19リスクは問題なかった。事務手続き不備はあったが、疫病拡大防止視点で出場権がない選手ではなかったのだ。したがって、この試合を「なかったもの」にする必要はなかった(もちろん、事務手続きにミスがあった浦和に何がしかの罰が与えられるのはしかたがないかもしれないが)。
けれども、試合結果を覆すと言う適用はどういうことなのか。試合結果が覆ることで、(得点者などの個人成績は残ると言うが)死力を尽くして戦った両軍の試合結果が反故となり、リーグ戦を戦っているすべてのチームに影響を与えることになる。およそ、サッカー的見地から理解できない懲罰である。
このような愚かな判断は日本サッカー界では聞いたことがない。強いて言えば、1970年代に完全なアマチュアの某国立大学テレビ出演公式戦による公式戦出場停止事件(「同大学サッカー部」として視聴者参加のテレビ番組に出演しアマチュア資格抵触したとされた)、1998年のフリューゲルス消滅事件が挙げられようか。ただ上記の2事件は、決定は愚かだったと思うが、その意思決定の目的は理解できなくもなかった。けれども、今回の判断の目的はまったく理解できない。ただただ起こった事態を機械的に処理し誰も得もしない。むしろ悪しき前例にすらなり得る(撤回されたが、類似事例の愚行をJ3でも起こしかけた)。このような判断しかできなくなった日本協会とJリーグ当局が悲しい。
2.冨安健洋と堂安律が輝かなかった東京五輪
こちらでまとめました。本気で五輪をねらいにきたスペインやメキシコと個人能力で遜色ない選手を並べることができるようになったことを素直に喜びたい。冨安健洋と堂安律が期待通り活躍しなかったが故の4位止まりだった。この2人がこの痛恨を反省し、22年カタール大会、26年北中米大会、30年南米大会で復讐戦を演じてくれればそれでよい。
3.限界が見えた森保監督
上記リンクでも述べた五輪での稚拙な采配に始まり、ホームオマーン戦、中立地中国戦、敵地サウジ戦と、森保氏の自滅的采配が継続したワールドカップ最終予選。それでも、地元豪州戦、敵地ベトナム戦・オマーン戦と最小得点差で3連勝し、自動出場権獲得の2位まで立て直し。現実的には1月末から2月頭の埼玉中国戦とサウジ戦には相当な確率で2連勝できるだろうし、そこで事実上のトップ通過も確定すると思っている、森保氏が妙な采配をしなければだが。ただ、幾度も述べたように森保氏の限界も明確に見えている。
選手の体調を見極められないこと、選手交代について計画性がないこと、勝っている試合のクローズが稚拙なこと。そして、五輪での最大の失敗である選手の消耗対応を反省していないこと。要は森保氏は、1試合ずつ丁寧に勝ち切る用兵が決定的にお粗末なのだ。また最近世界中で急速に発展している相手スカウティングによる用兵対応もあまりうまくない(これは本大会まで隠している可能性があったが、勝負をかけた五輪や最終予選での稚拙な采配により、隠しているのではなくできないことが明らかになってしまった)。ややこしいのは、森保氏が監督として完全に無能ではないことだ。少々守備重視で引き出しは少ないが長期のリーグ戦をしぶとく勝ち抜く能力は間違いない。今思い起こせば、アジアカップの準優勝もその長所と短所が顕在化したものだった。我々の目標はカタールでのベスト8以上、森保氏ではその実現は困難と見る。
4.川崎フロンターレの連破と強豪クラブの責務
終わってみれば、2位横浜マリノスに勝ち点13の差をつけて独走体勢でJ連覇を決めた川崎フロンターレの強さが目立ったのが今シーズンだった。
とは言え、ACLで苦杯を喫したあたりは、チーム全体の疲労、ACL帰りのバブル対応など、一時期極端に戦闘能力が落ち、横浜に追撃された時もあった。シーズン半ばまでは、ACL、J1、天皇杯、ルヴァンの4冠もねらえるのではないかと言われたこともあったのだが。
しかし、中村憲剛の引退、守田英正、田中碧、三笘薫の海外移籍、大島僚太の負傷離脱などがありながら、後から後から有為な人材を輩出し、常に最強クラブとしての地位を確保してるのだから恐れ入る。来シーズンこそは、悲願のACL制覇は叶うだろうか。
余談ながら、天皇杯準決勝での敗退も、この最強クラブらしく美しかった。90分間圧倒的な攻勢をとりながら、どうしても大分トリニータの守備を破れない。それでも延長の113分、控えの小塚和季の見事な突破から小林悠がゴールをこじ開ける。その後、負傷者が出て10人になり守備強度が落ちたところでアディショナルタイムに同点に追いつかれ、最後はPK戦で敗れる。このような毅然とした姿勢の猛攻と、ただ不運としか言いようがない敗戦。強豪チームの責務の一つにはこのような美しい敗戦があるのだ。
