2011年07月11日

北京からの上積み

 ドイツは立ち上がりから、すさまじいプレスに来た。イングランドもそうだったが、日本のすばやいパス回しを止める事を狙っているのは明らかだった。あれだけ、前から来られれば、いくら日本でも簡単に中盤を抜け出す事は難しい。そうやって押し込まれてしまうと、宮間も大野も挙動開始点が後方に下がってしまい、どうにも好機を作れない。
 さらに主審の判定にも日本は苦しんだ。日本もドイツも、お互いにひるまずにボールを確保しようとする。結果として、身体をぶつけ合う戦いが、あちらこちらで行われる。当然、多くの場面で体重の軽い日本選手が転倒する。ここまでは仕方がないのだが、今日の主審はそのためだろうが、日本選手が倒れても、基本的にはファウルをとらず、一方ドイツ選手が倒れると日本選手のファウルをとる、と言う原則で行動していた。イングランド戦の、手を使用して相手を押さえても構わないと言う新ルールの適用も困ったものだったが、こちらはこちらで悩ましいものだった。
 実に苦しい試合だった。
 けれども。そうやって思うように攻める事ができず、審判の判定にも悩まされながらも、彼女たちは、したたかに冷静に丁寧に戦い続けた。ドイツのプレスに負けずに、当方もプレスを仕掛け、執拗に敵にまとわりついて、中盤で自由にさせない。ドイツはドイツで、まともに中盤を抜け出す事ができなかった。時にセットプレイから危ない場面があったが、その時は各選手がとにかく身体を当てて、完全に自由なプレイを阻止する。だから、ドイツもフリーでシュートはできなかった。

 正に陰々滅々、「サッカーの魅力、ここに極まれり」と言う試合だった。

 後半半ば過ぎだっただったろうか。試合の様相が変わり始めた。ドイツの選手の反応が、次第に鈍くなってきたのだ。考えてみれば当然だ。ドイツだってあれだけのプレスをかけ続ければ、疲れてくるものなのだ。さらに、日本が前線からよく追いかけるのはいつもの事だが、ドイツのあのチェイシングは正に日本対策、不慣れな事をしている方の疲労蓄積が多いのは当然の事だった。
 それでもドイツの守備は大したものだった。交代出場した丸山や岩渕を含め、宮間や澤や永里の特長をよく理解し、ひたすら日本のよさをつぶす姿勢はさすがとしか、言い様がない。
 また後半終了間際、全員で心を1つにして、苦しいながら押し上げ、日本を押し込んだのもすごかった。正にゲルマン魂の極み、男の代表があのような状況で、アディショナルタイムに、無理矢理点を奪って勝つ場面を何回見せられた事か。しかし、この日は相手が悪かったのだが。

 丸山のシュートについて。
 その瞬間は当方も早朝歓喜絶叫状態で、川上直子さんの「カリナ、カリナ、カリナ、カリナ〜〜〜!」など全く耳に入らない程に興奮していた。しかし一方で、ボールがサイドネットを揺らすまで、「これは入る」とは全く思えなかったのが正直なところだ。それは角度が浅く、敵DFのスライディングも間に合いそうだったからだ。
 VTRでよく見ると、丸山は外に開いた姿勢から、よく踏み込んでファーサイドを狙いすまして、インサイドでボールを捉え、しかも敵DFに当たらないようにややボールを浮かしてシュートを放っている。何という難易度の高さだろうか。あれを決めるために、丸山が積み重ねてきた反復練習の回数を想像するだけで、信じ難い思いにとらわれる。
 この得点は「その場面」の劇的さによるものだけではなく、「その技術」の高さからも、長く日本サッカー史に刻まれるものとなるだろう。もちろん、澤の芸術的なダイレクトのスルーパスのタイミングと精度と共に。

 岩清水、熊谷、阪口、澤の守備の中央の4人の対人守備と、ボールを奪ってからの丁寧なプレイも取り上げない訳にはいかない。大柄な相手に、何らひるむことなく競りかけ、常に見事な駆け引きでボールをはね返し、奪い取った。そして、ボールを奪うや、多くの場合はいやらしいショートパスを回して、ドイツの前線選手を引き出し(これが敵の疲労を誘った事は上記した通り)、時には精度の高いロングボールを入れた。特に大会序盤は、やや雑なつなぎやフィードが目立った熊谷のパスが改善されていたのが愉快だった。まだ20歳の熊谷は、この厳しい究極のタイトルマッチで経験を積み、着実にステップアップをしているのだ。余談ながら、この4人がそれぞれ1枚ずつイエローカードを食らった事が、彼女たちのプロフェッショナリズムを示していた。

 この日、できが今一歩だった永里と岩渕。若くて伸び盛りのこの2人は、ドイツの厳しい守備の前に沈黙した。いや、厳しいだけではない、周到な事前調査による準備も相当なレベルのものがあった。さすがドイツだ。
 そして、重要なのは、この2人は、北京五輪からの完全な上積みだった事だ(もちろん、永里は北京でも定位置をつかんでいたが、ドイツで経験を積む事により、格段にたくましさを増している)。
 ドイツはこの日本の若い兵器を完全に押さえ、さらに上記したように徹底したチェイシングで日本の中盤のパスワークも殺した。北京五輪でのドイツのやり方は違っていた。ある程度、日本に攻めさせ、最終ラインの強さで守り、日本が疲労したところで、体格のよさを前面に出した攻撃で、得点を奪った。つまり、ドイツは北京の時とは異なり、日本のよさを徹底的に消そうとする戦いをしてきた。双方の戦闘能力差が、北京の時よりも小さなものになっていたからだ。そして、そのドイツの作戦は、ほとんど成功、日本は特に攻撃面でのよさを出せなかった。
 しかし、結果的にそのやり方は、各選手の体力を奪っていった。そして、終盤攻め切れず、最後の最後で澤の妙技から抜け出した丸山の完璧なシュートへと。これがサッカーなのだろう。

