ビッグゲームとしては、とても珍しい試合だった。負けたチームがあり余る戦闘能力を全く有効に機能させずに自滅して行ったのだから。
前半はガンバが圧倒的な攻勢を掴む。
今野と明神のドイスボランチが、レイソルの縦パスをことごとく拾う。いわゆるトップ下から挙動を開始する遠藤は神出鬼没、レアンドロの横で今野の縦パスを受けたと思うや、次のタイミングでは右サイド後方に引き加地を走らせる。特にガンバの右サイドは有効に機能、二川が中央に絞り、加地が前進、そこに遠藤なり明神なり今野が絡み、常に数的優位を作る。さらに機能したのが逆サイドの倉田。豊富な運動量と巧みな動き出しでボールを引き出すや、身体を張ったボールキープで攻撃の起点となる。「いやあ、さすがガンバですなあ。」と、久々に感心する猛攻。個人能力の高い選手が、個々の判断で次々に変化あるパス回しを見せてくれた。
対するレイソルは、大谷、茨田が必死にバックライン前でガンバの猛攻を押さえ、増嶋と(近藤の負傷欠場で代わりに起用された)渡部が粘り強くはね返す。また、とかく「休憩」が指摘されがちな、レアンドロ・ドミンゲスとジョルジ・ワグネルの両翼もよく守備をサポート。このあたりのレイソル守備網の几帳面さはさすがだった。けれども、これだけ攻め込まれれば、いつか崩れるリスクが高いし、何よりこの調子で押し込まれれば、試合終盤には中盤やサイドバックのスタミナも相当苦しくなりそうな展開だった。
ここでネルシーニョ氏は動く。常識的には、増嶋らにすべてを任せ前半は我慢するのがセオリーだろう。あそこまで押し込まれてしまうと、下手にいじるとかろうじて均衡を保っている守備がおかしくなるリスクがあるからだ。しかし、このあたりの勇気と決断が、このブラジルの名将の特長なのは、過去幾度も見せられている。トップ下に入っていた水野に代え、田中を起用。確かに、この交代は誰の目にも合理的だった。工藤の出場停止(準々決勝の決勝点で興奮してシャツを脱いだのと、リードしている準決勝の終盤の時間稼ぎ?による警告2枚なのだから、プロフェッショナルとしてはみっともない出場停止だったのだが、最近よく点をとっていただけに残念)で、本来2列目の澤をトップに起用したが、これにより縦へのボールがほとんど収まらず、明神と今野に中盤を蹂躙される事になっていた。前線で起点を作るのは、強力なボランチを持つチームへの対策としては非常に妥当な策だからだ。田中がポストに入り後方に引いたところで、澤が前進する事でたちまちバランスは回復した。
ところが、この交代策がうまく行くどころか、先制点にまでつながってしまうのだから、ネルシーニョ氏も笑いが止まらなかった事だろう。田中が絡んだ攻め込みから、レアンドロ・ドミンゲスが獲得したコーナキック。渡部が強烈なヘディングを決めてしまった。このあたりは、いわゆる勝負の綾。渡部をマークしていた丹羽も、負傷欠場した中澤の代役での起用。代役同士の競り合いを渡部が制した事になる。さらにその直後のガンバのコーナキックで、丹羽がこぼれ球をフリーで狙ってシュートを浮かしてしまったのも、一連の勝負の綾か。丹羽はこの2つの場面を除いては、無難に中央の守備を固め上々のプレイを見せていたのだが。
後半立ち上がりに、ネルシーニョ氏は、最前線の田中と澤がサイドをケアする事によって、左サイド(ガンバから見て右)の守備を修正。1点リードした事で、レイソルが守備を固めて来た事と合わせ、ガンバは攻めあぐむ。しかし、ガンバのベンチには、パウリーニョ、家長、武井、佐々木ら、経験も豊富でタイプの異なる控え選手が多数いる。また、レイソルは、前半押し込まれたため各選手の疲労は少なくないだろうし、交代カードを既に1枚使っている(しかも後半途中には大谷の負傷で、レイソルはもう1枚カードを使う事を余儀なくされたのだ、実際的にはレイソルの台所事情は相当苦しかった)。レイソルの守備をいかにガンバが崩すか、ここからが、おもしろい攻防となる事が期待された。期待されたのだが。
けれども、ガンバは自滅の道を歩み始める。まず松波氏は家長を倉田に代えて起用。家長は最前線近くに位置取りするが、引き出す動きがほとんどない。前半から精力的な引き出しを見せていた倉田がいなくなった事と合わせ、今野や明神はパスの出し所がなくなってしまう。さらに佐々木が二川と交代し、佐々木は得意の右ウィングに位置取る。これによって、レアンドロ、家長、佐々木が最前線に貼り付き、遠藤、明神、今野と言う豪華な中盤の名手が出しどころなく後方でボールを回すのみと言う展開が継続してしまった。さらにボールが出てこないレアンドロが、独自の判断で下がってボールを受けに入り、後方から進出し上下動により変化を出そうとする今野や藤春のスペースを消してしまい、状況はさらに悪化。いくら遠藤や明神でも、対応のしようがなく時間が経過していった。非常に厳しい言い方になるが、松波氏は自らの選手の能力を的確に把握していなかったのではないか。終了間際、武井を丹羽に代えて入れた場面など、「とにかく交代枠が残っているから何かしなければならない」と言う印象すらあった。
野次馬が考えても、ガンバにはいくらでも策があったはずだ。遠藤をボランチに下げ展開を託す(その場合、明神と今野の両方を残したければ、片方をDFに下げる手もある)、家長を明確にFWに起用しレアンドロと上下関係を作らせる、パウリーニョを使ってもよい、サイドチェンジを重視するために3DFとする、今野と岩下の長いボールから展開を図る、遠藤を軸にとにかくボールをキープしレイソルの疲労を誘う(そうなった所で佐々木を使うのはとても有効だったはずだ)、今野を前に出し加地、藤春とサイドに数的優位を作らせる、あるいは佐々木や武井をサイドに出し同じくサイドで数的優位を作る。もちろん、これらがうまく行くとは限らない。しかし、状況の変化を作り出す方策がいくらでも考えられるのに、松波氏の采配は、ただ控えにいる選手を出して並べるだけだった。
「これだけの戦闘能力を持ちながら2部に落ちるのもなるほど」と思ったのは私だけか。
試合は事実上、倉田が退いた所で終了していたと言えるだろう。
最近の天皇杯決勝を思い起こすと、一方的な試合がなかったとは言わない。たとえば、昨年のFC東京対サンガや、07-08年シーズンのアントラーズ対サンフレッチェのように戦闘能力のやや落ちるチームに出場停止選手がいた関係で早々に勝敗がついてしまった試合もあった。また09-10年シーズンのガンバ対グランパスのように、全盛期のガンバに対しピクシーが無謀な攻撃的サッカーで対抗しようとして木っ端微塵になった試合もあった。
しかし、片方が持てる戦闘能力をほとんど発揮せずに素直に負けてしまう決勝戦は、本当に珍しい。まあ、これはこれで、日本サッカー界にとっては1つの経験なのだろう。几帳面に真面目に戦うチームが日本一となった事を、素直に喜び、称える事にしよう。
2013年01月06日
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悪くなっていきましたね。