五輪の男子4位、女子銀メダルの作文準備中なのですが、終わらぬうちに女子ワールドユースが終わってしまいました。3位決定戦当日は、少年団の練習やら諸事情で生観戦を諦めたのだが、よい試合だったので、ちょっと後悔しています。
この3位決定戦については、猛暑中の試合にもかかわらず、ハーフタイムまでに2人を交代させなければならないスタメンを選んだ吉田弘氏の采配ミスが酷かった。少なくとも、ほぼポジションが固まって来たスイス戦以降を考えれば、スタメンに柴田がいない事そのものがあり得ないだろう。結果、70分あたりに藤田が負傷交代。その直後にGK池田のミスから失点し、ナイジェリアに押し込まれるが、既に交代カードを切り終わっていたため、もう監督がやれる事はない。それでも、苦しみながら選手達は粘り強く戦い、堂々と銅メダルを獲得してくれた。監督のミスを選手がカバーする試合の感動も、またよい。
大会を通じての日本のMVPは柴田だ。素早く適切な方向の動き出し、巧みな身体の入れ方、プレイ選択の的確さ、崩しのアイデア、いずれも高水準。大会が進むにつれ、ボールの受け方が格段に上手くなり、能動的なドリブルは非常に効果的だった。間違いなく、この大会で最も成長したタレントだ。若い選手が適切な場を得れば伸びると言う典型例と言えるだろう。ナイジェリア戦の2点目を生んだあのダイナミックで振り幅の大きなジグザグドリブル、ドイツ戦で掴んだ斜めのドリブルからの決定機(最後長駆のために腰が回り切らなかったが、これはフィジカルをもう一段上げれば解決するはずだ、この大会単身でドイツ守備陣を崩しかけたのは、柴田1人だった!)。大会開始時は、前線の撹乱が役目だった柴田は、大会終盤はたった1人で局面を打開し決定機を演出するタレントに成長したのだ。今すぐA代表に入っても、色々な使い方ができそう。大野忍の後継者に名乗りをあげたと言ってよいだろう。おもしろいのは、柴田は西川が入ると、さらに冴えたプレイをしてくれた事だ。上記の2点目は典型だが、体幹が強く前線でよく動く西川は、柴田と相性がよいようだった。と言う事は、柴田は大儀見と相性がよいと言う事ではないか。
西川は体幹も強くキープもうまいが、スイス戦と言い、ナイジェリア戦と言い、シュートのうまさが見事。大会後半から、西川をトップにした布陣の方が格段に安定感があった。大会序盤トップを任された道上は、大柄な体躯を期待されての抜擢だったのだろうが、西川と比較すると、1つ1つのプレイの確実さに随分差があったように思う。まずは常盤木で経験を積む事だろう。
ナイジェリア戦で、何が嬉しかったと言うと、ドイツ戦で散々だった土光が、素晴らしいプレイを見せてくれた事だ。的確な読み、鋭い出足、ここぞと言う時のブロック。CBとしては、ちょっと小柄だが大変な素材だ。また、同様にドイツ戦で残念だった木下も、藤田に交代して入り上々のプレイ。それにしても、2人とも、あのひどいプレイしか見せられなかった準決勝からよく立ち直ってくれたものだ。このあたりは、吉田監督の手腕と言えるのかもしれない。
高木と浜田はおもしろい選手だったな。高木は、韓国戦の失点時のような一本調子のタックルに課題があったが、センタバック、サイドバックをそれぞれ高い水準でこなす戦術能力、韓国戦3点目のアシストの長駆できる能力など、素材は確かだ。浜田は3位決定戦での強引な攻撃参加には笑った。まあ、勝ったからよかったけれどね。いわゆる槙野系の選手なのだろうか。まあ、女子にもこのような選手がいてよいのかもしれない。日本の女子としては貴重な170cmを越える大柄な体躯にも期待か。
田中ミナと横山の両翼は、やや明暗を分けた。横山にしても、A代表の岩渕にしても、次々と本格ドリブラが登場するのは大変結構なのだが、2人共挙動開始点が定まらないと言うか、何か空回りになってしまう。この手のドリブラは、中盤と言うよりは最前線で使えば、効果的だが、課題はボールの受け方と言う事になるのだろう。一方で田中ミナは、守備もよくする、いかにも日本風のウィングで、韓国戦など大活躍だった。ただ、まだ筋力が足りないため、タッチ沿いからのクロスを上げられず、ドリブルの方向がどうしても内向きになってしまう(たとえば、近賀はタッチ沿いから鋭いクロスを上げられるが、よほどの鍛練の賜物なのだろう)。フィジカルがもう一段上がれば、ドリブルの方向も多様になり、大化けするのではないか。
田中ヨーコだが、長所(あのシュート力、いやあのロングシュートはすごかった、釜本や久保を思い出したよ)と短所(ボールの奪われ方の悪さ、この短所は今後の努力で、いかようにも改善できるように思うが)が、ハッキリしている選手。また、彼女は実力は存分に発揮したが、どのポジションが最適か、最後までハッキリしなかった。まずは、レオネッサのような、選手層が分厚いチームの中で、どのくらい存在感を発揮できるかどうかか。また、JFAアカデミー否定論者の私としては、彼女のような成功例が出てくる事は、大変快感を味わえる事態だ。そう言う意味でも(それにしても、同アカデミー出身の田中ヨーコ、浜田の2人は、明確な長所短所を持っている、公的指導組織がこう言ったタレントを育成している事そのものが、愉快ではないか)。
猶本は評価の分かれる選手だろう。よく動くし、中盤から突破のパスも出せる。守備も献身的だ。しかし、自陣での守備はいかにも軽いし、ドイツ戦、ナイジェリア戦でプレッシャがかかると、中盤からの長いパスは、ほとんど通らなかった。まずはプレッシャがかかったところで、あの魅力的な展開の長いパスを通すための、1つ前のプレイの工夫を身につければ、格段に機能する選手となるだろう。
そう言う意味では、猶本と献身的な藤田との組み合わせは絶妙だった。現時点で、このチームでA代表に一番近いのは、柴田と藤田だと思う。1対1のしつこさ、常識的だがしっかりとボールを散らせる。ナイジェリア戦でポストに当たった攻撃でわかるように、敵のイヤなところに飛び込む判断も的確だ。ただ、藤田がA代表に定着するためには、阪口、田中と格段にフィジカルに優れた先輩と対抗しなければならない。もっとも視点を変えれば、この2人とは全く異なるプレイスタイルである利点を持つと言う事になる。必要なのは、得意分野をさらに極める事、さらなる運動量が必要だろう。目指せ明神、もとへ、目指せ酒井與恵。
すばらしい大会だった。
そして、日本女子サッカーに次々と好素材が登場しているのも愉しめた。個人的な知り合いでもある吉田弘さんの、怪しげな采配に「オイオイ」と思いながら、彼の満面の笑顔を愉しんだ。いや、何より、彼女たちの笑顔が最高だった。いや、日本選手だけでなく、いずれの国の選手達の笑顔と涙も堪能させていただいた。
改めて、サッカーの偉大さを再確認した3週間だった。
2012年09月10日
2012年09月04日
女子ユース準決勝を前に
女子ユース代表は、準決勝ドイツ戦を迎える。この大会で初めて当たる同格の相手となる。決して簡単な試合にはならないだろうが、相当な確率で勝つ事はできるはずだ。
ドイツは頑健で、みな技術も優れているが、アジリティでは日本が優れる。さらに後述するが、攻撃のアイデア、守備の組織、それぞれについて、日本は大会に入り格段の進歩を遂げているから。
もちろん、戦闘能力的にも遜色はないが、コンディション面でも日本は相当有利だ。まだまだ続く東アジア独特の高温多湿な残暑。この気候に不慣れな国の選手達には、週2試合は相当きついはずだ 。さらに、開催国特権とでも言おうか、1次リーグを1位抜けできた事もあり、日本の試合はすべてナイトゲームで、試合間隔も空いている。実際、ドイツは準々決勝のノルウェー戦をまだ日が残っている時間帯に戦い、しかも試合間隔も短い。
有利な条件を活かしてうまく勝つのも、「強い」チームの条件となる。堂々とした勝利を期待したい。
さて、韓国戦。世界大会のかなり上の方で、日本が韓国と戦うのが、当たり前になりつつあると言う事なのだろう。何のかの言って、大変結構な事である。
前半の日本の攻撃は鮮やか。1点目は、田中ヨーコのクサビを受けた西川のスルーパス、これはよい連係だった。そして、それを敵CBが自分のプレイイングディスタンスにもかかわ らず空振り、脱け出した柴田は、あわてて飛び出したGKの鼻先で冷静にシュートを決めた。
すぐに同点とされるも、圧迫をかけ、複数本の惜しいシュートを放った時間帯。縦突破に猛威を振るう田中ミナが敵DFの前をよぎる低いクロス(敵の逆を突くよい判断だった)、柴田が狙い済ましたシュートを決める。
その後危ない場面もあったが、チーム一丸となって防ぎ、3点目を決める。これは田中ミナがタッチ沿いに開き、後方から高木が内側にオーバラップすると言う高級な連係。ゴールエリアまで切れ込んだ高木のマイナスのクロスに、西川がつぶれ、後方で我慢していた田中ヨーコが冷静に詰めた。
後半は2点差のビハインドを追う韓国が攻め込もうとするが、日本は全員が引 いて冷静な守備。ほとんど危ない場面を作らせずに、時計を進め、そのまま3対1で押し切った。
このような守備的でいやらしいサッカーもできる事に素直に感心した。選手の戦術遂行能力は、相当高い。
また、1次リーグでは、各自が個人能力を前面に押し出す強引な攻撃が目立っていた。しかし、この日はアイデアあふれ、しかも敵守備網を切り裂くような連係を見せてくれた。
このあたりは、試合を重ねる事で、若い選手達に着実に経験値が積まれていると言う事だろう。
もちろん、課題もあるさ。
失点直前の田中ヨーコは、見事な切り返しで敵を抜き去り、そのまま前進、あ韓国DF 3人を引きつける事に成功した。ここで味方に展開できれば最高だったのだが、強引な突破を狙い、ボールを奪われてしまう。結果、田中ヨーコからのパスを受けようとして前進していた選手達は、皆逆をとられ、韓国の逆襲速攻を許してしまった。いわゆる最悪の取られ方である。
それでも、日本の守備陣は、丁寧にウェイティング、敵FWを右サイドまで追い込んだ。ところが、右サイドバックの高木は、あわててボールを奪いに行き、縦に半身抜かれて好クロスを上げられてしまい、あえなく失点。もちろん、ボールウォッチャになってしまった中央にも問題はあったが、サイドをあそこまで簡単にえぐられてはいかん。しかも、戻ってくる選手で、人数は揃いつつあったのだから。
後半、韓国の前掛かりを冷静にいなしていた時間帯、前方に出てくる敵の裏を突き、逆襲(そして追加点も)を狙いたいところ。ところが、田中ミナが常に、持ち味でもある強引にオープンから敵陣に向かう内寄りのドリブルを狙ってしまい、逆にボールを奪われる事例が多かった。
田中ヨーコも、高木も、田中ミナも、「若さがゆえの甘さ」露呈したと言う事だろう。
構わないと思う。
彼女達の目標は、ワールドカップの2連覇であり、リオでの金メダルだ。そのために、今欠点がある事は、何も問題はない。
たまたま3人を採り上げたが、この3人は「得点」と言うわかりやすい実績も残してくれているし。
そう言った欠点も残しつつ、あまりある長所を持つこの魅力的なチームもあと2試合。
どんな試合を見せてくれるか、たっぷりと愉しみたい。
ドイツは頑健で、みな技術も優れているが、アジリティでは日本が優れる。さらに後述するが、攻撃のアイデア、守備の組織、それぞれについて、日本は大会に入り格段の進歩を遂げているから。
