トゥールーズと言う街は、日本のサッカー狂たちにとって特別な存在だ。理由は簡単、ちょうど四半世紀前の1998年6月14日、私たちはこの街で、生まれて初めてW杯本大会の試合を味わうことができたから。そう、あのバティストゥータにやられたアルゼンチン戦を。
ゴール裏で君が代を歌えた感動、井原正巳を軸にした組織守備が機能した喜び、0-1で終盤まで凌ぎ終盤幾度か好機をつかんだものの決められなかった嘆息。試合後、ビールや葡萄酒と共に堪能した名物料理のカスーレ。
ラグビーW杯、日本は明日の初戦を、そのトゥールーズでチリと戦う。
毎週、ベガルタ仙台の試合を追いかけ、世界最強に駆け上がりそうだった熊谷紗希と仲間達の不運に切歯扼腕し、バスケットW杯で富樫勇樹と仲間達の颯爽たる五輪出場権獲得に熱狂、そして、姫野和樹と仲間達の初戦の半日前には、遠藤航と仲間達が戦うドイツ戦(先方にとっては10ヶ月前の復讐戦!)。贅沢なことだ。
前回日本で行われたラグビーW杯は本当に楽しかった。あの静岡でのアイルランド戦の歓喜、日本敗退後の準決勝以降の国歌斉唱時の空虚感。大会をサッカー狂の視点から振り返ったこのような文章を書かせてもいただいた。
正直言って、ラグビー代表の今大会準備のテストマッチを振り返ると、内容も結果も芳しいものではなかった。そのため、前々回、前回のような好成績を収めることができるのか、とても心配だ。ただし、そこには多くの錯綜した事情があったのは、ラグビーシロートの私にも理解できる。
まず前大会と比較すると、今回の代表チームは準備期間が短い。前大会は9月の大会に向けて2月から代表候補選手を集中強化していた。しかし、今大会の強化合宿は6月からだった。おそらく頻繁にテストマッチを行っていた7月はフィットネス系の鍛錬を相当行っていたはずで、各選手のコンディションが整っていなかった可能性が高い。
しかし、これは落ち着いて考えれば健全なことだ。ラグビーを本質的に日本に定着させる目的で作られたリーグワンが2シーズン目を迎え、5月まで熱戦が繰り広げられていたのだから。クボタスピアーズ船橋・東京ベイが、主将立川理道の信じ難いキックパスで、埼玉パナソニックワイルドナイツを破った決勝戦など、すばらしかったではないか。
前大会、準々決勝で南アフリカに敗れた最大の敗因は、選手層の厚さだった。前半互角の攻防を続けていた日本だが、後半両軍が選手交代を重ねるにつれ、FW戦の劣勢が明らかとなり、次々に失点を重ねた。控え選手のレベルが相当違っていたのだ。代表チームの選手層を厚くするのは、長期の代表合宿では不可能。長期的には普及活動をして選手人口を増やすしかない。一方で短期的には国内リーグのレベルを上げて、優秀な選手を増やすしかないのだ。そのあたりについても、このような文章にまとめたことがる。
前大会、あるいは前々大会、日本ラグビー協会は、地元W杯を控えていたこともあり、単独チームに相当迷惑をかけながら、長期強化合宿で成功を収めた。しかし、そのようなやり方は続かない。結局単独チームの強化がおざなりになり、選手層を厚くすることはできないからだ。
強化合宿が短かったことの他にも障害があった。選手の負傷が多かったことやベテランの退場劇である。
若手の大型ロックとして期待されているワーナー・ディアンズや、頑健で瞬足な若手ウィングのシオサイア・フィフィタは、テストマッチにまったく出場できず、ほとんどぶっつけ本番で大会に臨むことになる。ロックの中心選手ジェームス・ムーアは大会直前に離脱。同じくロックのアマト・ファカタヴァは一度離脱したが治療がうまくいったのか、直前の復帰に成功。本当に全選手がよい体調で大会を迎えられるのかと言う不安は尽きない。この激しい競技で負傷はつきものでしかたがないのかもしれないが、
また、サモア戦でのリーチ マイケルとフィジー戦でのピーター・ラブスカフニの退場も痛かった。最近のルール改正で、意図的ではなくても結果的にタックルが相手の頭に向かって行われると無条件で一発退場となったらしい。代表主将を務めたことがあり、経験豊富な2人が対応し損ねたのだから、選手達には順応が難しいルール変更なのだろう。この2件の退場劇は、単にテストマッチの勝敗と言うこと以上に、その試合での連係成熟と言う視点で痛かった。さらにラグビーは、一度退場となると、続く複数試合退場になるので、一層連係成熟が難しくなる。
上記した要因を考えると、テストマッチでの内容や結果が芳しくなかったのはしかたがないことなのだろう。肝心なのは明日から始まる本大会なのだから。今大会、前大会と比較して多くの外乱を抱えることになったジェイミー・ジョセフ氏がどこまでチームを仕上げることができたかは、神のみぞ知ることだ。少々怖いもの見たさもあるが、それらの不安が裏切られ、4年前同様の歓喜が連続することを期待したい。
2023年09月09日
ドイツとの再戦
早いもので、カタールの興奮から1年近く10ヶ月が経った。
一方でW杯予選やアジアカップも近づいてきている。48国出場と言うおよそ緊張感のないW杯予選、優勝以外考えられないアジアカップと、何とも味わい深い相違はあるが、代表の試合が楽しいことだけは変わりない。
そして、今回の欧州の強豪ドイツ、トルコとの2連戦。欧州各国がクローズな地域対抗戦を重視するようになり、なかなか有効な親善試合が組めなくなっている中で、良好なマッチメークを行った日本協会にも敬意を表したい。そして、11月には早くもW杯予選が2試合。その後、アジア制覇奪回をねらい選手達は1年ちょっと振りにドーハに降り立つ計画。落ち着かない楽しい日々が続くが、ありがたいことだ。
まずはドイツ戦。親善試合とは言え、先方からすればカタールの復讐戦。さらに言えば、最近の試合でドイツはすっかり不調(W杯終了後、1勝1分3敗)とのこと。この手の親善試合では珍しく、先方がどうしても勝利を挙げたい事情が強い。これは、難しいが楽しいタフな試合が期待できそうだ。もちろん、ドイツは強いのは間違いない。特にここ10年くらいのドイツサッカーは、昔の無骨さがなくなり、柔軟で洗練されたパス回しを見せてくる。ドーハでも前半、当方が相当引いていたこともあったが、パスの強弱を巧みに使い分け、押し込まれたことが記憶に新しい。
加えて、続いてトルコ戦。「トルコ」と聞くとついつい「21年前故郷宮城の復讐戦だ!」と言いたくなりますね。しかし、あのドーハの歓喜からもう10ヶ月経ったのも驚きだが、あの雨の利府の絶望からも既に21年が経ったのか。時の経つのは、本当に速いものですね。
アジアカップに向けて、森保氏は様々なトライアルを行いたいことだろう。
負傷がちだった冨安健洋が復活したところで、どのような守備網を構築するのか。ここまでの森保氏の起用のやり方を見ていると、右から菅原由勢-冨安-板倉滉-伊藤洋輝をベストと考えているように思うが、ドイツ戦の先発はどうなるのか。また、少々手薄完がのある左DFをどう考えているのか。ただ、ここは中山雄太が負傷から回復すれば問題なくなるのかもしれないが。DFラインでちょっと不思議なのは、瀬古歩夢の不選考。ここまでの起用方法を見ている限り、CBは冨安は別格として、板倉、谷口に続く序列は瀬古なのかと思っていたのだが。まあ。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹と言った大ベテランは事実上代表を去ってもなお、幾多の人材がいるのだから、文句を言ったらバチが当たりますね。
中盤後方の選手選考が少ないのは、以前も講釈を垂れたが、森保氏の方針か(笑)。今回も川辺駿は呼ばれていない。合わせて気になるのは田中碧、東京五輪時点では日本代表全軍の指揮官獲得の時は近いと期待していたのだが、ドイツの2部リーグのチームから中々転身できないのはどうしたことか。結局リバプール入りした主将の遠藤航と守田英正を軸とすることになるだろう。しかし、このポジションはそれなりにタレントは多数いると思うのだが、森保氏は断固として多数を呼ばない。このポジションだけは妥協を一切許さず、自分の水準を超える選手しか選ばない方針なのだろうか(笑)。
前線のタレントは本当に潤沢。現状では、両翼に伊東純也と三笘薫を並べるのが最強布陣かと思うが、その場合真ん中の2枚を8人が争うことになる(笑)。さらに今回は、ドラミ相馬勇紀と最近好調が伝えられる南野拓実が不選考なのだから贅沢なものだ。
私がサッカーをはじめた半世紀前。
ドイツ(当時は西ドイツでしたが)と戦うことはもちろん、勝つなどと言う概念は存在しなかった。いや、W杯に常時出場することや、アジアカップで常に優勝をねらうなども、およそ想像すらできなかった。
アジアカップを初制覇したのが31年前か。以降90年代、日本は驚異的な右肩上がりでサッカー界の地位を上げていった。その右肩上がりは、いつか止まるだろうと思っていた。しかし、もちろん上がり下がりはあったし、微分値こそ小さくなったが、今なお右肩上がりは継続している。気がついてみたら、W杯本大会でドイツやスペインに勝ってもおよその驚きはなくなり、欧州のトップクラブで当たり前のように日本人選手が活躍している。多くの有為なタレントが欧州に流出しても、Jリーグは常にスキルフルな選手を多数抱え熱狂的な試合が、日本中のどこでも見ることができる。
などと半世紀の思いを抱えながら、ドイツを返り討ちにするのを、じっくり楽しみたい。
一方でW杯予選やアジアカップも近づいてきている。48国出場と言うおよそ緊張感のないW杯予選、優勝以外考えられないアジアカップと、何とも味わい深い相違はあるが、代表の試合が楽しいことだけは変わりない。
そして、今回の欧州の強豪ドイツ、トルコとの2連戦。欧州各国がクローズな地域対抗戦を重視するようになり、なかなか有効な親善試合が組めなくなっている中で、良好なマッチメークを行った日本協会にも敬意を表したい。そして、11月には早くもW杯予選が2試合。その後、アジア制覇奪回をねらい選手達は1年ちょっと振りにドーハに降り立つ計画。落ち着かない楽しい日々が続くが、ありがたいことだ。
まずはドイツ戦。親善試合とは言え、先方からすればカタールの復讐戦。さらに言えば、最近の試合でドイツはすっかり不調(W杯終了後、1勝1分3敗)とのこと。この手の親善試合では珍しく、先方がどうしても勝利を挙げたい事情が強い。これは、難しいが楽しいタフな試合が期待できそうだ。もちろん、ドイツは強いのは間違いない。特にここ10年くらいのドイツサッカーは、昔の無骨さがなくなり、柔軟で洗練されたパス回しを見せてくる。ドーハでも前半、当方が相当引いていたこともあったが、パスの強弱を巧みに使い分け、押し込まれたことが記憶に新しい。
加えて、続いてトルコ戦。「トルコ」と聞くとついつい「21年前故郷宮城の復讐戦だ!」と言いたくなりますね。しかし、あのドーハの歓喜からもう10ヶ月経ったのも驚きだが、あの雨の利府の絶望からも既に21年が経ったのか。時の経つのは、本当に速いものですね。
アジアカップに向けて、森保氏は様々なトライアルを行いたいことだろう。
負傷がちだった冨安健洋が復活したところで、どのような守備網を構築するのか。ここまでの森保氏の起用のやり方を見ていると、右から菅原由勢-冨安-板倉滉-伊藤洋輝をベストと考えているように思うが、ドイツ戦の先発はどうなるのか。また、少々手薄完がのある左DFをどう考えているのか。ただ、ここは中山雄太が負傷から回復すれば問題なくなるのかもしれないが。DFラインでちょっと不思議なのは、瀬古歩夢の不選考。ここまでの起用方法を見ている限り、CBは冨安は別格として、板倉、谷口に続く序列は瀬古なのかと思っていたのだが。まあ。吉田麻也、長友佑都、酒井宏樹と言った大ベテランは事実上代表を去ってもなお、幾多の人材がいるのだから、文句を言ったらバチが当たりますね。
中盤後方の選手選考が少ないのは、以前も講釈を垂れたが、森保氏の方針か(笑)。今回も川辺駿は呼ばれていない。合わせて気になるのは田中碧、東京五輪時点では日本代表全軍の指揮官獲得の時は近いと期待していたのだが、ドイツの2部リーグのチームから中々転身できないのはどうしたことか。結局リバプール入りした主将の遠藤航と守田英正を軸とすることになるだろう。しかし、このポジションはそれなりにタレントは多数いると思うのだが、森保氏は断固として多数を呼ばない。このポジションだけは妥協を一切許さず、自分の水準を超える選手しか選ばない方針なのだろうか(笑)。
前線のタレントは本当に潤沢。現状では、両翼に伊東純也と三笘薫を並べるのが最強布陣かと思うが、その場合真ん中の2枚を8人が争うことになる(笑)。さらに今回は、ドラミ相馬勇紀と最近好調が伝えられる南野拓実が不選考なのだから贅沢なものだ。
私がサッカーをはじめた半世紀前。
ドイツ(当時は西ドイツでしたが)と戦うことはもちろん、勝つなどと言う概念は存在しなかった。いや、W杯に常時出場することや、アジアカップで常に優勝をねらうなども、およそ想像すらできなかった。
アジアカップを初制覇したのが31年前か。以降90年代、日本は驚異的な右肩上がりでサッカー界の地位を上げていった。その右肩上がりは、いつか止まるだろうと思っていた。しかし、もちろん上がり下がりはあったし、微分値こそ小さくなったが、今なお右肩上がりは継続している。気がついてみたら、W杯本大会でドイツやスペインに勝ってもおよその驚きはなくなり、欧州のトップクラブで当たり前のように日本人選手が活躍している。多くの有為なタレントが欧州に流出しても、Jリーグは常にスキルフルな選手を多数抱え熱狂的な試合が、日本中のどこでも見ることができる。
などと半世紀の思いを抱えながら、ドイツを返り討ちにするのを、じっくり楽しみたい。
2023年09月08日
バスケットボール五輪出場決定!
バスケット男子W杯、日本代表が五輪出場権獲得。
テレビ桟敷でたっぷり堪能させていただいたが、まことに見事な娯楽。すばらしい戦いを演じてくれた富樫勇樹と仲間たちに感謝したい。
1990年代半ばから2010年代半ばまでの約20年間、日本バスケットボール界は絶望的な状況に追い込まれていた。そのあたりは、友人でもある大島和人氏がこちらで、鮮やかに文章化してくれている。同書を読んだ時、私が感じたのは吐き気だ。同書に実名で登場するバスケット人、上記絶望的な20年間日本のバスケットボール界を牛耳っていた幾人か。彼らば、バスケット界の発展ではなく、己の権益のためだけに見苦しい活動を繰り返す。さらには、後年もそれらを恥じることなく語っている。
私も散々サッカー界の権力者を批判してきた。例えばこれとかこれね。もちろん、前者の方はバスケット界に超大貢献したのですけれどもね。
しかし、同書に登場する絶望的なバスケット人の質の低さはそんなものではない。日本バスケットの発展など何も考えず、己の短期的権益しか考えていないのだ。さらに言えば、Bリーグが設立し、日本バスケット界の立て直しが進んでいるにもかかわらず、当時の活動を恥じていない。正直言うが「ああ、サッカー狂でよかった、バスケットの方々はどんなにつらかったことか」と再確信したのが、正直な読後感だ。もちろん、同書にはすばらしいバスケット人も登場する。長年日本協会とJBLを支えた吉田長寿氏や、bjリーグに参画した滋賀レイクスターズ社長の坂井信介氏など。
今大会の成功は、これら悲しい過去の歴史を完全に払拭するものとなることだろう。
大会前から、消息通には悲観的な予測が渦巻いていたようだ。
日本の目標は、五輪出場権獲得。そのためには、アジアの出場国でトップの順位になることが必要だと言う。このレギュレーションは、直接対決がないだけに、組み合わせ抽選の運不運が大きい。ところが、日本のグループはドイツ、フィンランド、豪州と、強力国がズラリ。一方で、ライバルとなる中国、フィリピン、イランなどは、日本と比較して楽なグループに入ったとのこと。そのため、彼らがベスト16に入るリスク?もそれなりにあった模様。さらに、全アジア国が下位順位決定戦に回ったにしても、日本は1次ラウンドで全敗のリスクが高く、ライバル諸国は1勝する可能性が高いなど、かなり悲観的予測の文章を目にした。
実際、初戦のドイツ戦は63-86で完敗。チームのねらいの3ポイントシュートが外れてはリバウンドを奪われ、結果的に攻撃機会をドイツに提供することになり、じりじりと点差を広げられてしまった。
しかし、2戦目のフィンランド戦。98-88で、鮮やかな逆転勝利。第1クォータこそリードしたものの、第2クォータに逆転される。その後も終盤までリードされる。しかし、第4クォータ、大エースのホーキンソンに加え、河村勇輝と富永啓生が冴え渡り、第4クォータ単独では35-15、正に鮮やかな大逆転。ドイツ戦で空席が目立ったチケットコントロールが改善され、満員となった沖縄アリーナ。ブースターたちの熱狂的声援が、富樫勇樹と仲間たちを支えたのは感動的だった。考えてみれば、沖縄は日本では屈指のバスケットが盛んな地域。日本中、ほとんどの地域で、プレイヤ人口はサッカーが最大だと思われるが、沖縄だけはバスケットのプレイヤ人口が、サッカー以上に多いのではないかと言われている地域だ(笑)。言うまでもなく、ゴールデンキングスは現状のBリーグ王者だし。
3戦目の豪州戦、89-109で敗れた。ともあれ、負けたとは言っても、フィンランド戦で負傷し思うように活躍できなかった渡邊雄太がフル回転。渡邊とホーキンソンを軸に、この強豪に堂々と渡り合ったが、相手が強かった。それでも後半(第3クォータ+第4クォータ)のスコアは52-54、互角の攻防を見せてくれた。
その結果、日本は1勝2敗で、下位順位決定戦に回った。しかし、1次ラウンドを終わってみれば、日本を除くアジア諸国はみな全敗。日本だけが、1勝しており、かなり優位な状況で下位順位決定戦に対応することとなった。上記の悲観的予測は、無事?外れたわけだ。
ベネズエラ戦は、86-77の勝利。
最終スコアを見ただけではこの試合の感動は伝わらない(笑)。第3クォータ終了時点で、53-62。攻防そのものは互角の展開だったが、大エースのホーキンソンのシュートが決まらないこともあり、点差を詰めることができない。複数回、後一歩で追いつける2、3点差に詰めたことはあったが、その都度突き放される。イヤな雰囲気は第4クォータ半ば過ぎまで継続した。
この苦しい試合を救ったのが、大ベテランの比江島慎だった。第4クォーターだけで17得点を決める超人的活躍。あと2分しか残っていない時間帯から逆転に成功した。最終スコアの11点差だけ見ると、この試合の興奮は理解できない。バスケットのおもしろさでしょうな。ちょっと、うらやましい(笑)
そして最終のカーボベルデ戦。勝てば五輪出場権獲得。正直言うのですが、世界中ほとんどの国は、サッカーを通じてどんな国なのか、ある程度知っているつもりだった。しかし、カーボベルデがどこにあるのかは、この大会で戦うまで知識がなかった。そうかアフリカ西部の島国、大航海時代に発見された無人島だったのか。エンリケ航海王子か。
今大会はじめて(笑)、序盤からリードを奪い優位に試合を進める日本。ところが、気持ちよくテレビ桟敷で試合を楽しめたのは、第3クォータまでだった。73-55で迎えた第4クォータ、突然日本に点が入らなくなり、どんどん点差が詰まってくる。多くの報道は、五輪出場権獲得が眼前に迫った故のプレッシャによるものと議論されている。一方で、私のようなシロートからすると、渡邊とホーキンソンを引っ張りすぎ(結局この2人はこの試合40分間フル出場だったとのこと)、彼らが疲労困憊だったが痛かったように思えた。これだけ点差が開いていたのだ、3ポイントを無理に狙わずとも、敵ゴール下に進出し2点ずつ点をとって点差を広げられないことが重要。ところが、敵ゴールに進出し個人能力で得点を奪える渡邊とホーキンソンが疲弊してしまい、どうにもやりようがなくなってしまった。気がついてみたら、終了間際には74-71の3点差まで詰められてしまう。しかし、この苦しい局面を打開してくれたのは、やはり大エースのホーキンソンだった。ホーキンソンが、終盤あと1分のところで連続ゴール、気がついてみたら9点差とするのに成功。歓喜の五輪出場権獲得とあいなった。いや、めでたい。
それにしても、ホーバス監督の手腕は見事だった。
東京五輪時の女子監督での銀メダルもすばらしかったが、今大会のチーム作りも鮮やか。3ポイントを軸に、上記のスター達と守備力が高いスペシャリストを組み合わせ、目標を達成してくれた。まあカーボベルデ戦終盤の采配は不適切だったと思うが、まあそれはそれ。
ホーバス氏が最初に来日したのは、プレイヤとして2000年だったと言う。その後、指導者として2010年に再来日。その後も女子の指導を中心に指導者として経歴を磨いたと言う。言い方を変えれば、冒頭に述べた暗黒時代でも、日本のバスケット界はホーバス氏のような有為なタレントを受け入れる土壌はあったことになる。上記したように当時、バスケット界には残念な首脳も多かった。しかし、心ある優秀な方々も現場には多かったと言うことが、このホーバス氏の大活躍で理解できた。
今大会の成功は、そのような心あるバスケット人達の勝利と言うことだと思ってる。
パリ五輪には、八村塁も参加することだろう。ホーバス氏率いる最強の日本代表が、どこまで上位進出できるのか。五輪の楽しみが一つ増えたのが嬉しい。
テレビ桟敷でたっぷり堪能させていただいたが、まことに見事な娯楽。すばらしい戦いを演じてくれた富樫勇樹と仲間たちに感謝したい。
1990年代半ばから2010年代半ばまでの約20年間、日本バスケットボール界は絶望的な状況に追い込まれていた。そのあたりは、友人でもある大島和人氏がこちらで、鮮やかに文章化してくれている。同書を読んだ時、私が感じたのは吐き気だ。同書に実名で登場するバスケット人、上記絶望的な20年間日本のバスケットボール界を牛耳っていた幾人か。彼らば、バスケット界の発展ではなく、己の権益のためだけに見苦しい活動を繰り返す。さらには、後年もそれらを恥じることなく語っている。
私も散々サッカー界の権力者を批判してきた。例えばこれとかこれね。もちろん、前者の方はバスケット界に超大貢献したのですけれどもね。
しかし、同書に登場する絶望的なバスケット人の質の低さはそんなものではない。日本バスケットの発展など何も考えず、己の短期的権益しか考えていないのだ。さらに言えば、Bリーグが設立し、日本バスケット界の立て直しが進んでいるにもかかわらず、当時の活動を恥じていない。正直言うが「ああ、サッカー狂でよかった、バスケットの方々はどんなにつらかったことか」と再確信したのが、正直な読後感だ。もちろん、同書にはすばらしいバスケット人も登場する。長年日本協会とJBLを支えた吉田長寿氏や、bjリーグに参画した滋賀レイクスターズ社長の坂井信介氏など。
今大会の成功は、これら悲しい過去の歴史を完全に払拭するものとなることだろう。
大会前から、消息通には悲観的な予測が渦巻いていたようだ。
日本の目標は、五輪出場権獲得。そのためには、アジアの出場国でトップの順位になることが必要だと言う。このレギュレーションは、直接対決がないだけに、組み合わせ抽選の運不運が大きい。ところが、日本のグループはドイツ、フィンランド、豪州と、強力国がズラリ。一方で、ライバルとなる中国、フィリピン、イランなどは、日本と比較して楽なグループに入ったとのこと。そのため、彼らがベスト16に入るリスク?もそれなりにあった模様。さらに、全アジア国が下位順位決定戦に回ったにしても、日本は1次ラウンドで全敗のリスクが高く、ライバル諸国は1勝する可能性が高いなど、かなり悲観的予測の文章を目にした。
実際、初戦のドイツ戦は63-86で完敗。チームのねらいの3ポイントシュートが外れてはリバウンドを奪われ、結果的に攻撃機会をドイツに提供することになり、じりじりと点差を広げられてしまった。
しかし、2戦目のフィンランド戦。98-88で、鮮やかな逆転勝利。第1クォータこそリードしたものの、第2クォータに逆転される。その後も終盤までリードされる。しかし、第4クォータ、大エースのホーキンソンに加え、河村勇輝と富永啓生が冴え渡り、第4クォータ単独では35-15、正に鮮やかな大逆転。ドイツ戦で空席が目立ったチケットコントロールが改善され、満員となった沖縄アリーナ。ブースターたちの熱狂的声援が、富樫勇樹と仲間たちを支えたのは感動的だった。考えてみれば、沖縄は日本では屈指のバスケットが盛んな地域。日本中、ほとんどの地域で、プレイヤ人口はサッカーが最大だと思われるが、沖縄だけはバスケットのプレイヤ人口が、サッカー以上に多いのではないかと言われている地域だ(笑)。言うまでもなく、ゴールデンキングスは現状のBリーグ王者だし。
3戦目の豪州戦、89-109で敗れた。ともあれ、負けたとは言っても、フィンランド戦で負傷し思うように活躍できなかった渡邊雄太がフル回転。渡邊とホーキンソンを軸に、この強豪に堂々と渡り合ったが、相手が強かった。それでも後半(第3クォータ+第4クォータ)のスコアは52-54、互角の攻防を見せてくれた。
その結果、日本は1勝2敗で、下位順位決定戦に回った。しかし、1次ラウンドを終わってみれば、日本を除くアジア諸国はみな全敗。日本だけが、1勝しており、かなり優位な状況で下位順位決定戦に対応することとなった。上記の悲観的予測は、無事?外れたわけだ。
ベネズエラ戦は、86-77の勝利。
最終スコアを見ただけではこの試合の感動は伝わらない(笑)。第3クォータ終了時点で、53-62。攻防そのものは互角の展開だったが、大エースのホーキンソンのシュートが決まらないこともあり、点差を詰めることができない。複数回、後一歩で追いつける2、3点差に詰めたことはあったが、その都度突き放される。イヤな雰囲気は第4クォータ半ば過ぎまで継続した。
この苦しい試合を救ったのが、大ベテランの比江島慎だった。第4クォーターだけで17得点を決める超人的活躍。あと2分しか残っていない時間帯から逆転に成功した。最終スコアの11点差だけ見ると、この試合の興奮は理解できない。バスケットのおもしろさでしょうな。ちょっと、うらやましい(笑)
そして最終のカーボベルデ戦。勝てば五輪出場権獲得。正直言うのですが、世界中ほとんどの国は、サッカーを通じてどんな国なのか、ある程度知っているつもりだった。しかし、カーボベルデがどこにあるのかは、この大会で戦うまで知識がなかった。そうかアフリカ西部の島国、大航海時代に発見された無人島だったのか。エンリケ航海王子か。
今大会はじめて(笑)、序盤からリードを奪い優位に試合を進める日本。ところが、気持ちよくテレビ桟敷で試合を楽しめたのは、第3クォータまでだった。73-55で迎えた第4クォータ、突然日本に点が入らなくなり、どんどん点差が詰まってくる。多くの報道は、五輪出場権獲得が眼前に迫った故のプレッシャによるものと議論されている。一方で、私のようなシロートからすると、渡邊とホーキンソンを引っ張りすぎ(結局この2人はこの試合40分間フル出場だったとのこと)、彼らが疲労困憊だったが痛かったように思えた。これだけ点差が開いていたのだ、3ポイントを無理に狙わずとも、敵ゴール下に進出し2点ずつ点をとって点差を広げられないことが重要。ところが、敵ゴールに進出し個人能力で得点を奪える渡邊とホーキンソンが疲弊してしまい、どうにもやりようがなくなってしまった。気がついてみたら、終了間際には74-71の3点差まで詰められてしまう。しかし、この苦しい局面を打開してくれたのは、やはり大エースのホーキンソンだった。ホーキンソンが、終盤あと1分のところで連続ゴール、気がついてみたら9点差とするのに成功。歓喜の五輪出場権獲得とあいなった。いや、めでたい。
それにしても、ホーバス監督の手腕は見事だった。
東京五輪時の女子監督での銀メダルもすばらしかったが、今大会のチーム作りも鮮やか。3ポイントを軸に、上記のスター達と守備力が高いスペシャリストを組み合わせ、目標を達成してくれた。まあカーボベルデ戦終盤の采配は不適切だったと思うが、まあそれはそれ。
ホーバス氏が最初に来日したのは、プレイヤとして2000年だったと言う。その後、指導者として2010年に再来日。その後も女子の指導を中心に指導者として経歴を磨いたと言う。言い方を変えれば、冒頭に述べた暗黒時代でも、日本のバスケット界はホーバス氏のような有為なタレントを受け入れる土壌はあったことになる。上記したように当時、バスケット界には残念な首脳も多かった。しかし、心ある優秀な方々も現場には多かったと言うことが、このホーバス氏の大活躍で理解できた。
今大会の成功は、そのような心あるバスケット人達の勝利と言うことだと思ってる。
パリ五輪には、八村塁も参加することだろう。ホーバス氏率いる最強の日本代表が、どこまで上位進出できるのか。五輪の楽しみが一つ増えたのが嬉しい。
2023年08月15日
貴女たちはアルゼンチンやブラジル
女子代表、スウェーデンに苦杯し、準々決勝敗退。
終盤圧倒的に押し込んだ場面で明らかなように、選手の総合的な知性と技術はスウェーデンを圧倒していた。ただ、スウェーデンの前半に強引に仕掛けて先制逃げ切りをねらう作戦にはまり、不運な判定のPKもあって、悔しい敗戦となってしまった。
悔しさと言う快感を噛み締めると共に、すばらしい戦いを見せてくれた熊谷紗希と仲間達に感謝したい。ありがとうございました。
試合前から予想された通り、スウェーデンは非常に厄介な相手だった。
スウェーデンは「普通にやったら勝てない」との自覚の下、強引な作戦をねらってきた。前半からスタミナ切れ覚悟で、中盤でプレスをかけ、パスコースを限定し、押し込んできたのだ。それでも、一度だけ裏を狙われた時に熊谷紗希が処理を誤り危ない場面を作られたが、それ以外はピンチらしいピンチもない。中盤の組織守備が機能していたからだ。一方で、スウェーデンの守備もGKが広範囲にDFラインの裏を警備し、日本がプレスを回避した裏抜けを狙っても決定機を作らせない。
ところが、先制点を奪われた以降、清水梨紗と杉田妃和の両翼が消極的になってしまい前進できなくなってしまった。そのため、長谷川唯や宮澤ひなたが中盤でボールを保持しても出しどころがなく、幾度もスウェーデンMFにボールを奪われショートカウンタを許すことになった。山下杏也加のすばらしいセービングがなければ、前半で2点差にされてもおかしくない展開だった。それでも前半を0-1でしのいだ直後の後半立ち上がりに、微妙な判定でPKを提供するとは。
しかし、最前線に植木理子を起用し前線からの守備を整備し、スウェーデン各選手の切れが落ちるにつれ、日本が圧倒的攻勢をとり猛攻をしかける。終盤、スウェーデン各選手も、疲弊しながら創意工夫して抵抗。日本は幾度も好機をつかむが、PK失敗など最前線での焦りも目立ち、同点には至らず試合終了。
スウェーデンの注文相撲にはまり、不運な判定もあり悔しい敗戦。もちろん、スウェーデンが見事で日本に足りないものもあったが、この敗戦は極めて不運だった。熊谷と仲間達は世界最高峰の戦闘能力を持ちながらも力尽きた。
これがサッカーなのだ。
スウェーデンとしては「日本に勝つにはこれしかない」と言う戦いを完璧にやり遂げた。悔しいけれどお見事でした。
前述のように前半から後先考えず厳しい組織的プレスで日本に簡単に攻めさせない。FK崩れから日本の明らかなミス(後述する)を突き先制。日本の動揺を見てとると、組織的プレスを強化する。微妙な判定でPKで2-0とした後は、疲労が顕著ながら割り切って粘り強く守りを固め。日本の攻め込みのこぼれ球に対しては、速攻は狙わず極力ファウルしないように丁寧に身体を入れて、焦る日本の無理な裏抜け狙いだけは防ぐ。笛が鳴ると、したたかに時間稼ぎ。
以上冷静に振り返れば、50分で0-2となる展開は(おそらくスウェーデンも期待はしていただろうが、実現するとは思っていなかった)信じ難い事態だった。その後、日本はいくつかの稚拙さはあったが、体勢を立て直し猛攻をしかけた。でも1点しかとれなかった。
繰り返すが、これがサッカーなのだ。交通事故も起こるし、敵守備がすばらしくシュートが入らないこともあるし、PK時に露骨な時間稼ぎしているGKに経験足りない主審が警告を出さないこともある。日本は、それを乗り越えて勝利の確率を少しでも上げる駆け引きが足りなかった。
おそらく、日本とスウェーデンが10回試合をすれば、5勝4分1敗くらいとなるだろう。その1/10を大事な準々決勝でやられてしまった。繰り返すが、スウェーデンの勝負強さに敬意を表したい。しつこいが繰り返そう。これがサッカーなのだ。
余談ながら。あのPK判定は疑問だ。ルールブックによると、
一方で日本は稚拙な戦い方をしてしまった。戦術ミスを列挙しよう。
先制されたFK崩れ、山下のパンチが弱かった。しかし、それ以上に田中美南と清水梨紗の押上げが遅れたのが残念。特に田中が最後までゴールライン上から動かなかったことで、オフサイドラインが形成されなかったのは痛かった。傍から見ると、田中の個人的な判断ミスに見えたが、セットプレイ崩れの後の守備網構築はどのような約束事だったのか。
先制点失点後、あそこまで押し込まれたのを修正できなかったのも痛かった。スウェーデンは主に日本のシャドーとサイドMFにプレスをかけてきたが(上記の通り、そこで清水と杉田が消極的になり前進できなくなったのが痛かった)、もう少しCBの南萌華と高橋はな、CFの田中がうまくサポートする、あるいは割り切ってロングボールで逃げておくなど、回避の手段はいくつもあったと思うのだが。ちなみに後半立ち上がり、PKを誘引した敵CKも、清水がせっかくハーフウェイライン近傍でボールを受けながら、逃げのパスを打ち、そこから逆襲されて提供したものだった。つまり、このCKも先制失点後の消極性によるもので、ハーフタイムでも修正し切れなかったことになる。
体格差を気にし過ぎ、セットプレイを凝りすぎ、CKや敵陣近くでのFKでトリックプレイを狙い過ぎたのはいかがだったか。結果的にスウェーデンに読まれ、好機を作り損ねた。長谷川にしても藤野あおばにしても高精度のボールを蹴ることができる。普通にニアかファーに高精度のボールを入れ熊谷らの空中戦に期待し、たまにトリックプレイを使っていれば、好機はもっと掴めたのではないか。戦っている選手達にとって、単純な体格差(特に体重差)は大変厳しいものなのはよく理解できる。しかし、素早い左右の動きと精度の高いボールを組み合わせれば、もっと変化を作れたように思う。
池田氏の交代が明らかに遅く、終盤疲弊した敵を追い詰めるのが遅れた事も痛かった。5人交代制においては、後半元気な選手をどのようなタイミングで入れるかが勝負を分ける。ところが、池田氏はハーフタイムに杉田に代えて遠藤純を、52分に田中に代えて植木を起用した後、中々動かない。80分過ぎに、宮澤と長野に代えて、清家貴子と林穂之香を起用。攻撃活性化に成功したが、いかにも遅かった。ノルウェー戦までの戦いですばらしかった宮澤と長野を代えることに躊躇があったのだろうか。せめて、もう70分あたりにこの決断ができなかったものか。
もう一つ、終盤に秘密兵器?の浜野まいかを起用したが、これも唐突感があった。もし、この勝負どころで投入するならば、浜野をノルウェー戦でプレイさせておくべきだった(アディショナルタイムで浜野を起用しようとしたが、ピッチに入る前にタイムアップ、これは池田監督の単なるヘマとしか言いようがない)。さらに常識的に考えたら、ここは経験豊富な猶本光の投入だったと思うのだが。まあ、ここまで来ると完全に結果論だが。
もっとも、池田氏の采配が外れた、と言うのも違うような気がする。スタメンに杉田を起用したのは前半は消耗戦を覚悟したためだろう。実際、後半から起用された遠藤純はスウェーデンが疲弊した終盤、完全に左サイドに君臨していたのだから。1点差以下で後半を迎えていれば、「池田采配ズバリ!」と絶賛されていたかもしれない。
上記の通り池田監督を批判したが、それは個別局面の戦術的課題。今大会の池田氏の手腕がすばらしかったのは言うまでもない。
幾度も繰り返してきたが、前監督は非常に残念な監督で、池田氏が引き継いだチームの組織連係は非常に低かった。4年前のフランスW杯でも2年前の東京五輪でも、あまりに試合内容が悪かったのは記憶に新しい。あの残念だったチームを世界最高峰のレベルに引き上げたのだから、池田氏の手腕は本当にすばらしいものだ。
大会直前に、池田氏は非常に大きな決断を実施、ベテランの岩渕真奈を外した。言うまでもなく、岩渕は熊谷と共に2011年の世界制覇メンバ。そして、残念だった東京五輪、組織的な攻撃ができない悲しいチームの中、圧倒的な個人能力でチームを引っ張ったのも記憶に新しい。あのカナダ戦終盤の同点弾は最高だった。その後、岩渕が欧州のクラブで中々出場機会が得られていないなどの報道は目にしていたが、池田氏は強化試合で岩渕を相応には起用していたので、不選考は驚きだった。しかし、その決断は正しかった。この大会を通じ、23歳の宮澤は格段の素質を開花させた、そして19歳の藤野はその圧倒的な潜在力を世界に見せつけた。
もちろん、このチームが大会に入って急速に完成度を上げてきたのを忘れてはいけない。準備試合のパナマ戦、最前線の連係は今一歩。宮澤はシュート前のトラップが決まらず、藤野は強引さが空回りするばかりだった。そのため、長谷川が一仕事しなければ、崩せる形には中々持ち込めなかった。初戦のザンビア戦もその傾向はあり、ほとんどの得点は、長谷川の縦横無尽のパス回しを起点としていた。しかし、ザンビア戦、コスタリカ戦を通じ、宮澤はシュート前の走り込みとトラップの精度が格段に上がり世界最高のストライカになった。遠藤は的確なファーストタッチをものにし左利きと鋭い切り返しで世界最高のサイドアタッカになった。そして藤野は強引に行きながらタイミングのよいパスを出せるようになり、世界最高の攻撃素材であることを示した。今後、世界中のサッカー狂が、藤野が澤穂希の域に達するかどうかを楽しむことになる。そして、スペイン戦、ノルウェー戦、スウェーデン戦の終盤、屈強な欧州のDF達をおもしろいように崩す連係が完成した。
ただ、そうやって築き上げられた連係だが、各選手に経験の絶対量が足りなかった。この経験不足は、もちろん選手個々の若さによるものもあったが、もっと大きいのはチームとして勝ち続けた自信ではないか。どうしても前任者への愚痴となってしまうが、数年間に渡り非組織的なサッカーを行い強国に負けるのが平常化してしまったことが、経験不足を招いてしまった。20代前半や10代の選手は仕方がないが、長谷川、田中、清水と言った20代後半以上のタレント達も代表での勝利経験が浅いのが痛かった。
このような強力なチームができ上がったのは、各選手の創意工夫、それらの選手を育んだ環境、池田氏の手腕、選手達と池田氏を支えたスタッフ達、多くの人々の努力によるものだ。それらすべてに感謝したい。
勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。しかし、負けても最高峰のレベルのチームを所有している喜びも格段のものなのだ。
もちろん、女子サッカーの強化については、多くの課題がある。一方で、FIFAやUSAサッカー界が、現実的とは思えない、無謀な市場拡大を進めている現実もある。そのような矛盾を踏まえながら、女子サッカーの活性化に尽力している方々の現場の苦労は相当なものだ。そう言った多くの尊敬すべき方々が努力を重ねている現場に、不肖講釈師も触れる機会を得ており、少しずつ真面目に作文していきたいと思っている。
今回の悔しい敗戦について、国内のあちらこちらから「スウェーデンのように大柄な選手を発掘しないと勝てない」とか「スウェーデンにのような強国には日本の能力が通用しない」とか「スウェーデンの方がポジショナルサッカーの理解が高かった」とか、次々と熊谷と仲間達を貶める発言が出てきている。サッカーに浸って半世紀経つが、この国のサッカー評論界には「何があっても日本サッカーを卑下しなければいけない」と考えている向きが、後から後から出てくるのだ。そして何より、このような評論は、リスクを負って勝負を賭けて成功したスウェーデンに対しても失礼なのだが(そのような発言をしている方々に、日本を貶めたりスウェーデンに失礼と言う自覚がないから、一層厄介なのだが…)。
そのような発言を気にしてはいけない。
もちろん各選手にも課題はあった。強国との試合で相手ペースで展開する時にどう我慢し打開するか、フィジカルの強い相手に対し無理に前に行ったり逃げのパスを出さずにボール保持できないか。さらには、明らかな時間稼ぎにどのように冷静さを保つか。
しかし、そうだとしても、このチームが世界制覇する戦闘能力を保持していたのは間違いない。だからこそ、選手達は誇りを持って欲しい。
男子のサッカーを思い起こそう。アルゼンチンが昨年世界一を奪還するのに32年の月日、8回のワールドカップが必要だった。ブラジルは、ここ21年間、5回のワールドカップで世界一となっていない。両国ともワールドカップに世界最高峰の戦闘能力を持つチームを送り込み、常に優勝候補たるプレイを見せながらも。そして、もはや貴女たちはアルゼンチンやブラジルなのだ。これがサッカーなのだ。
また1年後の五輪についても、思いがないわけではない。しかし、ワールドカップにすべてを賭けて戦った貴女達に対して、次の大会について語るのは失礼と言うものだろう。今は、このワールドカップの悔しい敗退のみを振り返るべきだろう。
ありがとうございました。悔しい。でも貴女たちのプレイは世界最高峰だった。すばらしかった。
繰り返します、ありがとうございました。
終盤圧倒的に押し込んだ場面で明らかなように、選手の総合的な知性と技術はスウェーデンを圧倒していた。ただ、スウェーデンの前半に強引に仕掛けて先制逃げ切りをねらう作戦にはまり、不運な判定のPKもあって、悔しい敗戦となってしまった。
悔しさと言う快感を噛み締めると共に、すばらしい戦いを見せてくれた熊谷紗希と仲間達に感謝したい。ありがとうございました。
試合前から予想された通り、スウェーデンは非常に厄介な相手だった。
スウェーデンは「普通にやったら勝てない」との自覚の下、強引な作戦をねらってきた。前半からスタミナ切れ覚悟で、中盤でプレスをかけ、パスコースを限定し、押し込んできたのだ。それでも、一度だけ裏を狙われた時に熊谷紗希が処理を誤り危ない場面を作られたが、それ以外はピンチらしいピンチもない。中盤の組織守備が機能していたからだ。一方で、スウェーデンの守備もGKが広範囲にDFラインの裏を警備し、日本がプレスを回避した裏抜けを狙っても決定機を作らせない。
ところが、先制点を奪われた以降、清水梨紗と杉田妃和の両翼が消極的になってしまい前進できなくなってしまった。そのため、長谷川唯や宮澤ひなたが中盤でボールを保持しても出しどころがなく、幾度もスウェーデンMFにボールを奪われショートカウンタを許すことになった。山下杏也加のすばらしいセービングがなければ、前半で2点差にされてもおかしくない展開だった。それでも前半を0-1でしのいだ直後の後半立ち上がりに、微妙な判定でPKを提供するとは。
しかし、最前線に植木理子を起用し前線からの守備を整備し、スウェーデン各選手の切れが落ちるにつれ、日本が圧倒的攻勢をとり猛攻をしかける。終盤、スウェーデン各選手も、疲弊しながら創意工夫して抵抗。日本は幾度も好機をつかむが、PK失敗など最前線での焦りも目立ち、同点には至らず試合終了。
スウェーデンの注文相撲にはまり、不運な判定もあり悔しい敗戦。もちろん、スウェーデンが見事で日本に足りないものもあったが、この敗戦は極めて不運だった。熊谷と仲間達は世界最高峰の戦闘能力を持ちながらも力尽きた。
これがサッカーなのだ。
スウェーデンとしては「日本に勝つにはこれしかない」と言う戦いを完璧にやり遂げた。悔しいけれどお見事でした。
前述のように前半から後先考えず厳しい組織的プレスで日本に簡単に攻めさせない。FK崩れから日本の明らかなミス(後述する)を突き先制。日本の動揺を見てとると、組織的プレスを強化する。微妙な判定でPKで2-0とした後は、疲労が顕著ながら割り切って粘り強く守りを固め。日本の攻め込みのこぼれ球に対しては、速攻は狙わず極力ファウルしないように丁寧に身体を入れて、焦る日本の無理な裏抜け狙いだけは防ぐ。笛が鳴ると、したたかに時間稼ぎ。
以上冷静に振り返れば、50分で0-2となる展開は(おそらくスウェーデンも期待はしていただろうが、実現するとは思っていなかった)信じ難い事態だった。その後、日本はいくつかの稚拙さはあったが、体勢を立て直し猛攻をしかけた。でも1点しかとれなかった。
繰り返すが、これがサッカーなのだ。交通事故も起こるし、敵守備がすばらしくシュートが入らないこともあるし、PK時に露骨な時間稼ぎしているGKに経験足りない主審が警告を出さないこともある。日本は、それを乗り越えて勝利の確率を少しでも上げる駆け引きが足りなかった。
おそらく、日本とスウェーデンが10回試合をすれば、5勝4分1敗くらいとなるだろう。その1/10を大事な準々決勝でやられてしまった。繰り返すが、スウェーデンの勝負強さに敬意を表したい。しつこいが繰り返そう。これがサッカーなのだ。
余談ながら。あのPK判定は疑問だ。ルールブックによると、
手や腕で体を不自然に大きくして、手や腕でボールに触れる。手や腕の位置が、その状況における競技者の体の動きによるものではなく、また、競技者の体の動きから正当ではないと判断された場合、競技者は、不自然に体を大きくしたとみなされる。競技者の手や腕がそのような位置にあったならば、手や腕にボールが当たりハンドの反則で罰せられるリスクがある。と記述されている。あの場面、長野風花の手の動きのどこが「不自然」だったのか。広げた手に当たった訳ではなく、方向が変わった正面に飛んできたボールがバランスをとろうとしていた手に当たったに過ぎないのだが。最後の判断は主審に任せるしかないわけだが、日本はとても不運だった。
一方で日本は稚拙な戦い方をしてしまった。戦術ミスを列挙しよう。
先制されたFK崩れ、山下のパンチが弱かった。しかし、それ以上に田中美南と清水梨紗の押上げが遅れたのが残念。特に田中が最後までゴールライン上から動かなかったことで、オフサイドラインが形成されなかったのは痛かった。傍から見ると、田中の個人的な判断ミスに見えたが、セットプレイ崩れの後の守備網構築はどのような約束事だったのか。
先制点失点後、あそこまで押し込まれたのを修正できなかったのも痛かった。スウェーデンは主に日本のシャドーとサイドMFにプレスをかけてきたが(上記の通り、そこで清水と杉田が消極的になり前進できなくなったのが痛かった)、もう少しCBの南萌華と高橋はな、CFの田中がうまくサポートする、あるいは割り切ってロングボールで逃げておくなど、回避の手段はいくつもあったと思うのだが。ちなみに後半立ち上がり、PKを誘引した敵CKも、清水がせっかくハーフウェイライン近傍でボールを受けながら、逃げのパスを打ち、そこから逆襲されて提供したものだった。つまり、このCKも先制失点後の消極性によるもので、ハーフタイムでも修正し切れなかったことになる。
体格差を気にし過ぎ、セットプレイを凝りすぎ、CKや敵陣近くでのFKでトリックプレイを狙い過ぎたのはいかがだったか。結果的にスウェーデンに読まれ、好機を作り損ねた。長谷川にしても藤野あおばにしても高精度のボールを蹴ることができる。普通にニアかファーに高精度のボールを入れ熊谷らの空中戦に期待し、たまにトリックプレイを使っていれば、好機はもっと掴めたのではないか。戦っている選手達にとって、単純な体格差(特に体重差)は大変厳しいものなのはよく理解できる。しかし、素早い左右の動きと精度の高いボールを組み合わせれば、もっと変化を作れたように思う。
池田氏の交代が明らかに遅く、終盤疲弊した敵を追い詰めるのが遅れた事も痛かった。5人交代制においては、後半元気な選手をどのようなタイミングで入れるかが勝負を分ける。ところが、池田氏はハーフタイムに杉田に代えて遠藤純を、52分に田中に代えて植木を起用した後、中々動かない。80分過ぎに、宮澤と長野に代えて、清家貴子と林穂之香を起用。攻撃活性化に成功したが、いかにも遅かった。ノルウェー戦までの戦いですばらしかった宮澤と長野を代えることに躊躇があったのだろうか。せめて、もう70分あたりにこの決断ができなかったものか。
もう一つ、終盤に秘密兵器?の浜野まいかを起用したが、これも唐突感があった。もし、この勝負どころで投入するならば、浜野をノルウェー戦でプレイさせておくべきだった(アディショナルタイムで浜野を起用しようとしたが、ピッチに入る前にタイムアップ、これは池田監督の単なるヘマとしか言いようがない)。さらに常識的に考えたら、ここは経験豊富な猶本光の投入だったと思うのだが。まあ、ここまで来ると完全に結果論だが。
もっとも、池田氏の采配が外れた、と言うのも違うような気がする。スタメンに杉田を起用したのは前半は消耗戦を覚悟したためだろう。実際、後半から起用された遠藤純はスウェーデンが疲弊した終盤、完全に左サイドに君臨していたのだから。1点差以下で後半を迎えていれば、「池田采配ズバリ!」と絶賛されていたかもしれない。
上記の通り池田監督を批判したが、それは個別局面の戦術的課題。今大会の池田氏の手腕がすばらしかったのは言うまでもない。
幾度も繰り返してきたが、前監督は非常に残念な監督で、池田氏が引き継いだチームの組織連係は非常に低かった。4年前のフランスW杯でも2年前の東京五輪でも、あまりに試合内容が悪かったのは記憶に新しい。あの残念だったチームを世界最高峰のレベルに引き上げたのだから、池田氏の手腕は本当にすばらしいものだ。
大会直前に、池田氏は非常に大きな決断を実施、ベテランの岩渕真奈を外した。言うまでもなく、岩渕は熊谷と共に2011年の世界制覇メンバ。そして、残念だった東京五輪、組織的な攻撃ができない悲しいチームの中、圧倒的な個人能力でチームを引っ張ったのも記憶に新しい。あのカナダ戦終盤の同点弾は最高だった。その後、岩渕が欧州のクラブで中々出場機会が得られていないなどの報道は目にしていたが、池田氏は強化試合で岩渕を相応には起用していたので、不選考は驚きだった。しかし、その決断は正しかった。この大会を通じ、23歳の宮澤は格段の素質を開花させた、そして19歳の藤野はその圧倒的な潜在力を世界に見せつけた。
もちろん、このチームが大会に入って急速に完成度を上げてきたのを忘れてはいけない。準備試合のパナマ戦、最前線の連係は今一歩。宮澤はシュート前のトラップが決まらず、藤野は強引さが空回りするばかりだった。そのため、長谷川が一仕事しなければ、崩せる形には中々持ち込めなかった。初戦のザンビア戦もその傾向はあり、ほとんどの得点は、長谷川の縦横無尽のパス回しを起点としていた。しかし、ザンビア戦、コスタリカ戦を通じ、宮澤はシュート前の走り込みとトラップの精度が格段に上がり世界最高のストライカになった。遠藤は的確なファーストタッチをものにし左利きと鋭い切り返しで世界最高のサイドアタッカになった。そして藤野は強引に行きながらタイミングのよいパスを出せるようになり、世界最高の攻撃素材であることを示した。今後、世界中のサッカー狂が、藤野が澤穂希の域に達するかどうかを楽しむことになる。そして、スペイン戦、ノルウェー戦、スウェーデン戦の終盤、屈強な欧州のDF達をおもしろいように崩す連係が完成した。
ただ、そうやって築き上げられた連係だが、各選手に経験の絶対量が足りなかった。この経験不足は、もちろん選手個々の若さによるものもあったが、もっと大きいのはチームとして勝ち続けた自信ではないか。どうしても前任者への愚痴となってしまうが、数年間に渡り非組織的なサッカーを行い強国に負けるのが平常化してしまったことが、経験不足を招いてしまった。20代前半や10代の選手は仕方がないが、長谷川、田中、清水と言った20代後半以上のタレント達も代表での勝利経験が浅いのが痛かった。
このような強力なチームができ上がったのは、各選手の創意工夫、それらの選手を育んだ環境、池田氏の手腕、選手達と池田氏を支えたスタッフ達、多くの人々の努力によるものだ。それらすべてに感謝したい。
勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。しかし、負けても最高峰のレベルのチームを所有している喜びも格段のものなのだ。
もちろん、女子サッカーの強化については、多くの課題がある。一方で、FIFAやUSAサッカー界が、現実的とは思えない、無謀な市場拡大を進めている現実もある。そのような矛盾を踏まえながら、女子サッカーの活性化に尽力している方々の現場の苦労は相当なものだ。そう言った多くの尊敬すべき方々が努力を重ねている現場に、不肖講釈師も触れる機会を得ており、少しずつ真面目に作文していきたいと思っている。
今回の悔しい敗戦について、国内のあちらこちらから「スウェーデンのように大柄な選手を発掘しないと勝てない」とか「スウェーデンにのような強国には日本の能力が通用しない」とか「スウェーデンの方がポジショナルサッカーの理解が高かった」とか、次々と熊谷と仲間達を貶める発言が出てきている。サッカーに浸って半世紀経つが、この国のサッカー評論界には「何があっても日本サッカーを卑下しなければいけない」と考えている向きが、後から後から出てくるのだ。そして何より、このような評論は、リスクを負って勝負を賭けて成功したスウェーデンに対しても失礼なのだが(そのような発言をしている方々に、日本を貶めたりスウェーデンに失礼と言う自覚がないから、一層厄介なのだが…)。
そのような発言を気にしてはいけない。
もちろん各選手にも課題はあった。強国との試合で相手ペースで展開する時にどう我慢し打開するか、フィジカルの強い相手に対し無理に前に行ったり逃げのパスを出さずにボール保持できないか。さらには、明らかな時間稼ぎにどのように冷静さを保つか。
しかし、そうだとしても、このチームが世界制覇する戦闘能力を保持していたのは間違いない。だからこそ、選手達は誇りを持って欲しい。
男子のサッカーを思い起こそう。アルゼンチンが昨年世界一を奪還するのに32年の月日、8回のワールドカップが必要だった。ブラジルは、ここ21年間、5回のワールドカップで世界一となっていない。両国ともワールドカップに世界最高峰の戦闘能力を持つチームを送り込み、常に優勝候補たるプレイを見せながらも。そして、もはや貴女たちはアルゼンチンやブラジルなのだ。これがサッカーなのだ。
また1年後の五輪についても、思いがないわけではない。しかし、ワールドカップにすべてを賭けて戦った貴女達に対して、次の大会について語るのは失礼と言うものだろう。今は、このワールドカップの悔しい敗退のみを振り返るべきだろう。
ありがとうございました。悔しい。でも貴女たちのプレイは世界最高峰だった。すばらしかった。
繰り返します、ありがとうございました。
2023年08月09日
好調の女子代表を俯瞰する
笑いが止まらなかったスペイン戦の前半、いや、後半もでしたけれど。
日本は、5-4-1でしっかりブロックを固め、スペインの攻撃を押さえ続ける。前半15分までは敵サイドバックのサポートへの対応に苦労してペナルティエリア内に進出されることもあったが、マークの受け渡しが決まった以降は、危ない場面はほとんどなくなった。この組織守備の指揮を貫徹した熊谷紗希が世界最高峰守備者であることを改めて認識できた。さらには先制点の起点となる完璧なロングパス。
そして日本の逆襲が冴え渡る。ハーフウェイライン手前で、楢本光の巧妙な動きもありスペイン守備陣が薄くなった瞬間に、植木理子や遠藤純が巧みにボールを受けるや、宮澤ひなたがスペイン守備選手の誰よりも早く挙動を開始。ボールを受けた宮澤は、トップスピード後の正確なボール扱いを見せ、2得点1アシスト。主役を務めたのは宮澤だったが、全軍の意思統一がなければ、ここまで美しい速攻は幾度も成功できない。池田太監督の仕込みの巧みさは恐るべきものがあった。しかも、日本は世界屈指の攻撃創造主の長谷川唯と、世界屈指の好素材の藤野あおばを温存していたのだ。
後半も同じペースで試合が進む。いや、日本の守備網の組織化は一層進み、スペインはシュートにさえ持ち込めない。唯一好機と言えそうな場面は清水梨紗が足をとられて転倒した場面くらいか。さらに終盤、疲弊したスペインDFを田中美南が個人能力で振り切りダメ押し点を決めてくれた。
このスペイン戦、しいて残念なことを語るとすれば、4-0と完勝が確定し、スペインは崩壊していて、交代枠が1枚残っていたにもかかわらず、ゴールキーパを交代させなかったことくらいか。この手の大会は、ゴールキーパだけは複数選手の起用が難しく、控えのキーパは完全に裏方役となることが多い。ここは出場機会を得るのが難しい平尾知佳なり田中桃子を起用してもよかったと思うのだが。
スペインとしては、悪夢のような試合だっただろう。技巧的なボール保持で丁寧に崩しを狙っていたところで、日本の完璧な速攻から失点を繰り返し、なすすべなく敗れたのだから。ゲームプランの全てが打ち砕かれる完敗だった。
一方のノルウェーは日本に対し、ゲームプラン通りに戦い、単純な戦闘能力差で敗れた。スペインのゲームプランが崩れ去ったのは対照的だった。
ノルウェーは、5-4-1でしっかりブロックを固め、日本の攻撃を押さえようとした。しかし、立ち上がりから清水と遠藤の両翼が広く開く日本の展開に苦しみ、組織守備は機能しない。日本にサイドで拠点を作られたこともあり、一番恐ろしい長谷川唯にプレッシャをかけることができない。
それでも、前半ノルウェーは失点を自殺点の1点に押さえ、唯一と言ってもよい好機を活かし前半を1-1で終えることに成功。後半立ち上がりに突き放されるも、その後も複数回の決定機をしのぎ、3点目をとられずに70分過ぎまで時計を進めた。そして、1枚ストライカを入れて4-4-2に切り替え無理攻めに出る。熊谷を軸にした日本守備陣の落ち着きとGK山下杏也加の好守がなければ、同点の可能性もあった。これだけ戦闘能力差がある相手に対し、最後の20分で勝負を賭ける展開に持ち込んだのだから、大成功と言える展開だった。
しかしノルウェーにとって、そううまくは事は運ばなかった。後方を薄くしたところで、藤野が格段の視野と正確な技術によるスルーパスを宮澤に通したのだから。そして宮澤が挙動を開始した瞬間に、世界中の誰もが得点を確信したに違いない。1対3、2点差。
このノルウェー戦、日本視点から見て、かなり残念だったのは、ノルウェーがリスク覚悟で攻めに出てきた時間帯に、疲弊した選手を交代させなかったこと。疲労が目立ち始めた長野風花や遠藤純に代えて、林穂之香や杉田妃和を投入してもよい。もちろん、前線に楢本を入れて運動量を確保するとか、空中戦の強い石川璃音を起用するやり方もあったはずだ。結果的には上記した藤野→宮澤で2点差としたので、極端な不安感はなかったが、池田太監督の消極性は気になった。5人交代制のレギュレーション下では、疲労した選手に代えて元気な選手を起用し失点のリスクを最小にするのは必須なはずなのだが。
ノルウェーとしては、完璧に近い試合だったのだ。日本の攻撃力を警戒し、全軍で守備的なサッカーを展開し、70分過ぎまで1点差で試合を進めることができた。そして、勝負に出て前線に選手を押し出し、複数回の好機をつかんだのだから。ただ、相手が強すぎた。
スペイン戦の鮮やかな速攻の数々。それを見てのノルウェーの超守備的布陣。ノルウェーはそれでも守り切れずリードを許し、勝負に出て無理攻めに出たところで、宮澤の餌食となった。そう、ノルウェー戦の宮澤の一撃には、今後の対戦想定国のスカウティング担当の嘆息が聞こえてくるように思えた。後方を厚くして守備を固めても、両翼から崩される。両翼を警戒すると長谷川が必殺のパスを刺してくる。攻勢をとり押し込もうとすると宮澤を軸とした超高精度の速攻に襲われる。
現実的な対応策としては、ノルウェーのように守備を固めた上で(それで失点を防げるかはさておき)、時間帯を限り前線に多数の選手を送り込み、変化や強さを活かした攻撃を仕掛けるか(それで熊谷を破れるかどうかはさておき)。あるいは体力が続く限り、前線からプレスをかけ長谷川を封印し(できるかどうかはさておき)、宮澤の逆襲の脅威はDFの対応力に賭けるか(それで対応できるかはさておき)。
熊谷とその仲間達がどこまで勝ち進めるか、神のるぞ知ることだ。そしておそらく、ベスト8のいずれの国よりも戦闘能力は高く、残り3試合を全勝してくれる可能性がそれなりに高いことは間違いない。そして何より熊谷とその仲間達のサッカーは、効率的で攻撃的で、そして何より魅力的だ。現地に行かなかった己の先見性のなさを反省しながら、12年ぶりの世界一の歓喜を期待しつつTV桟敷で応援できるのはありがたいことだ。
日本は、5-4-1でしっかりブロックを固め、スペインの攻撃を押さえ続ける。前半15分までは敵サイドバックのサポートへの対応に苦労してペナルティエリア内に進出されることもあったが、マークの受け渡しが決まった以降は、危ない場面はほとんどなくなった。この組織守備の指揮を貫徹した熊谷紗希が世界最高峰守備者であることを改めて認識できた。さらには先制点の起点となる完璧なロングパス。
そして日本の逆襲が冴え渡る。ハーフウェイライン手前で、楢本光の巧妙な動きもありスペイン守備陣が薄くなった瞬間に、植木理子や遠藤純が巧みにボールを受けるや、宮澤ひなたがスペイン守備選手の誰よりも早く挙動を開始。ボールを受けた宮澤は、トップスピード後の正確なボール扱いを見せ、2得点1アシスト。主役を務めたのは宮澤だったが、全軍の意思統一がなければ、ここまで美しい速攻は幾度も成功できない。池田太監督の仕込みの巧みさは恐るべきものがあった。しかも、日本は世界屈指の攻撃創造主の長谷川唯と、世界屈指の好素材の藤野あおばを温存していたのだ。
後半も同じペースで試合が進む。いや、日本の守備網の組織化は一層進み、スペインはシュートにさえ持ち込めない。唯一好機と言えそうな場面は清水梨紗が足をとられて転倒した場面くらいか。さらに終盤、疲弊したスペインDFを田中美南が個人能力で振り切りダメ押し点を決めてくれた。
このスペイン戦、しいて残念なことを語るとすれば、4-0と完勝が確定し、スペインは崩壊していて、交代枠が1枚残っていたにもかかわらず、ゴールキーパを交代させなかったことくらいか。この手の大会は、ゴールキーパだけは複数選手の起用が難しく、控えのキーパは完全に裏方役となることが多い。ここは出場機会を得るのが難しい平尾知佳なり田中桃子を起用してもよかったと思うのだが。
スペインとしては、悪夢のような試合だっただろう。技巧的なボール保持で丁寧に崩しを狙っていたところで、日本の完璧な速攻から失点を繰り返し、なすすべなく敗れたのだから。ゲームプランの全てが打ち砕かれる完敗だった。
一方のノルウェーは日本に対し、ゲームプラン通りに戦い、単純な戦闘能力差で敗れた。スペインのゲームプランが崩れ去ったのは対照的だった。
ノルウェーは、5-4-1でしっかりブロックを固め、日本の攻撃を押さえようとした。しかし、立ち上がりから清水と遠藤の両翼が広く開く日本の展開に苦しみ、組織守備は機能しない。日本にサイドで拠点を作られたこともあり、一番恐ろしい長谷川唯にプレッシャをかけることができない。
それでも、前半ノルウェーは失点を自殺点の1点に押さえ、唯一と言ってもよい好機を活かし前半を1-1で終えることに成功。後半立ち上がりに突き放されるも、その後も複数回の決定機をしのぎ、3点目をとられずに70分過ぎまで時計を進めた。そして、1枚ストライカを入れて4-4-2に切り替え無理攻めに出る。熊谷を軸にした日本守備陣の落ち着きとGK山下杏也加の好守がなければ、同点の可能性もあった。これだけ戦闘能力差がある相手に対し、最後の20分で勝負を賭ける展開に持ち込んだのだから、大成功と言える展開だった。
しかしノルウェーにとって、そううまくは事は運ばなかった。後方を薄くしたところで、藤野が格段の視野と正確な技術によるスルーパスを宮澤に通したのだから。そして宮澤が挙動を開始した瞬間に、世界中の誰もが得点を確信したに違いない。1対3、2点差。
このノルウェー戦、日本視点から見て、かなり残念だったのは、ノルウェーがリスク覚悟で攻めに出てきた時間帯に、疲弊した選手を交代させなかったこと。疲労が目立ち始めた長野風花や遠藤純に代えて、林穂之香や杉田妃和を投入してもよい。もちろん、前線に楢本を入れて運動量を確保するとか、空中戦の強い石川璃音を起用するやり方もあったはずだ。結果的には上記した藤野→宮澤で2点差としたので、極端な不安感はなかったが、池田太監督の消極性は気になった。5人交代制のレギュレーション下では、疲労した選手に代えて元気な選手を起用し失点のリスクを最小にするのは必須なはずなのだが。
ノルウェーとしては、完璧に近い試合だったのだ。日本の攻撃力を警戒し、全軍で守備的なサッカーを展開し、70分過ぎまで1点差で試合を進めることができた。そして、勝負に出て前線に選手を押し出し、複数回の好機をつかんだのだから。ただ、相手が強すぎた。
スペイン戦の鮮やかな速攻の数々。それを見てのノルウェーの超守備的布陣。ノルウェーはそれでも守り切れずリードを許し、勝負に出て無理攻めに出たところで、宮澤の餌食となった。そう、ノルウェー戦の宮澤の一撃には、今後の対戦想定国のスカウティング担当の嘆息が聞こえてくるように思えた。後方を厚くして守備を固めても、両翼から崩される。両翼を警戒すると長谷川が必殺のパスを刺してくる。攻勢をとり押し込もうとすると宮澤を軸とした超高精度の速攻に襲われる。
現実的な対応策としては、ノルウェーのように守備を固めた上で(それで失点を防げるかはさておき)、時間帯を限り前線に多数の選手を送り込み、変化や強さを活かした攻撃を仕掛けるか(それで熊谷を破れるかどうかはさておき)。あるいは体力が続く限り、前線からプレスをかけ長谷川を封印し(できるかどうかはさておき)、宮澤の逆襲の脅威はDFの対応力に賭けるか(それで対応できるかはさておき)。
熊谷とその仲間達がどこまで勝ち進めるか、神のるぞ知ることだ。そしておそらく、ベスト8のいずれの国よりも戦闘能力は高く、残り3試合を全勝してくれる可能性がそれなりに高いことは間違いない。そして何より熊谷とその仲間達のサッカーは、効率的で攻撃的で、そして何より魅力的だ。現地に行かなかった己の先見性のなさを反省しながら、12年ぶりの世界一の歓喜を期待しつつTV桟敷で応援できるのはありがたいことだ。
2023年07月27日
ベガルタの伊藤彰氏退任問題について(精神論)
いささか時間が経ってしまったが。ベガルタ仙台は、伊藤彰監督退任を発表。そして、後任はコーチングスタッフから堀孝史氏が昇格。さらに日をおいて渋谷コーチも辞任。伊藤氏退任後もつらい試合が続いている。まずは精神論を語りたい。
整理しましょう。
伊藤氏は事実上の成績不振による解任。
指導者として多彩な経験を持ち、レッズやヴェルディで苦境時の短期監督経験もある堀氏が急場をしのぐ監督を引き受けてくれた(いや、堀氏はレッズで、アジアチャンピオン獲得したのだから日本屈指の実績と称えられるべき指導者だが)。
また、伊藤氏のコーチングスタッフを複数回務めていた渋谷氏。辞任直後に古巣の大宮アルディージャのコーチに就任。これはこれで一つの別れと言うことだろう(大宮の監督が、昨シーズンベガルタの監督を務めていた原崎氏なのはさておき)。
まずは、伊藤氏、渋谷氏に、我が愛するクラブの強化に心血を注いでくれたことに感謝を表したい。勝点を失った試合でも、伊藤氏が選手と一緒にサポータ席に挨拶に来てくれて、丁寧に頭を下げてくれたことは忘れ難い思い出となっている。
残念ながら、伊藤氏退任は短期的には効果を生んでいない。退任以降、ベガルタ仙台は金沢、東京Vに連敗。天皇杯を除いた(そのあたりは後述する)伊藤氏退任前の5試合は2分3敗(勝点2、得点4、失点12、1試合平均とすると勝点0.4、得点0.8、失点2.4)、堀氏就任後の2試合は2敗(勝点0、得点4、失点6、1試合平均すると勝点0、得点2、失点3)。まあ、堀氏就任以降、改善もしていないが、その前もひどかった。最近の7試合で失点18(1試合平均2.6失点)なのだから。
ベガルタの経営層としては、過去甲府で見事な実績を挙げた伊藤監督を昨シーズン終盤に迎え入れることに成功。さらに、このオフによい選手を多数集めることができた。伊藤氏が、甲府で作り上げた、しっかり組立てるサッカーをユアテックで再現。堂々とJ1復帰、さらにはJ1での成功を期待していたのだろう(いや、サポータもそう期待していました)。先日、社長交代が行われたのはさておき。
しかし、思うに任せないのがサッカーの常。この切歯扼腕が、サポータ冥利と言うものだが、経営をしている方々は、そう悠長なことを語れなかったのかもしれない。悪い流れをとにかく変えて、少しでも今シーズンでのJ1昇格の可能性を高めようとする判断で、監督変更を決断したのだろう。
もっとも。
伊藤氏退任のタイミングも自嘲的に微苦笑したくなる。退任直前の試合は天皇杯名古屋戦。映像を観る機会がなかったが、J1屈指の強豪に敵地で引き分け(PK負けで次ラウンドに進めず)。さらにその数日前のリーグ戦の栃木戦は、引き分けに終わったし戦術的な課題もあったが、敵地で選手達がすさまじい気迫を見せた興奮させてくれる試合だった。このような良好な2試合直後に、それを率いた監督を退任させる意味があったのだろうか。いや、もっとハッキリ言いましょう。ベガルタ経営陣は、伊藤氏解任を栃木戦前に決めていたのだろうが、各種手続きに時間がかかり、伊藤氏率いるチームがよい試合を見せた後の正式意思決定になったのではないかと。悲しいくらいのスピード感の無さではないか。いや、邪推しているだけですけれども。
その直後にチームを率いることになった堀氏、つらいところだ。
一方で、これで過去4シーズンに渡り、1年以下で監督をクルクル交代させていることになる。一般論として、監督を頻繁に代えることがチームの強化や好成績にはつながらないのは言うまでもない。
20年シーズン後J1下位低迷で木山氏を解任、21年シーズン終盤J2降格確定し手倉森氏を解任、22年シーズン後半に入ったところでJ1昇格が難しくなったところで原崎氏を解任、そして今年の23年シーズン半ばで伊藤氏を解任。こうやって整理すると、毎シーズン監督を解任しているのみならず、解任サイクルが短くなっているのだから、どんどん悪くなっていると語るべきなのか。
もう20年近く前になるか。清水秀彦氏の自転車操業でJ1昇格、その継続が叶わなくなりJ2降格。それ以降の数年間の迷走が懐かしく思い出されるな。算数のできない監督とか、後日セレソンとなる優秀なタレントがいてもとか。そして、あの磐田の夜の涙。
以降の望外の大成功は、手倉森誠氏、渡邉晋氏と言う、格段の指導者に長期を委ねたことにあったのだが。
ともあれ、身も蓋もない一般論。サッカーの監督人事は永遠の酒の肴。何が正しいか正しくないかは、結果論で語るしかない。そもそも監督人事とチームの成績の関係は非線形。よい監督とよい選手を集めれば好成績を収めることができるとは言えないところが、とにかく厄介なのだ。もちろん、戦闘能力が充実していた名古屋やG大阪をJ2に陥落させた直接要因となった監督が無能だったのは間違いない。しかし、ここまで質の低い監督が登場する事例は極めて稀だろう。
どんな優秀な監督でも、チームとの相性というものがある。過去Jリーグの多くのクラブで成功を収め、今では、日本協会の重職を務めている名将が、北京五輪で大変残念な監督振りだったのが、典型的事例。
繰り返そう。過去実績のあるよい監督を招聘し、よい選手を多数補強。それでも勝てない。さらには、経営層の短期的視野から、さらに事態が悪化する。これこそ、サポータ冥利。だからサッカーはやめられないのだ。
でも俺は絶対に諦めない。まだ間に合う。堀さんよ、選手たちよ。今から丹念に勝点を積み上げ、来季はJ1で戦おう。
整理しましょう。
伊藤氏は事実上の成績不振による解任。
指導者として多彩な経験を持ち、レッズやヴェルディで苦境時の短期監督経験もある堀氏が急場をしのぐ監督を引き受けてくれた(いや、堀氏はレッズで、アジアチャンピオン獲得したのだから日本屈指の実績と称えられるべき指導者だが)。
また、伊藤氏のコーチングスタッフを複数回務めていた渋谷氏。辞任直後に古巣の大宮アルディージャのコーチに就任。これはこれで一つの別れと言うことだろう(大宮の監督が、昨シーズンベガルタの監督を務めていた原崎氏なのはさておき)。
まずは、伊藤氏、渋谷氏に、我が愛するクラブの強化に心血を注いでくれたことに感謝を表したい。勝点を失った試合でも、伊藤氏が選手と一緒にサポータ席に挨拶に来てくれて、丁寧に頭を下げてくれたことは忘れ難い思い出となっている。
残念ながら、伊藤氏退任は短期的には効果を生んでいない。退任以降、ベガルタ仙台は金沢、東京Vに連敗。天皇杯を除いた(そのあたりは後述する)伊藤氏退任前の5試合は2分3敗(勝点2、得点4、失点12、1試合平均とすると勝点0.4、得点0.8、失点2.4)、堀氏就任後の2試合は2敗(勝点0、得点4、失点6、1試合平均すると勝点0、得点2、失点3)。まあ、堀氏就任以降、改善もしていないが、その前もひどかった。最近の7試合で失点18(1試合平均2.6失点)なのだから。
ベガルタの経営層としては、過去甲府で見事な実績を挙げた伊藤監督を昨シーズン終盤に迎え入れることに成功。さらに、このオフによい選手を多数集めることができた。伊藤氏が、甲府で作り上げた、しっかり組立てるサッカーをユアテックで再現。堂々とJ1復帰、さらにはJ1での成功を期待していたのだろう(いや、サポータもそう期待していました)。先日、社長交代が行われたのはさておき。
しかし、思うに任せないのがサッカーの常。この切歯扼腕が、サポータ冥利と言うものだが、経営をしている方々は、そう悠長なことを語れなかったのかもしれない。悪い流れをとにかく変えて、少しでも今シーズンでのJ1昇格の可能性を高めようとする判断で、監督変更を決断したのだろう。
もっとも。
伊藤氏退任のタイミングも自嘲的に微苦笑したくなる。退任直前の試合は天皇杯名古屋戦。映像を観る機会がなかったが、J1屈指の強豪に敵地で引き分け(PK負けで次ラウンドに進めず)。さらにその数日前のリーグ戦の栃木戦は、引き分けに終わったし戦術的な課題もあったが、敵地で選手達がすさまじい気迫を見せた興奮させてくれる試合だった。このような良好な2試合直後に、それを率いた監督を退任させる意味があったのだろうか。いや、もっとハッキリ言いましょう。ベガルタ経営陣は、伊藤氏解任を栃木戦前に決めていたのだろうが、各種手続きに時間がかかり、伊藤氏率いるチームがよい試合を見せた後の正式意思決定になったのではないかと。悲しいくらいのスピード感の無さではないか。いや、邪推しているだけですけれども。
その直後にチームを率いることになった堀氏、つらいところだ。
一方で、これで過去4シーズンに渡り、1年以下で監督をクルクル交代させていることになる。一般論として、監督を頻繁に代えることがチームの強化や好成績にはつながらないのは言うまでもない。
20年シーズン後J1下位低迷で木山氏を解任、21年シーズン終盤J2降格確定し手倉森氏を解任、22年シーズン後半に入ったところでJ1昇格が難しくなったところで原崎氏を解任、そして今年の23年シーズン半ばで伊藤氏を解任。こうやって整理すると、毎シーズン監督を解任しているのみならず、解任サイクルが短くなっているのだから、どんどん悪くなっていると語るべきなのか。
もう20年近く前になるか。清水秀彦氏の自転車操業でJ1昇格、その継続が叶わなくなりJ2降格。それ以降の数年間の迷走が懐かしく思い出されるな。算数のできない監督とか、後日セレソンとなる優秀なタレントがいてもとか。そして、あの磐田の夜の涙。
以降の望外の大成功は、手倉森誠氏、渡邉晋氏と言う、格段の指導者に長期を委ねたことにあったのだが。
ともあれ、身も蓋もない一般論。サッカーの監督人事は永遠の酒の肴。何が正しいか正しくないかは、結果論で語るしかない。そもそも監督人事とチームの成績の関係は非線形。よい監督とよい選手を集めれば好成績を収めることができるとは言えないところが、とにかく厄介なのだ。もちろん、戦闘能力が充実していた名古屋やG大阪をJ2に陥落させた直接要因となった監督が無能だったのは間違いない。しかし、ここまで質の低い監督が登場する事例は極めて稀だろう。
どんな優秀な監督でも、チームとの相性というものがある。過去Jリーグの多くのクラブで成功を収め、今では、日本協会の重職を務めている名将が、北京五輪で大変残念な監督振りだったのが、典型的事例。
繰り返そう。過去実績のあるよい監督を招聘し、よい選手を多数補強。それでも勝てない。さらには、経営層の短期的視野から、さらに事態が悪化する。これこそ、サポータ冥利。だからサッカーはやめられないのだ。
でも俺は絶対に諦めない。まだ間に合う。堀さんよ、選手たちよ。今から丹念に勝点を積み上げ、来季はJ1で戦おう。
2023年03月23日
WBC制覇2023
日本野球が世界一を奪回した。まことにめでたい。
過去2回の優勝も、まことめでたかったが、今大会の歓喜は格段。今大会は合衆国も大リーグのトップスターをズラリと並べた布陣。そして日本も大リーグの選手のほとんどを招集できて、いわゆるベストメンバ。誰が何を言おうが、日本が世界野球最強国になったのだ。
サッカー狂の私だが、サッカーに浸り始めたのは中学生になってから。小学生の時は普通の野球好きのバカガキだった(私の世代では当たり前のことなのだが)。そのような世代のサッカー狂からすると、ワールドカップ同様に野球の国際試合を楽しみたい、と言う思いは常にあった。そして、(それなりに嫉妬の思いはあるが)野球ならば、当然ねらうのは世界一だろうと。
今回の世界一奪回は、このようなバカガキの半世紀に渡る妄想が実現したことになる。
そして、素直に思う。「羨ましい、とにかく羨ましい。いつか、ワールドカップで優勝したい、世界一になりたい」と。
でもね、私は常に冷静なのです。私も62歳、あと何年生きられるかはわかりませんが、さすがに「俺の生きているうちは無理だろうな」とは思います。贅沢言ってはいけないよね、ドイツやスペインに勝ち、クロアチアにPKで負けたのが悔しくて悔しくてしかたがない現状など、若い頃とてもではないけど想像もしなかったのだから。よい時代になったものだ。
ともあれ、少しWBCについて講釈を垂れさせていただこう。
実は決勝戦は生中継を見ていない。間抜けな話だが、本業で休みをとる真剣な努力を怠っていたのだ。しかし、準決勝のメキシコ戦だけで、いくらでも語る素材はあった。
メキシコのレフトのアロサレーナの完璧な守備能力。5回裏の岡本の「やった!ホームラン!」をハイジャンプで捕球された場面もすごかった。その後も日本打者が左翼に好打球を飛ばすたびに、この忌々しいアロサレーナの好守に防がれてしまった。おそらく、事前情報による日本打者の特徴を理解した位置どりに加え、打った直後の判断力がすばらしいのだろう。バカガキ時代にあこがれた高田繁さんを思い出しりして。
栗山氏のチャレンジでアウトになった、7回表のメキシコのトレホの盗塁。あの2塁ベース上のトレホのタッチかいくぐりと、源田の執拗なタッチの戦いを何と語ってよいのか。トレホの格段のボディバランスと工夫。源田の冷静な対応。アウトになって、我々は嬉しかったが、本当にアウトだったのかを、映像で確認するのは非常に難しい。大体、野球の判定は厳密な定義が極めて曖昧なのだ。タッチとか捕球が、映像で確認できるわけがない。最新技術を用いた厳密な判定をするためには、ベースタッチ・守備者のグローブのタッチ・捕球の確認、以上の3点を何がしかのセンサにより検出しなければならないのかな。まあ、そのような比較論も楽しいのですが。
吉田正尚。大谷の大活躍を否定するものではないが、私ならば吉田をMVPに選ぶ。あの好機での強さをどう表現したらよいのか。WBC打点新記録とのことだが、何とも頼りになる勝負強さだった。そして何よりメキシコ戦での3ランの美しさ。大谷や村上や岡本と言ったフィジカルに恵まれたスターの渾身のバッティングによる美しい弾道はすばらしい。しかし、この準決勝の吉田の丹念なスイングによるギリギリの本塁打の微妙な弾道の渋さをどう日本語で称えればよいのだろうか。ポールに跳ね返された映像、本当に嬉しかったよね。加えて、8回裏にツーアウト2・3塁でタイムリーヒットを喰らったものの、2塁ランナーをホームで殺した的確な返球も見事だった。繰り返すが、私の選ぶMVPは吉田だ。
もう1つ。この世界一については、栗山監督を讃えるしかあるまい。特に感心するのは、投手起用の適切さだ。
元々、このWBCと言う大会は、投手の投球制限など、怪しげで複雑なレギュレーションが錯綜する。そう言った中で、豪州戦で大差をつけ勝利が確定しつつある中、ダルビッシュを2回に渡り投げさせたこと。準決勝で先発佐々木が3失点したところで、決勝先発が予想された山本を起用したことなど、納得できないことが多かった。
しかし、決勝終盤の投手起用で栗山氏の意図が正確に理解できた。少しでも世界一の確率を高めるために、決勝の最強敵合衆国に対しては、一番頼りになる山本の先発、終盤でダルビッシュと大谷の起用を決めていたのだろう。しかし、準決勝で佐々木が想定外の3ラン本塁打を許し、3点差となったところで、「これ以上の点差にはできない」と判断し、山本を投入し傷口を広げないと言う判断に切り替えたのだろう。いわゆるプランBだな。そして、決勝では今永、戸郷、高橋宏斗、伊藤大海とフレッシュな投手を次々に起用し失点を防ぎ、大勢、そしてダルビッシュと大谷につないだ。恐れ入りましたとしか、言いようがない。
もちろん、一番の「恐れ入りました」は、村上を起用し続けたことだけれども。
かくして楽しかったWBCは、日本優勝と言う最高の形で終了した。一点気になるのは、選手たちへの休養提供。これだけ厳しい戦いを演じた戦士たちが、すぐに自チームに戻り新シーズンに備えるのだろうか、と言う疑問。僅かでもよいから、彼らに家族や恋人との休養を提供した方が、シーズンを通しての活躍と言う視点では適切と思うのだが。
などと、あれこれ講釈を垂れることができるのだから、本当に楽しい大会だったと思う。改めて、栗山氏とダルビッシュとその仲間たちに感謝。
過去2回の優勝も、まことめでたかったが、今大会の歓喜は格段。今大会は合衆国も大リーグのトップスターをズラリと並べた布陣。そして日本も大リーグの選手のほとんどを招集できて、いわゆるベストメンバ。誰が何を言おうが、日本が世界野球最強国になったのだ。
サッカー狂の私だが、サッカーに浸り始めたのは中学生になってから。小学生の時は普通の野球好きのバカガキだった(私の世代では当たり前のことなのだが)。そのような世代のサッカー狂からすると、ワールドカップ同様に野球の国際試合を楽しみたい、と言う思いは常にあった。そして、(それなりに嫉妬の思いはあるが)野球ならば、当然ねらうのは世界一だろうと。
今回の世界一奪回は、このようなバカガキの半世紀に渡る妄想が実現したことになる。
そして、素直に思う。「羨ましい、とにかく羨ましい。いつか、ワールドカップで優勝したい、世界一になりたい」と。
でもね、私は常に冷静なのです。私も62歳、あと何年生きられるかはわかりませんが、さすがに「俺の生きているうちは無理だろうな」とは思います。贅沢言ってはいけないよね、ドイツやスペインに勝ち、クロアチアにPKで負けたのが悔しくて悔しくてしかたがない現状など、若い頃とてもではないけど想像もしなかったのだから。よい時代になったものだ。
ともあれ、少しWBCについて講釈を垂れさせていただこう。
実は決勝戦は生中継を見ていない。間抜けな話だが、本業で休みをとる真剣な努力を怠っていたのだ。しかし、準決勝のメキシコ戦だけで、いくらでも語る素材はあった。
メキシコのレフトのアロサレーナの完璧な守備能力。5回裏の岡本の「やった!ホームラン!」をハイジャンプで捕球された場面もすごかった。その後も日本打者が左翼に好打球を飛ばすたびに、この忌々しいアロサレーナの好守に防がれてしまった。おそらく、事前情報による日本打者の特徴を理解した位置どりに加え、打った直後の判断力がすばらしいのだろう。バカガキ時代にあこがれた高田繁さんを思い出しりして。
栗山氏のチャレンジでアウトになった、7回表のメキシコのトレホの盗塁。あの2塁ベース上のトレホのタッチかいくぐりと、源田の執拗なタッチの戦いを何と語ってよいのか。トレホの格段のボディバランスと工夫。源田の冷静な対応。アウトになって、我々は嬉しかったが、本当にアウトだったのかを、映像で確認するのは非常に難しい。大体、野球の判定は厳密な定義が極めて曖昧なのだ。タッチとか捕球が、映像で確認できるわけがない。最新技術を用いた厳密な判定をするためには、ベースタッチ・守備者のグローブのタッチ・捕球の確認、以上の3点を何がしかのセンサにより検出しなければならないのかな。まあ、そのような比較論も楽しいのですが。
吉田正尚。大谷の大活躍を否定するものではないが、私ならば吉田をMVPに選ぶ。あの好機での強さをどう表現したらよいのか。WBC打点新記録とのことだが、何とも頼りになる勝負強さだった。そして何よりメキシコ戦での3ランの美しさ。大谷や村上や岡本と言ったフィジカルに恵まれたスターの渾身のバッティングによる美しい弾道はすばらしい。しかし、この準決勝の吉田の丹念なスイングによるギリギリの本塁打の微妙な弾道の渋さをどう日本語で称えればよいのだろうか。ポールに跳ね返された映像、本当に嬉しかったよね。加えて、8回裏にツーアウト2・3塁でタイムリーヒットを喰らったものの、2塁ランナーをホームで殺した的確な返球も見事だった。繰り返すが、私の選ぶMVPは吉田だ。
もう1つ。この世界一については、栗山監督を讃えるしかあるまい。特に感心するのは、投手起用の適切さだ。
元々、このWBCと言う大会は、投手の投球制限など、怪しげで複雑なレギュレーションが錯綜する。そう言った中で、豪州戦で大差をつけ勝利が確定しつつある中、ダルビッシュを2回に渡り投げさせたこと。準決勝で先発佐々木が3失点したところで、決勝先発が予想された山本を起用したことなど、納得できないことが多かった。
しかし、決勝終盤の投手起用で栗山氏の意図が正確に理解できた。少しでも世界一の確率を高めるために、決勝の最強敵合衆国に対しては、一番頼りになる山本の先発、終盤でダルビッシュと大谷の起用を決めていたのだろう。しかし、準決勝で佐々木が想定外の3ラン本塁打を許し、3点差となったところで、「これ以上の点差にはできない」と判断し、山本を投入し傷口を広げないと言う判断に切り替えたのだろう。いわゆるプランBだな。そして、決勝では今永、戸郷、高橋宏斗、伊藤大海とフレッシュな投手を次々に起用し失点を防ぎ、大勢、そしてダルビッシュと大谷につないだ。恐れ入りましたとしか、言いようがない。
もちろん、一番の「恐れ入りました」は、村上を起用し続けたことだけれども。
かくして楽しかったWBCは、日本優勝と言う最高の形で終了した。一点気になるのは、選手たちへの休養提供。これだけ厳しい戦いを演じた戦士たちが、すぐに自チームに戻り新シーズンに備えるのだろうか、と言う疑問。僅かでもよいから、彼らに家族や恋人との休養を提供した方が、シーズンを通しての活躍と言う視点では適切と思うのだが。
などと、あれこれ講釈を垂れることができるのだから、本当に楽しい大会だったと思う。改めて、栗山氏とダルビッシュとその仲間たちに感謝。
2023年02月19日
Jリーグ30周年
Jリーグ30周年。
62歳の私だが、人生の半分近くJリーグがある生活を続けていたことになる。いや、物心ついた後と言う視点ならば、もう半分以上だな。
気がついて見れば、全国ほとんどの地域でプロフェッショナルのサッカークラブが存在。日本中の仲間が毎週末、病膏肓w愛するクラブの上下動を堪能する事態とあいなった。言い換えれば、何より楽しいサッカーと言う娯楽が、日本中に広がり多くの地域の人々の週末の楽しみになったと言うことだな。若い方々には理解できないかもしれないが、90年代以前日本にはそのような娯楽がまったく存在しなかったのだ。プロ野球や相撲は、地方都市への娯楽提供と言う視点は全く欠落していた。Jリーグが、日本の文化すべてを大きく変えたと言っても、言い過ぎではない。このあたりは過去も随分語ったきたし、今後も語っていくつもりだ。
そして、我がベガルタ仙台は明日の敵地町田戦が開幕。飲みながらSNS見ていると、全世界のベガルタサポータの友人たちが、みな町田に集結するみたいだ。友との再会、圧倒的に強化された愛するクラブ、町田の方々のホスピタリティ。もうワクワク感が最高で堪えられない。妻と「よし、明日は鶴川駅から1時間歩くぞ!」などと盛り上がるのも楽しい。
しかも多くのクラブはこの金曜土曜で開幕試合体験済み、多くの友人が既に初戦を戦い、己のクラブの歓喜と痛恨を嬉しそうに語ってくれているから、単純にうらやましい。
ああ、我慢できない。
考えてみれば、こんな緊張感はあのクロアチア戦以来ではないか。あのPK戦後、一歩一歩階段を上がって競技場を去る時の胸の張り裂けそうな思い。
Jリーグ30周年視点で考えて見れば、日本代表も、J開幕前年の92年アジアカップ制覇以降、常にアジア屈指の強豪となったわけだ。そして、W杯でも上下動はあったものの着実に地位を築いてきた。そして、ドーハでは、世界のどんな強豪とも互角に戦うことができた。だからこそ、あのクロアチア戦の悔しさは癒えることはないのだけれども。
もちろんJリーグができず、大昔のJSLが継続していても、日本代表がアジア予選でモタモタしていも、私はサッカーを存分に楽しんでいたことだろう。勝とうが負けようが、サッカーは最高だからだ。
でも、サッカーを楽しむ友が多数いてくれて、世界中の仲間に自分のクラブと代表チームをポジティブに自慢できるに越したことはない。
何回でも何回でも言う。
こんなステキな人生を楽しむことができるなんて、若い頃想像すらできなかった。
ともあれ、まずは突然金満クラブとなった町田を叩き潰すのだ!
62歳の私だが、人生の半分近くJリーグがある生活を続けていたことになる。いや、物心ついた後と言う視点ならば、もう半分以上だな。
気がついて見れば、全国ほとんどの地域でプロフェッショナルのサッカークラブが存在。日本中の仲間が毎週末、病膏肓w愛するクラブの上下動を堪能する事態とあいなった。言い換えれば、何より楽しいサッカーと言う娯楽が、日本中に広がり多くの地域の人々の週末の楽しみになったと言うことだな。若い方々には理解できないかもしれないが、90年代以前日本にはそのような娯楽がまったく存在しなかったのだ。プロ野球や相撲は、地方都市への娯楽提供と言う視点は全く欠落していた。Jリーグが、日本の文化すべてを大きく変えたと言っても、言い過ぎではない。このあたりは過去も随分語ったきたし、今後も語っていくつもりだ。
そして、我がベガルタ仙台は明日の敵地町田戦が開幕。飲みながらSNS見ていると、全世界のベガルタサポータの友人たちが、みな町田に集結するみたいだ。友との再会、圧倒的に強化された愛するクラブ、町田の方々のホスピタリティ。もうワクワク感が最高で堪えられない。妻と「よし、明日は鶴川駅から1時間歩くぞ!」などと盛り上がるのも楽しい。
しかも多くのクラブはこの金曜土曜で開幕試合体験済み、多くの友人が既に初戦を戦い、己のクラブの歓喜と痛恨を嬉しそうに語ってくれているから、単純にうらやましい。
ああ、我慢できない。
考えてみれば、こんな緊張感はあのクロアチア戦以来ではないか。あのPK戦後、一歩一歩階段を上がって競技場を去る時の胸の張り裂けそうな思い。
Jリーグ30周年視点で考えて見れば、日本代表も、J開幕前年の92年アジアカップ制覇以降、常にアジア屈指の強豪となったわけだ。そして、W杯でも上下動はあったものの着実に地位を築いてきた。そして、ドーハでは、世界のどんな強豪とも互角に戦うことができた。だからこそ、あのクロアチア戦の悔しさは癒えることはないのだけれども。
もちろんJリーグができず、大昔のJSLが継続していても、日本代表がアジア予選でモタモタしていも、私はサッカーを存分に楽しんでいたことだろう。勝とうが負けようが、サッカーは最高だからだ。
でも、サッカーを楽しむ友が多数いてくれて、世界中の仲間に自分のクラブと代表チームをポジティブに自慢できるに越したことはない。
何回でも何回でも言う。
こんなステキな人生を楽しむことができるなんて、若い頃想像すらできなかった。
ともあれ、まずは突然金満クラブとなった町田を叩き潰すのだ!
2023年01月03日
新潟医療福祉大のオナイウ情滋を楽しむ
ベガルタに入団するオナイウ情滋が所属する新潟医療福祉大が、元日に行われた大学選手権決勝戦(対桐蔭横浜大)に進出。国立競技場で観戦した。情滋応援団として、ベガルタサポータの仲間たちと一緒に応援できたのも楽しかった。さらに偶然、我々の席のすぐそばに、新潟のジェフ入団決定済みの小森飛絢を応援するジェフサポの方もいて、それも嬉しかった。
大学サッカー観戦は久々、1試合だけの観戦で大学サッカー云々と語るのは危険なので、あくまでも大学トップレベルの1試合を見ての感想について講釈を。
一言で言って、相互の狙いが、とにかく単調なのに驚かされた。
お互い、中盤でつなげる技巧もタイミングの理解もあるのに、負けるのを怖がってか、縦にロングボールを蹴ってしまう。一方、守備側は裏を突かれるのを怖がり、ラインを上げ切れない。結果的に不正確なロングボールが両サイドに飛べば、それなりに好機となる。
そうこうしているうちに、前半、FK崩れから情滋がミドルシュート、敵DFに当たったこぼれを大柄なストライカの田中翔太が詰め、新潟が先制。情滋のシュートは、少々当たり損ね感があったが、とにかく枠に飛んでいたのだから、よしとしようか。
直後、左サイド(新潟から見て)を崩され中央混戦から同点とされる。桐蔭の2トップはフロンターレ行きが決まっている山田新(川崎ユース出身、来季から出戻りが決まっているわけだな)と、ホーリーホック入りが決まっている寺沼星文。ペナルティエリアにボールが入ると、この2人のボールコントロールがよく、それだけで好機を作られてしまう。序盤から左サイド(新潟から見て)で巧みな位置取りをする井出真太郎(横浜Mのユース出身)への対応に苦慮していたが、完全に崩されてしまった。
その後、新潟はサイドバック神田悠成のロングスローを、CB秋元琉星がすらしCB二階堂正哉が決めて突き放す。3人とも青森山田出身なのには、なるほど感がありましたが、とにかく、2-1で前半終了。
新潟は後半序盤は、リードして落ち着いたのだろう。短いパスを中盤でつなぐようになる。特に左サイドで丁寧につないで、桐蔭守備をひきつけてサイドチェンジ。情滋がフリーでボールを受け、幾度か好機を作る。もっとも、情滋はフリーのミドルシュートが枠に飛ばなかったり、中央突破を試みながら身体を入れ損ね簡単にボールを奪われるなど、ベガルタサポータからすると「おい、こら」と言う場面も見受けられたw。いや私が「もっと、がんばらんかい!」と思わず語ると、周りのベガルタサポータの方々が、楽しそうに失笑してくれたけれどw。
ところが、新潟は後半半ば以降、勝ちを意識したのだろうか、落ち着いてつなぐことがなくなり、再び縦パスに頼ることになってきた。そうなると、結果的に桐蔭に簡単にボールを渡し、幾度も攻め返されることになる。上記の通り、桐蔭の2トップは技巧も持ち堪えも巧み。簡単に桐蔭にボールを渡し、前線に差し込まれると、それだけで危ない場面となってしまう。そうこうしているうちに、75分過ぎに同点とされる。 同点となれば、少しは落ち着くかと期待したが、その後も同様の展開。新潟が単調なロングボールを蹴り、そこから桐蔭が好機をつかむ時間帯が継続する。それでも試合は同点のまま進み、アディショナルタイム。桐蔭の決定機を新潟GK桃井がファインセーブ、その直後のCKもしのぎ、桃井のゴールキック。ここでまったく時間は残っていないのに、桃井は単純にロングボールを蹴ってしまう、それを跳ね返され、桐蔭の逆襲速攻、エース山田に強烈な一撃を食らった。試合運びとすれば、あまりに稚拙。若い学生チームとすれば、やむを得ないのだろうか。
桐蔭関係者(川崎や水戸の関係者もそうでしょうが)からすれば感動的勝利だったことでしょう。新潟関係者としては、たまったものではありませんでしたが。
オナイウ情滋は、ボールを持てば多彩な攻撃の起点になれる。強引に縦に抜け出した直後、少々体勢が悪くとも高精度の右クロスを上げることができる。敵DFがウェイティングしようとすると、「縦に抜け出すぞ」と脅しDFの腰を引かせた上で、中に切り返したり、周囲にパスを出したり、色々な変化も作れる。また、右足のインフロントキックで蹴るプレイスキックも魅力的。球足は速いし、相当カーブもかかるし、精度も中々だった。しかし、少なくともこの試合ついては、ボールに触る回数が少な過ぎた。もちろん、桐蔭も情滋を相当警戒していたのは間違いない。しかし、エースなのだから、もっともっとボールにからみ、勝利に貢献しようとすることは責務のはずだ。情滋本人の受けのアイデアと周囲への要求それぞれに課題があったのだ。大学サッカーでの最後の最後の試合で、情滋はそこまで自分を活かすための工夫までは築き上げることができなかった、と言うことなのだろう。
さらに言えば、守備面での不満も多かったのだが、まあいいや。まずは得意のプレイの頻度が少なかったことが課題だな。そして、この決勝戦程度しか、攻撃面で貢献できなかったのを見ると、ベガルタですぐに定位置を奪ったり、効果的なプレイをするのは簡単ではないように思える。
などと、若い選手に愚痴を語るのは、何とも言えず楽しい。願わくば、私の見立てがはずれていることを。まずはしっかり休み、気持ちも体調も整え、キャンプに向かって下さい。
大学サッカー観戦は久々、1試合だけの観戦で大学サッカー云々と語るのは危険なので、あくまでも大学トップレベルの1試合を見ての感想について講釈を。
一言で言って、相互の狙いが、とにかく単調なのに驚かされた。
お互い、中盤でつなげる技巧もタイミングの理解もあるのに、負けるのを怖がってか、縦にロングボールを蹴ってしまう。一方、守備側は裏を突かれるのを怖がり、ラインを上げ切れない。結果的に不正確なロングボールが両サイドに飛べば、それなりに好機となる。
そうこうしているうちに、前半、FK崩れから情滋がミドルシュート、敵DFに当たったこぼれを大柄なストライカの田中翔太が詰め、新潟が先制。情滋のシュートは、少々当たり損ね感があったが、とにかく枠に飛んでいたのだから、よしとしようか。
直後、左サイド(新潟から見て)を崩され中央混戦から同点とされる。桐蔭の2トップはフロンターレ行きが決まっている山田新(川崎ユース出身、来季から出戻りが決まっているわけだな)と、ホーリーホック入りが決まっている寺沼星文。ペナルティエリアにボールが入ると、この2人のボールコントロールがよく、それだけで好機を作られてしまう。序盤から左サイド(新潟から見て)で巧みな位置取りをする井出真太郎(横浜Mのユース出身)への対応に苦慮していたが、完全に崩されてしまった。
その後、新潟はサイドバック神田悠成のロングスローを、CB秋元琉星がすらしCB二階堂正哉が決めて突き放す。3人とも青森山田出身なのには、なるほど感がありましたが、とにかく、2-1で前半終了。
新潟は後半序盤は、リードして落ち着いたのだろう。短いパスを中盤でつなぐようになる。特に左サイドで丁寧につないで、桐蔭守備をひきつけてサイドチェンジ。情滋がフリーでボールを受け、幾度か好機を作る。もっとも、情滋はフリーのミドルシュートが枠に飛ばなかったり、中央突破を試みながら身体を入れ損ね簡単にボールを奪われるなど、ベガルタサポータからすると「おい、こら」と言う場面も見受けられたw。いや私が「もっと、がんばらんかい!」と思わず語ると、周りのベガルタサポータの方々が、楽しそうに失笑してくれたけれどw。
ところが、新潟は後半半ば以降、勝ちを意識したのだろうか、落ち着いてつなぐことがなくなり、再び縦パスに頼ることになってきた。そうなると、結果的に桐蔭に簡単にボールを渡し、幾度も攻め返されることになる。上記の通り、桐蔭の2トップは技巧も持ち堪えも巧み。簡単に桐蔭にボールを渡し、前線に差し込まれると、それだけで危ない場面となってしまう。そうこうしているうちに、75分過ぎに同点とされる。 同点となれば、少しは落ち着くかと期待したが、その後も同様の展開。新潟が単調なロングボールを蹴り、そこから桐蔭が好機をつかむ時間帯が継続する。それでも試合は同点のまま進み、アディショナルタイム。桐蔭の決定機を新潟GK桃井がファインセーブ、その直後のCKもしのぎ、桃井のゴールキック。ここでまったく時間は残っていないのに、桃井は単純にロングボールを蹴ってしまう、それを跳ね返され、桐蔭の逆襲速攻、エース山田に強烈な一撃を食らった。試合運びとすれば、あまりに稚拙。若い学生チームとすれば、やむを得ないのだろうか。
桐蔭関係者(川崎や水戸の関係者もそうでしょうが)からすれば感動的勝利だったことでしょう。新潟関係者としては、たまったものではありませんでしたが。
オナイウ情滋は、ボールを持てば多彩な攻撃の起点になれる。強引に縦に抜け出した直後、少々体勢が悪くとも高精度の右クロスを上げることができる。敵DFがウェイティングしようとすると、「縦に抜け出すぞ」と脅しDFの腰を引かせた上で、中に切り返したり、周囲にパスを出したり、色々な変化も作れる。また、右足のインフロントキックで蹴るプレイスキックも魅力的。球足は速いし、相当カーブもかかるし、精度も中々だった。しかし、少なくともこの試合ついては、ボールに触る回数が少な過ぎた。もちろん、桐蔭も情滋を相当警戒していたのは間違いない。しかし、エースなのだから、もっともっとボールにからみ、勝利に貢献しようとすることは責務のはずだ。情滋本人の受けのアイデアと周囲への要求それぞれに課題があったのだ。大学サッカーでの最後の最後の試合で、情滋はそこまで自分を活かすための工夫までは築き上げることができなかった、と言うことなのだろう。
さらに言えば、守備面での不満も多かったのだが、まあいいや。まずは得意のプレイの頻度が少なかったことが課題だな。そして、この決勝戦程度しか、攻撃面で貢献できなかったのを見ると、ベガルタですぐに定位置を奪ったり、効果的なプレイをするのは簡単ではないように思える。
などと、若い選手に愚痴を語るのは、何とも言えず楽しい。願わくば、私の見立てがはずれていることを。まずはしっかり休み、気持ちも体調も整え、キャンプに向かって下さい。
2023年01月01日
アルゼンチンと我々の差
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
クロアチアに敗れて、約1ヶ月が経ちました。未だ悔しくて悔しくて仕方ありませんがが、頭の整理もようやくついてきました。様々な思いを整理して講釈を垂れていきたいと思います。
ドイツとスペインには勝てたが、なぜクロアチアに勝てなかったのか。2次ラウンドで勝ち続けるために、何が足りないのか。ここまで戦い、ここまで近づけたから具体的に理解できたことが多数あります。年始第一弾の講釈は、優勝したアルゼンチンと我々の差について講釈を垂れたいと思います。
1. アルゼンチンの謎
本当に興奮する決勝戦だったとは思う。そして、PK戦まで見据えて粘り強く戦い切ったアルゼンチンの強さには恐れ入った。しかし、アルゼンチンはもう少しうまく戦っていれば、あそこまで苦戦せずとも勝てたのではないか、と思えませんか。もちろん、世界一奪回がチラついたところで2回追いつかれながら、PK戦用の交代カードを残し、丹念に勝ち切ったのは、すごかったけれど。
この超大国は、半世紀足らずの間に、ディエゴ・メッシと、ペレと並ぶスーパースターを2人輩出した。そして、ワールドカップごとに毎回、優勝候補と目される強力なチームを送り込みながら、再度の戴冠まで36年の年月がかかった。
本稿では、この超大国の決勝戦と世界王者奪還までの36年を振り返った上で、我々との決定的な差について講釈を垂れたい。
2. 決勝前半、アルゼンチンの圧倒的攻勢
決勝前半のアルゼンチンの美しさをどう語ったらよいのだろうか。
フランスの弱点、エムバペの守備の弱さを突き右サイドから攻撃を展開。時に中盤や最終ラインに戻し揺さぶりを加える。フランス自慢のチュアメニとラビオが、まったくアルゼンチンのパス回しを妨害できない。結果的にメッシに自由なボールタッチを許す。そう言った流れから、フランスの守備を右サイドに引き付けておいて、左サイドに展開。そこには、大外に開き全くフリーのディ・マリアがいた。フリーで加速したディ・マリア、いくらヴァランでもまったく対応できない。フランスが対応に苦慮しているうちに、前半半ばで2-0。
デシャン氏は、前半終盤にジルーとデンペレを外して、テュラン倅とコロムアニを起用し、何とか前線両サイドからの守備を整備、これ以上点差を広げない策を選択するしかなかった。
しかし、後半に入っても展開は変わらず。フランスは攻め込んでもシュートに持ち込むことすらできない。一方アルゼンチンは幾度も速攻から好機をつかみ、ロリスとヴァランがかろうじて防ぐ展開が続く。
ワールドカップの決勝は、案外一方的な試合となることは多い。敗戦国が決勝進出までにエネルギーを使い切ったり、体調不良だったり、極端な不運に襲われたりしたためだ。82年のイタリア3-1西ドイツ、98年のフランス3-0ブラジル、02年のブラジル2-0ドイツなど。前回18年のフランス4-2クロアチアも、クロアチアに考え得るすべての不運が重なったような試合だったが、一方的な展開となってしまったのは記憶に新しい。
この決勝も、そのような試合になると思われた。終盤までは。
3. 決勝終盤、アルゼンチン動かず
70分過ぎ、デシャン氏が、グリーズマンを下げコマンを投入したことで、フランスが知性や技巧で崩すのをあきらめ、強引な突破に僅かな望みを賭けたのがわかった。こうなると、アルゼンチンは、単純な強さや速さにやられない対応(交通事故防止)が必要となる。具体的には、フレッシュな選手を投入し、マイボールの時間を増やす、フランスの後方選手へのプレスをしっかりかけて精度の高いボールを入れさせないなど。しかしエスカローニ氏は動かない。そうこうしているうちに80分過ぎ、交通事故が発生した。エムボマの縦パスをコロムアニが追うが、アルゼンチンCBのオタメンディが先にコースを押さえていたにもかかわらずミス、コロムアニに裏を突かれPKを与えて1点差。さらに交通事故が連続する。中盤でメッシがボールキープしたところを奪われたにもかかわらず、修正が緩慢。一番許してはいけないエムバペの裏突破で同点。
残り時間はあと10数分。先方は単調な攻撃に終始。そして、交代枠は4枚残っている。もうアルゼンチンは36年振りにカップに手が届きつつあった。それなのに、エスカローニ氏は交代策をとらず、みすみす同点を許してしまった。ピッチ上の選手達も、丁寧さがなくなり単調な縦パスに逃げるケースが増えてくる。結果として、同点後もフランスの強引な攻撃が奏功し、90分のうちに逆転弾を浴びてもおかしくない場面もあった。もちろん、アディショナルタイムのメッシとロリスの戦いは素晴らしかったけれど。
エスカローニ氏も、さすがに延長前半までに3人を交代させ、108分についにメッシが決勝点。
またもアルゼンチンは、あと10分ちょっと守り切れば状況となる。しかも、デシャン氏は113分まったく動けなくなったヴァランも交代。ヴァラン、グリーズマン、ジルー、フランスの知性を象徴するタレント達は、皆ピッチから去った。デシャン氏にはこれ以上の交代カードはなく、ピッチ上のフランスの選手達は疲弊しきっている。しかし、アルゼンチンは、引くでもなく、中盤で止めるでもなく、曖昧な戦い方をする。最前線のタッチライン沿いでボールキープする時間帯もあったが、フランスを苛立たせるようなボールキープも行わないし、残った交代枠を活かすでもない。CK崩れからハンドを取られたのは相当な不運だったが、やりようはもっとあったはず。例えばそのCK直前に守備固めでペッセーラを起用したが、もっと早くにこの交代を行っていれば、そのCKを与えることもなかったのではないか。
その後も両軍は単調な攻め合いに終始。120分過ぎにはコロムアニの超決定機をマルティネスの超ファインプレイでかろうじてしのぐ場面も許した。その直後のアルゼンチン決定機獲得と合わせ、野次馬として見ている分にはおもしろかったですから、文句を言うのは筋違いかもしれませんがね。
我々は最終的に、PK戦でマルティネスがファインセーブを連発し、120分過ぎに起用されたディバラを含め延長に入ってから起用された選手達が見事なPKを決めたのを知っている。結果論からすれば、エスカローニ氏は、PK戦を得意とするGKを抱え、最終盤にPKが得意な選手を起用、最後の最後のPK戦での勝利を含めて采配を振るったように見える。底知れぬ二枚腰三枚腰、いや十枚腰くらいの奥深い勝負強さも感じた。しかし、2-0でリードしていた後半、3-2でリードしていた延長後半、それぞれに選手交代を含めて守備を再整備さえしていれば、もっと楽に世界制覇に至ったのではないか、と思わずにはいられないのだ。
4. 準々決勝オランダ戦の稚拙さ
考えてみれば、準々決勝オランダ戦の終盤の稚拙さも相当だった。前半メッシのラストパスからモリーナが先制、73分アクーニャが倒されたPKをメッシが決め2-0。オランダは好機すらつかむことができずにいたので、パワープレイを選択。83分に失点し1点差となったものの、およそ追いつかれる雰囲気はなかった。しかし、残り僅か10分の間にアルゼンチンは軽率なプレイを繰り返す。89分バレデスがオランダベンチにボールを蹴り込み、退場になってもおかしくない無意味なプレイ。さらにオランダの同点弾を産んだFKは終了1分前にペッセーラが全く不要なファウルで与えたものだった。攻め込まれて苦し紛れのファウルに逃げたのではない、まったく行う必要がないファウルで苦しい場面を招いたのだ。
ところが、アディショナルタイムで追いつかれると言う衝撃的な状況に追い込まれたアルゼンチンは、延長に入って立ち直る。チーム全体で落ち着いてボールを回し、オランダに好機すら与えない。そして112分に起用したディ・マリアを軸に猛攻をしかけ幾度も決定機をつかむが決め切れずPK戦へ。しかし、決定機をつかみながら勝ち切れなかった精神的ショックを一切感じさせず、皆が落ち着いてPKを決め続けての勝利。
5. アルゼンチンの36年
アルゼンチン代表の歴史を振り返る。
アルゼンチンは、78年地元大会にケンペス、パサレラ、アルディレスらを軸に美しい攻撃的サッカーと紙吹雪大観衆で初の世界王者に輝く。この国はそれ以前はワールドカップの成績は大したことはなかった。1930年の第1回大会で準優勝以降、ベスト4に残ることすらなかった。ディステファノを筆頭に高名な選手を輩出し続けたにもかかわらず。けれども、地元で初戴冠し、前後してディエゴ・マラドーナが登場、以降この超大国は世界一に拘泥し、常にワールドカップに強力な代表チームを送り込む。
82年は前回優勝メンバにディエゴが加わったがチームとしてのバランスが悪く、イタリアとブラジルに完敗。
86年はディエゴの神の手や5人抜きなどの伝説的神技で2回目の戴冠。
90年は、ディエゴを含め負傷者続出の中、2次ラウンドでブラジル・旧ユーゴスラビア(オシム監督でエースはピクシー)、地元イタリアを下し、決勝進出。決勝で0−1で西ドイツに苦杯するが、決勝点は怪しげな判定からのPKだった。
94年はシメオネやバティストゥータと言った若いメンバにディエゴが加わる布陣で、1次ラウンド2連勝でスタートするも、ディエゴに薬物反応が出て大会から追放され、2次ラウンド1回戦でハジ率いるルーマニアに完敗。ディエゴの時代は終わる。
98年は初戦で我々も手合わせ、2次ラウンド初戦でイングランドをPK戦で振り切る。続く準々決勝オランダ戦、終盤にオルテガがGKファンハールの挑発に乗ってしまい退場、直後ベルカンプの芸術弾に散る。
02年は1次ラウンドでイングランドに敗れたものの、最終戦のスウェーデン戦に勝てば2次ラウンドに進出できたが、強引で単調な攻めに終始し引き分け敗退。
06年は準々決勝のドイツ戦後半序盤に先制しほとんど好機すら与えない展開。ところが早い段階でGKアボンダンシエリが負傷交代、ワンチャンスをドイツクローゼに決められ追いつかれ、PK戦で敗れる。
10年はディエゴを監督にすると言う自暴自棄策に出るが、まあ誰もが予想した通り失敗。アルゼンチン協会も毎回毎回最強クラスのチームを送り込んでは早期敗退と言う悪い流れを断ち切ろうとしたのかもしれないが、いくら何でも無茶だった。
14年は基本に立ち返り、攻撃はすべてメッシ、後ろはすべてマスケラーノと言うチームを作る。ところが決勝は、メッシの副官として変化をつかさどるディ・マリアの負傷もあり、決勝でドイツに延長で惜敗。
18年は、マスケラーノの衰えが顕著で、チームのバランスがとれぬうちに、2次ラウンド初戦でフランスと当たり沈没。
6. アルゼンチンの「勝負強さ」
こうやって振り返ると、86年ディエゴで優勝した以降、この超大国は毎回のように優勝候補と言えるチームを送り出している(10年と18年はちょっと弱かったかな)。しかし、90年と14年しか決勝進出できていない。とてもではないが、「勝負強い」とは言えないではないか。
我々はアルゼンチンと言うと、時にアンフェアなプレイをしても戦い抜く勝負への執着に感心し、安易にしたたかで「勝負強い」と思い込んでいただけなのではないか。より正確に表現すると、彼らの「勝負強さ」にはムラがあるのだ。
決勝フランス戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の延長戦を含んだ時間帯、交代策が後手を踏み、お互いノーガードの打ち合い。PK戦での氷のような冷静さ。
準々決勝オランダ戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の後半終了までの時間帯、各選手がラフプレイを連発し自滅の同点劇、延長とPK戦での氷のような冷静さ。
つまり、頭に血が上がってしまい冷静さを失う時間帯があると言うことだろう。それも監督含めてチーム全体で。しかし、延長戦に入る、PK戦に入るなど、一旦落ち着く機会があれば、彼らは冷静さを取り戻す。
それにしても、あれだけ冷静に戦える戦士たちが、何故あれほど冷静さを欠いてしまうのか。おそらく、「勝ちたい」と言う執念が強過ぎるからではないか。だから、チーム全体で頭に血が上がってしまうのだ。ともあれ、メッシとその仲間達は、頭に血が上がった時間帯もあったが、肝心の場面で氷のような冷静さを取り戻し、36年振りにワールドカップを取り戻した。
このカタールワールドカップ、我々はドイツやスペインを叩きのめし、クロアチアをあと一歩まで追い詰めた。もはや目指すは世界一である。ワールドカップ制覇は、決して簡単な道のりではないし、少なくとも62歳の私が生きているうちに実現することはないだろう。
しかし、世界一を目指すためには、世界一の国から学ばなければならない。そして、36年振りに世界一を奪還したこの超大国の戦士達は、氷のような冷静さを持っているにもかかわらず、冷静さを失う程「勝ちたい」との執念で戦っていた。我々とアルゼンチンの差はこの執念だ。
世界一を目指すために、我々がこの異様な執念を身につける必要はないかもしれない。しかし、アルゼンチンのような超大国が、我々とは格段に異なるこのような執念の下で戦っていると冷静に把握するのは、世界一を目指すために必須のはずだ。
クロアチアに敗れて、約1ヶ月が経ちました。未だ悔しくて悔しくて仕方ありませんがが、頭の整理もようやくついてきました。様々な思いを整理して講釈を垂れていきたいと思います。
ドイツとスペインには勝てたが、なぜクロアチアに勝てなかったのか。2次ラウンドで勝ち続けるために、何が足りないのか。ここまで戦い、ここまで近づけたから具体的に理解できたことが多数あります。年始第一弾の講釈は、優勝したアルゼンチンと我々の差について講釈を垂れたいと思います。
1. アルゼンチンの謎
本当に興奮する決勝戦だったとは思う。そして、PK戦まで見据えて粘り強く戦い切ったアルゼンチンの強さには恐れ入った。しかし、アルゼンチンはもう少しうまく戦っていれば、あそこまで苦戦せずとも勝てたのではないか、と思えませんか。もちろん、世界一奪回がチラついたところで2回追いつかれながら、PK戦用の交代カードを残し、丹念に勝ち切ったのは、すごかったけれど。
この超大国は、半世紀足らずの間に、ディエゴ・メッシと、ペレと並ぶスーパースターを2人輩出した。そして、ワールドカップごとに毎回、優勝候補と目される強力なチームを送り込みながら、再度の戴冠まで36年の年月がかかった。
本稿では、この超大国の決勝戦と世界王者奪還までの36年を振り返った上で、我々との決定的な差について講釈を垂れたい。
2. 決勝前半、アルゼンチンの圧倒的攻勢
決勝前半のアルゼンチンの美しさをどう語ったらよいのだろうか。
フランスの弱点、エムバペの守備の弱さを突き右サイドから攻撃を展開。時に中盤や最終ラインに戻し揺さぶりを加える。フランス自慢のチュアメニとラビオが、まったくアルゼンチンのパス回しを妨害できない。結果的にメッシに自由なボールタッチを許す。そう言った流れから、フランスの守備を右サイドに引き付けておいて、左サイドに展開。そこには、大外に開き全くフリーのディ・マリアがいた。フリーで加速したディ・マリア、いくらヴァランでもまったく対応できない。フランスが対応に苦慮しているうちに、前半半ばで2-0。
デシャン氏は、前半終盤にジルーとデンペレを外して、テュラン倅とコロムアニを起用し、何とか前線両サイドからの守備を整備、これ以上点差を広げない策を選択するしかなかった。
しかし、後半に入っても展開は変わらず。フランスは攻め込んでもシュートに持ち込むことすらできない。一方アルゼンチンは幾度も速攻から好機をつかみ、ロリスとヴァランがかろうじて防ぐ展開が続く。
ワールドカップの決勝は、案外一方的な試合となることは多い。敗戦国が決勝進出までにエネルギーを使い切ったり、体調不良だったり、極端な不運に襲われたりしたためだ。82年のイタリア3-1西ドイツ、98年のフランス3-0ブラジル、02年のブラジル2-0ドイツなど。前回18年のフランス4-2クロアチアも、クロアチアに考え得るすべての不運が重なったような試合だったが、一方的な展開となってしまったのは記憶に新しい。
この決勝も、そのような試合になると思われた。終盤までは。
3. 決勝終盤、アルゼンチン動かず
70分過ぎ、デシャン氏が、グリーズマンを下げコマンを投入したことで、フランスが知性や技巧で崩すのをあきらめ、強引な突破に僅かな望みを賭けたのがわかった。こうなると、アルゼンチンは、単純な強さや速さにやられない対応(交通事故防止)が必要となる。具体的には、フレッシュな選手を投入し、マイボールの時間を増やす、フランスの後方選手へのプレスをしっかりかけて精度の高いボールを入れさせないなど。しかしエスカローニ氏は動かない。そうこうしているうちに80分過ぎ、交通事故が発生した。エムボマの縦パスをコロムアニが追うが、アルゼンチンCBのオタメンディが先にコースを押さえていたにもかかわらずミス、コロムアニに裏を突かれPKを与えて1点差。さらに交通事故が連続する。中盤でメッシがボールキープしたところを奪われたにもかかわらず、修正が緩慢。一番許してはいけないエムバペの裏突破で同点。
残り時間はあと10数分。先方は単調な攻撃に終始。そして、交代枠は4枚残っている。もうアルゼンチンは36年振りにカップに手が届きつつあった。それなのに、エスカローニ氏は交代策をとらず、みすみす同点を許してしまった。ピッチ上の選手達も、丁寧さがなくなり単調な縦パスに逃げるケースが増えてくる。結果として、同点後もフランスの強引な攻撃が奏功し、90分のうちに逆転弾を浴びてもおかしくない場面もあった。もちろん、アディショナルタイムのメッシとロリスの戦いは素晴らしかったけれど。
エスカローニ氏も、さすがに延長前半までに3人を交代させ、108分についにメッシが決勝点。
またもアルゼンチンは、あと10分ちょっと守り切れば状況となる。しかも、デシャン氏は113分まったく動けなくなったヴァランも交代。ヴァラン、グリーズマン、ジルー、フランスの知性を象徴するタレント達は、皆ピッチから去った。デシャン氏にはこれ以上の交代カードはなく、ピッチ上のフランスの選手達は疲弊しきっている。しかし、アルゼンチンは、引くでもなく、中盤で止めるでもなく、曖昧な戦い方をする。最前線のタッチライン沿いでボールキープする時間帯もあったが、フランスを苛立たせるようなボールキープも行わないし、残った交代枠を活かすでもない。CK崩れからハンドを取られたのは相当な不運だったが、やりようはもっとあったはず。例えばそのCK直前に守備固めでペッセーラを起用したが、もっと早くにこの交代を行っていれば、そのCKを与えることもなかったのではないか。
その後も両軍は単調な攻め合いに終始。120分過ぎにはコロムアニの超決定機をマルティネスの超ファインプレイでかろうじてしのぐ場面も許した。その直後のアルゼンチン決定機獲得と合わせ、野次馬として見ている分にはおもしろかったですから、文句を言うのは筋違いかもしれませんがね。
我々は最終的に、PK戦でマルティネスがファインセーブを連発し、120分過ぎに起用されたディバラを含め延長に入ってから起用された選手達が見事なPKを決めたのを知っている。結果論からすれば、エスカローニ氏は、PK戦を得意とするGKを抱え、最終盤にPKが得意な選手を起用、最後の最後のPK戦での勝利を含めて采配を振るったように見える。底知れぬ二枚腰三枚腰、いや十枚腰くらいの奥深い勝負強さも感じた。しかし、2-0でリードしていた後半、3-2でリードしていた延長後半、それぞれに選手交代を含めて守備を再整備さえしていれば、もっと楽に世界制覇に至ったのではないか、と思わずにはいられないのだ。
4. 準々決勝オランダ戦の稚拙さ
考えてみれば、準々決勝オランダ戦の終盤の稚拙さも相当だった。前半メッシのラストパスからモリーナが先制、73分アクーニャが倒されたPKをメッシが決め2-0。オランダは好機すらつかむことができずにいたので、パワープレイを選択。83分に失点し1点差となったものの、およそ追いつかれる雰囲気はなかった。しかし、残り僅か10分の間にアルゼンチンは軽率なプレイを繰り返す。89分バレデスがオランダベンチにボールを蹴り込み、退場になってもおかしくない無意味なプレイ。さらにオランダの同点弾を産んだFKは終了1分前にペッセーラが全く不要なファウルで与えたものだった。攻め込まれて苦し紛れのファウルに逃げたのではない、まったく行う必要がないファウルで苦しい場面を招いたのだ。
ところが、アディショナルタイムで追いつかれると言う衝撃的な状況に追い込まれたアルゼンチンは、延長に入って立ち直る。チーム全体で落ち着いてボールを回し、オランダに好機すら与えない。そして112分に起用したディ・マリアを軸に猛攻をしかけ幾度も決定機をつかむが決め切れずPK戦へ。しかし、決定機をつかみながら勝ち切れなかった精神的ショックを一切感じさせず、皆が落ち着いてPKを決め続けての勝利。
5. アルゼンチンの36年
アルゼンチン代表の歴史を振り返る。
アルゼンチンは、78年地元大会にケンペス、パサレラ、アルディレスらを軸に美しい攻撃的サッカーと紙吹雪大観衆で初の世界王者に輝く。この国はそれ以前はワールドカップの成績は大したことはなかった。1930年の第1回大会で準優勝以降、ベスト4に残ることすらなかった。ディステファノを筆頭に高名な選手を輩出し続けたにもかかわらず。けれども、地元で初戴冠し、前後してディエゴ・マラドーナが登場、以降この超大国は世界一に拘泥し、常にワールドカップに強力な代表チームを送り込む。
82年は前回優勝メンバにディエゴが加わったがチームとしてのバランスが悪く、イタリアとブラジルに完敗。
86年はディエゴの神の手や5人抜きなどの伝説的神技で2回目の戴冠。
90年は、ディエゴを含め負傷者続出の中、2次ラウンドでブラジル・旧ユーゴスラビア(オシム監督でエースはピクシー)、地元イタリアを下し、決勝進出。決勝で0−1で西ドイツに苦杯するが、決勝点は怪しげな判定からのPKだった。
94年はシメオネやバティストゥータと言った若いメンバにディエゴが加わる布陣で、1次ラウンド2連勝でスタートするも、ディエゴに薬物反応が出て大会から追放され、2次ラウンド1回戦でハジ率いるルーマニアに完敗。ディエゴの時代は終わる。
98年は初戦で我々も手合わせ、2次ラウンド初戦でイングランドをPK戦で振り切る。続く準々決勝オランダ戦、終盤にオルテガがGKファンハールの挑発に乗ってしまい退場、直後ベルカンプの芸術弾に散る。
02年は1次ラウンドでイングランドに敗れたものの、最終戦のスウェーデン戦に勝てば2次ラウンドに進出できたが、強引で単調な攻めに終始し引き分け敗退。
06年は準々決勝のドイツ戦後半序盤に先制しほとんど好機すら与えない展開。ところが早い段階でGKアボンダンシエリが負傷交代、ワンチャンスをドイツクローゼに決められ追いつかれ、PK戦で敗れる。
10年はディエゴを監督にすると言う自暴自棄策に出るが、まあ誰もが予想した通り失敗。アルゼンチン協会も毎回毎回最強クラスのチームを送り込んでは早期敗退と言う悪い流れを断ち切ろうとしたのかもしれないが、いくら何でも無茶だった。
14年は基本に立ち返り、攻撃はすべてメッシ、後ろはすべてマスケラーノと言うチームを作る。ところが決勝は、メッシの副官として変化をつかさどるディ・マリアの負傷もあり、決勝でドイツに延長で惜敗。
18年は、マスケラーノの衰えが顕著で、チームのバランスがとれぬうちに、2次ラウンド初戦でフランスと当たり沈没。
6. アルゼンチンの「勝負強さ」
こうやって振り返ると、86年ディエゴで優勝した以降、この超大国は毎回のように優勝候補と言えるチームを送り出している(10年と18年はちょっと弱かったかな)。しかし、90年と14年しか決勝進出できていない。とてもではないが、「勝負強い」とは言えないではないか。
我々はアルゼンチンと言うと、時にアンフェアなプレイをしても戦い抜く勝負への執着に感心し、安易にしたたかで「勝負強い」と思い込んでいただけなのではないか。より正確に表現すると、彼らの「勝負強さ」にはムラがあるのだ。
決勝フランス戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の延長戦を含んだ時間帯、交代策が後手を踏み、お互いノーガードの打ち合い。PK戦での氷のような冷静さ。
準々決勝オランダ戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の後半終了までの時間帯、各選手がラフプレイを連発し自滅の同点劇、延長とPK戦での氷のような冷静さ。
つまり、頭に血が上がってしまい冷静さを失う時間帯があると言うことだろう。それも監督含めてチーム全体で。しかし、延長戦に入る、PK戦に入るなど、一旦落ち着く機会があれば、彼らは冷静さを取り戻す。
それにしても、あれだけ冷静に戦える戦士たちが、何故あれほど冷静さを欠いてしまうのか。おそらく、「勝ちたい」と言う執念が強過ぎるからではないか。だから、チーム全体で頭に血が上がってしまうのだ。ともあれ、メッシとその仲間達は、頭に血が上がった時間帯もあったが、肝心の場面で氷のような冷静さを取り戻し、36年振りにワールドカップを取り戻した。
このカタールワールドカップ、我々はドイツやスペインを叩きのめし、クロアチアをあと一歩まで追い詰めた。もはや目指すは世界一である。ワールドカップ制覇は、決して簡単な道のりではないし、少なくとも62歳の私が生きているうちに実現することはないだろう。
しかし、世界一を目指すためには、世界一の国から学ばなければならない。そして、36年振りに世界一を奪還したこの超大国の戦士達は、氷のような冷静さを持っているにもかかわらず、冷静さを失う程「勝ちたい」との執念で戦っていた。我々とアルゼンチンの差はこの執念だ。
世界一を目指すために、我々がこの異様な執念を身につける必要はないかもしれない。しかし、アルゼンチンのような超大国が、我々とは格段に異なるこのような執念の下で戦っていると冷静に把握するのは、世界一を目指すために必須のはずだ。