5.浦和レッズの天皇杯制覇とロドリゲス監督の冴え
浦和レッズの天皇杯制覇も見事だった。
開始早々の関根貴大と小泉佳穂の個人技からの江坂任の先制点。その後も大分トリニータの執拗な攻撃を巧みにいなし、ほぼ勝利を決めかけたところでパワープレイから失点。その直後に、柴戸海の落ち着いたミドルシュートを槙野智章が方向を変えるヘディングで決め勝ち切った。大分ペレイラに同点弾を食らった際にマークしきれなかった柴戸が強シュートを放ち、このクラブからの退団が決まっている槙野が決めたのだから劇的だった。槙野はこのような得点を決められる選手だけに、自己顕示欲という特長を活かす意味でもDFではなくFWとして育成すべきだったのではないかと思うのは私だけだろうか。
ともあれ、明本考浩、伊藤敦樹、小泉、柴戸など、20代前半から半ばの大学出のJ2タレントを次々とJ1のトッププレイヤに仕立てるのだから、ロドリゲス監督の手腕恐るべし。さらに酒井宏樹、江坂、ショルツ、ユンカーと経験豊富な選手の補強も的確。浦和のような人気クラブが強いのは、リーグ戦の充実という意味では結構なことだ。
また天皇杯決勝をリーグ戦終了直後に持ってくるこの日程を定着させたい。過去幾度も述べてきたが元日決勝は(1) 決勝進出チームのオフが極端に短くなる、(2)テレビや新聞の露出が少ない、などメリットは少ない、などから問題が多い。それを伝統とか恒例行事などの言葉で、曖昧に継続してきたのがまずかった。準決勝をリーグ戦終了後に持ってくるかどうかは議論が分かれるだろうけれど(大分対川崎のように凄絶な準決勝を見てしまうと、今年のように2週使って準決勝、決勝と行うのも一案だろうが、選手のオフをどう見るかが課題か)。また、クラブワールドカップが復活した場合も日程調整が難しいのだが。
6.名古屋のルヴァンカップ制覇とフィッカデンティ監督の謎
元々名古屋グランパスは、ランゲラック、中谷進之介、稲垣祥、柿谷曜一朗と中央軸線は安定。攻撃ラインは前田直輝、マテウス、相馬勇紀、シュヴィルツォク、G・シャビエルと言った名手が脇を固める強豪。いかにもフィッカデンティ氏らしい堅固な守備を軸にきっちりとこのカップを制した。
ただ不思議なのは、フィッカデンティ氏がこのオフにこのクラブを去ること。やり方は守備的なことは確かだが、見ていて退屈なサッカーをするわけでもない。今の名古屋ならば、さらにフィッカデンティ氏に強力なタレント(例えば守備力とラストパスを具備したタレント)を補強すれば、十分川崎に対抗できる戦闘能力を確保できそうな気がするのだが。名古屋の資金力を考えるとがあれば十分可能に思える。FC東京時代も好成績を収めながら、野次馬には不可解な理由でクラブを去った同氏、よくわからない。
7.大学卒選手の充実
伊東純也、守田英正、古橋亨梧、三笘薫など、大学経由で日本代表の定位置をうかがう選手が増えてきた。しかも彼らは欧州のクラブで完全に中心選手として確立しつつある。
少し歴史を振り返る。Jリーグ開始前の80年代まで、多くの日本代表選手は大学卒だった。当時、JSLの各クラブがプロフェッショナルではなかったこともあり、若年層代表チームに選ばれるようなタレントでも大学進学を好む傾向が多かった。ただ、JSLと比較し大学チームはトップレベルだとしても専従の指導者不在など環境は不十分、多くの人材が伸び悩み消えていった。そう言った難しい環境下で90年代の日本代表を支えた井原正巳、中山雅史、福田正博、堀池巧、名波浩、相馬直樹などは、大学で研鑽を積みJリーグでも大成したわけだ。当時高校終了後JSLに進んだ森島寛晃、名良橋晃は例外的存在だった(ブラジルで単身プロになって帰国したカズは別格ですが)。
一方Jリーグ開幕後は、一気に高校終了後タレント達はJリーグ入りすることになる。いわゆるアトランタ五輪世代以降で、前園真聖、中田英寿、故松田直樹、田中誠、城彰二、中西英輔らである。当時服部年宏が大学を中退しジュビロ磐田に加入したのは、過渡期ゆえの事件だった。以降、大学経由のトップレベルの選手は限定的となる。もちろん、晩熟で代表に定着した坪井慶介、巻誠一郎、中村憲剛、岩政大樹、伊野波雅彦、東口順昭、武藤嘉紀と言ったタレントは継続して登場しているが。もっとも、彼らが育った大学サッカーは90年代以前とは異なり、いずれのチームにもプロフェッショナルの指導者がいて、トレーニング環境も非常に充実していたわけだが