もちろん、戦闘能力的にも遜色はないが、コンディション面でも日本は相当有利だ。まだまだ続く東アジア独特の高温多湿な残暑。この気候に不慣れな国の選手達には、週2試合は相当きついはずだ 。さらに、開催国特権とでも言おうか、1次リーグを1位抜けできた事もあり、日本の試合はすべてナイトゲームで、試合間隔も空いている。実際、ドイツは準々決勝のノルウェー戦をまだ日が残っている時間帯に戦い、しかも試合間隔も短い。
有利な条件を活かしてうまく勝つのも、「強い」チームの条件となる。堂々とした勝利を期待したい。
さて、韓国戦。世界大会のかなり上の方で、日本が韓国と戦うのが、当たり前になりつつあると言う事なのだろう。何のかの言って、大変結構な事である。
前半の日本の攻撃は鮮やか。1点目は、田中ヨーコのクサビを受けた西川のスルーパス、これはよい連係だった。そして、それを敵CBが自分のプレイイングディスタンスにもかかわ らず空振り、脱け出した柴田は、あわてて飛び出したGKの鼻先で冷静にシュートを決めた。
すぐに同点とされるも、圧迫をかけ、複数本の惜しいシュートを放った時間帯。縦突破に猛威を振るう田中ミナが敵DFの前をよぎる低いクロス(敵の逆を突くよい判断だった)、柴田が狙い済ましたシュートを決める。
その後危ない場面もあったが、チーム一丸となって防ぎ、3点目を決める。これは田中ミナがタッチ沿いに開き、後方から高木が内側にオーバラップすると言う高級な連係。ゴールエリアまで切れ込んだ高木のマイナスのクロスに、西川がつぶれ、後方で我慢していた田中ヨーコが冷静に詰めた。
後半は2点差のビハインドを追う韓国が攻め込もうとするが、日本は全員が引 いて冷静な守備。ほとんど危ない場面を作らせずに、時計を進め、そのまま3対1で押し切った。
このような守備的でいやらしいサッカーもできる事に素直に感心した。選手の戦術遂行能力は、相当高い。
また、1次リーグでは、各自が個人能力を前面に押し出す強引な攻撃が目立っていた。しかし、この日はアイデアあふれ、しかも敵守備網を切り裂くような連係を見せてくれた。
このあたりは、試合を重ねる事で、若い選手達に着実に経験値が積まれていると言う事だろう。
もちろん、課題もあるさ。
失点直前の田中ヨーコは、見事な切り返しで敵を抜き去り、そのまま前進、あ韓国DF 3人を引きつける事に成功した。ここで味方に展開できれば最高だったのだが、強引な突破を狙い、ボールを奪われてしまう。結果、田中ヨーコからのパスを受けようとして前進していた選手達は、皆逆をとられ、韓国の逆襲速攻を許してしまった。いわゆる最悪の取られ方である。
それでも、日本の守備陣は、丁寧にウェイティング、敵FWを右サイドまで追い込んだ。ところが、右サイドバックの高木は、あわててボールを奪いに行き、縦に半身抜かれて好クロスを上げられてしまい、あえなく失点。もちろん、ボールウォッチャになってしまった中央にも問題はあったが、サイドをあそこまで簡単にえぐられてはいかん。しかも、戻ってくる選手で、人数は揃いつつあったのだから。
後半、韓国の前掛かりを冷静にいなしていた時間帯、前方に出てくる敵の裏を突き、逆襲(そして追加点も)を狙いたいところ。ところが、田中ミナが常に、持ち味でもある強引にオープンから敵陣に向かう内寄りのドリブルを狙ってしまい、逆にボールを奪われる事例が多かった。
田中ヨーコも、高木も、田中ミナも、「若さがゆえの甘さ」露呈したと言う事だろう。
構わないと思う。
彼女達の目標は、ワールドカップの2連覇であり、リオでの金メダルだ。そのために、今欠点がある事は、何も問題はない。
たまたま3人を採り上げたが、この3人は「得点」と言うわかりやすい実績も残してくれているし。
そう言った欠点も残しつつ、あまりある長所を持つこの魅力的なチームもあと2試合。
どんな試合を見せてくれるか、たっぷりと愉しみたい。
2012年08月09日
女子決勝を前に
必ずしも、当方が有利とは思わない。けれども、1年前の決勝戦の試合前は10回やれば2回勝てるかどうかと言う戦闘能力差があったと思う。その2回を実現したのだから素晴らしかったのだが。しかし、今回は10回やれば3,4回は勝てる差までは詰めてきているのではないだろうか。
もちろん、合衆国は強かろう。特にモーガンの切れ味は、昨年から一層磨きがかかっているし、ワンバックも相変わらず強力かつ堅実だ。
しかし、(昨年敗れているだけに仕方がないのだろうが)合衆国が我々を異様に意識している事こそ、当方に有利にはたらくように思える。本来であれば、戦闘能力的に格上の合衆国は、当たり前に阪口と澤にプレスをかけ、鮫島の後方を狙ってくればよいはずだ。しかし、試合前の彼女たちの表情を見ると、意識しすぎて、策を弄してくるように思える。それは当方の思う壺だ。先方が本来の強さを否定してしまうからだ。直前の準備試合で、あそこまで体調を揃え本気モードで勝ちに来たことも、その現れだろう。
一方の日本は、この1年で大きく成長した。少人数による速攻で崩す事もできるようになったし、全軍で引いて守備を固めて守り切る連係に磨きがかかった。
また、宮間と仲間たち、佐々木氏らのスタッフは、この日合衆国と戦う権利を得るために、ありとあらゆる創意工夫を重ねてきた。特に準々決勝以降のブラジル戦とフランス戦、ストロングポイントの素早いボール回しを放棄しても、リアリズムを優先して、目的を達してきた彼女たちの目標実現能力は相当なものだ。なるほど、フランス戦の後半は、リズムが狂い猛攻を許してしまった。あそこまでペースを握られてしまったのは、誤算と言うものだろう。けれども、それでも粘り勝ったという事実は大きい。おそるべき勝負強さ。この経験もまた大きいはずだ。
そのように、したたかに冷静に勝ち抜いてきて、ついに迎えるこの日の決戦。彼女たちの総決算とも呼ぶべき鮮やかな舞いを期待しても構わないだろう。
ここまで必ずしも好調とは言い難かった宮間が、最後の最後に合わせてきて、我々に歓喜を提供してくれるのではないか。
もちろん、合衆国は強かろう。特にモーガンの切れ味は、昨年から一層磨きがかかっているし、ワンバックも相変わらず強力かつ堅実だ。
しかし、(昨年敗れているだけに仕方がないのだろうが)合衆国が我々を異様に意識している事こそ、当方に有利にはたらくように思える。本来であれば、戦闘能力的に格上の合衆国は、当たり前に阪口と澤にプレスをかけ、鮫島の後方を狙ってくればよいはずだ。しかし、試合前の彼女たちの表情を見ると、意識しすぎて、策を弄してくるように思える。それは当方の思う壺だ。先方が本来の強さを否定してしまうからだ。直前の準備試合で、あそこまで体調を揃え本気モードで勝ちに来たことも、その現れだろう。
一方の日本は、この1年で大きく成長した。少人数による速攻で崩す事もできるようになったし、全軍で引いて守備を固めて守り切る連係に磨きがかかった。
また、宮間と仲間たち、佐々木氏らのスタッフは、この日合衆国と戦う権利を得るために、ありとあらゆる創意工夫を重ねてきた。特に準々決勝以降のブラジル戦とフランス戦、ストロングポイントの素早いボール回しを放棄しても、リアリズムを優先して、目的を達してきた彼女たちの目標実現能力は相当なものだ。なるほど、フランス戦の後半は、リズムが狂い猛攻を許してしまった。あそこまでペースを握られてしまったのは、誤算と言うものだろう。けれども、それでも粘り勝ったという事実は大きい。おそるべき勝負強さ。この経験もまた大きいはずだ。
そのように、したたかに冷静に勝ち抜いてきて、ついに迎えるこの日の決戦。彼女たちの総決算とも呼ぶべき鮮やかな舞いを期待しても構わないだろう。
ここまで必ずしも好調とは言い難かった宮間が、最後の最後に合わせてきて、我々に歓喜を提供してくれるのではないか。
2012年01月18日
澤穂希世界一
少々旧聞なるが、澤穂希がFIFAの年間最優秀女子選手に選考された。
あのワールドカップの活躍を考えれば当然と言えば当然なのだが、とても印象的な表彰式だった。緊張しながらも堂々とした挙措、振り袖を着こなした美しい姿勢、含羞の色を浮かべながらも多くの恩人に感謝の念をまじえたスピーチ。いずれも実に見事、正にスーパースタアの振る舞いだった。
澤と言う選手は、日頃の発言もプレイも知的そのものだ。
世界一になる前から、彼女の発言は責任感にあふれると共に、多くの仲間を元気づけるものだった。「苦しい時は私の背中を...」のような発言は、凡人ならば気恥ずかしくて口にできないものだが、彼女の口から出れば、説得性がある。この人は、本当に頭がよいのだ。
一方でその鮮やかなプレイ。最近でも、元日の日本選手権決勝の前半終盤の先制弾の場面など最高だった。ずっと後方でボールをさばき、中盤を引き締めていた澤が、あの時間帯、ここしかない場面で、時間も空間も完璧な前進で先制点を演出した。何と言う判断力の冴えだろうか。
ただ、以前から述べているように、日本も澤も世界一にはなったものの、女子サッカーの本質的な課題はまだまだ何も解決していない。なでしこリーグの選手達の収入はよいとはとても言えないし、特に中学生世代の選手達のプレイ環境は非常に貧しいものがある。
澤をはじめとする現在の女子代表選手に、注目が集まり、彼女達が経済的な恩恵を受ける事は誠に結構な事だ。彼女達は、是非稼げるだけ稼いで欲しい。しかし、せっかくならば、これだけ世間の注目が集まっている事をうまく利用して、少しでも女子サッカーの環境を改善、いや改革していきたいところだ。
そのために、大変だろうが、やはり澤にはもう一肌、二肌脱いでもらう必要があると思う。これだけのスーパースタアなのだから、サッカー界の外からも、その一挙手一投足に注目が集まる。その澤が、直接的にも間接的にも、環境の改善を進めるべく発言するのは、とても重要だろう。いや、女子サッカーのみならず、サッカー全体、いやスポーツ界全体にとっても、今後の澤はとても大切な存在になるのではないか。
だからこそ、やはり紅白歌合戦の件は飲み込めずにいる。
実際問題として、翌日朝10時半キックオフのタイトルマッチを控えた選手たちが、前日19時台の生中継のテレビ番組に出ると言う事そのものが受け入れ難い。
また、その登場の仕方もあまりに残念だった。自チームのユニフォームを着て登場した澤達を、アナウンサが「なでしこジャパン」と紹介。それら一連が、舞台裏の安っぽさそのものを見せてしまっていた。女子サッカーに多大な投資をしてくれている、レオネッサの親会社さんをあまり悪くは言いたくないのだが。
ただ、このあたりのさじ加減は、実に難しいものなのだ。
そこでカズ。
先日の日曜日の夜のスポーツニュースは、カズのFリーグでの活躍?が、あちら、こちらで採り上げられていた。
私は不勉強だったもので、昼間のBSの生中継を見ながらも、この試合は有料の練習試合だと思い込んでいた。試合途中のアナウンサらの説明で公式戦だと知って呆れた次第。さらには、エスポラーダと横浜FCの経営問題などを勉強するにつけ...いくら何でも、トッププロが競う公式戦に、(類似しているとは言え)異なる競技の選手が登場するのは、いかがなものなのだろうか。
でも、このような「隙」がカズの魅力にも思える。実際、過去の話だが、拡大トヨタカップのオセアニア代表のゲストプレイヤと言うだけで、十二分に怪しいしな。いやいや、ヴェルディ時代のお父上の...