 準決勝の相手はスウェーデン。決して楽な戦いにはならないだろう。ドイツ戦で苦しみながら失敗経験を積む事ができた永里と岩渕に期待したい。
 そして、日本協会小倉会長にお願いしたい。おそるべき精神力を持つ彼女たちに、さらに奮起の材料を渡したい。青天井のボーナスの約束を。 
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2011年07月08日

女子代表の状況は悪くない

 女子代表はイングランドに苦杯を喫し、2位抜けで準々決勝で、優勝候補の地元ドイツと戦うことになった。
 難しい試合になるだろうが、元々のねらいは上位進出ではなくて、優勝なのだ。だから、優勝のためには、この最大の難敵をいつかは破らなければならないと考えるべきだろう。
 実際、1位抜けができた時に想定されていた対戦相手は、フランスーブラジルー(ドイツまたは合衆国)だった。それが、一番相性の悪い合衆国がスウェーデンに破れ、反対のブロックに行った事もあり、ドイツー(豪州またはスウェーデン)ー(ブラジルまたは合衆国)に変わった。ベスト4に入れるかどうかと言う視点からは、確率が下がっただろう。しかし、優勝と言う観点からすれば、決勝でドイツあるいは合衆国と言うフィジカルでタフな相手と戦う可能性が下がったと見ると、むしろ確率は高まったと見る事ができる(決勝で日本ーブラジルが見られる事は、世界中のサッカー狂の望みだろう)。また、地元のドイツが一番破りづらい敵であり、かつ(ちょっと悔しいが)戦闘能力が先方の方が高いとすれば、決勝よりは準々決勝の方が勝つ確率は高いはずだ。
 また、イングランド戦のように中盤で敵のプレス(と言うよりはあれはボディアタックだな)を外せないと、ドイツにも合衆国にも勝てないのは自明の理。ドイツ戦の前に、より技術が低く、強引なチームと戦い、よい予行練習ができたと考えれば、あの悔しい敗戦も悪くなかったと言う気もしてくるではないか。
 決して楽観論だけを語る気はない。しかし、いたずらな悲観論は一部マスコミやサッカー好きでない方々ににお任せして、我々は応援に専念すべきだろう。

 ともあれ、ここまでの試合を見て、女子サッカーについて少し考えた事を2点。

 1つ目。イングランド戦の1点目。もちろん、熊谷と鮫島の寄せにも問題があったし、海堀の位置どりのまずさも痛かった。ただ、あのような得点が入ってしまうことそのものに、(決して日本の問題と言う意味ではなくて)エンタティンメントとしての女子サッカーが、現行のルールでよいのかと疑問を持った。
 あの場面、上記の通り日本の2人のDFの寄せ(あるいは最初の位置取り)が悪く、得点を決めたホワイトはもう少し持ち出せば、決定機に持ち込めた可能性は低くなかった。ところが、最初のボールタッチが悪かったホワイトは、苦し紛れにただボールを蹴っ飛ばした(あれは「蹴った」のではない、「蹴っ飛ばした」のだ)。ボールは偶然にも、位置取りをあやまった海堀の手の届かないところに飛んでいった。
 要は、女性の体力(それも彼女たちはとびきりのフィジカルエリート達だ)に比較して、ゴールが大きすぎるのだ。あるいは、フィールドの大きさや、その他のルールが、適切とは言えないのだ。だから、「ただ蹴っ飛ばしただけのボール」が得点となってしまう。そして、あのような得点は、女子サッカーではしばしば見られるものだ。
 正直私はホワイトが強引に蹴っ飛ばした時に、「よかった、ラッキー」と思った。あれが、ああやって入ってしまって、日本人やイングランド人やない第3者が「おもしろい」と感じるだろうか。誤解しないで欲しいが、私はサッカーにおける「偶然や不運による理不尽」は大好きだ。特に、日本代表やベガルタが、その手の理不尽でやられた際に、大いなる快感を味わっている事は、拙ブログをお読みの方ならばよくご存じの事と思う。
 しかし、あの得点は違う。あれは「必然による理不尽」である。だから、飲み込めないのだ。

 2つ目。どうして、女子の公式戦は、女性の審判員が担当しなければならないのか。まあ、このイングランド戦、日本が獲得したCKが相手ボールになり、イングランドの選手が手を使いながらボディアタックしても笛が鳴らない「不運としか言いようのない理不尽」を愉しんだ事は否定しませんが。
 サッカーにおいては、どのような試合でも、できるだけ高い質の審判を集めるのが常である。ワールドカップは世界最高峰の審判が、若年層の世界大会ではそれに次ぐ審判が、それぞれ集う。アジアカップでも、アジア最高レベルの...あれ?!、まあいいや。
 だから、女子のトップレベルの試合は、ふつうに優秀な男の審判がやればよいと思うのだが。もちろん、女性の審判で男と互する実力がいれば、優先的に起用するのは異議がない。ただ、「女子の大会は女子の審判」と言う考え方が不思議なだけなのだが。
 誰か、理由やいきさつを知っていたら教えてください。