ここに来て、伊東、守田ら多くの大学出身選手が著しい成果を挙げているのには多くの要因があろう。10代選手の適正な育成が多くの若年層チームに広がったこと、大学チームの科学的指導体制が整ったこと、Jのレベルが上がり10代選手の出場機会が限られるため能動的に大学で研鑽することを目指す選手が増えたことなど。選手育成の多様性という視点では結構なことだ。
ただ、大学チームというのは構造的な問題もある。チーム間の移籍が簡単ではないこと、大学に所属しないとチーム入りできないこと(当たり前と言われるかもしれないが、これはU18の選手が飛び級で加入できないわけで、サッカー的見地からすれば大きな問題なのだ)。またJクラブから見た競合と言う視点では、大学という存在そのものが税制優遇されて設備投資がやりやすいと言う不公平感もある。これらを含めて、日本サッカー界は一層合理的な強化体制をどうとっていくのか。
8. 残念だった女子代表
多くの競技が好成績を収めた東京五輪で、女子サッカーは芳しい成績ではなかった。
大会中2つ文章を書いたが、最大の要因は高倉監督の能力が足りなかったと言うことだろう。これは2019年のワールドカップでも顕在化していたことで、ワールドカップ後にもっと議論されるべきだったような気がするが、女子サッカーの批評というのは、男性の私からは中々難しい(という考え方が古いのかもしれませんが)。ただし、90年代日本女子代表の中心選手として活躍し、その後指導者に転身し若年層代表監督として実績あった高倉氏に一度代表監督を任せる選択肢が間違っていたとは思えない。むしろ、このような経歴の高倉氏でうまくいかなかったことそのものが、日本サッカー界の経験と言えるのではないか。
女子サッカーは、男性と同じピッチやゴールで戦うことが普及してしまったが、本当にそれが正しかったのか。ピッチの大きさとゴールの高さを僅かでよいから小さくしていれば、単純な縦パスで裏を突くことができたり、バーすれすれのシュートをGKが止めきれない的なハプニング的な得点を減らし、判断力や技術の優れたチームに優位なレギュレーションにできたはず。その方が見せる競技としてのおもしろさを確立できたように思う。しかし、残念ながらそうはならなかった。結果、東京五輪でも大柄で頑健な選手を軸にした国が上位を占めることになってしまっている。日本が2011年を凌駕するチームを作りこの流れを止めない限り、「見せる競技」としての確立は簡単ではないかもしれない。
とは言え国内の女子サッカーの普及は少しずつ進んでいる。日本中各地域で最大の課題だった中学生年代のクラブチームの充実などもあり、選手層は着実に厚くなっている。WEリーグの将来は予断を許さないかもしれないが、多くの心あるサッカー人が前向きに問題解決に取り組んでいる。上記した日本代表への期待と矛盾するかもしれないが、少しでも女性がサッカーをプレイできる環境の充実が、結局強化の近道のようにも思えるのだが。
9. カズはどこに行く
横浜FCから下部リーグへの移籍が噂されているがどうなるのか。
「晩節を汚す」という言葉があるが、この男はこの陳腐な言葉を完全に超越してしまった。カズの全盛期だった90年代半ばにデビューした選手も皆現役を去った。指導者や評論家を目指さず一選手と言うポジションで、天命を知る年齢を遥かに超えてしまい、もう誰も何もツッコミどころではない。「そろそろ引退するのだろうな」と思って、こんな文章を商業媒体に書いたのが16年前、カズが38歳の時だった。
カズの選手としての経歴は終わりに近づいてきている。そして、カズは我々の夢を再三叶えてくれてきた。あれから16年、4ワールドカップを経た。この文章を書いた直後の高校選手権は乾貴士を擁した野洲高校が優勝したのだから、大昔だなw。
選手としての存在を継続することで自らをスターとして証明し続けてきたカズは、いつまで輝き続けるのだろうか。
10. 疫病禍下でのシーズン無事終了
あれこれ日本協会やJリーグ当局にイヤミを語ってきたが、疫病禍下にもかかわらず今年も難しいシーズンを無事終えることができたことに最大限の敬意を表したい。
一方で、トップリーグは何とかなったが、今年も地域リーグや全国社会人選手権など、中止を余儀なくされたメジャーな大会も少なくない。来年COVID-19がどうなるかはさておき、疫病禍3年目は極力中止となる大会を減らし、多くの人が観戦できる状態の復帰に、日本協会はもっと尽力してもらえないものか。
例えば会場来訪者の管理を容易化にするデジタルツールを日本協会が開発し全国へ展開する。例えば、百人単位の人が集まる際のガイドラインを明文化し大会運営者に提供する、など。サッカーが行えば他競技にも応用はできるはず。単一競技団体として最も潤沢な経済力を持ち、組織力にも優れる日本サッカー協会がやれることは少なくないはずだ。