実際、カズ格好いいんだよな。試合後にエスポラーダのサポータの方々との握手の映像が流れたけれど、本当に格好いい。幾度もスポーツニュースで流れた、またぎの連続など、それだけ見ていても興奮するし。
澤穂希が、カズ同様、いつまでもスーパースタアである事を期待するものである。
あのワールドカップの活躍を考えれば当然と言えば当然なのだが、とても印象的な表彰式だった。緊張しながらも堂々とした挙措、振り袖を着こなした美しい姿勢、含羞の色を浮かべながらも多くの恩人に感謝の念をまじえたスピーチ。いずれも実に見事、正にスーパースタアの振る舞いだった。
澤と言う選手は、日頃の発言もプレイも知的そのものだ。
世界一になる前から、彼女の発言は責任感にあふれると共に、多くの仲間を元気づけるものだった。「苦しい時は私の背中を...」のような発言は、凡人ならば気恥ずかしくて口にできないものだが、彼女の口から出れば、説得性がある。この人は、本当に頭がよいのだ。
一方でその鮮やかなプレイ。最近でも、元日の日本選手権決勝の前半終盤の先制弾の場面など最高だった。ずっと後方でボールをさばき、中盤を引き締めていた澤が、あの時間帯、ここしかない場面で、時間も空間も完璧な前進で先制点を演出した。何と言う判断力の冴えだろうか。
ただ、以前から述べているように、日本も澤も世界一にはなったものの、女子サッカーの本質的な課題はまだまだ何も解決していない。なでしこリーグの選手達の収入はよいとはとても言えないし、特に中学生世代の選手達のプレイ環境は非常に貧しいものがある。
澤をはじめとする現在の女子代表選手に、注目が集まり、彼女達が経済的な恩恵を受ける事は誠に結構な事だ。彼女達は、是非稼げるだけ稼いで欲しい。しかし、せっかくならば、これだけ世間の注目が集まっている事をうまく利用して、少しでも女子サッカーの環境を改善、いや改革していきたいところだ。
そのために、大変だろうが、やはり澤にはもう一肌、二肌脱いでもらう必要があると思う。これだけのスーパースタアなのだから、サッカー界の外からも、その一挙手一投足に注目が集まる。その澤が、直接的にも間接的にも、環境の改善を進めるべく発言するのは、とても重要だろう。いや、女子サッカーのみならず、サッカー全体、いやスポーツ界全体にとっても、今後の澤はとても大切な存在になるのではないか。
だからこそ、やはり紅白歌合戦の件は飲み込めずにいる。
実際問題として、翌日朝10時半キックオフのタイトルマッチを控えた選手たちが、前日19時台の生中継のテレビ番組に出ると言う事そのものが受け入れ難い。
また、その登場の仕方もあまりに残念だった。自チームのユニフォームを着て登場した澤達を、アナウンサが「なでしこジャパン」と紹介。それら一連が、舞台裏の安っぽさそのものを見せてしまっていた。女子サッカーに多大な投資をしてくれている、レオネッサの親会社さんをあまり悪くは言いたくないのだが。
ただ、このあたりのさじ加減は、実に難しいものなのだ。
そこでカズ。
先日の日曜日の夜のスポーツニュースは、カズのFリーグでの活躍?が、あちら、こちらで採り上げられていた。
私は不勉強だったもので、昼間のBSの生中継を見ながらも、この試合は有料の練習試合だと思い込んでいた。試合途中のアナウンサらの説明で公式戦だと知って呆れた次第。さらには、エスポラーダと横浜FCの経営問題などを勉強するにつけ...いくら何でも、トッププロが競う公式戦に、(類似しているとは言え)異なる競技の選手が登場するのは、いかがなものなのだろうか。
でも、このような「隙」がカズの魅力にも思える。実際、過去の話だが、拡大トヨタカップのオセアニア代表のゲストプレイヤと言うだけで、十二分に怪しいしな。いやいや、ヴェルディ時代のお父上の...
実際、カズ格好いいんだよな。試合後にエスポラーダのサポータの方々との握手の映像が流れたけれど、本当に格好いい。幾度もスポーツニュースで流れた、またぎの連続など、それだけ見ていても興奮するし。
澤穂希が、カズ同様、いつまでもスーパースタアである事を期待するものである。
2012年01月01日
元日に澤と大野を堪能する
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。本年の講釈は、全日本女子選手権決勝からスタートします。
レオネッサは4DFの前に澤がアンカー。その前に池笑然と南山が位置取り、最前線は川澄と高瀬が左右に開き、引き気味のCFに大野。ただし、大野は中盤深く引く時もあり、その時は池笑然が前線に上がってくる。
アルビレックスは、フラットな4DFと4MFでゾーンの網を張り、上尾野辺と大柄な菅澤の2トップ。しかし、上尾野辺は守備に回ると中盤に引いて他のMFと共に敵を挟み込む役割なので、4−4−1−1と言える並びだ。
開始早々に、自ペナルティエリア直前に澤がプレゼントパスをするもアルビレックスのシュートが弱く海堀の正面を突くと言うハプニングがあった。けれども、それ以降は予想通り、レオネッサが攻勢をとる。しかし、アルビレックスの8人に上尾野辺が絡む守備網が機能し、川澄や大野が前向きで受けられるようなよいボールが入らない。それでも、レオネッサは、この2人や池笑然の個人技、あるいは攻撃第一波をはね返した直後のアルビレックスの修正遅れから、幾度か好機を掴むが、GK大友のよい判断もあり崩しきれなかった。
アルビレックスは、主将の左サイドバック山本の前進に、阪口が長いボールを合わせる攻撃を再三見せるが、サイドまでは行けても、ゴールまでの距離は遠く、好機は作れない。日本の女子サッカーでは、タッチ沿いからクロスを入れるのでは、ボールのスピードが十分ではなく好機になりづらい。ペナルティエリア幅くらいまで、中をえぐらなければならないのだが、そのためには大野や川澄クラスの技巧の冴えが必要になるのだ。
また、アルビレックスが最前線の菅澤に縦パスを入れても、田中明日菜の厳しいマークにボールがキープできず形にならない。この試合に関しては、MVPは田中だろう。菅澤を完封し、アルビレックスの逆襲をつぶし、3点目も決めた。この堅実な守備振りを伸ばし、代表の定位置争いに割って入って欲しいところだ。
そして0−0で前半終了と思われた44分、レオネッサのハーフウェイラインやや越えたあたりからのFK、池が蹴ったボールに対し、左サイド深くに向かい澤が見事な動き出しの早さで裏を突く事に成功、GK大友はかろうじてしのぐが、こぼれたところを南山が詰めて先制した。数分前に田中と上尾野辺が交錯し、2人とも頭にバンデージを巻く負傷。田中はすぐにピッチに戻ったが、上尾野辺は担架で運び出される状態で回復が遅れ、このFKの時にピッチに戻ろうとした。ところが、主審と4審の連携が悪く、上尾野辺がピッチ入りするのに時間がかかり、アルビレックス選手たちがやや集中を欠く状態になってしまった。その一瞬の隙を見逃さず、勝負どころを見極めた澤の判断力を褒めたたえるしかあるまい。しかも、この試合澤が最前線に進出したのは、この場面が初めての事だったのだ。
後半立ち上がり、レオネッサは攻撃を修正する。高瀬のポジションをやや内側に修正して近賀を上がりやすくする。南山を前に押し出し、池を(あるいは大野を)後方に下げる。これにより、攻撃に変化が生まれた。そして、左右への揺さぶりから、高瀬が決めて勝負あり。とてもではないがアルビレックスが2点差をはね返せる雰囲気はなかった。
アルビレックスは周到な作戦で、よく守っていたのだが、前半終了間際の澤の才気と、後半立ち上がりのレオネッサの変化にまでは対抗できなかった。戦闘能力差と言うものだろう。
現実的に、重要な試合でレオネッサに他のチームが勝つのは、相当難しいように思う。澤と大野の存在が大きすぎるのだ。
先制点時の澤のしたたかさは既に述べた。それとは別に、大野の的確な動きはすばらしかった。大野は、両軍の攻守両面をよく見張り、隙があるとそこを埋めに行く。アルビレックスに隙があれば、その隙を突いて点を取りに行くのは当然だが、自軍に隙があると丹念に几帳面にそこを埋めに行く。やや両軍にダレが見られた試合終盤、甘くなったレオネッサのプレスをかいくぐり、再三アルビレックスが逆襲を狙った。その際に忠実に追いかけたのは大野、レオネッサ守備陣が逆襲の第一波をはね返したボールをしっかり拾ったのは大野だったのだ。
これだけ、敵のほんのちょっとした隙を突く狡猾さと、味方の小さなミスをしっかり埋める知性と献身を持つ選手が複数いると、ただでさえ大きな戦闘能力差が決定的なものになってしまう。
まあ、文句を言う筋合いではないな。新年早々、大野忍の献身を堪能できたのだから。
レオネッサは4DFの前に澤がアンカー。その前に池笑然と南山が位置取り、最前線は川澄と高瀬が左右に開き、引き気味のCFに大野。ただし、大野は中盤深く引く時もあり、その時は池笑然が前線に上がってくる。
アルビレックスは、フラットな4DFと4MFでゾーンの網を張り、上尾野辺と大柄な菅澤の2トップ。しかし、上尾野辺は守備に回ると中盤に引いて他のMFと共に敵を挟み込む役割なので、4−4−1−1と言える並びだ。
開始早々に、自ペナルティエリア直前に澤がプレゼントパスをするもアルビレックスのシュートが弱く海堀の正面を突くと言うハプニングがあった。けれども、それ以降は予想通り、レオネッサが攻勢をとる。しかし、アルビレックスの8人に上尾野辺が絡む守備網が機能し、川澄や大野が前向きで受けられるようなよいボールが入らない。それでも、レオネッサは、この2人や池笑然の個人技、あるいは攻撃第一波をはね返した直後のアルビレックスの修正遅れから、幾度か好機を掴むが、GK大友のよい判断もあり崩しきれなかった。
アルビレックスは、主将の左サイドバック山本の前進に、阪口が長いボールを合わせる攻撃を再三見せるが、サイドまでは行けても、ゴールまでの距離は遠く、好機は作れない。日本の女子サッカーでは、タッチ沿いからクロスを入れるのでは、ボールのスピードが十分ではなく好機になりづらい。ペナルティエリア幅くらいまで、中をえぐらなければならないのだが、そのためには大野や川澄クラスの技巧の冴えが必要になるのだ。
また、アルビレックスが最前線の菅澤に縦パスを入れても、田中明日菜の厳しいマークにボールがキープできず形にならない。この試合に関しては、MVPは田中だろう。菅澤を完封し、アルビレックスの逆襲をつぶし、3点目も決めた。この堅実な守備振りを伸ばし、代表の定位置争いに割って入って欲しいところだ。
そして0−0で前半終了と思われた44分、レオネッサのハーフウェイラインやや越えたあたりからのFK、池が蹴ったボールに対し、左サイド深くに向かい澤が見事な動き出しの早さで裏を突く事に成功、GK大友はかろうじてしのぐが、こぼれたところを南山が詰めて先制した。数分前に田中と上尾野辺が交錯し、2人とも頭にバンデージを巻く負傷。田中はすぐにピッチに戻ったが、上尾野辺は担架で運び出される状態で回復が遅れ、このFKの時にピッチに戻ろうとした。ところが、主審と4審の連携が悪く、上尾野辺がピッチ入りするのに時間がかかり、アルビレックス選手たちがやや集中を欠く状態になってしまった。その一瞬の隙を見逃さず、勝負どころを見極めた澤の判断力を褒めたたえるしかあるまい。しかも、この試合澤が最前線に進出したのは、この場面が初めての事だったのだ。