 と、どうでもよい事を考えながら、ドイツ戦に想いをはせるのは悪くない。
 澤とその仲間達は、満員の世界屈指のサッカー強国の熱狂的サポータを、完全に静かにさせてしまう、究極の快感を味わう機会を得たのだ。テレビ桟敷から、その快感のお相伴をいただけるかと思うと、胸は高まる。
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2011年06月29日

女子代表、順調な初戦突破

 女子代表は、丁寧に戦って終盤宮間の鮮やかな直接フリーキックでニュージーランドを振り切り、初戦をものにした。上々の出足と言えるだろう。

 北京五輪で堂々とベスト4に進出、メダルまであと一歩に迫った彼女達にすれば、次なる目標を優勝に設定したのは当然の事。ただし、だからと言って、優勝、あるいは北京五輪を越える成績を収める事は、相当難しいのは間違いない。
 まず1つ目の難しさ。北京五輪にしても、準決勝の合衆国戦、3位決定戦のドイツ戦、いずれも日本は見事な試合を見せたが、最後の最後、球際での肉体的強さに粉砕されてしまった。厄介なのは、その肉体的強さの差は、体重の差である事。いつも言っているが、サッカーでは上背の差よりも、体重の差の方が、厳しいものとなる。そして、その差は、そのサイズの選手を連れてこない限りは埋まらない。そうなると、日本が合衆国、ドイツ、そしてブラジルとの差を詰めるためには、従来以上に自分たちの強みを磨かなければならない事になる。その強みが俊敏性、素早いパスワーク、組織的な守備である事は間違いないが、これらに関しては、既に北京の段階で、これら列強を圧倒していた。既に他を圧していた強みの面で、さらに差をつけると言うのだから、これはとても難しい挑戦となる。
 2つ目の難しさ。優勝するためには、体調のピークを大会後半、準々決勝以降にに持って行く必要がある事。そのためには、ピークにならない体調で、1次リーグを抜けなければならない。しかし、これには、相当勇気がいるはず。もし1次リーグで2位になってしまうと、いきなり準々決勝で地元ドイツと戦う事になる可能性が高いからだ。つまり、ピークを迎えていない状態で、1位抜けを目指すと言う、矛盾した1次目標を達成する必要があるのだ。

 しかし、ニュージーランド戦を見て、「彼女達はその難しい挑戦に成功しつつあるのではないか」と思えて来た。

 まず戦力アップの件。
 従来日本はサイドに人数をかけ、(しかしタッチライン沿いから鋭いクロスを蹴る筋力はないので)ペナルティエリア幅くらいで外をえぐり、速いセンタリングを通すのが、得意のパタンだった(たとえば、この試合で言えば近賀のセンタリングを阪口がポストに当てたやつ)。しかし、この試合、日本はすっかりと逞しさを増した永里と安藤の最前線での持ちこたえや裏狙いを軸に、中央突破に成功しかけた。突破しきれずも、こぼれ球を拾って幾度も大野や澤がフリーでミドルシュートを打つ好機と掴めていた。これは明らかに攻撃の多様化の成功だ。ただし、この日は強引な中央突破にこだわってしまい、本来のサイド攻撃が少なくなり、攻めが単調になったのは大きな課題だが。
 さらに岩渕の鋭いドリブル突破が大きなプラスなのは言うまでもない。この日もそうだったが、大柄で(体重の重い)合衆国やドイツのアングロサクソン系のCBには、加速した岩渕のドリブルは悪夢のはずだ。ただ、岩渕は93年生まれの18歳。まだ、あまりにも若いのが気になるところだが。
 そう言う意味で鍵を握るのは、大野だと思う。大野は、開始早々敵陣でボールを奪うや、美しいロブのパスで永里の得点をアシストしたのは見事だった。けれども、その後幾度も好機をつかみながら、ことごとくシュートを枠に飛ばすの失敗。これは、小柄で必ずしもフィジカルに恵まれているとは言えない(本来最前線でプレイする)大野が、相当後方から疾走する事で最後のフィニッシュまで体力が残っていないと言う事だと思う。たとえば、北澤豪。彼も相当後方から挙動を開始し、2仕事くらいしてから最前線に進出し、最後見事に宇宙開発する場面を再三見せてくれた。何か似てるでしょ。
 この日は開始早々に大野がアシスト、後半から大野に代った岩渕がFKを奪取と、交代策がピタリとはまった。おそらく、大野、岩渕そして安藤を、うまく交代させながら戦って行く事になると思うが、佐々木監督の手腕に期待したい。

 そして、コンディショニングの問題。
 この日の日本は、守りに入った時に、1人1人の対応が微妙にずれたところを見ると、どうやら体調のピークは、大会後半に合わせていたようだ。やはり、本腰で狙っているのだろう。
 それでも、ニュージーランドに対して走力で上回り、しっかりと勝ち点3を獲得したのだから、大したものだ。1次リーグの残り2試合とて、決して楽観できるものではないが、初戦の勝利は大きい。ベストでない状態でのトップ通過と言う、矛盾した挑戦に対し、順調なスタートを切れた事は間違いない。
 これからも難しい戦いが続くだろう。そうなると、やはり澤のリーダシップに期待がかかる。共に戦って来た同世代のチームメートが次々に去り、70年代生まれのタレントは、澤と山郷のみとなった。熊谷や岩渕は90年代生まれである。そんな中で、澤が山郷と共に、いかに若いチームメートを奮起させ、戦いを継続させるか。順調にきているコンディショニングと共に注目したい。

 他にいくつか。
 守備について。問題の失点場面だが、安易に「ロングパス対応への失敗」と言うのは違うと思う。あの場面はニュージーランドが後方でボールを回し、ドガンと思い切り裏を突いたら、日本のDFの人数が足りなかったのが最大の問題だった。右に開いたFWに対し、なぜ鮫島があんなに上がっていたのか。あるいはカバーすべきボランチはどこにいたのか。そして、あそこであんなよいセンタリングを上げられたところで勝負ありだった(角度のある、あれだけ強いボールを蹴る事ができる選手は、日本にはいない、あれは羨ましいところだ)。あれはロングパスの問題ではなく、守備陣の位置取り修正の怠慢によるものだった。以降の守備振りは、ほぼ完璧だっただけに、修正を期待したい。
 また、守備とに関しては、岩清水の鋭い読みはすばらしかったのも評価すべきだろう。再三見せてくれたインタセプトは、この日の最優秀選手と言っても過言ではないと思った。
 終盤のベンチワークの拙さは厳しく評価されるべき。安藤が動けなくなっていたのに、交代が遅れた。さらに、交代選手を変更?したため、交代がロスタイムにずれこみ、結果的にロスタイムを1分延ばされてしまった。このあたりのディティールにはこだわって欲しいのだが。

 総じて、明るい気持ちになる見事な初戦だった。あと6試合、彼女達の颯爽とした活躍をテレビ桟敷で愉しめる。ありがたい事だ。
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2010年09月29日

女子ワールドジュニアユース準優勝を称えつつ

 女子ワールドジュニアユース準優勝、正に快挙である。選手達、選手を育成してきた指導者や周辺の方々、そして日本協会スタッフに、大いなる賞賛をすると共に、感謝したい。
 私事ながら、監督の吉田弘氏とは大昔の事だが面識もある。現役時代すばらしいストライカだった吉田氏が、指導者としても堂々とした実績を残した事も、非常に嬉しいことだ。

 それにしても、日本の女子サッカーの成長の速さと度合いには、本当に驚かされる。ついほんの昔のアテネ五輪では、苦闘の末かろうじてアジア予選を突破したものの、本大会で1次リーグ敗退を喫した。あの時点では、選手達の見事な精神的な充実にもかかわらず本大会で苦杯を喫した事で、「その上に行く」ための壁は相当高いのではないかとも予想された。
 けれども、女子代表はその後も堂々と進歩を継続。2年前の北京五輪では、長年戦闘能力では優位に立てなかった中国を(敵のホームだと言うのに)完勝で撃破(もっとも、予選段階から中国より戦闘能力が優位だったのだが)。惜しくも4位に終わったものの、紛れもなく世界で上位をめざせるだけの戦闘能力がある事を見せてくれた。
 そして、今回の快挙。トップの代表チームのみならず、トータルで日本の女子サッカーが世界のトップレベルにある事を、改めて示すものだと言えよう。

 ところが、日本の女子サッカー界がが抱える構造的で本質的な問題は、何ら解決されていないのが現実なのだ。
 まず、女子サッカー選手が職業人として、完全に自立し豊かな生活ができる環境が作られていない。男が日本のトッププレイヤになれれば、巨額の富も、多くの人から尊敬される名誉も、受け取る事が可能である。南アフリカで上々の戦果を挙げてくれた男達を思い起こせばよい。しかし、残念ながら日本の女子代表選手は、世界トップレベルではあるものの、そのようなプレゼンスはもちろん、経済的恩恵も得ていない。
 また、特に中学生年代で女性がサッカーを継続する環境も恵まれたものではない。現実的に、ほとんどの中学校に女子サッカー部がないため、プレイをしたいと思っても「場」そのものがないのだ。そして、これは長年「女子の球技にサッカーは含まれない」と言う伝統的な思いこみによるもの。これを解決しようとしても、少子化によりただでさえ生徒数が減少している中学校で、既存のバレー部やらバスケット部代わりサッカー部を作っていく事は不可能に近い難事。少年指導をする身としても、せっかく小学生年代でサッカーをやる喜びを見い出してくれた選手に、中学以降プレイする環境をいかに提供するかは、常に大問題であり、有効な解決策が見い出せていない。

 抽象的で漠然とした対応が思いつかない訳でもない。
 前者に対しては、サッカー界全体のキャッシュの一部を配分するやり方だ(現実的に、この方法でトップ選手を集中強化できるから、最近の女子は強くなったと言う仮説を立てる事が可能なのだが)。強化費用のみならず、トップ選手に対するボーナスを、男のサッカーで儲けたキャッシュから回す事で、少しでも女子選手の懐を豊にできないかと言う考え方である。たとえば、ここ2回の五輪は、(若手とは言え)トッププロが出場している割りには男は冴えない内容と結果に終わっている。「だったら、よほど颯爽としたプレイで結果を残している女子代表にボーナスを弾もう!」と言いたくなったは私だけではあるまい。ただ、この発想は、あくまでも限られた一部の選手に一時金がある程度入るだけであり、抜本的な解決策とはならないのがつらい。
 後者に対しては、近年幅広く普及している大人の(フットサルを含む)サッカーとの融合ができないかと言う手段があるやに思う。日本中各地にフットサルコートができ、多くの女性がプレイを愉しんでいるのだから、そこに中学生年代でプレイを継続したい少女達を組み合わせる事ができないかと言う考え方だ。ただし、現実的には、生活時間の相違や移動を考えると、中々現実には落ちて来ない発想だ。
 やはり、繰り返すが問題は構造的で本質的であり、解決は容易ではない。

 女子サッカー選手達の颯爽とした活躍を見て愉しませてもらう度に、全くgiveなくtakeばかりの己の情けなさを嘆き、何とかならぬかと思うばかりなのです。
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2010年02月06日

女子代表中国に快勝

 すっかり中国代表と「地位を逆転」してしまった女子。今日も2−0の完勝だった。
 開始早々から中盤のベテランの澤と若い宇津木が機能、技巧に優れる宮間と、闘志あふれる近賀が両翼からしかける。すっかり受けのうまくなった山口がよく動き、大野が早い動き出しで裏を狙う。また、岩清水、矢野のベテラン(と言う程の年齢ではないが)に、熊谷(強くてしつこい守備がいい)、鮫島(起点になるパスの精度と冷静さが絶妙)と言った新しい選手を加えたバックラインも安定。序盤から日本ペースで試合が進む
 アナウンサが、大野のコメントとして「フィールドプレイヤで、もう私より年上は澤さんだけになってしまった」と述べていたが、順調に若い選手が出てきているのは喜ばしい。実際、控えの選手は初めて聞く名前が多い。日本協会が蓄積して来た女子代表強化が一定の成果を挙げていると考えるべきだろうか。
 しかし中国のCBの袁帆が強くて抜群の読みで、日本の前に立ち塞がる。大野も山口もギリギリのタイミングで抜けかけるのだが、しっかりと身体を入れられて防がれてしまう。佐々木監督は、安全策を指示したのかもしれないが、矢野、鮫島の両サイドの追い越しが少なく、サイドからの攻めが少ない事もあり、崩し切れない。 
 とは言え、このような試合は飛び道具が有効。宮間のFKだが、無回転のボールの強さと精度もすごかったが、キック直前に風でボールが動くのを宇津木?が置き直した直後にスタートを切ったタイミングもよく、壁がうまく反応できなかったようだ。
 先制後も、CKから岩清水が落とし近賀のシュートが僅かに外れる。CKからの2次攻撃で岩清水が全くフリーのヘッドを外す(オフサイドだったらしい)などの決定機があった。ただ、サイドバックの上がりが少ない事もあり、流れからは袁帆を突破できず。
 逆にセットプレイから高さを生かされて2回ほど、危ない場面があった。いずれの場面もよく相手に寄せて、自由にヘッドさせなかったとも取れるのだが。

 後半に入っても同じ展開。どうしても袁帆を突破できない展開が続く。けれども、60分あたりに追加点。右からの揺さぶりを袁帆がはね返したボールを、中国DFがミス、そのボールが近賀の前に落ち、冷静に決めた。これは決して偶然ではない、執拗に攻撃を繰り返した事で敵にミスが出たのだし、近賀は精力的に上下動していたからボールが拾えた。そして、偶然飛んで来たボールへの冷静な対応も的確だった。真面目に丁寧に戦い続ければよい事が起こるのだ。試合はこれで決まった。
 以降、山口に代えて期待の岩渕が登場。岩渕、宮間、大野と鋭いパスをつなぎ、近賀が全くフリーになりGKをいなしたシュートが敵DFにかきだされた場面、大野が岩渕とのワンツーで抜け出した場面、日本は2回袁帆を突破する事に成功した。
 終了間際、岩渕がフリーで抜け出したがシュートをGKにぶつけてしまった。オフサイドだったので、入ろうが入るまいが関係ない場面ではあったが、あそこからもう一工夫欲しかったのだが、まあこれからだな。

 よい試合だったと思う。しかし、彼女達の真の相手は中国ではない。
 果たして、ドイツやUSAやブラジルに、この攻撃が通用するか。袁帆を突破するのに苦労している状況ではまだまだ。もちろん、安藤も永里もいなかった。多くの選手はまだ若く伸び代をたっぷり残している。ただし、少々よい試合をしたからと言って、それを評価するのは彼女達に失礼だろう。もっともっと袁帆を突破できるような攻撃を工夫しなければ。
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2008年08月21日

素晴らしい試合に感謝

 今晩は野暮は、なし。本当にここまでありがとう。飲んで寝ます。
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2008年08月19日

