2016年01月02日

ペトロビッチ氏の自滅

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今年は、何とか更新頻度を上げていきたいと思っているのですが。
 さて、今年の初講釈は、2015-16年天皇杯決勝戦。レッズ対ガンバ、国内屈指の強豪対決を、実家のテレビ桟敷で堪能させていただきました。

 ガンバは準決勝で負傷した柏木を使えない。柏木の代わりには青木を起用、阿部を一枚前に使う。そして、準決勝で劇的な決勝点を決めた李忠成が先発、2シャドーに興梠と武藤を並べ、右アウトサイドには関根ではなく梅埼を起用した。この布陣変更が、前半の綾となる。
 立ち上がり、ガンバがつかんだ2回の決定機は宇佐美が起点となった。これは、宇佐美を止めるのが、森脇なのか梅崎なのかがはっきりしなかったため。さらに、ガンバの先制点は、レッズの攻撃が、柏木不在により単調になり、前掛かりとなったところで、中盤でボールを奪われた直後の速攻からだった。まあ、これは、ボールを奪った直後に躊躇せずに縦パスを通したのは倉田と、格段の脚力で突破したパトリックを褒めるべきにも思う。レッズのような攻撃的サッカーを志向するチームは、常にこのような失点のリスクを負わなければならないものだ。
 一方で、レッズの布陣が奏功したことも多かった。まず阿部を一枚上げたことにより、直接遠藤との対峙が可能になり、自在な展開を許さなかったこと。加えて、森脇と梅崎の分業が確立した後は、梅崎の前進により、宇佐美を後方に押し下げることにも成功。レッズの同点弾は、梅崎の狡猾な突破に対して宇佐美の対応が軽かったことが起点となった。直後の梅崎の絶妙なクロスに李が飛び込み、ポストに当たったこぼれを興梠が鮮やかに詰めた。ペトロビッチ氏苦心の布陣が、見事に当たったわけだ。それ以降、レッズが押し込む時間帯が続いた。

 後半に入ってもレッズペースが続く。
 ところが、ガンバの速攻から後半初めて許したコーナキックから、ガンバに突き放されてしまう。この場面は、完全な槙野の失態。ガンバ今野に妨害され、マンマークしていたパトリックに完全に振り切られてしまった。マンマークの駆け引きで、攻撃側の選手が他の選手を利用してマークを振り切ろうとするのは、いわゆる基本技。これだけのビッグゲームで、このような初歩的な駆け引きで得点が生まれてしまうとは。
 槙野と言う選手は、センタバックとしての能力は日本屈指のものがあると思っている。この日の前半も、パトリックや倉田の飛び出しに対し、落ち着いた粘り強い対応でしっかり止めていた。けれども、どうして肝心な場面で、「抜けて」しまうのだろうか。
 
 リードしたガンバは、宇佐美とパトリックをトップに残した4-4-2に切り替え、守備を固める。
 ここでペトロビッチ氏は不可解な采配を行う。武藤と梅崎に代え、ズラタンと関根を起用したのだ。これは攻撃の圧力を高める効果はあったが、変化は少なくしてしまう。実際、前半梅崎が中央に絞って作ったスペースに森脇が進出、逆サイドの宇賀神を狙う攻撃は効果的だった。李と武藤が中央にいれば、高いクロスと、低く速いクロスと、複数の選択肢があり得るが、ズラタンと李ならば、高いボールしか選べなくなる。さらに宇賀神に代えて高木を起用。レッズの攻撃の最大の強みの1つは、宇賀神が外に引き出しておいて、槙野が進出してくるやり方になるが、若い高木にはこのような仕掛けは難しい。何より、常に敵が困るいやらしい選択を考える宇賀神がピッチからいなくなってしまった。
 結果的に、レッズの攻撃は若い関根と高木が、両翼から個人技の限りを尽くして突破を狙い、それにレッズの強力な3トップが飛び込むだけの単調な展開となった。いや、後半半ば過ぎからは、槙野も最前線に進出。言わば2-2-6のフォーメーションで、強引に押し込む展開となった。
 ガンバの中央は強い。東口と丹羽と金正也が、関根と高木のクロスをはね返し続け、試合はそのまま終了した。確かに、あれだけクロスを上げ続ければ、結果的に好機を作ることはできる。けれども、レッズ本来の魅力である、変化あるパスワークによる崩しはほとんど見られなかった。
 むしろ、トップに残った遠藤の妙技と、「明神2号」を思わせる井手口の刈り取りが目立ち、決定機はガンバの方が多い展開が続き、試合終了。ガンバの歓喜とあいなった。

 どうして、ペトロビッチ氏は、後半序盤にリードされただけで、自ら大事に育て上げた、鮮やかなパスワークによる攻撃を放棄してしまったのだろうか。
 好調時のレッズの攻撃の変化は鮮やかだ、たとえ柏木が不在だとしても。興梠がちょっとしたキープで作ったスペースに、武藤や梅崎が絡む。森脇のサイドチェンジからの宇賀神の個人技。宇賀神と槙野の連係による崩し。そして美しい阿部の展開。
 このような変化あふれるパスワークがあるからこそ、関根や高木の個人技が効果を発揮する。ズラタンや李のシュート力も活きる。 
 これらの輝きは、すべてペトロビッチ氏が作り上げたものだ。それなのに、ペトロビッチ氏は、大事な試合で、大事な勝負になる度に、その輝きを自ら放棄してしまう。
 上記した槙野の失態も深刻な問題に思える。ペトロビッチ氏は、槙野がサンフレッチェでトップデビューした折からの師匠。槙野も28歳になった。それでも、この甘さはなくならない。槙野自身の問題もあるが、それを許すペトロビッチ氏の問題も大きいのではないか。
 まあ、いいんです。私はレッズサポータではないですから。

 ともあれ。新年早々、内容も豊富で、色々思索可能な試合を堪能させていただきました。
 ここは1つ、近々行われる五輪予選で、井手口が輝き、我々に歓喜を提供してくれることを。
posted by 武藤文雄 at 00:31| Comment(5) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月31日

2015年10大ニュース

 おかげさまで、本業が超多忙なこともあり、今年は非常に寂しい頻度でしかブログを書くことができませんでした。何とか、少しでも更新頻度を戻していきたいと思っています。

 さて、恒例の10大ニューズです。ご承知のように、毎年の10大ニューズは、日本のサッカー界を対象にしてきました。ところが、今年は海外サッカー界において、FIFAの汚職事件、サンドニのフランス対ドイツ戦でのテロ事件と言う何とも言い難い事件がありました。
 前者は、ある意味「犬が人を噛んだ」感もあります。そもそも2022年のワールドカップ開催国があのように決まった以上、FIFAが真っ当な組織とは言えなくなっていたのは自明でした。本件については、日本サッカー界と無縁かと言うと微妙なものがあり、報道を待ちたいと思います。国際的なスポーツ団体は、色々な意味でガバナンスが利きづらく、大きな改善の余地があることは間違いありません。サッカーに限らず、トップレベルの競技を多くの人々が愉しめるための競技団体はどうあるべきか、難しい問題だと思います。
 後者は、サッカーあるいはスポーツの範疇を超えた悲しい事件でした。本業で世界中に出張をする自分にとっても他人事とは言えません。ただ、書生論かもしれませんが、それぞれの国や地域がよい意味で経済的に絡み合い、少しでも多くの人が豊かになり、サッカーのような至高の玩具を愉しむ環境ができれば、悲しい事件は減らせるのではないかと思っています。そのために、微力な自分ができることは何なのか。考え続けたいと思っています。

 ともあれ、1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。よいお年をお迎えください。

1.女子代表ワールドカップ準優勝
 先日の澤のエントリで述べたが、2つのワールドカップおよびロンドン五倫と、世界大会で3回連続で決勝進出したことそのものが、前大会での優勝よりもすばらしい。トップになること以上に、トップを維持することは難しいのだから。
 そして、もう澤はいない。

2.アジアカップ準々決勝敗退
 あの準々決勝敗退は、経験としては中々だった。一発勝負の重要な公式戦、あれだけ攻勢をとり、幾度も崩しかけて、PK戦での敗退。あのような経験を積むことができたのも、また経験と言うものだろう。ワールドカップの度に、アルゼンチンのサポータ達は、あのような快感を味わっているわけだ。
 まあ、アギーレ氏が、ちゃんと守備的MFのバックアッパーを選考し、1次ラウンドで岡崎と遠藤を酷使しなければ、ちゃんと優勝できたとは思うけれど。よい監督だったが、詰めを過ったと言うことか。
 その後、アギーレ氏が退任。ハリルホジッチ氏が就任。当初は、対戦相手との相対的戦闘能力差を見誤り、勝ち点を落としたが、ここにきて、すっかり落ち着いてきた。2018年まで先は長い、じっくりとよいチーム作りを期待したい。

3.サンフレッチェJ制覇、クラブワールドカップ3位
 一言で語れば、今年のサンフレッチェは強かった。強力な3DFを軸にした4人のMFの組織守備。崩せぬ敵が無理をした瞬間に、青山の壮大な展開からの両翼攻撃。終盤に冴え渡る浅野ミサイルの前進。
 50年前の精強を誇った東洋工業と合わせ、日本史上最高のクラブの地位を掴みなおした感もある。
 森保氏が、丹念に作り込んだチームが、リーベルと互角の戦いを見せてくれた。もっとも、あそこまでリーベルを追い詰めながら勝ち切れず、リードされた終盤ペースをつかめなかったことそのものは、「現状の明確な距離」として認識できたのだが。
 
4.悲しい日程問題
 チャンピオンズシップをやった方が儲かるならば、やればよい。
 けれども、お願いだから、1年は52週しかないこと、選手達は消耗品ではない大事な資産であることを、理解して欲しい。
 10月末に最後のホームゲームを行い、1ヶ月のブランクの後に8クラブだけが1週間で天皇杯を争う日程を、恥と考えない日本協会およびJリーグ首脳が情けない。

5.トリニータJ3降格
 トリニータがJ3に陥落したことは、現状のJリーグがいかに怖ろしいリーグ戦になったことを示している。かつてナビスコカップを制覇したこのクラブがJ3に落ちたことも歴史を感じる。しかし、このクラブは、かつての負債を片付け、一度J1に復活したのだ。それから、たった3年後のこの悲劇。
 J2では十分上位をうかがえるだけの経済規模、J1での経験を持つ選手達、それでもほんの僅かなボタンのかけ違いが、今シーズンの悲劇を生んだ。とうとう我々は、50近いクラブがトップを目指し、切磋琢磨する過酷なリーグ戦を手にしたのだ。
 皆にとって。一つ間違えば、明日は我が身なのだ。

6.スタア日本人監督の台頭
 チャンピオンズシップと、先日の天皇杯準決勝、森保一対長谷川健太の、虚々実々の駆け引き。
 J2の死闘を勝ち抜いた名波浩の矜持。
 そして、日本代表史上最大の巨人、井原正巳の執念。
 Jリーグ時代以降の名手が、トップレベルの監督として、次々に実績を挙げたシーズンだった。一流選手には、彼らしか味わえなかった強烈な経験がある。何か、ここ最近の日本サッカー界は妙にストイックな雰囲気があり、格段のプレイヤが、監督としての場が与えられない傾向があった。しかし、もう大丈夫だ、かつて我々をプレイで率いてくれてきた名手たちが次々と、監督として活躍してくれるに違いない。

7.チャンピオンシップの丹羽と東口の連係
 あの丹羽のバカバックパスからの展開。東口のカンフーキックカンフーキック。そして、それ以降の高速展開。あのようなビッグゲームで、あのようなことが起こる。サッカーなのだ。

8.大久保3年連続得点王
 大久保の業績を称える、年末番組。必ず、最終節のベガルタ戦の決勝点が移る。くそぅ。でも、あの決勝点には、かつての釜本を思い出した。
 それにしても、それにしても、この多産系のストライカは、どうして代表でたくさん点をとってくれなかったのか。

9.J3のU22、サテライト問題
 若い選手が育たないことに焦り過ぎではないか。何のことはない、大学リーグがよくも悪くも活性化し、20代前半から半ばで、J1やJ2上位のチームで定位置を確保し得るタレントの選手層が、格段に厚くなったに過ぎない。
 そうなれば、高校出の有為な人材は、中々試合に出られないさ。だったらならば、抜群の素質を持っている彼らを、J2下位なりJ3なりJFLで、より若い頃から鍛えればよいのだ。

10.全日本少年サッカー選手権の冬季開催、少年のリーグ化
 数十年間、盛夏期に行われていた全日本少年サッカー選手権が冬に移動。健康被害を気にしなくてよくなったのみならず、年度の最後近くに大きな大会ができたことなど、結構なことだと思う。また、この予選が、基本的にリーグ戦形式になった変更も重要だ。
 8人制が妥当かとの議論も問題だが、少しずつ改善が進んでいることは、とりあえず評価しておきたい。
posted by 武藤文雄 at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年ベストイレブン

 毎年恒例のいい加減なベストイレブンです。今年はサンフレッチェに敬意を表し、いわゆる3-4-2-1で選びました。いくら何でも岡崎を選ばないのはいかがかとも考えたのですが、その理由は最後まで読んでいただければ。

GK 東口順昭
 あのチャンピオンシップのレッズ戦の、カンフーキックはどうやらボールに触っていた模様で、そこからの素早い展開で決勝点の起点となった以上、今年もこの人を選考しなければなるまい。敵がシュートを放つぎりぎりまで我慢できる度胸、クロスへの判断の質。「守る」と言うことについては、現状では日本最高のGKなのではなかろうか。

DF 遠藤航
 今年、期待通りに成長。身体の入れ方がうまくなり、自分の領域に入ってきた選手を押さえ込むのが格段に上達した。180p足らずと言うこともあり、代表では右サイドバックや中盤に起用されているが、あの安定感を見ると、最終ラインにも使ってみたくなる。果たして、どこがベストのポジションとなるか。まずは主将としての五輪出場権獲得に期待したい。

DF 阿部勇樹
 的確な位置取りと、落ち着いた1対1で、今年も攻撃的なレッズを支えた。チーム全体が前掛かりになった折にボールを奪われた直後、鋭い寄せで敵の逆襲を防いでしまう、その読みの冴え。攻撃が行き詰ったときに見せる、(若いときから変わらない)美しいサイドチェンジ。ACLの肝心な試合に阿部を起用しなかったことそのものが、レッズの敗因となった。

DF 塩谷司
 シーズンを通して、安定した守備を披露。持ち出してくる敵への応対が格段のこのDFは、リーベル相手にも何ら遜色を見せなかった。さらに、千葉が欠場した広州恒大戦では、見事なカバーリングを見せた。シュートのうまさが再三話題となるが、これだけ守備で圧倒的な存在になると、そろそろA代表のセンタバックの定位置を狙ってほしいところだ。

MF 青山敏弘
 敵のタイミングを外す遠藤。敵DFの間隙を狙う憲剛、その2人とは異なり、青山のパスはチームメートの陽動動作で敵DF全体を動かし、空いたスペースを突く。特にグラウンドの左右いっぱいを使うゲームメークは、多くの少年の指導者が「誰に教わった訳でもなく、理想的な中盤選手の姿」として、好んで教えているスタイルそのものだ。そう言う意味では、絵に描いたような日本サッカーの具現者と言えるのではないか。 


MF 森崎和幸
 森崎和幸を選ぶために、今年のベスト11を選考しています。今年のサンフレッチェの好成績は、この名手の知的な位置取りとカバーリングがあってこそのこと。時に最終ラインまで引き千葉と共に後方を固め、時に青山の展開のためのスペースを作る。もし、サッカーの神様がこの選手に、もう少しの体幹の強さを与えていれば、日本サッカーの歴史が変わっていたのではないか。

MF 柏好文
 チームでの位置づけはスーパーサブだが、今の日本人タレントで、「サイドを切り裂く」と言う役目においては、正に第一人者。大きな切り返しと、瞬間加速が武器だが、ボールを受ける前のちょっとした動きがまた絶妙。そして、クロスの選択肢が多いのも魅力的。スパーサブとしてそのまますぐにでも、A代表も目指せるタレントだと思うのだが。

MF 宇賀神友弥
 周囲の選手を活かすためのスペースをいったん作ってから、大外に自分が活躍する場所を進出するのが実にうまい。それにより、敵のサイドプレイヤに押し込まれることを避ける位置取りには、いつも感心させられる。また、カットインしてのシュートへの動きが素早いのも大きな武器。阿部とは別な意味で、レッズ全体のチームのバランスをとるに欠かせない選手だ。

MF 倉田秋
 印象的だったのは、東アジア選手権の日韓戦での落ち着いたボールさばき。長い距離をドリブルで持ち上がった後に、大仕事ができるのがこの選手の魅力。また中盤より前のいずれのポジションもこなせる知性も格段だ。欧州でプレイしている選手を差し置いて代表の定位置を確保してもおかしくない。下部組織からトップに上がり、レンタルを含めた9年の歳月をかけてプレイスタイルを完成させようとするガンバの育成力にも感心。

MF 武藤雄樹
 瞬間的なスピードがあり、ボール扱いも上手。守備もいとわない。ベガルタ加入後4シーズンに渡り、手倉森監督も渡邉監督も、この才能を活かそうと、ありとあらゆる使い方を工夫したが、どうしても継続的に輝かすことができなかった。それが、レッズに移籍した途端に、ワンタッチゴーラとして開花。わからないものだが、誠にめでたいことだけは間違いない(この選手については、この正月休みの間に作文を完成させたいのですが)。

FW 武藤嘉紀
 日本には珍しく、体幹が強く、技術にも優れ、しかもシュートもうまいストライカ。釜本、久保のようにエレガントなスタイルとは異なるし、柳沢、高原と異なりちゃんとシュートが入る(高原は入るときは入ったけれど)。しいて言えば、先日引退した鈴木隆行を技巧的にしたタイプと言うべきか。マインツでも順調に得点を重ねているのは結構なことだが、もう一段上がるためにも、鈴木のように戦ってほしい。


 と言うことで、2人の武藤がA代表で並立することを夢見ているのです。もし、この2人が前線で連携をとれるようになれば。ロシアワールドカップは、私のためのワールドカップになるではありませんか。
posted by 武藤文雄 at 20:18| Comment(3) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月30日

澤去りし後

 澤穂希引退。

 引退を宣言し、最後の大会として選択した皇后杯で、堂々の優勝。それも決勝戦の終盤に、決勝点を決めてしまうのだから恐れ入る。スーパースタアの所以と言えばそれまでだが、引退を決意してもなおその個人能力が他を圧していると言うことだろう。実際問題として、今大会中盤奥深くで敵の攻撃を刈り取る妙技と落ち着いた展開は、今なお格段のものがあった。準決勝、ベガルタはアイナックに敗れたのだが、澤の存在は忌々しさは格段。数日前の横浜国際で堪能したマスケラーノの読みの冴えを思い起こした。
 個人能力は未だ他を圧しているものの、澤が引退を決意したのは、ひとえにモチベーションの問題なのだろう。引退記者会見で、「心と体が一致してトップレベルで戦うことがだんだん難しくなったと感じたから」と語ったと報道された。アスリートとして考え得る最大限の栄光を手にした澤だからこその思いと言うことか。例えば王貞治、山下泰裕、千代の富士と言った方々が、引退時に類似の発言をしていたのを思い出した。
 その状況で、最後と選んだ大会に、見事に合わせ、結果を出すのですからねえ。長い間、本当にありがとうございました。

 で、今日のお題。
 澤去りし後の、日本女子サッカーは、どうなるのだろうか。

 とても不安なのだ。
 不安なのは、澤とその仲間達の実績があまりに素晴らしかったこと、そのものだ。それにより、一般マスコミが世界一、あるいはそれに準ずる成績を当然と考えてしまうのではないか。そして、それに至らない時に非常に低い評価を与えるのみならず、罵詈雑言を飛ばすのではないか。あるいは、まったく無視をしてくるのではないか。それを、どうこう不安視しても仕方がないのかもけれども。

 澤の日本代表の経歴を振り返ると、3つの時代に分けられる。
 まず、1990年代。澤が10代後半から20代前半で、木岡、野田、高倉、大部、大竹姉妹ら、澤より年長の選手が活躍していた時代だ。当時は、中国や北朝鮮に勝てることはほとんどなく、世界大会に出ても欧州勢に歯が立たなかった。一方で当時のLリーグは、Jリーグバブルの影響もあり、海外のトッププレイヤが続々と参加していた奇妙な時代でもあった。
 2000年代前半。澤は20代後半。酒井(加藤)、三井(宮本)、川上、小林、荒川ら、澤と同世代の選手が中軸の時代。澤より年長選手としては磯ア(池田)が活躍した。この時代になり、ようやく北朝鮮や中国と互角の戦いができるようになり、世界大会でも他地域の代表国に勝てるようになってきた(たとえばこの試合)。単に強くなっただけではなく、小柄な選手達が素早いパスワークで丁寧に攻め込み、組織守備で粘り強く守る、いわゆる「なでしこのスタイル」を、世界で発揮できるようになってきた。アテネ五輪でのスウェーデン戦の完勝は忘れ難いものがある。
 そして2000年代後半以降、澤より若い世代が台頭。宮間、大野、岩清水、川澄、阪口、熊谷、永里(大儀見)らが、澤を軸に戦うおなじみの時代である。分水嶺は2006年の東アジア選手権で、中国に完勝した試合だった。以降、日本はアジアで紛れもない最強国となった。そして2008年北京五輪では、再度地元中国に完勝し、ベスト4を獲得。さらに2011年の歓喜獲得(そしてこの妙技)につながっていく。さらに素晴らしいのは、「世界一」獲得後の、世界大会でも強国の地位を継続したことだ。トップになることそのものはとても難しいことだ。しかし、その地位を維持することは、もっと難しいことなのは言うまでもない。そして、澤とその仲間達は、それを実現し、今日に至っているのだ。

 繰り返すが、なでしこジャパンが、アジアで「トップレベル」と言ってより地位を確保したのは、2004年から2006年あたり。それから、たったの数年で澤とその仲間達は世界一を獲得し、さらにその地位を4年間維持し続けているのだ。これを快挙と言わずして、何と言おうか。そして、この快挙の輝きはあまりにもまぶし過ぎる。
 もちろん、この約10年間で、日本の女子サッカーのレベルは格段に向上した。10年前、北朝鮮や中国に苦戦していた時代、左足でしっかりボールを蹴ることのできる代表選手は少なかった。しかし、今のなでしこリーグの強豪チームならば、いずれの選手もボールを受ける際に、しっかりと敵陣を向いて左右両足でボールをさばくことができる。若年層の代表チームを見ても、技巧や体幹に優れた選手が多数輩出されているのも確かだ。さらに多くの関係者の地道な努力もあり、長年の懸念となっていた中学世代のサッカー環境も、少しずつ改善されている。
 けれども、だからと言って、なでしこジャパンが、現状の世界トップの地位を維持できるかどうかは、わからない。むしろ、一連の女子ワールドカップや五輪の盛況により、多くの国が強化を推進していることを考えると、容易ではなかろう。例えば、アジアのライバルを考えても、豪州、北朝鮮、中国は、常に体格のよい選手を並べてくる。韓国は、世界屈指のスタアになり得る池笑然を持つ。つまり、アジア予選でさえ、相当厳しい戦いになる。そして、欧州勢。先日のオランダへの苦杯は記憶に新しいが、たとえばイングランドが今年の痛恨を忘れるとは思えない。もはや、難敵は合衆国、ドイツ、フランスだけではない。
 しかも、サッカーと言う競技は極めて不条理。戦闘能力が高く、駆け引きに長けていても、勝てるとは限らない。男のアルゼンチン代表は、ワールドカップの度に、世界屈指のチームを送り込んでくるが、昨年決勝に進出したのは、実に24年振りだったのだ。

 そして、もう澤はいない。
 宮間たちが、いかに努力しても、思うような成績が挙げられない時代が来るかもしれない(常に最高の努力を見せてくれる、宮間達に甚だ失礼なことを語っているのはわかっているのだけれども)。冒頭に述べたが、もしそうなってしまったときに、一般マスコミがどのような態度に出てくることか。
 だから。サッカー狂を自負する我々は、冷静にありたい。彼女たちがすばらしいプレイを見せてくれれば感嘆し、よくないプレイを見せたときには批判をする。そして、目先の結果に一喜一憂せずに、重要な大会の結果を大事に見守る。そして、努力する選手達に尊敬を忘れない。
 そのような対応こそが、澤穂希と言う希代のスーパースタアに対する、最大限の感謝につながるのではなかろうか。
posted by 武藤文雄 at 21:58| Comment(4) | TrackBack(0) | 女子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月29日

明日なき死闘を満喫するも

 チャンピオンシップ準決勝、ガンバが延長終了間際にレッズを振り切った。
 両軍とも疲労困憊した延長終盤、これまで見事な強さと気迫でレッズの猛攻をはね返し続けていたガンバ丹羽が信じ難いバックパスミス。ここまで奇跡的なセーブで再三チームを救っていた東口が「間に合わない」と判断し、自暴自棄なオーバヘッドキックを試みるも空振り。「この見事な試合が、こんな終わり方をするのか」と誰もが思った瞬間、ボールはポストを叩いた(東口が触ってポストに当たったという説もあるが)。直後、東口は素早く前線にフィード。その逆襲速攻から藤春の得点が生まれた。
 40年以上サッカーを見ているけれど、こう言った展開は記憶にない。決定機が双方に相次いで訪れて、劇的に勝負が決まるのは幾度か体験しているけれども、あれほど間抜けな自殺点もどきが起点になるとは。まあ邪推すれば、レッズイレブンがこの「棚からぼた餅」による決定機にぬか喜びしてしまい、わずかに切り替えが遅れたとも言えるかもしれない。
 けれども、このような試合で、このような講釈を垂れることは野暮と言うものだろう。
 あの丹羽のあり得ないミスも相当だったが、一方でガンバの先制点もレッズの那須の軽率なミスパスからだった。これ以外にも、両軍のゴールのポストやバーの活躍が幾度もあり、さらに東口と西川は再三のファインプレイを見せてくれた。また、ガンバ阿部のシュートを防いだ宇賀神の対応は鮮やかだったし。さらに、そのガンバ阿部はレッドカードを出されてもおかしくなかった。また、レッズはズラタン、関根が、ガンバは藤春が、ペナルティエリアで倒されたが、主審の松尾氏は笛を吹かなかった。
 まあ、サッカーと言うことなのだろう。見事な試合を堪能させてくれた両チーム関係者に感謝したい。

 と言うことで、改めてチャンピオンシップと言う制度について、講釈を垂れたい。
 以前から述べているように、私はチャンピオンシップ導入には反対だ。年間の真のチャンピオンは、総当たりのリーグ戦で一番勝ち点を獲得したクラブに与えられるべきだと考えているからだ。このレッズ対ガンバがそうだったように、これほど偶然に左右されるサッカーと言う競技においては、総当たりで得られた勝ち点数で決められる順位が最も価値のあるものだ。ガンバがこれから行われるH&Aのチャンピオンシップ決勝でサンフレッチェを破ったとしたら、2015年シーズンは、1シーズンかけて積み上げた勝ち点で11低かったチームが年間王者を誇ることになる。さすがに、これには抵抗がある。
 しかし、短期的な観客動員やキャッシュインの増加を目指すなり、中長期的な世間のJリーグ注目を高めるために、このような方式導入を行うことを否定する気はない。たとえば、北米のプロスポーツが、様々に工夫したプレイオフで大きな人気を獲得していることを参考にするのは、客商売と言う視点でも重要なことだろう。そして、我々はレッズとガンバのおかげで、実際にすばらしい試合を観ることができたのは確かだ。
 そして、このような試合が演じられたのは、「明日なき戦い」と言う舞台だったからなのは間違いない。毎週行われるリーグ戦とは、まったく異なった魅力が、このような試合にはある。
 けれども、この柏木たちの前に東口らが立ち塞がったような凄絶な120分間の死闘は、チャンピオンシップでなければ見られないのだろうか。言うまでもなく、そうではない。別な機会はあるのだ。このような死闘は、カップ戦と言う環境があれば、見ることは可能なのだ。実際、過去も条件に恵まれれば、天皇杯でもナビスコカップでも、私たちはこのような死闘を堪能してきたのだ。
 リーグ戦の試合を毎週じっくり堪能するのと、カップ戦の「明日なき死闘」を堪能するのは、それぞれ異なる愉しさがある。そして、後者の刺激は、あまりに素敵であるが故に、再現なく増やしていくことは自重されなければならないのではないか。残念なことに、チャンピオンシップの導入により、そのバランスは崩れようとしている。
 今シーズンについては、チャンピオンシップ終了後、クラブワールドカップをはさみ、天皇杯が残っている。シーズン終盤、後から後から、特定チームのみが登場する「明日なき死闘」を期待するレギュレーションは、健全なものとは思えない。もし、Jリーグ当局が、チャンピオンシップを継続したいと思うのならば、ナビスコカップや天皇杯を含め、その他の大会の全面的な交通整理をすべきであろう。過去幾度も述べてきたが、18チームによる1部リーグと、ACLの上位進出と、複雑で2週にわたるチャンピオンシップと、クラブワールドカップの自国開催と、元日の天皇杯決勝と、すべてを総取りしながら、真っ当な日程を構成することは不可能なことは認識すべきだ。繰り返すが、シーズン終盤に、後から後から「明日なき死闘」を期待した大会を複数組むことで、1つ1つの試合の価値を下げてしまっては本末転倒なのだ。
 遠藤爺のように、それらすべてを愉しもうとする偉人がいることに、感謝しつつも。
posted by 武藤文雄 at 23:05| Comment(1) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月15日

呪縛から脱却したハリルホジッチ氏


 日本代表は、シンガポールに敵地で3対0で快勝。結果も内容も、そこそこ、まあまあだった。ともあれ、この試合は何よりハリルホジッチ氏が、埼玉シンガポール戦の呪縛から脱した試合として、今後の大きな分岐点となるのではないか。

 先般のシリア戦、結果的には3対0と快勝し、2次予選のトップ突破を事実上確定することができた。
 けれども、特に前半は、何とも重苦しい試合だった。中盤を制しながらも、崩し切れない展開。蒸し暑い気候の中、明らかに体調の悪い選手達。フィジカルに優れるシリアDF陣を振り切れない前線のタレント。そして、後方の選手の信じ難いミスにより、シリアに許す決定機。それでも、後半立ち上がりに岡崎が倒されてPKを奪った以降は、無事に戦闘能力差を発揮し、結果的には大差で勝利できた。
 ハリルホジッチ氏は、埼玉シンガポール戦の自からの油断と無策と知識不足による引き分けと、シリアがシンガポールに勝ったことで、勝ち点勘定的に2次予選突破に暗雲が漂うような錯覚にとらわれたのだろう。ために、先般のシリア戦は「安全」を考慮し、体調の必ずしもよくない岡崎、本田、香川を起用した。上記のように前半の試合内容は、何とも重苦しいものだったが、体調が悪いなりに勝負強さを発揮した岡崎のPK奪取を起点に快勝することができた。

 これで事実上、次のラウンド進出を決めたことで、氏はすっかり落ち着いたようだ。この敵地シンガポール戦では、体調のよい金崎、武藤、清武、柏木を起用した。さらに言えば、シンガポールが引いてくることが自明だったので、柏木がほとんどフリーでプレイできることも、埼玉の失敗を含めたスカウティングの成果だったのだろう。かくして、序盤から日本は次々と変化あふれる攻撃で好機を作り、前半半ばに2点を奪い勝負を決めてしまった。
 あのシリア戦の前半疲労が顕著な選手を無理に引っ張り苦闘した試合とは好対照。まずは、ハリルホジッチ氏が、自ら招いた呪縛から脱したことを、素直に喜ぼう。
 
 もちろん、細かな突っ込みどころは無数にある。
 長友と本田は明らかに重かったが、そこまでメンバを替えるのは冒険が過ぎると言うもの。それでも、長友は、カンボジア戦などで見受けられた、無意味で強引な前進がなくなり、落ち着いて左サイドの守備を固めてくれた。本田は、せっかく酒井宏樹が攻め上がっても使わない悪癖が見られたのはご愛嬌だが、しっかり得点にからんだのはさすが。後半、明らかに動けなくなり攻撃をギクシャクしたものにしてしまったが、これは素早い交代を行わなかったハリルホジッチ氏の責任だろう。
 ハリルホジッチ氏の交代策は、本田を引っ張った以外にも疑問は多かった。交代策はいずれも前線の選手、宇佐美、香川、原口だったが、後半攻撃が停滞した要因は、中盤での変化が不足したためだったのだから、あまり有効ではなかった。むしろ、山口蛍なり遠藤航を中盤に起用し活動量を増やして、上下の変化をつけるべきだったのではないか。

 ただロシアに向けて、攻撃はそれほど不安はない。年齢的に岡崎と本田が2人揃ってロシアを迎えることが可能かは微妙だが、後を継げる有為なタレントが多数いるからだ。最近の選考に、大迫も柿谷が漏れる事そのものが選手層の厚さを示している。一方で、後方は不安だ。最近登場したタレントは、遠藤航くらい(「遠藤が出て来ているのだから、文句を言うな」と言う向きがいるかもしれないが)。
 実際、このシンガポール戦でも、再三守備ラインがほころびかけた。吉田麻也は得点を決めたし、相変わらず後方からの攻撃の起点としては有効に機能した。しかし、突然見せるミスは相変わらず。前半、飛び出した西川と交錯した場面、不用意に敵にCKを与えたあたりは残念だった。森重は、ほぼ満足行くプレイを見せてくれたが、1回だけ敵セットプレイでマーク相手を見失った。
 最大の失望は酒井宏樹。若い頃は、右サイドからの強く踏み込んだクロスが最大の魅力だったのだが、この日はフリーで再三抜け出しながら、有効なクロスがほとんどなかった。丁寧な守備振りはよかったが、肝心なところで敵に出し抜かれてフリーでヘディングを許した。
 サッカーにミスは付き物だ。けれども、日本代表がロシアで好成績を収めようとするならば、丹念に小さなミスも見逃さない積み上げをしていく必要がある。残念ながら、現状は厳しい。新たなタレントの発掘と言う意味でも、既存の選手の安定感と言う意味でも。

 ともあれ。
 南アフリカの重苦しい惨敗後、我々はようやくロシアに向けて踏み出すことができた。アギーレ氏の弱気過ぎる采配が招いたアジアカップの早期敗退(せっかく短期間でよいチームを作ったのに)。そして、アギーレ氏との別れ。ハリルホジッチ氏の埼玉シンガポール戦の失態。そんなこんなを愉しんでわけだが、この敵地シンガポール戦で、私はロシアへの道筋をようやく見出すことができたように思う。
 まずは、道筋が明確に見えてきたことを素直に喜びたい。
posted by 武藤文雄 at 00:38| Comment(1) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月23日

サッカー狂が堪能した史上最高の番狂わせ

 「史上最高の番狂わせ」
 この「史上最高」は、必ずしも「ラグビーワールドカップ史上」にとどまらず、「世界スポーツ史上」なのではないかと思えてならないのだが、それは結びに。

 日本ラグビーの関係者すべてに「おめでとうございます」、考え得る最大級の祝意を伝えたい。そして、日本人の野次馬として、その歓喜をお相伴させていただけた事に感謝したい、「ありがとうございました。」 さらには、サッカー狂としては正直羨望している。うん、うらやましい。
 
 幾度か拙ブログに書いてきたが、私の大学生の坊主は現役ラガー。5年半前に高校に進学した際に、それまで9年間続けてきたサッカーからラグビーに転向した。以降、ラガー坊主の試合観戦は、サッカーに浸るのとは別の愉しみとなっている。加えて、坊主の解説を聞きながら、トップレベルのラグビーをテレビ桟敷で堪能させていただいてる。
 もっとも、私のラグビーに対する造詣は限られたもの。学生時代、テレビ桟敷で新日鉄釜石の洞口、千田、松尾、谷藤と言った名手の創造性豊かなプレイに感心。87年の第1回W杯で、フランスのシャンパンラグビーを率いたFBのブランコに感嘆(奔放さがプラティニを軸とする80年代のサッカーフランス代表を思い起こさせた)、この大会のフィジーのパスワークも凄かったな。95年の決勝の南アフリカとNZのドロップゴール以外全く点が入りそうもない試合に、「ああ、ラグビーもサッカー同様、点が入らないからおもしろいのだ」と強引な解釈。以降は、毎冬の日本のトップレベルの試合や、4年おきのワールドカップを、テレビ桟敷で適宜愉しむ程度だった。
 そして、上記の通り、坊主と言う師匠を得て、観戦頻度が高まってきたのが、ここ数年。2011年の決勝の1点差の緊迫感を、坊主の解説で堪能したのは記憶に新しい。

 そのようなサッカー狂から、この「史上最高の番狂わせ」を語ってみたい。ピントがずれいている事も多いかもしれない。それで、不愉快に思うラグビーファンの方々がいたら、ごめんなさい。

 まず守備がすばらしかった。南アフリカは、体格のよい選手が多く、それを前面に出して戦ってきた。それに対して、ジャパンは低いタックルで対抗、敵のスピードが鈍ったところで2人目がつぶしに行く。愚直にこれを繰り返し、ゴールライン前で南アフリカの攻撃をつぶし続けた。
 許したトライは、ラインアウトからのモールから2本、大型FWを第一波で止め切れなかったのが2本。いずれも、体重差を活かされ「ちょっとどうしようもない」と言う印象。
 単純なモールでの争いに持ち込まれると、体重差が如実に出てしまうのは言うまでもない。そして、後者2発は、100kgをはるかに超える超大柄な選手が機敏なフットワークを見せ、止められなかったもの。そして、「どうして、あの巨体があれだけ機敏に横にも動けるのだ!」と感嘆させられた。
 言わば、この4トライは、南アフリカとジャパンの、現時点の(あくまでも現時点の)資源力の差なのだろう。 しかし、リーチマイケルと仲間たちは、その資源力の差にじっと耐え、4トライに押さえたのだ。

 ジャパンのミスの少なさも信じ難い。素人の私が把握できた大きなミスは以下の3つに止まった。なお、ここで言う「大きなミス」とは、その選手の能力を考慮すれば当然できるべきプレイをやり損ねた、あるいは明らかな判断の誤りがあった、ケースを指している。
 1つ目は、前者のやり損ね。大黒柱の五郎丸が2本目のペナルティを外した事。これは、ちょっと衝撃だった。普段の五郎丸ならば、楽々決める位置だったからだ。やはり、想像を絶するプレッシャがかかっていたのだろう。しかし、五郎丸はプロフェッショナル中のプロフェッショナルだった。3本目以降、次々と難しい位置からのキックを淡々と決め続けた。勝利が確定した後のキックを外す人間くささを含め、完璧な出来だった。
 2つ目と3つ目は、後者の明らかな判断ミス。まず、前半の逆転トライ直後に、主将のリーチマイケルが味方ノックオンのボールを思わずさばいてしまい、オフサイドを取られてしまった事。そして、3つ目は、70分過ぎに、交代出場以降に格段の突破を再三見せていたアマナキが、ラックで明らかに自分より前のボールをさばきオフサイドを演じてしまった事。
 しかしだ。ラグビーはこのようなミスが連発するゲームなのだ。たとえ、弱小国を相手にした強国だろうが、大学生を相手にしているトップリーグの代表選手だろうが、素人から見ても、再三信じ難いミスをする。特にアマナキが演じたようなオフサイドは、結構日常茶飯事だ。これは、ラグビーが激しい肉体接触を伴う、格闘性の高い競技の故だと思っている。ラックやタックルにおける、純粋に身体のぶつけ合いの連続は、時にどんな大選手からも「冷静な判断」の機会を奪ってしまうのだ。少なくとも、このようなタフな試合で、素人の私が認識できる明らかな判断ミスが、たったの2件だったのは、すべてのジャパン選手が冷静に戦っていたのかの証左と言うべきだろう。
 一方、南アフリカは自陣で再三、明らかな判断ミスから、ジャパンに再三ペナルティキックの機会を提供してくれた。特に多かったのが、ノット・ロール・アウェイ、ジャパンがラックでボールをキープして、そのボールを受けようとして接近する選手とボールの間に寝そべり続ける反則だ。おかげで、五郎丸が次々とペナルティキックで加点できた。

 そして、ジャパンのトライ。
 まず前半のトライ。敵ペナルティを利して、敵陣深くでのラインアウト。そこからモールに持ち込んでのトライ。このモールには、立川から松島からバックの選手が次々に加わり、体重差を人数差で凌駕する事に成功した。見事な作戦勝ちと言えるだろう。日本の高校ラグビーでは、「スクラムは1.5mしか押していけない」と言うルールがあるため、モールを強化する傾向があると言うが、それがこの大舞台で見られたのだから愉快だった。
 2本目のトライ。正にパスワークの妙味。松島のパスを受けた五郎丸の外に、もう1人選手がいた事でわかる通り、完全に南アフリカを崩し切った美しいトライだった。ここの仕掛けは前半から、再三鋭い前進を見せいてた立川が、この場面は「縦に出るぞ」とのフェイントから、パスを回した事による。正に、ここまでの68分間の伏線が活きたトライだったのだ。いや、本当に見事なトライでした。

 29対32のまま、時計は回り、ノーサイドが近づいてきた。ジャパンは、冷静にボールをつなぎ、南アフリカゴールライン近傍まで攻め込む。そして、79分、モールでの逆転トライ狙いに対し、南アフリカは明らかに自らモールを崩す。素人目には、認定トライが妥当に思えたが、主審はそう判断しなかった。これは主審にも同情する。「史上最高の番狂わせ」を、自らの判断による認定系の得点とするのは、耐えられなかったのだろう。
 それでもジャパンは、丁寧にボールを保持し、回して、とうとう崩し切った。この最後の時間帯、おそらく5分を超える間、15人すべてがミスをせずに、格段の意思疎通で戦い切ったのが、また素晴らしかった。
 試合終了後、勝因を聞かれたリーチマイケルが、迷わず一言「フィットネス」と答えていたが、この日に合わせて鍛えぬき、体調を揃えていたジャパンは、最終盤に体力でも判断力でも技術でも、南アフリカを圧倒していたのだ。そして、選手達もそれを自覚していたのだろう。80分経過後にジャパンに提供されたペナルティで、キックによる同点ではなく、ボールをつないでの逆転狙いを選択した事が、「あくまで勝ちを目指した勇気」として称える向きが多いようだ。しかし、リーチの選択の最大の理由は、(シンビンによる敵の人数不足を含め)ボールを回して逆転トライできる可能性が、異様なプレッシャ下で角度のない所から難しいキックを狙う仕事を五郎丸1人に託すより確率が高い、と言う事だったのではなかろうか。

 そもそも、「ラグビーと言う競技は、番狂わせが起こりづらい」のが常識と言われている。その最大の理由は、戦闘能力の劣るチームが守備を固めて失点を最小限に押さえる事そのものが厄介だからだ。それは、ラグビーがサッカーと異なり、フィールドの幅全体を守らなければならない事、特にフィジカル差が顕著な場合にラインを上げて守る策が採れない事、パスを回して時間を稼ぎ疲労しない手段が採れない事(ラグビーにおける「キープ」は、パス回しではなく、最も身体を張らなければならないラックなのだ)などによる。だから、現実的に、サッカーのように、「守備を固め失点を最小に押さえ、少ない好機を活かす」と言うやり方が使えないのだ。
 実際、この日のジャパンは、上記したように水際立った守備を見せ、沈着冷静にファウルを最小にした。それでも、32点奪われた。そのくらい、ラグビーの守備と言うものは厄介なのだ。それでもジャパンは勝った。粘って、粘って、粘って、失点を32点に止め、しっかりと計画した攻撃で、その失点を超えた得点を奪ったからだ。素晴らしい。

 と、ここまで書いてきて思った。そもそも、この日のジャパンの80分間の試合内容を見ても、体格差で押し込まれる場面は多々あったが、局面局面では負けていなかった。そのくらい、戦闘能力面でも際立った内容を見せてくれていたのだ。
 つまり、エディー・ジョーンズ氏と言う格段の指導者が、リーチマイケルとその仲間達を的確に指導し、選手達も能動的に自らを鍛え抜いた。その結果、過去の実績からは「弱者」としか言いようのないジャパンは、南アフリカに対し互角近くに戦える戦闘能力を具備できたのだ。もはやジャパンは「強者」である。

 リーチマイケル達の冒険は始まったばかりだ。スコットランド、サモア、USA、彼らに対し2勝以上を挙げ、ベスト8に進むのは、不可能ではないが、決して容易ではないミッションだ。きっと、彼らはやり遂げてくれると確信しているが。しかし、目標のベスト8を実現できる、できないは別にして、既に彼らは歴史を作ったのだ。
 それは「史上最大の番狂わせ」に止ままらない。
 エディーさんとリーチ達は、この南アフリカ戦で、「過去の実績は『弱者』でも、鍛錬と創意工夫で『強者』に勝てる」と言う事を、具体的に示した。つまり、ラグビー界の「番狂わせが起こりづらい」と言う常識そのものを、否定する事に成功した。彼らは、そのような意味でも、歴史を作ったと言えるのではないか。
posted by 武藤文雄 at 02:21| Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月19日

クラマーさん、ありがとうございました

 デッドマール・クラマー氏逝去。
 いつかこのような日が来るのはわかっていたし、90歳での逝去と言えば、天寿を全うされたと言う事だろう。心からご冥福をお祈りします。そして、ありがとうございました。

 ともあれ、自分なりの想いを書かなければなるまい。

 コーチとしての日本サッカーに提供していただけた直接的貢献は言うまでもない。東京五輪準備段階からメキシコ五輪まで、断続的に日本代表長沼監督を補佐する形態で指導、メキシコ五輪銅メダル、あるいは釜本邦茂。
 その技術指導の見事さは、直接指導された方に語ってもらうほうがよかろう。

 まずこの方から。
(前略)社会人、大学生が対象だったが、(中略)山城高校から二村、長岡、ぼくの三人が、特別参加した。(中略)
 「そこの大きいの。ちょっと出て来て」
 集団の中からぼくが引っ張り出された。
 ポーンとボールを投げてよこす。ヘディングだ。威力のないボールが少しそれて返っていく。
 クラマーさんが今度はやる。びっくりするほど加速されたボールが、投げたぼくの手元へ”バシッ”と戻ってきた。
 トラップ、トップスピードのボール扱い。うまくいかない。小さな男は、見事にやってのけていった。
「この男のようにしちゃいかん」
 まるで、悪いほうの見本にさせられて、ぼくはがっくりするとともに
”何てすごい人なんや、こんなすごい人がいるんか”
 驚きを、どうすることもできなかった。
 ボールをもらい、トラップして、くるり振り返ってパスを出す。
「いかん、いかん、ロスが多過ぎる。こうやるんだ」
 すごい早さで、正確に、クラマーさんは何でもやってのけた。
(釜本邦茂著、「ゴールの軌跡」より)


 次にこの方。
 ユース代表の合宿地、デュイスブルグのスポーツ学校へ行くと、DFBのコーチ、クラマーが受付でわたしを待っていた。(中略)
 クラマーはわたしにサッカーの戦術をくわしく講義してくれた最初のコーチだった。黒板に向かい、白ぼくで線を引き、一人ひとりの選手の動きを書いた。どうやったらプレーヤーがフリーなポジションを作れるかを説明した。ボールを持っていないときの、プレーの重要性を強調した。
 クラマーの講義は、わたしには目新しいものではなかった。というのは、それがわたしがいつもやっていた方法だったし、自然で合理的なプレーのやり方だったからである。
 ただ、わたしにはクラマーの話し方は印象的だった。彼は非常に具体的に話したので、彼の言葉はわたしの頭の中にしっかりときざみこまれた。
(フランツ・ベッケンバウアー著、鈴木武士訳、「わたしにライバルはいない」より)


 もっとも。クラマー氏が日本サッカー界に残してくれた功績は、上記の直接的なものより、これから述べる間接的なものが大きいのではなかろうか。東京五輪後の5提言はあまりに有名だ。
1. 国際試合の経験を数多く積むこと。
2. 高校から日本代表チームまで、それぞれ2名のコーチを置くこと。
3. コーチ制度を導入すること。
4. リーグ戦を開催すること。
5. 芝生のグラウンドを数多くつくること。

 考えてみると、この50年間に渡り、日本サッカー界はこの提言の実現を粛々と目指し、今日の繁栄を得たように思えてくる。そして、我々はドイツのようなサッカー大国にある程度は近づく事ができた。しかし、こうやって近づく事ができればできるほど、明確で具体的な差が見えてくる。
 1975年にクラマー氏は、ベッケンバウアやゲルト・ミュラーを擁しバイエルンミュンヘンを率い、欧州チャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前進)を制した。その折に「人生最高の瞬間ではないか」と問われ、「最高の瞬間は日本がメキシコ五輪で銅メダルを獲得したときです。私は、あれほど死力を尽くして戦った選手たちを見たことがない。」と語ってくれたと言う。40年前の当時、日本代表がドイツ代表(当時は西ドイツですな)と、互角に近い戦いができるとか、多くの日本人選手がブンデスリーガで中心選手として活躍するなど、誰も想像できなかった。確かに我々は接近する事には成功したのだ。
 けれども、日本代表がドイツ代表と互角の戦いを演じ、(例えばバイエルンミュンヘンのような)欧州の本当のトップレベルのクラブで日本人が大黒柱として活躍するためには、まだ「何か」が足りない。この「何か」を埋めるためには、我々はクラマー氏の教えを追うのみならず、我々独自の手段を考え抜き、行わなければならないのではないか。
 氏の訃報を聞き、そんな事を考えた。

 ただし、氏の提言を乗り越える際にも、氏の教えは有効だ。氏は、銅メダル獲得直後に「試合で勝った者には友人が集まってくる。新しい友人もできる。本当に友人が必要なのは、敗れたときであり敗れたほうである。私は敗れた者を訪れよう。」と語ったと言う。これは人生にとっての箴言なのは間違いないが、サッカーに絞って考得たときに、あまりに重い意味を持つ。勝った時の友人のいかに多い事か。
 優れた師を持てた事を誇りに思い、粛々とサッカーを愉しんでいきたい。繰り返します。ありがとうございました。
posted by 武藤文雄 at 17:52| Comment(1) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月13日

ベガルタ久々の勝利

 ベガルタはユアテックで、山雅に3対1の逆転勝ち。前半は絶望的な酷い内容だったが、後半よい攻撃が復活し、幸運にも恵まれた勝利。ともあれ、実に久々の勝ち点3、素直に喜びたい。

 それにしても、ベガルタの前半の戦いは酷かった。言い方を変えると、山雅がとてもよかったと言う事になるのだが。
 山雅は、ベガルタに後方からの高精度ロングボールを入れさせない事を狙い、ベガルタDFのみならずGKの六反にまで前線から極端なフォアチェックを仕掛けてくる。ベガルタが自陣奥深い所で得たスローインにも、マンマーク気味に投げ手を囲む。さらにCBの石川、鎌田、ボランチの金眠泰がパスの相手を探し、ボールの動かしが小さくなった瞬間を狙い、後方あるいは側方厳しいプレス(と言うよりはタックル)を仕掛ける。ベガルタ、特に金眠泰はこの山雅の厳しい前線守備に完全に浮き足立ち、前半は完全に山雅ペース。まあ、阿部吉朗のチェーシングと、身体を巧みに入れてのいやらしいキープ。このようなベテランの妙技には感心させられたけれど。
 山雅の攻撃もさすが。精度が悪くても、前に出てくる菅井と、軽率な二見(後述します)の両サイドバックの裏に、精度が欠けてもロングボールを放り込み、ベガルタ陣深くのスローイン獲得を狙う。そのスローインからの攻撃が多彩。岩上のロングスロー、あるいはそれをフェイントにして後方に投げてのダイレクトクロス、逆に岩上に近づいた選手に低く速いスロー。その課程は様々だが、いずれも最終的な狙いはセットプレイ時のベガルタのゾーン守備網の外側、そこに長いクロスを入れて、折り返しで揺さ振る。失点時もその典型。ベガルタ右サイド(以下、左右はすべてベガルタから見て)、上記したロングスローを装い後方に投げられたボールを左サイドにクロス。そのクロスへの二見の稚拙な対応から崩され、起点のスローインを投げた岩上(つまり右サイドから進出してきた)にフリーで決められた。
 さすが、反町康治。この2週間、丹念にこの試合に向けて準備を重ねてきたのだろう。そして、この陰々滅々とした采配を行う名将の指示を的確に実行する山雅イレブンの見事な事。「いや、敵ながらあっぱれ」とは感心するが、ベガルタイレブンの情けなさはどうだ。「あの用意周到な監督が率い、敵地では完全に作戦負けを喫したクラブと、下手をすれば降格争いに巻き込まれる難しい直接対決を戦う」と言う自覚があったのか。山雅が執拗に当方の長所を消し、弱点を突いてくるのは、わかり切った事ではないか。それを、ただただオロオロして前半45分間を終えるとは。

 後半、さすがに修正が行われた。敵のフォアチェックが厳しいと言う事は、それを外せばフリーの味方を見つけやすい、と言う事になる。そのためには、Think before を徹底し、素早くボールを回す事が肝要。ハーフタイムに渡邉監督に叱られたのだろうか、前半ガタガタだった金眠泰が積極的にボールに触る。これにより富田も楽になる。そして、奥埜がよく右サイドに斜行し頻繁に梁に絡み、右前方に張る菅井を使い、右サイドで数的優位を作り、崩す形が出てくる。その結果、山雅守備陣が右に寄ると、老獪な野沢が左サイドで落ち着いたキープを見せ、金園、二見を使って崩す。そうやって両翼に起点ができると、クロスを上げるフェイントから、ペナルティエリア内に走り込む奥埜を使った中央突破も有効になる。
 そうこうしているうちに、石川のグラウンダのフィードを二見がスルー、その結果野沢がフリーでボールを受け、ニアへの低い好クロス。山雅のGKとDFの連係ミスからこぼれたボールを丁寧に金園が押し込み同点。
 その後も、攻勢をとるベガルタだが崩し切れない。逆に、中盤での混戦から、身体を張り切れずにボールを奪われ、山雅の速攻にも悩まされる。オビナに完全に抜け出された事もあったが、六反が落ち着いて防いでくれた。ベガルタが上位を伺おうと言うならば、どんな相手にも球際の競り合いは負けないにしなければ。
 終盤、野沢に代わって起用されたばかりの金久保が、左サイドから、いかにも彼らしい鋭い切り返し後、右足でファーサイドに好クロス、DFと競り合った後の金園の強引なシュートが敵自殺点を招き(公式記録は金園の得点)、とうとう逆転に成功した。さらに前掛かりになった山雅の裏を突いたハモンの強烈なミドルシュートが決まり、3対1。苦労を重ねた試合だったが、逆転勝利を収める事ができた。

 実際、前半を0対1で終えられたのは、ベガルタとしては幸運だったとしか言いようがない。たとえば、石川が山雅のチェックでボールを奪われ、抜け出そうとした山雅のFWを鎌田が倒した場面は、退場とされてもおかしくなかった。まあ、六反の的確な位置取りを中心に、悪いなりに各選手が自陣でよく身体を張った成果とも言えるけれど。
 一方で、前半あまりにベガルタが酷過ぎたため、山雅はやりたい事がすべてできたように見えた。ところが、その結果、山雅の策が前半で出尽くしてしまったのではないか。そのため、後半ベガルタが攻勢をとりやすくなった。たまには、このような幸運が訪れると言う事かもしれないな。
 また、二見の起用はいよいよ考えどころ。1つのプレイが切れた後に、動きを止めてしまい、修正が遅れるのがこの選手の大きな欠点。失点時はその典型で、右サイドからのサイドチェンジで数的不利となり振り切られた直後、富田がカバーリングに入る。ところが、二見は棒立ちになり、富田のカバーが遅れる。その結果、山雅に精度の高いクロスを上げられてしまった。たとえば、左CBの石川の後方にロングボールが入り、石川は自陣に向けてそのボールを追う。当然山雅のFWは石川を追走する。二見は左タッチ沿いを戻る訳だが、石川からのパスを受けやすい(石川がパスを出しやすい)ように、石川に近い深さまで後退しなければならないのに、途中で止まってしまう。そのため、石川は追走してきた敵FWのプレッシャを感じながらのパスを余儀なくされ、展開が遅くなってしまう。このような小さな配慮の積み重ねが、よい展開を作る事につながるのだが。ファウルが多いのも、修正の遅さによるものだ。こう言った欠点は、昨シーズンの入団以来、残念ながら改善はあまり見られない(もちろん、この日は執拗に狙ってくる反町氏が故に、弱点が目立ったのだが)。幸い、蜂須賀が左サイドで機能(いや、利き足でない左を意識しなければならないためか、蜂須賀は右サイドより左サイドの方が機能するようにすら見える)している事もあり、二見に拘泥する必要もないようにも思えるのだが。ぜひ、二見には、私に謝罪の機会を提供して欲しい。
 逆転したものの攻撃面の改善点もまだまだ多い。同点、逆転それぞれの金園は見事だったが、相手のミスが関与していた。3点目は敵守備の前掛かりを突いたもの。いずれも、敵守備を能動的に崩し切ったものではなかった。攻撃にはもっともっと変化が必要だ。ポイントになるのは、奥埜の使い方だと思っている。奥埜は後方に下がりながらターンもできるし、トップスピードで前進しながら正確にパスを受ける事もできる。両サイドに起点を作り、奥埜にペナルティエリア内で前向きにボールを受けさせるパタンを充実させる事がポイントではないか。そう言う意味では、勝負どころの77分に奥埜をハモンと交代した渡邉氏の采配も、個人的には不満だ。

 と、色々文句を言ったけれど、文句を言い続けられるのもサポータ冥利と言うもの。次節は強敵アントラーズとアウェイゲームか。簡単な試合にはならないだろうが、間違いなく上向きのチーム状況。粘り強く戦い、勝ち点奪取を期待したい。
posted by 武藤文雄 at 16:13| Comment(2) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月05日

ハリルホジッチさん、わかっているよね

 ハリルホジッチ氏はアジアを舐めている。
 シンガポール戦にせよ、この北朝鮮戦にせよ、相手の能力を軽視し、自分の都合だけで試合に臨んでいる。さらに、状況の悪さの修正を怠っている。
 誤解しないで欲しいが、私はアジアサッカーの特殊性を指摘しているのではない。むしろ、正反対だ。日本の戦闘能力はアジア屈指だから、シンガポールが守備を固めてくるのも、北朝鮮がシンプルだが高さを前面に押し立ててくるのも当然の話。これはレベルこそ違え、ドイツやアルゼンチンが各大陸の大会で苦労するのとまったく同じだ。それに対して、的確な準備をせずに試合に臨み、しかも試合中に修正ができていない。これだけ実績のある監督だけに、この2試合の失態は、氏が「アジアを舐めている」が故としか思えないのだ。

 開始早々、右サイドバックに起用された遠藤航の好クロスを、敵DFを振り切った武藤雄樹が押し込んだ。五輪代表の主将と、今シーズン「化けた」攻撃タレントが、それぞれ初代表で得点に絡んだのだから、誠にめでたい展開となった。もちろん、私の歓喜はそれに止まるものではないが。立ち上がりに失点した北朝鮮守備陣がやや腰が引けた事もあり、日本はその後もリズムよく攻める。しかし、2点目が決まらない。それにしても、川又の謎の反転、永井の逸機、いずれも柳沢クラスの味わい深さだったな。
 そうこうしているうちに、北朝鮮も攻め返してくる。単調ではあるが、ハイクロースをドガーンと上げ、複数の選手が飛び込んでくる、いかにも北朝鮮らしい攻撃だ。しかし、日本も森重が安定しており、落ち着いて北朝鮮の攻勢をはね返し好機を作らせない。ただ、問題は1度奪ったボールをキープできない事。せっかく森重や遠藤が敵のクロスをはね返しても、どの選手も前に前に急ぎ過ぎる。それでも、トップの川又がボールを収めてくれれば、早く前にボールを出した意味が出てくるが、川又はそのような選手ではない。そのため、簡単に北朝鮮にボールを奪われ、再度クロスが上がってくる。いかにも暑そうな天候なのだから、少しは楽をするためにゆっくりプレイをすべきだと思ったのだが。
 それにしても、(アルビレックス時代からわかっていたが)川又は、ボールを収めるのが不得手な選手だ。前半、中途半端にハーフウェイライン近傍に戻ってきて後方からのフィードを収めようとして、ダイレクトパスで北朝鮮MFに落とし、北朝鮮の逆襲の起点となった場面には笑った。毎週少年団で、CBをやっている子供達に、「フリーの味方を探しておいて、出足よく飛び出し、その味方にパスが出せれば最高」と指示しているのを思い出したりして。
 さらに永井の不振も残念だった。守備のために後方に下がった所で、味方からパスを受けても、どうしたらよいかわからないのだ。やはり、この選手はトップにおいて、元気にDFラインの裏を狙ってもらうのが適切に思えてくる。もっとも、この混乱はこの選手がグランパスと言うクラブ(潤沢な予算で常に強力なFWを多数所有している、だから永井を最前線ではなく、サイドで機能させようとする)を選択した事から始まっているのだが。

 後半序盤に、明らかに温存していた柴崎を起用。しかし、交替するのは機能せずもがいている永井や川又ではなく、宇佐美。まあ、確かに宇佐美の温存も必要ですがね。これによって急ぎ過ぎは改善されて試合は小康状態に。さらに、川又に代えて興梠が起用された頃には、後方の選手は皆相当疲弊してしまっていた。そうなると、もうラインを上げられなくなっており、北朝鮮としては後方からドガーンが増々やりやすくなっていた。だからと言って、あの2失点の無様さが割り引かれるものではないが。それにしても、あの時間帯までドガーンをちゃんとはね返していた森重は悔しかろうな。でも、これはCBと言うポジションの宿命なのだ。

 FIFAランクのような形骸的なランクに捉われなければ、北朝鮮と中立地で戦えば難しい試合になる事は自明の事だ。しかも、選手達は皆、先週土曜にJリーグで死闘を演じている。さらに、報道によると、現地の暑さは相当との事だ。とすれば、常識的に考えれば、できるだけスローテンポの展開にして、疲労を最小にする事が肝要。加えて、北朝鮮がドガーンしてくるのは予想できるので、ラインを上げられる戦いにする、などの策が適切なのは言うまでもない。
 しかし、スタメンそのものがおかしい。前の4人は、永井、川又、武藤雄樹、宇佐美。何と言うか、50年以上前に世界の主流だった4-2-4を思い起こすよね。前線の4枚に、持ちこたえたり、時間を稼いだりする選手が、誰もいない。私はどうしても武藤雄樹を中心に語るから、川又や永井でなく、丁寧に持ちこたえる興梠のようなタレントと併用して欲しかったと書く。一方で、川又や永井からすれば、「武藤雄樹ではなく興梠なり倉田と併用してもらえれば」との思いもある事だろう。要は各選手の特長を活かす起用となっていないのだ。この軽率なスタメン選択は、シンガポール戦直前のイラク戦で、攻撃ラインで最も立場を確保できていない香川の交代選手を試さず、総とっかえをした事で準備の好機を逸したのと同じだ。
 そして、上記の通り、試合展開が思わしくないのに修正を怠る。これも、シンガポール戦で、香川がフラフラと前線に位置取り岡崎の妨害をするのを放置したのと同じだ。
 ハリルホジッチ氏の実績を考慮すれば、的確なスタメン選考や交代選手準備、試合の流れからの修正が、しっかり行える監督なのは間違いないだろう(ね、そうですよね、大丈夫ですよね)。それを、公式戦で2度も無様にやり損ねるのだから、アジアを舐めているとしか思えないのだ。
 何となくだが、FIFAランキング、あのいいかげん極まりないFIFAランキングだけを見て、「この相手には楽に勝てる」と考え、試合に臨んでいるのではないかと思えてくる。10年ちょっと前に、大変愉しい思いをさせてくれたフランス人がいたけれど、この教条主義のところ、そっくりに思えて、何か嬉しい。いや、腹が立つ。うん、「だからサポータはやめらなれない」と言えば、それまでだけれどね。

 もちろん、氏が就任直後と言う事もあり、各選手が「この監督に対し、どこまで指示を忠実に守らなければならないのか」を計りかねている事もあるだろう。試合を観た限りでは、シンガポール戦では太田と酒井の両サイドバックは攻撃参加の自重を求められていたのだろうし、北朝鮮戦では「皆早く攻めろ」と指示をされていたのだろう。監督の指示に対して、いかに柔軟に対応するかは、選手の判断力の見せどころ。けれども、マスコミ報道を読む限り、「俺の言う事を聞かない奴はクビだ」的な発言もあるようだから(あれは対マスコミ、いや対スポーツ新聞へのリップサービスで、実際には違っていたら、ごめんなさい)、選手も判断に苦しんでいるのだろう。しかも、今回のチームは代表での実質的な実績、経験がある選手は、森重と蛍、それにまあ柴崎くらいしかいない。この3人が立場をよく理解し、ピッチ上でのリーダシップをとってくれれば嬉しいのだが。

 前期終了後、謎の1週休みの日程を組み、水曜の試合を2週入れたJリーグ首脳が愚かなの言うまでもない。日本代表の強化のみならず、各クラブの観客動員収入をも妨害する、歴史的愚策である。けれども、そう言う事は、大会前に大騒ぎする必要があるのだ。上記したフランス人のように。そのあたりも、ハリルホジッチ氏がアジアを舐めていると言う事なのかもしれない。

 まあ、いくら何でも韓国相手に、舐めた態度はとれないだろうから。うん、とにかく韓国に勝ってくれればいいよ。
 わかっているだろうな。おい。
posted by 武藤文雄 at 00:41| Comment(4) | TrackBack(0) | 日本代表 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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