後半立ち上がり、レオネッサは攻撃を修正する。高瀬のポジションをやや内側に修正して近賀を上がりやすくする。南山を前に押し出し、池を(あるいは大野を)後方に下げる。これにより、攻撃に変化が生まれた。そして、左右への揺さぶりから、高瀬が決めて勝負あり。とてもではないがアルビレックスが2点差をはね返せる雰囲気はなかった。
アルビレックスは周到な作戦で、よく守っていたのだが、前半終了間際の澤の才気と、後半立ち上がりのレオネッサの変化にまでは対抗できなかった。戦闘能力差と言うものだろう。
現実的に、重要な試合でレオネッサに他のチームが勝つのは、相当難しいように思う。澤と大野の存在が大きすぎるのだ。
先制点時の澤のしたたかさは既に述べた。それとは別に、大野の的確な動きはすばらしかった。大野は、両軍の攻守両面をよく見張り、隙があるとそこを埋めに行く。アルビレックスに隙があれば、その隙を突いて点を取りに行くのは当然だが、自軍に隙があると丹念に几帳面にそこを埋めに行く。やや両軍にダレが見られた試合終盤、甘くなったレオネッサのプレスをかいくぐり、再三アルビレックスが逆襲を狙った。その際に忠実に追いかけたのは大野、レオネッサ守備陣が逆襲の第一波をはね返したボールをしっかり拾ったのは大野だったのだ。
これだけ、敵のほんのちょっとした隙を突く狡猾さと、味方の小さなミスをしっかり埋める知性と献身を持つ選手が複数いると、ただでさえ大きな戦闘能力差が決定的なものになってしまう。
まあ、文句を言う筋合いではないな。新年早々、大野忍の献身を堪能できたのだから。
2011年09月09日
女子代表、やれやれ
女子代表五輪予選北朝鮮戦だが、本業都合もあり、情報遮断して6時間時差で堪能した。ロスタイムの絶望感をたっぷりと堪能したが、すぐにネットを見て中国の苦杯による出場権獲得を知り、歓喜してしまった。落胆をたったの5分しか感じられなかったのだから、やはり完全に負け組でした。ここは中国−豪州戦も録画して観戦し、2時間たっぷりと不安感を持ちながら興奮すべきだったな。
立ち上がり早々に、うまいパス回しから決定機を作り、大野が外してしまう。そして、それ以降は、完全に北朝鮮にペースをつかまれてしまった。いずれの選手も動き出しが遅く、球際の反応も鈍い。北朝鮮の各選手は技巧もしっかりしているが、1対1の対応もしつこいだけに、日本も相当厳しい対応が必要なのだが粘り切れない。ただし、最後の突破については、宮間や大野のような「驚き」を作れる選手がいなく、強引に仕掛けてくるだけなので、岩清水の読みで何とか決定機を許さずに試合は進んだ。
予選前から懸念した通り、体調面での準備が十分でなかったのだろう。そして、ここまでの3連勝でほとんどの選手がいっぱいになってしまっていた。だったら、控えの選手を起用したいところだが、初戦のタイ戦で思うように機能しなかったためか、佐々木監督は韓国戦、豪州戦も、ベストメンバの継続にこだわってきた(この、こだわりは、ワールドカップよりも頑迷に見えた)。結果、全選手が疲労困憊状態、北朝鮮に中盤を蹂躙される事となった。そのため、上記した通り、岩清水を軸に、全選手が最終ラインで守る知的能力が格段な事を再認識できたが。宮間はきっと「押し込まれてはいるが、合衆国ほど攻撃は鋭くない」と考えていたに違いない。
対して北朝鮮は、ワールドカップ終了後、この大会に向けて合わせてきたのだろう。ドーピングで5人が出場停止にはなったものの、非常によいチームだった。なるほど豪州と韓国にキッチリと勝ってくる訳だ。いや、むしろ不思議なのは中国と引き分けた事か。
かくして、80分間しのぎ続けたこの試合。さすがに、ここまで煮詰まってくると、北朝鮮のプレスも緩くなってきた。そして、川端を軸に右サイドに起点を作り、後方から押し上げた岩清水が精度の高いロングボール、北朝鮮のCBはトップの永里を抑え切れず、日本が冗談のような先制点を決めてしまった。もちろん、この得点は偶然ではない。我慢に我慢を重ねて、イタリアっていた選手達の、不屈の闘志と知性が生み出した一撃だった。
北朝鮮の選手たちの衝撃は相当のものだったようだ(そりゃそうだ、あそこまで押し込んだ試合をして、80分に点をとられて、まだ「これからだ!」と戦える不屈の闘志を持っているのは、日本女子代表くらいのものだ)。以降は、日本が落ち着いて、ボールキープができるようになった。
そこで、佐々木監督の采配についての議論となる。
85分あたりのコーナキックに佐々木氏がボールキープを指示した是非が話題になっているようだが、私はそう間違っているとは思わない。意気消沈した北朝鮮に対して、イニシアチブをとって、落ち着いてボールを保持して、時計を進めてしまうのは、1つの作戦である。
しかし、そうだとしたら、選手達に、不用意に自陣内でボールを回させず、セーフティファーストのクリアを指示し、かつそのクリアを追い回す事ができる元気な選手を交代で投入するべきだろう。そもそも、選手交代そのものが時間稼ぎにもなるのだし。
ところが、選手たちは非常に中途半端なプレイに終始。あの最後の失点場面、もちろん近賀のミスも残念だったが、そこに至る各選手からは、「とにかく安全にミスをしないように」と言う意識が感じられなかった。彼女たちほどの経験を積んでいても、ヘマをする時はヘマをするという事だろうか。もちろん、最大の問題は、佐々木氏の采配意図が不徹底だった事にあるのだが
いずれにしても、佐々木氏の中途半端な指示と、優柔不断の交代策で、最後は同点に追いつかれてしまったこの試合。それでも、中国がヘマをして、日本の五輪代表が確定した。以前から何度も述べている通り、このようなレギュレーションでは、相互に星を食い合う事で、結果的に戦闘能力の高いチームが生き残るものだ。
そういう意味では、ここまでの3試合で、キッチリと勝ち点9を確保していたのが、ここにきて効いてきた事になる。
めでたし、めでたし。まずは素直に五輪出場を喜ぶ事にするか。
立ち上がり早々に、うまいパス回しから決定機を作り、大野が外してしまう。そして、それ以降は、完全に北朝鮮にペースをつかまれてしまった。いずれの選手も動き出しが遅く、球際の反応も鈍い。北朝鮮の各選手は技巧もしっかりしているが、1対1の対応もしつこいだけに、日本も相当厳しい対応が必要なのだが粘り切れない。ただし、最後の突破については、宮間や大野のような「驚き」を作れる選手がいなく、強引に仕掛けてくるだけなので、岩清水の読みで何とか決定機を許さずに試合は進んだ。
予選前から懸念した通り、体調面での準備が十分でなかったのだろう。そして、ここまでの3連勝でほとんどの選手がいっぱいになってしまっていた。だったら、控えの選手を起用したいところだが、初戦のタイ戦で思うように機能しなかったためか、佐々木監督は韓国戦、豪州戦も、ベストメンバの継続にこだわってきた(この、こだわりは、ワールドカップよりも頑迷に見えた)。結果、全選手が疲労困憊状態、北朝鮮に中盤を蹂躙される事となった。そのため、上記した通り、岩清水を軸に、全選手が最終ラインで守る知的能力が格段な事を再認識できたが。宮間はきっと「押し込まれてはいるが、合衆国ほど攻撃は鋭くない」と考えていたに違いない。
対して北朝鮮は、ワールドカップ終了後、この大会に向けて合わせてきたのだろう。ドーピングで5人が出場停止にはなったものの、非常によいチームだった。なるほど豪州と韓国にキッチリと勝ってくる訳だ。いや、むしろ不思議なのは中国と引き分けた事か。
かくして、80分間しのぎ続けたこの試合。さすがに、ここまで煮詰まってくると、北朝鮮のプレスも緩くなってきた。そして、川端を軸に右サイドに起点を作り、後方から押し上げた岩清水が精度の高いロングボール、北朝鮮のCBはトップの永里を抑え切れず、日本が冗談のような先制点を決めてしまった。もちろん、この得点は偶然ではない。我慢に我慢を重ねて、イタリアっていた選手達の、不屈の闘志と知性が生み出した一撃だった。
北朝鮮の選手たちの衝撃は相当のものだったようだ(そりゃそうだ、あそこまで押し込んだ試合をして、80分に点をとられて、まだ「これからだ!」と戦える不屈の闘志を持っているのは、日本女子代表くらいのものだ)。以降は、日本が落ち着いて、ボールキープができるようになった。
そこで、佐々木監督の采配についての議論となる。
85分あたりのコーナキックに佐々木氏がボールキープを指示した是非が話題になっているようだが、私はそう間違っているとは思わない。意気消沈した北朝鮮に対して、イニシアチブをとって、落ち着いてボールを保持して、時計を進めてしまうのは、1つの作戦である。
しかし、そうだとしたら、選手達に、不用意に自陣内でボールを回させず、セーフティファーストのクリアを指示し、かつそのクリアを追い回す事ができる元気な選手を交代で投入するべきだろう。そもそも、選手交代そのものが時間稼ぎにもなるのだし。
ところが、選手たちは非常に中途半端なプレイに終始。あの最後の失点場面、もちろん近賀のミスも残念だったが、そこに至る各選手からは、「とにかく安全にミスをしないように」と言う意識が感じられなかった。彼女たちほどの経験を積んでいても、ヘマをする時はヘマをするという事だろうか。もちろん、最大の問題は、佐々木氏の采配意図が不徹底だった事にあるのだが
いずれにしても、佐々木氏の中途半端な指示と、優柔不断の交代策で、最後は同点に追いつかれてしまったこの試合。それでも、中国がヘマをして、日本の五輪代表が確定した。以前から何度も述べている通り、このようなレギュレーションでは、相互に星を食い合う事で、結果的に戦闘能力の高いチームが生き残るものだ。
そういう意味では、ここまでの3試合で、キッチリと勝ち点9を確保していたのが、ここにきて効いてきた事になる。
めでたし、めでたし。まずは素直に五輪出場を喜ぶ事にするか。
2011年09月01日
佐々木監督のジーコ戦法の巻
女子代表五輪予選、前半タイの集中した守備を崩せず苦戦したが、後半突き放し快勝。不満を言えばキリがないが、まずは上々のスタートと言ってよいだろう。
短期間の連戦のため、ターンオーバを採用するとの噂は聞いていたが、中盤が総取っ替えなのには驚いた。最前線も永里と川澄の組み合わせだが、常に知的に献身していた安藤がいない。出場停止の岩清水と合わせ、ここまでメンバが変えてくるとは。参加国中最も楽な相手と言われているタイとの対戦ではあるが、「いくらなんでもジーコ方式はまずいのではないか」と心配になった。
しかし、内容は悪くなかった。敵の逆襲に警戒を怠らず、丁寧にボールを回した攻撃が継続した。あれだけメンバが変われば連携も思うようにとれないし、「格」を持った選手がいないのだから個人能力でも崩せないのは仕方がない。
しかもタイは、最前線に1人残して守備ブロックを固める。タイの各選手の局地戦のうまさ、粘り強い守備振りは、男のチームと同じ。またGKは158cmと言うが小柄で勇気抜群で、これもいかにもタイらしい。決して能力が低くない選手達にあれだけしっかり守られては、苦戦もやむなし。
それにしても、タイの女子がこれだけの質のサッカーを見せてくれるのだから、女子サッカーも分厚くなってきたものだと思う。先日のドイツワールドカップの成功(観客動員やテレビ資料率)で、ブラッター氏以下のカネの亡者達が大喜びしていたが、タイの充実を見ると「彼らの言う通りだな」と、確かに感じる。タイだが、もう少し長距離疾走ができるようになれば、相当厄介な敵となってくれる事だろう。世界レベルで見ても、女子サッカーとしては珍しいサッカースタイルだけに愉しみだ。
やはり宮間も大野もいないと、精度とか溜めが苦しい。最初から、この2人を前後半45分使うと言うやり方もあったと思うのだが。そう言う意味では、楽に勝ち抜けるかどうかのカギは、田中と上尾野辺が握っているように思える。この2人のいずれかが(阪口、澤のフォローの下で)機能すれば、いざとなったら大野を最前線に起用しやすくなる。今回の予選の相手は合衆国やドイツではない。とすれば、どうしても点を取りたい時に、大野の最前線での得点力は貴重なはず。
もう1つ。(今さら遅いですけれども)このような試合で、宮間、大野を休ませたいならば、小林弥生とか宮本ともみのような大ベテランをメンバに入れておく手もあったはず。特に前半、皆が真面目にボールを回し、ひたすら攻め込もうとした時間帯、この2人のいずれかがいれば、テンポを落としたり、敵の隙を突いたり、色々な変化を付けられたと思うのだが。もちろん、選考できるメンバには限りがあり、先のある若手に経験を積ませる必要があるのは、痛いほどよくわかるのだが。
豪州が北朝鮮に負け、中国と韓国は引き分けたとの事。戦闘能力差が少ないチーム同士の総当たり戦。お互いが星をつぶし合う可能性が高いやり方だけに、戦闘能力ナンバーワンの日本に有利な方式である事が、再確認された。
難しい大会ではあるが、まずは順調なスタートを喜び、堂々たる成果を期待したい。
短期間の連戦のため、ターンオーバを採用するとの噂は聞いていたが、中盤が総取っ替えなのには驚いた。最前線も永里と川澄の組み合わせだが、常に知的に献身していた安藤がいない。出場停止の岩清水と合わせ、ここまでメンバが変えてくるとは。参加国中最も楽な相手と言われているタイとの対戦ではあるが、「いくらなんでもジーコ方式はまずいのではないか」と心配になった。
しかし、内容は悪くなかった。敵の逆襲に警戒を怠らず、丁寧にボールを回した攻撃が継続した。あれだけメンバが変われば連携も思うようにとれないし、「格」を持った選手がいないのだから個人能力でも崩せないのは仕方がない。
しかもタイは、最前線に1人残して守備ブロックを固める。タイの各選手の局地戦のうまさ、粘り強い守備振りは、男のチームと同じ。またGKは158cmと言うが小柄で勇気抜群で、これもいかにもタイらしい。決して能力が低くない選手達にあれだけしっかり守られては、苦戦もやむなし。
それにしても、タイの女子がこれだけの質のサッカーを見せてくれるのだから、女子サッカーも分厚くなってきたものだと思う。先日のドイツワールドカップの成功(観客動員やテレビ資料率)で、ブラッター氏以下のカネの亡者達が大喜びしていたが、タイの充実を見ると「彼らの言う通りだな」と、確かに感じる。タイだが、もう少し長距離疾走ができるようになれば、相当厄介な敵となってくれる事だろう。世界レベルで見ても、女子サッカーとしては珍しいサッカースタイルだけに愉しみだ。
やはり宮間も大野もいないと、精度とか溜めが苦しい。最初から、この2人を前後半45分使うと言うやり方もあったと思うのだが。そう言う意味では、楽に勝ち抜けるかどうかのカギは、田中と上尾野辺が握っているように思える。この2人のいずれかが(阪口、澤のフォローの下で)機能すれば、いざとなったら大野を最前線に起用しやすくなる。今回の予選の相手は合衆国やドイツではない。とすれば、どうしても点を取りたい時に、大野の最前線での得点力は貴重なはず。
もう1つ。(今さら遅いですけれども)このような試合で、宮間、大野を休ませたいならば、小林弥生とか宮本ともみのような大ベテランをメンバに入れておく手もあったはず。特に前半、皆が真面目にボールを回し、ひたすら攻め込もうとした時間帯、この2人のいずれかがいれば、テンポを落としたり、敵の隙を突いたり、色々な変化を付けられたと思うのだが。もちろん、選考できるメンバには限りがあり、先のある若手に経験を積ませる必要があるのは、痛いほどよくわかるのだが。
豪州が北朝鮮に負け、中国と韓国は引き分けたとの事。戦闘能力差が少ないチーム同士の総当たり戦。お互いが星をつぶし合う可能性が高いやり方だけに、戦闘能力ナンバーワンの日本に有利な方式である事が、再確認された。
難しい大会ではあるが、まずは順調なスタートを喜び、堂々たる成果を期待したい。
2011年08月01日
澤の同点弾
先般の女子ワールドカップ決勝、澤の同点弾について。あの劇的な得点、澤はいったい足のどこでシュートしたのだろうか。
勝利後も、幾度も再生映像が流れたが、私にはさっぱりわからなかった。トーなのか、アウトフロント(足の甲の外側)なのか、アウトサイド(足の外側)なのか、ヒールなのか。さらに言えば、当てて方向を変えただけなのか、足首を捻ってスナップを利かせたのか、あるいは膝を使って能動的に方向を変えたのか。宮間がピタリと合わせて来たボールを、一体どのようにしてあのコースに飛ばしたのか。いくつもの可能性が考えられる、実に難解な一撃だった。
サッカーの妙技は、場面的な劇的度が高いもの、技術的な難易度が高いものに2分されると思う。たとえば、前者の典型はジョホールバルの岡野の決勝点であり、後者の典型は06年ワールドカップのアルゼンチンでセルビアモンテネグロから奪ったカンビアッソの25本パス得点である。そして、今回の澤の得点は、その両方の特長を持っていると言う意味では、88年のファン・バステンが決めたあのボレーキックと同等に、記憶にも記録にも残る得点になるのではないか。ただし、ファン・バステンのそれは、技術的には極めてわかりやすく、「ファン・バステンすげ〜〜」で片付けられるものだった。しかし、澤のあの一撃は「一体何が起こったんだ!」と言う意味での奇跡性を含めると、正に世界サッカー史の金字塔と言われる得点になるのかもしれない。
当たり前の話だが、ボールが来た方向に近い方向に蹴るより、この得点のようにボールが来た方向と蹴る方向が鈍角の方が格段に難しいのは言うまでもない。そして、蹴る方向に向かって外側の足(この場合は左足)ならば、腰を使えるから、難易度は低くなる。ただし、外側の足を使うためには、そのための空間と時間が必要だが、今回の澤の一撃は、合衆国DFの必死の寄せもあり、そのような余裕はなく、内側の右足を使うしかなかった。加えて、澤はボールの方向(あるいは宮間の方向)にトップスピードで走り込んでいたから、自分の進行方向より後方にボールを飛ばす必要があった。
つまり敵DFを振り切るがための前進と、ボールを後方に飛ばすための足の運び、と言う全く矛盾した動きを同時にしなければならなかったのだ。
どうやら、ご本人はあるテレビ番組で「アウトサイドで触れた感じ」と帰国後に語っていたらしい(私はその映像を見ていないが、twitterで複数の人がその旨の情報を伝えてくれた)。ただ、「アウトサイド」と行っても、上記した「アウトフロント」を「アウトサイド」と呼ぶ人もいるので、澤自身がどちらの意味で「アウトサイド」と語ったかは、よくわからない。また「触れた感じ」と言うからには、膝を使ったり、ミートの瞬間足首のスナップを使った訳では無く、足首の角度を合わせて当てて方向を変えたのだと推測できる。
その状況で、強いシュートを枠に飛ばすためには、足首をよほど固定してかつ適切な場所にボールを当て、さらに膝をかぶせる事もできないから浮かさないためにも、ボールのやや上側に足を当てる必要がある。
整理しよう。澤はあの場面、宮間のキックを信じ切り、そこしかない場所に動き出しをして、そのボールに合わせて内側の右足を伸ばし切りながら、足首と膝の角度に細心の注意を払い、ボールを浮かさないようにややボール上側を、足の外側(甲がかかっていたかは不明)で、枠に強いボールが飛ぶようにミートしたのだ。
何と言う妙技なのだろうか。そして、あの究極の場面で、あの得点を決めるために、澤は一体どのような反復練習を積んで来たのだろうか。こんなシュート、「偶然に決めろ」と言われてもできはしない。周到に究極の準備がなされて、それでも数十回に1回決まるかどうかの一撃ではないのか。それを、澤と宮間は、あの場面で決めたのだ。
世界一になるためには、なるだけの理由があるのだ。
勝利後も、幾度も再生映像が流れたが、私にはさっぱりわからなかった。トーなのか、アウトフロント(足の甲の外側)なのか、アウトサイド(足の外側)なのか、ヒールなのか。さらに言えば、当てて方向を変えただけなのか、足首を捻ってスナップを利かせたのか、あるいは膝を使って能動的に方向を変えたのか。宮間がピタリと合わせて来たボールを、一体どのようにしてあのコースに飛ばしたのか。いくつもの可能性が考えられる、実に難解な一撃だった。
サッカーの妙技は、場面的な劇的度が高いもの、技術的な難易度が高いものに2分されると思う。たとえば、前者の典型はジョホールバルの岡野の決勝点であり、後者の典型は06年ワールドカップのアルゼンチンでセルビアモンテネグロから奪ったカンビアッソの25本パス得点である。そして、今回の澤の得点は、その両方の特長を持っていると言う意味では、88年のファン・バステンが決めたあのボレーキックと同等に、記憶にも記録にも残る得点になるのではないか。ただし、ファン・バステンのそれは、技術的には極めてわかりやすく、「ファン・バステンすげ〜〜」で片付けられるものだった。しかし、澤のあの一撃は「一体何が起こったんだ!」と言う意味での奇跡性を含めると、正に世界サッカー史の金字塔と言われる得点になるのかもしれない。
当たり前の話だが、ボールが来た方向に近い方向に蹴るより、この得点のようにボールが来た方向と蹴る方向が鈍角の方が格段に難しいのは言うまでもない。そして、蹴る方向に向かって外側の足(この場合は左足)ならば、腰を使えるから、難易度は低くなる。ただし、外側の足を使うためには、そのための空間と時間が必要だが、今回の澤の一撃は、合衆国DFの必死の寄せもあり、そのような余裕はなく、内側の右足を使うしかなかった。加えて、澤はボールの方向(あるいは宮間の方向)にトップスピードで走り込んでいたから、自分の進行方向より後方にボールを飛ばす必要があった。
つまり敵DFを振り切るがための前進と、ボールを後方に飛ばすための足の運び、と言う全く矛盾した動きを同時にしなければならなかったのだ。
どうやら、ご本人はあるテレビ番組で「アウトサイドで触れた感じ」と帰国後に語っていたらしい(私はその映像を見ていないが、twitterで複数の人がその旨の情報を伝えてくれた)。ただ、「アウトサイド」と行っても、上記した「アウトフロント」を「アウトサイド」と呼ぶ人もいるので、澤自身がどちらの意味で「アウトサイド」と語ったかは、よくわからない。また「触れた感じ」と言うからには、膝を使ったり、ミートの瞬間足首のスナップを使った訳では無く、足首の角度を合わせて当てて方向を変えたのだと推測できる。
その状況で、強いシュートを枠に飛ばすためには、足首をよほど固定してかつ適切な場所にボールを当て、さらに膝をかぶせる事もできないから浮かさないためにも、ボールのやや上側に足を当てる必要がある。
整理しよう。澤はあの場面、宮間のキックを信じ切り、そこしかない場所に動き出しをして、そのボールに合わせて内側の右足を伸ばし切りながら、足首と膝の角度に細心の注意を払い、ボールを浮かさないようにややボール上側を、足の外側(甲がかかっていたかは不明)で、枠に強いボールが飛ぶようにミートしたのだ。
何と言う妙技なのだろうか。そして、あの究極の場面で、あの得点を決めるために、澤は一体どのような反復練習を積んで来たのだろうか。こんなシュート、「偶然に決めろ」と言われてもできはしない。周到に究極の準備がなされて、それでも数十回に1回決まるかどうかの一撃ではないのか。それを、澤と宮間は、あの場面で決めたのだ。
世界一になるためには、なるだけの理由があるのだ。
2011年07月21日
究極の贅沢に乾杯
決勝前。
日本も合衆国も、組織的な攻守が売りで、精神的にも粘り強く、攻撃に切り札を持っている。最前線のタレントの体幹の強さ、平均体重と身長、世界での優勝経験などの差から、先方の戦闘能力が上な事は間違いないけれど。
日本のやり方は試合前から決まっていた。最前線からチェイシングを行い、敵の中盤から容易にパスを出させず、最終ラインで丁寧に受け渡しをして粘り強く守る。攻撃は中盤でボールを奪ってのショートカウンタ、サイドバックが上がってのサイドアタック、それにセットプレイ。無論、スカウティングによる合衆国各選手の特長、欠点に対する対応はあるにしても、チームとしてのやり方はそうは変わらない。
一方、合衆国にはいくつかの選択肢があった。そして、ドイツ戦とスウェーデン戦は、彼女達にとって、格好のスカウティング材料となった。
ドイツのやり方は、最前線から日本の守備陣に徹底してプレスをかける事だった。これにより、日本のパス回しを封じる事には成功した。しかし、攻撃はゴールに急ぎ過ぎ、浅い位置からのクロスが多くやや単調になり攻め切れず。北京五輪までの日本は角度の浅い位置からのクロスが弱点だった。しかし、この試合ではドイツの強引な攻撃を、全員の適切な連携と、岩清水の冷徹な指揮で防ぎ切った。さらに、あれだけ日本の最終ラインにプレスをかけたためだろう、終盤は特にドイツ前線の選手のスタミナ切れが顕著だった。
スウェーデンのやり方は、最終ラインを固め、日本に攻めさせて、長いボールの逆襲を狙うものだった。これは、北京五輪で日本に対し、合衆国やドイツがとって成功したやり方。日本の攻撃を最終ラインで止めて、攻め疲れを突いた。ところが、この準決勝、スウェーデンは、澤のミスパスから先制点を奪い優位な体勢に立ちながら、引いた事で自由にボールを受ける事ができた大野と宮間に粉砕された。
北京五輪と比較し、攻守両面で明らかに向上している日本に対し、合衆国はこのドイツとスウェーデンの失敗を的確に分析した策をとってきた。まず守備面では、澤と阪口に強烈なプレスをかけてきたのだ。この2人からパスが出なければ、日本の攻撃は寸断される。ただし、日本のDFまでは深いチェイスをしない。これによりドイツほど最前線の選手は疲弊しない。
さらに、単純なクロスは上げず、サイドチェンジを使い、逆サイドに人数をかけた突破をねらってきた。日本の両サイドバックの近賀と鮫島は足はかなり速いが、合衆国のサイドチェンジのタイミングの早さと射程距離の長さは相当で、どうしてもサイドで数的優位を作られ、幾度も突破されてしまった。
戦闘能力がより高い相手と決勝で戦う難しさは、敵が用意周到に勝つ確率を高めてくる事にある。この手の大会はどんなチームでも決勝にたどり着く前にカードを出し切ってしまうからだ。それでも、日本は岩清水を軸にしつこく守り、阪口がこぼれ球に適切に反応し、合衆国のシュートミスにも助けられ(日本が粘ったからシュートが外れると言う見方もある)、前半を無失点でしのぐ事に成功した。
阪口と澤が押さえられているのだから、比較的プレッシャがかかっていない岩清水が前線につなぐ事で(ドイツ戦の決勝点も、スウェーデン戦の先制点も、岩清水の正確で速いパスから生まれたものだった)、活路を開きたいところだったが、あれだけ猛攻されるとさすがに岩清水もそこまでの余力はないようだった。
ここで苦境を救ったのは大野だった。他の中盤の3人が、合衆国のプレスに押し込まれる中、忠実に守備をこなしつつ、幾度も前進し好機を演出した。判断のよい素早い前進と、正確なファーストタッチと、加速のよいドリブルを駆使して。安藤に通したスルーパスが、もう数10センチ内側に通っていたら、日本は前半に先制できるところだった。もちろん、合衆国の守備陣の網が、その数10センチを許してくれなかったのだが。この大野の奮闘があったからこそ、合衆国の序盤の猛攻は、30分過ぎにとだえた。最も得点が期待できる大野の中盤起用には再三疑問を述べてきたが、佐々木監督の慧眼に脱帽。これはワールドカップの決勝戦、大野のプレイに78年のアルディレス、94年のジーニョを思い出した。
後半も序盤押し込まれるが、徐々に合衆国のプレスも緩くなり、阪口が展開できるようになってくる。そして20分過ぎ、佐々木監督は永里と丸山を、大野、安藤に代え同時投入。2人の前線選手の同時投入は、チーム全体に「ここまで我慢してきたが攻めるぞ」と言うメッセージになる。丸山と永里は強さに魅力がある。これまでの安藤の質のよい動き出しと、大野の切れのより技巧による攻撃からの変化に、明らかに敵守備陣が混乱する。ベンチに実績のあるFWを2枚置いておけた事そのものが、このチームの充実を示すものだ。
けれども、ここから試合は予想外の展開となっていく。丸山との少人数攻撃から、永里が強引にシュートに持ち込もうとするも、敵CBと見事な速さで戻ってきた敵MFに囲まれてボールを奪われる。そのボールを奪ったラピノーが、高精度なロングフィード。見事な動き出しを見せたモーガンに、この日見事な守備ぶりを見せていた熊谷が振り切られ、ついに失点してしまった。
昨年の欧州チャンピオンズリーグ決勝で、モウリーニョインテルが、バイエルンを仕留めた速攻を思い出した。どうやって、これを防ぐと言うのか?永里が無理をすべきではなかった?永里はあそこで無理をして得点を狙うために起用されているのだ。阪口なり澤の押し上げが遅かった?あれは合衆国の中盤選手の戻りを誉めるべきだろう。熊谷のマークが緩慢だった?そうかもしれない、でもあの精度のパスに合わせて事前に前を向いて全力疾走するモーガンをどう押さえるべきか。ここはラピノーとモーガンに脱帽するしかない。
しかし、序盤に日本を悩ませた合衆国のプレスはもうない。全体のラインをコンパクトにして、阪口を起点に、澤と宮間の前進が顕著に。
川澄がボールを奪った時、宮間は相当後方にいた。永里の前進時に手を上げてファーに走り込むのが映ったが、実に見事な長駆。そして敵陣前の錯綜。合衆国DFがクリアしたボールを、とっさに腿でコントロール。ここまで来れば、宮間にとってブロックするGKの逆を突いて流し込むのは何も問題がない。それにしても、あの腿のトラップは、長駆直後の偶然とも言える場面で見せた、信じ難い技巧の冴えだった。
敵陣でボールを奪ってのショートカウンタは、常にこのチームが狙っている攻撃。川澄のパスを受けた永里の見事な切り返しからの低いボールに飛び込んだ丸山。皆が己の仕事を貫徹したから、ボールは宮間の前にこぼれたのだ。
ワンバックの一撃。日本のサイドを切り裂いたモーガンのドリブル。そして、ここまで見事にワンバックを押さえていた熊谷が、モーガンを注視した瞬間、ワンバックは熊谷の視野から消えた。2006年のブラジル戦、前半終了間際にロナウドを見失った中澤を思い出した。熊谷はワンバックの高さには負けなかった。けれども、ワンバックとの駆け引きに敗れたのだ。
日本も幾度も好機を掴む。澤の抜群の視野の広さから、近賀がこれまた驚異的な長駆で抜け出すが、合衆国DFも信じ難い粘り。近賀のシュートはDFにあたり運命のCK獲得。GKソロが味方と交錯し負傷。相当痛そうだ。97年ジョホールバル、これまで痛んだフリばかりしていたアベドザデが本当に痛んだのを思い出した。
澤のシュートはどこで蹴ったのだろう?これについては別途講釈を垂れたい。ただ、澤の存在感と宮間の精度。それがあの場面で出るのだから、恐れ入る。
ワールドカップの決勝で、PK戦突入直前に退場し、残った仲間が勝利を提供してくれるって、世界中の守備者の夢ではなかろうか。岩清水のあの瞬間の「滑るしかない」と言う判断の的確さ。あの疲弊した時間帯に、なおあのスピードで前進できるモーガンの見事な縦前進能力。元々「得点機会阻止」と言う反則と赤紙、黄紙の義務づけが適切かどうかと言う現行ルールへの疑問。そして、あの残り時間少ない時間帯では、退場しても懲罰的意味合いが全くないと言う事実。サッカー的にも実に深い議論ができる退場劇だった。
PK戦については、佐々木氏の笑顔と、海堀が1本目を足で止めた場面が全てだろう。あの海堀の足の動きを見る限り「PK時に読みが外れて中央付近にボールが飛んだのを、いかに足で止めるか」を想定しての鍛練を相当積んでいたのではないか。そう考えると、この海堀の勝利は、そのまま山郷のぞみの勝利とも言える。
合衆国の対応は完璧だった。上記した通り、十分なスカウティングから、適切な作戦をとり、日本は完全に追いつめられた。
この合衆国の内容の攻撃の鋭さに感心し、一方でそれに全く伍して戦った、我が女子代表にもまた感心させられた。確かに平均身長体重の差はあり、接触プレイで飛ばされる事も多かった。けれども、見ていてかつての女子代表の悲壮感など、みじんも感じないほど、各員が鍛え抜かれていた。体格差、特に体重差はあったものの、それが致命的になるほどの差ではなかったのだ。実際、日本が奪われた2得点はいずれも、高さや強さと言ったフィジカルではなく、技巧と駆け引きと速さにやられたものだった。つまり、サッカー的な能力差を発揮されて失点したのだ。
一方で、合衆国の守備もよく、日本は得意の高速パス回しも思うに任せなかった。それでも、粘り強く戦い、ここぞと言うところで、宮間と澤と言う名手中の名手が、あり得ないような個人能力を発揮して追いついてくれた。諦めない精神力は見事だったが、これは合衆国もまた同じだったし、世界中サッカーの強いチームは「諦めない」のは当然の事だ。日本が見事だったのは、合衆国の隙を突き、世界最高の攻撃創造主の宮間と、世界最高の名手の澤が、その技巧と判断力をフルに発揮して得点を奪った事なのだ。
あまりに重いタイトルがかかったこの試合で、合衆国が主に攻撃で、日本が主に守備で、それぞれ最高レベルの知性と連携を発揮し、ついには両軍の攻撃のスーパースタアが、それぞれ存分に個人能力の粋を出した得点を決めた事。それにより、この試合に、本当の意味で興奮し、感動させられたのだ。何と贅沢な試合だった事か。そして、その贅沢を、自国の選手が見せてくれると言う、究極の贅沢。それも世界一を争う舞台で。
今はただ、両軍の選手達、チームスタッフ、そしてサッカーそのものに感謝するのみ。
そして、こんな鮮やかな試合を見せてくれた上に、澤と仲間達には、世界タイトル獲得と言う、最高の歓喜を提供してもらえたのだから。乾杯。
日本も合衆国も、組織的な攻守が売りで、精神的にも粘り強く、攻撃に切り札を持っている。最前線のタレントの体幹の強さ、平均体重と身長、世界での優勝経験などの差から、先方の戦闘能力が上な事は間違いないけれど。
日本のやり方は試合前から決まっていた。最前線からチェイシングを行い、敵の中盤から容易にパスを出させず、最終ラインで丁寧に受け渡しをして粘り強く守る。攻撃は中盤でボールを奪ってのショートカウンタ、サイドバックが上がってのサイドアタック、それにセットプレイ。無論、スカウティングによる合衆国各選手の特長、欠点に対する対応はあるにしても、チームとしてのやり方はそうは変わらない。
一方、合衆国にはいくつかの選択肢があった。そして、ドイツ戦とスウェーデン戦は、彼女達にとって、格好のスカウティング材料となった。
ドイツのやり方は、最前線から日本の守備陣に徹底してプレスをかける事だった。これにより、日本のパス回しを封じる事には成功した。しかし、攻撃はゴールに急ぎ過ぎ、浅い位置からのクロスが多くやや単調になり攻め切れず。北京五輪までの日本は角度の浅い位置からのクロスが弱点だった。しかし、この試合ではドイツの強引な攻撃を、全員の適切な連携と、岩清水の冷徹な指揮で防ぎ切った。さらに、あれだけ日本の最終ラインにプレスをかけたためだろう、終盤は特にドイツ前線の選手のスタミナ切れが顕著だった。
スウェーデンのやり方は、最終ラインを固め、日本に攻めさせて、長いボールの逆襲を狙うものだった。これは、北京五輪で日本に対し、合衆国やドイツがとって成功したやり方。日本の攻撃を最終ラインで止めて、攻め疲れを突いた。ところが、この準決勝、スウェーデンは、澤のミスパスから先制点を奪い優位な体勢に立ちながら、引いた事で自由にボールを受ける事ができた大野と宮間に粉砕された。
北京五輪と比較し、攻守両面で明らかに向上している日本に対し、合衆国はこのドイツとスウェーデンの失敗を的確に分析した策をとってきた。まず守備面では、澤と阪口に強烈なプレスをかけてきたのだ。この2人からパスが出なければ、日本の攻撃は寸断される。ただし、日本のDFまでは深いチェイスをしない。これによりドイツほど最前線の選手は疲弊しない。
さらに、単純なクロスは上げず、サイドチェンジを使い、逆サイドに人数をかけた突破をねらってきた。日本の両サイドバックの近賀と鮫島は足はかなり速いが、合衆国のサイドチェンジのタイミングの早さと射程距離の長さは相当で、どうしてもサイドで数的優位を作られ、幾度も突破されてしまった。
戦闘能力がより高い相手と決勝で戦う難しさは、敵が用意周到に勝つ確率を高めてくる事にある。この手の大会はどんなチームでも決勝にたどり着く前にカードを出し切ってしまうからだ。それでも、日本は岩清水を軸にしつこく守り、阪口がこぼれ球に適切に反応し、合衆国のシュートミスにも助けられ(日本が粘ったからシュートが外れると言う見方もある)、前半を無失点でしのぐ事に成功した。
阪口と澤が押さえられているのだから、比較的プレッシャがかかっていない岩清水が前線につなぐ事で(ドイツ戦の決勝点も、スウェーデン戦の先制点も、岩清水の正確で速いパスから生まれたものだった)、活路を開きたいところだったが、あれだけ猛攻されるとさすがに岩清水もそこまでの余力はないようだった。
ここで苦境を救ったのは大野だった。他の中盤の3人が、合衆国のプレスに押し込まれる中、忠実に守備をこなしつつ、幾度も前進し好機を演出した。判断のよい素早い前進と、正確なファーストタッチと、加速のよいドリブルを駆使して。安藤に通したスルーパスが、もう数10センチ内側に通っていたら、日本は前半に先制できるところだった。もちろん、合衆国の守備陣の網が、その数10センチを許してくれなかったのだが。この大野の奮闘があったからこそ、合衆国の序盤の猛攻は、30分過ぎにとだえた。最も得点が期待できる大野の中盤起用には再三疑問を述べてきたが、佐々木監督の慧眼に脱帽。これはワールドカップの決勝戦、大野のプレイに78年のアルディレス、94年のジーニョを思い出した。
後半も序盤押し込まれるが、徐々に合衆国のプレスも緩くなり、阪口が展開できるようになってくる。そして20分過ぎ、佐々木監督は永里と丸山を、大野、安藤に代え同時投入。2人の前線選手の同時投入は、チーム全体に「ここまで我慢してきたが攻めるぞ」と言うメッセージになる。丸山と永里は強さに魅力がある。これまでの安藤の質のよい動き出しと、大野の切れのより技巧による攻撃からの変化に、明らかに敵守備陣が混乱する。ベンチに実績のあるFWを2枚置いておけた事そのものが、このチームの充実を示すものだ。
けれども、ここから試合は予想外の展開となっていく。丸山との少人数攻撃から、永里が強引にシュートに持ち込もうとするも、敵CBと見事な速さで戻ってきた敵MFに囲まれてボールを奪われる。そのボールを奪ったラピノーが、高精度なロングフィード。見事な動き出しを見せたモーガンに、この日見事な守備ぶりを見せていた熊谷が振り切られ、ついに失点してしまった。
昨年の欧州チャンピオンズリーグ決勝で、モウリーニョインテルが、バイエルンを仕留めた速攻を思い出した。どうやって、これを防ぐと言うのか?永里が無理をすべきではなかった?永里はあそこで無理をして得点を狙うために起用されているのだ。阪口なり澤の押し上げが遅かった?あれは合衆国の中盤選手の戻りを誉めるべきだろう。熊谷のマークが緩慢だった?そうかもしれない、でもあの精度のパスに合わせて事前に前を向いて全力疾走するモーガンをどう押さえるべきか。ここはラピノーとモーガンに脱帽するしかない。
しかし、序盤に日本を悩ませた合衆国のプレスはもうない。全体のラインをコンパクトにして、阪口を起点に、澤と宮間の前進が顕著に。
川澄がボールを奪った時、宮間は相当後方にいた。永里の前進時に手を上げてファーに走り込むのが映ったが、実に見事な長駆。そして敵陣前の錯綜。合衆国DFがクリアしたボールを、とっさに腿でコントロール。ここまで来れば、宮間にとってブロックするGKの逆を突いて流し込むのは何も問題がない。それにしても、あの腿のトラップは、長駆直後の偶然とも言える場面で見せた、信じ難い技巧の冴えだった。
敵陣でボールを奪ってのショートカウンタは、常にこのチームが狙っている攻撃。川澄のパスを受けた永里の見事な切り返しからの低いボールに飛び込んだ丸山。皆が己の仕事を貫徹したから、ボールは宮間の前にこぼれたのだ。
ワンバックの一撃。日本のサイドを切り裂いたモーガンのドリブル。そして、ここまで見事にワンバックを押さえていた熊谷が、モーガンを注視した瞬間、ワンバックは熊谷の視野から消えた。2006年のブラジル戦、前半終了間際にロナウドを見失った中澤を思い出した。熊谷はワンバックの高さには負けなかった。けれども、ワンバックとの駆け引きに敗れたのだ。
日本も幾度も好機を掴む。澤の抜群の視野の広さから、近賀がこれまた驚異的な長駆で抜け出すが、合衆国DFも信じ難い粘り。近賀のシュートはDFにあたり運命のCK獲得。GKソロが味方と交錯し負傷。相当痛そうだ。97年ジョホールバル、これまで痛んだフリばかりしていたアベドザデが本当に痛んだのを思い出した。
澤のシュートはどこで蹴ったのだろう?これについては別途講釈を垂れたい。ただ、澤の存在感と宮間の精度。それがあの場面で出るのだから、恐れ入る。
ワールドカップの決勝で、PK戦突入直前に退場し、残った仲間が勝利を提供してくれるって、世界中の守備者の夢ではなかろうか。岩清水のあの瞬間の「滑るしかない」と言う判断の的確さ。あの疲弊した時間帯に、なおあのスピードで前進できるモーガンの見事な縦前進能力。元々「得点機会阻止」と言う反則と赤紙、黄紙の義務づけが適切かどうかと言う現行ルールへの疑問。そして、あの残り時間少ない時間帯では、退場しても懲罰的意味合いが全くないと言う事実。サッカー的にも実に深い議論ができる退場劇だった。
PK戦については、佐々木氏の笑顔と、海堀が1本目を足で止めた場面が全てだろう。あの海堀の足の動きを見る限り「PK時に読みが外れて中央付近にボールが飛んだのを、いかに足で止めるか」を想定しての鍛練を相当積んでいたのではないか。そう考えると、この海堀の勝利は、そのまま山郷のぞみの勝利とも言える。
合衆国の対応は完璧だった。上記した通り、十分なスカウティングから、適切な作戦をとり、日本は完全に追いつめられた。
この合衆国の内容の攻撃の鋭さに感心し、一方でそれに全く伍して戦った、我が女子代表にもまた感心させられた。確かに平均身長体重の差はあり、接触プレイで飛ばされる事も多かった。けれども、見ていてかつての女子代表の悲壮感など、みじんも感じないほど、各員が鍛え抜かれていた。体格差、特に体重差はあったものの、それが致命的になるほどの差ではなかったのだ。実際、日本が奪われた2得点はいずれも、高さや強さと言ったフィジカルではなく、技巧と駆け引きと速さにやられたものだった。つまり、サッカー的な能力差を発揮されて失点したのだ。
一方で、合衆国の守備もよく、日本は得意の高速パス回しも思うに任せなかった。それでも、粘り強く戦い、ここぞと言うところで、宮間と澤と言う名手中の名手が、あり得ないような個人能力を発揮して追いついてくれた。諦めない精神力は見事だったが、これは合衆国もまた同じだったし、世界中サッカーの強いチームは「諦めない」のは当然の事だ。日本が見事だったのは、合衆国の隙を突き、世界最高の攻撃創造主の宮間と、世界最高の名手の澤が、その技巧と判断力をフルに発揮して得点を奪った事なのだ。
あまりに重いタイトルがかかったこの試合で、合衆国が主に攻撃で、日本が主に守備で、それぞれ最高レベルの知性と連携を発揮し、ついには両軍の攻撃のスーパースタアが、それぞれ存分に個人能力の粋を出した得点を決めた事。それにより、この試合に、本当の意味で興奮し、感動させられたのだ。何と贅沢な試合だった事か。そして、その贅沢を、自国の選手が見せてくれると言う、究極の贅沢。それも世界一を争う舞台で。
今はただ、両軍の選手達、チームスタッフ、そしてサッカーそのものに感謝するのみ。
そして、こんな鮮やかな試合を見せてくれた上に、澤と仲間達には、世界タイトル獲得と言う、最高の歓喜を提供してもらえたのだから。乾杯。
2011年07月15日
スウェーデンを圧倒
準決勝は、ただただ日本の強さのみが目立つ試合だった。
序盤にあろう事か澤の信じ難い失態から先制を許す。澤ほどの責任ではないが、岩清水も一瞬の迷いから出足を緩めてしまい、逆に敵にあっけなく抜かれるミス。大黒柱の2人の連続ミスによる序盤の失点、状況は最悪と思われた。
けれども、日本は当たり前のように勝ってしまった。それぞれの得点も美しいものだったが、ピンチらしいピンチは一切なし。逆転以降も、長身選手によるパワープレイすら仕掛けられる事なく、余裕を持って敵をいなし、完勝だった。あれだけ悪いスタートを切りながらの、冷静な逆転劇。本当に強い国でなければ、できない試合だ。
特にこの日は、1度ボールを奪われた後、すぐ取り返す事に再三成功していた。これにより(1度奪った事で前に出たスウェーデンの裏をつけるので)再三好機を掴む事ができた。これは、準備がよくて敏捷性に優れている事もあるのだが、攻撃から守備への切り替えが格段に早いから。そして、その判断の早さが、彼女達が列強より優れているところだと思う。
正直、日本の戦闘能力は、合衆国、ドイツ、ブラジルの3強に次ぐが、スウェーデンのような欧州のトップ国と、そう大きな開きはないとも思っていた。けれども、この試合は(スウェーデンは中2日、日本は中3日と言うハンディもあったが)、そのような事以前に全くサッカーの質が違っていた。
スウェーデンは、ドイツが日本に対し前線からフォアチェックする事で押し込みほとんどチャンスを与えなかった代わりに終盤疲労で動けなくなった事を、意識したのだと思う。上記した試合間隔の違いを考慮したのかもしれない。そのため、後方を厚くし、最終ライン勝負を考えたのだろう。そう言う意味では、スウェーデンから見れば日本のミスから先制できたのだから、理想的な展開とも言えた。しかし、スウェーデンが引くから、日本の大野と宮間が思い切り挙動開始点を前にできた事で、日本がこの2人を起点におもしろいようにスウェーデン守備陣を切り裂いた。今の日本に対し、ただ後方に引いて守るのは、相当難しいのだ。
同点弾は、ハーフウェイライン過ぎで岩清水?のフィードを受けた大野が右サイドから左に向い高速ドリブルで斜行。そのドリブルにスウェーデン守備陣が皆引きつけられたところで、左で全くフリーの宮間に展開。宮間の狙い済ましたクロスに川澄が合わせた。大野のドリブルは非常によかったが、宮間を見張るべき右DFの間抜けさで勝負ありだった。川澄の先発起用には、正直言ってビックリしたのだが、見事に抜擢にこたえてくれた。また、この場面後方から川澄をどついたスウェーデンDFのプレイは非常に危ないもの。後方から、シュートを狙っていて全く無防備の川澄を悪意を持って倒しに行っていた。これはいわゆる得点機会阻止にとどまらない危険なプレイ。1つ間違えれば、川澄は重傷を負っていた怖れもあった。得点は入ったものの退場にすべきプレイだったと思う。
その後も大野の見事な技巧による突破からのプルバックを受けた川澄のシュート、川澄が倒されて得た直接FKを宮間が狙うもGKに防がれるなどの決定機をつかみ前半終了。
後半早々に、大野のミドルシュートがバーを叩く。続いて、大野のトリッキーなヒールパスを受けた近賀を起点に右サイドを破り、澤が落としたボールを阪口がシュートするもブロックされ、ボールは左に流れる。それを拾った鮫島のクロスに、安藤が飛び込み、GKがかろうじてしのぐも、そこには澤がいた。左右にボールを展開して揺さぶり、完全に敵DFはマークを見失っていた。見事な崩しだった。ちなみに、オフサイドポジションにいた安藤が、必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶりをしたのがおもしろかった。97年フランス予選の、敵地UAE戦の後半、井原の完璧なヘディングを、わざわざオフサイドポジションにいた小村が蹴り込んで台無しにしたの思い出したりして。安藤さすがです。
そして、スウェーデンが前掛りになってきたのを、宮間が狙い済ました縦パスを入れて、安藤が全くフリーで抜け出し、GKがブロックしたの拾った川澄がとどめの得点を決めてくれた、
以降は日本はテンポを落とし、ボールを保持して、危ない場面1つ作らせずに、丁寧に試合をクローズさせて試合終了となった。
欧州の強豪への完勝による決勝進出。それも偶然に頼らず、戦闘能力で完全に上回った勝利だった。感心するのは、試合を積むごとに、選手個々の能力を含め、着実に戦闘能力が上がって来ている事。難しい試合に耐え、勝ち抜く事が、(特に若い)熊谷や鮫島の成長を育んでいるのかもしれない。そして、あれこれあったが、本質的には、「優勝を狙っていたチームが、苦労しながらも堂々と決勝戦に到達した」と、言う事なのだ。
決勝の相手は合衆国。これまた厳しい相手だ。相性も悪い。しかし、先方も相当悩んでいるはず。フォアチェックに行ったドイツが疲労困憊になり、後方に引いたスウェーデンがボロボロにされたのを見ているのだ。合衆国としても、どのような策を立ててくるか。
最後の最後の壁はなるほど厚くて、高いだろう。けれども、決して破れない相手でもない。澤とその仲間達には、是非、この最高の舞台での最高の歓喜を期待したいものだ。
序盤にあろう事か澤の信じ難い失態から先制を許す。澤ほどの責任ではないが、岩清水も一瞬の迷いから出足を緩めてしまい、逆に敵にあっけなく抜かれるミス。大黒柱の2人の連続ミスによる序盤の失点、状況は最悪と思われた。
けれども、日本は当たり前のように勝ってしまった。それぞれの得点も美しいものだったが、ピンチらしいピンチは一切なし。逆転以降も、長身選手によるパワープレイすら仕掛けられる事なく、余裕を持って敵をいなし、完勝だった。あれだけ悪いスタートを切りながらの、冷静な逆転劇。本当に強い国でなければ、できない試合だ。
特にこの日は、1度ボールを奪われた後、すぐ取り返す事に再三成功していた。これにより(1度奪った事で前に出たスウェーデンの裏をつけるので)再三好機を掴む事ができた。これは、準備がよくて敏捷性に優れている事もあるのだが、攻撃から守備への切り替えが格段に早いから。そして、その判断の早さが、彼女達が列強より優れているところだと思う。
正直、日本の戦闘能力は、合衆国、ドイツ、ブラジルの3強に次ぐが、スウェーデンのような欧州のトップ国と、そう大きな開きはないとも思っていた。けれども、この試合は(スウェーデンは中2日、日本は中3日と言うハンディもあったが)、そのような事以前に全くサッカーの質が違っていた。
スウェーデンは、ドイツが日本に対し前線からフォアチェックする事で押し込みほとんどチャンスを与えなかった代わりに終盤疲労で動けなくなった事を、意識したのだと思う。上記した試合間隔の違いを考慮したのかもしれない。そのため、後方を厚くし、最終ライン勝負を考えたのだろう。そう言う意味では、スウェーデンから見れば日本のミスから先制できたのだから、理想的な展開とも言えた。しかし、スウェーデンが引くから、日本の大野と宮間が思い切り挙動開始点を前にできた事で、日本がこの2人を起点におもしろいようにスウェーデン守備陣を切り裂いた。今の日本に対し、ただ後方に引いて守るのは、相当難しいのだ。
同点弾は、ハーフウェイライン過ぎで岩清水?のフィードを受けた大野が右サイドから左に向い高速ドリブルで斜行。そのドリブルにスウェーデン守備陣が皆引きつけられたところで、左で全くフリーの宮間に展開。宮間の狙い済ましたクロスに川澄が合わせた。大野のドリブルは非常によかったが、宮間を見張るべき右DFの間抜けさで勝負ありだった。川澄の先発起用には、正直言ってビックリしたのだが、見事に抜擢にこたえてくれた。また、この場面後方から川澄をどついたスウェーデンDFのプレイは非常に危ないもの。後方から、シュートを狙っていて全く無防備の川澄を悪意を持って倒しに行っていた。これはいわゆる得点機会阻止にとどまらない危険なプレイ。1つ間違えれば、川澄は重傷を負っていた怖れもあった。得点は入ったものの退場にすべきプレイだったと思う。
その後も大野の見事な技巧による突破からのプルバックを受けた川澄のシュート、川澄が倒されて得た直接FKを宮間が狙うもGKに防がれるなどの決定機をつかみ前半終了。
後半早々に、大野のミドルシュートがバーを叩く。続いて、大野のトリッキーなヒールパスを受けた近賀を起点に右サイドを破り、澤が落としたボールを阪口がシュートするもブロックされ、ボールは左に流れる。それを拾った鮫島のクロスに、安藤が飛び込み、GKがかろうじてしのぐも、そこには澤がいた。左右にボールを展開して揺さぶり、完全に敵DFはマークを見失っていた。見事な崩しだった。ちなみに、オフサイドポジションにいた安藤が、必死にボールから離れて、プレイ関与しないそぶりをしたのがおもしろかった。97年フランス予選の、敵地UAE戦の後半、井原の完璧なヘディングを、わざわざオフサイドポジションにいた小村が蹴り込んで台無しにしたの思い出したりして。安藤さすがです。
そして、スウェーデンが前掛りになってきたのを、宮間が狙い済ました縦パスを入れて、安藤が全くフリーで抜け出し、GKがブロックしたの拾った川澄がとどめの得点を決めてくれた、
以降は日本はテンポを落とし、ボールを保持して、危ない場面1つ作らせずに、丁寧に試合をクローズさせて試合終了となった。
欧州の強豪への完勝による決勝進出。それも偶然に頼らず、戦闘能力で完全に上回った勝利だった。感心するのは、試合を積むごとに、選手個々の能力を含め、着実に戦闘能力が上がって来ている事。難しい試合に耐え、勝ち抜く事が、(特に若い)熊谷や鮫島の成長を育んでいるのかもしれない。そして、あれこれあったが、本質的には、「優勝を狙っていたチームが、苦労しながらも堂々と決勝戦に到達した」と、言う事なのだ。
決勝の相手は合衆国。これまた厳しい相手だ。相性も悪い。しかし、先方も相当悩んでいるはず。フォアチェックに行ったドイツが疲労困憊になり、後方に引いたスウェーデンがボロボロにされたのを見ているのだ。合衆国としても、どのような策を立ててくるか。
最後の最後の壁はなるほど厚くて、高いだろう。けれども、決して破れない相手でもない。澤とその仲間達には、是非、この最高の舞台での最高の歓喜を期待したいものだ。