2007年10月04日

レネ・イギータと言うリベロ

(コメント欄で、「いつも読んでいます」さんから、落ちについて厳しいご指摘を受けたので、一部修正しました。ありがとうございました)

 3日発売のエルゴラッソのいとうやまね氏のエッセイが面白かった。この連載は、巧みな日本語で世界各地のサッカーを巧みに切り出してくれるのが愉しい。そして、今回のお題は、コロンビアのサッカー界だった訳だが、冒頭に80年代後半から90年代前半に、この南米の強豪のゴールを守ったGKのレネ・イギータが採り上げられていた。イギータと言えば、長髪とヒゲの個性な風貌と共に、ペナルティエリア外に頻繁に飛び出し、巧みな足技を見せるのが有名だった。そして私が大好きなGKだった。

 生イギータを堪能したのは、89年のトヨタカップ。ナシオナル・メデシン対ACミラン。当時のミランは、フランコ・バレーシ、(若き)パオロ・マルディーニ、ロベルト・ドナドニ、カルロ・アンチェロッティ(この日は負傷欠場)など、当時のイタリア代表の中心選手に加え、オランダ代表の中核だったマルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールト、ルート・グーリット(この当時のオランダ代表主将も負傷欠場)と言ったスーパースターが競演する欧州屈指の金満チームだった。
 一方のメデジンは、当時のコロンビア代表の主軸を多数抱えていた。イギータはもちろん、豊富な活動量を誇るレオネス・アルバレス、、そして知性あふれるCB故アンドレス・エスコバル(この選手に「故」をつけなければならない理不尽を、どう捉えたらよいのだろう)。とは言え、戦闘能力差は明らか。ミランは圧倒的攻勢を取り押し込む。しかし、アルバレスの精力的な中盤の刈り取りと、エスコバルの完璧と言ってもよい読みのよさで、メデジンが守る、守る、守る。さらにエスコバルの後方のイギータ。出しどころがなくなったミランのMF達が、浅いラインを取るエスコバルの後方を狙って出す縦パスを全て完璧に抑え切った。試合そのものは延長終了間際にミランのエバニが直接FKを決め1−0の勝利。しかし、私の記憶に残ったのは、メデジンの見事なサッカーだった。

 で、イギータのプレイ。
 浅い守備ラインの後方に送られてくるロングボール。守備範囲が広いゴールキーパは、そのようなロングボールを、ペナルティエリアの外に飛び出すプレイで処理する。バックパス(を手で扱ってはいけない)ルールが設定されたのは92年。それ以降はゴールキーパは最低限の足技を用いることが必須条件となり、守備範囲の広いGKが急増するが、それは後の話。このようなスタイルのGKのはしりは74年前線からの激しい「ボール狩り」と、浅い守備ラインを適用したクライフオランダ時代のヨングブルード。ヨングブルート後も、そのようなスタイルのGKは少ないながらも登場していた。したがって、各種報道で読む限りでは、イギータはヨングブルート系列のGKなのかなと推定していた。当時は、海外の一流選手の映像は、そう頻繁に見る事ができなかったのだ。いわゆるダイジェスト系の映像を除けば、イギータの映像は直前のワールドカップ予選プレイオフのイスラエル戦で、決定的ピンチを再三鮮やかなセービングで防いだものを見たくらいだった。
 そして、生イギータへの驚きは大きかった。ペナルティエリアの外で敵のプレスをドリブルで抜くのだ。いやそれだけではなかった。ペナルティエリア内では、手を使ってボールを浮かし敵をやはり抜き去るのだ。しかしイギータの本領はその後に始まる。手でも足でも敵を抜き去った後、イギータは落ち着いたルックアップ(このルックアップは抜き去る前にも当然行なわれている)して、前線に早く正確な展開を行なう。その展開が精度と言いタイミングと言い絶妙で、見事に攻撃の起点となっていた。当然ながら敵のプレスが甘い時は顔を上げて周囲をキョロキョロしながら前進し、より精度の高いパスを狙っていた。
 メデジンはイギータを起点にした攻撃で、この欧州の巨人を後一歩まで追い詰めたのだ。

 翌年のイタリアワールドカップ、1/16ファイナル、コロンビア−カメルーン。コロンビアはイギータがドリブルをロジェ・ミラにかっさらわれると言うミスから失点し、延長で1−2の敗戦。前年のミラン相手の鮮やかな展開振りを見ていた私は、このイギータの決定的ミスを、彼が背負っていた「リターンあるリスク」と理解する事ができた。
 上記のイスラエル戦で再三見せた超人的美技と合わせ、もっとも好きなGKの1人だ。

 ミラン戦。イギータのプレイ振りが誰かに似ているとずっと思い悩んでいた。試合終盤、その誰かを思い出す事ができた。

 フランツ・ベッケンバウア。

余談
 5年ほど前にトヨタカップの記憶をまとめたエントリを書いた事があるのだが、今読み直すと自分にとってこの試合の印象がいかに強かったかがわかるな。
posted by 武藤文雄 at 23:00| Comment(2) | TrackBack(0) | Jリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
相変わらず素晴らしい文章です。

ただ、途中にある5年前のエントリのリンクを先に読んでしまうと、最高に面白いはずの最後のオチの魅力が薄れてしまいます。
5年前のエントリへのリンクは、最後のオチの後に紹介すべきかと。
Posted by いつも読んでいます at 2007年10月07日 22:47
↑ ごめんなさい。

おっしゃる通りでした。修正いたしました。
Posted by 武藤 at 2007年10月07日 23:01
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