2023年08月15日

貴女たちはアルゼンチンやブラジル

 女子代表、スウェーデンに苦杯し、準々決勝敗退。
 終盤圧倒的に押し込んだ場面で明らかなように、選手の総合的な知性と技術はスウェーデンを圧倒していた。ただ、スウェーデンの前半に強引に仕掛けて先制逃げ切りをねらう作戦にはまり、不運な判定のPKもあって、悔しい敗戦となってしまった。
 悔しさと言う快感を噛み締めると共に、すばらしい戦いを見せてくれた熊谷紗希と仲間達に感謝したい。ありがとうございました。

 試合前から予想された通り、スウェーデンは非常に厄介な相手だった。
 スウェーデンは「普通にやったら勝てない」との自覚の下、強引な作戦をねらってきた。前半からスタミナ切れ覚悟で、中盤でプレスをかけ、パスコースを限定し、押し込んできたのだ。それでも、一度だけ裏を狙われた時に熊谷紗希が処理を誤り危ない場面を作られたが、それ以外はピンチらしいピンチもない。中盤の組織守備が機能していたからだ。一方で、スウェーデンの守備もGKが広範囲にDFラインの裏を警備し、日本がプレスを回避した裏抜けを狙っても決定機を作らせない。
 ところが、先制点を奪われた以降、清水梨紗と杉田妃和の両翼が消極的になってしまい前進できなくなってしまった。そのため、長谷川唯や宮澤ひなたが中盤でボールを保持しても出しどころがなく、幾度もスウェーデンMFにボールを奪われショートカウンタを許すことになった。山下杏也加のすばらしいセービングがなければ、前半で2点差にされてもおかしくない展開だった。それでも前半を0-1でしのいだ直後の後半立ち上がりに、微妙な判定でPKを提供するとは。
 しかし、最前線に植木理子を起用し前線からの守備を整備し、スウェーデン各選手の切れが落ちるにつれ、日本が圧倒的攻勢をとり猛攻をしかける。終盤、スウェーデン各選手も、疲弊しながら創意工夫して抵抗。日本は幾度も好機をつかむが、PK失敗など最前線での焦りも目立ち、同点には至らず試合終了。
 スウェーデンの注文相撲にはまり、不運な判定もあり悔しい敗戦。もちろん、スウェーデンが見事で日本に足りないものもあったが、この敗戦は極めて不運だった。熊谷と仲間達は世界最高峰の戦闘能力を持ちながらも力尽きた。

 これがサッカーなのだ。

 スウェーデンとしては「日本に勝つにはこれしかない」と言う戦いを完璧にやり遂げた。悔しいけれどお見事でした。
 前述のように前半から後先考えず厳しい組織的プレスで日本に簡単に攻めさせない。FK崩れから日本の明らかなミス(後述する)を突き先制。日本の動揺を見てとると、組織的プレスを強化する。微妙な判定でPKで2-0とした後は、疲労が顕著ながら割り切って粘り強く守りを固め。日本の攻め込みのこぼれ球に対しては、速攻は狙わず極力ファウルしないように丁寧に身体を入れて、焦る日本の無理な裏抜け狙いだけは防ぐ。笛が鳴ると、したたかに時間稼ぎ。
 以上冷静に振り返れば、50分で0-2となる展開は(おそらくスウェーデンも期待はしていただろうが、実現するとは思っていなかった)信じ難い事態だった。その後、日本はいくつかの稚拙さはあったが、体勢を立て直し猛攻をしかけた。でも1点しかとれなかった。
 繰り返すが、これがサッカーなのだ。交通事故も起こるし、敵守備がすばらしくシュートが入らないこともあるし、PK時に露骨な時間稼ぎしているGKに経験足りない主審が警告を出さないこともある。日本は、それを乗り越えて勝利の確率を少しでも上げる駆け引きが足りなかった。
 おそらく、日本とスウェーデンが10回試合をすれば、5勝4分1敗くらいとなるだろう。その1/10を大事な準々決勝でやられてしまった。繰り返すが、スウェーデンの勝負強さに敬意を表したい。しつこいが繰り返そう。これがサッカーなのだ。

 余談ながら。あのPK判定は疑問だ。ルールブックによると、
手や腕で体を不自然に大きくして、手や腕でボールに触れる。手や腕の位置が、その状況における競技者の体の動きによるものではなく、また、競技者の体の動きから正当ではないと判断された場合、競技者は、不自然に体を大きくしたとみなされる。競技者の手や腕がそのような位置にあったならば、手や腕にボールが当たりハンドの反則で罰せられるリスクがある。
と記述されている。あの場面、長野風花の手の動きのどこが「不自然」だったのか。広げた手に当たった訳ではなく、方向が変わった正面に飛んできたボールがバランスをとろうとしていた手に当たったに過ぎないのだが。最後の判断は主審に任せるしかないわけだが、日本はとても不運だった。

 一方で日本は稚拙な戦い方をしてしまった。戦術ミスを列挙しよう。
 先制されたFK崩れ、山下のパンチが弱かった。しかし、それ以上に田中美南と清水梨紗の押上げが遅れたのが残念。特に田中が最後までゴールライン上から動かなかったことで、オフサイドラインが形成されなかったのは痛かった。傍から見ると、田中の個人的な判断ミスに見えたが、セットプレイ崩れの後の守備網構築はどのような約束事だったのか。
 先制点失点後、あそこまで押し込まれたのを修正できなかったのも痛かった。スウェーデンは主に日本のシャドーとサイドMFにプレスをかけてきたが(上記の通り、そこで清水と杉田が消極的になり前進できなくなったのが痛かった)、もう少しCBの南萌華と高橋はな、CFの田中がうまくサポートする、あるいは割り切ってロングボールで逃げておくなど、回避の手段はいくつもあったと思うのだが。ちなみに後半立ち上がり、PKを誘引した敵CKも、清水がせっかくハーフウェイライン近傍でボールを受けながら、逃げのパスを打ち、そこから逆襲されて提供したものだった。つまり、このCKも先制失点後の消極性によるもので、ハーフタイムでも修正し切れなかったことになる。
 体格差を気にし過ぎ、セットプレイを凝りすぎ、CKや敵陣近くでのFKでトリックプレイを狙い過ぎたのはいかがだったか。結果的にスウェーデンに読まれ、好機を作り損ねた。長谷川にしても藤野あおばにしても高精度のボールを蹴ることができる。普通にニアかファーに高精度のボールを入れ熊谷らの空中戦に期待し、たまにトリックプレイを使っていれば、好機はもっと掴めたのではないか。戦っている選手達にとって、単純な体格差(特に体重差)は大変厳しいものなのはよく理解できる。しかし、素早い左右の動きと精度の高いボールを組み合わせれば、もっと変化を作れたように思う。
 池田氏の交代が明らかに遅く、終盤疲弊した敵を追い詰めるのが遅れた事も痛かった。5人交代制においては、後半元気な選手をどのようなタイミングで入れるかが勝負を分ける。ところが、池田氏はハーフタイムに杉田に代えて遠藤純を、52分に田中に代えて植木を起用した後、中々動かない。80分過ぎに、宮澤と長野に代えて、清家貴子と林穂之香を起用。攻撃活性化に成功したが、いかにも遅かった。ノルウェー戦までの戦いですばらしかった宮澤と長野を代えることに躊躇があったのだろうか。せめて、もう70分あたりにこの決断ができなかったものか。
 もう一つ、終盤に秘密兵器?の浜野まいかを起用したが、これも唐突感があった。もし、この勝負どころで投入するならば、浜野をノルウェー戦でプレイさせておくべきだった(アディショナルタイムで浜野を起用しようとしたが、ピッチに入る前にタイムアップ、これは池田監督の単なるヘマとしか言いようがない)。さらに常識的に考えたら、ここは経験豊富な猶本光の投入だったと思うのだが。まあ、ここまで来ると完全に結果論だが。
 もっとも、池田氏の采配が外れた、と言うのも違うような気がする。スタメンに杉田を起用したのは前半は消耗戦を覚悟したためだろう。実際、後半から起用された遠藤純はスウェーデンが疲弊した終盤、完全に左サイドに君臨していたのだから。1点差以下で後半を迎えていれば、「池田采配ズバリ!」と絶賛されていたかもしれない。

 上記の通り池田監督を批判したが、それは個別局面の戦術的課題。今大会の池田氏の手腕がすばらしかったのは言うまでもない。
 幾度も繰り返してきたが、前監督は非常に残念な監督で、池田氏が引き継いだチームの組織連係は非常に低かった。4年前のフランスW杯でも2年前の東京五輪でも、あまりに試合内容が悪かったのは記憶に新しい。あの残念だったチームを世界最高峰のレベルに引き上げたのだから、池田氏の手腕は本当にすばらしいものだ。
 大会直前に、池田氏は非常に大きな決断を実施、ベテランの岩渕真奈を外した。言うまでもなく、岩渕は熊谷と共に2011年の世界制覇メンバ。そして、残念だった東京五輪、組織的な攻撃ができない悲しいチームの中、圧倒的な個人能力でチームを引っ張ったのも記憶に新しい。あのカナダ戦終盤の同点弾は最高だった。その後、岩渕が欧州のクラブで中々出場機会が得られていないなどの報道は目にしていたが、池田氏は強化試合で岩渕を相応には起用していたので、不選考は驚きだった。しかし、その決断は正しかった。この大会を通じ、23歳の宮澤は格段の素質を開花させた、そして19歳の藤野はその圧倒的な潜在力を世界に見せつけた。
 もちろん、このチームが大会に入って急速に完成度を上げてきたのを忘れてはいけない。準備試合のパナマ戦、最前線の連係は今一歩。宮澤はシュート前のトラップが決まらず、藤野は強引さが空回りするばかりだった。そのため、長谷川が一仕事しなければ、崩せる形には中々持ち込めなかった。初戦のザンビア戦もその傾向はあり、ほとんどの得点は、長谷川の縦横無尽のパス回しを起点としていた。しかし、ザンビア戦、コスタリカ戦を通じ、宮澤はシュート前の走り込みとトラップの精度が格段に上がり世界最高のストライカになった。遠藤は的確なファーストタッチをものにし左利きと鋭い切り返しで世界最高のサイドアタッカになった。そして藤野は強引に行きながらタイミングのよいパスを出せるようになり、世界最高の攻撃素材であることを示した。今後、世界中のサッカー狂が、藤野が澤穂希の域に達するかどうかを楽しむことになる。そして、スペイン戦、ノルウェー戦、スウェーデン戦の終盤、屈強な欧州のDF達をおもしろいように崩す連係が完成した。
 ただ、そうやって築き上げられた連係だが、各選手に経験の絶対量が足りなかった。この経験不足は、もちろん選手個々の若さによるものもあったが、もっと大きいのはチームとして勝ち続けた自信ではないか。どうしても前任者への愚痴となってしまうが、数年間に渡り非組織的なサッカーを行い強国に負けるのが平常化してしまったことが、経験不足を招いてしまった。20代前半や10代の選手は仕方がないが、長谷川、田中、清水と言った20代後半以上のタレント達も代表での勝利経験が浅いのが痛かった。