敗因がフィジカルではなかったからこそ、銅メダルの可能性は十分

 前半セットプレイ崩れを巧く拾い、近賀の思い切りの良さと、大野の冷静さで見事に先制。その後、合衆国が力攻めを試みるが、日本の素早いフォアチェックで思うに任せず、合衆国も無理をせずに様子を見る展開。そのため、日本はよいペースで攻め込むが、パスの精度がもう1つで攻め切れない。
 そして40分、合衆国は久々に速い展開で、右オープンでロイドが矢野と1対1にするのに成功、この時点では日本の守備の人数も足りており、それほど危ない場面には見えなかった。ところが、岩清水のカバーが遅れ、矢野が縦の突破を許したのに対し中途半端な位置でセンタリングを見送るのみ。ニアでつぶれたロドリゲスに池田と安藤?が引っ張られ、中央でハプルスが全くのフリーになってしまった。その外にいた阪口が岩清水のカバーが遅れた時点で位置取りを修正していれば全く問題なかったのだが。これまで見事なプレイを見せてくれていた岩清水と阪口にミスが出てのまさかの失点。合衆国が日本に合わせたかのようなスローテンポでプレイをしていた時間帯で、若い2人に同時に気の緩みが出てしまったのか。一方で、合衆国の一瞬のスピードアップ、緩急の使い方は見事だったとも言えるのだが。
 しかし、まだ同点であり、ゲームプランから言っても前半の1−1は御の字のはずなのに、この失点後突然に全員の動きがにぶり、フォアチェックが利かなくなる。安易なクリアで逃げる場面が多く、嫌な予感がしていたら、近賀の軽いプレイをつかれ左サイドで2対1を作られる。そして、強引に中央に切れ込んできた左サイドバックのチャプルニーが、安藤を抜き池田のカバーの直前に強シュート。福元もブラインドだったのか、ほぼ正面やや上方のボールを止め損ね、信じ難い逆転を食らってしまった。この得点は、この日の合衆国の攻撃に唯一日本の守備を切り裂かれた場面だった。もう1つ、この場面を含め、大黒柱池田がこの日は精彩を欠いていたように見えたのだが、さすがに疲労だろうか。
 後半、日本の運動量が上がらず、前半のように有効な攻め込みが中々できなくなる。佐々木監督はボールを触る回数が増えない安藤に代えて原を投入する。しかし、この日の原はノルウェー戦の好調ぶりが全く見られず、ベテランらしからぬ球離れの遅さと判断の悪さで好機を演出できない。このような状態になった以上は、早めに疲労が顕著な永里に代えて荒川か丸山を投入し、前線からのチェックを増やすしかないと思われたが、佐々木氏は中々動かない。ようやく、荒川が交代しそうになった70分過ぎに3点目が入ってしまい非常に苦しくなってしまった。リードされて前掛り気味になり、日本の守備人数が足りないところでの逆襲や空中戦での失点のリスクも高い状態だっただけに、早めに交代の手を打つべきではなかったか。
 3点目にせよ、4点目にせよ、狙ったとも思えないボールが福元の読みと外れて枠に飛んで入ったもの。いずれも福元のミスと言えばその通りだが、不運と言えばこれ以上ない不運とも言えるだろう。元々小柄な福元は、敵の攻撃を「読む」事で日本陣を守り続けてきた。このように読むキーパは、逆に敵がミスをして、狙っていないボールがたまたま枠に飛んだりするのを守るのが非常に難しい事になる。「偶然」は「読めない」のだ。福元は2点目については猛省が必要だが、3、4点目は割り切らなければならない。あのような不運はそうそう訪れる事はないのだし、消極的にならずに「読む」事に専念すべきだ。幸いな事に試合終了間際の合衆国の逆襲を、福元は見事な飛び出しで止めた。どうやら福元の気力は萎えていないようだ。

 この難敵に対し、これだけミスと不運が重なり、さらに主将の出来も今一歩だったのだから、勝てる訳がなかった。それでも、終盤気力を奮い立たせ幾度か攻め込み、1点を奪ったのは次につながるのではないか。実際、この日を振り返っても、失点のうち「完全にやられたもの」は2点目だけ。一方で決定機、好機はそれなりに獲得に成功していたのだ。結果的に大差がついたが、この日はフィジカルで負けたのではなく、駆け引きや経験(と運不運)で負けたのだ。決して悲観的になる必要はない内容だった。そして、特に若手選手は「この日の失敗」を糧として、2度と繰り返さない「失敗経験」としてドイツ戦に臨べばよいのだ。
 ドイツは合衆国以上に「力任せ」で来る可能性もありその面ではより厳しい戦いになるかもしれない。しかし、合衆国ほど緩急の変化はないはずだ。組織守備と変化ある攻撃では、優位に立てる可能性もある。
 この日の後半の戦いぶりを見ても、各選手に相当疲労が蓄積しているのは間違いない。そもそも、高温多湿の場所で、中2日で6試合と言う日程が狂的なのだ。そして、その影響は運動量を生命線としている日本に対し、容赦なく利いてくる。しかし、母国からより遠く、慣れない気候に対応しているドイツ選手の方が、もっと苦しいのだ。
 もう1度体調を整え直し、何としてでもメダルを獲得して欲しい。
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2008年08月16日

ここまで来たからこそ、メダルが欲しい

 女子代表は中国に完勝し、準決勝進出に成功。
 序盤から大野と永里のフォアチェックで中国の起点を押し下げフィードの精度を落とし、澤と阪口がその不正確なフィードを受けようとする敵MFを見事に刈り取る。池田と岩清水のCBはコースの読みは抜群。上背で勝る敵選手よりも格段に適切な位置取りで、再三インタセプトに成功するのみならず、空中戦でも完勝。宮間と矢野(柳田)、大野と近賀の両翼は抜群の運動量でサイドで数的優位を作り、中盤で優位に立つと、精度の高いパスを前線に。これを受けた2トップは動き出しの早さと瞬発力の速さで好機を次々に演出する。
 ここまでサッカーの質、技巧と判断力で圧倒しても、いわゆるフィジカルの差は大きかった。崩し切れない場面も多かったし、最後の場面でバランスを崩し弱々しいシュートしか打てない場面も再三。また、不正確なパスで攻め込まれたにもかかわらず、強引に持ち込まれCKを与え、ヒヤリとする場面もあった。
 それでも、宮間の高精度CKと澤の見事な間合いと位置取りによるヘディングで先制。終盤には、根負けした中国DF陣を、大野と永里が脚力で切り裂いてトドメを刺した。

 アジアで、北朝鮮、中国の強いフィジカルに勝つ事が非常に難しかったのは、ほんの1、2年前の事だったのだ。その僅かな過去が隔世の感を思わせる完勝。澤、池田らのベテランを軸に組織的な攻守のレベルが上がったのみならず、宮間、岩清水のような「個」に優れた若手を組み合わせた佐々木監督の手腕は高く評価されるべきだろう。
 巷では今回の女子代表は「戦う姿勢」を評価する向きが多いようだが、私はそれ以上に各選手の相互を信頼した連動と、都度見せる判断力の的確さに感心している。あそこまで、全員が意思統一され適切なプレイを継続しているのだから、なるほど強いはずだ。これだけ相互理解が充実したチームと言うのは、欧州や南米の男のチームを含めそうは見られないように思える。

 そして、ここまで見事なサッカーを見せてくれているチームなのだ、もっと具体的な成果であるメダルを、それも可能ならば金メダルを取って欲しいではないか。それだけの戦闘能力は十二分に持っている選手たちなのだから。
 ここ数年の女子サッカーの右肩上がりは素晴らしいものがあるし、前回、今回の五輪での女子代表の奮闘などもあり、サッカーを志す少女が増加し、一層の強化が図れる可能性は低くないだろう。しかし、だからと言って澤穂希のようなタレントがそう出てくるかどうかはわからない。これだけの好チームなのだ、澤を軸にした今回のチームの良さを存分に発揮し、何としてでもメダルを取って欲しい。繰り返すが、このチームは十二分にその権利を持っている。

 準決勝は1次リーグで完敗した合衆国。中国とは異なり大変な難敵だ。技巧は互角、フィジカルは劣勢、判断力は優勢と言うところか。そして、過去の試合では、体力差をどうしてもカバーできずに勝てずに来た訳だ。そして、今回初勝利を挙げられるかどうかのポイントは、そのフィジカル差を打ち破り、いかに攻め切って点を取れるかどうかだと思う。そのためには2つポイントがあると思う。
 1つ目は先日のニュージーランド戦でも述べたセンタリングの問題。日本が稠密に攻撃を組み立てるためには、両翼に早く展開するのが重要なのだが、一方でセンタリングの弱さは結構な課題。せっかく両翼に展開してもそこから崩し切れないケースがこれまでも多かった。逆に1次リーグで合衆国に食らった失点は、左サイドをえぐられ角度が深く強いセンタリングからのものだった。あのようなボールを蹴る事ができるフィジカルを持つ選手は日本女子にはまだいない。しかし、強いセンタリングを上げると言う意識を持って、最後まで集中を継続する事は可能なはずだ。その集中が勝負を分けるのではないか。
 2つ目。中国戦での不満は、各位がミドルシュートを狙った際に、GKのファンブルを期待して詰める選手がほとんどいなかった事。あれだけ動いた大野と永里に酷な要求なのはわかっているが、それでもお互いが(あるいは他の選手が)ミドルを狙った時は、必ず詰めて欲しい。残る2試合180分間(いや240分間かもしれないが)で、その詰めが歓喜を呼ぶ可能性は決して低くないと思うのだが。

 ついでに戯言。多くの報道に「ここまで来たのだから『勝たせてやりたい』」と、彼女達に非常に失礼な表現が見受けられる。そうではないよね。彼女達は「勝ってくれる」のだ。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月26日

女子代表東アジア初制覇

 中国戦の勝利は完璧なものだった。正直言って、女子代表が中国相手にここまで完璧な勝利を収めるなんて、過去もなかったし、予想もしていなかった。私が過去記憶している女子代表のベストゲームは、アテネ五輪のスウェーデン戦ではないかと思っているが、あの試合を凌駕するような試合だった。90分間、技巧と知性で完璧に中国を圧倒できたのだから。

 今大会はどうにも都合がつかず、女子代表の試合は最終戦まで見る事ができていなかった。私の理解では(今思えば非常に安易な思い込みでの)東アジアのランキングは、北朝鮮と中国は日本を上回り(その差の多くは選手のフィジカル差だけなのだが、どうにもその差が大きい)、韓国よりは明らかに上と言うもの。初戦の北朝鮮戦の勝利は終盤の逆転劇で、よほど痛快なものだったようだが、一方で相当劣勢な試合だったとの報道だった。
 そして迎えた最終戦は地元中国との対決。日本はここ最近中国に勝った事はあるが、押され気味の試合を巧くまとめたと言う印象が強い試合振り。敵地と言う事もあり、引き分けでも優勝と言う状態ではあったが、楽な戦いにはならない事が予想された。
 ところが試合が始まってみると、内容でも中国を圧倒。ボランチの澤、阪口の早い展開を起点に、柳田、近賀が攻め上がりサイドの数的優位を作る。荒川と永里(永里の切れ味、切り返しの速さ、がアジアのトップになった事が今大会最高の成果ではないか、この速さが欧州勢に通用してくれれば)の大きな動き。宮間(宮間が流れの中で、あの技巧を活かせるようになった事は今大会2つ目の成果に思える、この技巧が欧州勢に通用してくれれば)を発揮できるようにの高精度のパスと、大野の狡猾さで、中国の浅いラインがボコボコになる。男子同様判断力に欠け、男子と異なりラフプレイをする訓練を受けていない中国の選手達は、どうしてよいのかわからなかったのだろう。ただ、日本の選手を追いかけ回すだけだった。
 0−2になった後半、長身選手を増やし空中戦に活路を見出そうとした中国だが、ハーフラインを超えたところで起点すら作れないのだから話にならない。むしろ、中国は彼我の実力差を考慮し、(例えば先日の埼玉でのタイ代表のように)引きこもって守備を固めて日本の焦りを誘うべきだったろう。しかし、過去の戦歴を考慮すれば、ここまで戦闘能力差が開いているとは予想しようがなかったと言う事か。

 過日私は女子代表の課題として、若くて技巧的な選手達が持ち前の技巧をエゴイスティックに発揮する事ではないかと述べたが、永里、近賀、宮間、阪口、大野らが正にそれらの課題を解決した大会と言えるのかもしれない。
 また、今大会は長年代表の中核を務めていた宮本が不参加、下小鶴が負傷離脱、加藤(酒井)、池田(磯崎)が控えに回る事が多かった。それでも、若手が十分にその穴を感じさせない活躍を見せた事は、重要だと思う。一方で、山郷がレギュラを再び奪うなど、純粋によい意味での定位置争いが激しくなっているのだろう。
 では、アテネでの好成績はどうかとなると、上記のエントリでも述べた肉体能力差を、いかに知性と技巧で埋めるかと言う話になろう。少なくとも、中国は圧倒するが、北朝鮮には相当苦労するレベルまで来た女子代表だけに、非常に面白い戦いができると思う。と、同時にもしそれなりの成績を上げる事ができれば、上司代表は世界のサッカー界で他国と全く異なるアプローチを行っていると言う意味での評価も期待できるように思う。

 川淵会長が、女子代表選手へのボーナスをはずんだとの報道を目にした。どうせ、男子への出費がなくなったのだし、女子代表史上初めてのタイトル獲得だったのだから、もっと奮発してもよかったと思うのだが。
 将来日本の女子サッカーを振り返る時に、この初優勝が、男子における92年ダイナスティカップと同じ扱いになる事を祈る。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月07日

女子代表監督佐々木氏について

 高校選手権の1回戦、日章学園ー水戸短大附属高戦。日章学園の早稲田監督のそっくりのご子息がプレイしていた。試合はPK戦になったが、31年前の準決勝の帝京高ー浦和南高戦で、選手早稲田(もちろん父親の方、大柄ではなかったが技巧に優れたCFだった、帝京高卒業後古河に進み、A代表入りも取沙汰された事もあったが、若くしてトッププレイヤを断念し、故郷宮崎に戻り指導者の道を歩み、今日に至っている)がPKをポストに当てて失敗したのを思い出した。もっとも、ご子息はしっかりとPKを決め、次ラウンド出場に貢献したのだが。ちなみに水戸短大附属高の巻田監督もずっと若い(あの本田泰人、森山泰行、礒貝洋光らの1年先輩のはず)が帝京高出身だな。などと早稲田監督の思い出に浸っていて思い出した事がある。先日女子代表の新監督に就任した佐々木氏についてだ。佐々木氏はあまり知られていないが、帝京高で早稲田らの1年先輩で主将を務めていたのだ。
 高校選手権が首都圏に移転した最初の76−77年大会の決勝戦が、浦和南と静岡学園の5対4の試合であり、水沼貴史や田中真二や森下申一が1年生ながら活躍していたのは、多くの方がご存知だと思う。そして、上記のように準決勝で帝京高は浦和南にPK戦で敗れた。しかし、むしろ大会前に優勝候補と評価されていたのは帝京高の方だった。この年のインタハイ、帝京は圧倒的な強さで優勝していたからだ。そして、その帝京の主将を務めていたのが、佐々木則夫だった訳だ。
 帝京の高校選手権初制覇は、それから2年遡る74−75年シーズンだった。主将の広瀬龍(元フジタ、現帝京高監督)をCFにした帝京は、決勝で長澤和明(元ヤマハ、現常葉学園橘高監督、お嬢さんの方が有名)、内山勝(元ヤマハ、現ジュビロ監督内山篤の実兄)率いる清水東高を3−1で破り、念願の全国制覇を上げる。後年、勝利しても悠然とベンチで試合を見守る事が多かった古沼先生だが、この頃はまだ若く、帝京が1点取るたびにジーコばりに飛び上がって喜んでいたのが懐かしい。そして後知恵だが、80年代のユース世代の名勝負と言われる古沼対勝沢の先駆けとなる対決でもあった。
 この全国優勝で飛躍的に知名度が上がった帝京は、以降全国から選手を集めるようになる。そして、75年の4月に全国から若き逸材を大量に入学する。具体的には、早稲田の他には、宮内聡(元古河、女子代表監督、現成立学園総監督、日本サッカー史に残る名ボランチ)、金子久(元古河、巨漢で空中戦も足技も巧みだったCB)、高橋貞洋(元フジタ、高校時代にA代表に選考された俊足ウィング)らがいた。そして、上記したように翌年の76年インタハイを、当時2年生だった彼らを中軸に帝京高は圧倒的な強さで制覇していたのだ。
 そう言ったスター選手ぞろいの下級生をリードする立場だった佐々木は非常に落ち着いた球さばきを見せるMFだった。帝京高卒業後は明治大でプレイ、その後電電関東(NTT関東)でプレイを続けた。選手引退後はNTT関東を基盤にしたアルディージャの監督を務めるなどして、指導者の経歴を積み、今回の女子代表監督就任に至った訳だ。改めて帝京高が輩出している人材の豊富さに関心する。
 そして、佐々木氏がその豊富な経歴を活かし、北京で見事な采配を振るう事を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする