2009年10月01日

中村憲剛の涙

(コメント欄での指摘を受け、延長戦のレギュレーションに関して追記と修正を行いました、(09年10月4日))

 試合終了直後。両手を高々と上げ歓喜するピクシー。そして呆然と顔を覆う憲剛。絵に描いたような勝者と敗者の対比。
 おそらくピクシーは、この3ヶ月間、この2試合を勝ち抜く事のみを考えてきたに違いない。そして、直前のJのアントラーズ戦を(ターンオーバで「捨てる」のみならず)「最終調整」に使い(しかも完勝すると言う「おまけ」まで獲得して)、満を持してこの第2戦に臨んだ。そして、実質同点状態の終盤に、ボランチ2枚を同時交代する博打を行い、見事に勝ち切った。
 おそらく中村憲剛は、この2年間、あの自らは蹴る事ができなったPK戦を忘れる事はなかったに違いない。そして、苦労に苦労を重ねて、遠藤率いるガンバを倒し、先週は自ら直接FKを決めるなどして、後一歩で「前回越え」まで近付いていた。決してこの第2戦を楽観視はしていなかっただろうが、あくまでも視線は11月7日の国立競技場で自らが戴冠する事に向いていた事だろう。しかし、この日四兎(天皇杯はこれからだから、現状は三兎かまだ)を追おうとするチームメートの疲弊は激しく、思いは叶わなかった。憲剛自身のプレイはすばらしかったのだが。

 前半の点の取り合いと、後半の緊迫感。終盤の決勝点、ロスタイムの攻防。正にタイトルマッチ。おもしろい試合だった。
 そして勝負を分けたのは、両軍の指揮官の勝負度胸の差だったと見た。

 立ち上がり早々は、フロンターレが攻勢に立つ。憲剛を攻撃的MFに起用、ボランチの谷口と横山が中盤でよくボールを拾う事で、中盤でグランパスを圧倒した。
 ところが、15分を過ぎたあたりだったか、マギヌンが鮮やかな技巧で中盤を抜け出して好機を演出したあたりからグランパスペースに。ボランチに起用されたアレックスと、中村直の献身により、小川、隼磨の右サイドから次々に好機をつかむ(村上、レナチーニョのフロンターレ左サイドは少々守備が甘かった)。そして、小川の一撃で先制。さらにいかにもアレックスらしいカーブのかかったいやらしいFKから吉田が決めて2点差に。ケネディをおとりにした見事な攻撃だった。
 直後、レナチーニョのうまい持ち込みからの好パスを受けた、鄭大世が見事なトラップからの得点を決め、2−1に。これで2試合合計が完全に同点となった。ここまでよく守っていたグランパスだが、2点差にした事で、ちょっと緊張が緩んだ感もあった。

 後半は双方が激しく集中した守備を見せて、しばらく試合は動かなくなった。少々意外だったのは、第1戦のようにフロンターレが攻勢に立たなかった、いや立てなかった事。土曜日のガンバ戦でほぼベストで戦ったフロンターレと、同じくアントラーズ戦でターンオーバ起用をした(一部先取は完全休養、遠征にも帯同せず)グランパス。疲労度の差があったのだろう。
 ピクシーが動く。ボランチを2人まとめて交代、吉村とブルザノビッチを起用したのだ。これは後知恵だが、「中村直(飛び出す、献身)&アレックス(パス精度高い)」のセットも「吉村(展開、献身)&ブルザノビッチ(独特のドリブルで前に出る)」のセットも、それぞれバランスが取れている。まとめて交代する事で、元気な先取が入るだけでなく、リズムも完全に変えられる。これでグランパスが攻勢に立つ。
 ここで関塚氏が動かなかったのは疑問。あれだけ、チーム全体に疲労が見えて、攻め切れず、むしろ中盤が空いて崩され始めていた。あのグランパスのボランチ交代が70分過ぎ。それ以降の終盤に点を取られると、取り返す時間がなくなる。現実的に中盤で劣勢で、攻め切れない時間帯が続いていた。とすれば、まずは守備を固めなければならないはずなのに。関塚氏が切ったカードは、レナチーニョに代えて黒津。黒津はボールがくれば力を発揮するタイプで、中盤で劣勢な状況をはね返すタイプではない。たとえば、両サイドMFに田坂と山岸を起用し、憲剛をボランチに下げて試合を落ち着ける手など有効だったと思うのだが。グランパスは仕掛けてきている(ピクシーはホームとは言えアウェイゴールを考えて延長30分戦うのは避けたかったのではないか)状態なので、サイドMFで運動量を確保すれば、後方の憲剛を起点したカウンタもより有効だったと思うのだが。
 決勝点。隼磨の動き出しに誰もついていけないフロンターレの左サイド。さらに衝撃だったのは、森勇介が逆サイドからのセンタリングに対し全く反応できず、後方から走り込んだマギヌンに置き去りにされた事。あの戦う男が、この終盤に易々とマーク相手に振り切られるとは。
 
 中村憲剛の涙。
 2年前は延長戦で足をつった事で交代させられ、ベンチでなすすべなく敗退を見守った。そして、今日は明らかに周囲が疲れてしまって孤立無援状態。それでも憲剛のプレイはすばらしかった。1−3になってからの憲剛の奮闘はすさまじく、自陣前でボールをダッシュするや展開、さらに最前線まで長駆して敵陣を襲うようなプレイを再三見せてくれたのだが。


(以下追記です 09年10月4日)

 コメント欄で「通りすがりの読者」様から指摘を受けたのですが、ACLでは延長戦にアウェイゴールルールが適用されないとの事です。したがって、本文中の「ピクシーがアウェイゴールルールを意識して云々」は誤りでした。ご指摘ありがとうございます。ただし、消すのは潔くないので字消し線処理としてみました。

 ちなみに、本件について欧州とアジアの条項を調べてみました。
 欧州では延長戦にも適用されます。一方アジアの方はレギュレーションからの読み取りが難しい。9条のアウェイゴールの項には、延長時の取り扱いは明記されておらず、しいて言えば10条のPK合戦の項で「延長で引き分けならばPK戦」と言うところから、「延長ではアウェイゴールルールが適用されないと」読み取れると言う事です。一般的に欧州で適用されている方式とは異なるルールで行うのであれば、わかりやすく明記すべきだと思います。

 また、個人的には、アジアのルールは不適切だと思います。と言うのは第2戦ホームのチームが圧倒的に有利になってしまうからです。日本勢同士の試合の場合は疲労度にも極端な差はでませんが、中東と極東間の試合で、移動の疲労困憊で敵地満員のスタジアムで、アウェイゴールルールなしで15分ハーフの試合に臨むのは、相当厳しいですよね。もっとも、準決勝はグランパスが第2戦、圧倒的に有利です。この手のゲームプランにおいてピクシーの見事さは皆さんご承知の通り。まずは短期的視野で、このルールもよしとしますか(で、グランパスがアジア制覇後、来期からレギュレーションを欧州方式に変えると言う事で)。
 と言う事で、色々な事を調べたり考えたりする事ができました。改めて「通りすがりの読者」様に感謝したいと思います。

以下UEFA版。
Away goals and extra time
8.01 For matches played under the knockout system, if the two teams involved in
a tie score the same number of goals over the two legs, the team which
scores more away goals qualifies for the next stage. If this procedure does
not produce a result, i.e. if both teams score the same number of goals at
home and away, two 15-minute periods of extra time are played at the end of
the second leg. If, during extra time, both teams score the same number of
goals, away goals count double (i.e. the visiting club qualifies).
If no goals are
scored during extra time, kicks from the penalty mark (Article 17) determine
which club qualifies for the next stage.
こちらはAFC版。
8. Extra Time
a) If, in accordance with the provisions of these Regulations, extra time is
played as a result of a draw at the end of normal playing time, it shall
consist of two (2) periods of fifteen (15) minutes each, with an interval
of five (5) minutes at the end of normal playing time, but not between
the two periods of extra time.
9. Away Goals
a) For matches in the Knock-out format played on a home and away basis,
if two Teams involved in a tie score the same number of goals over two
legs, the Teams which scores more away goals (the away goal scored will
be counted as double) qualifies for the next stage. If this procedure does
not produce a result i.e. if the two teams score the same number of
goals at home and away, extra time shall be played according to the
provisions of these regulations.
10. Determining the Winner by Penalty Kicks
a) If the result is still a draw after the two periods of extra time, penalty
kicks shall be taken to determine the winner,
in accordance with the
procedures described in the Laws of the Game.
(以下略、略は武藤)
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(3) | TrackBack(2) | 海外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
(ピクシーはホームとは言えアウェイゴールを考えて延長30分戦うのは避けたかったのではないか)

この部分ですが、延長戦でのアウェイチームのゴールがアウェイゴールルールの適用を受けるので

と言う意味であれば、今回の大会は延長に入った場合のアウェイチームのゴールには、アウェイゴールルールは適用されないようです。

私の読み違いであれば申し訳ありません。

http://www.jsgoal.jp/acl/resume/
↑の一番下のあたり。
Posted by 通りすがりの読者 at 2009年10月02日 05:54
やはり現状のJで3兎4兎を追うのは、キケンすぎる
特にガンバ西野氏のようにベストメンバー(規定のほうではなく)にこだわりがちな監督においては…。
その西野ガンバを、機転の効いた選手交代で打ち倒して勝ち上がった関塚氏ですら、こうですからね
川崎はリーグ戦で王者鹿島に対して事実上完勝…でも決着はまだ…というあの試合のあたりから「気持ちの悪さ」が漂ってきましたね。で、そのガンバに対しても後半足が止まった状態で負けた数日後、名古屋に対してもガス欠と後手後手の交代で敗北
「負のスパイラル」にあるときは、謀将関塚にしてこれか、というような試合でした
名古屋はリーグ戦での首位鹿島戦を捨てゲームにできる、という幸運があった(しかもメチャ勝ち&アレックスのボランチ成功という巨大なオマケ付き)。とはいえ、これだけ思い切ったピッコリ采配ができるのは外国人監督(それも意志の強いタイプの)なのかな〜と思いました。まあ、川崎FにとってはJもACLも、捨てるとかできなかったということなのでしょうけど
Posted by Dortmund06 at 2009年10月02日 12:13
川崎の減速は今に始まったわけではなく、8月までの良かった戦い方を自ら捨ててしまった事。
先発に山岸を使ってバランスをとり、後半レナチーニョを投入で攻撃を加速させるやり方をなぜかやめてしまった。
そこからリーグ戦でも思うように勝ち点を伸ばせず、さらに先に失点するようになった。
その結果を思えば、カップ戦で優位の立場に有る2ndレグではバランス重視がセオリーだと思うが、先取点にこだわるあまり、バランスの悪いメンバーで積極的に点を取ろうとしたが、最初の15分で得点できなかった事により、最悪の結果となった。
考えてみれば国立での1stレグも憲剛の個人技で打開したのだから、攻撃的3トップが機能していたとは言えず、2007年のナビ決勝と同じく、非常に大事な試合で関塚監督のあきれる采配が目に付く。
普段が良い監督であるためその点が非常に残念である。
この経験を肥やしに、是非とも今年のナビ決勝、リーグ戦では慎重に良い結果を残して欲しい。
Posted by noblog at 2009年10月04日 03:58
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