2021年08月18日
爆撃機は永遠に ーゲルト・ミュラー逝去ー
私がサッカーを楽しみ始めたのは1970年代初頭、映像すら満足に入手できない当時、中学生のバカガキにとって、ミュラーは正にあこがれの存在だった。70年ワールドカップメキシコ大会で得点王となり、74年地元大会で決勝戦の決勝点を含め、とにかく点をとる選手。ペレやクライフやベッケンバウアは、何があっても目指すことができない。でも、ゲルト・ミュラーとベルディ・フォクツは目指せるような気がした。そんな錯覚を抱かせてくれたスーパースターだったのだ。
あれから半世紀が経った。ミュラーよりサッカーがうまい選手、攻撃を創造するのが巧みな選手はいくらでも見てきた。しかし、ミュラーより得点を決めるのが上手な選手は見たことがない。
もちろん、センタフォワードと言う特殊なポジションには幾多の名手がいた。釜本邦茂、ルーケ、ロッシ、原博実、ファン・バステン、ロマーリオ、バティステュータ、マルコス、ロナウド、久保竜彦、フォルラン、佐藤寿人、レバンドフスキ、幾多のストライカを楽しんできたが、やはり一番好きなセンタフォワードはミュラーだ。
ミュラーの点の取り方は、とてもわかりやすい。サイドからのクロスをペナルティエリア内で頭でも足でも最適の方法で合わせる。後方から足元に入るパスをターンして突っつきネットを揺らす、ゴール前にこぼれたボールを身体のどこかに当ててゴールラインを越させる。自らドリブルで持ち込むとか、ロングシュートをねらうとか、スルーパスから抜け出すとか、そのような得点はほとんどない。
中でも究極は1974年大会の決勝、オランダ戦の決勝点だろう。右ウィングのグラボウスキーが中盤に下がり、右オープンにスペースを作る。そこに中盤後方からボンホフが入り込み、グラボウスキーからのパスを受け右サイドをえぐる。ミュラーをマークしていたオランダのCBレイスベルゲンがカバーに入るが、サイドバックのクロルがしっかりミュラーをマークしている。ボンホフはミュラーをねらったプルバック。ただし、クロルのマークは厳しい。
そこでミュラーは自分の後方に向けてトラップ。1mほど後方に流れたボールに対し、ミュラーは一歩下がりながら、信じられない反転力でインステップでミート。クロルはまったくのノーチャンスだった。コロコロとボールはサイドネットに向かうが、オランダGKヨングブルッドはタイミングを外されまったくセービングに入れず、呆然とネットを揺らすボールを見送るばかりだった。
どんなレベルでも、得点を決めるコツは、シュートの打ち手がボールを強く蹴ることできるポイントに正確にボールを置き、狙い澄ましたシュートを打つこと。自分が一番蹴りやすいポイントにボールを置けるかどうか、マークするDFとの駆け引きを含め、勝負の妙味である。
しかし、ミュラーの得点は異なる。ボールを正確にサイドネットに向かわせることは強く意識しているが、強く蹴る意識はない。ただただ、ゴールキーパに自分が蹴るタイミングを読ませないことを意識している。
繰り返そう。ゴールキーパのタイミングを外し、正確にボールを突っつくこと。ミュラーはそれだけを考え、ベッケンバウアーの、オヴェラートの、ネッツアの、ボンホフの、ウリ・へーネスの、グラボウスキーの、ヘルツェンバインの、パスを待っていたのだ。
久保建英に格好の教材を提供したい。強引に行くばかりではなく、どうやったら点が取れるかが、ここにある。
正に爆撃機、幾多のコロコロシュートを思い起こしながら、ご冥福をお祈りします。
そして、サッカーと言う汲めども尽きぬ麻薬に私をいざなってくれてありがとうございました。あなたの幾多の得点、忘れません。
2021年08月17日
東京五輪メダル獲得失敗
ただし、その悔しさは、2010年南アフリカでのパラグアイ戦、2018年ロシアでのベルギー戦直後と比較すると、何か決定的に違った。この2つのワールドカップでは、その時の日本の戦闘能力手一杯まで戦い、刀折れ矢尽きた感があった。しかし、今回は采配を工夫すれば、もっとよい試合ができたのではないか、よい結果が望めたのではないかと思えたのだ。
強いて言えば、一番近い感覚は93年ドーハかもしれない。もちろんあの時失ったあの時失ったものをもっと大きかったけれども。一方であれからたった28年でここまで来られたってのは大したことのようにも思えてくる。
そう言ったことが頭の中をグルグル回り、何とも言えない失望、落胆を抱えながら2日を過ごし、メキシコとの3位決定戦。結果も内容も寂しい試合だったが、改めて選手達の凄まじいほどの疲労蓄積を実感し、感謝の思いを強くした。
今回のチームが上々の成績を収めることができた要因、一方でメダルをとれなかった要因それぞれは、以下のようにかなり単純に整理することができると思う。本稿では、それらを整理しながら、東京五輪を振り返ることとする。
1. うまくいったこと
(1) オーバエージの選手選考が適切だった。
(2) U24によい選手がたくさんいた(1年の延期が日本に幸いした)。
(3) フィジカルで負けることがほとんどなかった。
2. うまくいかなかったこと
(1) スペインと比較して選手の個人能力差があった。
(2) 中盤後方の遠藤航と田中碧の控えを選んでいなかった。
(3) 攻撃が堂安と久保の個人技頼りであまりに強引だった。
1. うまくいったこと
(1) オーバエージ選考が適切だった
オーバエージ選考の成功は、今さら言うまでもないだろう。吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航、3人の経験豊富な選手達のリーダシップと経験は見事なものだった。まず、この適切な選考については、森保氏を高く評価するものである。またこの3人を軸に堅牢な粘り強い守備網を築いたことも、森保氏の成果なのは言うまでもない。
今回は地元開催と言うことで、厳選されたA代表の中核で経験豊富な3人を選考した。今後もこの考え方を継続すべきではないか。アジアのサッカー界は、アジアカップがワールドカップ直後に行われると言う不可解なレギュレーションが続いている。これが是正されない限り、ワールドカップの隔年に行われる五輪は、ワールドカップの準備と言う意味で日本にとって貴重なタイトルマッチだ。特殊な若年層大会であるがため、若手が経験を積むと言う意味でも。
ただ、頭が痛いのは、そのようなA代表の中心選手は欧州でプレイしているから、シーズンオフの休養時間を奪ってしまうこと。今回の3人にしても、今後日本でプレイする酒井宏樹はさておき、吉田麻也と遠藤航が年間を通して適切な休養をとることができるだろうか。そして事態は楽観できない。欧州のシーズンは始まろうとしているし、9月上旬からはワールドカップ予選が始まり、2人は欧州とアジアを往復する過酷なシーズンを迎えようとしている。
今回の成功を再現できるかどうか、日本協会強化部門の手腕が問われるところだが。
(2) U24によい選手がたくさんいた(1年の延期が日本に幸いした)
冨安や堂安を筆頭に、今回のU24に人材が揃っていたのは間違いない。ただし、COVID-19による1年の延期が、日本にとって不幸中の幸いとなったのは、大会前に講釈を垂れた通り。この1年で、五輪世代の多くの選手がJでも欧州でも活躍した。フロンターレの田中碧、三笘薫、旗手怜央の3人は、高い技巧で自クラブのJ制覇に貢献、また上田綺世、瀬古歩夢、林大地、前田大然、橋岡大輝らの成長も耳目を集めた。同様に欧州でも板倉滉、中山雄太が活躍し経験を積んでいる。
ちなみに「1年の延期は他国にとっても同じ条件ではないか」と考える向きもあるかもしれない。しかし、私が見るところ日本のサッカー界は10代半ばから20歳前後の選手の成長に、構造的な課題がある。ユースレベルのチーム(Jユースでも強豪高校でも)、J1のトップレベルと実力差が相当ある。そのため、ユース代表クラスのタレントが、J1のトップクラブに加入しても、思うような試合経験を積むことができず、すぐに大人の選手として伸びてこないケースが多いのだ。
これは、Jユースの他に本格強化を行っている高校が多く選手が分散すること、ユースレベルチーム間での移籍が難しいことがなど錯綜する要因がある。せめて、優秀な素材はユース段階(高校時代)から、J2なりJ3で経験を積むことができれば事態は改善すると思うのだが、ユース世代の移籍、プロ契約、高校通学、栄養確保した生活など、多くの微妙な問題があり、実現は非常に厄介なのだ。
また、三笘、旗手、上田は大学経由。大学がユース段階で伸び切れなかった選手や晩熟系の素材の多くを成長させているのは間違いない。しかし、大学サッカーの致命的欠点は高校を卒業してない選手を受け入れてくれないことだw。Jユースでも静岡学園でも青森山田でも中心選手をまだ高校生のうちに大学サッカー部が受け入れてくれれば、事態は随分改善するのだが。
日本協会が、今回の1年延期による各選手の成長を振り返り、10代半ばから20歳前後の選手の契約制度、強化体制の改善検討を継続することを期待したい。
(3) フィジカルで負けることがほとんどなかった
過去世界大会に置いて過去日本代表はどうしても、体格と言うかフィジカル面で劣勢になるケースが多かった。そのため、身体の当て合いを避けて素早いボール回しを狙うことも多かった。ところが、今大会はそのようなリスクはまったく感じられなかった。強さを具備していることから選考されたオーバエージの3人、元々強さも期待されて選考された板倉、冨安、中山らが、フィジカル面でなんら遜色ないどころか局面によってスペインやメキシコのタレント達を圧倒した。加えて、技巧を武器とする田中碧、比較的小柄な堂安、久保、相馬にせよ、攻守に渡り身体の当て合いでは負けていなかった。
国際試合でフィジカルやデュエルが弱点となる時代は終わりつつあるのかもしれない。これは一重に、ユースのトップレベルの指導者たちが、科学的トレーニングを導入し教え子たちを適切に指導してくれている賜物に違いない。
ちなみに、日本のトップレベル選手の個々のフィジカルと言うと、ハリルホジッチ氏が「デュエル、デュエル」と念仏のように唱えていたのが懐かしい。以前講釈を垂れたように、デュエルとは必ずしもフィジカルだけの話ではない。「相手に負けない」と言う執着心を含めた1対1における創意工夫、とでも言い換えればよいか。もちろん、精神力やフィジカルにとどまらず、判断力と技巧も必須となるのだが。
なお、過去のワールドカップを振り返る限り、日本がいわゆるフィジカルの弱さでやられた場面が案外少なかったことも強調しておきたい。2006年の豪州戦や2014年のコートジボワール戦、ギリシャ戦のように明らかにコンディショニングに失敗した時は別として。2002年にしても2010年にしても、強さにやられた場面はほとんどなく、勝てなかった要因は、先方の組織的守備を当方の選手が判断力や技術で上回れず、点をとれなかったことにある。
そんな中で、2018年のロシア大会は過去のワールドカップと比べると異色の大会となった。いわゆるフィジカル差による失点が目立ったのだ。特にセネガル戦の2失点目は、柴崎と乾が軽量を突かれ敵にデュエル負けをしたことによる。またベルギー戦では単純なロビング攻撃をはね返し切れなかった。ただし、柴崎の精度とタイミングが完璧な射程の長いロングパスや、切れ味鋭い乾のドリブルとシュートは格段で、敵ゴールネットを再三揺らしてくれた。大会直前に急遽起用された西野氏は、時間がまったくない中で、少々守備は怪しいがベルギーからも複数得点奪える攻撃的なチームを披露してくれたわけだ。
そう考えると、あれからたったの3年で、フィジカルも遜色なく攻撃力も相応のチームを作れるようになったのだから大変嬉しいことだ(もちろん特殊な若年層大会だったことは割り引かなければならないだろうが)。だからこそ、メダル取得にすら至らなかったことが悔しくてしかたがないのですけれども。
余談ながら、フットボールの兄弟分と言ってもよいラグビーは、2015年、2019年と少数の代表選手のフィジカルを集中強化で鍛え抜くやり方で好成績を収めている。集中強化が難しい我々とは状況が異なるが、フットボールは肉体接触が必須なのだから、フィジカルも重要なことは間違いない(もちろん、それ以上に判断力や技巧でいかに他国を上回るかが重要なのは言うまでもないが)。
いずれにしても、今大会は我々にとってよい意味での分岐点になると期待したい。日本代表の監督が金輪際「フィジカルで負けました」的な情けない言い訳をしなくなる分岐点として。
2. うまくいかなかったこと
(1) スペインと比較して選手の個人能力差があった
スペイン戦、ここまで均衡した試合を経験すれば、その差は過去になく具体化できる。2010年にオランダのスナイデルに、2018年にベルギーのデ・ブライネにやられた時は、あのようなスーパースターをいかに準備するかで悩むことになった。しかし、今大会は違う。先方の名手が格段だったことは確かだが、当方も少なくとも比較するタレントは確保していた。そして、悔しいかな先方の個人能力が当方のそれを上回っていたのだが。
パウ・トーレスと冨安。冨安が、トーレスのように常にボールを持つや前線への高速高精度の展開をもっとねらってくれれば随分異なる展開になったはず。ニュージーランド戦の終盤も同様。冨安がそのような意識でプレイしてくれれば、もっと堂安や久保は効果的に働けたのではないか。また、ニュージーランド戦の軽率な反則でスペイン戦を出場停止になったのは論外。「自分がこの国で一番優秀な選手で、攻守ともに勝利への要となるのだ」と言う意識をもっと持ってもらえないものか。この大会で、最も残念だったのは冨安健洋だったことは強調しておきたい。
ペドリと田中碧。もっとペドリのように中盤から前線に鋭いパスを繰り出せなかったものか。この2人では市場価格が違い過ぎるかもしれないがw、私はとても気になった、
今回の五輪代表は、守備をかなり重視したやり方だったことで田中碧は相当後方からの挙動開始を余儀なくされた。それでも、田中碧は相手のプレスを回避できれば、クサビや敵のプレスを飛ばすパスを繰り出し攻撃の起点となった。さらには、堂安と久保に田中碧がもっとからみ、ゆっくりとした攻撃ができれば、好機はずっと増えたはずだ。
準備試合の段階で、田中碧は己が全軍指揮官を務めなければならないことは自覚していはず。たとえ、森保氏の指示が守備重視でも、オーバエージの選手達が精神的にチームをリードしてくれたとしても、堂安や久保がイケイケ過ぎたとしても、もうひと踏ん張りしてほしかったのだが。
そしてアセンシオと久保。これは言うまでもないだろう。あの思い出すも忌々しい115分、オヤルサバルの好パスを受けたアセンシオは落ち着いてターン、板倉と遠藤航のアプローチにも慌てず、インフロントキックで丁寧なシュートを打ち込んできた。今さら書くのも陳腐だが、ゴールは強引さからだけでは生まれない。
もっとも、これは大会前からわかっていたこと。スペインリーグでも、五輪代表の準備試合でも、久保はボールをもらうや強引なドリブル突破から自ら得点することばかり狙っている。自分が詰まると、格段の個人技を活かし味方へパスするが、追い込まれた後なので精度やタイミングを欠く。セットプレイでは高精度のキックができるのだから、もう少しゆっくりプレイすれば事態は随分改善するはずだが。
バルセロナの若年層チーム出身と言う経歴、技術の冴えから来る飛び級選抜、冷静な周囲観察から来る堂々とした発言。得点への意欲とよい意味での自己顕示欲。マスコミ的には格好の存在なのだろう。しかし、久保はまだ若い、このチームでも最年少だった。経験を積み適切な判断力が具備された時、我々は天下無敵のストライカを入手することになるのだろう。アセンシオをはるかに超えたストライカを。
(2) 中盤後方の遠藤航と田中碧の控えを選んでいなかった
これまた、大会前に講釈を垂れた通り、中盤後方の控えの選手層の薄さが、遠藤航と田中碧の酷使につながり致命傷となってしまった。
3位決定戦の遠藤航のパフォーマンスは忘れ難い。立ち上がりに与えたPK、FKからの2失点目、後半のCKからの3失点目、いずれも遠藤が出足で負けてしまったことによるもの。これをはっきり指摘しないのは、プロフェッショナルに対し失礼と言うものだろう。
しかし、それでもこの試合、攻撃面では遠藤は利いていた。開始早々のミドルシュート、前半林のヒールキックを受けて抜け出しフリーになりかけた逸機。後半序盤にはこぼれ球を拾って左足でまったくフリーの堂安にピタリと合わせるクロスを上げた。
失点場面を考えると、相手の動きへの対応にことごとく後手を踏んでいるわけで肉体的に疲労困憊だったことがわかる。一方で自分のペースで能動的に動ける時は、高い質のプレイを見せている。つまり、肉体的には相当厳しい状況にあったが、知性と技術は冴えており、そこでは見事なプレイを見せてくれたわけだ。それを支えた精神力には感服するしかない。けれども、そこまで中心選手を疲弊させてしまったことは、森保氏の責任が問われるべきだろう。
一方で田中碧。ニュージーランド戦の後半消耗は明らかで、延長戦に入るところで板倉と交代しベンチに下がった。その後、日本は攻めあぐんでしまった。三笘と三好が両翼に開き待機するが、そこに精度あるパスが入らない。
森保氏も反省したのだろう、スペイン戦は延長まで田中碧を引っ張った。さすがにスペインの中盤プレスの厳しさもなくなり、ようやく田中碧が前進しトップ下の三好にクサビを入れるなどパスを繰り出せる状況になり、日本が猛攻をしかける時間帯もあった。しかし、遠藤が疲れ切っており、碧のサポートをするまでエネルギーが残っていなかった。田中碧も疲労は顕著で、特に守備に回った際の対応は後手を踏んでいた。あの痛恨の失点時、オヤルサバルへの対応が僅かに遅れ、アセンシオにラストパスを通されてしまった。
このチームの編成では、クサビや敵のプレスを飛ばすパスなど、決定機を作る一つ前の仕事の多くは田中碧の担当。したがって、田中碧の消耗をいかに防ぎ、ギリギリまで活躍してもらうのが重要だと誰もが考えていたと思う。森保氏を除いて。
改めて今大会の22人のメンバ選考をおさらいしておく。比較的消耗の少ないセンタバックは2人の定位置枠に対し麻也、冨安、町田、瀬古の4人(加えて板倉)。対して運動量を要求され消耗の激しい守備的MFが2人枠に対し遠藤碧に加え板倉の僅か3人。状況によっては中山と旗手は中盤後方でも使えるが、この2人で左サイドバック要員。以上考えると、守備的MFの選手層が極端に薄く不安材料なのは上記講釈で文句を言った通りだ。
そもそも6月の強化試合で最終選考メンバに残っていた中盤後方の選手は皆最終メンバ入りしている。つまり、このポジションの他の選手はこの時点で、森保氏の選考外になっていたことになる。言い換えると、(最終メンバ18人と言う前提では)森保氏は、6月の時点で中盤後方は今回の選手達で回すと既に決断していたのだ。
18人決定と同時に発表されたバックアップの後方のフィールドプレイヤはCBの瀬古と町田、ポジションが重なる2人だった。大会直前にレギュレーションが変更となり、選手数が18人から22人に増えたところで、森保氏はバックアップのCB2人をそのままメンバ入りさせた。しかし、この時点でメンバ編成を再考し、中盤後方を厚くする手段はとれたはず。例えば、3月のアルゼンチン戦には、渡辺皓太と田中駿汰が選ばれていた。上記レギュレーション変更時に、町田か瀬古のいずれかの代わりに、渡辺か田中を選んでいれば、随分やりくりは楽になっていたと思う。
邪推にすぎないが、冨安に契約上の何か縛りがあるなりして、出場試合数が限定されていたのかもしれない。あるいは冨安の負傷がそれなりに重かったとか(6月の準備試合でも欠場が目立っていた)。それらを含め、森保氏はCBを厚めに選考した可能性はある。
さらに状況を難しくしたのは、冨安不在時のCBとして板倉を起用したこと。板倉はCBとして、すばらしいプレイを見せてくれたが、いよいよ結果的に中盤後方のバックアップが手薄となり、遠藤航と田中碧はフル稼働を余儀なくされた。22人へのレギュレーション変更時に、既に森保氏が、CBとして板倉の能力が瀬古と町田のそれを凌駕すると判断していたのだとしたら、なおさら代わりの中盤後方のタレントを選考しておくべきだったろう。加えて、スペイン戦では中山も旗手もスタメン。森保氏は、中盤後方の交代要員ゼロで最大の難敵と戦うイバラの道を自ら選択したのだ。
また既に講釈を垂れたが、1次ラウンドのリードした南アフリカ戦やメキシコ戦での、森保氏のクローズのまずさも忘れ難い。結果的にほとんどの選手が休めず90分フル稼働を強いられた。またメキシコ戦の稚拙な失点によりフランス戦ターンオーバを行えなかったのも痛かった(しかし、序盤で2-0でリードした時点で、遠藤航や田中碧を休ませる選択肢はあったと思うのだが)。
もっとも、今大会で我々は板倉という強力なCBを入手した。カタールに向けて、それで十分なのかもしれない。東京五輪の金メダルより、カタールのベスト8以上の方がずっとずっと嬉しいのだし。
もう1つ、森保氏が町田、瀬古の2人の将来性に多大な期待を寄せており、どうしてもこの麻也たちとの冒険に同行させたかった可能性もある。森保氏にとってその方が金メダルより重要だったのかもしれない。
(3) 攻撃が堂安と久保の個人技頼りであまりに強引だった
ニュージーランド戦やスペイン戦、私は妙な感動を覚えていた。堂安と久保の単身突破に興奮していたのだ。「日本人選手が個人能力で30m近く単身で前進しシュートまで持ち込んでいる」と。
過去、国際試合でこのようなドリブル突破からシュートまで持ち込める日本人選手がいただろうか。強いて言えば、若い頃の釜本邦茂と福田正博くらいだろうか。後はおよそ長駆はしなかったが、シュートレンジが人間離れしていた全盛期の久保竜彦くらいか。そう言えば、ブラジルワールドカップで、本田圭佑がそうやって強引な突破をねらっては幾度も相手にボールを渡していたことを思い出したりもした。ただ、堂安と久保建英の突破は、これら日本人としては格段にフィジカル的素質に恵まれていた諸先輩とは、本質的に異なる。2人とも肉体は鍛えぬいているが、技巧とタイミングの冴えで相手DFを置き去りにした上でスクリーンしてトップスピードで前進していくのだ。足の速さではなく技巧を前面に出した前進。
しかしね。上記したようにあまりに強引過ぎた。たまに強引な突破はいいですよ。例えば、スペイン戦の後半アディショナルタイム、堂安が強引なドリブルで突破直後な突破直後、久保がそのボールを拾いさらに抜け出しかけた瞬間、主審がファウルをとってしまい延長突入した場面。時間もなかったし、あの強引な突破の選択はありだったと思う。しかし、毎回毎回強引な突破をねらったのはいかがだったか。どうして、1次ラウンドの時のように、田中碧のクサビや飛ばすパス、あるいは遠藤航や酒井の押し上げを受けて、最後の20mのところで最大のエネルギーを発揮することを考えなかったのだろうか。
いつもいつも前に行くよりは、落ち着いてボールキープすることで全軍が休むこともできたはずだ。またちょっと溜めることで、ずっと変化を生むこともできたはずだ。
まあ、上記したように久保はしかたがないと思う。しかし、どうして堂安まで久保と一緒になって、強引に「前へ、前へ」と行ってしまったのだろうか。堂安はもう23歳、20歳になったばかりの久保より3歳年上、多くの経験も積んでいる。大会前の親善試合では、ずっと落ち着いたプレイを見せてくれていたのに。
気になるのは、これらの堂安と久保の「前へ前へ」を、森保氏が放置したことだ。サポータの私は確かに興奮したけど、監督はそれを喜んでいてはいけないでしょう。しかし、森保氏がこの2人の個人技による攻撃以上のものをねらっていたようには見えなかったのだ。
バックアップメンバから抜擢され、最前線で動き回った林。あの前線でのがんばりは岡崎慎司を思い出した。そして、技術的には岡崎より上かもしれない、もっとも岡崎ほど点が取れるようになるかはこれから、実際シュートをねらう際に肩に力が入り過ぎ、どうしても枠に飛ばなかった。長駆した後、さらに加速することができる相馬は、幾度も左サイドをえぐり好機を演出した。1次ラウンドメキシコ戦でのPK奪取は見事だった。この2人は現時点での個人能力を存分に発揮した感がある。この2人の使い方には、森保氏の意図は感じた。
しかし、他の前線のタレントたちはいかがだったか。三好も前田も上田も三笘も、ほとんど有効に機能しなかった。前田は2列目のバックアップに使われ、あの傍若無人なスプリントを活かす場面はほとんどなかった。ニュージーランド戦延長後半、三笘と三好が両翼に立ったが2人が機能する有効なパスはほとんど来なかった。2次ラウンドに入り、上田はほとんどの時間前線で孤立していた。上田が幾度か機能しかけたのが3位決定戦、ようやく自分の間合いでボールを持つことができた三笘が機能した時間帯、しかしその連係が生まれた時既にスコアは0対3となっていた。Jであれだけ猛威を奮っている三笘も上田も、森保氏は機能させることができなかった。
いや前線のタレントの活用だけではない。両翼でボールを受けた後、複数の選手の連係での崩しもあまり見受けられなかった。酒井と相馬の縦、堂安と久保の横、いずれも個人能力頼りの突破ねらい。組織的なオーバラップもインナーラップも見受けられなかった。
森保氏は攻撃については、堂安と久保の格段の個人技で何とかすると言うところまでしか、やろうとしなかった。「やれなかった」ならばしかたがないが、そうではない。「やろうとしなかった」のだ。
3. まとめに代えて
楽しかった東京五輪が終わり、Jが再開した(もっとも、ACL出場チームの試合は五輪中にも行われていたが)。欧州でも新しいシーズンが始まろうとしてる。さらには来月からワールドカップ最終予選も始まる。
本稿では、散々森保氏への嫌味を述べてきた。
ただ、最終予選を前に、改めて今のA代表を見直してみると、陳腐な言い方になるが、最終予選前のチームは史上最強感が濃厚に漂っている。南アフリカ大会のチームは前線のタレントが薄かった。ブラジル大会のチームは後方の人材が不足していた。そしてロシア大会のチームは若返りが遅れていた。今回のチームは、ややGKと左DFに手薄感があるものの、いずれのポジションにも人材が揃っている。欧州で実績を上げている選手が過去になく多いのは言うまでもない。
そして、このA代表の充実振りに、東京五輪代表が大きく寄与したのは言うまでもない。そう、そうやって整理すると、森保氏の成果を認めないわけにもいかないのだ。
と言うことで、予選展望と森保氏への評価、意見は別に述べる。
落ち着いて振り返ってみると、この世代の2巨頭の堂安と冨安が能力通りに機能してくれなかった大会とも言えるのかもしれない。ただ、しつこいが繰り返したい。采配を工夫すれば、もっとよい試合ができたのではないか。何とも悔しいのだ。
2021年07月31日
いかに2次ラウンド3連勝を目指すか
各大陸の強国がまんべんなく残ったのは、五輪が若年層大会であること、欧州南米の2強が地域選手権の直後でそちらが本命だったこと、東アジア独特の高温多湿の気候に一部強国がやられたことなど、様々な要因があろうが、グローバルなタイトルマッチ感たっぷり。何とも楽しいではないか。
そして、ここまでアフリカ(南ア)、北中米(メキシコ)、欧州(フランス)はやっつけた。あとはニュージーランド(オセアニア)とブラジル(南米)をやっつけて全地域を制するのみ。
ニュージーランドは開幕戦となる韓国戦に1-0で勝利(番狂わせ的な印象が強い勝利だった)。その後ホンジュラスには2-3で競り負けたが、最終戦のルーマニアには0-0で引き分け、しぶとく2次ラウンド進出を決めてきた。
もちろん、油断は禁物だ。ニュージーランドと言えば、2010年南アフリカワールドカップが記憶に新しい。プレイオフでバーレーン(ミラン・マチャラ氏が率いており日本も結構苦戦した)に競り勝ち本大会へ。そしてスロバキア、パラグアイ、イタリアと3引き分けで1次ラウンド敗退するも、唯一の無敗国と話題になった(パラグアイはその後1/16ファイナルで我々の前に立ち塞がった。)
常識的には戦闘能力的には当方が格段に上だろう。とは言え、初戦の韓国戦で守備を固めてワンチャンスをものにして韓国を破ったと言う。フランスのように中途半端に前に出てきてくれれば、田中碧の展開で崩せるだろうが、南アフリカのように引かれると厄介な展開になる。ただ日本は、上田の調子が上がってきており、久保は相変わらずよく点をとる。南ア戦のように敵速攻をケアした戦いをすれば、どこかで仕留めることはできるだろう。油断することなく、しっかりと勝ってほしい。
ではニュージーランド戦、そしてそれ以降、日本はどのようなメンバで戦うのだろうか。
ニュージーランド戦では、酒井が出場停止。ただ、ここに入る橋岡は運動能力が高く、上下動を苦にしないタレント。酒井と比較されると、自陣での粘り強い守備や攻撃参加時の変化では劣るかもしれないが、この比較は相手が悪いと言うこと。この世代ではトップレベルの能力を誇り、レッズ時代もチーム状態が悪い時でも安定したプレイを見せていた。ほとんど心配はないだろうし、酒井を休ませられると前向きに考えるべきだろう。
冨安が復帰し、麻也との2CBはさらに安定した。ニュージーランドのトップは、プレミアで活躍するクリス・ウッドだが、この2人ならば心配ないだろう。また冨安離脱中に、2試合起用された板倉がCBとして安定したプレイを見せてくれたのは、カタールワールドカップに向けて嬉しいことだ。
最終ラインで一番不安だった左DFだが、中山がメキシコ戦で落ち着いたプレイで敵エースのライネスを止め、評価を上げた。このポジションは、A代表でも長友のバックアップがはっきりしていない。守備力が計算できる180cmある選手の確立は、カタールに向けて非常に重要。攻撃参加時も、左利きのメリットを活かし中盤のパス回しの逃げ所としてよく機能している。自クラブでも常時左DFで使われ、クロスの精度など経験を積んでくれるとよいのだが。
ゴールキーパの谷はメキシコ戦で残念なミスがあったが、それ以外は安定している。特にクロスへの対応がよい。この手の大会、最後はキーパの超ファインプレイが勝負を左右する。伸び盛りの谷に期待しよう。
中盤後方の遠藤航と田中碧は大会前の期待通り圧巻の存在感。ただ、問題が2つある。1つ目は、2人とも1枚警告を食らっていること。航の南ア戦の警告は主審のミスだった。そもそもあの場面は相手の競りかけの体制が悪く、航のファウルでもないように見えた。しかし能力が低い主審と当たるのは若年層世界大会では仕方がないこと。通り魔に会ったようなものだ。碧のメキシコ戦の警告は、いわゆるデュエルの結果で仕方がないか。準決勝をこの2人不在で戦う事はあまり想像したくないのだが、それを確実に避けるためにはニュージーランド戦を休ませるしかない。さらに厄介なことは2人とも警告をもらっているから、両方とも休ませる選択が難しい。油断をすると言う意味ではなく、戦闘能力で当方が優位と思われるニュージーランド戦、スタメンを航ではなく板倉で行く選択肢はあると思うが、それはやり過ぎだろうか。
2つ目の問題は、田中碧不在時(出場停止と言う望ましくないケースと、休ませると言う積極的なケースがある)のバックアップの目鼻が立っていないこと。遠藤航不在時は、板倉を同じポジションに起用すれば、中盤で激しいボール奪取としっかりした持ち上がりを見せてくれるだろう(もちろん遠藤航ほど効果的でないかもしれないが)。いや、麻也、冨安、酒井、堂安、久保と言ったタレントにも、交代する選手は揃っている。こう言った中心選手が不在となれば戦闘能力が落ちる(先ほど遠藤航と板倉を比較したように)が、やり方は変える必要がない。しかし、碧がいなくなれば前線の堂安や久保に精度の高いボールを通す選手はいないから、異なるやり方を考えなければならない。常識的には、碧の代わりに板倉を入れて堂安や旗手の位置を少し後方に下げるなどが考えられる。その場合、上田と林の2トップにしたり、久保と三笘を両翼にする3トップなども考えられるかもしれない。ただ、問題はそのような試行を準備試合ではほとんど行っていないことだ。スペイン戦で、碧を外し板倉と航を並べたが、強豪相手の最終テスト的な試合となり、やり方のトライアルとはとても言えなかった。6月の強化試合を選手選考に使ってしまい、やり方を増やすことを怠ったツケが出なければよいが。
興味深いのは攻撃ラインをどう編成するのか。日本の攻撃陣は皆好調。攻撃的MF陣は堂安、久保は言うまでもないが、相馬は縦抜けを再三見せてPKを奪うし、三好も知性と技巧を感じさせる得点を決めた。そして旗手は独特のキープから攻撃のアクセントとして面目躍如。FW陣も、林の岡崎風がんばり、前田は俊足を活かしとうとう点をとり、上田は枠に2発飛ばした。そして、Jリーグを席巻しているドリブラの三笘はまだ本調子ではないが、何かこう秘密兵器感が漂うよね。オプションはたっぷりある。日本のこの手の代表チームで、ここまで誰を出してよいかわからない的な、潤沢なタレントを豊富に持てた時があっただろうか。
しかしここは議席は4つ。もちろん、フランス戦のように勝っていれば、久保や堂安を休ませる選択肢は取りやすい。しかし、もしどうしても点をとりたいときに、森保氏は久保や堂安を外して、他のバラエティあふれるタレントを使う決断ができるだろうか。
誠にめでたいことに、森保氏への嫌味も迫力が減ってきたようだ。よいサッカーを見せ、堂々の3連勝を期待したい。
2021年07月30日
高倉カテナチオからの切り替え
敵にボールを奪われると(最近の流行りことばでいえば「ネガティブトランジション」)、各選手はボールの再奪取をねらわず、後方に引いて4DF-4MFのライン形成を心掛ける。再奪取をねらわないので、敵は攻撃起点を作りやすくすぐに攻め込まれることが多いが、第一波をしのげば人数が揃っているので、それなりに守れる。特に熊谷と南の2CBは位置取りもよく、強さも高さもある。
例えば英国戦の後半、日本は中盤から抜け出せず、終始攻め込まれる展開となった。それでも熊谷を軸とする守備ラインは、勇猛果敢にクロスや裏抜けに対応。決定的なシュートはほとんど許さなかった。唯一の失点は、英国の大エースのホワイトの絶妙としか言いようなバックヘッドによるものだった。ただ、このホワイトの妙技もGK山下が中途半端な飛び出しをしてしまったから入ったもの。さらにこの場面のブロンズのクロスにしても狙いすましたものではなく偶然的なもの。日本にとってはかなり不運な失点だった。
カナダ戦の失点にしても、前半開始早々に押し込まれた時間帯でよい縦パスが入り、えぐられたところで、カナダのレジェンドのシンクレアの絶妙な位置取りから決められたもの。試合後、熊谷が「あのようなクロスへの対応は相当練習していたのに」と悔しがっていた。ただ、カナダ戦に関しては、その後の時間帯であの場面ほどの縦パスは出てこなかった。おそらく、あの縦パスはかなり偶然のものだったのだろう。
チリ戦でも後半バーに当たったヘディングシュートがゴールラインを割っておらず救われたが、あの場面はGKとDFの信じられないパスミスが連続して起こったための決定機だった。
そうこう考えると、今回の女子代表の守備は相応に強いことが、改めてわかる。
しかし、この守備が本当の強豪国に通用するかどうか。
上記したように、ボールを奪われた直後に再奪取にいかない以上、そこからの攻め込み第一波で崩されてしまうリスクはある。これまではその第一波を熊谷と南で防ぐことができていた。これは、カナダにせよ英国にせよ、攻撃の精度、スピード、変化、アイデアが、格段のものではなかったからとも言える。問題は、開幕で合衆国を3-0で破ったスウェーデンの攻撃力次第となる。
さらに別な問題がある。英国戦の後半、日本は中盤をほとんど抜け出せなかった。これは英国の選手との体格差によるものではなく、位置取りや連係の差に思えた。上記したように、日本の守備網は4DFと4MFが素早く後方に引くことが基盤になっている。そのためか、一度ボールを奪ってからの押し上げが悪い(ポジティブトランジション)。一方英国は日本にボールを奪われるや、すぐに近くの選手が再奪取にかかる。そして周辺の選手はそのポイントを中心にサポートに入る。瞬間的な技巧は日本の選手の方が優れているから、最初のアプローチを外すことができる。しかし、数的優位を作るスピード、つまりサポートに入る早さに格段の差があり、すぐにボールを奪われてしまった。あれだけ中盤を制圧されてしまっては、いくら守備が固くてもいつかは崩されてしまう。
一方カナダ戦は、英国ほどサポートの早さがなく、日本はそこそこ攻め返すことができた。しかし、サポートが遅いから、前線で多くの選手が孤立。有効な攻撃回数は限られたものになった。同点弾が、後方に引いた長谷川の正確なフィードを、岩渕が巧みな個人技で決めたわけだが、サポートに課題を抱えるチームらしい得点だったとも言えよう。
このサポートの遅さが、今回のチームの最大の課題なのだ。
チリ戦にしても、押し込んでいるが何かイライラ感がつのったのは、ボールを持った選手に対して、周囲の呼応が遅いから。せっかく敵陣で敵ゴールを向いてボールを受けられても、結果的に各選手が一拍置き、単身突破を狙う事になる。そうなると緩急の変換などあったものではないから、単調な攻めかけになり、人数をかけたチリ守備網にひっかかることとなった。
岩渕と長谷川を筆頭に、日本選手の攻撃技術は鋭いものがある。杉田、塩越、遠藤、木下、椛木、みな自分の間合いでボールを持てば、それなりの突破が期待できる。しかし、周囲のサポートが遅いから、自分の間合いでボールを持てないのだ。
強敵スウェーデン戦。何とも陳腐な結論となるが、ボール保持時のサポートをいかに早くするかが勝敗の鍵を握る。どうして日本代表にこんな講釈を垂れなければならないかはさておき。
マイボールになったら、周囲の選手はすぐにキープする選手をサポートする。そこで拠点を作り、田中美南なり岩渕なり長谷川に当てる。彼女たちがキープしたらすぐにサポート。そうしてこの3人で敵陣に新たな拠点を作る。そうすれば、清水や林が追い越せる時間が作れる。そこにまたサポート…
スウェーデンの選手が、高倉氏が構築したカテナチオを破れるか。日本の選手が、高倉氏の指示したカテナチオから素早く切り替えて攻撃に参加できるか。
ワールドカップでも、1次ラウンドは重苦しかったが、2次ラウンドのオランダ戦の攻撃は鋭さを増すことができていた(不運な失点から敗れることになったが、それはそれ)。地元大会でのプレッシャはあっただろうが、2次ランド進出で最低のノルマは達成した。
今こそ、各選手には思い切りのよさを発揮して、持ち前の技術を活かすべくサポートの早さを徹底してほしい。そうすれば活路は開けるのではないか。
2021年07月28日
東京五輪2連勝の愚痴
本稿は、五輪開幕2連勝を当然と捉え、それでも細かな点で監督批判をネチネチ言える時代が到来したことを喜ぶ、老サッカー狂の屈折した感情発露である。
初戦の南アフリカ。一部の選手がCOVID-19陽性判定となり、試合そのものの成立すら心配された。それもあったのだろう、5-4-1とガッチリ守備を固めてきた。日本はまずい奪われた方をして失点しないよう慎重に試合を進める。準備試合のスペイン戦で、再三強引な持ち出しに失敗して、敵の速攻を許した久保も無理をしない。それでも、田中碧が僅かな隙間を見つけて縦に通すパスと、堂安と酒井宏樹の連係で右に拠点を作って、左に展開する攻撃は効果的。幾度も三好が左でフリーになる。しかし崩し切れずに0-0で前半終了。
後半に入り、日本はさらに圧力を高めるが、GKウィリアムズが大当たりでどうしてもゴールネットを破れない。それでも55分を過ぎたあたりから、日本の左右の揺さぶりに、南ア守備陣がついていけなくなってくる。そして、72分ついに日本は先制に成功。左サイドから田中碧が正確なサイドチェンジ、右サイドでフリーの久保が、見事なトラップから鋭く中に切り込み、左足でファーサイドに強烈に決めた。再三の攻撃で、敵DFを中央に寄せておいて、パス能力に優れた碧、技巧と強引な得点意欲の久保、2人の個人能力で崩すことができた。
ここまでは完璧だったが、終盤南アの無理攻めに冷や汗をかくことになる。久保が先制する直前、日本は攻撃強化のために、林→上田、中山→旗手の交替を準備していた。ところが、待機中に先制に成功。当然作戦変更すべきだが、森保氏はそのまま交替を実施。そして、南アが無理攻めに来ているにもかかわらず、旗手と上田は漫然ともう1点をとりに行く。ここは、落ち着いてボールを回し敵を焦らすなり、敵を引き出して裏をとるなりしたいところだったのだが。事態改善のためか、森保氏は、堂安に代えて町田を左DFに起用、旗手を中盤に上げる。しかし、相変わらず上田も旗手も、さらにその前に交代起用されていた相馬も前に行きたがり、日本は前と後ろが分断された形になり、終了間際には危ないシュートを打たれる局面もあった。一体、森保氏は交代選手にどのような指示をしていたのだろうか。
続くメキシコ戦。日本は最高の前半。立ち上がりに酒井→堂安→久保と個人能力の高い選手の技巧がつながり先制。世界中のどんな守備陣でも崩せそうな攻撃ではないか。動揺したメキシコ守備陣に対し、林の巧みなポストプレイから、相馬が独特の長駆後の加速で切り裂きPK、堂安が冷静に中央に決めて突き放す。そして、前半半ばから落ち着いて引いて守り、危ない場面を作らせず、時に速攻を繰り出す。
そして後半、中山と酒井に完全に止められていたライネスとベガの両ウィングをメキシコが諦めた直後、日本の速攻が炸裂、フリーで抜け出しかけた堂安を倒され、バスケスは退場となる。この時点で事実上勝負は決したのだが、森保氏が稚拙な采配で事態を悪化させた。
局面を打開したいメキシコFWは日本に時間稼ぎをさせぬためにフォアチェックを継続、当然ながら人数の少ないメキシコの中盤には隙ができるから、航と碧は余裕をもってボールをつなげる。ところが、79分に投入された上田と三笘は何を考えているのか、そこから強引に攻めかける。この2人は2-0のまま試合を終わらせることではなく、明らかに自分で得点を奪う事しか考えていなかった。その後は、前線が急いではボールを奪われ、メキシコにファウルをとられ、セットプレイで危ない場面を作られる、と言う残念な展開の連続。さらに疲労が目立つ久保を交代させないのも不思議だった(旗手や橋岡に代えれば守備強化になったはずだ、それとも森保氏はどうしても3点差にしたかったとでもいうのか)。FKから失点し1点差とされたのは結果論。過程が悲しかった。そもそも、この試合のフィールドプレイヤの控えは、橋岡、旗手、三好、三笘、上田、前田。守備要員は橋岡だけと言う体制。そもそも、スコアが劣勢でどうしても点をとりたいときに、堂安や久保は代えづらい事を考えると、これだけ攻撃ラインの控え選手を並べたのはどう言うことなのか。
短い期間で6試合を戦い抜かなければならない大会。少しでも消耗を避けながら、試合をクローズすべきなのに、2試合続けて交替選手が点をとりに行ったのには呆れてしまう。準備試合ならば、選手のアピールも理解できなくはない。また、褒められたことではないが、開幕戦は選手も少し舞い上がったこともあったかもしれない。しかし、前の試合の反省がまったくなく、2試合続けて終盤バタバタしたのは何なのか。森保氏は何を考えているのか。
2連勝はやれやれだが、金メダルを目指すためには芳しい状態ではない。2次ラウンド進出はかなり優位だが、フランスはに2点差で負ける訳にはいかず、ターンオーバは取りづらい。(これまでのフランスの戦い振りを見る限り、戦闘能力で日本が上なのは明らかだが)。航、碧、酒井、堂安、中山と5人も警告を食らっている。さらに冨安負傷のために、板倉をCBに起用していることもあり、チームの強さの源泉とも言える航と碧の控えは全く不明瞭。消耗が多いこのポジションの2人を一切休ませず金メダルまでたどりつくつもりなのだろうか。
まあ、五輪の1次ラウンドで2連勝しながら、監督の采配詳細に文句を言えるのだから、幸せな時代になったものだ。そして、そのような詳細手違いがあっても、麻也とその仲間たちは粛々と勝ち進み、最高の色のメダルを獲得してくれるに違いない。
一方で、このような七転八倒を皆で経験していく事が、将来のW杯制覇につながるのは間違いない。ただし、その道のりは決して直線にはならない。紆余曲折を繰り返しながら、少しずつ前進するしかないのだ。フランスはワールドカップ創設を主導したジュールリメ氏の下、第1回大会から出場したが世界制覇に68年かかった。スペインは第2回が初出場なので76年かかっている。我々は初出場から、まだ23年、悠々と悩み続ければよいと思う。齢60歳の私は究極の果実を食べられないだろうが、それもよし。
2021年07月22日
女子代表五輪開幕、あまりに残念な内容
一方で、地元で行われる五輪に向けて、ワールドカップを経験を積む大会と、割り切ったと言う考え方もある(私はその考えには反対だが)。しかもこの五輪に向けては予選もない。さらにワールドカップ後は、昨年3月に米国で行われた国際大会では全敗したところでCOVID-19禍で強化が困難になった。今年に入り、親善試合での強化が行われたが、日本に呼んだ国々の戦闘能力が非常に低く評価のしようがない試合が続いた。もちろん、18年のアジアカップ(兼ワールドカップ予選)、アジア大会、19年の東アジア選手権のアジアの3タイトルを獲得したことに言及しておかないと公平さを欠くかもしれないが。
結果として、高倉氏の監督としての評価は、目標の五輪本大会でしか判断できないことになってしまった。そして、カナダとの初戦、大変残念な試合だった。
誤解されては困るが、カナダは決して弱い相手ではなかった。連続銅メダルを獲得している実績もあり、引き分けたことは決して残念なことではない。しかも後述するが、開始早々の失点やPK失敗もありながら、エース岩渕の得点で追いついた結果は悪くなかった。
カナダのCBのブキャナンは1対1の対応が見事だったし(彼女が固めるペナルティエリア内、日本はとうとう崩せなかった)、右バックのローレンスの球際の強さと前進も効果的、ボランチのクインは頑健で配球も上手、そして大ベテランのシンクレアの優雅なプレイは健在(代表300試合、187点目とのこと)、先制点時の低いクロスへの合わせ方の見事なこと。
カナダはよいチームだったけれども、日本の内容がひどすぎた。およそ組織的な攻撃は見られず、選手の個人能力に頼るばかり。初戦での緊張感とか、コンディションをこれから上げていくのではとか、悪いなりに勝ち点1とか、そのような議論ではなく、各選手が攻撃時に連係をまったく作ろうとしないのだから(そして、少なくとも国内クラブ所属選手は、自分のクラブの試合で様々な連係を見せてくれているのだから)、これは監督の責任だろう。
従来から、高倉氏の監督としての能力に疑問を向ける意見は多かった(上記の通り、私も疑問に思っていた)。そして、よりによって目標とする大会が始まって、その問題が誰の目にも明らかになってしまったことになる。
試合を振り返ろう。
立ち上がりの失点、カナダの激しいプレスに押し込まれ、ハーフウェイラインを越えられない時間帯だった。連続して左右のオープンに鋭く正確な縦パスが入り、簡単に裏を取られる。そして2回目(日本から見て)左を完全にえぐられて、巧みな位置取りからシンクレアに決められてしまった。
こんな鋭い攻撃を継続されたらどうしようもない、これは何点取られるかわからない、と心配したのだが、カナダはそこまでは強くなかった。この先制直前の鋭い連続縦パスは、やや偶然だった模様。失点後、日本が落ち着いた以降は危ない場面はなかった。試合後、高倉氏や選手たちが「立ち上がりがよくなかった」と語っていたようだが、あれは相手を褒めるしかない。
前半の日本、失点後は落ち着いてボールを回す。しかし、ハーフウェイラインを越えても、最後の30m以降に工夫がなく、ほとんど崩せない。岩渕が前を向けば好機となりかけるが頻度が非常に少ない。これでは、長谷川なり中島なりが、どこかで相当無理をしないと苦しい印象があった。
後半立ち上がり、菅澤に代えて田中を投入。このチームでの菅澤は、いつも中央で味方の縦パスを待つ役割で、浦和でのように奔放に動いたり、強引に裏をとるような動きが少ない。しかし、エースとして最前線を任せている菅澤を、何か不完全燃焼のまま前半で見切る采配には驚いた。上位進出を目指そうと言うからには、エースストライカ候補の扱いには、神経を使うべきに思うのだが。
後半開始早々、左サイドでうまく裏を突いた長谷川が、DFラインとGKの間にボールを入れ、田中が走り込み、敵GKラビに倒される。テレビ桟敷で見ていても明らかなPK。しかし主審は田中の反則をとり驚いたが、VARでPKとなった。ここで、田中との交錯で負傷したラビへの治療で数分時間が空く。ところが驚いたことに、PKキッカーの田中はその間数分間にわたり時間が空いたにもかかわらず、それをずっと待って何もせず待つのみ、チームメートとボールを蹴って感覚を維持することすらしない。そして、つらそうな表情でゴールライン上にポジションをとったラビに対峙した田中はいきなりPKを蹴って失敗してしまう。自分をリラックスさせたり、キックの感触を確認する、田中が当たり前のことができないことはショックだった。重要な初戦での緊張だろうか。それにしても、主将の熊谷も、ベテランの岩渕も、そのあたりの常識を理解していないのだろうか。もちろん、そのような指示もできないベンチは論外なのだが。
その後も日本は中々有効な攻撃ができないし、守備もおぼつかない。
敵にボールを奪われると、中盤の4人がそこで奪い返そうとせず、DF4人と4-4のラインを作り直すことばかり意識しているからだ。ボールを奪われた後、日本の選手は敵の配置を考えずに、自分の都合でライン再生しか考えない。そのため、カナダのパスの精度がそれほど高くなくても、簡単に前線の起点となる選手につながれてしまうのだ。幸いに大ベテランのシンクレアが交替したため、危ない場面はあったが、守り切ることができた。そりゃ、8人のラインを早々に築けば、第一波をしのげば守れる。
しかし、そのような守備をしていれば、90分を通して最終ラインの押し上げが遅くなるのは当然のこと。その結果、最後の30mまで前進しても、後方からDFが押し上げたり、オーバラップを仕掛けたりしないから、パスコースが増えない。タッチ沿いに展開しても、ボランチか流れてくるFWしか選択できないから、ブキャナンに簡単に読まれてしまう。それでも岩渕や長谷川など、個人技に優れた選手は勇気をもって仕掛けるが、組織力皆無で個人能力頼みの貧困な攻撃となる。
こんな非組織的な日本代表は、未だかつて見たことがない。
まあ、それでも縦パス一本で裏を突いて、同点弾を決めてしまう岩渕は凄かったですけれど。
これだけ非組織的なサッカーでも、難敵カナダ相手にそこそこ好機を得たのだから、各選手の個人能力は中々のものだと、改めて理解できた。1970年代から少しずつ普及してきた日本の女子サッカー。かつての選手達の献身と努力で知的で技巧的なチームが世界制覇して10年が経った。あの世界制覇により、さらに女子サッカーの普及、強化が進み、若年層大会での好成績は当たり前のこととなった。今日も非組織的な残念なサッカーだったが、その悪環境下、熊谷と岩渕のリードの下、いずれの選手も見事な個人能力を見せてくれた。知性と経験はさておき、各選手の単純な技巧とフィジカルは10年前を上回るものがあるかもしれない。
そして、この女子サッカーの黎明期の80年代から90年代にかけて、選手高倉麻子はたぐいまれな努力で、この苦しい期間を支えてくれた。間違いなく、日本サッカーのレジェンドの1人なのだ。そして高倉氏は早々にS級ライセンスを獲得し、2回の若年層ワールドカップで好成績を上げている。その高倉氏を、栄光に包まれた佐々木則夫氏の後任に抜擢した日本協会の気持ちはわからなくもない。
それはよくわかっているが、選手や若年層チームの監督としての能力と、大人の代表チームの監督としての能力はまったく異なる。残念ながら、高倉氏は大人の代表チームを指揮し、チームに組織力を植え付ける能力には恵まれていないようだ。
とは言え大会は始まってしまった。今からできることは限られよう。それでも、地元での貴重な五輪。WEリーグ開幕を控え、女子サッカーの人気を高める絶好機。いかに選手達の能力をフルに発揮させる環境を作れるか。不運なことに日本協会の女子委員長の今井純子氏は、必ずしも技術畑の人ではない。田嶋会長や反町技術委員長が、男子の戦いをフォローしながら、いかに女子代表にも目を配れるか。難しい舵取りが要求されそうだ。
2021年07月20日
五輪代表は金メダルをとれるか
先日のアルゼンチン戦もそうだったが、判断力、技巧、フィジカル、我らがタレント達は世界のトップ国と遜色ない個人能力を持つ。加えて、冨安健洋、田中碧、堂安律と言った傑出した個人能力を発揮できる若者達が多数。誠に結構な時代になったものだ。
これだけタレントが揃えば、当然ながらメダル、それも最もよいい色のメダルを期待したくなる。
1.ここまでの準備
今回の五輪代表の準備はうまく行っていなかった。19年11月に実施したコロンビアとの強化試合は、(冨安こそ不在だったが)堂安や久保建英を呼び、チーム強化の集大成的な姿勢で臨んだが、中盤後方の弱さを徹底して突かれ惨敗。さらにその後の20年1月のU23アジア選手権では、守備ラインの信じられないミスなど残念な試合振りで、散々な結果。
この時点で、数か月後の五輪に向け、冨安以外定位置確保感のある選手がおらず、地元五輪を前に怪しげな雰囲気か漂った。予選なしでのチーム作りの難しさと言おうか。
ところが、COVID-19により五輪は延期。この疫病禍での1年延期が、不謹慎ながら不幸中の幸いとなる。五輪世代の多くの選手がJで大活躍したのだ。特にフロンターレの田中碧、三笘薫、旗手怜央の3人は、高い技巧で自クラブのJ制覇に貢献、また上田綺世、瀬古歩夢、林大地、前田大然、橋岡大輝らの成長も耳目を集めた。同様に欧州でも菅原由勢、板倉滉が活躍。そして何より堂安律がブンデスリーガで中堅チームの完全な攻撃の中心としてフルシーズン活躍、すっかり逞しい攻撃創造主に成長してくれた。
そして、迎えた3月のアルゼンチンとの準備試合。初戦こそ完敗だったが、出場停止だった田中碧が、第2戦起用されるや全軍指揮官として圧倒的存在感を発揮し、日本を完勝に導いた。冨安も堂安もオーバエージも抜きで、世界最強国に完勝したのだ。
その上で、オーバエージに、吉田麻也、遠藤航、酒井宏樹を選考。麻也、冨安、航、碧で構成される中央の守備ブロックの堅牢さと前線への球出しの質は、A代表を含めても日本サッカー史上最強かもしれない。期待は大いに高まってきた。
2. オーバエージ
上記した麻也、遠藤、酒井の3人はいずれも経験豊富な強者で、この3人を軸にした堅牢な守備は大いに楽しみ。ただ、ちょっと気になっているのはゴールキーパにオーバエージを起用しなかったこと。谷晃生も大迫敬介もよいキーパだし、鈴木彩艶の素質も疑いない。しかし、このポジションは特に経験が必要なポジション。
加えて、麻也とかぶるCBは、冨安と言う格段のタレントがいて、板倉、町田浩樹、瀬古とよい選手が多い。同様に酒井の右DFも、橋岡、菅原、岩田智輝、原輝綺など人材が揃っている。そのような視点から、麻也や酒井ではなく、川島永嗣なり権田修一をオーバエージとして選ぶ選択肢もあったかもしれないと考えたりする。
もっとも、準備試合での麻也の圧倒的なリーダシップや、スペイン戦で右サイドで1対2を作られくずされかけた場面での酒井の鮮やかな守備を見せられると、このメンバ選考でよかったのだとも思うのですけれどw。谷、大迫の奮戦に期待しよう。
3. 左サイドバック
A代表でも、選手層が最も薄いポジションは左DF。長友佑都は相変わらず元気でカタールまで活躍してくれそうだが、バックアップに決定的なタレントはいない。この五輪代表でも定位置確保感のある選手はとうとう登場せず、この世代のユース代表時代から主将を務める中山雄太(元々はCBが本職だがこの五輪代表では守備的MFでの起用が多かった)、川崎で左サイドバックに起用され無難にこなしている旗手怜央のいずれかが起用される。中山は、昨年のA代表コートジボワール戦で左DFに抜擢され、そこそこのプレイを見せた。中盤に起用されると、キープ力に自信がないためかせわしなく左右に展開を急ぎ状況を苦しくすることが多い。一方CBでは1対1が今一歩。そう考えると、脚力はあるから、左利きを活かせる左DFは向いているのかもしれない。先日のホンジュラス戦でも無難なプレイを見せていた。一方の旗手は、いかにも静岡学園出身らしい技巧が魅力。オーバラップよりも、しっかりしたキープ力から動き出しのよい中盤や前線の選手に正確なグラウンダのパスをピタリ通せるのが魅力だ。
ユース時代から高い評価を受けていたこの2人が、それぞれ本来とは異なるポジションで五輪代表にたどり着いたのはおもしろい。ここがピタリとハマってくれるかどうかが、どの色のメダルまで到達できるかを左右するように思える。うまくいけば、カタールW杯に向けてこれほど明るい話題もないわけで。
4. 中盤後方の輝きと層の薄さ
今回の五輪代表の最大の魅力は強力なドイスボランチにある。往時の遠藤保仁を彷彿させファルカンやピルロの域に近づいてくれないかと思わせる若き将軍田中碧。日本にもマテウスやドゥンガのようなプレイを見せる選手が登場したかと思わせてくれる遠藤航。この2人の輝きを他国に見せびらかすだけでも、今回の五輪は楽しみ。
決勝戦の勝利まで、いかにこの2人を消耗させずに戦い抜けるか。ただでさえ消耗の激しいポジションなのだし。ところが、この2人の控えには板倉しか準備されていない。中山や旗手がいるが、どちらかは左DF。また、中山はこのチームで中盤で起用されても、あまりよいプレイを見せたことはない。もちろん、板倉はとてもよい選手で、球際の強さと常識的だが正確なパスと空中戦の強さは格段、頼りになる選手だ。昨シーズン、オランダリーグ中堅どころのフローニンゲンでフル出場した実績もすばらしい。
森保氏としては、板倉、中山、旗手で、ここを回せると考えているのだろう。ただ疑問はどうしても残る。4-2-3-1の布陣で戦うとすると比較的消耗の少ないCBは2人枠に対し4人(加えて板倉)、対して運動量を要求される守備的MFが2人枠に対し3人と言うのは心配になってしまう。当初の18人登録時ならばさておき、たとえば、渡辺皓太、松岡大起、高宇洋あたりをメンバに入れておけば田中碧を休ませたり、敵の布陣や状況により攻撃的MFを1枚削り4-3-3に切り替えるやり方もとりやすかったと思うのだが。今更言ってもしかたがないが、アルゼンチン戦での渡辺を除き、この手のつなぎや拾うのがうまい中盤タレントがほとんど選考されず、板倉や中山のようなユーティリティ系の選手を優先して試していたのが仇とならなければよいが。まあ、この手の大会は、このように監督の選手選考に文句を言うのが楽しいのですが。
もっとも、大会の勝負どころで、冨安を航と碧で中盤を組んで来たりしてねw。
5. 最前線
冒頭で、不謹慎ながら1年延期が日本に幸いしたと語ったが、その最大の恩恵はFW陣だろう。
上田綺世も前田大然も林大地も、既にJを代表するストライカだが、五輪が1年前だったら、3人ともまだまだの存在だった。それぞれ紆余曲折があったが、昨シーズンを通した活躍があって、ここまでの評価を得たのだ。
林はホンジュラス戦もスペイン戦でも、強引にシュートに持ちだす場面と、味方を使う選択がよかった。あれだけ精力的に守備を行いながら時にシュートまで持ち込める。北京五輪後に一気に成長した岡崎慎司を思わせる活躍だ(そして技術は岡崎より上に思える、だからと言って岡崎より点をとれるかどうかはまったく別な話だが)。
前田は、その格段のスプリントをリードした試合で前線で役立てる役割となりそうで、ホンジュラス戦の3点目のような活躍が期待できる。スペイン戦ではサイドMFに起用され、よく機能していた。
そして、上田の低く沈む強いシュートが格段なのは言うまでもない。しかも、このストライカの魅力はそれだけではなく、位置取りの巧妙さや、ラストパスに合わせる加速のタイミングなど多岐に渡る。
この3人は協力して金メダルを目指し、大会終了後A代表の数少ないFW枠を大迫勇也らと争うことになる。
6. 堂安律と久保建英と三笘薫
落ち着いたキープから、読みづらいパスとシュートを操る堂安律。素早く正確なボールタッチで敵DFを抜き去り、強烈なシュートが打てる久保建英。魔術師のような緩急で敵DFを抜き去り、落ち着いたシュートを決める三笘薫。攻撃的MFには、このきらめく3人に加え、日本人には珍しく長駆した後さらに加速が利いて縦にえぐる突破が格段の相馬勇紀、鋭いドリブルを仕掛けながら正確なラストパスを繰り出せる三好康児もいる。
一方で、堂安、久保、三苫と並べると次々と相手を崩せそうな気がしてくるが、この3人を並べたジャマイカ戦では連係の妙は見られなかった。これは、久保と三笘がまだ十分成熟していないためだ。
三笘はフロンターレでプレイするように自分得意の間合いに入りたい選手。ところが真ん中の前田や久保がどんどん左に流れてくると得意のドリブルができない。結果前線でキープしてもはたくばかりで、あの魔術師ドリブルが発揮できない。三笘の選択肢は2つある。久保に「流れてくるな」と言うか、久保が流れたら中央に位置取りする(ジャマイカ戦で上田にスルーパスを通したように)、それを主張しなければ本当の超一流選手には届かないのではないか。
一方の久保は、誰に何を言われても気にせず、当面は天井天下唯我独尊を貫くのだろう。久保はフィジカルも強いし守備もさぼらない。けれども、一度ボールを持つと(いや正確に言うとボールをもらう動きをする時から)、自分本位のプレイを選択する。でも、それがよい。強引に自分のリズムでドリブルし、シュートまで持ち込み、それなりの確度で決め切るのだから。最近の久保のプレイを見ていると、本田圭佑的な雰囲気を感じるw。まだ20歳、繰り返すがそれでよいのだ。もちろん、強引に行き過ぎてボールを奪われ、敵の速攻を許すリスクもあるのだが、それも経験と割り切るべきか。
もちろん、森保氏が選手配置に工夫するやり方もあるはず。例えば、3トップにして左ウィングに三笘を起用する。板倉か旗手か冨安を中盤に起用し、右ウィングに堂安。あるいは堂安を中盤に下げ、右は相馬、前田、橋岡など。つまり、久保をベンチにおいて、勝負どころで起用するとか。
7. 結びに代えて
ホンジュラス戦後半の攻めあぐみは貴重な失敗経験となった。2-0で勝っているのだし、ゆっくりボールを回したいところだった。ところが中盤や最終ラインから中央に拘泥した縦パスが通るのだが、後方からのサポートが遅れているにもかかわらず。久保を中心に前に前に急ぎ過ぎ簡単にボールを奪われ続けた。
高温多湿、中2日の価格な6連戦を勝ち抜くためには、押し上げが利かなくなったり、リードして無理する必要がなくなった時間帯、逆にリードを許し敵が多人数で最終ラインを固めてきた折は、ゆっくり落ち着くのが肝要。そしてこのチームには20代前半で、そのような攻守のリズムを中盤で、適正に操れそうな田中碧と堂安律がいる。2人が、あのホンジュラス戦後半の失敗経験を活かすことができるかどうか、それが金メダルに到達できるかどうかを左右する。
厳しい環境下での大会、地元日本に圧倒的有利にはたらくはず。各選手が大会を通じ着実に成長し、最高の成績を収め、カタールワールドカップの礎を築いてくれることを期待してやまない。
2021年07月16日
理解できない浦和への懲罰
日本サッカー100年の歴史でも、稀に見る愚かな意思決定ではないか。不運な規約解釈のミスがあり、しかし一切実害がなかったにもかかわらず、貴重なリーグ戦の1試合の結果を無理やり変えてしまう、世紀の愚行でないか。さすがに浦和レッズも異議申し立てを行ったとのことだが、当然のことと思う。以下、本件について整理してみた。
6月20日の浦和対湘南戦(浦和が2-3で敗戦)で、浦和が出場資格の無い選手を不正出場させてことにより、日本協会の懲罰規定により、0-3の敗戦とする懲罰を受けたとのことだ。
一度決まった試合の結果を覆すと言う国内のトップレベルの試合では、ほとんど聞いたことのない厳しい罰則適用である。しかも、この罰則適用は、浦和だけではなく他のJ1クラブすべてに影響を及ぼす大事件だ。
この罰則適用を聞いて、最初は浦和がよほどひどい不正を行ったのかと驚いた。しかし、詳細を調べると不正どころか、ルールの解釈を過って認識したとしか思えない手続きミス。そして、重要なことは実害は一切ないことだ。このミスによる被害者はいない。対戦相手の湘南が迷惑を受けたり、当の浦和が有利になったこともない。
ミスとは言え、ルール違反を犯した浦和に何がしかの罰則が適用されるのは理解できる。けれども、試合結果を覆すと言う適用はどういうことなのか。試合結果が覆ることで、(得点者などの個人成績は残ると言うが)死力を尽くして戦った両軍の試合結果が反故となり、リーグ戦を戦っているすべてのチームに影響を与えることになる。
およそ、サッカー的見地から理解できない懲罰である。
まずJリーグのニュースリリースを抜粋する。
(1)指定公式検査において陰性判定を得ていない選手を本件試合に出場させた。なお、当該選手は、エントリー資格認定委員会への申請を行えばエントリー資格の認定を受けることが可能であったことがうかがわれるが、当該申請を行われなかった。
(2) 一方で、以下を考慮すると酌量すべき事情がある。、
@ 同クラブが自ら今回の事象をJリーグへ報告した
A 申請を欠いていたことについて悪意はなく、手続き上のミスであった
B 当該選手はU-24日本代表活動において検査義務を全うしている
(3) 以上より、「JFA懲罰規程〔別紙1〕3-3」により、浦和に対して対象試合を3対0の負け試合扱いの処分を科すとともに、懲罰を一部軽減し、「出場した選手」である当該選手への処分は行わず、「出場させた者」にあたる同クラブに対してけん責処分を科すものとする。
本懲罰の論拠となった罰則規定「JFA懲罰規程〔別紙1〕3-3」は以下の通り(全文掲載、こちらから閲覧可能)
出場資格の無い選手の公式試合への不正出場(未遂を含む)
出場させた者:処分決定日から1ヶ月間の出場停止
出場した選手(本協会の登録選手の場合のみ):処分決定日から1ヶ月間の出場停止
チーム:得点を3対0として負け試合扱いとする(ただし、すでに獲得された得失点差の方が大きい 場合には、大きい方を有効とする)。なお、得点又は勝ち点の減点又は無効処分については、年度 当初の競技会規程で別途定めることができる。
大変厳しい罰則である(この罰則の厳しさについては、文末で他の罰則との比較を付録3で述べる)。これは、試合に出てはいけない選手が起用された場合に適用されるので、その試合を「無かったこと」にする罰則なのだ。付随して当該選手が1か月の出場停止。理解が難しいのは「出場させた者」の1か月の出場停止、最初私はこの条文を読んだ時「出場させた者」が具体的にピンと来なかったし、今でもよく理解できていない。これについては、文末の付録1で補足する。
では、「出てはいけなかった」とは、どのような事態が想定しているのだろうか。具体的には、警告累積や退場などによる出場停止や登録手続き未完了のケースだろう。現実的にプロフェッショナルの世界であり得るかどうかはさておき、万が一このような事態となった場合にこの厳しい(試合を「無かったこと」にする)罰則が準備されているわけだ。確かに出場停止の選手を、(たとえ間違ってでも)出場させてしまったら、試合を「無かったこと」にするのは納得できなくもない。
ただし、今回のケースは出場停止や登録手続き未完了ではない。疫病禍下での安全性確保のために、厳重な検査を合格した選手でなければプレイできないと言う新ルール「各試合に対して予め指定された検査(指定公式検査)において陰性判定を得ていること」と言う規定への違反なのだ(Jリーグ戦試合実施要項、13条3-1号を武藤が意訳)。
そして、その指定公式検査を受けられなかった選手のために認定委員会制度と言うのがあり、@陽性判定者の制限解除、A公式検査と別な検査の結果、Bその他特段の事情、の3つのケースの事情を斟酌し、試合出場可能かを検討してもらう救済措置が準備されている(同3条を武藤が意訳)。
もう1点。規律委員会についても整理しておこう。規律委員会は、日本協会の司法機関組織運営規則で規定されるが、抜粋しておく。
第3条 規律委員会は、本規則等に対する違反行為のうち、競技及び競技会に関するものについて調査、審議し、懲罰を決定する。規律委員会は日本協会やJリーグの諸機関から独立した存在なのだ。現状の規律委員会の詳細については、文末の付録2で述べる。
(規律委員会の組織及び委員)
第4条 規律委員会は、委員長及び若干名の委員をもって構成する。
2 委員長は法律家(弁護士、検察官、裁判官、法律学の教授・准教授又はそれに準ずる者)でなければならない。
3 委員は、サッカーに関する経験と知識又は学識経験を有する者で、公正な判断をすることができる者とする。
4 委員長及び委員は、評議員会の決議によって選任する。
5 委員長及び委員は、本協会の評議員、理事、監事、職員又は各種委員会、裁定委員会若しくは不服申立委員会の委員長若しくは委員を兼ねることができない。(以下略)
以上回りくどく記述してきたが、浦和レッズの指定公式検査を受けていないU24代表帰りの選手(代表で必要な検査実施済みで、COVID-19リスクは指定公式検査で陰性だった選手と同じ)について、上記認定委員会申請を怠った。結果として、当該選手は出場資格のないまま対湘南戦に出場してしまった。
後日その件に気がついた浦和がJリーグ当局にその件を自己申告。そのため規律委員会で懲罰が決定したと言う流れだ。
そして、@浦和が自己申告、A悪意はなく手続き上のミス、B当該選手はU-24で検査義務を全うしている、と言う事情を酌量し、選手には罰なし、クラブには譴責、ただし試合は3対0、と言う判断となった、と言うことだ。
冒頭でも述べたが、私はこの規律委員会の決定は間違っていると思っている。
重要なのは、この手続き上のミスにより、疫病を広げてしまうリスクが高まっていないと言うことだ。本質的には当該選手は出てはいけない選手ではなかった。U24で適正な検査受領済みだったのだから。つまり結果論だが、この試合は「無かったこと」にする必要はない。浦和レッズは不適切な試合準備活動を行ってしまったが、相手クラブの湘南にも、第三者にも誰にも迷惑はかけなかったのだ。
そもそも、ルールや規定とは何のためにあるのか。サッカーと言う競技が公正に行われるためだろう。そして、今回のケースでは試合が公正に行われた。
もう1つ。今回については、ミスがあったが幸運や偶然の助けにより、リスクが高まらなかったわけではない。手続き上のミスはあったが、浦和は疫病を広げることはないことを理解したうえで、試合の準備を進めていた。
それなのに、どうして厳しい処罰をしなければならないのか。規律委員会は酌量すべき事情があったと言いながら、一番肝心なサッカーの試合に手を付ける処罰を選択しているのだ。そして、得失点差に手をつけた以上、この懲罰は浦和、湘南と言う2クラブのみではなく、すべてのJクラブに影響するものとなってしまっている。浦和が誰にも迷惑をかけないミスをした結果、すべてのクラブに迷惑がかかってしまっているのだ。正に本末転倒。
もちろん、「ルールがあるのだから、それに乗っ取って処罰されるべき、ルール上無効試合やむなし」と言う意見があるかもしれない。確かに、上記した通り、「出場資格の無い選手の公式試合への不正出場させたチームは、得点を3対0として負け試合扱いとする」と言うルールがあるのだから。
しかし、一方でJリーグ当局は「@自己申告、A悪意なく手続き上のミス、BU24検査で実害なし、から酌量する事情あり」と明言している。したがって、ルールよりは軽減された罰則適用されることになった。罰則が軽減されるならば、試合結果をいじると言う他クラブへの影響を与える重い懲罰も軽減すればよいではないか。
さらに極端なことを言えば、試合を「無かったこと」にする必要はないのだから、どうしても浦和レッズに厳しい懲罰を与えたいならば、試合結果は尊重し、シーズンを通しての勝ち点や得失点差をマイナスするとか、多額の罰金を請求するとかならば、まだ理解できなくはない。ただし、誤解しないでほしいが、以下述べるように、私は今回のケースでは浦和に対し厳しい罰則適用は不要と考えている。
そもそも、浦和の「手続き上のミス」は、どのくらい問題があったのだろうか。同時期に、A代表とU24代表で、Jリーグから多くの選手が招集された。また、約3か月前にもW杯予選、韓国、アルゼンチンとの強化試合のために招集が行われた。おそらく、浦和以外のすべてのクラブは、これらの国際試合後のJの試合で適切な対応を行っていたのだろう。そう言う意味で、浦和の今回のミスは稚拙と言わざるを得ない。ただし、あくまでも稚拙なのであり、悪質ではない。
一方で、代表チームに呼ばれ、クラブの指定公式検査を受けなかった場合への対応は、素人目には非常にややこしい(そもそも今回の懲罰で、酌量している段階で、ややこしいことを当局側が認めていることになる)。そもそも、選手を招集する立場の日本協会は、各クラブに適切なJリーグ試合への対処方法を伝達していたのか、と問いたくなるではないか。
また、今回のケースは浦和の自己申告とのことだが、言い換えれば試合前にJリーグ当局は、試合を「無かったこと」にするクラスの違反に気がつかなかったわけだ。これはこれで、Jリーグ当局は猛省すべきだし、再発防止を考えるべきではないのか。それらへの言及がまったくないと、うがった見方をしたくなる。もしかして、浦和が自己申告しなければ、Jリーグ当局は気がつく仕組みを持っておらず、未来永劫気がつかなったのではないかと。
以上クドクド述べてきたように、J当局の発表で「悪意はなかった」と断定しているのだから、問題は浦和と言うクラブの事務方の、稚拙具合と言うことになる。そして、その稚拙具合が相当だとしても、試合結果をくつがえすほどのこととは、とても思えない。
常識的には、クラブに戒告なり譴責をするレベルの話にしか思えないのだが。
もちろん、我々が知らない何かがあり、どうしても厳しい処罰が必要だった可能性を否定はしない。しかし、もしそのようなことがあったのならば、Jリーグ当局はその旨をリリースで発表すべきだろう。
さらに言えば、この試合浦和が負けていなかったとしたら、同じ裁定がくだされただろうか。いや、もしいずれかのクラブが同じ手続きミスを犯し、J当局が気がつかず、試合が行われそのクラブが勝つか引き分けるかして、試合後そのクラブがミスに気がつき自己申告したとしよう。同じ裁定(そのクラブの0対3の負け)が下されるのだろうか。
結果としては3対2で終わった試合を3対0にすると言う一見小さな懲罰に思えるかもしれない。けれども、2つのクラブ、関係者が必死に取り組んだサッカーの試合を反故にするような違反行為だろうか。私にはとてもそうは思えない。
冒頭にも述べたが、日本サッカー100年の歴史でも、稀に見る愚かな意思決定、およそ、サッカー的見地から理解できない懲罰である。
付録1 「出場させた者」とは誰のことなのか
私は上記の通り、最初「出場させた者」とはよくわからず、監督だろうかと思ったりしていた。ところが、冒頭で述べたJ当局のリリースによると、「出場させた者」は当該クラブとのこと。つまり、浦和レッズは1か月の出場停止になるところを、酌量されて譴責処分にとどまったと解釈するしかない。ところが、同じ条文内に「出場させた者」の他に「チーム」対象の処罰があり、チームとしての浦和レッズは0-3の敗戦扱いを受けることになったわけだ。当該クラブとチームは別と言う解釈も成り立たないわけではないが、その場合1か月の出場停止とは、どんな罰なのか。サッカー的にはどう考えても、1か月の出場停止は、1試合を0-3の負けにされるより格段に厳しい罰則となる。
正直言って、私にこの条文が、よく理解できないのだ(私が法律の素人だから理解できないのかもしれないが)。誰か正しい解釈を教えてください。
付録2 現状の規律委員会
現状の規律委員会は下記メンバで構成されている。
委員長 中島肇氏 弁護士
委員 高山崇彦氏 弁護士
委員 大野辰巳氏 元国際審判員
委員 大下国忠氏 一般社団法人山口県サッカー協会 規律委員長
委員 石井茂己氏 Jリーグ規律委員長
中島氏と高山氏は裁判官出身の弁護士。大野氏は90年代活躍した元国際審判員。大下氏は調べた限りでは、山口県の消防学校の校長経験者とのこと、推定だが教員出身のサッカー関係者だろうか。そして、石井氏は70年代古河(現ジェフ)で活躍した日本代表選手、大柄で粘り強い守備と攻撃参加でが巧みだった(まったく本質ではないが、石井氏は我が故郷仙台出身、私などからすると尊敬する故郷出身の名選手だ)。
本文でクドクドと講釈を垂れたように、本懲罰は間違っていると思っている。しかし、規律委員会が自信を持って行った決定だと言うならば、大野氏、大下氏、石井氏のサッカー人のいずれかが、中島氏、高山氏の弁護士同席の下、記者会見でも行うべきではないのか。
故郷の大先輩で、かつての日本代表の名選手にこのような苦言を呈するのは、残念なのだが。
付録3 懲罰の種類について
上記した懲罰規定の第4条 〔懲罰の種類〕第2項に、加盟チームに対する懲罰種類がリスト化されている。このように書かれている以上、数字が大きくなるほど、厳しい罰則と言う意味だと思われる。そして、3対0の没収試合と言うのは(9)番目にあたる、(3)罰金や(8)得点または勝ち点の減点または無効より厳しい懲罰である。そして、これより厳しい懲罰は(10)無観客試合、(11)中立地試合開催(ホームゲーム召し上げ)、(12)一定期間出場停止など、すさまじい懲罰が並ぶ。今回の判決はそのくらい厳しいものであることを、付記しておく。
加盟チームに対する懲罰の種類は次のとおりとする。
(1)戒告:書面をもって戒める
(2)譴責:始末書をとり、将来を戒める
(3)罰金:一定の金額を本協会に納付させる(詳細略)
(4)没収:取得した不正な利益を剥奪し、本協会に帰属させる
(5)賞の返還:賞として獲得した全ての利益(賞金、記念品、トロフィー等)を返還させる
(6)再試合
(7)試合結果の無効(事情により再戦を命ずる)
(8)得点又は勝ち点の減点又は無効
(9)得点を3対0として試合を没収(ただし、すでに獲得された得失点差の方が大きい場合には、大きい方を有効とする)
(10)観衆のいない試合の開催
(11)中立地における試合の開催
(12)一定数、一定期間、無期限又は永久的な公式試合の出場停止
(13)一定期間、無期限又は永久的な公的業務の全部又は一部の停止
(14)下位ディビジョンへの降格
(15)競技会への参加資格の剥奪
(16)新たな選手の登録禁止
(17)除名:本協会の登録を抹消する
(なお、戒告や譴責などの内容については道同条1項の「選手に対する懲罰」から武藤が転記している)
2021年06月02日
日本代表対日本その他代表
突っ込みどころは無数にある。五輪代表は、今回の強化シーズンで最も重要と思える博多ガーナU24戦(おそらく本大会での同グループ、フランス戦へのトライアルの意味もあるのだろう)が5日(土)に予定されている。その2日前(中1日)に(無観客とは言え、全国にTV放映がある環境下)札幌でA代表と試合、翌日日本を縦断するフライトで博多に移動するわけだ。また、既に来日してしまったジャマイカ代表の約半分の選手はどうなるのだろう(12日の五輪代表どうしの試合を含め)。さらに、A代表対五輪代表と言うと、「A代表が胸を貸す」感があるが、五輪代表の後方には吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航、そして冨安健洋が控える。さらに田中碧と堂安律がいるのだから、これはA代表の紅白戦とも思えてくる。正直言って、A代表側の選手達にはイヤなプレッシャがかかるだろうな。いや、A代表の国内組、古橋亨梧、坂元達裕、山根視来と言った叩き上げ系のタレントは、五輪代表相手だとすれば、ものすごく気合の入ったプレイを見せるかもしれない。
ともあれ、今回の日本協会の日程再設定を高く評価するものである。疫病禍下、今年後半の代表マッチデーが限られW杯予選のやり方が不明瞭な中、この6月シーズンにできる限り、スポンサ支援の国内試合(地上波TV中継付き)を実施したい。W杯最終予選に向けて、可能な限りのテストを試したい。あれこれ考えると、この札幌ジャマイカ戦のキャンセルは、今後の日程対応に、大きな障害になりかねない。そこで、このA代表対五輪代表。スポンサ対応含め短期間でうまいやり方を考えたものだ。少なくとも、TV視聴率対応を含め、皆が「大迫対冨安!」、「南野対酒井宏樹!」、「山根対三笘!」、「守田対田中碧!」などと盛り上がれるのだし。
Jリーグが開幕し本格プロ化から四半世紀以上が経ち、日本協会事務方にもプロの仕事師が増えていることを素直に喜びたい。
過去振り返ると、このような日本代表対日本その他代表と言う試合は、昔は結構行われていた。
例えば、82年スペインW杯1次予選(香港で集中開催、中国、北朝鮮、香港、マカオ、シンガポール、日本が出場、日本は中国、北朝鮮に敗れ敗退)直前の80年12月、日本代表は「日本代表シニア」と国立競技場で準備試合を行い、2-3で敗れている。当時の日本代表は、W杯出場は目標でなく強化準備の一環、80年モスクワ五輪予選に敗戦後、日本代表は当時26歳だった主将の前田秀樹を除いては、20歳前後の選手で代表チームを構成(中核の加藤久は24歳、金田喜稔は22歳)、大幅な若返りを図り、84年のロサンゼルス五輪を狙う建て付けだった。とは言え、W杯予選、中国や北朝鮮と真剣試合を戦う直前、強化試合として釜本邦茂、今井敬三、藤島信男、小見幸隆、碓井博行と言った経験も実績も格段の選手達で構成される「日本代表シニア」と日本代表が戦ったのだ。これも1つの歴史である。ちなみにこの「シニア」で香港での予選を戦えばよかったのではないかとの…いや、違う、香港での予選、日本は金田、戸塚哲也、風間八宏の3人の技巧的中盤と木村和司の切れ味鋭い突破を、アジアで初めて披露する大会となったのだから。
例えば、88年ソウル五輪予選(最終予選で日本は中国と事実上一騎討ち、敵地広州で守り勝ちし、ホーム国立で引き分ければ五輪出場だったが0-2で完敗し敗退)直前の87年4月、日本代表は「日本リーグ選抜」と国立競技場で準備試合を行い、0-1で敗れている。「日本リーグ選抜」は最終ラインを(代表に選考されなくなっていた)岡田武史が引き締め、中盤は(まだ日本に帰化していなかった)ラモスがリード。さらに「日本リーグ選抜」の最前線は藤代伸也、吉田弘、ガウショ、高橋真一郎と言ったJSLのトップストライカ達。一方、日本代表は経験豊富な原博実はさておき、手塚聡、浅岡朝泰、武田修宏と言った経験と技巧に乏しい選手達。毎週JSLを堪能している日本代表サポータとしては非常に複雑な思いを抱く試合だった。
例えば、98年あのフランスW杯最終予選。初戦のカズ大爆発のウズベク戦の約10日前の97年8月、日本代表は「Jリーグ外国人選抜」と浦和駒場で準備試合を行い0-0で引き分けている。「外国人選抜」の主要メンバは、ジウマール、ブッフバルド、スコルテン、セザル・サンパイオ、バウド、エジウソン、エムボマら。これだけのスタア選手との試合だったが、日本代表の抱えているものが重すぎた。ブッフバルドらも、その重さは理解していたのか、花相撲とはほど遠い重苦しい試合で、0-0で終了した。
この札幌の試合がどのような流れになるのか。各選手によい経験となり、我々サポータが存分に楽しめることを期待したい。いや、それは贅沢かもしれない。まずは、選手達に負傷がないことだけは祈りたい。
2021年05月28日
今日はミャンマー戦
A代表がW杯予選3試合と強化親善試合2試合。五輪男子代表の強化親善試合が2試合、女子代表の五輪に向けての強化親善試合が2試合。合計9試合が、この20日間で行われる。29、30日はJ1が行われ、各週にはJ2も継続開催される。贅沢な日々が続くことに感謝しよう。
さて、この9試合を列記してみた。某WEBサイトを参考に自分用のメモとして整理したものだが、間違ってないといいなw。
5月28日(金)19:20 A W杯 ミャンマー 蘇我
6月3日(木)19:30 A 親善 ジャマイカ 札幌
6月5日(土)19:25 五輪 親善 ガーナU-24 博多
6月7日(月)19:30 A W杯 タジキスタン 吹田
6月10日(木) 15:15 女子 親善 ウクライナ女子 広島広域
6月11日(金) 19:25 A 親善 セルビア 神戸
6月12日(土) 13:35 五輪 親善 ジャマイカU24 豊田
6月13日(日) 13:35 女子 親善 メキシコ女子 栃木
6月15日(火) 19:25 A W杯 キルギス 吹田
それにしても、3週間足らずの間にA代表戦5試合とはご苦労なことだ。疫病禍下での諸事情での日程消化、負傷者が出ないような適切なマネージメントが行われることを何より望みたい。
今晩のA代表W杯予選ミャンマー戦について、少し考えてみる。
私のような老人にとって、大昔70年代のミャンマー(当時ビルマ)は、東南アジア屈指の強豪国。乱暴な言い方になるが、マレーシアとビルマは簡単には勝てない、タイ、インドネシアはそれなりに勝てそう、シンガポールには相性よし、フィリピンは確実に勝てる、そんな印象がある。そして、残念なことに、70年代半ばから、ビルマとは、いわゆる政治的不安定でほとんど試合することはなかった。
約20年が経過した94年、ミャンマーと名を変えた同国が、広島で行われたアジア大会で来日。日本は1次ラウンド最終戦でこの国と対戦、5対0で快勝する。この20年で日本はアジア最強国となったいたのだから大差は当然だったが、対戦できるだけで何とも懐かしかった。
なお、この試合は、私にとっては、澤登正朗が最も光り輝いた代表戦として記憶に残っている。続く準々決勝、日本は韓国に怪しげな判定で敗れるのだが、当時のファルカン監督が勝負どころの後半半ばに、澤登を交代させたのが、今でも残念でならない。そして、この技巧派MFは、同じ静岡県出身の名波浩の台頭もあり、Jでの輝きとは対照的に代表で活躍の機会は減っていった。
改めて残念なことに、先方は完全な政情不安。常識的に考えて、当方が圧倒する試合になろう。今晩については、かつてベガルタに在籍した板倉が起用され、明確な活躍をすることを期待したい。だって五輪代表オーバーエージに吉田麻也と遠藤航が選考され、板倉は五輪代表に残れるかどうかも怪しくなってきてしまったのだもの。