 このような強力なチームができ上がったのは、各選手の創意工夫、それらの選手を育んだ環境、池田氏の手腕、選手達と池田氏を支えたスタッフ達、多くの人々の努力によるものだ。それらすべてに感謝したい。
 勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。しかし、負けても最高峰のレベルのチームを所有している喜びも格段のものなのだ。
 もちろん、女子サッカーの強化については、多くの課題がある。一方で、FIFAやUSAサッカー界が、現実的とは思えない、無謀な市場拡大を進めている現実もある。そのような矛盾を踏まえながら、女子サッカーの活性化に尽力している方々の現場の苦労は相当なものだ。そう言った多くの尊敬すべき方々が努力を重ねている現場に、不肖講釈師も触れる機会を得ており、少しずつ真面目に作文していきたいと思っている。

 今回の悔しい敗戦について、国内のあちらこちらから「スウェーデンのように大柄な選手を発掘しないと勝てない」とか「スウェーデンにのような強国には日本の能力が通用しない」とか「スウェーデンの方がポジショナルサッカーの理解が高かった」とか、次々と熊谷と仲間達を貶める発言が出てきている。サッカーに浸って半世紀経つが、この国のサッカー評論界には「何があっても日本サッカーを卑下しなければいけない」と考えている向きが、後から後から出てくるのだ。そして何より、このような評論は、リスクを負って勝負を賭けて成功したスウェーデンに対しても失礼なのだが(そのような発言をしている方々に、日本を貶めたりスウェーデンに失礼と言う自覚がないから、一層厄介なのだが…)。
 そのような発言を気にしてはいけない。
 もちろん各選手にも課題はあった。強国との試合で相手ペースで展開する時にどう我慢し打開するか、フィジカルの強い相手に対し無理に前に行ったり逃げのパスを出さずにボール保持できないか。さらには、明らかな時間稼ぎにどのように冷静さを保つか。
 しかし、そうだとしても、このチームが世界制覇する戦闘能力を保持していたのは間違いない。だからこそ、選手達は誇りを持って欲しい。
 男子のサッカーを思い起こそう。アルゼンチンが昨年世界一を奪還するのに32年の月日、8回のワールドカップが必要だった。ブラジルは、ここ21年間、5回のワールドカップで世界一となっていない。両国ともワールドカップに世界最高峰の戦闘能力を持つチームを送り込み、常に優勝候補たるプレイを見せながらも。そして、もはや貴女たちはアルゼンチンやブラジルなのだ。これがサッカーなのだ。
 また1年後の五輪についても、思いがないわけではない。しかし、ワールドカップにすべてを賭けて戦った貴女達に対して、次の大会について語るのは失礼と言うものだろう。今は、このワールドカップの悔しい敗退のみを振り返るべきだろう。

 ありがとうございました。悔しい。でも貴女たちのプレイは世界最高峰だった。すばらしかった。
 繰り返します、ありがとうございました。
posted by 武藤文雄 at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月09日

好調の女子代表を俯瞰する

 笑いが止まらなかったスペイン戦の前半、いや、後半もでしたけれど。
 日本は、5-4-1でしっかりブロックを固め、スペインの攻撃を押さえ続ける。前半15分までは敵サイドバックのサポートへの対応に苦労してペナルティエリア内に進出されることもあったが、マークの受け渡しが決まった以降は、危ない場面はほとんどなくなった。この組織守備の指揮を貫徹した熊谷紗希が世界最高峰守備者であることを改めて認識できた。さらには先制点の起点となる完璧なロングパス。
 そして日本の逆襲が冴え渡る。ハーフウェイライン手前で、楢本光の巧妙な動きもありスペイン守備陣が薄くなった瞬間に、植木理子や遠藤純が巧みにボールを受けるや、宮澤ひなたがスペイン守備選手の誰よりも早く挙動を開始。ボールを受けた宮澤は、トップスピード後の正確なボール扱いを見せ、2得点1アシスト。主役を務めたのは宮澤だったが、全軍の意思統一がなければ、ここまで美しい速攻は幾度も成功できない。池田太監督の仕込みの巧みさは恐るべきものがあった。しかも、日本は世界屈指の攻撃創造主の長谷川唯と、世界屈指の好素材の藤野あおばを温存していたのだ。
 後半も同じペースで試合が進む。いや、日本の守備網の組織化は一層進み、スペインはシュートにさえ持ち込めない。唯一好機と言えそうな場面は清水梨紗が足をとられて転倒した場面くらいか。さらに終盤、疲弊したスペインDFを田中美南が個人能力で振り切りダメ押し点を決めてくれた。
 このスペイン戦、しいて残念なことを語るとすれば、4-0と完勝が確定し、スペインは崩壊していて、交代枠が1枚残っていたにもかかわらず、ゴールキーパを交代させなかったことくらいか。この手の大会は、ゴールキーパだけは複数選手の起用が難しく、控えのキーパは完全に裏方役となることが多い。ここは出場機会を得るのが難しい平尾知佳なり田中桃子を起用してもよかったと思うのだが。
 スペインとしては、悪夢のような試合だっただろう。技巧的なボール保持で丁寧に崩しを狙っていたところで、日本の完璧な速攻から失点を繰り返し、なすすべなく敗れたのだから。ゲームプランの全てが打ち砕かれる完敗だった。

 一方のノルウェーは日本に対し、ゲームプラン通りに戦い、単純な戦闘能力差で敗れた。スペインのゲームプランが崩れ去ったのは対照的だった。
 ノルウェーは、5-4-1でしっかりブロックを固め、日本の攻撃を押さえようとした。しかし、立ち上がりから清水と遠藤の両翼が広く開く日本の展開に苦しみ、組織守備は機能しない。日本にサイドで拠点を作られたこともあり、一番恐ろしい長谷川唯にプレッシャをかけることができない。
 それでも、前半ノルウェーは失点を自殺点の1点に押さえ、唯一と言ってもよい好機を活かし前半を1-1で終えることに成功。後半立ち上がりに突き放されるも、その後も複数回の決定機をしのぎ、3点目をとられずに70分過ぎまで時計を進めた。そして、1枚ストライカを入れて4-4-2に切り替え無理攻めに出る。熊谷を軸にした日本守備陣の落ち着きとGK山下杏也加の好守がなければ、同点の可能性もあった。これだけ戦闘能力差がある相手に対し、最後の20分で勝負を賭ける展開に持ち込んだのだから、大成功と言える展開だった。
 しかしノルウェーにとって、そううまくは事は運ばなかった。後方を薄くしたところで、藤野が格段の視野と正確な技術によるスルーパスを宮澤に通したのだから。そして宮澤が挙動を開始した瞬間に、世界中の誰もが得点を確信したに違いない。1対3、2点差。
 このノルウェー戦、日本視点から見て、かなり残念だったのは、ノルウェーがリスク覚悟で攻めに出てきた時間帯に、疲弊した選手を交代させなかったこと。疲労が目立ち始めた長野風花や遠藤純に代えて、林穂之香や杉田妃和を投入してもよい。もちろん、前線に楢本を入れて運動量を確保するとか、空中戦の強い石川璃音を起用するやり方もあったはずだ。結果的には上記した藤野→宮澤で2点差としたので、極端な不安感はなかったが、池田太監督の消極性は気になった。5人交代制のレギュレーション下では、疲労した選手に代えて元気な選手を起用し失点のリスクを最小にするのは必須なはずなのだが。
 ノルウェーとしては、完璧に近い試合だったのだ。日本の攻撃力を警戒し、全軍で守備的なサッカーを展開し、70分過ぎまで1点差で試合を進めることができた。そして、勝負に出て前線に選手を押し出し、複数回の好機をつかんだのだから。ただ、相手が強すぎた。

 スペイン戦の鮮やかな速攻の数々。それを見てのノルウェーの超守備的布陣。ノルウェーはそれでも守り切れずリードを許し、勝負に出て無理攻めに出たところで、宮澤の餌食となった。そう、ノルウェー戦の宮澤の一撃には、今後の対戦想定国のスカウティング担当の嘆息が聞こえてくるように思えた。後方を厚くして守備を固めても、両翼から崩される。両翼を警戒すると長谷川が必殺のパスを刺してくる。攻勢をとり押し込もうとすると宮澤を軸とした超高精度の速攻に襲われる。
 現実的な対応策としては、ノルウェーのように守備を固めた上で(それで失点を防げるかはさておき)、時間帯を限り前線に多数の選手を送り込み、変化や強さを活かした攻撃を仕掛けるか(それで熊谷を破れるかどうかはさておき)。あるいは体力が続く限り、前線からプレスをかけ長谷川を封印し(できるかどうかはさておき)、宮澤の逆襲の脅威はDFの対応力に賭けるか(それで対応できるかはさておき)。
 熊谷とその仲間達がどこまで勝ち進めるか、神のるぞ知ることだ。そしておそらく、ベスト8のいずれの国よりも戦闘能力は高く、残り3試合を全勝してくれる可能性がそれなりに高いことは間違いない。そして何より熊谷とその仲間達のサッカーは、効率的で攻撃的で、そして何より魅力的だ。現地に行かなかった己の先見性のなさを反省しながら、12年ぶりの世界一の歓喜を期待しつつTV桟敷で応援できるのはありがたいことだ。
posted by 武藤文雄 at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年07月27日

ベガルタの伊藤彰氏退任問題について(精神論)

 いささか時間が経ってしまったが。ベガルタ仙台は、伊藤彰監督退任を発表。そして、後任はコーチングスタッフから堀孝史氏が昇格。さらに日をおいて渋谷コーチも辞任。伊藤氏退任後もつらい試合が続いている。まずは精神論を語りたい。

 整理しましょう。
 伊藤氏は事実上の成績不振による解任。
 指導者として多彩な経験を持ち、レッズやヴェルディで苦境時の短期監督経験もある堀氏が急場をしのぐ監督を引き受けてくれた(いや、堀氏はレッズで、アジアチャンピオン獲得したのだから日本屈指の実績と称えられるべき指導者だが)。
 また、伊藤氏のコーチングスタッフを複数回務めていた渋谷氏。辞任直後に古巣の大宮アルディージャのコーチに就任。これはこれで一つの別れと言うことだろう(大宮の監督が、昨シーズンベガルタの監督を務めていた原崎氏なのはさておき)。
 まずは、伊藤氏、渋谷氏に、我が愛するクラブの強化に心血を注いでくれたことに感謝を表したい。勝点を失った試合でも、伊藤氏が選手と一緒にサポータ席に挨拶に来てくれて、丁寧に頭を下げてくれたことは忘れ難い思い出となっている。

 残念ながら、伊藤氏退任は短期的には効果を生んでいない。退任以降、ベガルタ仙台は金沢、東京Vに連敗。天皇杯を除いた(そのあたりは後述する)伊藤氏退任前の5試合は2分3敗(勝点2、得点4、失点12、1試合平均とすると勝点0.4、得点0.8、失点2.4)、堀氏就任後の2試合は2敗(勝点0、得点4、失点6、1試合平均すると勝点0、得点2、失点3)。まあ、堀氏就任以降、改善もしていないが、その前もひどかった。最近の7試合で失点18(1試合平均2.6失点)なのだから。

 ベガルタの経営層としては、過去甲府で見事な実績を挙げた伊藤監督を昨シーズン終盤に迎え入れることに成功。さらに、このオフによい選手を多数集めることができた。伊藤氏が、甲府で作り上げた、しっかり組立てるサッカーをユアテックで再現。堂々とJ1復帰、さらにはJ1での成功を期待していたのだろう(いや、サポータもそう期待していました)。先日、社長交代が行われたのはさておき。
 しかし、思うに任せないのがサッカーの常。この切歯扼腕が、サポータ冥利と言うものだが、経営をしている方々は、そう悠長なことを語れなかったのかもしれない。悪い流れをとにかく変えて、少しでも今シーズンでのJ1昇格の可能性を高めようとする判断で、監督変更を決断したのだろう。
 もっとも。
 伊藤氏退任のタイミングも自嘲的に微苦笑したくなる。退任直前の試合は天皇杯名古屋戦。映像を観る機会がなかったが、J1屈指の強豪に敵地で引き分け(PK負けで次ラウンドに進めず)。さらにその数日前のリーグ戦の栃木戦は、引き分けに終わったし戦術的な課題もあったが、敵地で選手達がすさまじい気迫を見せた興奮させてくれる試合だった。このような良好な2試合直後に、それを率いた監督を退任させる意味があったのだろうか。いや、もっとハッキリ言いましょう。ベガルタ経営陣は、伊藤氏解任を栃木戦前に決めていたのだろうが、各種手続きに時間がかかり、伊藤氏率いるチームがよい試合を見せた後の正式意思決定になったのではないかと。悲しいくらいのスピード感の無さではないか。いや、邪推しているだけですけれども。

 その直後にチームを率いることになった堀氏、つらいところだ。

 一方で、これで過去4シーズンに渡り、1年以下で監督をクルクル交代させていることになる。一般論として、監督を頻繁に代えることがチームの強化や好成績にはつながらないのは言うまでもない。
 20年シーズン後J1下位低迷で木山氏を解任、21年シーズン終盤J2降格確定し手倉森氏を解任、22年シーズン後半に入ったところでJ1昇格が難しくなったところで原崎氏を解任、そして今年の23年シーズン半ばで伊藤氏を解任。こうやって整理すると、毎シーズン監督を解任しているのみならず、解任サイクルが短くなっているのだから、どんどん悪くなっていると語るべきなのか。
 もう20年近く前になるか。清水秀彦氏の自転車操業でJ1昇格、その継続が叶わなくなりJ2降格。それ以降の数年間の迷走が懐かしく思い出されるな。算数のできない監督とか、後日セレソンとなる優秀なタレントがいてもとか。そして、あの磐田の夜の涙。
 以降の望外の大成功は、手倉森誠氏、渡邉晋氏と言う、格段の指導者に長期を委ねたことにあったのだが。

 ともあれ、身も蓋もない一般論。サッカーの監督人事は永遠の酒の肴。何が正しいか正しくないかは、結果論で語るしかない。そもそも監督人事とチームの成績の関係は非線形。よい監督とよい選手を集めれば好成績を収めることができるとは言えないところが、とにかく厄介なのだ。もちろん、戦闘能力が充実していた名古屋やG大阪をJ2に陥落させた直接要因となった監督が無能だったのは間違いない。しかし、ここまで質の低い監督が登場する事例は極めて稀だろう。
 どんな優秀な監督でも、チームとの相性というものがある。過去Jリーグの多くのクラブで成功を収め、今では、日本協会の重職を務めている名将が、北京五輪で大変残念な監督振りだったのが、典型的事例。
 
 繰り返そう。過去実績のあるよい監督を招聘し、よい選手を多数補強。それでも勝てない。さらには、経営層の短期的視野から、さらに事態が悪化する。これこそ、サポータ冥利。だからサッカーはやめられないのだ。
 でも俺は絶対に諦めない。まだ間に合う。堀さんよ、選手たちよ。今から丹念に勝点を積み上げ、来季はJ1で戦おう。
posted by 武藤文雄 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月23日

WBC制覇2023

 日本野球が世界一を奪回した。まことにめでたい。
 過去2回の優勝も、まことめでたかったが、今大会の歓喜は格段。今大会は合衆国も大リーグのトップスターをズラリと並べた布陣。そして日本も大リーグの選手のほとんどを招集できて、いわゆるベストメンバ。誰が何を言おうが、日本が世界野球最強国になったのだ。
 サッカー狂の私だが、サッカーに浸り始めたのは中学生になってから。小学生の時は普通の野球好きのバカガキだった(私の世代では当たり前のことなのだが)。そのような世代のサッカー狂からすると、ワールドカップ同様に野球の国際試合を楽しみたい、と言う思いは常にあった。そして、(それなりに嫉妬の思いはあるが)野球ならば、当然ねらうのは世界一だろうと。
 今回の世界一奪回は、このようなバカガキの半世紀に渡る妄想が実現したことになる。
 そして、素直に思う。「羨ましい、とにかく羨ましい。いつか、ワールドカップで優勝したい、世界一になりたい」と。
 でもね、私は常に冷静なのです。私も62歳、あと何年生きられるかはわかりませんが、さすがに「俺の生きているうちは無理だろうな」とは思います。贅沢言ってはいけないよね、ドイツやスペインに勝ち、クロアチアにPKで負けたのが悔しくて悔しくてしかたがない現状など、若い頃とてもではないけど想像もしなかったのだから。よい時代になったものだ。

 ともあれ、少しWBCについて講釈を垂れさせていただこう。
 実は決勝戦は生中継を見ていない。間抜けな話だが、本業で休みをとる真剣な努力を怠っていたのだ。しかし、準決勝のメキシコ戦だけで、いくらでも語る素材はあった。
 メキシコのレフトのアロサレーナの完璧な守備能力。5回裏の岡本の「やった!ホームラン!」をハイジャンプで捕球された場面もすごかった。その後も日本打者が左翼に好打球を飛ばすたびに、この忌々しいアロサレーナの好守に防がれてしまった。おそらく、事前情報による日本打者の特徴を理解した位置どりに加え、打った直後の判断力がすばらしいのだろう。バカガキ時代にあこがれた高田繁さんを思い出しりして。
 栗山氏のチャレンジでアウトになった、7回表のメキシコのトレホの盗塁。あの2塁ベース上のトレホのタッチかいくぐりと、源田の執拗なタッチの戦いを何と語ってよいのか。トレホの格段のボディバランスと工夫。源田の冷静な対応。アウトになって、我々は嬉しかったが、本当にアウトだったのかを、映像で確認するのは非常に難しい。大体、野球の判定は厳密な定義が極めて曖昧なのだ。タッチとか捕球が、映像で確認できるわけがない。最新技術を用いた厳密な判定をするためには、ベースタッチ・守備者のグローブのタッチ・捕球の確認、以上の3点を何がしかのセンサにより検出しなければならないのかな。まあ、そのような比較論も楽しいのですが。
 吉田正尚。大谷の大活躍を否定するものではないが、私ならば吉田をMVPに選ぶ。あの好機での強さをどう表現したらよいのか。WBC打点新記録とのことだが、何とも頼りになる勝負強さだった。そして何よりメキシコ戦での3ランの美しさ。大谷や村上や岡本と言ったフィジカルに恵まれたスターの渾身のバッティングによる美しい弾道はすばらしい。しかし、この準決勝の吉田の丹念なスイングによるギリギリの本塁打の微妙な弾道の渋さをどう日本語で称えればよいのだろうか。ポールに跳ね返された映像、本当に嬉しかったよね。加えて、8回裏にツーアウト2・3塁でタイムリーヒットを喰らったものの、2塁ランナーをホームで殺した的確な返球も見事だった。繰り返すが、私の選ぶMVPは吉田だ。

 もう1つ。この世界一については、栗山監督を讃えるしかあるまい。特に感心するのは、投手起用の適切さだ。
 元々、このWBCと言う大会は、投手の投球制限など、怪しげで複雑なレギュレーションが錯綜する。そう言った中で、豪州戦で大差をつけ勝利が確定しつつある中、ダルビッシュを2回に渡り投げさせたこと。準決勝で先発佐々木が3失点したところで、決勝先発が予想された山本を起用したことなど、納得できないことが多かった。
 しかし、決勝終盤の投手起用で栗山氏の意図が正確に理解できた。少しでも世界一の確率を高めるために、決勝の最強敵合衆国に対しては、一番頼りになる山本の先発、終盤でダルビッシュと大谷の起用を決めていたのだろう。しかし、準決勝で佐々木が想定外の3ラン本塁打を許し、3点差となったところで、「これ以上の点差にはできない」と判断し、山本を投入し傷口を広げないと言う判断に切り替えたのだろう。いわゆるプランBだな。そして、決勝では今永、戸郷、高橋宏斗、伊藤大海とフレッシュな投手を次々に起用し失点を防ぎ、大勢、そしてダルビッシュと大谷につないだ。恐れ入りましたとしか、言いようがない。
 もちろん、一番の「恐れ入りました」は、村上を起用し続けたことだけれども。

 かくして楽しかったWBCは、日本優勝と言う最高の形で終了した。一点気になるのは、選手たちへの休養提供。これだけ厳しい戦いを演じた戦士たちが、すぐに自チームに戻り新シーズンに備えるのだろうか、と言う疑問。僅かでもよいから、彼らに家族や恋人との休養を提供した方が、シーズンを通しての活躍と言う視点では適切と思うのだが。
 などと、あれこれ講釈を垂れることができるのだから、本当に楽しい大会だったと思う。改めて、栗山氏とダルビッシュとその仲間たちに感謝。
posted by 武藤文雄 at 01:10| Comment(1) | TrackBack(0) | サッカー外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月19日

Jリーグ30周年

 Jリーグ30周年。
 62歳の私だが、人生の半分近くJリーグがある生活を続けていたことになる。いや、物心ついた後と言う視点ならば、もう半分以上だな。
 気がついて見れば、全国ほとんどの地域でプロフェッショナルのサッカークラブが存在。日本中の仲間が毎週末、病膏肓w愛するクラブの上下動を堪能する事態とあいなった。言い換えれば、何より楽しいサッカーと言う娯楽が、日本中に広がり多くの地域の人々の週末の楽しみになったと言うことだな。若い方々には理解できないかもしれないが、90年代以前日本にはそのような娯楽がまったく存在しなかったのだ。プロ野球や相撲は、地方都市への娯楽提供と言う視点は全く欠落していた。Jリーグが、日本の文化すべてを大きく変えたと言っても、言い過ぎではない。このあたりは過去も随分語ったきたし、今後も語っていくつもりだ。
 そして、我がベガルタ仙台は明日の敵地町田戦が開幕。飲みながらSNS見ていると、全世界のベガルタサポータの友人たちが、みな町田に集結するみたいだ。友との再会、圧倒的に強化された愛するクラブ、町田の方々のホスピタリティ。もうワクワク感が最高で堪えられない。妻と「よし、明日は鶴川駅から1時間歩くぞ!」などと盛り上がるのも楽しい。
 しかも多くのクラブはこの金曜土曜で開幕試合体験済み、多くの友人が既に初戦を戦い、己のクラブの歓喜と痛恨を嬉しそうに語ってくれているから、単純にうらやましい。
 ああ、我慢できない。

 考えてみれば、こんな緊張感はあのクロアチア戦以来ではないか。あのPK戦後、一歩一歩階段を上がって競技場を去る時の胸の張り裂けそうな思い。
 Jリーグ30周年視点で考えて見れば、日本代表も、J開幕前年の92年アジアカップ制覇以降、常にアジア屈指の強豪となったわけだ。そして、W杯でも上下動はあったものの着実に地位を築いてきた。そして、ドーハでは、世界のどんな強豪とも互角に戦うことができた。だからこそ、あのクロアチア戦の悔しさは癒えることはないのだけれども。

 もちろんJリーグができず、大昔のJSLが継続していても、日本代表がアジア予選でモタモタしていも、私はサッカーを存分に楽しんでいたことだろう。勝とうが負けようが、サッカーは最高だからだ。
 でも、サッカーを楽しむ友が多数いてくれて、世界中の仲間に自分のクラブと代表チームをポジティブに自慢できるに越したことはない。
 何回でも何回でも言う。
 こんなステキな人生を楽しむことができるなんて、若い頃想像すらできなかった。

 ともあれ、まずは突然金満クラブとなった町田を叩き潰すのだ!
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2023年01月03日

新潟医療福祉大のオナイウ情滋を楽しむ

 ベガルタに入団するオナイウ情滋が所属する新潟医療福祉大が、元日に行われた大学選手権決勝戦(対桐蔭横浜大)に進出。国立競技場で観戦した。情滋応援団として、ベガルタサポータの仲間たちと一緒に応援できたのも楽しかった。さらに偶然、我々の席のすぐそばに、新潟のジェフ入団決定済みの小森飛絢を応援するジェフサポの方もいて、それも嬉しかった。
 大学サッカー観戦は久々、1試合だけの観戦で大学サッカー云々と語るのは危険なので、あくまでも大学トップレベルの1試合を見ての感想について講釈を。

 一言で言って、相互の狙いが、とにかく単調なのに驚かされた。
 お互い、中盤でつなげる技巧もタイミングの理解もあるのに、負けるのを怖がってか、縦にロングボールを蹴ってしまう。一方、守備側は裏を突かれるのを怖がり、ラインを上げ切れない。結果的に不正確なロングボールが両サイドに飛べば、それなりに好機となる。
 そうこうしているうちに、前半、FK崩れから情滋がミドルシュート、敵DFに当たったこぼれを大柄なストライカの田中翔太が詰め、新潟が先制。情滋のシュートは、少々当たり損ね感があったが、とにかく枠に飛んでいたのだから、よしとしようか。
 直後、左サイド(新潟から見て)を崩され中央混戦から同点とされる。桐蔭の2トップはフロンターレ行きが決まっている山田新(川崎ユース出身、来季から出戻りが決まっているわけだな)と、ホーリーホック入りが決まっている寺沼星文。ペナルティエリアにボールが入ると、この2人のボールコントロールがよく、それだけで好機を作られてしまう。序盤から左サイド(新潟から見て)で巧みな位置取りをする井出真太郎(横浜Mのユース出身)への対応に苦慮していたが、完全に崩されてしまった。
 その後、新潟はサイドバック神田悠成のロングスローを、CB秋元琉星がすらしCB二階堂正哉が決めて突き放す。3人とも青森山田出身なのには、なるほど感がありましたが、とにかく、2-1で前半終了。

 新潟は後半序盤は、リードして落ち着いたのだろう。短いパスを中盤でつなぐようになる。特に左サイドで丁寧につないで、桐蔭守備をひきつけてサイドチェンジ。情滋がフリーでボールを受け、幾度か好機を作る。もっとも、情滋はフリーのミドルシュートが枠に飛ばなかったり、中央突破を試みながら身体を入れ損ね簡単にボールを奪われるなど、ベガルタサポータからすると「おい、こら」と言う場面も見受けられたw。いや私が「もっと、がんばらんかい!」と思わず語ると、周りのベガルタサポータの方々が、楽しそうに失笑してくれたけれどw。
 ところが、新潟は後半半ば以降、勝ちを意識したのだろうか、落ち着いてつなぐことがなくなり、再び縦パスに頼ることになってきた。そうなると、結果的に桐蔭に簡単にボールを渡し、幾度も攻め返されることになる。上記の通り、桐蔭の2トップは技巧も持ち堪えも巧み。簡単に桐蔭にボールを渡し、前線に差し込まれると、それだけで危ない場面となってしまう。そうこうしているうちに、75分過ぎに同点とされる。
 同点となれば、少しは落ち着くかと期待したが、その後も同様の展開。新潟が単調なロングボールを蹴り、そこから桐蔭が好機をつかむ時間帯が継続する。それでも試合は同点のまま進み、アディショナルタイム。桐蔭の決定機を新潟GK桃井がファインセーブ、その直後のCKもしのぎ、桃井のゴールキック。ここでまったく時間は残っていないのに、桃井は単純にロングボールを蹴ってしまう、それを跳ね返され、桐蔭の逆襲速攻、エース山田に強烈な一撃を食らった。試合運びとすれば、あまりに稚拙。若い学生チームとすれば、やむを得ないのだろうか。
 桐蔭関係者(川崎や水戸の関係者もそうでしょうが)からすれば感動的勝利だったことでしょう。新潟関係者としては、たまったものではありませんでしたが。

 オナイウ情滋は、ボールを持てば多彩な攻撃の起点になれる。強引に縦に抜け出した直後、少々体勢が悪くとも高精度の右クロスを上げることができる。敵DFがウェイティングしようとすると、「縦に抜け出すぞ」と脅しDFの腰を引かせた上で、中に切り返したり、周囲にパスを出したり、色々な変化も作れる。また、右足のインフロントキックで蹴るプレイスキックも魅力的。球足は速いし、相当カーブもかかるし、精度も中々だった。しかし、少なくともこの試合ついては、ボールに触る回数が少な過ぎた。もちろん、桐蔭も情滋を相当警戒していたのは間違いない。しかし、エースなのだから、もっともっとボールにからみ、勝利に貢献しようとすることは責務のはずだ。情滋本人の受けのアイデアと周囲への要求それぞれに課題があったのだ。大学サッカーでの最後の最後の試合で、情滋はそこまで自分を活かすための工夫までは築き上げることができなかった、と言うことなのだろう。
 さらに言えば、守備面での不満も多かったのだが、まあいいや。まずは得意のプレイの頻度が少なかったことが課題だな。そして、この決勝戦程度しか、攻撃面で貢献できなかったのを見ると、ベガルタですぐに定位置を奪ったり、効果的なプレイをするのは簡単ではないように思える。

 などと、若い選手に愚痴を語るのは、何とも言えず楽しい。願わくば、私の見立てがはずれていることを。まずはしっかり休み、気持ちも体調も整え、キャンプに向かって下さい。
posted by 武藤文雄 at 22:01| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月01日

アルゼンチンと我々の差

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 クロアチアに敗れて、約1ヶ月が経ちました。未だ悔しくて悔しくて仕方ありませんがが、頭の整理もようやくついてきました。様々な思いを整理して講釈を垂れていきたいと思います。
 ドイツとスペインには勝てたが、なぜクロアチアに勝てなかったのか。2次ラウンドで勝ち続けるために、何が足りないのか。ここまで戦い、ここまで近づけたから具体的に理解できたことが多数あります。年始第一弾の講釈は、優勝したアルゼンチンと我々の差について講釈を垂れたいと思います。

1. アルゼンチンの謎
 本当に興奮する決勝戦だったとは思う。そして、PK戦まで見据えて粘り強く戦い切ったアルゼンチンの強さには恐れ入った。しかし、アルゼンチンはもう少しうまく戦っていれば、あそこまで苦戦せずとも勝てたのではないか、と思えませんか。もちろん、世界一奪回がチラついたところで2回追いつかれながら、PK戦用の交代カードを残し、丹念に勝ち切ったのは、すごかったけれど。
 この超大国は、半世紀足らずの間に、ディエゴ・メッシと、ペレと並ぶスーパースターを2人輩出した。そして、ワールドカップごとに毎回、優勝候補と目される強力なチームを送り込みながら、再度の戴冠まで36年の年月がかかった。
 本稿では、この超大国の決勝戦と世界王者奪還までの36年を振り返った上で、我々との決定的な差について講釈を垂れたい。

2. 決勝前半、アルゼンチンの圧倒的攻勢
 決勝前半のアルゼンチンの美しさをどう語ったらよいのだろうか。
 フランスの弱点、エムバペの守備の弱さを突き右サイドから攻撃を展開。時に中盤や最終ラインに戻し揺さぶりを加える。フランス自慢のチュアメニとラビオが、まったくアルゼンチンのパス回しを妨害できない。結果的にメッシに自由なボールタッチを許す。そう言った流れから、フランスの守備を右サイドに引き付けておいて、左サイドに展開。そこには、大外に開き全くフリーのディ・マリアがいた。フリーで加速したディ・マリア、いくらヴァランでもまったく対応できない。フランスが対応に苦慮しているうちに、前半半ばで2-0。
 デシャン氏は、前半終盤にジルーとデンペレを外して、テュラン倅とコロムアニを起用し、何とか前線両サイドからの守備を整備、これ以上点差を広げない策を選択するしかなかった。
 しかし、後半に入っても展開は変わらず。フランスは攻め込んでもシュートに持ち込むことすらできない。一方アルゼンチンは幾度も速攻から好機をつかみ、ロリスとヴァランがかろうじて防ぐ展開が続く。
 ワールドカップの決勝は、案外一方的な試合となることは多い。敗戦国が決勝進出までにエネルギーを使い切ったり、体調不良だったり、極端な不運に襲われたりしたためだ。82年のイタリア3-1西ドイツ、98年のフランス3-0ブラジル、02年のブラジル2-0ドイツなど。前回18年のフランス4-2クロアチアも、クロアチアに考え得るすべての不運が重なったような試合だったが、一方的な展開となってしまったのは記憶に新しい。
 この決勝も、そのような試合になると思われた。終盤までは。

3. 決勝終盤、アルゼンチン動かず
 70分過ぎ、デシャン氏が、グリーズマンを下げコマンを投入したことで、フランスが知性や技巧で崩すのをあきらめ、強引な突破に僅かな望みを賭けたのがわかった。こうなると、アルゼンチンは、単純な強さや速さにやられない対応(交通事故防止)が必要となる。具体的には、フレッシュな選手を投入し、マイボールの時間を増やす、フランスの後方選手へのプレスをしっかりかけて精度の高いボールを入れさせないなど。しかしエスカローニ氏は動かない。そうこうしているうちに80分過ぎ、交通事故が発生した。エムボマの縦パスをコロムアニが追うが、アルゼンチンCBのオタメンディが先にコースを押さえていたにもかかわらずミス、コロムアニに裏を突かれPKを与えて1点差。さらに交通事故が連続する。中盤でメッシがボールキープしたところを奪われたにもかかわらず、修正が緩慢。一番許してはいけないエムバペの裏突破で同点。
 残り時間はあと10数分。先方は単調な攻撃に終始。そして、交代枠は4枚残っている。もうアルゼンチンは36年振りにカップに手が届きつつあった。それなのに、エスカローニ氏は交代策をとらず、みすみす同点を許してしまった。ピッチ上の選手達も、丁寧さがなくなり単調な縦パスに逃げるケースが増えてくる。結果として、同点後もフランスの強引な攻撃が奏功し、90分のうちに逆転弾を浴びてもおかしくない場面もあった。もちろん、アディショナルタイムのメッシとロリスの戦いは素晴らしかったけれど。
 エスカローニ氏も、さすがに延長前半までに3人を交代させ、108分についにメッシが決勝点。
 またもアルゼンチンは、あと10分ちょっと守り切れば状況となる。しかも、デシャン氏は113分まったく動けなくなったヴァランも交代。ヴァラン、グリーズマン、ジルー、フランスの知性を象徴するタレント達は、皆ピッチから去った。デシャン氏にはこれ以上の交代カードはなく、ピッチ上のフランスの選手達は疲弊しきっている。しかし、アルゼンチンは、引くでもなく、中盤で止めるでもなく、曖昧な戦い方をする。最前線のタッチライン沿いでボールキープする時間帯もあったが、フランスを苛立たせるようなボールキープも行わないし、残った交代枠を活かすでもない。CK崩れからハンドを取られたのは相当な不運だったが、やりようはもっとあったはず。例えばそのCK直前に守備固めでペッセーラを起用したが、もっと早くにこの交代を行っていれば、そのCKを与えることもなかったのではないか。
 その後も両軍は単調な攻め合いに終始。120分過ぎにはコロムアニの超決定機をマルティネスの超ファインプレイでかろうじてしのぐ場面も許した。その直後のアルゼンチン決定機獲得と合わせ、野次馬として見ている分にはおもしろかったですから、文句を言うのは筋違いかもしれませんがね。
 我々は最終的に、PK戦でマルティネスがファインセーブを連発し、120分過ぎに起用されたディバラを含め延長に入ってから起用された選手達が見事なPKを決めたのを知っている。結果論からすれば、エスカローニ氏は、PK戦を得意とするGKを抱え、最終盤にPKが得意な選手を起用、最後の最後のPK戦での勝利を含めて采配を振るったように見える。底知れぬ二枚腰三枚腰、いや十枚腰くらいの奥深い勝負強さも感じた。しかし、2-0でリードしていた後半、3-2でリードしていた延長後半、それぞれに選手交代を含めて守備を再整備さえしていれば、もっと楽に世界制覇に至ったのではないか、と思わずにはいられないのだ。

4. 準々決勝オランダ戦の稚拙さ
 考えてみれば、準々決勝オランダ戦の終盤の稚拙さも相当だった。前半メッシのラストパスからモリーナが先制、73分アクーニャが倒されたPKをメッシが決め2-0。オランダは好機すらつかむことができずにいたので、パワープレイを選択。83分に失点し1点差となったものの、およそ追いつかれる雰囲気はなかった。しかし、残り僅か10分の間にアルゼンチンは軽率なプレイを繰り返す。89分バレデスがオランダベンチにボールを蹴り込み、退場になってもおかしくない無意味なプレイ。さらにオランダの同点弾を産んだFKは終了1分前にペッセーラが全く不要なファウルで与えたものだった。攻め込まれて苦し紛れのファウルに逃げたのではない、まったく行う必要がないファウルで苦しい場面を招いたのだ。
 ところが、アディショナルタイムで追いつかれると言う衝撃的な状況に追い込まれたアルゼンチンは、延長に入って立ち直る。チーム全体で落ち着いてボールを回し、オランダに好機すら与えない。そして112分に起用したディ・マリアを軸に猛攻をしかけ幾度も決定機をつかむが決め切れずPK戦へ。しかし、決定機をつかみながら勝ち切れなかった精神的ショックを一切感じさせず、皆が落ち着いてPKを決め続けての勝利。

5. アルゼンチンの36年
 アルゼンチン代表の歴史を振り返る。
 アルゼンチンは、78年地元大会にケンペス、パサレラ、アルディレスらを軸に美しい攻撃的サッカーと紙吹雪大観衆で初の世界王者に輝く。この国はそれ以前はワールドカップの成績は大したことはなかった。1930年の第1回大会で準優勝以降、ベスト4に残ることすらなかった。ディステファノを筆頭に高名な選手を輩出し続けたにもかかわらず。けれども、地元で初戴冠し、前後してディエゴ・マラドーナが登場、以降この超大国は世界一に拘泥し、常にワールドカップに強力な代表チームを送り込む。
 82年は前回優勝メンバにディエゴが加わったがチームとしてのバランスが悪く、イタリアとブラジルに完敗。
 86年はディエゴの神の手や5人抜きなどの伝説的神技で2回目の戴冠。
 90年は、ディエゴを含め負傷者続出の中、2次ラウンドでブラジル・旧ユーゴスラビア(オシム監督でエースはピクシー)、地元イタリアを下し、決勝進出。決勝で0−1で西ドイツに苦杯するが、決勝点は怪しげな判定からのPKだった。
 94年はシメオネやバティストゥータと言った若いメンバにディエゴが加わる布陣で、1次ラウンド2連勝でスタートするも、ディエゴに薬物反応が出て大会から追放され、2次ラウンド1回戦でハジ率いるルーマニアに完敗。ディエゴの時代は終わる。
 98年は初戦で我々も手合わせ、2次ラウンド初戦でイングランドをPK戦で振り切る。続く準々決勝オランダ戦、終盤にオルテガがGKファンハールの挑発に乗ってしまい退場、直後ベルカンプの芸術弾に散る。
 02年は1次ラウンドでイングランドに敗れたものの、最終戦のスウェーデン戦に勝てば2次ラウンドに進出できたが、強引で単調な攻めに終始し引き分け敗退。
 06年は準々決勝のドイツ戦後半序盤に先制しほとんど好機すら与えない展開。ところが早い段階でGKアボンダンシエリが負傷交代、ワンチャンスをドイツクローゼに決められ追いつかれ、PK戦で敗れる。
 10年はディエゴを監督にすると言う自暴自棄策に出るが、まあ誰もが予想した通り失敗。アルゼンチン協会も毎回毎回最強クラスのチームを送り込んでは早期敗退と言う悪い流れを断ち切ろうとしたのかもしれないが、いくら何でも無茶だった。
 14年は基本に立ち返り、攻撃はすべてメッシ、後ろはすべてマスケラーノと言うチームを作る。ところが決勝は、メッシの副官として変化をつかさどるディ・マリアの負傷もあり、決勝でドイツに延長で惜敗。
 18年は、マスケラーノの衰えが顕著で、チームのバランスがとれぬうちに、2次ラウンド初戦でフランスと当たり沈没。

6. アルゼンチンの「勝負強さ」
 こうやって振り返ると、86年ディエゴで優勝した以降、この超大国は毎回のように優勝候補と言えるチームを送り出している(10年と18年はちょっと弱かったかな)。しかし、90年と14年しか決勝進出できていない。とてもではないが、「勝負強い」とは言えないではないか。
 我々はアルゼンチンと言うと、時にアンフェアなプレイをしても戦い抜く勝負への執着に感心し、安易にしたたかで「勝負強い」と思い込んでいただけなのではないか。より正確に表現すると、彼らの「勝負強さ」にはムラがあるのだ。
 決勝フランス戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の延長戦を含んだ時間帯、交代策が後手を踏み、お互いノーガードの打ち合い。PK戦での氷のような冷静さ。
 準々決勝オランダ戦。80分までの見事なサッカー。それ以降の後半終了までの時間帯、各選手がラフプレイを連発し自滅の同点劇、延長とPK戦での氷のような冷静さ。
 つまり、頭に血が上がってしまい冷静さを失う時間帯があると言うことだろう。それも監督含めてチーム全体で。しかし、延長戦に入る、PK戦に入るなど、一旦落ち着く機会があれば、彼らは冷静さを取り戻す。

 それにしても、あれだけ冷静に戦える戦士たちが、何故あれほど冷静さを欠いてしまうのか。おそらく、「勝ちたい」と言う執念が強過ぎるからではないか。だから、チーム全体で頭に血が上がってしまうのだ。ともあれ、メッシとその仲間達は、頭に血が上がった時間帯もあったが、肝心の場面で氷のような冷静さを取り戻し、36年振りにワールドカップを取り戻した。
 このカタールワールドカップ、我々はドイツやスペインを叩きのめし、クロアチアをあと一歩まで追い詰めた。もはや目指すは世界一である。ワールドカップ制覇は、決して簡単な道のりではないし、少なくとも62歳の私が生きているうちに実現することはないだろう。
 しかし、世界一を目指すためには、世界一の国から学ばなければならない。そして、36年振りに世界一を奪還したこの超大国の戦士達は、氷のような冷静さを持っているにもかかわらず、冷静さを失う程「勝ちたい」との執念で戦っていた。我々とアルゼンチンの差はこの執念だ。
 世界一を目指すために、我々がこの異様な執念を身につける必要はないかもしれない。しかし、アルゼンチンのような超大国が、我々とは格段に異なるこのような執念の下で戦っていると冷静に把握するのは、世界一を目指すために必須のはずだ。
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2022年12月31日

2022年10大ニュース

 恒例の10大ニュースです。カタールワールドカップについて、まだ何も書けていないので迫力に欠けることこの上ないのですが、今年の重要事項を自分なりに整理しました。11、12月にワールドカップを堪能してしまうと、あまりにその影響が強すぎるのですけれど、何とかまとめました。

1. 日本代表ベスト8 ならず

 できればこの正月休みのうちに、日本代表についても、ワールドカップ全体についても、まとめたい。

 今はただ、クロアチア戦の苦杯は、とにかく悔したかったと言うことだけ。今回こそは、今回こそは、と思ったけれど勝ち切れず。とにかく悔しい。繰り返すが悔しい。何度でも言うが悔しい。ドイツやスペインはやっつけたけど、悔しいのだ。

 一方で。今は私は62歳、何となく大会前から、死ぬ前に一度はベスト4を体験できるのではないかと思っていた。そして、それを希望ではなく、確信できたのがこの大会かなとは思う。たとえ、それが錯覚で自惚れだとしても。

 でも、延長前半の三笘のシュートが、もう少しポスト寄りに飛んでいればとは思うけれど…

2. ヴァンフォーレ甲府の日本一

 日本で最も歴史の古いクラブチームの一つ、ヴァンフォーレ甲府が天皇杯制覇、初めての日本一の栄冠を獲得した。歴史的偉業と語られ続けるべきだろう。

 甲府の前進の甲府クラブの事実上の設立は1965年と言う。甲府クラブは1972年のJSL2部設立時に参加以降、常にJ1、J2、JFL、JSL2部のいずれかで戦っている。設立は読売クラブより古く、継続的に活動している純粋なクラブとしては神戸FCと並ぶ歴史を誇る。もちろん、日本中にあるいわゆる学校のOBチームで、より古い歴史を持つクラブはあるかもしれないが、トップリーグで高い続けている歴史は圧倒的だ。特に90年代後半、プロ化を決断した直後に大きな経営危機を迎えるが、関係者の血の滲むような努力で回避。人口が決して多くない地方クラブとして自立に成功。さらに複数年にわたりJ1で戦うなど、日本中の地方クラブの象徴とも目標とも言える存在となっている。

 またカタールで戦った日本代表のエース伊東純也は、甲府でプロのキャリアをスタートさせたことも特筆されるべきだろう。

 その甲府が天皇杯制覇。それもサンフレッチェ広島と戦った決勝の勝ち方が鮮やかだった。先制に成功するが終了間際に追いつかれて延長に。延長でも丹念に守っていたが、116分にチームのレジェンド山本英臣が痛恨のハンドでPKを与える。そのPK河田晃兵が止めPK戦に。PK戦で最後に山本が決めると言う劇的勝利。

 来シーズン、甲府はACLを戦える。「J2で苦しい戦いになる」とか「ACL出場権をカップ戦王者に与えてよいのか」と、サッカーをわかっていない輩が余計なことを言うが、言いたい奴には言わせておけばよい。難しいシーズンにはなろうが、国際試合で戦う権利は、勝者にしか与えられないのだから。

 この決勝戦ですっかり悪役となってしまったサンフレッチェ広島。こちらは森保監督時代に3回J1制覇をしているが、カップ戦は幾度か決勝進出はあったが優勝はなかった(もっとも、前身のマツダ(東洋工業)時代には1960年代は複数回天皇杯制覇しているが)。今回も決勝で苦杯を喫し、「またか」感ががあった。しかし、1週間後に行われたルヴァンカップ決勝セレッソ戦、セレッソに退場者が出たこともあり、アディショナルタイムの連続得点での逆転勝利。劇的なルヴァンカップ制覇となったのも付記しておこう。


3. 横浜マリノスと川崎フロンターレの覇権争い

 ここ数年、優勝争いを演じている両チーム。今年は横浜Mが川崎を振り切った。疫病禍下でACLも合わせて戦わなければ難しいシーズン。

 韓国に快勝するなど実に気持ちよい優勝を演じてくれたE-1東アジア選手権の中軸は今年の横浜M、水沼宏太や岩田智輝の知性あふれるプレイはすばらしかった。老人としては、30歳過ぎて日本代表に到達した水沼宏太に、かつての水沼貴史の面影を見て感涙ものだったのだが。

 もっとも、川崎サポータはこのチームの中核は谷口彰悟だったと語り、カタールの日本代表は、谷口の他に、板倉滉、山根視来、田中碧、守田英正、三笘薫と川崎出身選手が中軸だったと主張するだろうが。

 リーグ戦が終わってみれば、この2チームの後ろに、新監督スキッベ氏が機能した広島が続き、監督問題で苦労したが優秀な選手を多数抱える鹿島が続いた。まあ妥当な結果なのかなとは思う。海外への選手流出が続くJリーグだが、丹念にクラブの経営規模を拡大し、丹念な強化を継続しているチームが常に上位をうかがっている。野心的に上位を目指す各クラブにも、適切な目標が提示されている形態は健全な状況に思える。


4. J2山形対岡山戦再試合

 J2モンテディオ山形対ファジアーノ岡山戦で、主審のルール適用ミスがあり、Jリーグ当局は再試合と裁定した。私はこの裁定が間違っていないとは思うが、サッカーのルールと裁定が非常に難しくなったものだと嘆息した次第。上記リンクは非常によく整理されており、経緯は以下だと理解できる。

 (1) 主審がルール誤適用をして山形GKが退場、山形は約80分間10人での戦いを余儀なくされ敗戦

 (2) Jリーグ当局がIFABに問い合わせたところ、「ルール誤適用の場合は『主審の試合決定が最終』とは言えない」と回答受領

 (3) ルール誤適用についてJFAもJリーグも規定なく、試合成否決定という重要事案なので理事会で議論し、再試合とした

 実はこの誤適用となったルール追加は約2年前のこと。キーパがゴールキックやFKをペナルティエリア内で蹴り、それがミスにつながり敵が決定的チャンスを掴んだ場合などに、キーパが他選手より先にボールに触ったら警告なり退場(退場はDOGSOのケース)と言うもの。一方で、バックパスを手で受けた場合は従来通り敵に間接FKが与えられるだけで警告も退場にもならない、とも同じ条項内で明記されている。そして今回は後者のケースにもかかわらず退場と誤適用してしまった。余談ながら、当時少年サッカーのコーチ仲間とこのルール変更が話題となり「そんな難しいこと、いちいち覚えてられないよねえw」と語り合ったものだった。

 まず、私のような年寄りは「前者だろうが後者だろうが、そんな稀にしか起こらないことはルール化せず、主審の判断に任せてしまえ」と言いたくなる。しかし、昨今のルールの考え方は、全世界で?極力判定基準を揃えようとするもの。結果的に、本件のようにやたら細かい項目を考慮してルール化することになる。ついでに言うと、得点や決定機の阻止の退場についてはDOGSOを満たした場合と条件を具体化したのも、審判の仕事をやたら難しくすることとなっている。私のような底辺の4級審判員には、あまり縁のない世界だが、トップレベルの審判の方々には同情を禁じ得ない。

 さらに、私のような年寄りは「主審の試合決定が最終であるべきだろう」と言いたくなる。しかし、ルールを詳細化することで、今回のように「後から考えたら誤適用」となるケースが出てくる。そうなると、「試合の最終決定を誤った判断をした主審に任せてよいのか」問題起こってしまい、今回のような騒ぎに発展してしまう。誤適用により主審の最終決定をくつがえす事例にはこんなことがあった(当時私も講釈を垂れた)。以降、ルールが一層複雑化しているのは言うまでもなく、このような事例が世界中で増えているのかもしれない。

 加えて、私のような年寄りは「さてJ当局は、このような誤適用がシーズン終盤日程に余裕がない時に起こったならばどうしたのだい?」と言いたくなる。しかし、これはただ私が性格が悪いだけのことだな。誤適用で不利益をこうむった山形が負けていた以上、Jリーグ理事会が当該決定をしたことは正しいのだろう。

 それにしても、厄介な時代になったものだ。


5. 名古屋グランパス虚偽報告

 名古屋は、保健所の指導がなかったにもかかわらず、活動停止の指導があったと虚偽報告を行い、チェアマンに7/16に予定されていた川崎フロンターレ戦を中止させた。後日、それが判明、Jリーグ当局からけん責と罰金200万円の処罰が発表された。

 上記リンクから、名古屋が行ってしまった虚偽報告と経緯を具体的に記載しば部分を抜粋するとおおむね下記となる(以下の抜粋では「名古屋グランパス」をすべて「名古屋」に読み替えた。
(前略)真実は管轄保健所から指導を受けたものではなく、名古屋の対応方針を是認されたものにすぎないのに、新型コロナウイルス感染者の多発により管轄保健所から同日から3日間の活動停止の指導を受けた旨をJリーグに報告し、チェアマンをして(中略)同試合の中止を決定させた。
 さらに上記リンクでは、名古屋の日程遵守義務回避疑念を厳しく追及している。
(前略)「Jリーグ新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン」(規約第3条の2)においては(中略)各Jクラブが虚偽を述べないことが大前提となっているところ、本件名古屋の行為はこの前提を揺るがすものである。(中略)公式試合は予め一部のJクラブのみが不利な日程にならないよう調整して日程が組まれており、特別の事情がない限り変更され、または中止されないことが原則である(中略)。そのため、各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである。
 ただし、J当局の調査によると、情状を考慮すべき点もあるとのこと。
一方で、弁護士等も交えた(中略)への聞き取り調査に基づき、名古屋が虚偽の報告を故意に行ったとは認められず、(中略)名古屋側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、(中略)他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋の陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない。また、その後の調査によれば、(中略)当時、名古屋はエントリー下限人数をもともと満たせていなかったことが客観的に明らかであるために、虚偽報告の有無にかかわらず、結果的に開催可否判断への影響が限定的であった。
 以上より、譴責と200万円の罰金が妥当との結論になったようだ。弁護士を交えた客観調査で、チーム内の実情は感染者が相当数出ていた。そのため、虚偽報告がなくとも、最終的にチェアマンが試合中止を判断した可能性が濃厚だった。そのため、虚偽報告は論外だが、結果的には同じ結論に至ったと言うことらしい(いつも思うが、Jリーグ当局は、もう少しリリースをわかりやすく書いて欲しいのだがw)。ただし、今回たまたま対戦相手が、ACLにも出場し日程的に非常に厳しい戦いを演じていた相手が川崎だったこともあり、日程遵守義務を回避した虚偽報告は、川崎を含めた関係各部門にも相当な迷惑をかける事態だった。そのために性悪説をとなえ、名古屋が意図的に川崎戦を回避したのではないかとの揶揄も飛んだが、まあそれはなかったと言うことだろう。



 疫病禍下のリーグ戦を継続するのは、本当に難しいことが顕在化した事件と言えよう。J当局が上記の情状を考慮し、けん責と200万円罰金と言う処罰を決定したのも間違いとは思わない。本件については。

 しかし、昨年の10大ニュースの筆頭でも議論した浦和への意味不明の懲罰とのバランスがまったく取れていない。事務手続きのミスはあったものの、結果的に誰にも迷惑をかけていない浦和は試合をなきものにされた。一方、(結果論からもしれないが)虚偽申告で多くの関係部門に迷惑をかけた名古屋は200万円の罰金にとどまった。

 21年の浦和への裁定が間違っていたのだ。今からでもよい、Jリーグ当局は当時の誤りを認めるべきだろう。

6. ACLレッズ決勝進出と声出し罰金問題
 浦和レッズがACLの決勝に進出。

 それにしてもこのクラブの最近のカップ戦の強さには恐れ入る。15年天皇杯決勝進出、16年ルヴァン制覇、17年ACL制覇、18年天皇杯制覇、19年ACL決勝進出、21年天皇杯制覇、そして今回のACL決勝進出。20年は疫病禍が最も厳しい年だったので、天皇杯が特殊レギュレーションで行われたので例外的な年。そう考えると、毎年のように必ずカップ戦で決勝進出しているのだから、さすがだ。日本最大のサポータ集団に支えられた勝負強さとでも言おうか。実際、浦和のサポータの大声援はすばらしいと思うのだよね。もちろん、浦和サポータの友人と会話していると、彼らの悩みは深い。クラブの経済力を考慮すると、常にリーグ戦でも上位を争い、栄冠を掴むのを当然と思っているのだろうから。まあ、それはそれでステキな悩みですよね。

 ところが、そのサポータ集団の一部をクラブが制御できない残念な事案から、2000万円と言う多額の罰金が浦和に課せられた。一部のサポータがマスクなしで、複数回声出し応援を行ったと言うものだ。カタールワールドカップを典型例に、海外ではマスクなしでの声出し応援が許可されている。しかし、その是非はさておき、Jでは声出し応援は禁止されていた。これはJ当局に賛同せざるを得ない。J当局の裁定を抜粋しておく。
(前略)声出し応援の禁止等のガイドライン遵守をはじめとする秩序維持にはサポーターの強い自律が必要であって、クラブには、これを促すための不断の改善努力が求められる。短期間のうちに(中略)秩序を損なう行為を阻止できなかったことは重く受け止めざるを得ない。かかる状況はJリーグ全体への社会的信用の低下につながるものである(中略)、今後Jリーグも浦和と共に再発防止に向けて対応するものの、浦和が再び(中略)懲罰事案を発生させた場合、無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性があることを付言しておく。
 一部のサポータの暴走をクラブが複数回止められなかった事実は重い。これは前項で述べた昨シーズンの不合理な裁定とは無関係な話である。

 あのすばらしいサポータ集団の一部に困った人々がいる残念な事態、何とか解決してほしい。


7. ジュビロの国際契約違反

 事象としては単純だが、情報の多くが公表されていないので、非常にわかりづらい事件となっている。ともあれ、アジア王者となった実績もある歴史あるクラブが、事務手続きで決定的なミスを冒したわけで相当な事件である。

 ジュビロが契約したファビアンゴンザレスが、その前にタイの別クラブと契約していたとの疑惑が濃厚。結果的に二重契約を行なったジュビロが、FIFAから常に厳しい制裁の決定を受領。ジュビロが、それを不服としてCAS(スポーツ仲裁裁判所)に異議申し立てを行なった。ジュビロは、このリリースで、本件の詳細について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)における審理に影響を及ぼす可能性がございますので、回答を控えさせていただきます。と言及している。そのため、本件の経緯や詳細については、第三者の我々にはよくわからない。しかし、結果的にジュビロの異議申し立ては却下されたと言う。

 この手の二重契約を防止するために、移籍の際に国際移籍証明が徹底されている。ここで引用したのは、日本協会のものだが、当然ながら他国でも同様の対応がとられているはず。どこかで大きな間違いが生まれたのだろうが、よくわからない。起こしてしまったことはしかたがない。改めて、何が起こったのか、どこで間違いがあったのか、適正な情報公開を期待したい。説明責任としての責務もあるし、これが再発防止につながる。


8. サッカー中継の将来、ABEMA

 ワールドカップの放映権をABEMAが獲得したと聞いた時、「また新しい有料配信サービスにカネを払わなければならないのか」と思った。ところが、全部無料だったのには驚いた。考えてみれば、ABEMAで試合を見ている間、ハーフタイムや試合の合間には、そこから流れてくるCMを見ているのだから、民放テレビと同じではないか。「そうか配信サービスも無料での観戦は可能なのか」と改めて勉強した感がある。

 カタール滞在中は、把握できなかったが、本田圭佑氏らの若々しい解説が、ABEMAでは好評だったとのこと。帰国後、準々決勝以降ABEMAの配信を楽しんだけれど、提携しているTV局の優秀なアナウンサ、豊富な解説陣、何ら既存のTV局と変わりなかった。本田圭佑氏の解説は松本育夫氏、松木安太郎氏の系譜を継ぐ本能型の解説でおもしろかった。故岡野俊一郎氏を起点とする、岡田武史氏・反町康治氏・戸田和幸氏・中村憲剛氏の流派だけではつまらないからね。いや、NHKが拘泥してるサッカーの魅力を矮小化するアテネ五輪代表監督のような外乱が登場しない分、安心して楽しめたかな。

 冗談はさておき。我々はサッカー中継を見られればよいのであって、方式や媒体はどうでもよいのだと、改めて痛感した。今後のサッカー中継がどうなっていくのか、注視していきたい。


9. 山下氏ワールドカップ主審選考と女性審判のこれからと三笘の1mm

 ワールドカップの審判として、山下良美氏が選考された。

 山下氏はJ1及びACLの主審経験があり安定した判定は評価されているが、日本人の主審としてはトップとは言えない存在。また、大会では第4審を複数回務めたのみで、笛を吹く機会は訪れなかった。女性の優秀な審判と言うことでワールドカップの審判団に下駄を履かせた評価で選考されたが、現地での事前準備で笛を吹くところまでの評価を得られなかった、と言うことだろう。いささか失礼な評価となるが。ただし、女性審判と言う視点では、ドイツ対コスタリカをステファニー・フラパール氏を主審とする女性審判団が裁き、上々の評価を得た。

 性別にかかわらずサッカーに携わってくれる人が増えるのは大歓迎だ。副審の場合は瞬間的な守備ライン上下動や逆襲速攻に対応する必要があるため、脚力の面から女性のハンディキャップがあるかもしれない。しかし主審ならば、展開の予測や位置取りの工夫やトレーニングによる運動量確保で、極端に不利になることはないのではないか。女性でトップレベルの審判を目指す人がもっと増えて質の高い経験を積めれば、上記のような失礼な表現が不要となる時代も来るだろう。

 そう考えてみると、今大会話題になった画像処理による判定がトップレベルのサッカーに定着してくれば、女性副審でも脚力の弱点がカバーされる。個人的にはVARは相当改善の余地があると思うが(画像処理によるライン判定と、複数審判の連係による反則判断が、将来あるべき姿だと思うが)、技術の向上が間違いなく審判に必要な要素を変えていく。女性の審判進出もその一例だろうが、サッカーも変わっていくのだろう。
 その典型が、あのスペイン戦の三笘の神業だったのだろう。三笘の1mmと言う歴史に残る妙技を、新技術が支えてくれたのだ。


10. 高校選手権決勝、青森山田対大津の両監督

 約1年前となってしまったが。

 高校選手権決勝は青森山田対大津。幾多の名選手を輩出した大津が、はじめて選手権の決勝にたどり着き、この世代で圧倒的強さを誇る青森山田と対戦。非常に興味あふれる試合となったが、4-0と青森山田の完勝。大津はまともにシュートにすら持ち込めなかった。

 大津平岡和徳氏と青森山田黒田氏は日本のユース世代指導者としては代表的存在。平岡氏は巻誠一郎、植田直道、谷口彰悟、黒田氏は柴崎岳と言ったワールドカップ代表選手を育てている。

 平岡氏は、言うまでもなく帝京高校出身。高校選手権で創意工夫を凝らした采配で勝ち切ることに執念を燃やし結果を出してきた古沼監督の弟子にあたる。しかし、この決勝では、特別な工夫すら行わず、戦闘能力で優位に立つ山田にまともに戦いに行き、木っ端微塵に粉砕された形となった。およそ、古沼先生の弟子とは思えない淡白な采配だった。もっとも、平岡氏は、トッププレイヤの育成や選手たちの人間教育に主眼を置き、師匠と異なり選手権での上位進出には拘泥していないのかもしれないのかもしれない。

 一方で、このシーズンオフ、青森山田の監督を長年勤めていた黒田氏の町田ゼルビア監督就任が発表された。黒田氏率いる山田はプレミア、高校選手権など幾度も日本一を獲得、采配の実績は格段。また、青森山田中からの一環強化に見られる組織作りも相当の手腕。ユース世代の指導者として格段の成果を挙げていた黒田氏が、大人のクラブを率いるのは、大変興味深い。類似例としては、市立船橋で格段の成果を挙げた布啓一郎氏が思い起こされるが、トップレベルの指導者のキャリアメイクとしてどのようなことになるか、注視していきたい。
posted by 武藤文雄 at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年ベストイレブン

 どうしても、今年はカタールワールドカップのメンバが中心となります。ただ、東京五輪に続き、この大切な大会をベストで迎えられなかった冨安健洋は選んでいません。また、ドイツ戦とスペイン戦で見事な得点を決めた堂安律も、コスタリカ戦とクロアチア戦は不満なので選びませんでした。この2人への要求はこんなものではないのです。

GK 権田修一
 ドイツ戦、スペイン戦、難しい時間帯、よくもまあ守り切ってくれたと思います。細かい部分を言えば不満はありますが、やはり今年の日本のGKと言えば今年は権田でしょう。

DF 酒井宏樹
 クロアチア戦75分以降の知性の限りを尽くした戦いを見ると、やはり右DFはこの選手です。浅野の裏にボールを出すだけになった単調な攻撃に変化をつけようとした尽力は忘れられません。

DF 谷口彰悟

 ワールドカップでの大活躍は言うまでもなし。E-1東アジア選手権での圧倒的存在感も格段でした。予選でも麻也、冨安不在時に何も不安を感じさせませんでした。カタールでタップリ稼いでください。今まで、本当にありがとう。

DF 板倉滉
 スペイン戦の先制を許した痛恨のポジションミスはありました。しかし、それ以外はほぼ完璧な守備。もちろん、予選でのすばらしい守備も忘れられません。列強に対して、冨安との2CBで留め切る姿を見るのが楽しみです。

DF 中山雄太
 予選での充実を含め、メンバ選考された直後の重傷は本当に痛かった。森保監督は、3DFを採用しサイドMFに三笘薫を抜擢する奇策で上位進出を果たしました。しかし、中山がいれば、三笘をもっと前で使えたはずです。

MF 遠藤航
 カタール直前負傷の情報が流れましたが、大会が始まってみれば、俺たちの遠藤航でした。中盤でのタフなボール奪取、落ち着いた前進。何と頼りになることか。

MF 岩田智輝
 E-1東アジア選手権での活躍、J制覇への貢献を考えると、カタールの26人に入るのではないかと思っていました。横浜Mでは最終ラインで使われることが多く、Jの最優秀選手にも選考されたわけですが、一番魅力を発揮できるのはMFだと思います。セルティックでの活躍を期待。

MF 守田英正
 日本サッカー界がようやく作り上げることができた、攻守に戦い続けることのできるMF。イタリアの名手、タルデリ、デ・リービオ、ガットゥーゾを彷彿させるタレント。

FW 伊東純也
 2021年日本代表のエースは、2022年本大会もやはりエースでした。予選のサウジ戦の得点とアシスト。カタール本大会でも幾度右サイドをえぐってくれた事か。さらに3DFのサイドMFとして起用されると、シャドーに入った堂安と美しい連係も見せてくれました。

FW 前田大然
 2002年に鈴木隆行が見せてくれた日本伝統の守備的CF。あの献身がスペイン戦の逆転劇を演出し、クロアチア戦の先制弾を決めてくれました。他の国ではまったく考えられない異次元のストライカに育って欲しい。

FW 三笘薫
 ドイツもコスタリカもスペインもクロアチアも、皆三笘の突破を警戒しまくっており、それでも三笘は幾度も突破を成功させました。3DFのサイドMFで守備もあそこまで見事に演じられるのも驚きでしたが、もう少し前で攻撃に専念して欲しかったかなとも思います。
posted by 武藤文雄 at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月25日

富田晋伍との18年

 富田晋伍が引退する。
 18年間に渡り、ベガルタ仙台一筋で戦い続けてくれた戦士。ベガルタゴールド以外のユニフォームを着る事なくトップレベルのプレイを終える富田。言葉にならないほどの感謝を、微力ながら日本語化させていただきたい。

 富田のプレイは何がすばらしかったか。
 言うまでもなく、中盤でのボール奪取能力だ。ただし、この奪取能力が、独特の魅力を持っていた。常に中盤で位置取りの修正を行い、敵の進出経路を予測し、自らのプレイエリアに入ってきたところで躊躇せず身体を張りボールを奪取、常識的だが正確なパスで味方につなぐ。富田の最大の特長は待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐところにあった。
 ボール奪取を武器するMFには様々なスタイルがある。例えば遠藤航、自ら能動的にボール奪取のために飛び出し、身体を当て合い、ボールと敵の間に自らの身体を入れボールを奪取。そのまま強引に前進を継続する。例えば明神智和、豊富な運動量で敵に幾度もからみ都度攻撃を阻止し、ボールを奪うやあちらこちらに展開する。一方上記の通り、富田のスタイルは待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐやり方。似たスタイルの選手を探すと鈴木啓太だろうか。鈴木啓太の方がパス精度は高かったが、ボール奪取力は富田が上回っていたのではないか。躊躇せず奪うと言うとアルゼンチンのマスケラーノを思い出す。富田のパスの精度やタイミングは、さすがにこの南米の大巨人の足下にも及ばない。しかし、ボール奪取の妙は紛れもなくこの名人を彷彿させるものだった。
 富田はチーム戦術への柔軟性も高かった。ACLに出場した手倉森政権の頃は、分厚い守備からの速攻の起点となっていた。この頃は富田は敵からスッとボールを奪い、素早く梁勇基や菅井直樹や朴柱成にボールを渡すプレイが光っていた。角田誠と富田のドイスボランチが、いかに他クラブを苦しめたことか。一方で、渡邉晋氏が采配時のポゼッションを軸としたサッカーでも十分に機能した。渡邉氏が指向するサッカーは様々な変遷があったが、前線に通すさりげないパスや、後方でフリーとなったDFにロングフィードを出させるパスを、富田は巧みに操った。奥埜博亮、三田啓貴、野津田岳人らと組む中盤は魅力的だった。
 もう少し上背があれば、代表チームに選考された可能性もあったかもしれない。国際試合だと、どうしてもこのポジションだと高さが欲しくなるからだ。ただ、あの躊躇せず奪う能力は、富田が短躯で重心が低いが故に完成したもののようにも思える。もちろん、サッカーにはヘディングと言う重要な要素があり、上背は高いに越したことはない。しかし、サッカーの能力要素を個別に整理すれば、背が低いことがメリットになるケースもあるのだ。もっとも富田は的確な位置取りで、ヘディングも決して弱くはなかったけれど。

 2005年シーズン富田がベガルタに加入したきっかけが、あの都並敏史監督にあった。そのあたりは、引退記者会見で富田自身が言及していたし、よく知られたことだ。ただ、都並氏は不思議なことに、この富田をサイドバックとして抜擢した。しかし、富田は、足が速いわけでもなく、角度のあるクロスを蹴るのがうまいわけでもなく、長駆を繰り返せるタイプでもない。なぜ、都並氏が、富田をサイドバックに起用したのは本当に不思議だった。
 当時のベガルタは毎シーズンJ1復帰を目指し迷走を繰り返していた。毎シーズン監督交代を繰り返し、一貫性ある強化が叶わず、再三空振りを繰り返すこととなった。都並氏の招聘もその一つ。さすがに、日本代表選手として豊富な経験を積んできた都並氏が算数ができないとは思ってもいなかったけれども。
 ともあれ、そんな事ははるか昔のこと。都並氏は監督としての姿勢も能力も残念なものだったかもしれない。けれども、私たちは富田晋伍をたっぷりと18年間にわたって堪能できた。改めて都並氏にも感謝したい。

 2009年シーズンにJ1に復帰して以降、ベガルタは高橋義希、和田拓也、金眠泰と言った能力の高い守備的MFを補強した。言わば、定位置争いで富田のライバルとなる選手たちだ。しかし、彼らは短期間ベガルタに在籍したのみで、他クラブに移籍する。そして、移籍後にすばらしい活躍をすることになる。これは、彼らの能力の高さを的確に評価したベガルタフロントの慧眼と、彼らとの定位置争いに負けなかった富田の存在感を示している。柏レイソルで中心選手として活躍する椎橋慧也。2020年シーズンにベガルタで定位置を確保した後、レイソルに移籍した。しかし、この2020年シーズンは富田が重傷を負い、リーグ戦登場の機会がなかった。椎橋はベガルタに在籍した4シーズン、毎年少しずつ出場機会を増やしていたが、富田が元気な間は完全に定位置を奪う事はできなかったのだ。言い方を変えれば、富田は定位置争いのライバルだったこう言った選手達に対して大きな壁となることで、彼らの成長にも大きく貢献したことになる。

 富田の18年間。上記したがJ1再昇格を目指しての迷走時代、富田や梁をしっかり育てJ1への昇格、考えられない自然災害、ACL出場、経営規模拡大が叶わず毎シーズンの苦闘、天皇杯決勝進出、疫病禍における経営危機、J2降格。思えば色々なことがあった。そして、幾多の喜びと悲しみを味わう事ができた。
 改めて富田晋伍と言う我々のレジェンドが引退する報を聞き、まず大きな空虚感を味わった。そして、幾多の喜びと悲しみを思い出し、整理できない感謝の念が交錯した。無数の感謝を整理していると、不思議なことに喜びばかりの記憶に満たされてきた。目をつぶれば、多くの待ち構えて躊躇せず奪いしっかりつなぐプレイを思い起こす事ができる。そのすべてに感謝の言葉を捧げたい。富田が敵からボールを奪ってくれた分だけ、私は喜びを味わえたのだ。

 富田晋伍さん、本当にありがとうございました。18年間積み上げた無数のボール奪取に乾杯。
posted by 武藤文雄 at 18:59| Comment(0) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする