2016年02月02日

ドーハの歓喜を振り返って

 堂々と五輪出場を決めてくれた本大会。その最後が韓国に対する勝利なのだから、こたえられない。そして、韓国への勝利が大きな快感なのは言うまでもないのだが、それも2点差をひっくり返しての逆転劇なのだから、格段の快感だった。そもそも、A代表を含めた日韓戦で、2点差の逆転劇そのものが、勝ちでも負けでも記憶にないのだし。
 誠にめでたい大会だった。

 ただ、決勝戦の試合展開はとても奇妙なものだった。
 手倉森氏は、「試合後後半開始早々に2点差とされたのは、自らの采配ミス」と語ったが、私が見るところ、その後に、それ以上の危険な采配を行い、完全に命運を絶たれるところだった。一方、申台龍氏の2点差までとするまでの采配は水際立っていたが、同点となってからの采配は愚かを通り越し、あり得ない稚拙さだった。
 いずれも最高級の歓喜を味わった今となっては、愉しい思い出ではあるのだが。

 開始早々、強烈なミドルシュートを打たれ櫛引がかろうじてはね返したこぼれ球を決められるがオフサイドに救われる。前後半問わず、序盤の守備がまずいのはこのチームの悪癖だ。ただ、この場面を典型に、この試合では、韓国FWに4-3-3の特長を活かされ、日本DFとMFの中間でボールを受けられてしまい、好機を再三作られることとなる。
 その後は日本のパスが回るようになる。しかし、久保、中島、両サイドバックの山中、室屋が、中盤を抜け出したところで、強引にラストパスを狙ってしまい、韓国の最終ラインも人数が揃っていることもあり、崩せない。久保と中島は、そう言った強引さに魅力があるのは確か。そして、山中、室屋まで同調したのは、決勝進出の「勢い」だろうか。ただ、韓国守備陣があれだけ揃っているのだから、もう少しゆっくり攻めたいところだった。実際、久々に起用された大島が、丁寧にさばいていたので、もう少しボールを集めたいところだったのだが、「大島抜き」に各選手が慣れていたせいか、やや「勢い」に乗り過ぎ、攻撃が単調になってしまった。
 そして、日本は敢え無く先制されてしまう。左サイド(以降の左右はすべて日本から見て)で、中島がやや甘い守備からサイドチェンジを許す。右サイドではよりボールに近かった室屋がマーカに気をとられ、矢島に対応を任せたことで、比較的簡単にクロスを上げられてしまう。その折り返しに、中央に残っていた岩波も植田も完全なボールウォッチャになってしまった。確かに両翼守備には問題があったが、屈強を誇る日本の2CBは欠点を露わにしてしまった。
 その後も、冒頭に述べた4-3-3対応がうまくいかず、頻度は少ないが幾度か好機を許しながら、何とかしのいで前半を終えた。遠藤も大島もしっかりと上下動して中盤守備を機能させていただけに、室屋と山中が勇気を持って敵FWへ応対していればよかったと思うのだが。

 後半開始より、手倉森氏はオナイウに替え、原川を起用、こちらも4-3-3に切り替える。敵FWを押さえると共に、攻撃の急ぎ過ぎを改善しようとしたのだろう。ところが、あろうことか遠藤が完全に敵FWに出し抜かれ、その対応に岩波が出遅れたところから、2点目を失ってしまう。
 けれども、苦しい状況になっても、気持ちが萎えないのは、このチームの良さだ。失点直後から、原川を入れた効果が次第に発揮される。大島と原川が、丁寧にさばき、日本がいやらしくボールを回せるようになったのだ。そして矢島と室屋、中島と山中が、それぞれ両翼で起点を作れるようにもなり、日本がペースをつかんだ。2点差は苦しいが、このペースでヒタヒタと攻めれば、前半ハイペースで飛ばしていた韓国は疲弊するのではないかと期待は高まった。
 ところが、その好ペースを手倉森氏は自ら崩してしまう。大島に替えて、攻撃の切り札浅野を投入したのだ。確かに、2点差である以上、早い段階で手を打つ必要があり、ズルズルと時間が過ぎてしまう状況を打破しようとするのは一案で、久保と浅野を並べる策は理解できる。では誰と替えるかだが、イラン戦でその驚異的なスタミナと終盤での能力を見せつけた中島と、ボールを引き出す能力が高い矢島を残すとずれば、消去法から大島が選択されるのはわからなくはない。ただ、全軍で一番視野が広い大島を外してよいものなのか。ともあれ、日本は大島に替えて浅野を投入、4-4-2に戻した。
 この交代劇は、大島不在以上のマイナスを日本に与えることとなった。浅野投入後の約5分間、また韓国FWを捕まえられなくなり、幾度も決定機を許すことなったのだ。櫛引の好守もあり、何とかしのいでいたが、ここで3点差にされたら、いくら何でも勝負は決まっていただろう。
 ところが、何が幸いするかわからない。日本が自らペースを崩したこともあってか、韓国の守備陣がズルズルとラインを上げ、しかも中盤のプレスが甘くなってきたのだ。それを逃さなかった矢島と浅野の狡猾な動きで、日本は1点差に追い上げる。矢島のスルーパスは、タイミングも強さも絶妙だったが、浅野の抜け出しの速さとシュートの巧みさも完璧だった。ここで韓国のDF陣は、浅野の「縦の速さ」に驚いたようで、明らかにパニックに陥る。そして、左サイドの崩しから、完全に矢島を見失う。あっと言う間の同点劇。
 まあ、典型的な「肉を切らせて、骨を断つ」作戦がうまくいった状況となった。試合終了後、手倉森氏が嬉しそうに、この場面を自慢しながら振り返るのかと思ったが、氏の発言は「もう一度相手の攻撃をしのいでから、押し出ていこうかと思っていたら、タイミングが悪くて2点目を取られた。そこから2トップに戻すまでは、ちょっとこてんぱんにやられたなと。」と言うものだった(出展はこちら)。手倉森氏は、興奮のあまり記憶が違っているのだ。「こてんぱん」状態になったのは、氏が2トップに戻してからだったのだが。
 手倉森氏がすばらしい監督であることは、ベガルタサポータの私たちは、誰よりわかっている。けれども、彼が万能の神ではないことも、私たちはわかっている。
 それでも選手達は、我慢を重ね、巧みに敵の隙を突いて追いついたのだ。この監督の采配ミスの苦しい時間帯、選手達が粘りで追いついた場面は感動的だった。

 ここで、日本に不運が襲う。テレビ朝日のピッチアナウンサ情報によると、矢島が何がしかコンディションを崩したと言うのだ。手倉森氏は2対2の状況で、韓国が1人も交替していないにもかかわらず、3枚目のカードを切ることを余儀なくされた。これは最悪の事態だ。韓国は、当方の選手の疲労を見ながら、自在に交替策を駆使して、仕掛けることができる。
 ところで。現役時代の申台龍は、技巧も判断力も優れ、とてもよい選手だった。ただ、どうにも代表運がなかった。日本で言うと、藤田俊哉的な位置づけだろうか。2-0となるまでは、申台龍氏の采配は冴え渡った。1点目は大きなサイドチェンジに対する日本CBの対応の拙さを突かれ、2点目は立ち上がりの悪さを狙われた。現役時代の忌々しさを思い起こす、最悪の快感。
 ところが。日本が3枚目の交代を切った後の、申台龍氏の采配は、正にお笑いものだった。大柄な選手を前線に起用し、パワープレイに転じてきたのだ。確かに前半からのハイペースで、韓国各選手に疲労の色は濃かった。けれども、今回の日本のCBが敵のパワープレイには滅法強いのだ。申氏の采配で、一気に日本は楽になる。
 そして、浅野。中島のパスも見事だったが、その鮮やかなターン。そして、冷静な左足シュート。

 堂々たるアジア王者に輝いた若者たちと、鮮やかな采配を見せてくれた手倉森氏に感謝したい。
 一発勝負の予選ゆえ、出会いがしらの事故による失敗が一番恐ろしかったが、手倉森氏は見事なマネージメントで、堅実に戦い切ってくれた。選手達も、その格段の高い戦術能力を見せ、手倉森氏の要求にこたえきった。
 イラン戦も、イラク戦も、確かに苦しかった。イラン戦はバーに救われた場面もあった、イラク戦も技巧あふれる攻撃に苦しむ場面は少なくなかった。けれども、選手達は粘り強く戦い、格段のコンディショニングの成果もあり、試合終盤は完全に相手を追い込み、完璧に勝ち切った。この準々決勝、準決勝、この2試合に同じ準備状況で再度試合に臨むとしても、相当な確率で日本は勝つことができるのではないか。
 そして、韓国戦。選手達に甘さも確かにあった。しかし、彼らは監督の采配ミスなどを飲み込み、堂々と勝ち切ってくれた。
 過去20年来、A代表も五輪代表も、日本はアジアで格段の成績を収めてきた。しかし、それらの歓喜は、必ずしも圧倒的な攻撃的サッカーで得たものではない。中盤を圧倒して快勝の連続で得たものでもない。苦しい試合を、各選手の秀でた判断力と精神力で粘り、敵の僅かな隙を突いて攻撃のスタアの能力で得点し、拾った歓喜は数知れない。今回のチームの歓喜もそれと同じだった。もちろん、局面局面で久保や浅野や遠藤や室屋が見せてくれた、「格段の個人能力」はすばらしかったが。
 手倉森采配の輝きも格段だったが、各選手の能力が存分に高かったことを改めて強調したい。ただし、すべての勝負がこれからなのも言うまでもない。
 このすばらしい23人は、まず本大会に向けてのサバイバルが待っている。リオ本大会出場枠は、わずか18。そこにオーバエージが加わる。さらに、今大会負傷で登録されなかった中村、喜田、野津田、金森ら、Jで実績を誇る関根、川辺、小屋松、鎌田、前田らが、その競争に加わる。
 厳しい競争を勝ち抜いた若者が、リオで美しい色のメダルを獲得し、さらにロシアでの歓喜に貢献してくれることを期待したい。
posted by 武藤文雄 at 00:18| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月22日

ベガルタサポータのみが味わえる快感

 結果も内容も上々に1次ラウンドを突破した五輪代表。勝負はこれからだが、手倉森のオッサンのドヤ顔を見るだけで、嬉しくなってくるのは、ベガルタサポータ特権だな。

 もちろん、贅沢を言えばキリがない。例えば、手倉森のオッサンが自慢する守備だが、結構、粗も多い。
 まず、つまらない反則や、軽率なミスパスなど、各選手が唐突にビックリするようなミスをすること。たとえば、サウジ戦後半、植田が敵FWと競ってヘッドしようとした際に手が前に出てファウルをとられた。同じく、山中がペナルティエリア内でミスパスでボールを奪われた。この他にも、この3試合、多くの選手が、自陣ゴール近くで「おいおい」と言うミスをしている。各選手が、まだまだ若いと言うことだろうか(「若さ」が故のミスについては、講釈を垂れ始めるとキリがないので、別な機会に)。
 また初戦北朝鮮戦で幾度も危ない場面を作られた。バックラインが下がってしまったのがまずかったのは確かだ。しかし、岩波と植田は、北朝鮮のロングボールはしっかりとはね返していた。問題は、引き過ぎたこともあり、両翼に数的優位を作られ、ダイレクトパスやサイドチェンジを許し、精度の高いボールを入れられたことだ。
 このオッサンがベガルタを率いていた際にも、しばしばこのような場面が見られたな。うん、懐かしい。ところが、状況が悪くなりバックラインが下がったときはサイドMFが献身的に上下動をして、対処していたのだ。まあ、梁勇基と比較すれば、南野はまだまだ未熟と言うことか。
 ともあれ。上記のような失態があっても、失点はあの愉しいPKからの1点のみ。これは、各選手の切り替えの早さが格段な事による。チームメートがミスしたら、すぐに切り替えが利くのは大したものだ。国内の各若年層育成組織が育て上げたエリート達に、この意識をたたき込んだは、このオッサンの功績だな。
 緊張感あふれる1次ラウンドの3試合の経験で、各選手は成長し「おいおい」ミスは減っていくことだろう。南野はサウジ戦の終盤は的確な守備も見せ、北朝鮮戦のダメダメから脱却した。そうこう考えると、あの切り替えの早さがあれば、守備は相当計算できそうだ。

 では攻撃。
 このチームの前線の個人能力は相当高い。久保は常に敵ゴールを狙い、狡猾な位置取りと、ふてぶてしいシュートが格段。浅野の加速からのシュートの鋭さは、毎週Jリーグで感心させられている。南野のペナルティエリア内の技巧とシュートへの持ち込みは言うまでもない。気がついてみると、攻撃は相当強力ではないか。かつての五輪のFWを思い起こす。アトランタは小倉と城、シドニーは柳沢と高原、アテネは達也と大久保、北京は豊田と岡崎、ロンドンは大津と永井。そうこう考えると、久保、浅野、南野の組み合わせは、従来と何ら遜色ない、いやこの時点での迫力は優れているように思えてくる。
 問題は彼らに前を向かせ、己のイニシアチブでプレイさせるスペースを作れるか。
 そして、これが作れるのだ。大島の視野の広さ。遠藤の責任感あふれるボール奪取とパス出し。原川の丁寧な展開と持ち出し。矢島の引き出しと狙い済ましたラストパス。井手口の格段のボール奪取と正確なつなぎ。三竿の強さと高さ。そう、当たり前に当たり前の選手選考を行えば、何も問題ないのだ。

 大会前に様々な不安が語られた。けれども、結局のところ、よいチーム、よい選手を所有できている。イランも、イラク(UAEかもしれない)も、厄介だろう。しかし、これらの難敵とに対し、従来以上に戦えるチームができあがってきた。よい素材を育成する、日本中のサッカーおじさん、おばさんの貢献も何よりだ。そして、手倉森のオッサンもさすがなのだろう。
 丹念に、丁寧に、執拗に戦えば、リオ出場権獲得の確率は相当高いはずだ。

 ただし、不安もある。手倉森のオッサンが「凝り過ぎて、策に溺れるのではないか」との不安だ。
 ベガルタ時代、おのオッサンは、少ない戦闘資源を丹念に鍛え、格段の成績を挙げてくれた。この俺たちがACLまで行けたのだよ。このオッサンには感謝の言葉もない。そして、少ない戦闘能力を存分に発揮するためには、様々な駆け引きが必要だった。
 この五輪代表チーム、このオッサンは、ベガルタ時代には夢にも思えなかった、豊富な資源からの選択の自由を堪能している。そして、この3試合、その成果を存分に見せてくれた。期待通りの手腕である。3試合で、ほとんど全選手を起用し、極端に消耗した選手もいないはずだ。よい体調で、2次ラウンドを迎える。よほどの不運がなければ、イランとイラク(UAE)を破ってくれることことだろう。
 けれども、思い起こせば、このオッサンの駆け引き倒れを、幾度経験したことだろう。スタメンで使うべき選手を控えに置き、負傷者などの思わぬ展開で、よい選手を使い切れなかったこと。「展開は悪くない」などと語りながら、豊富な交代選手を起用せぬまま、消耗した選手のミスで失点すること。
 そう、不安なのだよ。このオッサンの「すべて計算通り」と語るドヤ顔が。例えば、ローテーション起用に拘泥するあまり、今大会、浅野も南野も、まだ得点がないと言う事実。この2人が、今後つまならいプレッシャにつぶれなければよいのだが。ついつい、このような余計なお世話を語りたくなることこそ、このオッサンの愉しさなのだが。

 うん。この不安感。ベガルタサポータのみが味わえる異様な感情。どうだ、うらやましいだろう。
posted by 武藤文雄 at 01:14| Comment(1) | TrackBack(0) | 五輪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月06日

守備が強いバルセロナ

 いささか古新聞ながら、昨年末のクラブワールドカップを見ての思いを語りたい。

 メッシとネイマールを擁し神仏に喩えられて久しいバルサ、16,000サポータ共々質実剛健そのものだったリーベル、ここ数年財力の差により我々にACLで不快な思いを提供し続けている広州恒大。そして、ここ数シーズン、日本で最も安定した成績を収めているサンフレッチェ。これらの4クラブを丁寧に比較できて、とても愉しい大会だった。
 今日のところは、まずはバルセロナを論じたい。

 今回のバルセロナは、従来のシャビとイニエスタを軸に中盤で精緻なパス回しをするチームとは、随分趣を異にしていた。ずばり、マスケラーノ、ピケ、ブスケツの守備中央3人の強さが格段のチームだったのだ。

 ゴールキックの際に、CBのマスケラーノとピケが、ペナルティエリア両横に開いて、そこから展開するのをスタートとする。サイドバックのダニエウ・アルベスとジョルディ・アルバは前方に進出。言ってみれば、後方から2-3-2-3と言う配置になっている。これは1925年にオフサイドルールが変更になる以前のフォーメーションに先祖返りしたのではないかと。
 冗談はさておき、これは世界最強チームの展開地域が、より後方になって行いくことを示唆しているのではないか。やたら中盤のプレスが厳しくなって、ピルロが中盤後方から展開するようになった2000年代。そして、2010年代半ばになり、とうとうマスケラーノは、最終ラインからの展開を始めたと言うことだろうか。1970年代のベッケンバウアに戻ったと言う話もあるか。あ、また話がずれました、すみません。

 決勝戦、リーベルの速攻は鋭くいやらしかった。しかし、マスケラーノの読みの鋭さは格段。リーベルのシュートポイントに何の躊躇もなく飛び込み、押さえ込んでしまう。マスケラーノの守備振りは、全軍を指揮して敵の攻撃を弱めておいて自分が一番危ないところで待ち構えるフランコ・バレーシとも、チームメートの挙動を見ながら自分の個人的守備能力で一番危ないところを止め切るカンナバーロとも違う。マスケラーノは、チームメートを一切頼らず、己の判断のみを頼りに、一番危ないところを押さえ切ることのみを考えているように見えた。
 一方でピケ。リーベルの後方の選手が、バルサのプレスが甘くなった隙を逃さず、ぎりぎりのロングボールを入れてくる。しかし、ピケは丁寧にそれをはね返す。ピケもよい年齢になってきたのか、強引な攻め上がりがなくなり、ストッパとしてしつこく守り、格段の個人技で正確にはね返す能力は格段。
 そして、マスケラーノとピケが防いだボールを、ブスケツは丁寧にさばき展開する。この世界最高峰CBコンビでも、さすがに敵の攻撃を防いたボールゆえ、タイミングやコースはブスケツの処理しやすいところへ来ない。けれども、ブスケツは何の雑作もなく、的確にボールコントロールしてしまう。しかも、南アフリカワールドカップ制覇時に見せた、中盤での守備範囲は、さらに広さを増していたし。

 もちろん、メッシとネイマール。リーベル戦の1点目のネイマールの折り返しとメッシのトラップからのシュート。3点目のネイマールの芸術的アシスト。
 この2人以外のバルセロナの名手たちの個人能力が超越しているのは間違いないが、マスケラーノもピケもブスケツもイニエスタもスアレスも、素質に恵まれた人間が、環境に恵まれ、適正な指導を受け、凡人には耐え難い努力を積めば、もしかしたら到達できるかもしれないとは思う。しかし、メッシとネイマールの能力には、そう言った常識を超越した何かを感じる。ホモサピエンスを調達した何かを。ペレ、クライフ、ディエゴに感じ、ロナウジーニョに期待し外れた、何かを。

 それでも。
 しつこいが、今のバルセロナの強みは、最終ラインの3人にあった。シャビを失ったバルセロナは、たとえ、メッシでも、ネイマールでも、イニエスタでも、もちろんスアレスでも。分厚く人数をかけた守備をする敵に、ぎりぎりのパスを引っ掛けられ、逆襲速攻に襲われることもある。
 もちろん、リーベルもそれを狙っていた。
 そのリーベルの狙いのすべてを、マスケラーノとピケとブスケツは、未然に防いでしまったのだ。

 16,000人のサポータが支えるリーベルの質実剛健な逆襲速攻。それを、この3人が、90分間戦い続け、押さえ切った。すばらしいエンタテインメントだった。
posted by 武藤文雄 at 00:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月02日

ペトロビッチ氏の自滅

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今年は、何とか更新頻度を上げていきたいと思っているのですが。
 さて、今年の初講釈は、2015-16年天皇杯決勝戦。レッズ対ガンバ、国内屈指の強豪対決を、実家のテレビ桟敷で堪能させていただきました。

 ガンバは準決勝で負傷した柏木を使えない。柏木の代わりには青木を起用、阿部を一枚前に使う。そして、準決勝で劇的な決勝点を決めた李忠成が先発、2シャドーに興梠と武藤を並べ、右アウトサイドには関根ではなく梅埼を起用した。この布陣変更が、前半の綾となる。
 立ち上がり、ガンバがつかんだ2回の決定機は宇佐美が起点となった。これは、宇佐美を止めるのが、森脇なのか梅崎なのかがはっきりしなかったため。さらに、ガンバの先制点は、レッズの攻撃が、柏木不在により単調になり、前掛かりとなったところで、中盤でボールを奪われた直後の速攻からだった。まあ、これは、ボールを奪った直後に躊躇せずに縦パスを通したのは倉田と、格段の脚力で突破したパトリックを褒めるべきにも思う。レッズのような攻撃的サッカーを志向するチームは、常にこのような失点のリスクを負わなければならないものだ。
 一方で、レッズの布陣が奏功したことも多かった。まず阿部を一枚上げたことにより、直接遠藤との対峙が可能になり、自在な展開を許さなかったこと。加えて、森脇と梅崎の分業が確立した後は、梅崎の前進により、宇佐美を後方に押し下げることにも成功。レッズの同点弾は、梅崎の狡猾な突破に対して宇佐美の対応が軽かったことが起点となった。直後の梅崎の絶妙なクロスに李が飛び込み、ポストに当たったこぼれを興梠が鮮やかに詰めた。ペトロビッチ氏苦心の布陣が、見事に当たったわけだ。それ以降、レッズが押し込む時間帯が続いた。

 後半に入ってもレッズペースが続く。
 ところが、ガンバの速攻から後半初めて許したコーナキックから、ガンバに突き放されてしまう。この場面は、完全な槙野の失態。ガンバ今野に妨害され、マンマークしていたパトリックに完全に振り切られてしまった。マンマークの駆け引きで、攻撃側の選手が他の選手を利用してマークを振り切ろうとするのは、いわゆる基本技。これだけのビッグゲームで、このような初歩的な駆け引きで得点が生まれてしまうとは。
 槙野と言う選手は、センタバックとしての能力は日本屈指のものがあると思っている。この日の前半も、パトリックや倉田の飛び出しに対し、落ち着いた粘り強い対応でしっかり止めていた。けれども、どうして肝心な場面で、「抜けて」しまうのだろうか。
 
 リードしたガンバは、宇佐美とパトリックをトップに残した4-4-2に切り替え、守備を固める。
 ここでペトロビッチ氏は不可解な采配を行う。武藤と梅崎に代え、ズラタンと関根を起用したのだ。これは攻撃の圧力を高める効果はあったが、変化は少なくしてしまう。実際、前半梅崎が中央に絞って作ったスペースに森脇が進出、逆サイドの宇賀神を狙う攻撃は効果的だった。李と武藤が中央にいれば、高いクロスと、低く速いクロスと、複数の選択肢があり得るが、ズラタンと李ならば、高いボールしか選べなくなる。さらに宇賀神に代えて高木を起用。レッズの攻撃の最大の強みの1つは、宇賀神が外に引き出しておいて、槙野が進出してくるやり方になるが、若い高木にはこのような仕掛けは難しい。何より、常に敵が困るいやらしい選択を考える宇賀神がピッチからいなくなってしまった。
 結果的に、レッズの攻撃は若い関根と高木が、両翼から個人技の限りを尽くして突破を狙い、それにレッズの強力な3トップが飛び込むだけの単調な展開となった。いや、後半半ば過ぎからは、槙野も最前線に進出。言わば2-2-6のフォーメーションで、強引に押し込む展開となった。
 ガンバの中央は強い。東口と丹羽と金正也が、関根と高木のクロスをはね返し続け、試合はそのまま終了した。確かに、あれだけクロスを上げ続ければ、結果的に好機を作ることはできる。けれども、レッズ本来の魅力である、変化あるパスワークによる崩しはほとんど見られなかった。
 むしろ、トップに残った遠藤の妙技と、「明神2号」を思わせる井手口の刈り取りが目立ち、決定機はガンバの方が多い展開が続き、試合終了。ガンバの歓喜とあいなった。

 どうして、ペトロビッチ氏は、後半序盤にリードされただけで、自ら大事に育て上げた、鮮やかなパスワークによる攻撃を放棄してしまったのだろうか。
 好調時のレッズの攻撃の変化は鮮やかだ、たとえ柏木が不在だとしても。興梠がちょっとしたキープで作ったスペースに、武藤や梅崎が絡む。森脇のサイドチェンジからの宇賀神の個人技。宇賀神と槙野の連係による崩し。そして美しい阿部の展開。
 このような変化あふれるパスワークがあるからこそ、関根や高木の個人技が効果を発揮する。ズラタンや李のシュート力も活きる。 
 これらの輝きは、すべてペトロビッチ氏が作り上げたものだ。それなのに、ペトロビッチ氏は、大事な試合で、大事な勝負になる度に、その輝きを自ら放棄してしまう。
 上記した槙野の失態も深刻な問題に思える。ペトロビッチ氏は、槙野がサンフレッチェでトップデビューした折からの師匠。槙野も28歳になった。それでも、この甘さはなくならない。槙野自身の問題もあるが、それを許すペトロビッチ氏の問題も大きいのではないか。
 まあ、いいんです。私はレッズサポータではないですから。

 ともあれ。新年早々、内容も豊富で、色々思索可能な試合を堪能させていただきました。
 ここは1つ、近々行われる五輪予選で、井手口が輝き、我々に歓喜を提供してくれることを。
posted by 武藤文雄 at 00:31| Comment(5) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月31日

2015年10大ニュース

 おかげさまで、本業が超多忙なこともあり、今年は非常に寂しい頻度でしかブログを書くことができませんでした。何とか、少しでも更新頻度を戻していきたいと思っています。

 さて、恒例の10大ニューズです。ご承知のように、毎年の10大ニューズは、日本のサッカー界を対象にしてきました。ところが、今年は海外サッカー界において、FIFAの汚職事件、サンドニのフランス対ドイツ戦でのテロ事件と言う何とも言い難い事件がありました。
 前者は、ある意味「犬が人を噛んだ」感もあります。そもそも2022年のワールドカップ開催国があのように決まった以上、FIFAが真っ当な組織とは言えなくなっていたのは自明でした。本件については、日本サッカー界と無縁かと言うと微妙なものがあり、報道を待ちたいと思います。国際的なスポーツ団体は、色々な意味でガバナンスが利きづらく、大きな改善の余地があることは間違いありません。サッカーに限らず、トップレベルの競技を多くの人々が愉しめるための競技団体はどうあるべきか、難しい問題だと思います。
 後者は、サッカーあるいはスポーツの範疇を超えた悲しい事件でした。本業で世界中に出張をする自分にとっても他人事とは言えません。ただ、書生論かもしれませんが、それぞれの国や地域がよい意味で経済的に絡み合い、少しでも多くの人が豊かになり、サッカーのような至高の玩具を愉しむ環境ができれば、悲しい事件は減らせるのではないかと思っています。そのために、微力な自分ができることは何なのか。考え続けたいと思っています。

 ともあれ、1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。よいお年をお迎えください。

1.女子代表ワールドカップ準優勝
 先日の澤のエントリで述べたが、2つのワールドカップおよびロンドン五倫と、世界大会で3回連続で決勝進出したことそのものが、前大会での優勝よりもすばらしい。トップになること以上に、トップを維持することは難しいのだから。
 そして、もう澤はいない。

2.アジアカップ準々決勝敗退
 あの準々決勝敗退は、経験としては中々だった。一発勝負の重要な公式戦、あれだけ攻勢をとり、幾度も崩しかけて、PK戦での敗退。あのような経験を積むことができたのも、また経験と言うものだろう。ワールドカップの度に、アルゼンチンのサポータ達は、あのような快感を味わっているわけだ。
 まあ、アギーレ氏が、ちゃんと守備的MFのバックアッパーを選考し、1次ラウンドで岡崎と遠藤を酷使しなければ、ちゃんと優勝できたとは思うけれど。よい監督だったが、詰めを過ったと言うことか。
 その後、アギーレ氏が退任。ハリルホジッチ氏が就任。当初は、対戦相手との相対的戦闘能力差を見誤り、勝ち点を落としたが、ここにきて、すっかり落ち着いてきた。2018年まで先は長い、じっくりとよいチーム作りを期待したい。

3.サンフレッチェJ制覇、クラブワールドカップ3位
 一言で語れば、今年のサンフレッチェは強かった。強力な3DFを軸にした4人のMFの組織守備。崩せぬ敵が無理をした瞬間に、青山の壮大な展開からの両翼攻撃。終盤に冴え渡る浅野ミサイルの前進。
 50年前の精強を誇った東洋工業と合わせ、日本史上最高のクラブの地位を掴みなおした感もある。
 森保氏が、丹念に作り込んだチームが、リーベルと互角の戦いを見せてくれた。もっとも、あそこまでリーベルを追い詰めながら勝ち切れず、リードされた終盤ペースをつかめなかったことそのものは、「現状の明確な距離」として認識できたのだが。
 
4.悲しい日程問題
 チャンピオンズシップをやった方が儲かるならば、やればよい。
 けれども、お願いだから、1年は52週しかないこと、選手達は消耗品ではない大事な資産であることを、理解して欲しい。
 10月末に最後のホームゲームを行い、1ヶ月のブランクの後に8クラブだけが1週間で天皇杯を争う日程を、恥と考えない日本協会およびJリーグ首脳が情けない。

5.トリニータJ3降格
 トリニータがJ3に陥落したことは、現状のJリーグがいかに怖ろしいリーグ戦になったことを示している。かつてナビスコカップを制覇したこのクラブがJ3に落ちたことも歴史を感じる。しかし、このクラブは、かつての負債を片付け、一度J1に復活したのだ。それから、たった3年後のこの悲劇。
 J2では十分上位をうかがえるだけの経済規模、J1での経験を持つ選手達、それでもほんの僅かなボタンのかけ違いが、今シーズンの悲劇を生んだ。とうとう我々は、50近いクラブがトップを目指し、切磋琢磨する過酷なリーグ戦を手にしたのだ。
 皆にとって。一つ間違えば、明日は我が身なのだ。

6.スタア日本人監督の台頭
 チャンピオンズシップと、先日の天皇杯準決勝、森保一対長谷川健太の、虚々実々の駆け引き。
 J2の死闘を勝ち抜いた名波浩の矜持。
 そして、日本代表史上最大の巨人、井原正巳の執念。
 Jリーグ時代以降の名手が、トップレベルの監督として、次々に実績を挙げたシーズンだった。一流選手には、彼らしか味わえなかった強烈な経験がある。何か、ここ最近の日本サッカー界は妙にストイックな雰囲気があり、格段のプレイヤが、監督としての場が与えられない傾向があった。しかし、もう大丈夫だ、かつて我々をプレイで率いてくれてきた名手たちが次々と、監督として活躍してくれるに違いない。

7.チャンピオンシップの丹羽と東口の連係
 あの丹羽のバカバックパスからの展開。東口のカンフーキックカンフーキック。そして、それ以降の高速展開。あのようなビッグゲームで、あのようなことが起こる。サッカーなのだ。

8.大久保3年連続得点王
 大久保の業績を称える、年末番組。必ず、最終節のベガルタ戦の決勝点が移る。くそぅ。でも、あの決勝点には、かつての釜本を思い出した。
 それにしても、それにしても、この多産系のストライカは、どうして代表でたくさん点をとってくれなかったのか。

9.J3のU22、サテライト問題
 若い選手が育たないことに焦り過ぎではないか。何のことはない、大学リーグがよくも悪くも活性化し、20代前半から半ばで、J1やJ2上位のチームで定位置を確保し得るタレントの選手層が、格段に厚くなったに過ぎない。
 そうなれば、高校出の有為な人材は、中々試合に出られないさ。だったらならば、抜群の素質を持っている彼らを、J2下位なりJ3なりJFLで、より若い頃から鍛えればよいのだ。

10.全日本少年サッカー選手権の冬季開催、少年のリーグ化
 数十年間、盛夏期に行われていた全日本少年サッカー選手権が冬に移動。健康被害を気にしなくてよくなったのみならず、年度の最後近くに大きな大会ができたことなど、結構なことだと思う。また、この予選が、基本的にリーグ戦形式になった変更も重要だ。
 8人制が妥当かとの議論も問題だが、少しずつ改善が進んでいることは、とりあえず評価しておきたい。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年ベストイレブン

 毎年恒例のいい加減なベストイレブンです。今年はサンフレッチェに敬意を表し、いわゆる3-4-2-1で選びました。いくら何でも岡崎を選ばないのはいかがかとも考えたのですが、その理由は最後まで読んでいただければ。

GK 東口順昭
 あのチャンピオンシップのレッズ戦の、カンフーキックはどうやらボールに触っていた模様で、そこからの素早い展開で決勝点の起点となった以上、今年もこの人を選考しなければなるまい。敵がシュートを放つぎりぎりまで我慢できる度胸、クロスへの判断の質。「守る」と言うことについては、現状では日本最高のGKなのではなかろうか。

DF 遠藤航
 今年、期待通りに成長。身体の入れ方がうまくなり、自分の領域に入ってきた選手を押さえ込むのが格段に上達した。180p足らずと言うこともあり、代表では右サイドバックや中盤に起用されているが、あの安定感を見ると、最終ラインにも使ってみたくなる。果たして、どこがベストのポジションとなるか。まずは主将としての五輪出場権獲得に期待したい。

DF 阿部勇樹
 的確な位置取りと、落ち着いた1対1で、今年も攻撃的なレッズを支えた。チーム全体が前掛かりになった折にボールを奪われた直後、鋭い寄せで敵の逆襲を防いでしまう、その読みの冴え。攻撃が行き詰ったときに見せる、(若いときから変わらない)美しいサイドチェンジ。ACLの肝心な試合に阿部を起用しなかったことそのものが、レッズの敗因となった。

DF 塩谷司
 シーズンを通して、安定した守備を披露。持ち出してくる敵への応対が格段のこのDFは、リーベル相手にも何ら遜色を見せなかった。さらに、千葉が欠場した広州恒大戦では、見事なカバーリングを見せた。シュートのうまさが再三話題となるが、これだけ守備で圧倒的な存在になると、そろそろA代表のセンタバックの定位置を狙ってほしいところだ。

MF 青山敏弘
 敵のタイミングを外す遠藤。敵DFの間隙を狙う憲剛、その2人とは異なり、青山のパスはチームメートの陽動動作で敵DF全体を動かし、空いたスペースを突く。特にグラウンドの左右いっぱいを使うゲームメークは、多くの少年の指導者が「誰に教わった訳でもなく、理想的な中盤選手の姿」として、好んで教えているスタイルそのものだ。そう言う意味では、絵に描いたような日本サッカーの具現者と言えるのではないか。 


MF 森崎和幸
 森崎和幸を選ぶために、今年のベスト11を選考しています。今年のサンフレッチェの好成績は、この名手の知的な位置取りとカバーリングがあってこそのこと。時に最終ラインまで引き千葉と共に後方を固め、時に青山の展開のためのスペースを作る。もし、サッカーの神様がこの選手に、もう少しの体幹の強さを与えていれば、日本サッカーの歴史が変わっていたのではないか。

MF 柏好文
 チームでの位置づけはスーパーサブだが、今の日本人タレントで、「サイドを切り裂く」と言う役目においては、正に第一人者。大きな切り返しと、瞬間加速が武器だが、ボールを受ける前のちょっとした動きがまた絶妙。そして、クロスの選択肢が多いのも魅力的。スパーサブとしてそのまますぐにでも、A代表も目指せるタレントだと思うのだが。

MF 宇賀神友弥
 周囲の選手を活かすためのスペースをいったん作ってから、大外に自分が活躍する場所を進出するのが実にうまい。それにより、敵のサイドプレイヤに押し込まれることを避ける位置取りには、いつも感心させられる。また、カットインしてのシュートへの動きが素早いのも大きな武器。阿部とは別な意味で、レッズ全体のチームのバランスをとるに欠かせない選手だ。

MF 倉田秋
 印象的だったのは、東アジア選手権の日韓戦での落ち着いたボールさばき。長い距離をドリブルで持ち上がった後に、大仕事ができるのがこの選手の魅力。また中盤より前のいずれのポジションもこなせる知性も格段だ。欧州でプレイしている選手を差し置いて代表の定位置を確保してもおかしくない。下部組織からトップに上がり、レンタルを含めた9年の歳月をかけてプレイスタイルを完成させようとするガンバの育成力にも感心。

MF 武藤雄樹
 瞬間的なスピードがあり、ボール扱いも上手。守備もいとわない。ベガルタ加入後4シーズンに渡り、手倉森監督も渡邉監督も、この才能を活かそうと、ありとあらゆる使い方を工夫したが、どうしても継続的に輝かすことができなかった。それが、レッズに移籍した途端に、ワンタッチゴーラとして開花。わからないものだが、誠にめでたいことだけは間違いない(この選手については、この正月休みの間に作文を完成させたいのですが)。

FW 武藤嘉紀
 日本には珍しく、体幹が強く、技術にも優れ、しかもシュートもうまいストライカ。釜本、久保のようにエレガントなスタイルとは異なるし、柳沢、高原と異なりちゃんとシュートが入る(高原は入るときは入ったけれど)。しいて言えば、先日引退した鈴木隆行を技巧的にしたタイプと言うべきか。マインツでも順調に得点を重ねているのは結構なことだが、もう一段上がるためにも、鈴木のように戦ってほしい。


 と言うことで、2人の武藤がA代表で並立することを夢見ているのです。もし、この2人が前線で連携をとれるようになれば。ロシアワールドカップは、私のためのワールドカップになるではありませんか。
posted by 武藤文雄 at 20:18| Comment(3) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月30日

澤去りし後

 澤穂希引退。

 引退を宣言し、最後の大会として選択した皇后杯で、堂々の優勝。それも決勝戦の終盤に、決勝点を決めてしまうのだから恐れ入る。スーパースタアの所以と言えばそれまでだが、引退を決意してもなおその個人能力が他を圧していると言うことだろう。実際問題として、今大会中盤奥深くで敵の攻撃を刈り取る妙技と落ち着いた展開は、今なお格段のものがあった。準決勝、ベガルタはアイナックに敗れたのだが、澤の存在は忌々しさは格段。数日前の横浜国際で堪能したマスケラーノの読みの冴えを思い起こした。
 個人能力は未だ他を圧しているものの、澤が引退を決意したのは、ひとえにモチベーションの問題なのだろう。引退記者会見で、「心と体が一致してトップレベルで戦うことがだんだん難しくなったと感じたから」と語ったと報道された。アスリートとして考え得る最大限の栄光を手にした澤だからこその思いと言うことか。例えば王貞治、山下泰裕、千代の富士と言った方々が、引退時に類似の発言をしていたのを思い出した。
 その状況で、最後と選んだ大会に、見事に合わせ、結果を出すのですからねえ。長い間、本当にありがとうございました。

 で、今日のお題。
 澤去りし後の、日本女子サッカーは、どうなるのだろうか。

 とても不安なのだ。
 不安なのは、澤とその仲間達の実績があまりに素晴らしかったこと、そのものだ。それにより、一般マスコミが世界一、あるいはそれに準ずる成績を当然と考えてしまうのではないか。そして、それに至らない時に非常に低い評価を与えるのみならず、罵詈雑言を飛ばすのではないか。あるいは、まったく無視をしてくるのではないか。それを、どうこう不安視しても仕方がないのかもけれども。

 澤の日本代表の経歴を振り返ると、3つの時代に分けられる。
 まず、1990年代。澤が10代後半から20代前半で、木岡、野田、高倉、大部、大竹姉妹ら、澤より年長の選手が活躍していた時代だ。当時は、中国や北朝鮮に勝てることはほとんどなく、世界大会に出ても欧州勢に歯が立たなかった。一方で当時のLリーグは、Jリーグバブルの影響もあり、海外のトッププレイヤが続々と参加していた奇妙な時代でもあった。
 2000年代前半。澤は20代後半。酒井(加藤)、三井(宮本)、川上、小林、荒川ら、澤と同世代の選手が中軸の時代。澤より年長選手としては磯ア(池田)が活躍した。この時代になり、ようやく北朝鮮や中国と互角の戦いができるようになり、世界大会でも他地域の代表国に勝てるようになってきた(たとえばこの試合)。単に強くなっただけではなく、小柄な選手達が素早いパスワークで丁寧に攻め込み、組織守備で粘り強く守る、いわゆる「なでしこのスタイル」を、世界で発揮できるようになってきた。アテネ五輪でのスウェーデン戦の完勝は忘れ難いものがある。
 そして2000年代後半以降、澤より若い世代が台頭。宮間、大野、岩清水、川澄、阪口、熊谷、永里(大儀見)らが、澤を軸に戦うおなじみの時代である。分水嶺は2006年の東アジア選手権で、中国に完勝した試合だった。以降、日本はアジアで紛れもない最強国となった。そして2008年北京五輪では、再度地元中国に完勝し、ベスト4を獲得。さらに2011年の歓喜獲得(そしてこの妙技)につながっていく。さらに素晴らしいのは、「世界一」獲得後の、世界大会でも強国の地位を継続したことだ。トップになることそのものはとても難しいことだ。しかし、その地位を維持することは、もっと難しいことなのは言うまでもない。そして、澤とその仲間達は、それを実現し、今日に至っているのだ。

 繰り返すが、なでしこジャパンが、アジアで「トップレベル」と言ってより地位を確保したのは、2004年から2006年あたり。それから、たったの数年で澤とその仲間達は世界一を獲得し、さらにその地位を4年間維持し続けているのだ。これを快挙と言わずして、何と言おうか。そして、この快挙の輝きはあまりにもまぶし過ぎる。
 もちろん、この約10年間で、日本の女子サッカーのレベルは格段に向上した。10年前、北朝鮮や中国に苦戦していた時代、左足でしっかりボールを蹴ることのできる代表選手は少なかった。しかし、今のなでしこリーグの強豪チームならば、いずれの選手もボールを受ける際に、しっかりと敵陣を向いて左右両足でボールをさばくことができる。若年層の代表チームを見ても、技巧や体幹に優れた選手が多数輩出されているのも確かだ。さらに多くの関係者の地道な努力もあり、長年の懸念となっていた中学世代のサッカー環境も、少しずつ改善されている。
 けれども、だからと言って、なでしこジャパンが、現状の世界トップの地位を維持できるかどうかは、わからない。むしろ、一連の女子ワールドカップや五輪の盛況により、多くの国が強化を推進していることを考えると、容易ではなかろう。例えば、アジアのライバルを考えても、豪州、北朝鮮、中国は、常に体格のよい選手を並べてくる。韓国は、世界屈指のスタアになり得る池笑然を持つ。つまり、アジア予選でさえ、相当厳しい戦いになる。そして、欧州勢。先日のオランダへの苦杯は記憶に新しいが、たとえばイングランドが今年の痛恨を忘れるとは思えない。もはや、難敵は合衆国、ドイツ、フランスだけではない。
 しかも、サッカーと言う競技は極めて不条理。戦闘能力が高く、駆け引きに長けていても、勝てるとは限らない。男のアルゼンチン代表は、ワールドカップの度に、世界屈指のチームを送り込んでくるが、昨年決勝に進出したのは、実に24年振りだったのだ。

 そして、もう澤はいない。
 宮間たちが、いかに努力しても、思うような成績が挙げられない時代が来るかもしれない(常に最高の努力を見せてくれる、宮間達に甚だ失礼なことを語っているのはわかっているのだけれども)。冒頭に述べたが、もしそうなってしまったときに、一般マスコミがどのような態度に出てくることか。
 だから。サッカー狂を自負する我々は、冷静にありたい。彼女たちがすばらしいプレイを見せてくれれば感嘆し、よくないプレイを見せたときには批判をする。そして、目先の結果に一喜一憂せずに、重要な大会の結果を大事に見守る。そして、努力する選手達に尊敬を忘れない。
 そのような対応こそが、澤穂希と言う希代のスーパースタアに対する、最大限の感謝につながるのではなかろうか。
posted by 武藤文雄 at 21:58| Comment(4) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月29日

明日なき死闘を満喫するも

 チャンピオンシップ準決勝、ガンバが延長終了間際にレッズを振り切った。
 両軍とも疲労困憊した延長終盤、これまで見事な強さと気迫でレッズの猛攻をはね返し続けていたガンバ丹羽が信じ難いバックパスミス。ここまで奇跡的なセーブで再三チームを救っていた東口が「間に合わない」と判断し、自暴自棄なオーバヘッドキックを試みるも空振り。「この見事な試合が、こんな終わり方をするのか」と誰もが思った瞬間、ボールはポストを叩いた(東口が触ってポストに当たったという説もあるが)。直後、東口は素早く前線にフィード。その逆襲速攻から藤春の得点が生まれた。
 40年以上サッカーを見ているけれど、こう言った展開は記憶にない。決定機が双方に相次いで訪れて、劇的に勝負が決まるのは幾度か体験しているけれども、あれほど間抜けな自殺点もどきが起点になるとは。まあ邪推すれば、レッズイレブンがこの「棚からぼた餅」による決定機にぬか喜びしてしまい、わずかに切り替えが遅れたとも言えるかもしれない。
 けれども、このような試合で、このような講釈を垂れることは野暮と言うものだろう。
 あの丹羽のあり得ないミスも相当だったが、一方でガンバの先制点もレッズの那須の軽率なミスパスからだった。これ以外にも、両軍のゴールのポストやバーの活躍が幾度もあり、さらに東口と西川は再三のファインプレイを見せてくれた。また、ガンバ阿部のシュートを防いだ宇賀神の対応は鮮やかだったし。さらに、そのガンバ阿部はレッドカードを出されてもおかしくなかった。また、レッズはズラタン、関根が、ガンバは藤春が、ペナルティエリアで倒されたが、主審の松尾氏は笛を吹かなかった。
 まあ、サッカーと言うことなのだろう。見事な試合を堪能させてくれた両チーム関係者に感謝したい。

 と言うことで、改めてチャンピオンシップと言う制度について、講釈を垂れたい。
 以前から述べているように、私はチャンピオンシップ導入には反対だ。年間の真のチャンピオンは、総当たりのリーグ戦で一番勝ち点を獲得したクラブに与えられるべきだと考えているからだ。このレッズ対ガンバがそうだったように、これほど偶然に左右されるサッカーと言う競技においては、総当たりで得られた勝ち点数で決められる順位が最も価値のあるものだ。ガンバがこれから行われるH&Aのチャンピオンシップ決勝でサンフレッチェを破ったとしたら、2015年シーズンは、1シーズンかけて積み上げた勝ち点で11低かったチームが年間王者を誇ることになる。さすがに、これには抵抗がある。
 しかし、短期的な観客動員やキャッシュインの増加を目指すなり、中長期的な世間のJリーグ注目を高めるために、このような方式導入を行うことを否定する気はない。たとえば、北米のプロスポーツが、様々に工夫したプレイオフで大きな人気を獲得していることを参考にするのは、客商売と言う視点でも重要なことだろう。そして、我々はレッズとガンバのおかげで、実際にすばらしい試合を観ることができたのは確かだ。
 そして、このような試合が演じられたのは、「明日なき戦い」と言う舞台だったからなのは間違いない。毎週行われるリーグ戦とは、まったく異なった魅力が、このような試合にはある。
 けれども、この柏木たちの前に東口らが立ち塞がったような凄絶な120分間の死闘は、チャンピオンシップでなければ見られないのだろうか。言うまでもなく、そうではない。別な機会はあるのだ。このような死闘は、カップ戦と言う環境があれば、見ることは可能なのだ。実際、過去も条件に恵まれれば、天皇杯でもナビスコカップでも、私たちはこのような死闘を堪能してきたのだ。
 リーグ戦の試合を毎週じっくり堪能するのと、カップ戦の「明日なき死闘」を堪能するのは、それぞれ異なる愉しさがある。そして、後者の刺激は、あまりに素敵であるが故に、再現なく増やしていくことは自重されなければならないのではないか。残念なことに、チャンピオンシップの導入により、そのバランスは崩れようとしている。
 今シーズンについては、チャンピオンシップ終了後、クラブワールドカップをはさみ、天皇杯が残っている。シーズン終盤、後から後から、特定チームのみが登場する「明日なき死闘」を期待するレギュレーションは、健全なものとは思えない。もし、Jリーグ当局が、チャンピオンシップを継続したいと思うのならば、ナビスコカップや天皇杯を含め、その他の大会の全面的な交通整理をすべきであろう。過去幾度も述べてきたが、18チームによる1部リーグと、ACLの上位進出と、複雑で2週にわたるチャンピオンシップと、クラブワールドカップの自国開催と、元日の天皇杯決勝と、すべてを総取りしながら、真っ当な日程を構成することは不可能なことは認識すべきだ。繰り返すが、シーズン終盤に、後から後から「明日なき死闘」を期待した大会を複数組むことで、1つ1つの試合の価値を下げてしまっては本末転倒なのだ。
 遠藤爺のように、それらすべてを愉しもうとする偉人がいることに、感謝しつつも。
posted by 武藤文雄 at 23:05| Comment(1) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月15日

呪縛から脱却したハリルホジッチ氏


 日本代表は、シンガポールに敵地で3対0で快勝。結果も内容も、そこそこ、まあまあだった。ともあれ、この試合は何よりハリルホジッチ氏が、埼玉シンガポール戦の呪縛から脱した試合として、今後の大きな分岐点となるのではないか。

 先般のシリア戦、結果的には3対0と快勝し、2次予選のトップ突破を事実上確定することができた。
 けれども、特に前半は、何とも重苦しい試合だった。中盤を制しながらも、崩し切れない展開。蒸し暑い気候の中、明らかに体調の悪い選手達。フィジカルに優れるシリアDF陣を振り切れない前線のタレント。そして、後方の選手の信じ難いミスにより、シリアに許す決定機。それでも、後半立ち上がりに岡崎が倒されてPKを奪った以降は、無事に戦闘能力差を発揮し、結果的には大差で勝利できた。
 ハリルホジッチ氏は、埼玉シンガポール戦の自からの油断と無策と知識不足による引き分けと、シリアがシンガポールに勝ったことで、勝ち点勘定的に2次予選突破に暗雲が漂うような錯覚にとらわれたのだろう。ために、先般のシリア戦は「安全」を考慮し、体調の必ずしもよくない岡崎、本田、香川を起用した。上記のように前半の試合内容は、何とも重苦しいものだったが、体調が悪いなりに勝負強さを発揮した岡崎のPK奪取を起点に快勝することができた。

 これで事実上、次のラウンド進出を決めたことで、氏はすっかり落ち着いたようだ。この敵地シンガポール戦では、体調のよい金崎、武藤、清武、柏木を起用した。さらに言えば、シンガポールが引いてくることが自明だったので、柏木がほとんどフリーでプレイできることも、埼玉の失敗を含めたスカウティングの成果だったのだろう。かくして、序盤から日本は次々と変化あふれる攻撃で好機を作り、前半半ばに2点を奪い勝負を決めてしまった。
 あのシリア戦の前半疲労が顕著な選手を無理に引っ張り苦闘した試合とは好対照。まずは、ハリルホジッチ氏が、自ら招いた呪縛から脱したことを、素直に喜ぼう。
 
 もちろん、細かな突っ込みどころは無数にある。
 長友と本田は明らかに重かったが、そこまでメンバを替えるのは冒険が過ぎると言うもの。それでも、長友は、カンボジア戦などで見受けられた、無意味で強引な前進がなくなり、落ち着いて左サイドの守備を固めてくれた。本田は、せっかく酒井宏樹が攻め上がっても使わない悪癖が見られたのはご愛嬌だが、しっかり得点にからんだのはさすが。後半、明らかに動けなくなり攻撃をギクシャクしたものにしてしまったが、これは素早い交代を行わなかったハリルホジッチ氏の責任だろう。
 ハリルホジッチ氏の交代策は、本田を引っ張った以外にも疑問は多かった。交代策はいずれも前線の選手、宇佐美、香川、原口だったが、後半攻撃が停滞した要因は、中盤での変化が不足したためだったのだから、あまり有効ではなかった。むしろ、山口蛍なり遠藤航を中盤に起用し活動量を増やして、上下の変化をつけるべきだったのではないか。

 ただロシアに向けて、攻撃はそれほど不安はない。年齢的に岡崎と本田が2人揃ってロシアを迎えることが可能かは微妙だが、後を継げる有為なタレントが多数いるからだ。最近の選考に、大迫も柿谷が漏れる事そのものが選手層の厚さを示している。一方で、後方は不安だ。最近登場したタレントは、遠藤航くらい(「遠藤が出て来ているのだから、文句を言うな」と言う向きがいるかもしれないが)。
 実際、このシンガポール戦でも、再三守備ラインがほころびかけた。吉田麻也は得点を決めたし、相変わらず後方からの攻撃の起点としては有効に機能した。しかし、突然見せるミスは相変わらず。前半、飛び出した西川と交錯した場面、不用意に敵にCKを与えたあたりは残念だった。森重は、ほぼ満足行くプレイを見せてくれたが、1回だけ敵セットプレイでマーク相手を見失った。
 最大の失望は酒井宏樹。若い頃は、右サイドからの強く踏み込んだクロスが最大の魅力だったのだが、この日はフリーで再三抜け出しながら、有効なクロスがほとんどなかった。丁寧な守備振りはよかったが、肝心なところで敵に出し抜かれてフリーでヘディングを許した。
 サッカーにミスは付き物だ。けれども、日本代表がロシアで好成績を収めようとするならば、丹念に小さなミスも見逃さない積み上げをしていく必要がある。残念ながら、現状は厳しい。新たなタレントの発掘と言う意味でも、既存の選手の安定感と言う意味でも。

 ともあれ。
 南アフリカの重苦しい惨敗後、我々はようやくロシアに向けて踏み出すことができた。アギーレ氏の弱気過ぎる采配が招いたアジアカップの早期敗退(せっかく短期間でよいチームを作ったのに)。そして、アギーレ氏との別れ。ハリルホジッチ氏の埼玉シンガポール戦の失態。そんなこんなを愉しんでわけだが、この敵地シンガポール戦で、私はロシアへの道筋をようやく見出すことができたように思う。
 まずは、道筋が明確に見えてきたことを素直に喜びたい。
posted by 武藤文雄 at 00:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月23日

サッカー狂が堪能した史上最高の番狂わせ

 「史上最高の番狂わせ」
 この「史上最高」は、必ずしも「ラグビーワールドカップ史上」にとどまらず、「世界スポーツ史上」なのではないかと思えてならないのだが、それは結びに。

 日本ラグビーの関係者すべてに「おめでとうございます」、考え得る最大級の祝意を伝えたい。そして、日本人の野次馬として、その歓喜をお相伴させていただけた事に感謝したい、「ありがとうございました。」 さらには、サッカー狂としては正直羨望している。うん、うらやましい。
 
 幾度か拙ブログに書いてきたが、私の大学生の坊主は現役ラガー。5年半前に高校に進学した際に、それまで9年間続けてきたサッカーからラグビーに転向した。以降、ラガー坊主の試合観戦は、サッカーに浸るのとは別の愉しみとなっている。加えて、坊主の解説を聞きながら、トップレベルのラグビーをテレビ桟敷で堪能させていただいてる。
 もっとも、私のラグビーに対する造詣は限られたもの。学生時代、テレビ桟敷で新日鉄釜石の洞口、千田、松尾、谷藤と言った名手の創造性豊かなプレイに感心。87年の第1回W杯で、フランスのシャンパンラグビーを率いたFBのブランコに感嘆(奔放さがプラティニを軸とする80年代のサッカーフランス代表を思い起こさせた)、この大会のフィジーのパスワークも凄かったな。95年の決勝の南アフリカとNZのドロップゴール以外全く点が入りそうもない試合に、「ああ、ラグビーもサッカー同様、点が入らないからおもしろいのだ」と強引な解釈。以降は、毎冬の日本のトップレベルの試合や、4年おきのワールドカップを、テレビ桟敷で適宜愉しむ程度だった。
 そして、上記の通り、坊主と言う師匠を得て、観戦頻度が高まってきたのが、ここ数年。2011年の決勝の1点差の緊迫感を、坊主の解説で堪能したのは記憶に新しい。

 そのようなサッカー狂から、この「史上最高の番狂わせ」を語ってみたい。ピントがずれいている事も多いかもしれない。それで、不愉快に思うラグビーファンの方々がいたら、ごめんなさい。

 まず守備がすばらしかった。南アフリカは、体格のよい選手が多く、それを前面に出して戦ってきた。それに対して、ジャパンは低いタックルで対抗、敵のスピードが鈍ったところで2人目がつぶしに行く。愚直にこれを繰り返し、ゴールライン前で南アフリカの攻撃をつぶし続けた。
 許したトライは、ラインアウトからのモールから2本、大型FWを第一波で止め切れなかったのが2本。いずれも、体重差を活かされ「ちょっとどうしようもない」と言う印象。
 単純なモールでの争いに持ち込まれると、体重差が如実に出てしまうのは言うまでもない。そして、後者2発は、100kgをはるかに超える超大柄な選手が機敏なフットワークを見せ、止められなかったもの。そして、「どうして、あの巨体があれだけ機敏に横にも動けるのだ!」と感嘆させられた。
 言わば、この4トライは、南アフリカとジャパンの、現時点の(あくまでも現時点の)資源力の差なのだろう。 しかし、リーチマイケルと仲間たちは、その資源力の差にじっと耐え、4トライに押さえたのだ。

 ジャパンのミスの少なさも信じ難い。素人の私が把握できた大きなミスは以下の3つに止まった。なお、ここで言う「大きなミス」とは、その選手の能力を考慮すれば当然できるべきプレイをやり損ねた、あるいは明らかな判断の誤りがあった、ケースを指している。
 1つ目は、前者のやり損ね。大黒柱の五郎丸が2本目のペナルティを外した事。これは、ちょっと衝撃だった。普段の五郎丸ならば、楽々決める位置だったからだ。やはり、想像を絶するプレッシャがかかっていたのだろう。しかし、五郎丸はプロフェッショナル中のプロフェッショナルだった。3本目以降、次々と難しい位置からのキックを淡々と決め続けた。勝利が確定した後のキックを外す人間くささを含め、完璧な出来だった。
 2つ目と3つ目は、後者の明らかな判断ミス。まず、前半の逆転トライ直後に、主将のリーチマイケルが味方ノックオンのボールを思わずさばいてしまい、オフサイドを取られてしまった事。そして、3つ目は、70分過ぎに、交代出場以降に格段の突破を再三見せていたアマナキが、ラックで明らかに自分より前のボールをさばきオフサイドを演じてしまった事。
 しかしだ。ラグビーはこのようなミスが連発するゲームなのだ。たとえ、弱小国を相手にした強国だろうが、大学生を相手にしているトップリーグの代表選手だろうが、素人から見ても、再三信じ難いミスをする。特にアマナキが演じたようなオフサイドは、結構日常茶飯事だ。これは、ラグビーが激しい肉体接触を伴う、格闘性の高い競技の故だと思っている。ラックやタックルにおける、純粋に身体のぶつけ合いの連続は、時にどんな大選手からも「冷静な判断」の機会を奪ってしまうのだ。少なくとも、このようなタフな試合で、素人の私が認識できる明らかな判断ミスが、たったの2件だったのは、すべてのジャパン選手が冷静に戦っていたのかの証左と言うべきだろう。
 一方、南アフリカは自陣で再三、明らかな判断ミスから、ジャパンに再三ペナルティキックの機会を提供してくれた。特に多かったのが、ノット・ロール・アウェイ、ジャパンがラックでボールをキープして、そのボールを受けようとして接近する選手とボールの間に寝そべり続ける反則だ。おかげで、五郎丸が次々とペナルティキックで加点できた。

 そして、ジャパンのトライ。
 まず前半のトライ。敵ペナルティを利して、敵陣深くでのラインアウト。そこからモールに持ち込んでのトライ。このモールには、立川から松島からバックの選手が次々に加わり、体重差を人数差で凌駕する事に成功した。見事な作戦勝ちと言えるだろう。日本の高校ラグビーでは、「スクラムは1.5mしか押していけない」と言うルールがあるため、モールを強化する傾向があると言うが、それがこの大舞台で見られたのだから愉快だった。
 2本目のトライ。正にパスワークの妙味。松島のパスを受けた五郎丸の外に、もう1人選手がいた事でわかる通り、完全に南アフリカを崩し切った美しいトライだった。ここの仕掛けは前半から、再三鋭い前進を見せいてた立川が、この場面は「縦に出るぞ」とのフェイントから、パスを回した事による。正に、ここまでの68分間の伏線が活きたトライだったのだ。いや、本当に見事なトライでした。

 29対32のまま、時計は回り、ノーサイドが近づいてきた。ジャパンは、冷静にボールをつなぎ、南アフリカゴールライン近傍まで攻め込む。そして、79分、モールでの逆転トライ狙いに対し、南アフリカは明らかに自らモールを崩す。素人目には、認定トライが妥当に思えたが、主審はそう判断しなかった。これは主審にも同情する。「史上最高の番狂わせ」を、自らの判断による認定系の得点とするのは、耐えられなかったのだろう。
 それでもジャパンは、丁寧にボールを保持し、回して、とうとう崩し切った。この最後の時間帯、おそらく5分を超える間、15人すべてがミスをせずに、格段の意思疎通で戦い切ったのが、また素晴らしかった。
 試合終了後、勝因を聞かれたリーチマイケルが、迷わず一言「フィットネス」と答えていたが、この日に合わせて鍛えぬき、体調を揃えていたジャパンは、最終盤に体力でも判断力でも技術でも、南アフリカを圧倒していたのだ。そして、選手達もそれを自覚していたのだろう。80分経過後にジャパンに提供されたペナルティで、キックによる同点ではなく、ボールをつないでの逆転狙いを選択した事が、「あくまで勝ちを目指した勇気」として称える向きが多いようだ。しかし、リーチの選択の最大の理由は、(シンビンによる敵の人数不足を含め)ボールを回して逆転トライできる可能性が、異様なプレッシャ下で角度のない所から難しいキックを狙う仕事を五郎丸1人に託すより確率が高い、と言う事だったのではなかろうか。

 そもそも、「ラグビーと言う競技は、番狂わせが起こりづらい」のが常識と言われている。その最大の理由は、戦闘能力の劣るチームが守備を固めて失点を最小限に押さえる事そのものが厄介だからだ。それは、ラグビーがサッカーと異なり、フィールドの幅全体を守らなければならない事、特にフィジカル差が顕著な場合にラインを上げて守る策が採れない事、パスを回して時間を稼ぎ疲労しない手段が採れない事(ラグビーにおける「キープ」は、パス回しではなく、最も身体を張らなければならないラックなのだ)などによる。だから、現実的に、サッカーのように、「守備を固め失点を最小に押さえ、少ない好機を活かす」と言うやり方が使えないのだ。
 実際、この日のジャパンは、上記したように水際立った守備を見せ、沈着冷静にファウルを最小にした。それでも、32点奪われた。そのくらい、ラグビーの守備と言うものは厄介なのだ。それでもジャパンは勝った。粘って、粘って、粘って、失点を32点に止め、しっかりと計画した攻撃で、その失点を超えた得点を奪ったからだ。素晴らしい。

 と、ここまで書いてきて思った。そもそも、この日のジャパンの80分間の試合内容を見ても、体格差で押し込まれる場面は多々あったが、局面局面では負けていなかった。そのくらい、戦闘能力面でも際立った内容を見せてくれていたのだ。
 つまり、エディー・ジョーンズ氏と言う格段の指導者が、リーチマイケルとその仲間達を的確に指導し、選手達も能動的に自らを鍛え抜いた。その結果、過去の実績からは「弱者」としか言いようのないジャパンは、南アフリカに対し互角近くに戦える戦闘能力を具備できたのだ。もはやジャパンは「強者」である。

 リーチマイケル達の冒険は始まったばかりだ。スコットランド、サモア、USA、彼らに対し2勝以上を挙げ、ベスト8に進むのは、不可能ではないが、決して容易ではないミッションだ。きっと、彼らはやり遂げてくれると確信しているが。しかし、目標のベスト8を実現できる、できないは別にして、既に彼らは歴史を作ったのだ。
 それは「史上最大の番狂わせ」に止ままらない。
 エディーさんとリーチ達は、この南アフリカ戦で、「過去の実績は『弱者』でも、鍛錬と創意工夫で『強者』に勝てる」と言う事を、具体的に示した。つまり、ラグビー界の「番狂わせが起こりづらい」と言う常識そのものを、否定する事に成功した。彼らは、そのような意味でも、歴史を作ったと言えるのではないか。
posted by 武藤文雄 at 02:21| Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする